自分の気持ちに正直になる薬?

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:18:13

    「はい、不思議な薬を作れるタキオンさんならと思って……」
    「ふむ……それはつまり、自白剤のようなものが欲しい……ということかい?」

     研究室でいつものように薬品製作に没頭していると、『正直者になる薬』が欲しい……などとおかしな注文を彼女、ニシノフラワーが持ってきた。
     彼女は私の問いかけを、その小さな頭をぷるぷると振って否定する。

    「詳しくは……その……どうしても正直な気持ちを聞かせてほしい人がいるんです……」
    「まあ、口を割らせるだけなら簡単だとも」
    「本当ですか!?」
    「ああ、この薬を使えばいい。まず適当なドリンクにでも粉を溶かして飲ませるんだ。するとすぐ酩酊状態になる。あとは知りたいことを質問すればいいだろう。酔っ払った状態がもっとも正直な状態に近いだろうからね。当然、お酒ではないしアルコールも入ってないから未成年でも安心安全の……違うようだねぇ?」

     効力の説明を黙って聞いている彼女の表情は、さしもの私も中断せざるを得ないほどの苦々しい表情だった。
     恐らく彼女の欲しがっているものは、飲めば質問には全て正直に答え、他者への好きも嫌いも自分から吐露してしまう、隠し事の一つも出来なくなるような薬なのだろう。
     しかしそんなものは当然、創作の中でしかありえない。
     自白剤というのも実際には、意識を朦朧とさせて口を割りやすくする程度のもので、映画のように組織の秘密をペラペラ喋らせることが可能になる……みたいな代物ではない。

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:18:47

    「そうですか……」

     それを説明してやると、彼女は露骨にうなだれて全身でしょんぼりを表現する。
     悪気や皮肉ではなく、そのままの通りしょんぼりと落ち込んでいるのだろう、そういう娘だという評判をよく耳にする。

    「やっぱり無茶なお願いですよね……」
    「ああ、そうだね」

     普通ならね、と付け足す。

    「実に興味深いじゃないか、人の深層心理まで暴く薬なんて」

     出来るのかと聞かれて不可能だと答えるのは、どうにも癪に障る。
     ありとあらゆる不可能を可能にしてきた科学の力で、人の心さえも覗くことが出来れば、それは実に面白いことだろう。
     心とは未知ゆえに興味深いのだが、その未知を知ることにもまた強く心を惹かれる。

    「やってみようじゃないか、その実験」
    「い、いいんですか!? その、代金とかは……」
    「もちろんさぁ、対価は……いらないと言っても押し付けてきそうだね。後で考えておくよ、無茶は吹っ掛けないから安心してくれ。ところで……」

     薬を誰に使うのかだけ教えてくれないか、と聞くと彼女はわかりやすく顔を赤くして俯いてしまう。
     もじもじと足を擦りあわせながら、「あの、その」と口ごもる。

    「ス……」
    「す?」
    「スカイさんに……」

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:20:01

    ∠(0ヮ0´)¬
      ◎ 三 三


    「また変な頼まれごとをしたんですか……」
    「人の頼みごとを聞いてあげるのは、いいことじゃあないか? 慈善活動と言ってもいい」
    「見返りを求めたら、慈善ではありません……」

     フラワー君が部屋を出て早速、研究のために机の上の物をどかす作業をしていると、研究室の反対側で話を聞いていたマンハッタンカフェが呆れたような顔で話しかけてきた。
     普段であれば他人で薬の実験をしようとする私を全力で止めてくるのだが、今回はわざわざ向こうから薬を作ってくれとの話だ。
     フラワー君が望んでいるのだから、今回はカフェに邪魔をする権利はない。

    「奇特な人もいるんですね……」
    「子供のお願いを聞くぐらい、奇特でもないだろう」
    「…………あなたじゃない」

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:20:18

    このレスは削除されています

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:20:25

     こぽこぽとコーヒーを注ぎながら何やらぶつぶつ言っているカフェは放っておいて、薬の製作に取りかかる。
     今はモチベーションが刺激され、すこぶる気分がいい。
     今日からしばらくは研究室に籠って作業することになるだろう。

    「泊まるなら……お風呂には、入ってくださいね……」

     後ろから聞こえてきた小言を聞き流しながら、薬品棚に手を伸ばす。
     様々な効力を持った薬品が保管されている大量の試験管の中から、数本を手に取り空の試験管で混ぜ合わせる。
     さあ、実験開始だ。

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:21:04

    ∠(0ヮ0´)¬
      ◎ 三 三


     タキオンさんに、無理なお願いをしてから一週間ほど。
     目の下に大きな隈を作ったタキオンさんが、フラフラと歩きながら渡しに来てくれた錠剤のお薬を手に、目的の人を探す。

    「スカイさん、どこにいったんでしょう」

     休み時間に入ってからスカイさんの教室を覗いたが、そこに彼女の姿はなく、お友だちの方々に聞いても授業中に居眠りしていたことしかわからなかった。
     このお薬を飲んだら、スカイさんは正直に気持ちを伝えてくれるだろうか。
     のらりくらりと誤魔化しながら、雲みたいにふわふわ逃げだしたりしないで素直になってくれるだろうか。
     正直なところ、こんな手段は取りたくはないのだけど……。
     ハッキリと、彼女自信の意思と言葉で伝えてほしい。
     でも、彼女だって悪いのだ。
     いつまで経っても、ハッキリとした言葉で伝えてきてくれないのだから、これは最終手段。

    「いた」

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:22:00

     中庭の一本の木の下。
     そこでごろんと寝転がっているスカイさんの姿を見つけた。
     近づいて顔を覗き込むと、スヤスヤと気持ち良さそうに寝息をたてて眠っている。

    「もう……人の気も知らないで」

     いい夢でも見ているのか、もにゅもにゅと口を動かしながら笑う寝顔が、あまりにも暢気で少しだけ憎らしく思ってしまう。
     まるで赤ちゃんのようにぐっすり眠るその顔を見ていると、少しだけいたずら心が生まれる。

    「今から寝たら、午後は遅刻しちゃうよね……」

     それでも抑えきれない好奇心。
     今、自分の気持ちに正直になりたいのは……。
     手に持った小さな錠剤に視線を落とす。

    「……また、お願いすれば……いいよね」

     スカイさんに渡そうと持ってきたドリンクと錠剤を、自分の口に運ぶ。
     少しだけ授業をサボっても、今は彼女の側にいたい。
     きっと薬のおかげで、今の私は少しだけ素直になれている気がする。
     眠るスカイさんの隣で横になり、そっと目を閉じる。
     スカイさんが目を覚ましたら、きっとビックリするだろうな……。

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:22:07

    これは…どっちなんだ

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:22:49

    期待

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:22:59

    ∠(0ヮ0´)¬
      ◎ 三 三

    「結局……できたんですか……?」
    「ダメだったねぇ、やっぱり無理だったみたいだよ」

     長い徹夜生活を終え、研究室の椅子に深く腰を落とす。
     ああは言っていたカフェも、やはり興味はあったのか、あるいは単に心配してのことか、フラワー君のあとをつけて様子を確認していたようだ。
     聞けばスカイ君ではなく自分で飲んで、そのまま並んで昼寝をしているとか。

    「じゃあ、さっき渡してたのは……」
    「ただのビタミン剤さ。徹夜だったから、私が飲んでたやつの余りをね」
    「……それじゃあ、フラワーさんは……」

     もう昼休みの時間は、残り半分を切っている。
     こんな時間に昼寝などしたら、まず起きられないだろう。
     真面目な彼女がスカイ君と並んでサボることを選んだのは、きっと授業よりも優先したいことに正直な行動を取った結果だ……ということは。

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:23:43

    「いわゆるプラシーボ効果というやつだろうね。ただの水を薬だと言って飲ませたら病気が治った、というやつさ」

     薬を飲んで自分の心に正直な行動を取ったのだ、と彼女は思うのだろう。
     それなら効果がなかったという苦情がくることはなさそうだ。

    「でも……よく自分で実験しましたね……」
    「うん?」
    「薬は失敗だと……事前に実験していたから、わかっていたのでしょう……?」
    「ああ、うん。本物は今朝キミのコーヒーに入れておいたからね。それで効果がないのはわかったんだよ」
    「…………」

     その日は何故か、心なしいつもよりも、私に対するカフェの当たりが強かった気がした。

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:24:21

    フラウンス助かった

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:24:34
  • 14二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:25:23

    どっちも美味しいぜ…

  • 15二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:26:00

    とてもよかった…
    過去スレまとめとかあるんです?

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:28:25

    >>15

    まとめはないです

    ブクマはしてるので作れないことはないです

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:28:30

    >>13

    明かされたガチ恋距離の真実…!

  • 18二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:31:44

    >>16

    なにとぞお願いします…!

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:36:51

    >>18

    ありがとうございます

    今はスレを立てたばかりなので折を見て作ろうと思います

  • 20二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:37:25

    >>19

    ありがとうございます!本当にありがとうございます!

  • 21二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:37:58

    しれっとタキカフェも接種できる

  • 22二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:40:30

    タキオン製薬は薬の効果がなくても話作りに便利なのだな

  • 23二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:58:53

    寝る前にフラウンスがあってよかった

  • 24二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:02:10

    フラウンスはもっと増えていい

  • 25二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:03:55

    フラワーもスカイに正直にならないとだよね

  • 26二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:16:25

    >>25

    これ好き

  • 27二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:20:46

    これはフラワーに気があるのが見抜かれてるのか
    あるいはフラワーが告白して保留で誤魔化してるのか

  • 28二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:21:41

    >>27

    どちらにせよウンスは恋愛弱者じゃけぇ…

  • 29二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:24:11

    最近フラウンス欠乏症だったんだ

  • 30二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:26:15

    奥手のセイちゃんに対して年下のフラワーが積極的な図がやはり美しい…

  • 31二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 08:43:09

    いいフラウンス

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