- 1二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:26:25
「雨中々止まないな……」
「そうですね……」
ふたりして肩を落としながら空を見上げる。
お散歩帰りに降り出した雨はザァーザァーと音を立てていて、中々止みそうにない。
たまたま見つけた雨を凌げそうな場所。ここで暫く雨宿りしようとはどっちが言ったのか。ふたりとも濡れながらここまで走って今に至る。
ポツポツとあたし達の髪や服から落ちる雫。それらはいつの間にか地面の色を変えていて、ここに来てからそれなりに時間が経っているのが、否が応でも分かってしまう。
せめてタオルでもあれば良かったな……。それならトレーナーさんの髪だけでも拭けるのに……。
準備が足りてなかった自分の不甲斐なさが、どうしようもなく悔しかった。
待てども待てども止まない雨のせいで、徐々に失われていく体温。あたしは体温が高いほうだからまだ何とかなるけど、トレーナーさんは大丈夫かな?
横目でトレーナーさんを見てみると、少しだけ寒そうに震えていた。
「トレーナーさん……大丈夫ですか……?」
「う~ん……大丈夫って言いたいけど……。このままじゃ風邪を引くかも……なんてな」
ははは……と誤魔化すかのように笑っているけど、震える体を隠すことはできてない。
まだまだ止まない雨。急いで帰ってもこのまま止むのを待っていても、トレーナーさんの体温は奪われてしまう。あたしだって、今は大丈夫でも
考えろあたし。どうすれば寒さが紛れる?どうすれば風邪を引かない?あたしはお助けキタちゃん。どんなことでもお助けするのがあたしのはずだ。
ふたりして暖まる方法……暖まる……はっ!
1つ浮かんだ冴えた手段。あたしの身一つで出来るその方法。これならいける! - 2二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:26:46
「トレーナーさん!」
「キタサン?」
その方法を実行するためにトレーナーさんに向き合う。
心配させないように笑っているけど、トレーナーさんはさっきよりも寒そうで、徐々に体温が失われているのが分かる。
トレーナーさん……そんな顔で笑っちゃ駄目ですよ……。辛いのを隠しちゃ駄目なんです……。そんな顔は見たくない……。だからあたしは!
強く決意してあたしは、やりたいことを、自信を持って、伝える!
「今からあなたを抱きしめます!」
「えっ……?抱き……?えっ……?なんで……?」
両手を広げてトレーナーさんにそう伝えると、困惑した様子でこちらを見ていた。
突然の一言で混乱させてしまったかな……。でも、これは間違いなく、今出来る冴えたやり方のはずだ。自信を持ってそう言える。
「寒い時に抱き締めると暖かくなります!そしてあたしは温かいです!トレーナーさんは風邪を引きません!」
「落ち着くんだキタサン!何を言ってるのか分かっているのか!?」
「雨のせい……いや、おかげかな?頭は凄く冷えてますよ!」
「何でそこまで澄んだ目をしてるんだ君は……」
真っ直ぐな気持ちをトレーナーさんに伝えると、少し引いた様子だ。
まぁ……あたしの体を濡れてますもんね……。あんまり温かくならないかもですけど……。でも……それ以上にあたしは……。
「それに……これ以上寒そうにしているトレーナーさんを見るの……あたし辛いです……」
「キタサン……」 - 3二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:27:06
広げていた両手を胸の前に握りしめる。一番の気持ちが溢れてしまった。それ以上何も言えなくて、あたしは下を向く。
トレーナーさんも何も言えなくなってるみたいだ。その一言から何も言わなくなった。
少しだけ気まずさが広がった空間。そんな中でも変わらず降り続ける雨。もしかしたら、雨が止むまでこのまま気まずさが続くのかと思った。
「……分かったよ」
その一言でその空気が変わった気がする。
「お願いするよキタサン……」
あたしの方を見ないでそう言ったトレーナーさん。ちらりと見えた頬は、何故だが赤くなっているように見えた。
だけど、そんなことはどうでもいい。トレーナーさんにお願いしてもらえた……!これで温められる……!それが何よりも嬉しかった。
「トレーナーさん……!任せてください!あたしの熱で温めてみせます!」
よ~し!心もどんどん燃えてきた!
ズイッとトレーナーさんの正面に立って、いざ抱きしめるぞ!というところで、トレーナーさんを見上げてみる。
相変わらずこっちは見てくれないのは少し悲しい……。ううん!そんなこと考えたら駄目!今出来ることを精一杯だよあたし!
気を取り直して両手を伸ばし、トレーナーさんの腰に手を回した。
少し湿った感触があるけど……うん。何とかなる。何より、そんなものであたしは止まらない!
痛くないようにキュッ……と抱きしめて、温かくなるよう祈る。
「どう……ですか……?寒くないですか?」
「うん……まぁ……はい……」
要領を得ない返答に違和感はありつつも、どんどん温かくなっているトレーナーさんの体。
よし!これなら今すぐに風邪を引くことはないはず!それならもっともっと温めてあげよう!そう思って、さらに体を密着させる。 - 4二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:27:29
抱きしめてみて改めて思うけど、トレーナーさんってあたしよりも大きいんだよね……。さっきよりも温かくなったせいかな?あたしの方もなんだかポカポカするような……?それに……えへへ……なんだか安心するかも……。
安心してしまったからか、ピトッ……とトレーナーさんの胸に耳を当ててしまう。
ドクドクドクドクドクドクドクドク
えっ……?心臓の音速い……?何で……?
思わずトレーナーさんの顔を見る。相変わらずこっちは見ない。
「トレーナーさん……心臓の音速いですよ……?大丈夫ですか……?」
「まぁ……大丈夫……はい……」
そうは言うけど……もう一回耳を胸に当ててみる。
ドクドクドクドクドクドクドクドク
やっぱり速いよ!
「絶対大丈夫じゃないですって!ど、どうしよう!びょ、病院行かないと!」
「待ってくれ!病院だけは待ってくれ!」
「でも、明らかに速すぎますよ!と、トレーナーさんにもしものことがあったら……!」
「いや大丈夫だから!多分……きっと……?大丈夫だから!」
「自信を持って大丈夫って言ってくださいよ!」
「大丈夫だから!本当に!……ってあれ?雨が……」
「誤魔化したってそうは……あっ……」
トレーナーさんの言葉に外を見てみると、さっきまで降っていた雨は徐々に勢いがなくなっていた。
この調子ならもう少しで雨も止むかもしれない。 - 5二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:27:53
「これなら帰れそうだな……」
「そうですね……」
ホッとしているトレーナーさんの様子は気になるけど……まぁいっか!
あたしが温めたから、急いで帰れば風邪引かない……はず!そうと決まれば……。
ちょっと名残惜しいけど……。腰に回した両手をゆっくりと離して、利き手でトレーナーさんの手を掴む。
突然掴まれたからかトレーナーさんはびっくりした様子だった。
「キタサン?」
「早く帰りましょうトレーナーさん!あたしもですけど、トレーナーさんも体を拭かなきゃです!」
「そう……だな……。うん……!早く帰ろうか」
あたしの言葉は聞いて、ゆっくりと握り返してくれた。
前に前にと進むあたしと、それに何とか付いてきてくれているトレーナーさん。
後ろにいるトレーナーさんに笑顔で振り返ると、トレーナーさんも照れくさそうに笑ってくれた。
雨宿り前と違って小雨で歩くには何も問題ない。
だけど、帰るまでがお散歩だ。帰る場所は別だから最後までとはいかないけれど、あたしがいる間は風邪になんてさせない。あたしがあなたを守ります。
そんな思いを込めて、繋いだ手を強く握りしめた。 - 6123/06/10(土) 19:29:09
6月と言えば雨
ということで雨のお話を書いてみました。 - 7二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:38:15
キタちゃん純粋で健気でかわいいねッ!!
トレーナーさんのまごつきっぷりも好(ハオ)
かわいいねぇ〜 - 8123/06/10(土) 19:45:21
感想ありがとうございます。
下心抜きで何かするのがキタちゃんだと思っているのでそう書けるように頑張りました。
トレーナーは……そうですね……。雨で濡れてる状態で抱きつかれたら少なからず動揺しますよね……。
- 9二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:49:41
応援隊スレ落ちてるし10まで埋めとこう
- 10二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 19:50:20
あげ!
- 11123/06/10(土) 19:52:23
あわわ……ありがとうございます……。
落ちたら仕方ないかなと思っていましたのに、申し訳ないです……。 - 12二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 23:25:20
やましい考えそらしてるせいで空返事になるトレーナーすき
- 13123/06/11(日) 05:50:54