ちょっと! こっち来ないでってば!【短編】

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:00:01

    ちょっと、アンタ! なに勝手にアタシについて来ようとしてるのよ!? ほら、アンタは向こう。さっさと帰んなさいよ。

    ……ちょっと。そんなトコでぼさっと突っ立ってたって、何にも出ないわよ。アンタだって分かってるんでしょ。

    アタシはこっち、アンタはあっち。使い魔のくせにアタシの命令が聞けないっていうの?

    …………なによ。いつもみたいに、「夜更かしはほどほどにな」とか、「補習は受けた方がいいよ」とか、そういうこと言わないのね今日は。

    なにいつまでも泣いてんのよ。『うちの子』じゃあるまいし。

    あっそ! じゃあ勝手にいつまでも泣いてたらイイじゃない!

    アタシは行くから。絶対に、ぜぇーったいに!! ついて来ないでよねっ!!

  • 2121/12/05(日) 00:00:25

    夢を見ていた。ひどく懐かしく、温かで、残酷なぐらい甘い夢を。

    ほんの数分のうたた寝だったはずが、気付けばちょうど日付をまたいでいた。年末の大一番、有馬に向けた最終調整の最中に居眠りとは、自分もヤキがまわったのだろうか。ほんの数年前なら、彼女と組んでいた時なら、それこそ疲れなんか感じないほど……。

    ……あぁ、そうか。道理で、あんな夢を見てしまうはずだ。

    「…………」

    おもむろに予定表を確認する。幸い明日、いや今日は日曜。担当の子達も休養を取らせる予定で、丸っと一日空いている。

    「会いに行くか」

    ちょうど一年振りになるか。早いものだ。

    スイープトウショウに会いに行こう。

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:00:32

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  • 4121/12/05(日) 00:00:47

    スイープトウショウ。自身を魔法使いと称して憚らず、トレーナーのことも使い魔扱いだった、稀代のお転婆ウマ娘。

    かつての、自分の担当ウマ娘だ。

    キレのある追込、最終直線の末脚、後方から一気に追い上げる鬼気迫るレース運び。彼女の走りは見る者すべてを惑わせ魅了する、まさに魔法だった。

    その集大成とも言える宝塚は、圧巻の一言。11番人気という前評判なんか知らないとばかりに、並み居る競走者をメッタ斬り。堂々の一着に輝いた。あの日の光景は今も目に焼き付いて離れない。

    四度目のエリザベス女王杯を経て彼女は引退。最後まで自らの存在感をターフに残し続けた。

    引退後の彼女は多くのウマ娘がそうするように、トレセンを卒業後は進学した。ワガママな彼女が果たして社会に出て上手くやれるのか、なんて心配もしていたが、彼女は在学中に恋人まで見つけ、まさかの結婚までやってのけた。

    快晴の空の下でブーケを放り投げる姿も、自分の脳裏にいつまでも輝いている。

    彼女は自分の魔法で、自らの人生も彩りを加えていった。

    そんな彼女と、今日は一年ぶりに会う。

    「スイープ、久し振り」

    途中の花屋で見繕った花束を、彼女に差し出す。

  • 5121/12/05(日) 00:01:14

       R.I.P.
      Sweep Tosho
      12.5.2020

  • 6121/12/05(日) 00:01:31

    スイープは亡くなった。ちょうど一年前の出来事だ。

    前の日まで何の不調もなく過ごしていたはずが、急に苦しみに悶え、病院に担ぎ込まれた時には……もう手遅れだったそうだ。

    死因は確か、臓器の炎症とかだったはずだ。詳しくは聞いてない。聞こうとも思わなかった。

    「お! めっちゃ供え物がある。やっぱ一周忌だからなぁ」

    消えたのは彼女だけではない。

    彼女は身篭っていた。そのお腹に新たな命を宿していた。だが未だ外を知らなかったその子は、ついぞ生まれ出ることもないままに、母と運命を共にした。

    舞踏会の為にかけられた魔法は十二時の鐘によって消える。彼女の場合、ガラスの靴さえ残りはしなかった。

    神様がいるとしたら、きっと彼女の何もかもを手に入れたかったのだろう。希望に満ちた未来もろとも。

    とんだ、残酷童話だ。

  • 7121/12/05(日) 00:01:55

    「君の夢を見たよ。そっちから来ておいて、『ついて来るな』はヒドくないか?」

    相変わらず、ワガママなまま。もう夢と思い出の中でしか会えないなんて。

    「……寂しいよ」

    つらい。かなしい。叶うのなら、また会いたい。

    「でも……」

    その哀しみも時間の流れが変えていく。過ぎ去る忙しい日常の中で次第に感情は摩耗し、「そういえば、そんなこともあったな」で済ませられる日が来るのかもしれない。

    でも、それでも。

    「君は魔法使いだから。魔法使いは、願いを叶えたら去るものだから」

    ガラスの靴は残らなくても、思い出だけはきっと色褪せずに残り続けるから。

    「たまに思い出すぐらいで、ちょうどいいのかなって。なぁ……スイープ」

  • 8121/12/05(日) 00:02:17

    【フン! やっと分かったのね】

    「っ!? ス、イープ……」

    振り返っても、誰もいない。十二月の寒風が耳を掻き鳴らすだけで、他には何もありはしない。

    あるいは、そう、それは。

    彼岸からこちらを覗く彼女の指先がもたらした、ほんの一筋の……。

    魔法、だったのかもしれない。

    「さようなら、スイープトウショウ」

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:04:44

    そうか…今日だったか…

  • 10121/12/05(日) 00:09:47

    競走馬
    スイープトウショウ

    主な勝鞍
    ファンタジーS(GⅢ)
    チューリップ賞(GⅢ)
    秋華賞(GⅠ)
    宝塚記念(GⅠ)
    エリザベス女王杯(GⅠ)
    京都大賞典(GⅡ)

    2008年11月、引退。繁殖入り。
    アグネスタキオンを始めとする多くのGⅠ馬との間に産駒をなす。
    2020年12月5日午後、腸捻転により死去。

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:24:27

    プイのラストクロップに期待してる

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:43:22

    去年だったのか…

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 07:21:22

    突然のことだったからね…

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 09:40:39

    そういえば、オルフェとの産駒は結局どうなったんやろか?

  • 15二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 10:08:25

    そうだったのか…
    ウマ娘を始めてから実馬に関することが
    身近になったような気がします。
    馬も生き物なのだから避けられないものとはいえど
    悲しくなってしまいますね…

    どうか安らかに、自分が願うのはそれだけです

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 10:27:01

    >>14

    たぶん人間が扱える生き物じゃないのが生まれたんだと思う

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 12:14:22

    何が悲しいかって、急死した時は妊娠してて、母子もろとも逝ってしまったことよ。やるせない……。

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