【SS】でじらいふ!

  • 1イッチ23/06/12(月) 22:53:02

    「デジタル、お前に話があるのだ」

  • 2イッチ23/06/12(月) 22:53:41

     ウインディちゃんが独り暮らしを始めるって言ったら餞別だって親に一軒家を貰ったのだ。
     それが二階建ての立派な家なんだけど正直、独りで済むには大き過ぎるのだ。掃除をするにもひと苦労で持て余しちゃってるのだ。だから誰か一緒に暮らしてくれるウマ娘を探しているところなのだ。もしもまだ卒業後の行く先が決まってないのならウチに来るのだ。所謂、シェアハウスってやつなのだ。
     家賃はいらないのだ。光熱費と食費は折半で、家事は当番制なのだ。料理が苦手なら代わりに掃除を多めにしてくれれば良いのだ。仕事が欲しいなら実家に連絡して紹介するし、やりたいことがあるのなら続けてくれても構わないのだ。
     この提案を何故、お前にしたのかだって?
     正直、誰でも良かったのだ。だけど誰にでも提案してるって訳でもないのだ。
     ウインディちゃんは綺麗好きなのだ、潔癖症なのだ! ちゃんと掃除をしてくれて、部屋を綺麗に使ってくれそうな相手に声を掛けているのだ。後は他に声を掛けているウマ娘との相性も考えて……ん? 他に声を掛けているウマ娘は誰なのかって? 返事はまだだけどライスシャワーとゼンノロブロイには声を掛けているのだ。ハルウララの他に……え? 入るのだ? 下見をしてから決めてくれても……もう決めたのだ? 絶対に入りますって?
     ちょっと圧が強いのだ、人選を間違えた気がするのだ……

     まあ決断の早い分には構わないのだ。
     部屋は二階の空いている場所で、部屋の大きさはトレセン学園の学生寮よりも少し小さいくらいなのだ。学生寮とは違って、一人部屋だから不自由はしないと思うのだ。
     それじゃあ、まあ。これからよろしくお願いするのだ。

  • 3イッチ23/06/12(月) 23:06:18



     トゥインクル・シリーズを走り抜いた後、私は途方に暮れていた。

     私の名前はアグネスデジタル、何処にでもいる平凡なウマ娘。
     ウマ娘ちゃんを間近に感じていたいとの想いでトレセン学園に入学し、ウマ娘ちゃんの真剣な空気に肌身で感じたくてレースの世界に飛び込んだ。芝とダートを選べなかったのは、一重にウマ娘ちゃんへの愛故に! その結果としてはまあ、色々とありましたが、もう追うも追われるもない。
     今は思う存分にウマ娘ちゃんをただただ愛でる立場になれたのだ。
     そこまでは良かった。
     手元には卒業後の進路希望の紙。白紙のままだ。
     私はまだトレセン学園から離れたくなかった。

     だから私はトレーナーの資格試験を受けてみるつもりでいる。
     しかし中央トレセン学園のトレーナー資格試験は狭き門だ。現役時代、トレーニングやダンスに集中していた事もあり、どうしても勉学が疎かになってしまっていた。かといって再びトレセン学園の敷居を跨ぐことを諦める事もできず、期限を設定して資格試験に臨む算段だ。
     試験を受けるまでの間、何処でどうしようってことまでは考えられてもいなかった。

     シンコウウインディさんからの電話が入ったのは、そんな時だ。

  • 4イッチ23/06/12(月) 23:13:27

    『デジタル、お前に話があるのだ』

     そうして語られる彼女の提案は、デジたんにとって釈迦の垂らした蜘蛛の糸も同義でした。

     他のウマ娘ちゃんとの共同生活が送れなくなる事は、ただ純粋に寂しかった。
     これまでと同じように推しを摂取できなくなるのは勿論、レースというウマ娘ちゃんが最も輝ける舞台から離れることにも切ない気持ちを抱えていた。
     刻一刻と迫る卒業のタイムリミットに気落ちしていた私は、卒業後の進路に関してはも真剣に考える事もできず、漠然とした不安に苛まれる毎日、ただ茫然と日課の推し活を消化する日々を送っていた。
     なのでウインディさんの提案は絶望の淵に立たされた私に差し込んだ希望の光でもあった。
     彼女が今、声を掛けているウマ娘ちゃんの名前を聞けば、そのネームバリューに吃驚仰天。最強ステイヤーとして名高いメジロマックイーンに競り勝ったライスシャワーに加えて、秋シニア三冠ウマ娘であるゼンノロブロイ。地方のアイドルウマ娘として圧倒的な人気を誇るハルウララ。そして提案者であるシンコウウインディ自身が初代フェブラリーステークスの覇者である。
     そんな名立たる推しウマ娘ちゃんの名を聞けば、誰だって即断するに決まっている。
     私はそうしました!

  • 5イッチ23/06/12(月) 23:15:35

     卒業後の懸念も吹っ飛んだ私は卒業まで思う存分に推し活を続けた。
     そして今日、卒業した私は荷物をまとめてウインディさんの家まで足を運んだ。推し活用のグッズなどは近場に倉庫を借りることで対応、家賃が浮いた分を突っ込んだと考えれば、大した痛手はない。
     手持ちの荷物はトランクケース一個分だ。

     意気揚々と指定された住所まで足を運んでみれば、想像の十倍は広い敷地に辿り着いた。
     広い家とは聞いていた、庭もある。乗用車が入ることを想定した門戸の脇にある人一人が出入りする用の小さな扉。家に備え付けられた扉と同じサイズなんだけど、相対的に小さく見える。頭上には監視カメラ、防犯説部の充実っぷりにもデジたんの肝を冷やす一因となっていた。
     あれ? ここって本当にあってます? 
     何度も住所と表札を確認し、恐る恐ると呼び鈴を鳴らす。
     監視カメラから視線を感じること十数秒、呼び鈴に備え付けられたスピーカーから声が発せられる。

    『入るのだ』

     ガチャリと小さい方の扉が開く音がした。
     おずおずと敷地内に入る。扉の向こう側には道があり、庭が広がっていた。
     車を停める為のスペースが幾つもある。
     大きな家とは聞いていた、しかし此処までは聞いていなかった。
     億は下らない豪邸っぷりにびくびくしながら歩を進める。

     呼び鈴を鳴らした奥に、また呼び鈴。
     豪邸の外観を見るだけでも、ひとりで持て余す。とシンコウウインディが言った言葉の意味がよく分かる。
     もう一度、呼び鈴を鳴らせば、扉の向こう側から足音が聞こえて来た。
     鍵が開けられる、勢いよく扉が開けられた。

  • 6イッチ23/06/12(月) 23:20:12

    「ん? 思っていたよりも荷物が少ないのだ」

     癖っ毛の強い髪の小柄なウマ娘、現役時代よりも幾分か落ち付いた私服姿のシンコウウインディが扉の向こう側から姿を現した。

    「グッズとか結構、持ってくると思ったのだ」
    「それは、えっと、貸し倉庫を借りまして……」
    「外に物置もあるから適当に使ってくれても構わないのだ」
    「いえいえ、そこまでしていただかなくても……」
    「車も何台も使う予定がないからガレージを使ってくれても良いのだ」

     まあ、とりあえず、と彼女は道を開ける。

    「入るのだ。部屋は上に6部屋あるから空いてる場所を好きに選べばいいのだ」
    「6部屋も?」
    「1部屋は物置代わりに使ってるのだ。生活スペースは一階で、ウインディちゃんの部屋も一階にあるのだ」

     玄関扉を潜れば、玄関があって奥に扉がある。
     左手には上に昇る為の階段があり、右手には靴などを収める収納棚が備え付けてあった。
     まだ家の全容を把握した訳ではないのだけど、全体的に落ち着いた洒落た雰囲気に気後れする。
     玄関周りを見渡すだけで、此処が何億ってレベルの家である事が想定できてしまった。
     実家が太いという話は聞いていたけども、実家が太過ぎると思います。

    「ウインディちゃんの隣にも空き部屋があるけど、あそこにはもう入れる奴が決まっているから駄目なのだ」

     もう家のスケールが大き過ぎて、頭が回らなくなってきた。

  • 7イッチ23/06/12(月) 23:38:42

    「まあ、とりあえず荷物を置いて来るのだ。それから家を案内するのだ」
    「……えっと他のウマ娘ちゃんは?」
    「お前が二人目なのだ。声を掛けたのが四人で返事待ちが一人、そして押し付けられたのが一人いるのだ」

     玄関でポケッと私が突っ立っていると「早く入るのだ」と溜息混じりに言われてしまった。
     なので私は、まるでペットが見慣れない部屋に来た時のように恐る恐ると家の中に足を踏み入れる。

    「おじゃましま~す……」

     靴下、新品の物を履いて来るべきでした。
     そんな的外れなことを思いながらも階段を昇る。昇り切って直ぐバルコニーに繋がる扉があり、振り返れば一階から二階まで吹き抜けになった空間があった。
     歩み寄れば、一階のリビングルームを見下ろす事ができる。

     ……やっぱり、これって何億もする家ですって!

     吹き抜けになっている場所から左手側に廊下が奥まで伸びている。
     左右に扉が三つずつ、右手最奥の扉には立札が掛けられている。ハルウララと可愛らしい文字で書かれた表札、今も中に居るのだろうか?
     まあ彼女とは後で挨拶する機会もあるはず。
     今は部屋選びが先決だ。

     ひと通り、見た感じでは空き部屋は全て間取りが一緒のようだ。左側の最奥の部屋は物置となっていて、寝具などが適当に詰め込まれていた。
     広さは学生寮の3分の2程度、充分に広い。
     部屋にはベッドの他に椅子と机のセットが置いてあるだけの殺風景な空間だった。

     私は、左右に挟まれた真ん中の部屋は人気がないと思ったので、
     ハルウララの隣の部屋に決めた。
     部屋の隅にトランクケースを置いて、足早に二階から一階に降りる。

  • 8イッチ23/06/12(月) 23:48:50

     もう玄関にはウインディさんは居なかった。
     玄関には扉がふたつある。階段を降りてすぐに扉がひとつあり、二階の吹き抜けから見た感じではリビングに繋がる扉だ。また玄関扉から隠れた位置にトイレのような扉がある。
     リビングからテレビの音が聞こえたので「おじゃましま~す……」と控えめな声と共に扉を開けた。

     リビングの床に敷かれた絨毯に、人一人が余裕を以て寝転がれるサイズのソファー。そして膝下程度の高さの机が置かれてあった。部屋の壁付近に置かれたテレビは、家電量販店でしか見た事がないような巨大なサイズだ。これでレースを観ることができれば、さぞかし迫力があると思う。

    「やっと来たのだ」

     ソファーに腰を下ろしていたウインディさんが私の方を見て、笑ってみせた。

    「今日から此処がお前の家なのだ。だからお邪魔しますなんて使っちゃ駄目なのだ」

     その彼女の言葉が、まだ慣れない環境に身を置く私の心に沁み込んだ。
     それじゃあ、と私は勇気を振り絞って笑い返す。

    「えっと、これから、よろしくお願いします」
    「よろしくお願いするのだ」

     それまで落ち着いた雰囲気を纏っていたウインディさんが、
     現役時代に相違ない満面の笑顔で私を受け入れてくれた。

    「布団は客用のがあるのだ。ハルウララの手前の部屋を今、押し入れ代わりに使っているから好きに持って行くと良いのだ。奥がダイニングキッチンになっていて、家で御飯を食べる時はみんな一緒なのだ。これはルールなのだ。入浴時間も決めておくのだ」

     しかし、その笑顔も束の間、直ぐに彼女は事務的な話を始める。
     まあ歳を取れば、ウマ娘も変わって当然だ。
     彼女も大人になったんだと、年下で失礼ながら、少し感慨深い気持ちになった。

  • 9イッチ23/06/12(月) 23:55:09

     ウインディさんの案内で幾つかの部屋を回る。
     一人だと手が回らないと言っていた割には、綺麗に掃除されている。

     ウインディさんが自室として紹介しれくれた部屋は和室で、和室だけどベッドがあった。
     炬燵も置いてある。
     次に訪れた彼女の隣の部屋は、何故か防音対策が施されていた。

    「部屋に入れてから改装するのは面倒なのだ」

     そう告げる彼女、この部屋には誰が入るのでしょうか?
     リビングはダイニングキッチンと一緒になっており、所謂、LDKと呼ばれる構造になっていた。
     またリビングから繋がる脱衣所には大型の洗濯機があって、
     浴室は想像する以上に大きかった。
     二人一緒に入っても窮屈に感じることはなさそうだ。
     あとトイレの蓋は自動で開いた。

     それが当たり前であるように喋る彼女の姿を見て、
     住んでいる世界が違うなあ。と思ったけど、此処が、これから先、私が生活する家なのだ。
     これから先も続けられるウマ娘ちゃんとの共同生活に胸を馳せ、
     迷惑を掛けないようにしなければ、と気を引き締める。

  • 10イッチ23/06/13(火) 00:07:25



     翌朝、見慣れない天井で目覚めた。
     熟睡だった。二階の物置部屋から引っ張り出した布団は、驚く程にふわふわで肌触りが素晴らしかった。
     今、此処にアヤベさんが居れば、大興奮してそうな代物だ。

     こういう高額な商品で装飾ばかりで実用性に欠けると思っていましたが、
     実際は、その逆だ。
     これに馴れてしまっては、もう二度と安物が使えない身体にされる末恐ろしさを感じられた。

     きっとこんな感じでアヤベさんも布団乾燥機の沼に浸かってしまったんだろうな。
     ……浮いた布団代で布団乾燥機を買ってみましょうか?
     ヒトもウマ娘も贅沢を覚えると、欲を抑え切れなくなってしまうようだ。

     ふわあ、と欠伸を零しながら二階から一階に降りる。
     リビングに繋がる扉を開けた。

    「起きたのだ?」

     既に身支度を終えたウインディさんが私を出迎えてくれた。
     珈琲のほんのりとした香りが鼻先を擽る。

    「早く顔を洗ってくるのだ」

     その言葉に、素直に従って洗面所と一緒になった脱衣室に足を運んだ。

  • 11イッチ23/06/13(火) 00:17:16

     顔を洗って使い心地の良いタオルで水を拭いた。しゃかしゃかと歯磨きをしながら昨日の事を思い返す。
     昨日、案内を受けている時に幾つかのルールをウインディさんから聞いていた。

     朝食は各自、勝手に。
     昼食と夕食は、家にいる時は同じ机で一緒に食事を摂る。
     入浴は基本、深夜10時を回るまでに入ること。
     家事は入居者全員、平等に振り分ける。
     それ以外の事は、とりあえず自由って事で。
     必要に応じて増やしたり、変えたりするという話だ。

     昨晩はウインディさんの奢りで取ってくれた寿司は、さらっと特上でした。

     顔を洗って、リビングに戻るとウインディさんがソファーに座っていた。
     彼女の手元には珈琲の入ったカップがあり、大型テレビには、桃色の髪が特徴的なウララさんの姿があった。
     ウララさんは今、この家には居ないとの事だ。

     自分の部屋を選んだ翌日、地方巡業の旅に出て行ったという話だ。
     今の彼女は所謂、マルチタレントと呼ばれる存在だ。今、番組で映っているようにご当地グルメのリポーターを務める事もあれば、バラエティ番組のゲストとして出演し、時にはライブで歌って踊り、地方レースの解説席に座る事もあれば、ラジオ番組に呼ばれる事すらあった。正に八面六臂の活躍だ。
     アイドル一本のスマートファルコンよりも仕事が多いとの噂もある。

     ちなみに逃げ切りシスターズは今も現役だ。
     しかしフルメンバーが揃わない事でも有名であり、歌うよりも走る事を優先するサイレンススズカがライブ出演する日は年に数度しかなかった。でもまあファルコンさんはソロライブでも充分過ぎる程のポテンシャルを発揮する為、逃げ切りシスターズの活動は、応援してくれるファンの為に続けているといった方が正しかった。
     フルメンバーが揃う時のライブチケットは、何時も五秒以内に完売している。

  • 12イッチ23/06/13(火) 00:26:02

    「珈琲は、さっき淹れたばかりのがあるのだ」

     ソファーに座るウインディさんがグルメ番組が終わったチャンネルを操作しながら口にする。

    「冷蔵庫の横に食パンが置いてあるからそれを食べて貰って……ジャムとかチーズは好きに使えば良いのだ。サラダや卵が欲しけりゃ、勝手に自分で作るのだ」

     ウインディさんに言われた通り、キッチン奥の大型の冷蔵庫に手を掛ける。
     キッチンには床下収納もあるが、今はまだ使われていない。ウインディさんが言うには、もっと人が増えたら使うかも知れない、との事だ。冷蔵庫の中は、その大きさに反して、あまり食材が入っていなかった。
     でもまあ一人分の食料と考えれば、これで十分なのかも知れない。

    「えっと……ウインディさんはもう食べたのですか?」
    「食パンにハムとチーズを乗せて食べたのだ。冷蔵庫に入っているのは、自由に使っても良いのだ」

     ああ、と彼女が付け加える。

    「お茶は幾らでも飲んで良いけど、ジュースやアイスとかはルールを決めておかないと後々面倒になりそうなのだ」

     同居も面倒が多いのだ。と呟く彼女の後ろで食パンをオーブンレンジに入れる。
     使っても良いと言われたのに使わないのは、私が気を遣っていると言っているようなものなので、お言葉に甘えて冷蔵庫からマーガリンと苺のジャムを取り出した。ポッドの中に入っている珈琲はまだ温かかった。カップに移して、牛乳を淹れる。そうこうしている間に食パンが焼き上がったので、ジャムとマーガリンを塗って皿に乗せた。
     五分足らずで出来た超俗を前に、頂きます。と両手を合わせる。

    「今日はまだ部屋の準備も忙しいと思うから構わないけど、明日からは家事を手伝って貰うのだ」

     食パンの端を齧る私にウインディさんが伝える。
    「はい」と私は笑顔で返す。トレセン学園に居た時から彼女は綺麗好きのウマ娘として知られていた。
     泥遊びが好きな割に、風呂に入るのが大好きで部屋の掃除も小まめにしていたとの事だ。

     床に食べかすを落とすと怒るらしいので、
     下に落とさないように気を付けながら食パンを齧る。

  • 13イッチ23/06/13(火) 00:33:37

    「御馳走様でした」

     食パンを食べ終えて、両手を合わせる。

    「台拭きはシンクの脇に置いてあるのだ」

     食べ終わると同時に教えてくれる辺り、本当に綺麗好きなようだ。
     台拭きを取りにシンクまで足を運ぶと朝ご飯を食べたばかりだというのに汚れた食器がなかった。
     シンクの横に置かれた食器乾燥機に皿が一枚、立てかけられている。

     汚れ物は直ぐに洗わないと気が済まないようだ。
     そりゃあまあ、こんな気性で、こんな大きな家に住んでいれば、ストレスも溜まるというものだ。
     とりあえず今、自分が使った分はスポンジで綺麗に洗っておいた。

    「ほんとウララとは全然違うのだ」

     何時の間にか、ソファーから私を覗いていたウインディさんがそう零す。

  • 14イッチ23/06/13(火) 00:37:26

    「ウララさんがどうかしました?」
    「ひとつひとつ言い聞かせなきゃ何もしてくれないのだ」

     まあ言えばするだけまだましなのだ。と溜息交じりに告げる。
     曰く、掃除の仕方から手取り足取りだったようだ。
     洗濯は及第点、料理は戦力外。部屋の掃除は今後に期待。
     そんな彼女の評価に私は曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。

    「あれじゃあ一人暮らしをしても苦労するのだ」

     ウインディちゃんが何処に持っていたのか素昆布をガジガジし始めた為、
     話題を変える意味でも「食材の調達はどうされているのですか?」と問い掛けた。
     すると彼女は「車を出してやるのだ」と返す。

    「ウマ娘を入れる為に、わざわざワゴン車に買ったのだ」
    「何時の間に免許を?」
    「卒業した後すぐに取ったのだ」

     自慢する訳でもなく、さらっと答える彼女からは学生時代と違った匂いを感じ取る。
     まだ学生だった時の問題児と認識されていた彼女の背中が今は、随分と大きくなったように感じられる。これまで知ることが叶わなかった卒業後のウマ娘ちゃんの姿、全てが全て、彼女と同じという訳じゃないと思うのだけど、それでも、こうやって大人になって行くのだと思えば、ちょっと嬉しくなってくる。
     あの時とは、もう違うけど、皆が皆、各々の未来を歩み続けている。

    「後で一緒に買い物に行ってみるのか?」
    「はい、お供させて頂きます!」
    「お前のそういうとこ、全然変わってないのだ……」

     はあ、と息を零すウインディさんは「お昼を食べたら行くのだ」と苦笑した。
     ウインディさんの運転は、驚くほどに安全だった。
     一度、マルゼンスキーさんの車に乗せられたのがトラウマになっているとの事だ。
     あの人の運転怖いですよね、分かります。

  • 15イッチ23/06/13(火) 00:37:51

    とりあえず、此処までです。

  • 16二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 00:41:33

    >>15

    来ましたわ!楽しみにしてましたの!

    今夜はこれですわ!

    永久機関の完成ですわ!


    質、量共に濃厚なのにするする読めて後味すっきり!最高ですわ!!

  • 17二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 00:42:05

    俺はしがないシンコウウインディ推しのトレーナー
    しっかりしたウインディちゃんを見れて感動している
    そうなんだよ言動とかで誤魔化されがちだけどちゃんと自己プロデュースできる子なんだよこの子は
    ありがとうスレ主 続き楽しみに待ってます

  • 18イッチ23/06/13(火) 00:44:31

    あと一度、別ジャンルでスレを建てて申し訳ありませんでした。
    続きは明日中に仕上げてると思います。

  • 19二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 00:45:38

    お待ちしてます!

  • 20二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 08:21:07

    ウインディちゃんとデジタルって結構絡みあるんだよな…

  • 21二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 08:30:28

    名作との出会いに、感謝

  • 22イッチ23/06/13(火) 15:54:24

    保守なのだ~

  • 23イッチ23/06/13(火) 21:58:57

    再開します。

  • 24イッチ23/06/13(火) 21:59:15

     トゥインクル・シリーズの興行収入は非常に多い。
     しかし未成年を働かせる訳にもいかない為、物品販売の収入という形でウマ娘に還元されている。その収入はトレセン学園の卒業。もしくは転校、退学をする時に色々と計算し直した金額が与えられる。だから仮にもGⅠウマ娘である私にも、それなりにまとまった資金を得ていた。
     だから当面の生活費に困る事もない。

     ウインディさんの豪邸に来てから一週間、
     此処での生活にも慣れ始めた私は、自室の机で液晶タブレットにペンを走らせていた。
     描いているのはウマ娘ちゃんを題材にした漫画だ。
     これでもネット上では、それなりに名の知れた絵描きであり、
     ウマッターの絵描きアカウントのフォロワー数は五桁にも届いている。

     トレセン学園を卒業したのを機に次の即売会では、サークル側として参加する予定だ。
     既に参加の申し込みも終えている。トレーナーになった時は、こんな事も忙しくてできなくなると思うので今の内にやりたいことは全てやってしまう所存である。トレセン学園に居た時、溜め込んだ妄想の数々をネームに落とし込んでペンを入れる。
     絵を描くのは早い方だと言われている。
     細部まで拘って絵を描くよりも、頭の中に思い浮かべた妄想を形にすることを第一に考えていた。
     なので本当に絵で生きようって人には敵わないのだけど──それでも毎日のように絵を描いて、SNSなどに上げ続けていた事もあったので今のフォロワー数まで増やす事ができた。次の即売会にサークル参加の申し込みをした事をウマッターで呟けば、驚くほどに反響が返ってきた。
     まだ決まってないのだけど、みんなの期待する声に創作熱が上がったのだ。
     描ける内に描いてしまえと数ページのペン入れを一気に終わらせる。

     椅子の上でウンと身体を伸ばす。
     集中して絵を描いたりする時にだけかける眼鏡を外し、目を擦る。
     そして、部屋に掛けた時計の針を見上げた。

  • 25イッチ23/06/13(火) 22:00:19

     三時前のおやつ時、ウインディさんが珈琲を淹れる時間帯だ。
     彼女が珈琲を淹れる時に一階に居れば、一杯も二杯も変わらない。と私の分の珈琲を淹れてくれる。休憩がてらに御同伴に預かろうと階段を降りた。「また来たのだ」と彼女は困った風に笑いながら二杯分の珈琲の粉をドリッパーに入れる。コポコポと沸騰するお湯を、注ぎ込めば、部屋に珈琲の香ばしい香りが漂い始めた。この瞬間が好きだった。小柄な彼女が珈琲を淹れる姿は何時も以上に大人びて見える。ソファーに腰を下ろす私に白い湯気の立つコーヒーカップを手渡された。
     もう既に牛乳が混ぜられている。熱に気を付けながら啜れば、砂糖も混ぜてあった。

    「ああ、そういえば、伝えるのを忘れていたのだ」

     自分の分の珈琲を手に持ったウインディさんが私の隣に座り、今しがた思い出したかのように告げる。

    「明日、ライスシャワーとゼンノロブロイが来ることになっているのだ」

     急な話に私が戸惑うのも素知らぬ素振り、彼女は砂糖が入れただけの珈琲をズズッと啜る。
     まあウマ娘ちゃんが増えてくれるのであれば、大歓迎だ。料理を作る量は増えるけど、その分だけ掃除の負担が減る事になる。それに、この家は二人でも少し寂しい感じがあった。
     新しく二人が来るとなれば、明日からは賑やかになりそうだ。

  • 26イッチ23/06/13(火) 22:01:40

     ライスは、駄目な子だ。
     トレセン学園を卒業した私は絵本作家になる為に美術大学への進学を希望した。
     だけど在学中は絵を描く時間を取れなかったし、試験勉強に割く時間もなかったことから浪人してしまったのだ。トゥインクル・シリーズで稼いだ資金を切り崩し、翌年でなんとか合格する事ができたのだけど、第一志望ではなくて滑り止めの方で合格だ。それで入学したところまでは良かったのだけど、周囲は自分よりも絵の上手い人ばかりで自信を消失してしまった。
     もっと頑張らなくちゃいけない。と思って、絵を描き続けるのだけど今、借りている部屋だと絵を描くには狭くて不便だった。だから新しく家を探そうってなった時に都合よく声を掛けてくれたのがウインディさんだった。
     新しい家には、ロブロイさんとウララさんも来るという話だったので、すぐ決めた。

     家事の手伝いとかもしなくちゃいけなかったけど、
     自分一人で家の事をしているよりも、まとめてやる分だけ絵を描く時間が取れる。
     私は、極めて利己的な判断で私は、
     ウインディさんのおうちに居候することを決めたんだ。

    「よろしくお願いします」

     たくさんの画材と一緒に彼女の家まで訪れた時は、本物の豪邸に圧倒された。
     ビクビクとチャイムを鳴らせば、監視カメラが私の姿を撮られる。別になにかした訳じゃないのだけど、ドキドキする。だから『入るのだ』と聞き覚えのある声を聞いた時、ほっと胸を撫で下ろした。
     話には聞いていたのだけど、本当に豪邸だ。庭付きで当分、絵の題材に困ることはなさそうだ。

  • 27イッチ23/06/13(火) 22:06:04

     門扉の先にある玄関扉で二度目のチャイムを鳴らす。
     中からトタトタと軽い足音が聞こえて来た。
     あれ? ウインディさんはもうちょっと力強い感じだった気がするんだけどな?
     開けられた扉の向こう側から髪を下ろしたアグネスデジタルの姿があった。

    「あれ? デジタルさんも一緒なの?」
    「うひゃあ~~~! ライスさん、随分とお姉さんになられています~~!!」

     トレセン学園に居た時と比べて身長は少しだけ伸びた、ほんのちょっぴり。数センチ。
     眼鏡も掛けるようになり、可愛いよりも落ち着いた衣服を好むようになった。昔の方が可愛くできていたと思うのだけど、それを成長と捉えてくれるのは少し嬉しかった。
     だって美大だと私は浪人してるのに皆、年下か同じ年だと思って接してくるから……

     でも、それをいうのであれば、少女趣味だったデジタルさんの私服も随分と落ち着いている。
    「ツインテールは止めたの?」と私が聞けば「年齢的に少し、そろそろキツいかなって……」と彼女が引きつった笑みで顔を背けた。……私も前髪を切った方が良いのかな? でも、知らない人と話すのが苦手な私は、片目だけでも目元を隠しておかないと人の顔を見て話すことができなかった。
     家に足を踏み入れれば、ウインディさんが奥の部屋から顔を出した。

    「よろしくお願いします!」と私が勢いよく頭を下げれば「こちらこそよろしくなのだ」と笑顔を返す。
     学生時代と比べて、随分と落ち着いた様子だった。

  • 28イッチ23/06/13(火) 22:06:52

     部屋は左側手前を選ばせて貰った。なんとなく、端の方が落ち着くから。
     抱えて来た荷物は、ゆっくりと部屋の端に固めて置いて、
     改めてウインディさんと挨拶し、部屋を案内して貰う為に一階に降りた。

    「はい、よろしくお願いします」

     階段から降りる途中、何度も聞いた声がした。
     小柄な体に大きなウマ耳、そして黒縁の眼鏡。

    「ロブロイ、さん?」
    「あ、ライスさん!」

     多くの荷物を抱えたロブロイさんの姿があった。
     昔と変わらない笑顔。いや、昔よりも幾分か活発的になった笑顔を私に向けてくれた。



     一挙に二人が豪邸に来たことで四人の共同生活が始まる。
     ウインディさん自ら部屋を案内する事になり、一人残された私はリビングでiPadで絵を描き始めた。
     大人になったシンコウウインディに少し身体の大きくなったライスシャワー。
     そして、ほとんど変化のないゼンノロブロイ。
     これから始まる生活に想いを馳せながら、デフォルメ化した三人の姿をチャチャッと書き起こす。

     今日の料理当番は私だけど、冷蔵庫にある食材だけで足りるでしょうか?
     ロブロイさんはともかくライスさんはよく食べる。私の時代、大食いといえば、オグリキャップにスペシャルウィーク、ライスシャワーの三人だった。メジロマックイーンは大食いというよりも食べたものが脂肪になりやすい体質で、ウマ娘としては平均的な量だったりする。トゥインクル・シリーズを卒業した後、急に御飯の量が増えたのはグラスワンダーであり、ドリームトロフィー・リーグへの移籍を考えていたにも関わらず、激太りしてしまったこともあった。太り気味なんてものではなかった。トレーナーと二人三脚でダイエットでなんとか痩せたけど……あれだけ食べても見た目が大きく変わらない上記の三人がおかしいと云えた。
     閑話休題、
     ライスさんの食堂で山のように固めた白御飯を必死になりながらも幸せそうに食べていた姿を思い出す。

  • 29イッチ23/06/13(火) 22:10:02

     夕食はピザの出前を頼んだ。ピザになった理由はウインディさんが食べたくなったからだ。
     取り皿と飲み物を運んで、ダイニングの机で四人一緒に多めに頼んだピザを囲った。

     そこで聞いた話によると、
     ロブロイさんは今、史学科の大学を受験して現役合格を果たした大学生だという事だ。
     大学でも図書室に籠る毎日を送っており、
     今は大学に貯蔵された書籍を全て読破することを目的に生きているらしい。
     楽しい人生を送れてそうで私も幸せです、御馳走様です。

     ライスさんも美大の大学生、絵本作家になる夢を叶える為に彼女も努力を積み重ねている。
     夢を目指して走り続けるウマ娘ちゃん達にデジたんも感無量だ。
     なんとなく漠然と生きている私とは大違い。
     まあ私の場合、不純な動機は今に始まった事でもない。
     動機は不純でも、想いは本物だ。だから私はオペラオーさんやドトウさんにも勝つ事ができた。
     結果まで謙遜してしまっては、他のウマ娘ちゃんに失礼だから、
     だから私は、ちゃんと自分の走り続けた想いは本物だったと断言するようにしている。

    (ですけど……)

     ちらりと前を見る。
     ロブロイさんの隣に座るライスさんの食の進みが遅かった。
     垂れ落ちるウマ耳に彼女が何かを抱えていることは見て取れる。
     ロブロイさんもその異変に気付いているようだ。
     自分の隣を見る。
     ウインディさんは気付いていながら素知らぬふりでピザを食べ続けていた。
     彼女がそうしたから、私もこの場では気付いていないふりをした。

  • 30イッチ23/06/13(火) 22:13:57

    とりあえず、此処までです。
    3000~5000文字くらいの量を日に一度、投稿していく形になると思います。
    やる夫系やブーン系と同じスタイルが、ここでも合うか分かりませんが、
    こんな感じで続けて行ければと思っています。

  • 31二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 22:22:49

    >>30

    お待ちしておりましたわ!

    各々の歩みが丁寧に、ひとつひとつ交わってゆく……ああ……堪りませんの!

  • 32イッチ23/06/13(火) 22:27:16

    >>16

    リクスレの方かな?

    待っていただきありがとうございます

    期待に添えられるものを書けるように頑張ります


    >>17

    実馬の引退後、落ち着いた姿が元になっています

    でもバチバチやっていた時と比べると皆、落ち着いている感じがします


    >>19

    程々に頑張ります


    >>20

    この二人の組み合わせは、イベントの絡みからの連想でした

    デジタルを中心にメンバーを組んでいるので必然的に小柄なウマ娘ばかりが集まってる

    たぶん今後も小柄なウマ娘ばかりが集まります

    ウインディが無意識に小さいウマ娘ばかり集めたのかもしれない


    >>21

    その言葉に添えられるように頑張ります

  • 33二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 22:54:10

    勇者たちのその後…みたいな話大好物だからめっちゃ楽しみ
    かつてのヒーローが他業界に転身して挫折しつつ這い上がるの好き

  • 34二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 06:36:41

    ぼくこういうのすき!!!!

  • 35二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 07:10:39

    いいですねえ!

  • 36イッチ23/06/14(水) 19:01:06

    保守

  • 37イッチ23/06/14(水) 22:00:15

     二人が増えて、更に少しの時間が過ぎる。

    「スクーターです! ヤマハ・ビーノです!」

     早朝、キリッとした顔付きのゼンノロブロイが両手でスクーターのハンドルを握り締めている。
     スクーターに乗るようになった彼女はサイドテールの三つ編みをやめて、スーパークリークと同じように後ろ手の緩い三つ編みで髪を纏めている。ライダースーツは彼女の大きな胸で今にもはち切れんばかりに膨らんでおり、現役時代に鍛え上げた足でバイクパンツはピチピチになっていた。それでいて140センチメートルを少し超えた程度の小柄な体躯は、道行く異性の性癖を歪めてしまいそうだ。
     そんな事を気にも留めず、彼女はドヤッとした顔でゴーグル付きのヘルメットを抱えている。
     ゴーグルは眼鏡を掛けていても使える大型のものだ。

    「……それで何時、帰ってくるのだ?」

     とりあえず玄関の前まで足を運んでいたシンコウウインディが問い掛けた。
     寝起きで、まだ眠たそうに目を細めている。
     ついでにいうと私も眠い、今は夜明け間もなくの時間帯だ。

    「はい、明日です!」

     堂々と告げる彼女のスクーターにはキャンプ道具一式が括り付けられていた。

    「……今日の掃除当番はどうするつもりなのだ?」
    「デジタルさんに言って代わって貰いました!」

  • 38イッチ23/06/14(水) 22:00:46

     ウインディさんがチラリと私を見る。
     これは本当の話、言われたのが昨晩の事で「埋め合わせは必ずします!」と言っていたので代わってあげた。
     小さく頷く私にウインディさんが大きく溜息を零す。

    「まあ、楽しんでくるのだ」
    「はいっ!!」

     ロブロイさんが満面の笑顔でスクーターのエンジンに火を入れる。
     ブロロロロ……と小さく振動する重低音と共に小さくなる背中を見送る。
     小柄な文学少女とスクーターの組み合わせって意外とマッチしているものでデジたん満足です。
     感無量、感無量と家に戻ろうとした時だ。
     おい、とウインディさんがドスを利かせた低い声色で私を呼んだ。

    「あんまり甘やかすんじゃないのだ」

     ああ、これは二つ返事で承諾した事がバレてらっしゃる。
     ウマ娘ちゃんの笑顔を見る為にデジたんつい受けてしまうのだけど、それを続けていると相手の為にもならない事も分かっている。でも彼女ってちゃんとこういう事を覚えていて埋め合わせもしっかりとしてくれるんですよね。
     難しいですねえ、と思いながらも今日の分の家事を終わらせるべく家の中に戻る。

  • 39イッチ23/06/14(水) 22:03:28

     兎に角、今は一枚でも多く描いて、作品を完成させなきゃいけなかった。
     ウインディさんが貸してくれた空きガレージを改造した自分用のアトリエにて、キャンバスに筆を走らせ続ける。
     小腹が空いた時は木炭デッサンで使う消し具用の食パンを齧り、手元にあるものを片っ端から書き連ねた。千里の道も一歩から、ブルボンさんの後を追いかけ続けた日々を思い出し、ついてくついてく、と零しながら画用紙を真っ黒に染め上げる。私にはまだ絵を描き上げるだけの下地がない。あの踏切の向こう側に渡ることができない状態だ。
     それでも何時か追いつける日が来ると信じて、ひたすらに、ただひたすらに一枚の絵を何度も書き直す。
     どれだけ書き直しても良い、どれだけ時間が掛かっても良い。
     先ずは自分が納得できる一枚を描いて、思いついたことを片っ端から試す。私は自分自身に自信が持てないから、もうこれ以上は何をやっても無理だって、自分自身に誇れるまでやり続ける他に努力のやり方を知らなかった。菊花賞に春の天皇賞、もっと効率的なトレーニングの方法もあったと思うのだけど、私には、自分を追い詰めるやり方しか分からなかった。それは今も変わらない。辛いと思う事はある、苦しいと思う事はある。だけど、私は自分の夢を叶える為に絵を描いている。
     それはきっと前を進んでいるって事だ。

     近場のリサイクルショップで購入した扇風機を回し、真っ白なキャンバスに世界を描いた。
     見えないものを見ようとして、見えないものすら見えるように、物と物との距離感を意識できれば、空間全体を世界に落とし込むことができる。今の御時世、デジタルでも良いと思うのだけど、私は、アナログの柔らかいタッチの絵が好きだった。デジタルだと、どうしても上手く表現できなかったからアナログに拘り続けている。
     部屋に戻れば、鉛筆を使って当たりを描いた。
     リビングに居る時は、メモ帳を使ってデジタルさんが掃除をしている姿を何枚も描いた。デジタルさんはずっと家に居るから、此処に来てからの一週間でデジタルさんの絵が五十枚近くになってしまっている。仕上げてはいないのだけど、なんかもう描き慣れてしまっていた。
     黒と白の世界に彩りを与える、線一本が躍動感を生み出す。魂を吹き込むように熱を宿らせる。
     カリカリと何度も線を引くことで感覚を身に沁み込ませる。

  • 40イッチ23/06/14(水) 22:04:38

     何度も描いていると手癖で描けるようになる。
     そうなれば、もう実物を見ていなくても、絵に起こすことができた。
     深夜、思いついたポーズと表情を片っ端から書き連ねる。
     だけど駄目だった。
     私の絵には温もりがなかった。
     こんとあきやてぶくろ、14ひきのねずみシリーズのような温かさを感じられることがなかった。
     どれだけデジタルさんを描いても、あの優しい笑顔が描けなかった。
     柔らかい頬が描けなかった。

     描いた絵を全て、床に並べて比較して検証する。
     上手く描けている時とそうじゃない時、引いた線が与える印象というのは本当に絶妙で、コンマ1以下の差でがらりと変わったりすることもある。線の強弱は勿論、些細な濃淡ですらも絵全体に影響を与えてしまうのだ。
     床全体に並べた数十枚のデジタルさんの絵を食い入るように見つめ続けた。

    「ライスさん、朝ご飯ができましたよ」

     気付けば、外が明るくなっていた。
     しぱしぱとした目を擦り、ふらつく足で扉を開ける。
     扉の向こう側にはデジタルさんが居た。

     私を見て、ギョッとした顔を浮かべた。
     部屋の中を覗き見て「ひえっ」と怯えた声を零す。
     何をそんなに恐れているのだろう?
     私は首を傾げた後、やっぱり本物は違うなあ。とにへらを笑みを零す。
     柔らかそうな頬にふんわりとした栗色の髪。
     そこでふと、気付いた。
     私は、実際に彼女の頬を触ったことがない。
     髪に触れたこともない。

  • 41イッチ23/06/14(水) 22:08:42

    「あ、ちょっと……ふえぇ…………」

     思いついた時には、真っ黒な手で彼女の頬に触れていた。
     両手でもっちりとした頬を思う存分に堪能し、エプロンを着た彼女の身体をギュッと抱き締める。
     髪に触れる、匂いも嗅いでみる。親指で唇にも触れてみる。
     親指でウマ耳の奥まで感じ取る。
     兎に角、彼女を知りたくて、全てを手で触れて感触を確認した。
     そうしていると、なんだか衣服が邪魔に感じてきた。
     その服の下を実際に見ていない以上、想像する他にない。
     想像するという事は、それはもうファンタジーを描いているも同然だった。

    「デジタルさん!」
    「は、はい!?」
    「一緒にお風呂入ろう!」
    「ひゃいい!?」

     顔も、髪も、衣服も真っ黒に汚れたデジタルさんは
    「ひゅッ……!」と息を吐いて、そのまま仰向けに気絶してしまった。
     そんな気絶させるつもりはなくて、
     急に知人が倒れる光景に、私は狼狽する他になかった。

     痺れを切らしたウインディさんが二階までやって来て、
     私達の惨状を見て「先に風呂に入ってくるのだ……」と呆れた様子で告げる。
     図らずも一緒にお風呂に入る事ができた。
     朝食後、目に焼き付けた光景を絵に描き起こす。
     そこで体力が尽きてベッドに倒れ込んだ。

  • 42イッチ23/06/14(水) 22:14:55

    「あの~、お昼御飯です~」

     控えめなノックとデジタルさんの距離を感じる声に目を醒ます。
     そして床に散らばるデジタルさんの絵の数々と机の上に何枚も描き起こした裸体のスケッチを見て、
     あっ。と今朝方、散々やらかしたことを思い出した。

    「ち、違うんです!」
    「さ、先に下! 行ってますから!」
    「デジタルさん、話を聞いて~!」
    「何もありませんでした! デジたんは壁、デジたんは人形!」

     今、弁明しておかないと大変な事になる!
     私は、もう既に取り返しが付かなくなってることに目を背けながら、
     話を聞いてくれないデジタルさんを慌てて追いかけた。
     教訓、夜はちゃんと寝ること。
     幸か不幸か彼女の肌に触れた感覚は鮮明に覚えていた。

  • 43イッチ23/06/14(水) 22:16:01

    ここまでです。

  • 44二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 22:42:47

    >>43

    デジライスですわ!パクパクですわ!

    内向的で悩みがちな中に確かな意思を秘めたふたりの縦の糸と横の糸──今夜はこれですわ!

    ただひたすらに尊いですわ……

  • 45二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 23:17:37

    卒業後に色んな新しい顔が見えるの、イイ…

  • 46二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 07:21:35

    このレスは削除されています

  • 47イッチ23/06/15(木) 07:26:08

     大学生になってから初めてキャンプ場に訪れました。
     現役時代のライスさんとアヤベさんがキャンプをしたという話を聞いた時から憧れて、
     何時か絶対に一人で行ってやろうと決めていた。

     初めてのキャンプで何を買ったらいいのか分からない。
     なのでネット通販で適当に安いものを買って、必要に応じてランクアップをさせて行くつもりだ。
     というか今後、行くこともないかも知れないし、最初は安物で十分です。

     ポチポチポチーッ!
     と、通販を購入したキャンプギア(と言ってみたかっただけです)を載せて、
     ブババンブバン!
     と、スクーターでキャンプ場までやって来ました。

     天気予報で晴れだったはずなのですが、
     途中で通り雨にあってずぶ濡れになってしまいましたが何の問題もありません!

     天気予報もなかった江戸時代の方々だって、この程度のトラブルはなんてことなかったはずなんですよ! ついでにいうと途中でスマホの電源を切ってしまいましたが、大丈夫! いざという時の備えが、多少心許なくなっただけです!

     此処に来た時に先ずする事は拠点作り!
     適当に見晴らしの良い場所を選んで、先ずはビニールシートをバサァ!
     そしてテント造り、作り方……
     う~ん、私、大陸語を履修していないので読めません。

  • 48イッチ23/06/15(木) 07:26:38

     ですが、まあ!
     こんなものはインスピレーションをなんとかなります!
     ニュアンスですよ、ニュアンス!
     歴史だって大体、ニュアンスが大切なんですよ!
     歴史に残せない事はニュアンスで語られてるもんなんです!
     どうせ、正しい歴史なんてこの世界にないんですよ!

     こうやって、骨組みを入れてバサッと広げてやれば、パキッと!
     ……パキッと?
     まあ、テントなんて骨が四本くらいあるのですから一本くらいなくたって大丈夫です。

     私、知っています。
     このペグとかいう釘っぽい奴で四方を……キャンプにハンマーって必要でしたっけ?
      まあ適当に踏み抜けば良いんです。ふんっ! って感じで!
     そうすれば、ペキッ! って……ぺきっ?

     今、自重でテントが壊れました。

  • 49イッチ23/06/15(木) 07:28:05

     ……私、星を見ながら寝るのって昔からの夢だったんです!
     テントを張りながら思っていたんです。星空を見ながら眠れないよねって、だから無問題! どうせ、最初から使う予定もなかったんですよ! ブルーシートが一枚、あれば良いんです!
     ほら、こうやって大の字になれば……痛い!
     背中が凄く痛いです!

     私、現代っ子だったからハイキングとか行ったことなかったんですけども、
     直にブルーシートを地面に置くとこんなに痛かったんですね。
     小学校の運動会の時とかに敷いても大丈夫だったので大きな石とかなかったからだったんですね。

     これは新しい知見を得ました!
     古代の偉人達だって拠点を作る時は地面を均すところから始めたのでしょうか?
     そう思うとワクワクですね!
     今、私は車輪の再発明をしています!
     過去の追体験です、歴史の追体験ですよ!
     私は今、古代に足を踏み入れました!

     適当に大きな石を蹴飛ばして、粗大ゴミになったテントを地面に敷いて、
     その上にブルーシート! バサァッ!!
     大分ましになりました! 人類の叡智の勝利です!

     寝袋をバーン! 椅子をバーン! 机をバーン!

     そうです! キャンプと言えば、ご飯です!
     最初なのでカップラーメンです!
     お湯を沸かせば、完成するお手軽料理!

     直火は駄目ってことでソロキャンプ(と言ってみたかっただけです)用の折り畳み式の可愛い焜炉を持って来ました!

  • 50イッチ23/06/15(木) 07:30:09

     ……これの火種ってどうすれば良いのでしょうか?
     薪とか入りませんよね?
     小枝を細かく入れたら入るかな?

     マッチはあります!
     ライターよりもマッチです、何故なら、その方が臨場感が出そうでしたから!
     湿っています。

     ……この思い通りにならない感じ!
     自然を相手にしてるって感じがして、なんか良いですね!
     蹄鉄と蹄鉄を打ち合わせれば、火花が出るので……なんで私、蹄鉄を持ってきているのでしょうか?
     しかもこれ秋シニア三冠の時、トレーニングに使っていた蹄鉄です。

     何度か叩き付けても火花が出ないですし、そもそも落ちてた小枝が湿っているので火が尽きそうにもありません……ま、人間なんて一日程度、食べなくても大丈夫ですよ! いざとなれば、齧れば良いんです、齧れば!

     もう外も日が落ちて来ています。
     寝袋良し! ブルーシート良し! 粗大ゴミで作ったの下敷き良し!

     そういえば近場に温泉があるって事でこのキャンプ地に来たのですけども……拠点の設営とかでもう終業時間が過ぎちゃってますね。

     途中で通り雨にあった時にガッツリと休憩を挟んじゃったのがいけなかったのでしょうか?
     お昼御飯、美味しかったです!

  • 51イッチ23/06/15(木) 07:33:05

     そういえば、私、椅子に座りながら星空の下で本を読むのとか夢だったんですよ!

     だから小説を……少し湿ってますね?
     まあ、読めない事は……読めませんね?

     電池式のランタンは持ってきているんです。
     でも置くタイプで、照明が下にあると小説って、とっても読み難いですね。

     仕方ないので歌います!
     私、ゼンノロブロイ歌います!
     牧歌的と言いますか、昔の人は焚火を囲いながらよく歌ったものなんです。
     知りませんが、そういうものなんです!
     英雄も皆、大抵、歌っています!(偏見)

     焚火、ありませんけど!
     水はあります!
     インスタントコーヒーも用意しました!
     お湯、ありませんけど!
     水です、水!
     水があれば、人間、一週間程度は生きられるんですよ!
     水は生命の母です!

     もう寝ましょう! そうしましょう! 
     なんか疲れましたし!

     星空を見上げながら……寒い、滅茶苦茶、寒いです。
     ずっと気にしないふりをしていましたけど、クッソ寒いです!!
     これ、駄目です。死にます、これ、死にます!!

  • 52イッチ23/06/15(木) 07:35:27

     初めてのキャンプ、
     利便性を求めるよりも浪漫を求めたかったのですが、
     これは流石に駄目です。

     とりあえず服を全部、着込んで寝袋にINしても寒いです。
     千円台の安い寝袋が駄目だったのかな?

     流石に文明の利器に頼りましょう。
     確か、少し降りたところに……自動販売機!
     温かい飲み物を三つほど買って、服の中にイン! イン! そしてイン!
     バイクスーツに寝袋の合わせ技、完璧です!!
     そして星空を見ながら……顔がさんむいッ!!

     タオルを顔に掛けて、顔の部分の紐を内側から完全に締め切りました。

     蛹になった気分です。芋虫です。
     ゼンノロブロイは虫になりました。
     蛹か芋虫なので発展途上です。
     秋には立派な成虫になってますね。
     きっと秋シニア三冠、取ってます。

     でも、思っていたよりも温かいですね。
     温かい飲み物がぽんぽんを温めてくれます。
     あ、意外と良いですよ、これ。その場凌ぎには十分です。

     今回のキャンプでひとつ残念なことが判明しました。
     夜空を見上げながら寝るなんて昔の人だってやってないです!
     創作です、ファンタジーです!
     現実は辛いです!!
     こんなんじゃ寝た気になれませんよ!!!

  • 53イッチ23/06/15(木) 07:37:15



     次、目覚めると空が明るくなっていた。
     顔を覆っていたタオルでしぱしぱした目を擦り、いそいそと寝袋の中から這い出した。
     全身、汗とかでぬるぬるしていて気持ち悪かったけど、
     キャンプ場を吹き抜ける冷たい風が、何故だか分からなかったけど心地よかった。
     肌とかじゃなくて、朝焼けの空気が肺に染み渡るのだ。

     寝袋を畳んで!
     椅子を畳んで、机を畳んで!
     粗大ゴミ(テント)を付属のゴミ袋(収納袋)にダストシュートして!!
     撤収作業完了、見てください!
     来たまんまの姿、キャンプの痕すら残さない完璧な仕事っぷりです!!
     粗大ゴミを広げたくらいしかしてませんからね!!

     まだ温泉が開くまで結構、時間があったのでバイクに跨って家まで帰った。

    「キャンプ、どうでした?」

     家に帰った後、とりあえず風呂に入った私は感想を求められたデジタルさんに満面笑顔で返す。

    「さいっっっっっっていでした!」
    「ええ……」

     テントは潰れる。火も点かなければ、御飯も食べらない。
     夜は寒い。星空を見上げながら眠ることも叶わなかった。
     やったことといえば、大した照明もない中で歌を歌ったくらいです。
     その事を伝えれば、ですよね~。とデジタルさんが愛想笑いで相槌をくれた。

    「それじゃあ、もう行かないのですか?」

  • 54イッチ23/06/15(木) 07:40:34

     彼女の問いに私は首を横に振る。

    「滅茶苦茶辛かったのが、逆に楽しかったです!」
    「ええ……」
    「また近い内にリベンジしますよ!!」

     風呂上り、椅子に座りながら拳を握り締める私に、
     デジタルさんが若干引き気味に私を見ていた。
     対面に座っていたウインディさんは「無事なのは良かったのだ」と溜息を零す。

     今回でキャンプに欲しいもの、必要なものは分かりました。
     先ずは挑戦、次に検討。改善し、そしてまた挑戦。
     その繰り返しが人類が積み上げて来た歴史、叡智の結晶なんです!

     キャンプとか不便で、辛い事ばかりで、
     家に居る方が絶対に良いんですけど、
     なんかそれが楽しかったです。

  • 55イッチ23/06/15(木) 07:41:01

    ここまでです。
    保守ネタ、ロブロイさんの初キャンプ。

  • 56二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 07:55:04

    慣れてるのかと思ってたらぶっつけだったの?まあ無事でヨシ!

  • 57二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 07:59:51

    下 準 備 は 大 事
    頑張れロブさん

  • 58イッチ23/06/15(木) 08:16:32

    良い子は真似してはいけませんよ。
    ロブロイとのお約束です。

  • 59二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 09:35:04

    ロブロイパート可愛いなおい

  • 60二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 13:25:37

    >>55

    ぶっつけ脳筋ロブロイ愛おしいですわ!

    困ったら有マレコードではなく秋古バ三冠が出ちゃうのオペラオーさん意識してるのが見えて尊いですわ!

    英雄の日常ですわああああ!

  • 61二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 18:43:34

    何故かロブロイならやりそうなの分かる

  • 62二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 19:58:47

    すごいハイテンションだな

    支援

  • 63二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 00:05:50

    スレを見つけて上から全部読んでしまった
    この設定好きなのでぜひとも続きを読みたい

  • 64二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 03:42:05

    ゆるキャンも因子周回して試行回数こなさないといけない判明したからしょうがないね

  • 65二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 09:05:51

    >>64

    原作でもキャンプ場でヤバかった事あったしな、練習と下調べは大事よ

  • 66イッチ23/06/16(金) 09:58:55

     家事を熟す合間に即売会用の同人誌の漫画を描き続ける。
     内容は、テイエムオペラオーとメイショウドトウをモデルにしたものであり、アドマイヤベガとナリタトップロードとの激戦を経て、彼女が世紀末覇王と呼ばれるに至る偉業を達成するまでを間近で見続けて来たメイショウドトウが、春の天皇賞で改めてテイエムオペラオーの好敵手として名乗りを上げるまでの物語だ。
     これを28ページでまとめ上げるのは、我ながら結構な無茶をしていると思う。
     もう既に下書きを終えて、ペン入れ作業中。自分が応募したのは全国で最大規模の即売会、折角、応募したのに作るのが一冊だけでは物足りない気がする。ので、あと一冊くらいは書き上げるつもりだ。
     まだ中身は考えていないのだけど。

     ゼンノロブロイがキャンプをする為に家を出て行った翌朝、ボロボロになった彼女が満面の笑顔で帰って来た。

     彼女は家に帰るとすぐ浴室に向かった。
     シャワーを浴びて戻って来た彼女は、バスタオルの姿でリビングに出て来た。
     湯を浴びて、上気した肌。全身からほかほかの湯気を立ち上がらせる彼女は「着替えを忘れました!」と笑顔で告げる彼女に「はしたないのだ」とソファーに座るウインディさんが零す。ウマ娘の中でも、ひと際目立つサイズの胸がバスタオル越しにぶるんと揺れる。その瞼に焼き付く光景を前に思わず、私は真っ赤にした顔で「もうちょっと周囲の目を考えてください!」と叫んでしまった。
     あの胸は目に毒だ、デジたんにスケベ心が芽生えてしまう。

  • 67イッチ23/06/16(金) 10:00:00

    「学生時代、共用の大浴場で肌を見せ合った仲ではありませんか」

     不思議そうに告げるロブロイさんに「そうですけども!」と両手で顔を覆った。
     わざわざ見せなくてもいいものを見せる必要もない。
    「さっさと取りに行くのだ」とウインディさんに促されて、
     いまいち納得していないロブロイさんがリビングから出て行った。

     ……ウマ娘の生足には性癖が詰まっている。
     扉を開けた際、バスタオルの下から覗かせる生足をデジたんは見てしまいました。
     思春期の少年の性癖を壊しかけないので、
     URAは、もっと肌の露出を厳格に制限するべきかも知れない。

    「デジたんは大罪を犯しました……ウマ娘ちゃんを邪な目で……」
    「……いや、同性でもあの胸は意識してしまうのだ」
    「くう……デジたんの視線で推しウマ娘ちゃんを穢してしまったんです……!」
    「穢すとか言うな」

     くう、と強く歯を食い縛る。

    「……あいつ、朝御飯はいるのだ?」

     ウインディさんがソファーでテレビのニュースを眺めている。
     昨日の野球のハイライトを見て「あっ」と口を開いた。
     バックネット裏の観客席で、元気に応援をする葦毛のウマ娘の姿が映り込んでいた。

    「そういえば、今日、ウララの奴が帰ってくるのだ」

  • 68イッチ23/06/16(金) 10:00:57

    「えっ?」

     昨夜、連絡が入ったのだ。と素っ気なく告げるウインディさん。
    「聞いていません!」と叫ぶ私に「言っていないのだ」と返す彼女、テレビの番組が切り替わって朝の連続ドラマが始まった。その準レギュラーの枠に帽子を被った桃色の髪の少女がおり、今日はその彼女がメインを張る回となっていた。「しっかりともてなさないといけません!」と早速、冷蔵庫の中身を確認する。
     そんな私を見てウインディさんがまた溜息をひとつ零す。

    「騒がしくなりそうで嫌だったのだ」

     そりゃ騒ぎますよ、だってあのハルウララさんですよ!?
     あたふたと出迎えの準備を考える私に「何時も通りで良いのだ」とウインディさんが素っ気なく返す。
     その「何時も」ってのがデジたんには分からないんですよー!
     そういうしている内にピンポーンとチャイムが鳴った。

    「もう来ちゃったじゃありませんか!」

     慌てた私がモニター付きのインターホンの受話器を手に取った。

    「ちょっと早過ぎるんじゃないか?」

     呟くウインディさんを背中に、監視カメラの映像がモニターに映し出される。

  • 69イッチ23/06/16(金) 10:01:23

    「……あれ?」

     映っていたのは小柄なウマ娘、しかし桃色ではなくて青色の長髪だった。
     まるでお姫様のドレスに着飾られた彼女は、おどおどと周囲を警戒している。背中に衣服が何着も入らないサイズのリュックサックを担いだ彼女の姿に心当たりはあった。しかし、学園で見た時とは、あまりに印象が違い過ぎて、本当に私が知っている彼女なのか分からなくなってしまっていた。
     困惑する私に「早く中に入れてやらないと可哀想なのだ」とウインディさんが私から受話器を奪い取った。

    「ター坊、此処で合ってるのだ。今、鍵を開けるからさっさと入るのだ」

     ター坊、その愛称から彼女が私が想定していた人物と同一であることを察する。
     ツインターボ。卒業後に大学へ向かったイクノディクタスやマチカネタンホイザ、商店街の食堂で看板娘をするナイスネイチャとは違って、実家に帰ったとだけ知られていたウマ娘である。遠くからしか知らない私から見た彼女の姿は、快活なウマ娘だった。臆病者で怖がりという話も聞いていたが、いざという時には前に進む一歩を踏み出せるウマ娘だった。
     だけど、今の彼女は、私の知らない顔だった。

    「彼女が面倒を任されたっていうウマ娘なのだ」

     ウインディさんは今日、何度目かになる溜息を吐き捨てた。

  • 70イッチ23/06/16(金) 10:01:35

    とりあえず、ここまで

  • 71イッチ23/06/16(金) 10:03:53

    >>64

    (ゆるキャンしてたせいで昨日、書けなかったなんて言えないなあ)


    >>65

    ロブロイ「今回で下調べは済みましたので、次回で練習を始めますよ!」

  • 72イッチ23/06/16(金) 10:07:49
  • 73二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:40:19

    とても良かった

  • 74二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 15:24:19

    手がかかりそうな娘(ウララ、ターボ)とかからなそうな娘(ライス、ロブロイ)の両極端なシェアハウス!

  • 75二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 22:09:49

    >>70

    すばらですわ!

    生活感と日常の狭間に、ニューフェイスの登場──王道の切り口がするする読めますわ!

    胸の豊かさは……くっ、引き分けといったところですわね

  • 76イッチ23/06/16(金) 22:55:52

    「あ、えっ……あ……うぅ…………」

     青色の長い髪をした美少女が、
     シンコウウインディに促されて、ダイニングの椅子に腰を下ろしている。
     視線を左右に揺らし、ビクビクと身を震わせる姿は、
     知らない家に来た猫と呼ぶには、余りにも痛々しかった。
     私が知る彼女とは、まるで違っている。

    「イクノの奴から聞いていた以上に重症なのだ」
    「う〜……」

     ウインディさんの呟きにターボさんが今にも泣き出しそうな顔で唸り出す。
     簡単に話を聞くと彼女は花嫁修行という名目でこの家に送られてきた。もう少し詳しく語るのであれば、トレセン学園を卒業した後、彼女は実家に帰った。その後、定職に就く事ができず、アルバイトをしていたのだが、それも長続きしない。仕事を失敗する度に内向的になりつつあった。このままでは彼女の今後を不安に思った両親が、イクノディクタスを始めとした何時もの面子の勧めもあり、荒療治的に此処に送られる事になった。
     花嫁修行と銘打っているのは、彼女は女性なので最悪、嫁に出せば将来の心配はなくなるというものだ。
     しかし見合い相手を見つけるにも必要最低限の家事能力は必要であった。

    「家賃はなし、食費と光熱費は私が支払ってやるのだ」

     まだ一緒に暮らし始めて短いが、今のウインディさんの性格は掴めてきた。

    「その分だけ家事は多く熟して貰うのだ」

     こういう時は、誤魔化さず、しっかりと言う人だ。

  • 77イッチ23/06/16(金) 22:56:07

    「……でも、ター……私、上手く……できないもん……です」

     彼女も人気のあるウマ娘だ。
     レースに出走する度に破滅的な大逃げを噛ます彼女に多くの人間が勇気付けられた。
     彼女の存在なしではトウカイテイオーの復活劇もなかったはずだ。
     でも、その時の輝きは、今の彼女にはなかった。

    「最初は私が一緒にやってやるのだ。花嫁修行という名目だけど将来、やりたいことができて、此処を出て行くことになった時に家事は必ず必要になる。だから必要最低限はできるように頑張るのだ」

     頑張る人間を、ウインディちゃんは見捨てないのだ。とターボさんの頭に手を乗せる。

    (……ウインディさんって真面目な話をする時は、一人称が私になるんですね)

     ウマ娘ちゃんの新たな一面が見れて、ありがたや、と拝んだ。

    「……何をしているのだ?」
    「えっと……こうしないといけない気がして……」
    「なんだか無性に噛んでやりたくなるのだ」

     はい、ご褒美ですね!

    「部屋は私の隣を使うのだ」
    「……リビングから近い、もん」
    「お前を奥に置いたら部屋から出て来なくなるのだ」

     むう、と青髪の美少女が頬を膨らませる姿を見ることができて、
     やっと彼女らしい一面が見れた気がして胸を撫で下ろす。
     やっぱり、大人しいターボさんはターボさんじゃありません!

  • 78イッチ23/06/16(金) 22:56:27

    「今日はご馳走ですね!」
    「どうしてそうなるのだ、何時も通りなのだ」

     そうしてまたウインディさんが溜息を零す。
     余談ですが、ウインディさんはリモートワークでの仕事が主なようです。
     偶に出勤することもありますが、
     作業のほとんどは、在宅ワークで完結するらしい。

     ……あれ? もしかしてデジたんニートなのでは?
     いや、トレーナーの資格試験を受ける為に勉学に励んで──今日まで勉強してましたっけ?
     悲報、デジたんニート説。

  • 79イッチ23/06/16(金) 22:57:39

    なんか中途半端に区切りが良くなったので、
    ここまでが今日の分って事でオナシャス!

    感想とハートは全て読ませて頂いており、モチベにさせて頂いております
    ありがとうございます

  • 80二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 01:42:35

    おつおつ
    U150のウマ娘ちゃんがどんどん集まる謎のちみっこハウス…

  • 81二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 02:41:05

    >>79

    ウインディさんのプロファイルが変わってゆく様が美しいですわ!

    ひとりひとりの生き方がある中、これからどのような化学反応が起こるのか楽しみで楽しみで、もう……!

  • 82二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 12:52:06

    保守

  • 83イッチ23/06/17(土) 13:05:44

    保守

    >>74

    ウインディちゃん的にはデジたん以外、全員手が掛かると思ってたりします


    >>75

    ロブロイさんの胸は発展途上


    >>80

    今の予定に160以上のキャラはいませんね……

    少なからず登場する機会はあるとは思いますが


    >>81

    しっかりと社会人の経験を積んでるウインディちゃん

  • 84二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 00:16:11

    保守なのだ

  • 85二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 09:07:42

    就職活動中はニートじゃないぞデジたん!逆に個人事業主や社長は就職してる状態じゃないからニートに当てはまってしまうんだ!

  • 86二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 14:38:42

    >>85

    気になってニートの定義を調べてみた。


    非労働力人口の中から、専業主婦・主夫を除き、求職活動に至っていない者。

    ニート(イギリス英語: Not in Education, Employment or Training, NEET)は、就学・就労していない、また職業訓練も受けていない若者を意味する用語である。


    個人事業主や社長は、事業主として働いて労働してるから「Employment (雇用されている)」訳ではないが、「就労していない」「労働力人口じゃない」って訳じゃないだろ。

  • 87イッチ23/06/18(日) 15:32:37

     シンコウウインディとツインターボが二人並んで台所に立つ機会が増えた。
     指導は米の梳き方から始まり、野菜の切り方まで教え込まれている。彼女が猫の手で苦戦する隣でウインディさんが二品、三品と料理を作り上げて、ターボが切った野菜で更に一品を完成させた。彼女が呆気に取られる顔を一瞥したウインディさんが「こんなものは慣れなのだ」と返す。ターボさんが使った道具を洗う様子を眺めながら、ウインディさんがひとつひとつ丁寧に指摘する。
     彼女の指導には遠慮がなく、ターボさんはひいひい言いながら必死に言われたことを熟そうとしていた。

    「慣れない事を一度、教えただけで全部できるようになる奴なんてそういないのだ」

     髪を下ろし、エプロンを着たツインターボがキョトンとした顔でウインディさんを見上げる。
    「手は止めないのだ」と言われて、慌てて手を動かした。

    「ゆっくりでも構わないのだ。歩み続けることが大事なのだ」

     そういって彼女は味噌汁に入れた、輪切りの繋がったネギを箸で摘み取り、ターボさんに見せる。

    「先ずは一歩なのだ。次がしっかりと根本まで切るのだ」

     不格好な大根とネギが入った味噌汁、上手く切れなかった分は二人のお椀に分けられた。
     その中でも酷いものはウインディさんの分に入れられており、彼女は何食わぬ顔で周りから見えない角度で一口目から胃に流し込んだ。山盛りによそわれたご飯を片手に「おいしい、おいしい」と頬張るライスさん、ロブロイさんも笑顔で味噌汁を啜っている。
     ウインディさんは誰が作ったとは言わなかった。

  • 88二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 15:32:55

    このレスは削除されています

  • 89イッチ23/06/18(日) 15:35:56

     不安げに二人を見つめるターボさん。
     ライスさんが味噌汁を啜り、御飯を食べる手が早くなるのを見て、ホッと安堵の息を零す。

     こういうのは、私だと出来ない。
     ソファーで洗濯物を畳みながら二人が作っている様を見ていた私は、それだけで御飯が美味しく感じてしまう。どうしても気遣いが出てしまう。
     それがターボさんが望んでいることではないことも知っていた。

     努力を誉めて欲しい訳じゃない。
     結果が欲しいのは、オープンクラスまで勝ち抜いた全てのウマ娘が少なからず持っている感情だ。
     御飯を食べることが大好きなライスさんだから美味しいってのが全身から伝わってくる。

     私は、余計な事を考えず、
     ターボさんがこの家で初めて作った料理を噛み締めながら味わった。
     今後、この味がどのように変化していくのか楽しみだった。

     部屋に戻る、戻った足で机に腰を下ろした。
     プリント用紙に二冊目の即売会用同人誌のネーム原稿を書き殴る。

  • 90イッチ23/06/18(日) 15:36:08

     たぶん、今、私が書き始めた物語に人気は出ない。
     それでも構わない。私はプロの漫画家じゃないのだ。
     私は今、私が感じている想いを形にしておきたかった、それだけだ。

     ひとつ屋根の下で繰り広げられるウマ娘ちゃんの共同生活。
     ウマッターの投稿でも、よく見られる日常もの。
     トゥインクル・シリーズを卒業したウマ娘の、今後を描いた物語。
     現役時代とは、印象が変わっているのが描きやすかった。

     基本は4コマ漫画。
     だけど1ページ漫画だったり、複数ページを使ってみたり、
     特に形式を固めず、自由に書くことに決めた。
     どうせ、同人なのだ。
     自分の書きたいようにやれば良い。

     サークルを宣伝のつもりでウマッターでも投稿した。
     そして、これが思いの外、バズってしまうことになったのは、
     この時はまだ考えもしていなかった。

     余談だが、ウララさんが帰る日は少し伸びてしまった。

  • 91イッチ23/06/18(日) 15:37:16

    とりあえず、ここまで。
    昨日は投稿できず、申し訳ありませんでした。
    筆が全然、進まなかった。

  • 92二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 16:49:28

    今回も楽しく読ませていただきましたわ!
    厳しくも面倒見がいいウインディさんや食いしん坊なライスさんたちの下でターボさんがどう成長していくのか期待が高まりますわ!

  • 93イッチ23/06/18(日) 17:12:32

     私、ツインターボに与えられた部屋は二階の部屋よりも少し広かった。
     用意された椅子と机、腰を下ろして実家から持ち出した高性能なノートパソコンを開いた。
     そしてデスクトップにあるアイコンをダブルクリックする。
     親の顔よりもよく見てる気がするゲーム画面だ。
     リビングの隣の部屋なので、少し落ち着かないのだけど、
     ウマ娘用のヘッドホンを装着する事で誤魔化す。

     最近、ゲームセンターに行く機会が激減した。
     アルバイトで心身共に疲れ果てた身体では、ストレス発散する元気すら湧かず、アルバイトを辞めた後では、ゲームセンターに行くと言いづらくて、部屋に引き籠るようになってしまった。部屋から出るのも億劫になり始めて、ゲームにも身が入らず、楽しかった動画作成も作れなくなった。
     起きて寝るだけの毎日が続くようになる。

     最後にアルバイトを辞めて、一ヶ月も経ったある日の事だ。
     かつて同じチームだったイクノディクタスが部屋に押し入ってきた。
     スーツを着ていた。
     今の彼女は大学生のはずで、就職活動でもしていたのかも知れない。

     ボサボサの髪になった私を見たイクノは一瞬、泣きそうに顔を歪ませる。

     一度、目を伏せた後、彼女は意を決した顔で私を部屋から引っ張り出した。
     そのまま浴室に叩き込まれる。スーツの上着を脱いだ彼女は、抵抗する私の衣服をひっぺ剥がして、わしゃわしゃと油ぎった髪を洗い始める。一度だけじゃ泡も立たなくて、三度も髪を洗い直し、身体も洗い始めた。有無も言わさぬ気迫で怖気ついてしまったけど、前まで洗われるとなればもう恥ずかしかったからタオルを奪い取り、自分で洗うと言って彼女を浴室から追い出した。
     風呂を上がるとジャージを着たイクノがバスタオルを持って待ち構えていた。

  • 94イッチ23/06/18(日) 17:12:43

    「もう逃げないって」
    「いいえ、信用なりません」

     逃げは貴方の真骨頂ですから、と続ける彼女に、もう抵抗する気力も失せた。
     ちなみにジャージは、私がトレセン学園で使っていたものでサイズが合っておらず、腕と足が出てしまっていた。観念した私は彼女に押されてリビングまで移動し、髪を乾かしながらお母さんと会話をしていた。会話の内容は、ほとんど覚えていない。
     ほとんどイクノばかりが喋っていた。
     最後には「よろしくお願いします」とお母さんがイクノに頭を下げていた。

     そこから先は、話が早かった。
     その場でスマホを取り出したイクノが誰かと連絡を取り、何度か掛け直していた。
    「ありがとうございます、近い内に伺わせて貰います」とスマホ越しに頭を下げる。
     二日後、またイクノが部屋に押しかけて来た。

    「貴方を預かってくれる人が見つかりました」

     部屋の準備が必要との事で数週間後に実家を出ることが決まった。
     そして一ヶ月も経たない内に今、私が居る家に移り住んだ。
     名目としては花嫁修業。まあ結婚する相手なんて居ないのだけど。
     結婚したいとも思わなかった。
     気乗りしない引っ越し、家主はシンコウウインディ。
     トレセン学園の時に知る彼女とは、まるで違う落ち着いた雰囲気だった。

     イクノディクタスは学生時代の時から年上の余裕を持っていた。
     アパレル関係の職に就いたマチカネタンホイザも落ち着きを持つようになっており、
     商店街で小料理屋の看板娘として知られるナイスネイチャには大人の魅力があった。

  • 95イッチ23/06/18(日) 17:13:31

     誰も彼もが変わっており、皆、成長して大人になっている。

     変わらないのは自分だけだった。
     変わろうとしなかった訳じゃない、変われなかった。
     何をしても上手くいかない。
     自分だけが皆から置いていかれていて、
     顔を合わせるのも嫌になった。

     部屋に籠り続けるのは、居心地が悪くて窮屈だ。
     息が詰まりそうになる。
     それでも、誰かと顔を合わせるよりかは、ずっと気が楽だった。
     変わらなきゃいけないのは分かっていた。

     どう変われば良いのか分からない。
     これから先の未来、どうなるかなんて分からない。
     ただ漠然と、今のままでは、駄目で、
     取り返しが付かなくなる事だけ分かっていた。
     いずれ、行き詰まる。生きられなくなる。

     やりたいこともよく分からない。どうなりたいのかも分からない。

     トレセン学園で我武者羅に走るだけだった毎日、
     確かに私の心にあった熱い何かは、
     もう跡形もなく、消えてしまっていた。

     これから先もずっと、
     こんな感じで生き続けるのは、
     きっと辛いだろうなって、
     そう思ったから私は、抵抗はしなかった。
     イクノに言われるがまま、この家まで足を運んだ。

  • 96イッチ23/06/18(日) 17:15:48

     今はまだ、何をしたいのかも分からないので、
     ウインディに言われる事を、ただただ熟し続けている。
     此処で逃げてしまったら、
     もう後がないことは、なんとなく察していたから、
     最低限、必要なことは熟そうと思った。

     ゲームをするのは久しぶり、動画投稿なんて今はもうしていなかった。

     変わりたい、変わらなきゃいけない。
     もう昔みたいに我武者羅に走り続けているだけじゃ駄目だ。
     鈍った腕ではハイスコアも出せなくなっている
     溜息を零して、ゲームを切る。
     最近は、何をしていても面白くない。
     前は、これの何が面白いと思っていたのかも分からなっていた。

     昔のままではいられない。
     何かをしなくちゃいけないはずで、でも、何をしたら良いのか分からない。
     悪いこと探しをすれば、全てが駄目で、
     存在そのものがいけないんじゃないかって思えてくる。
     流石にそれは卑屈なだけだ。
     だけど、良い所なんて、分からないもん。

     生きるのに必死だった、生き続けるだけで精一杯だった。

     私の作った味噌汁を、
     野菜を切っただけだけど、
     美味しいって食べてくれたライスの顔を見た時、
     悪い気はしなかった。

  • 97イッチ23/06/18(日) 17:18:37

     今は家事を頑張ろうと思う。
     家事を頑張れば、たぶん、此処での居場所になる。
     迷惑を掛けているだけじゃ駄目だ。
     他の人が家事をしてる時、もっと手伝ってみよう。
     そうすれば、何かが変わるかも知れない。
     そう信じるしかない。

     今を変えたければ、自分から動かないといけない。
     嫌な事があるならば、自分で変えるんだ。
     それだけは、何故か、はっきりと分かっている。

     私に備わった2つのエンジンはまだ、
     あべこべの方向に向いていた。

  • 98イッチ23/06/18(日) 17:19:41

    ここまで。今日の分は、これでおしまいのはずです。

  • 99二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 17:29:41

    はーーーーーーッ
    はーーーーーーッ
    いいぞ 興奮してきたな
    イッチの過去作を教えてくれ

  • 100二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 18:08:17

    >>85の「社長や個人事業主はニートに当てはまる」というのは定義の上でも間違い。

    一般には会社の社長やお店の店主ばかりが個人事業主だと思われているが、もちろんそれ以外の職業の農家や漁師も個人事業主であり、確定申告の義務もある。あとは個人経営の牧場とか。

    さすがにネタだろうが、そういった一次産業で皆の食生活を支えている方々をニートに含めるのは止めて差し上げろ。

    いや、もちろんそれ以外の個人事業主でもニートに含めるのは間違いだし、止めておかなきゃならんのだが。


    どうでもいい事だが、個人的にニートの定義に「自分で事業を起こしている人」という視点が抜け落ちている部分に「人は誰かに雇われてお金を貰うのが普通の生き方」みたいな近代資本主義以降の認知の歪みが反映されている気がしていて闇の深さを感じる。

  • 101二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:16:35

    いつも走りに全力だったターボはそこで燃料を使い切っちゃったんだな
    イクノがターボを信じ続けてるの個人的にすごく好き

  • 102二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:58:50

    >>100

    そもそもニート問題って、発祥元のイギリスでは「イギリス経済悪すぎ、失業率高すぎ、若年者の働き口がなさすぎ」⇒「若者が働ける職場がないのは会社が雇用を創出しないのが悪いからだ」という問題なので、「ニートの定義から事業主が見落とされている」のではなく、「お前たち事業主はもっと若年者雇用を増やして、ニート問題解決に努力しろよ!」と言われる側の立場だからなんだ。

    そういう意味で、事業主はどうやってもニートには当てはまらないし、むしろ逆にそれを解決する責任と義務を負っている立場なんだ。


    この流れでいえば、そういう元々の意味で「働こうとしたのに働き口が見つからない、就職できない」というツインターボのケースは、本来の意味でのニート問題なんだ。

  • 103イッチ23/06/18(日) 21:58:41

    作品に関係のない話題を続けてると、今度から気軽に削除しますね

  • 104イッチ23/06/18(日) 22:31:55
  • 105二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 00:51:18

    >>98

    ああっ続きが楽しみでなりませんわ!

    イクノさん……嘗ての仲間のため一肌脱ぎ魔性を超え凛とした立ち振る舞いで……!もう、もう……!

  • 106イッチ23/06/19(月) 07:06:37

    月曜日は深夜まで戻れず、
    私の携帯端末ではIP規制に掛かる事が多い為、
    適当に保守をしていただけると幸いです。

  • 107二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 13:40:29

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 18:40:27

    続き期待してるので保守

  • 109二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 00:29:44

    おつほしゅ

  • 110イッチ23/06/20(火) 00:35:10

    あったけえ、保守があったけえ。ありがとございます。
    明日からまた気軽に頑張ります。

  • 111二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 06:46:14

    朝ほしゅ

  • 112二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 12:21:19

    昼ほしゅ

  • 113二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 20:33:37

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 20:50:23

    このレスは削除されています

  • 115イッチ23/06/21(水) 04:03:57

     今日の朝食は、朝はパン派のライスシャワーが作ってくれた食パンピザだ。
     食パンの上にケチャップを塗り、薄く切ったソーセージを乗せて、更にチーズを重ねたお手軽料理。事のついでに珈琲も淹れてくれた。それを受け取ったウインディさんは一口飲んだ後で「今日はカフェオレの気分なのだ」と牛乳を淹れる。美味しくない訳じゃなかったのだけど、ウインディさんが毎日淹れてくれる珈琲と比べるとやや劣る。
     だけど、ライスさんが淹れてくれた珈琲というだけで特別な美味しさを感じる事ができた。
     ウインディさんの洗練された味とは、違う味わい。
     これがライスさんの味なのだ、うぇひひ……

     ひと足早く朝食を食べ終えたウインディさんがテレビを付ける。
     チャンネルを幾つか回せば、桃色の髪をしたハルウララの顔が映った。現役時代に一世風靡を起こしたハルウララ。その流行りはトレセン学園を卒業した後も続いており、トゥインクル・シリーズという縛りもなくなった今は精力的にテレビへ顔を出している。
     そんな彼女の何時も浮かぬ顔で眺めているのが、ウインディさんだった。

     テレビ画面に映るのは学園時代と変わらない自然体の姿だ。
     レースに走れて楽しいだけの時期を乗り越えて、ライブの舞台では真面目に振舞うし、ドラマの中では真剣に取り組んでいたりもする。そんな中でバラエティ番組や地元のリポートなんかでは自然な笑顔で視聴者を魅了していった。歌手としての実績から歌番組にも出演し、トゥインクル・シリーズでは三桁以上を走り抜いた実績から解説に呼ばれる事も多い。特に地方のレース場からの要望が多いようだった。最近では、ドラマの準レギュラーとしても出演しており、仕事を選ばず、東奔西走と飛行機を駆使してあちこちに飛び回っていた。
     これで疲れた顔のひとつも見せないのだから凄いものである。

    「……仕事のさせ過ぎなのだ、後で言ってやらないといけないのだ」

     だけど、それは彼女と深い付き合いのない私だから思う事なのかも知れない。

  • 116イッチ23/06/21(水) 04:04:21

    「あ、あのね、デジタルさん……」

     トントンと肩を叩かれる。
     後ろを振り返れば、頬を赤らめたライスさんが身体をもじもじと動かしていた。
     彼女は今日、午後からの授業で、午前中は暇をしている。
     私は、目を伏せて、大きく深呼吸をした。

    「……それでは部屋に行きましょうか」
    「うん、ごめんね」

     ライスさんの促されるまま、いそいそと彼女の部屋に上がった。
     カチッと後ろ手に鍵を閉められる。彼女がスケッチブックと鉛筆を横で、私は衣服を脱いだ。下着までは脱がない。彼女のベッドの上に座った後に「今日は、足を組んでもらえるかな?」と指示が出たので言われるがままに足を組んだ。他にもベッドに寝転んでみたり、足をパタパタしてみたりとか色々なポーズを指示される。
     この時のライスさんの目は少し怖い。
     ジッとしているのは30分程度で、絵の当たりを取るだけで解放されるのだけど、彼女の現役時代にミホノブルボンやメジロマックイーンを相手取った時と同じ目で肉体の隅々まで見つめてくる。ただひたすらに無言でカリカリと鉛筆を動かし続けるのだ。
     モデルが終わった後、肉体の質感を確かめる為にマッサージが行われる。

     結構、際どいところまで触って来るというか。
     お尻はがっつりと掴んでくるし「ごめんね、ごめんね」と言いながら息を荒くするのは流石のデジたんも少し勘弁願いたい。とりあえず、入念な肌の手入れと軽い筋トレはするようになった。
     ロブロイさんにも同じことを頼んでいるのだろう?
     訊いてみると「そんな恥ずかしいこと言えないよ~!」と真っ赤な顔で否定した。

  • 117イッチ23/06/21(水) 04:04:43

    「私なら大丈夫なんです?」
    「デジタルさんは、その……もう知られちゃってるから……」
    「ああ、まあ、そうですね」

     部屋いっぱいに広げられたデジたんの絵を思い出す。
     あれは流石に恥ずかしいっていうか、裸体のスケッチまであるのは驚いた。
     無修正で絶対に世に出してはいけないものだ。
     肉体の質感までしっかりと忠実に再現されているので、私が表で出歩けなくなる。
     有名なAV女優の人って普段、どういう気持ちで生きてるのだろうか。
     その内、気にならなくなるものなのだろうか。

    「絶対に表に出さないでくださいね?」
    「うん、大丈夫、絶対だよ!」

     ちゃんと大切に保管してあるから、と両手を握り締める彼女に一抹の不安を感じ取った。

     何処で道を間違えてしまったのか、
     マッサージを受けたはずなのに心身共に疲弊した私は、自室に戻ってiPadを立ち上げる。
     そこに新しいメールが届いていたので確認する。

     内容は、次回の即売会に当選した旨が書かれてあった。

     テイエムオペラオーとメイショウドトウの同人誌はもう描き上げてある。
     日常ものの方は十分な弾数を用意できたので、あとは書き下ろしで良い感じにまとめ上げるだけだ。
     即売会までの日取りを確認した私は「これもう一冊、書けそうですね?」という計算結果を弾き出す。
     なら、書いちゃいましょうか。と軽い気持ちで筆を走らせる。

  • 118イッチ23/06/21(水) 04:04:56

     これが地獄の始まりだった事を、
     この時のデジたんはまだ知らなかったのです。

     ライスさんをモデルにしたグルメ飯漫画。
     美味しく食べる彼女の姿を漫画に落とし込みたかっただけなのに、
     美味しい料理の絵を描く事が思っていた以上に難しくて、苦戦を強いられる。
     というよりも、ライスさんが美味しく食べる姿に、
     料理の絵が見劣りしてしまうのだ。

     今日までウマ娘ちゃんをメインに描き続けて来たツケが今になって回って来た。
     頭を抱える私なんて気に留めず、時は流れ過ぎる。
     日めくりのカレンダーの日付が捲られる度に、
     絞首台への階段を一歩、踏み進むような錯覚に襲われる。

  • 119イッチ23/06/21(水) 04:05:57

    とりあえず、ここまで。
    火曜日は物語を書く気力が足りていませんでした。
    また頑張ります。

  • 120二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 11:55:35

    保守
    体調に気を付けてくれ

  • 121二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 12:20:29

    >>119

    ライスさん……大人になられて……!

    大人の階段と絞首刑の階段がクロスする様が自然に描かれて美しいですわーっ!

  • 122二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 22:14:21

    つまんけ

  • 123二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 03:29:25

    保守らいふ!

  • 124二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 11:33:13

    外でたら書き込めないのでとりあえず保守

  • 125イッチ23/06/22(木) 16:40:36

     晩御飯、今日の食卓には唐揚げがある。
     シンコウウインディの話によるとツインターボの希望であり、野菜を切るだけだった彼女が初めて作った手料理でもあった。エプロン姿のターボさんが小麦粉に塗した鶏肉を、意気揚々と油でカラッと揚げる姿はリビングのソファーで確認済み、その後に跳ねた油の処理などで意気消沈している姿も確と眼に収めてある。
     その時のウマ耳を垂らした姿を思い出し、御馳走様でした。と食べる前に告げる。

    「えっ?」と振り返るターボさんに「気にしたら負けなのだ」とウインディさんが窘めた。
     作り過ぎかと思う程、大皿に積み上げられた唐揚げの山。それを淀みなく箸で摘まんで口に運び続けるのは、
    左手に山盛りの御飯を持ったライスシャワーだ。今にも泣きそうな顔で「美味しい、美味しい」と呟きながら唐揚げを食べ続けている。余りにも食べ過ぎるので、彼女だけ支払う食費が倍になった。
     まあ実際、唐揚げはカリッと揚げられていて美味しかった。
     レシピはウインディさんが用意したものなので、レシピ通りに作れば、美味しくなるのも当然と云えば当然ではある。しかし下処理から丁寧に時間をかけて調理をしてくれたのはターボさん。料理は愛情、美味しく食べて欲しいという想いが丁寧な下処理へと繋がり、結果、唐揚げを美味しく揚げることに繋がる。
     だから、今、味わっている美味しいが当然のものだとは思わない。
     自炊に慣れた者が料理を作ると、どうしても時短に走る。自分さえ満足すれば良いのだから、省ける手間は惜しみたいと考えるのが普通だ。
     レシピ通りの味というのは却って、料理に慣れた私達では難しかった。

  • 126イッチ23/06/22(木) 16:40:56

    「美味しいです」

     忌憚のない感想を述べるもターボさんは浮かない顔をしていた。

    「料理って自分で作るよりも、誰かに作って貰う方が美味しいもん……」

     ターボさんも世界の真理に気付かれてしまったようだ。
     御飯は基本、他の誰かに作って貰う方が美味しい。そして自分ではなくて他人の奢りで食べる御飯も、美味しいと感じる気持ちは理解できた。デジたんは博打とかはしないのですが、ナカヤマフェスタなどが偶に他の人の奢りで食べている姿を見ると美味しそうに見える。
     夕御飯を食べ終えて、魔法の粉で固めた油を見て驚きに声を上げるターボさんをしっかりと見収めてからライスさんに声をかける。満腹で、お腹を膨らませたライスさんが不思議そうに私を見上げた。
     そんな彼女を見て、気後れする私。でも、と意を決して、お願いを口にする。
     これはもう、私一人では、解決できない問題だ。

    「ライスさんは料理の絵って描けますか?」
    「どういう意味?」

     今まで見てきた彼女のスケッチする腕があれば、料理の絵を描くだけならば簡単にできる。
     ここで「どういう意味」と訊いてきたのは、私が「どんな絵を求めているのか」という事に他ならない。他のウマ娘ちゃんの目もある場所で「同人誌の為」と答える訳にもいかない。とりあえず、私は、彼女を自分の部屋まで案内し、悩みを打ち明ける事にした。
     その際に「絵を見せてくれる?」と言われたので、タブレットに入った同人誌のデータを見せた。
     真剣な眼差しでまじまじと私が描いた料理の絵を見つめる。まだ台詞も入れていない書きかけの同人誌、その1コマだとしても目の前で見られるのは恥ずかしかった。
     だから彼女から目を逸らし、彼女が口を開くのをじっと待った。

  • 127イッチ23/06/22(木) 16:41:42

    「ねえ、これなんだけど……」

     話しかけられて、声を上げる。

    「えっとね……」

     何故か顔を赤くして、気恥ずかしそうにもじもじと体を動かす。言いにくそうに視線を左右に揺らし、私を顔を合わせないまま伝える。

    「……これって、私……だよね?」

     ライスさんがタブレットで自分の顔を隠すように、そおっと画面が私に見えるようにタブレットを持ち上げる。画面には料理の絵を描いた1コマではなくて、同じフォルダに入れてあった同人誌の1ページがあった。
     顔を背けていたので気付かなかったけど、指先で別のページを捲っていたようだ。
     見た目は変えてある。でも、見る人が見れば、誰がモデルになっているかなんてすぐに分かる。美味しくご飯を食べるライスさんを描いているのだ。本人が見れば、心当たりがない方がおかしかった。

     デジたんは何も語らず、近場にあったタオルで輪を作る。
     そこにタオルを通して結び付けて、紐にする。輪を首に通して、タオルの先端を括れるものがないかと探した。
     ライスさんは何かを察したのか、サアッと顔を青くなった。

    「だ、駄目だよ! デジタルさん!」
    「知られてはいけないことを知られてしまいました! デジたんはもう生きていけません!」
    「そんなことないよ! ちゃんと可愛く描いてくれてたし……」
    「違います、違うんです! デジたんは、やってはいけない事をしていたんです!!」
    「と、とりあえず、抑えなきゃ……!」

  • 128イッチ23/06/22(木) 16:42:27

     パニックに陥った私をライスさんがベッドに押し倒す。
     それでも暴れる私を柔道の縦四方固めに抑え込んだ。いや、なんで、そんな技を咄嗟に出せるんですかっていうか。ちょっと距離が近過ぎます。胸に胸が当たっている、ライスさんの長髪が目に掛かって、前が見えない。気持ちのいい匂いがします! どうにかここから抜け出さなければ、頭がおかしくなってしまいます! と足をバタバタと動かした。
     小さな身体に大きな力、完全に極まったライスさんの拘束から抜け出すことは敵わなかった。

    「大丈夫ですか!?」

     ガチャリ、と扉が開け放たれた。
     意識が若干、朦朧とし始めていて声の主が誰かは分からなかった。
    「あっ」と拘束が緩んだ。
     でも、少し前まで完全に首が極まっていたので意識が朦朧としていた。
     文字通り、虫の息で、コヒューと息が漏れる。

    「違うよ!?」
    「違うって、デジタルさんが虫の息なのですが!?」
    「やったのはライスだけど……!」

     ライスさんの狼狽える声に、誤解を解かねば。と本能が肉体を突き動かした。

    「ラ、ライスさんの言う通りです……」

     絶え絶えになった息で必死に声を出す。
     長くは喋れない、必要なことを必要最低限で言わなきゃいけない。
     言葉を選び、端的に答える。

  • 129イッチ23/06/22(木) 16:42:58

    「私の……せいなんです……取り乱したから……」

     霞む視界にロブロイさんの姿を見た。
     まだ怪訝な顔で私達を眺めている。
     ちゃんと、伝えなきゃいけない。

    「私は、大丈夫です……だって、デジたんにとって、御褒美ですから……」
    「え?」

     ロブロイさんの瞳から疑いの色が消えた。
     もう、これで大丈夫ですね。ライスさんを悪役にせずに済みました。
     これで安心して、デジたんは眠る事ができます。

    「ライスさん、そういう趣味だったんですね?」
    「違うよ!?」
    「次からは周りの目も気にしてください」
    「だから違うよ!?」

     デジタルさん、ちゃんと説明して!
     身体を揺さぶられるも、デジたんはもう限界なのです。
     すやあ、と意識を手放して、安眠を得た。

  • 130イッチ23/06/22(木) 16:43:14

    とりあえず、ここまで。

  • 131二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 16:48:21

    うおおお続き来た!

  • 132二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 17:01:37

    裸の付き合い(ヌードデッサン)もしてるしそらもう…ね

  • 133二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 22:20:32

    追いついた。保守

  • 134二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 07:52:40

    朝保守

  • 135イッチ23/06/23(金) 16:36:45

    でじらい

  • 136二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 01:06:14

    保守( ˘ω˘)スヤァ...

  • 137二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 11:53:52

    昼保守

  • 138二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 12:27:43

    それぞれの髪型が大人になって変わってるシチュエーションすごく好みなので描写されてないターボなどの髪型もまとめて教えてほしいです…
    変わってなくてもそれはそれで嬉しい

  • 139二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 15:19:43

    このレスは削除されています

  • 140イッチ23/06/24(土) 15:28:52

    アグネスデジタル  体型→ほんのり背が高くなった。 髪型→普通のロング。自室に限り、作業時に鉢巻きっぽいので前髪を上げたりしてる。 装飾→作業時に眼鏡
    シンコウウインディ 体型→変化なし 髪型→変化なし 装飾→作業時に眼鏡
    ライスシャワー   体型→心持ち背が高くなった。 髪型→変化なし、作業時もそのまま。 装飾→作業時に眼鏡
    ゼンノロブロイ   体型→背の代わりに胸が大きくなってる。 髪型→スパクリと同じ、バイクに乗らない時は気分で変えたりする。 装飾→変化なし
    ツインターボ    体型→やつれ気味。心持ち胸が大きくなった 髪型→普通のロング。ちゃんと手入れをしないので、手入れするついでに編み込みとかで遊ばれたりする。 装飾→変化なし

    眼鏡が多い……!
    インドア派が多いので、髪型に拘る子は少ないです。
    でも他人の髪を弄るのは楽しいようで、主にターボが被害に被っています。
    朝は寝ぐせ、夜は生乾きを乾かすついでに。

    デジタルは相手の気分を害さない程度にしっかりしてるのと、
    ライスは最低限の手入れで、良い髪質を維持できるので遊び相手になりにくい。

  • 141二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 16:48:20

    見た目はそんなに変わってないのに雰囲気がすっかり大人なウインディちゃん……凄くいいですありがとうございます

  • 142イッチ23/06/24(土) 17:35:20

     ライスさんの描き出す絵画は写生に近いと云えた。
     しかし彼女が表現しようとするのは色彩だけに留まらず、嗅覚や味覚から得た情報すらも絵画の中に収めようとしている。木炭スケッチも最初はモノクロの写真に過ぎなかったものが、最近になって妙に艶めかしい裸体を書き出すようになっており、見ているだけで気恥ずかしくなる。
     そんな彼女が描く料理の絵は、正に食欲を刺激するものに仕上げられていた。
     熱が分かる、出来立てなのが分かる。どんな臭いがするのか分かる。実物を忠実に再現した食品サンプルのような出来ではなくて、スケッチブックに本物が描かれていた。私のスケッチを描く時に、どうしてライスさんが私の肉体に手を触れたり、直接、匂いを嗅ごうとするのかよく分かる。視覚だけではない五感で感じ取った情報を絵に落とし込むことが大切なのかも知れない。
     ……これを受け入れてはいけない。首を振って、理解を示した心を戒める。

    「ありがとうございます」

     ともあれ、これで三冊目を完成させる事が出来る。
     あとは名刺も用意しておくべきでしょうか? 停滞していた事柄を乗り越えて、着実に進みつつある進捗に安堵の息を零す。後は時間を掛ければ良いだけであり、時間ならば幾らでも用意することができた。ライスさんに頭を下げて、彼女が一時間で描き上げた木炭スケッチを元に早速、執筆作業に戻ろうとベッドを立った。
     しかし「待って」と呼び止められる。

    「さっきの漫画ね、何処に出すの?」

     完成したのが見てみたいなあ、と微笑む彼女に私は冷や汗を垂らす。
     即売会のことを教えても良いものか、それとも隠すべきか。
     隠すのも問題もある。この漫画のモデルがライスさんだと知られてしまっている事だ。

     デジたんは今、ライスさんの運命の岐路を左右する立場に立たされていた。

  • 143イッチ23/06/24(土) 17:35:41

    短いですが、続きはまたあとで執筆します。

  • 144二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 23:30:04

    保守

  • 145二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 10:31:52

    保守でじらいす!

  • 146二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 13:04:20

    保守

  • 147イッチ23/06/25(日) 19:50:02

     料理の神髄は下拵えにある。
     肉類は筋を切った方が柔らかくて美味しいし、ちょっとした切れ込みを入れるだけでも味の浸透具合が変わって来る。カレーやシチューに使う具材は軽く炒めて味を付けた方が深みが増した。美味しい料理の作り方を調べれば、材料の種類の分だけ下拵えのやり方がある。料理は知識と辛抱強さ、後は慣れである。下拵えのやり方を覚えた分だけ、料理は美味くなるのだと私は考えた。
     幸いにも細々とした作業は苦手じゃない。
     そりゃやるのは面倒なのだけど、ちょっと初めてみれば、生来の凝り性もあって気にならなくなる。そういう意味では料理作りは、意外と私の性にあっていたと云える。
     好きなのは作るだけで、後片付けが面倒なのだけど。

     掃除と洗濯は苦手だ、単調な作業が退屈だった。

     私の引き取ったシンコウウインディは、私なんかよりも料理が上手かった。
     下拵えの仕方を幅広く知っているし、包丁捌きも私の数倍の速度で切り分ける。特に千切りの時が顕著であり、私が真似したら指を切ってしまいそうな速度でトントンと小気味良く刻むのだ。細さも均一、まるで機械のような精密さだ。ウインディは、慣れだと言っていた。実際、手元をほとんど見ておらず、リビングに付けたテレビを眺めながら野菜を切り分けている事も多々ある。
     そんなウインディの料理は、一言で言ってしまえば雑だった。
     私が彼女から買い与えられた料理本の調味料で頭を悩ませる横で、味醂がない。調理酒がないといった時でも「まあ、明日買いに行くのだ」と調味料をなくすことも多く、使い切ってしまいたいという理由で具材を足したり、引いたりと感覚でやってしまっていた。
     そもそも彼女は、あまり調味料を多く使いたがらなかった。

  • 148イッチ23/06/25(日) 19:50:18

    「調味料なんてのは塩胡椒に白出汁と出汁醤油があれば、それなりに美味しいものが出来るのだ」

     とは彼女の言、凝った料理を彼女は得意とはしていなかった。
     私が味醂に調理酒、砂糖と真剣に計量する横でパッパと味見もせずに振りかける。洋風にしたければ、オリーブオイルにバターを敷いて、塩胡椒と振りかければ十分。お好みで胡椒とかバジルを振りかければ良い。と彼女は告げる。本当に雑だった。それでも何故か彼女の方が美味しいのだ。私が作る料理が固くなりがちなのに対して、彼女が作る料理は柔らかくて、ほっかほかで美味しかった。
     彼女は常に複数の料理を同時に作る。
     料理を焼いたり、蒸らしている間に片手間でおかずを一個、増やしてしまう事もあった。
     だけど、彼女の料理を観察している内に、彼女が無意識でやっている事もある。煮物を作る時に落とし蓋で煮た後、他の料理を作っている間に冷蔵庫で冷ましてしまうのも、そのひとつだった。聞けば「冷やせば味が染みるのだ?」と首を傾げており「実際、何処まで効果あるのか分からないのだ」と言っていた。
     でも、それを教えられていなかった私が作る煮物よりも、彼女が作る煮物の方が遥かに美味しかった。

     私が作る目玉焼きは裏面が焦げる事が多い。
     そのことをウインディは特に何も言わないのだけど、彼女が作る目玉焼きは焦げが少なかった。聞けば、焼いて蒸すだけだと彼女は告げる。それでよく観察してみると彼女は蓋をして、蒸す時に少量の水を入れていた。話を聞いてみると「……蒸すなら水分が必要だからじゃないか?」とよく分かっていない風に答えた。
     ここまで来て、私が思ったのは、見て盗むとは、こういう事だと思った。
     口頭だけでは全てを説明する事は難しくて、言語化するにも限度がある。その不足分を補う為に、実際に見て貰うのが手っ取り早い。実際、私も音ゲーが得意なのだけど──なら実際にどうしているのかっていうと、先ずは譜面を覚えて、後は反復練習で身体に馴染ませる。挑戦を繰り返し、失敗を糧に最適化と効率化を推し進めて行けば、いずれハイスコアを叩き出すことができる。
     これの全てを口だけで説明することは不可能だった。

  • 149イッチ23/06/25(日) 19:51:58

     感覚的な美味しいのハイスコアを叩き出す。
     失敗した箇所を見直し、他のプレイヤーのやり方を見て修得する。幸いにも参考にできる人は居てくれている。アグネスデジタルもまた私よりも料理が上手い一人だ。ウインディと比較すると凝った料理が多くて、料理の仕方が丁寧だった。ただ彼女もまた感覚的に料理を作る一人、柔らかくしたり、ちょっと焦げ目を付けてみたり、濃い味、優しい味と今日、料理を食べる人に合わせている。では、具体的に何をしているのかっていうと、そこは感覚的だった。
     こういう味にしたいから、こうやった。とか、そんな話だ。

     結局、料理とは、知識である。
     知識の後に、慣れがある。どれだけ調理法を知っているかが重要だった。
     まあ慣れも知識も結局、数を熟さなければ身に付かない。
     譜面を覚えるようなものだと思って、色々な料理に挑戦する。
     料理本を睨み付けるよりも、実際にやってみる方が身に付くのも早かった。

     それに、
     音ゲーも、ある程度、配置の傾向を覚えれば、ハイスコアは難しくとも、
     初見でクリアできたりするものだ。

  • 150イッチ23/06/25(日) 19:52:17

    とりあえず、ここまで。やっとちょっと調子が出て来た。

  • 151二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 19:59:07

    待ってました~今度はターボ視点ですね!

  • 152イッチ23/06/25(日) 22:23:27

     某ビッグサイトにて、世界最大の同人誌即売会が開催される。
     壁常連の人気サークルに挟まれた今日の私は緩衝材としての役目を全うする為、壁際に配置されてしまっていた。自分が推しウマ娘ちゃん同士のカップリングに挟まれるのは解釈違いな私ですが、推しサークル様に挟まれるのは如何なものか。両隣が手持ちの同人誌を机一杯にずらりと並べる間で、私の机の上は三冊の同人誌が並ぶのみでスッカスカだ。
     一週間前に思いついたネタで書き殴ったペーパー本を合わせても四冊しかない。
     サークル側で参加してみたかったのだと気軽に応募したのだが、それがまさか壁際の配置になるとは思ってもいなかった。開催直前の現在、ある意味でレースよりも悲惨な状況に胃がキリキリと痛んでいる。推しウマ娘ちゃんを押し退けて出走した秋の天皇賞の時よりも緊張しているかも知れない。
     挨拶周りに行く元気も出ず、うう、と胃の辺りを握り締める。

    「頑張ろうね、アリスさん!」

     そんな私を励ましてくれるのは、胸元でギュッと両手を握り締めた黒い長髪の小柄なウマ娘だ。
     アリスというのは私のペンネームであり、不思議の国のアリスから拝借した。何処にでもいる普通のウマ娘である私の顔を覚えている人も少ないと思うのだけど、念には念を重ねて、帽子に眼鏡を掛ける程度の変装はしてある。そして、そんな私とは裏腹に、普通にオシャレをして来たのが私の隣に座るライスシャワー。もとい、雑穀さんである。私が描いたライスシャワー本の奥付にアシスタントして彼女の名前を併記する時に彼女が考えたペンネームだった。何故、雑穀なのか名前の由来は分からない。分からないままで居た方が良い気がする。ちなみに「雑穀さん」までペンネームなので敬称を付ける時は、雑穀さんさんになる。ややこしいので雑穀さんと呼んでいる。
     彼女からスポーツ飲料を頂いて、少しだけ口に含んだ。

  • 153イッチ23/06/25(日) 22:23:54

    「はい……まあ、頑張りましょう」

     まあ人は来ないでしょうけど、と小さく零す。
     左右が何年も前から壁を陣取る大手サークルなのに対して、私は緩衝材としての役割が期待された新興サークル。とりあえず雑穀さんに普段使いの眼鏡を掛けるように言い付けて、開催の時間を待ち続ける。ライスシャワーさん、もとい雑穀さんが売り子としてサークル参加しているのには、特に深くもない理由があった。
     あの日、あの後で、彼女が一度、連れて行って欲しい。と言ったからだ。

    「それにしても……」

     と彼女が机の上に並べた冊子を前に口にする。

    「こうやってみると結構な量だね」

     一冊で五十部、ペーパー誌を合わせると計二百部にもなる。

    「ちょっと掛かってしまったようです」

     私が苦笑すれば「頑張ろうね!」と彼女がふんすと鼻息を立てた。
     半分も売り切れば、御の字だと思っている。



     年に二度、開催される世界最大規模の同人イベント。
     有明夏の陣とは別に称されていない戦場の一角にて私、どぼめじろうは陣を張っていた。
     サークル側として参加するのは、三度目となる。濃密な描写を売りにした純愛トレウマ本も三冊目、最初に刷った五十部の同人誌も一度目の参加で二十部。二回目で十六部が売れて、今回で売り切れる算段だ。……正直、売り上げは芳しくないと思っている。ネット上での投稿も頻繁に行っているが、あまりウケが良くないのか、SNSのフォロワー数は三桁台で伸び悩んでいる。
     まあ確かにちょっと、恋愛要素の癖が強い自覚はあった。
     絵も少女漫画がベースなので、とっつきにくい自覚もある。もっとウケの良い内容、もっとウケの良い画風。出来ないことはない、出来ないことはないが、ウケに寄せれば寄せるだけ、私が考える面白いから遠ざかっていく気がして、一歩が踏み出せなかった。
     その一歩が踏み出せないから、いまいち伸び悩んでいるのだから自業自得だ。

  • 154イッチ23/06/25(日) 22:24:51

    「あっちの方でライスシャワーのコスプレをしてた子、可愛かったな」

     ふと隣の席で並ぶ男性から零れた、此処では聞き慣れない名前に耳を傾ける。

    「……あれってコスプレなのか?」
    「コスプレだろ?」
    「いや、コスプレって普通、勝負服を着るものじゃないか? 眼鏡も掛けていたし……」
    「金がなかったんだろ。結構な部数を刷ってたようだしな」
    「そうかな? そうかも……」

     ライスシャワー? あのお米が此処に居るだって?
     は、冗談を。マックイーンが同人イベントに参加しているくらいに不釣り合いな……いや、あのゴールドシップと一緒の時に人参の叩き売りをしてる姿なら想像できる。というか野球中継の時に映り込んでいる姿が定期的にネット上にアップロードされているし、応援する時の声が入っている時もあった。でもまあ、あのお米がこんな場所に来るはずもない。
     ライスシャワーは、ああ見えて人気がある。
     特に小柄で引っ込み思案なウマ娘からの人気が根強くて、同世代最強のミホノブルボンと歴代最強ステイヤーの一人に数えられるメジロマックイーンに打ち勝った姿は後になって正当な評価を受けるようになった。レコードブレイカーの悪名も今では鳴りを潜めており、数年前の映像を観た今の世代のウマ娘が彼女に勇気付けられていた。
     だから、彼女のコスプレをする子が居るのは不思議ではなかった。

    「~♪」

     そんな私の目の前を横切るお米さまの姿があった。

  • 155イッチ23/06/25(日) 22:25:11

     お米さまは、何処かのサークルで買った同人誌を大事そうに抱えながら鼻歌交じりに島巡りをしている。
     いや待って、ちょっと待って、なんで此処にいるの?
     受け入れがたい現実を前に、暫し呆然としているとお米と視線が合ってしまった。
     彼女は満面の笑顔を浮かべながらトテトテと歩み寄って来る。

    「ドーベルさ……」
    「どぼめじろう!!」

     思わず、大声で遮ってしまった。
     私の背後で顔を真っ赤にしながら私の本を読んでいたライアンが私の声にビクリを身を強張らせる。
     彼女は売り子である。卒業後、同人誌に嵌ってしまった哀れな姉だ。
     私も日との事は言えないけど、兎も角、今はお米を黙らせる事が先決である。
     お米は、私のスペースに置かれた本を見て、少し頬を赤らめていた。
     おうち帰りたくなってきた。

  • 156イッチ23/06/25(日) 22:26:27

    ここまで。

  • 157二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 22:32:26

    どぼ…どぼ…

  • 158二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 22:57:10

    これがメジロ家のクールビューティですか(白目)

  • 159二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 03:32:06

    何故どぼ先生はいつの間におセンシティブ寄りな作風の原稿を描くキャラ付けをされてしまったのか…
    その謎を解明するため我々調査隊はメジロ家の奥地へと向かった――

  • 160二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 03:40:03

    お労しやどぼ上殿…

  • 161二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 06:29:32

    自作のいかがわしい本を知り合いに見られるシチュエーションでもう一作いけるな!

  • 162イッチ23/06/26(月) 07:12:39

    月曜日は深夜まで戻れず、
    私の携帯端末ではIP規制に掛かる事が多い為、
    適当に保守をしていただけると幸いです。
    深夜の11時半頃には、戻れると思います。

  • 163二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 13:48:36

    乙です
    保守どぼどぼ

  • 164二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 21:00:15

    保守ポめぐろ

  • 165二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 01:17:27

    >>156

    日常の中に走る緊張、美味しいですわーっ!

    わ、私……いえメジロマックイーンは名優としての領分を演じているだけですわ!

    きっと……ドーベルも

  • 166二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 07:02:26

    朝の保守

  • 167二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 13:40:37

    ターボ保守するもん!

  • 168二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 21:07:06

    今夜は更新あるかな?

  • 169二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 03:38:11

    保守なのだ

  • 170二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 04:43:40

    保守ううううう

  • 171イッチ23/06/28(水) 07:38:40

     ライスシャワーは現役時代、担当トレーナーの事をお兄さまと呼んで慕っていた。
     その呼び名が認知されたのはテレビでのウマ娘番組でレースに対する意気込みを聞かれた時のことで「ライスね、頑張るよ。お兄さまっ」と前振りなく告げられた言葉から始まる。これによって心を穿たれた視聴者が多数発生し、ライスシャワーのファンの事を「お兄さま」もしくは「お姉さま」と呼ぶ風潮が出来てしまった。
     中には「ライスのお兄さまはトレーナーだけだ」と主張する強行な者も居たが、それも大感謝祭のスピーチで「今日はたくさんのお兄さまとお姉さまに応援して頂いて~~」という言葉で図らずも公式が認める形となった。エゴサーチに興味のないライスシャワーは、この事実を知らず、ただ周りを見て口から飛び出した言葉がそれだっただけの話。実際、彼女がファンの事を「お兄さま、お姉さま」と呼んだのは、二度か三度と頻度は少ない。狙っていなかったからこそ流行った呼び名である。
     そして彼女をモチーフにした二次創作では必ずと言っても良い程「お兄さま、お姉さま」と呼ぶ彼女の姿が描かれていた。

     これによって何が言いたいのかというと、
     今回、どぼめじろう先生が寄稿した同人誌はライスシャワー本であるという事だ。
     彼女はドリーム・トロフィーリーグの参加資格を有していたが、その道を進まなかった。トゥインクル・シリーズを卒業し、トレセン学園をも卒業した彼女の進路は世間に公表されておらず、メディアへの露出もなくなった事で行方知れずの扱いを受けている。
     世間的に知られていないという事は、彼女の今後の人生についてファンは想像するしかなかった。
     妄想とも呼べる彼女の人生を二次創作に落とし込む者も少なからず存在しており、今もなおウマ娘というジャンルにおける二次創作界隈でも根強い人気を保ち続けている。
     そして、その中にはトレーナーと結ばれる話も少なくなかった。

  • 172イッチ23/06/28(水) 07:38:51

    「………………」

     余談だが、当時、ライスシャワーの担当トレーナーを務めた男は現在、グラスワンダーの担当となってドリーム・トロフィーリーグで活躍を続けている。メイクデビュー前はエルコンドルパサーの指導もしており、アグネスデジタルのトレーナーに助言も行っていた。

     これは少し調べれば簡単に分かる話だ。
     しかし、事実が都合良く無視されるのは二次創作でもありがちな話。三国志の二次創作作家として大御所の羅漢中もまた劉備に対する悪評を無視することがあるので致し方ない。彼女をモチーフにしたウマ娘がエプロンを着た姿で「お兄さま」と元トレーナーを呼ぶ同人誌は数多く存在している。
     そして、どぼめじろう先生が執筆した同人誌は、それを少女漫画テイストに仕立て上げたものだ。
     イケメントレーナーの壁ドンにときめいてみたり、おもしれえ女と言われてみたり、たくさんの御飯を食べる姿を見つめられたり、ウマ娘とトレーナーの禁断の恋に興じてみたり、ちょっとポンコツなライスシャワーを少女漫画の枠へと見事に収めていた。
     ちょっとした過激な表現にライアンも御満悦であり、真っ赤な顔で使い物にならなくなった。

     ライスシャワーも自分の見知った相手が、ちょっと過激な自分のウマトレ本の寄稿を見て思考がフリーズしてしまっていた。同人界隈についての知見は、アグネスデジタルを通すことで幾分かの知見を得ていた。しかしアグネスデジタルが手掛けるのは安心安全の健全本であり、ウマ娘ちゃんの魅力を出す事に全集中の構えを取っている。

     ライスシャワーも成人している、そういう本がある事も知っていた。
     会場内を散策している時にもっと過激な同人誌も見かけている。飼い主とペットのハートフルな表紙の本を純粋な気持ちで手に取り、何故か年齢確認を行われた上で中身を覗かせて貰った時、一線を越えた濃厚な主従関係に思わず逃げ出してしまったのは少し前の話だ。
     だから耐性がなかった訳ではない。
     そもそも彼女は女性の裸体を描き慣れており、見慣れていた。

     しかし明らかに自分をモチーフにしているとなれば、話は別だった。

  • 173イッチ23/06/28(水) 07:41:50

    「あ……あ…………」

     頭から湯気を出しながら新刊に目を通すライスシャワー本人の姿。
     手に取った同人誌の表紙には、ライスシャワーをモチーフにしたウマ娘が描かれている。イケメントレーナーに顎をくいっとされたゴスロリ衣装のウマ娘が真っ赤にしている構図だ。タイトルは、恋の直滑降。その直球過ぎる表題に相応しい内容となっていた。
     その内容にあわあわする御本人様を、どぼめじろうは冷や汗を流しながら見守っていた。

     ライスシャワーは察しの悪いウマ娘ではない。
     危うきに近付かない性格をしていた為、知る機会を得られなかった知識が多かった。
     トレセン学園時代の彼女は、無知が目立っていた。
     しかし歳を重ねた事で、少なからず色んなことを学んでいる。
     なので、うまぴょい、の隠喩にも気付いてしまった。

     後にライスシャワーから話の一部始終を聞いたアグネスデジタルは、この世の地獄を悟る事となった。
     アグネスデジタルもまたライスシャワーをモチーフにしたグルメ本を目の前で御本人様に読まれてしまっている為、気持ちは分かる。どぼめじろう先生の本の内容を聞いて、想像した以上の惨状に「知った気分になっていました」とデジタルは天を仰いだ。嗜好は違えど、同じ戦場を生きる同胞の心情を慮って静かに祈りを捧げる。
     不可抗力ながら他サークル様の惨状を作ったライスシャワーは今、売り子となって客を捌いている。

  • 174イッチ23/06/28(水) 07:42:01

    「そのコスプレ、可愛いっすね」

     男の一人に話しかけられて、
     ライスシャワーは照れくさそうにはにかんだ。
     ありがとう、と笑顔で応える。

    「ライスね、その本の料理を担当したんだよ。雑穀さんって名前なんだ」

     そのライスシャワーの言葉に、会場内に衝撃が走る。
     いや、まだセーフだ。アグネスデジタルは首を振って、気を取り直した。
     演技ということにしてしまえば、まだ大丈夫だ。
     周りの参加者もまだ、疑念を抱く程度で留まっている。

    「あとね、これコスプレじゃないよ。私服なんだよ」

     ごめんね、と答える彼女に「あっ」と目の前の男は全てを察した顔をした。

  • 175イッチ23/06/28(水) 07:42:14

    とりあえず、ここまで。

  • 176イッチ23/06/28(水) 07:42:28

    何時も保守、ありがとうございます。助かります。

  • 177二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 12:59:08

    ことごとくが無自覚なまま、ライスが同人初心者が踏み抜く地雷を的確に踏んでいってるのに逆に共感性羞恥で心がしんどい。
    ・ペンネームやサークル名に意味が良く分からないままスラング・蔑称を入れて、後からその意味に気付く。
    ・ナマモノ同人誌、しかも身内の妄想ネタを使ったやつを頒布、後から恥ずかしくなっても回収不可、そして永遠の思い出に。もちろん描いた作者の恥だけでなく、モチーフにした身内の恥も永遠に残される。
    ・頒布物の内容が内容なので即売会では身バレしないよう気を付けるべきだったのに、「たぶんバレないだろ」と思っていたらネットか何かで友人や職場とかに知れ渡ってしまっていた。

    大なり小なり似たような事例が周囲に転がっているのを知っていると他人事扱いできずにいて羞恥心がすごい。

  • 178二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 20:41:23

    保守

  • 179イッチ23/06/28(水) 21:49:36

     三十路には届かない程度の男性は、はっと何かを察したように口を開いた。
     私、アリスデジタル。もといアグネスデジタルは、ライスシャワーと男性の間に割って入り、満面の笑顔で両手で彼の手を取ってギュッと握り締める。
     私側に引き寄せて、前屈みになる彼の耳元にそっと語り掛ける。

     ミンナニハ ナイショデスヨ?

     頬を赤く染める彼の手を放して、ふりふりと手を振って送り返す。
     幸いにも私達は今回初参加の零細サークル、左右の大御所に客足が吸われているおかげで周囲に話を聞かれた様子はない。ほっと安堵の息を零す。隣では、あわあわと戸惑うライスさんの姿があった。とりあえず彼女を落ち着かせて、スケッチブックを押し付けて背中に控えさせる。
     そして私は三冊の新刊と一冊のペーパー本を前に腰を下ろす。

     今回、ライスさんが付いて来たのは即売会の空気を彼女が知りたがっていたことが発端となる。
     私が漫画を描いていることを知った彼女が何処かで売るつもりなのか聞いて来たので、即売会のことを説明する流れとなった。絵本とかも置いてあるのかなって聞いてきたので、何度か見かけた事がある。と答えたところ、彼女は目を輝かせて、私も行きたいと身を乗り出した。
     最初は一人で行かせるよりも、誰か付き添いが居た方が良いということで私が名乗り出た。
     サークルとして参加させておけば、入場券を購入する必要もなければ、外で並び続ける必要もない。売り子としてコスプレをさせるつもりもなかったので普段着で良いと言ったのだけど、彼女は普段着からして変装をしていなかった。自分が人気者だという自覚がないらしい。
     そんな訳で眼鏡を掛けさせたのだけど、あそこまで露骨に言ってしまえば流石の相手も気付くに決まっている。

  • 180イッチ23/06/28(水) 21:50:35

     とりあえず、今はまだ、彼女を一人にするのは難しい。
     後で同人業界の常識を教えるとして、今はイベントを乗り越えることを最優先に考える。左右の大御所の新刊が完売した頃合いで私達のサークルに足を運ぶ参加者が増え始めた。「新刊はどれですか?」との問いに「四冊全てです」と満面の笑顔で答えたら、会場内を回る準備を始めていた左右の大御所サークルの方々がバッと私のことを見た。
     目の前の男性は若干、口元が引きつらせた苦笑を浮かべる。

    「ネット上で投稿しているものを印刷したのですか?」
    「上がっているものもあります」

     と一つ屋根の下で同居するウマ娘の本を提示する。

    「サークル参加が決まってから宣伝代わりにと投稿しながら書いていました。ちゃんと書き下ろしもありますよ。ペーパー本は印刷所の期限が決まってから書き上げたんです」

     そう男に笑顔で伝えれば、左右の大御所サークルが本気で引いた顔をしていた。
     後で左右の方々も私達の本を買いに来てくれた。
     私のような何処にでもいる普通のウマ娘が相手でも、名刺も交換してくれた。
     翌日には相互フォローとなり、料理の作画を褒めてくれていた。
     その事をライスさんに伝えると彼女は嬉しそうにはにかんだ。

     ちなみにライスさんも絵本の同人誌を手に入れることができて、ホクホク顔だ。
     次に参加することがあれば、私も本を出したい。と言っていた。
     こうなってくるともう、二人でサークルを組む事も考えた方が良いのかも知れない。

     ちなみに本は全て売り切る事ができた。
     SNSで私の事をフォローしてくれた人が後半で買いに来てくれたのだ。
     意外と売り切れるものなんですねえ。
     新刊3冊、各50部で計150部。ペーパー本も含めると200部になる。
     売り切った後、最後に会場内を見て回った。

     どぼめじろう先生の新刊が残っていたので1冊買い取った。
     既刊は、新しく刷ったのかまだ数冊残っている。次も参加することを考えると私も100冊くらい刷っても良かったのかも知れない。
     別に売り切る必要もなかったのだと、どぼめじろう先生を見て思った。

  • 181イッチ23/06/28(水) 22:02:48

    ここまで。


    >>177

    私、本を出したことがないエアプなのですが、エミュ力が高過ぎて流れ弾が……

    ちなみに、この世界の雑穀には別に悪い意味はありません。

    デジたんが名前の由来云々言ってるのは、メタ視点です。


    最初、ライスシャワーは米関係で考えていたのですが、

    それだと自分と連想できそうだったので、雑穀になりました。

    でも悪意のない相手に対する警戒心が低過ぎたのと、

    初めての売り子で緊張していたのもあって、致命的なミスをしています。

  • 182二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 03:35:23

    お疲れ様です
    お米はもっと自分の知名度把握してもろて…なんならおデジも
    ウインディちゃんがこの場にいたら確実にお説教コースなのだ

  • 183二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 05:34:30

    >>181

    終始初々しいライスさんが骨身に染みますわーっ!

    慮るデジタルさんもまた乙なものですわね

    ドーベルは……もし私、いえ、メジロマックイーンがイメージされた本があったら……もう!

  • 184二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 10:06:28

    同人とかコミケとか、古い時代のオタクはアングラな趣味という自覚を皆持ってたから、ライスみたいな素人が興味を持ったら全力で思いとどめるか、せめて傷跡にならないように懇切丁寧に説明してとどまらせるのがオタクの最低限の良心だったが、最近はアングラでヤベー趣味って自覚が薄い時代だ。
    ライスみたいな理解不足、勘違いの失敗を本気で説明して説得して止めてやる人とか、身内ナマモノの頒布は後で絶対にトラブルになるから止めてやるという人も、もう今の時代の風潮ではないんだろう。

  • 185二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 20:27:00

    保守めじろう

  • 186二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 21:41:20

    別にこのライスの話に限ったことじゃなく、それがアニメだろうが漫画だろうがラノベだろうが、だいたいの「オタクや同人のあるある失敗談」みたいなオタク、同人ネタが毎回のように共感性羞恥心を刺激して来るのはいつもよくある事なんだが、やはり全て分かっている奴の失敗より、何も知らない奴の失敗の方が見ていて心がしんどい。

    デジタルやドーベルは同人が日陰の趣味だと理解してコミケに参加してる立場
    ⇒それで失敗のネタが出ても本人も覚悟の上だから、別に良心は痛まないし、羞恥心を感じつつも笑って見ていられる。
    純粋に無知なせいで同人の習慣を知らずに失敗していくライス
    ⇒羞恥心と共に、何も知らない子供が被害者となっている罪悪感、良心の痛みを感じる。

    大概の同人失敗ネタの羞恥心は一日もすれば納まりが付いたりするので、振り返って考えれば多分昨日感じていたのは羞恥じゃなく良心だと思う。

  • 187二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 03:22:22

    ほしゅらいす!

  • 188二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 10:26:23

    書き込み出来なくなる前に保守

  • 189イッチ23/06/30(金) 16:13:54

    保守。次の投下はたぶん次スレ。

  • 190二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 01:23:53

    次スレ待機シャトルデース!
    一応ほしゅ

  • 191二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 01:41:40

    このクオリティの文章これだけ書けるの凄すぎる

  • 192二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 09:12:09

    保守らいふ!

  • 193二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 13:46:40

    お待ちしておりますわーっ!

  • 194二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 20:08:59

    次スレ全裸待機

  • 195二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 03:36:47

    ターボも待機するもん!

  • 196二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 13:19:47

    そろそろ次スレ?

  • 197二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 00:41:05

    一応ほしゅしゅ

  • 198二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 05:30:52

    干しゅ芋

  • 199二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 14:08:23

    埋めライフ

  • 200二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 16:24:14

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オススメ

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