(SS注意)サトノダイヤモンドに耳掃除をしてもらう話

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:05:36

    「ふふっ、ダイヤお姉ちゃんが綺麗にしてあげるからね……♪」

     担当ウマ娘であるサトノダイヤモンドの、甘い声色。
     その言葉は普段の丁寧な言葉遣いとは違い、子どもをあやすような口調。
     視界の先にある鏡を見れば、慈愛に満ちた表情で膝の上の俺の頭を撫でている。
     おかしい、少し前までは普段のダイヤだったはずなのに。
     今の彼女は、出会ってから今まで見てきた彼女の、いずれとも一致しない。
     まったく新しい、サトノダイヤモンドの姿であった。

    「さあ、今度は反対側だよ? ごろーんってしてね、ほら、ごろーん」

     ――――いったいどうしてこうなった。
     鳴り響く鼓動を必死に抑えながら、俺はダイヤの指示に従う他ない。
     強張る身体を内側に転がらせると、緊張のせいか、勢いを余らせてしまう。
     ぽふんと、引き締まっていながらも女性らしい柔らかさに包まれたお腹に顔がぶつかった。
     瞬間、熱いほどに感じる彼女の温もりと、甘い香りと微かな汗の匂いが脳を刺激する。
     慌てて顔を引こうとするも、彼女にがっちり頭を押さえられて、動くことができない。

    「……もぉ、悪戯したらめっ、だよ?」

     耳元で囁かれる、ダイヤの声。
     くらくらする思考を気合で回転させながら、これまでの記憶を呼び戻すのであった。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:05:55

     ――――約一時間前。
     ダイヤとのトレーニングを終えた俺は、一人トレーナー室に戻っていた。
     最近は少しばかり仕事が溜まっており、その消化の必要があったから。
     小一時間パソコンと向き合うことで書類が完成し、俺は大きく背伸びをした。
     ゴキゴキと骨の鳴る音と、全身に感じる気だるさ。
     目や頭にも重苦しさを感じ、ちょっと疲れが出てるなと自覚する。
     今日は早めに寝るとしよう、そう考えて立ち上がった時、コンコンと控えめなノックが聞こえた。

    「……あの、トレーナーさん、今宜しいでしょうか?」

     聞き間違えるはずもない、慣れ親しんだ彼女の声。
     もう残っていたのか、そんな疑問を覚えつつも「どうぞ」と扉に向けて言う。
     きぃっと静かに扉が開かれると、遠慮がちにダイヤが部屋に入ってきた。
     ……いつもはもっと元気なのに、どうしたのだろうか。

    「すいません、お忙しいところ」
    「いや、今終わったところだから構わないよ、どうしたの?」
    「あの、えっと、その、もしトレーナーさんが良かったら、なんですけど」

     わたわたと、視線を左右に泳がせながら言葉を紡ぐダイヤ。
     俺に対するお願いや要望は真っすぐ口にする彼女には珍しい、迷いのある態度。
     少し新鮮で面白いなと思いつつも、黙って続きの言葉を待つ。
     やがて、彼女は意を決したように俺を正面から見つめ、一息で言い放った。

    「みっ、耳掃除をしませんか!?」

     トレーナー室に響き渡るダイヤの声。
     その意味をしばらくの間認識できず、俺はオウムのように言葉を返した。

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:06:13

    「……耳、掃除?」
    「はいっ! トレーナーさんも最近お疲れみたいなので!」
    「それで、耳掃除?」
    「……本当はキタちゃんみたいにマッサージが良かったんですけど、上手くできなくて」

     ダイヤは困ったような表情を見せた。
     彼女の幼い頃からの親友であるキタサンブラック。
     俺とも関わりがあるウマ娘で、彼女がマッサージが得意という話は聞いたことがある。
     ――――他ならぬ、彼女のトレーナーの実体験として。
     さすがにトレーナーが担当にマッサージしてもらうのはどうなんだと言ったことがあった。
     しかし、キタサンブラックの押しが強いのと、マッサージをされると何故かキタサンブラックが元気になったり、足が速くなったり、コーナーでスタミナを回復するコツを覚えたりするので断りづらいらしい。
     ……後半の話の意味はわからないが、前半に関しては良くわかる。
     
    「それにトレーナーさん、時折耳を気にされてますよね? ご無沙汰なんじゃないですか?」
    「それは、まあ長らくやってないけども」
    「耳掃除なら自信あるんです! こっちでも疲労回復効果はあるらしくて!」
    「……気持ちは嬉しいけど、ダイヤにそんなことさせられないよ」
    「私がやりたいんです! ね? ね? 良いですよね!?」
    「ちょっ、ダイヤ近い近い……!」

     ぐいぐいと距離を詰めてくるダイヤ。
     押しの強さ、という点においては間違いなくキタサンブラック以上だろう。
     何度かの押し問答の後、じっとこちらを懇願する目つきで見つめ、小さい呟く。

    「…………ダメですか?」

     ……これはズルいだろう。
     俺は大きなため息をつきながら、わかったよ、と頷く。
     その姿を見て、ダイヤは満足そうに目を細めるのであった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:06:32

    「じゃあ、どうぞトレーナーさん♪」

     トレーナー室のに備え付けられている長椅子。
     その端の方にダイヤは座り、ぽんぽんと膝を叩きながらこちらに手招きをする。
     膝枕かあ、そっか、膝枕かあ。
     一瞬それは拒否しようかとも考えたが、先ほどの再放送になるだけなのでやめておく。
     俺は長椅子の、彼女とは逆方向の端っこに腰かけて、身体を傾けた。
     決して傷つけたりしないように、ゆっくりと、静かに、彼女の太ももに頭が着地させる。
     むにっ。
     細いながらもしっかりとした筋肉、それでいて女性らしいしなやかな感触。
     ウマ娘特有の高めの体温と、ほのかに漂う甘い香りが、ダイヤを強く感じさせる。

    「……ふふっ、なんか、昔を思い出すなあ」

     俺の視線の先には、身嗜みやフォームチェックに使う、大きな鏡。
     そこには、懐かしむような表情でこちらを見つめるダイヤがいた。

    「小さい頃の弟に良くしてあげてたんです……今は、させてくれないですけど」

     意地悪ですよね、とダイヤは唇を尖らせた。
     まあ、小さい頃ならともかく思春期に姉から耳掃除は恥ずかしいだろう。
     思春期じゃなくてもこんなに恥ずかしいのだから、気持ちは良くわかる。
     
    「ところで、トレーナーさんって耳たぶ大きいですね、福耳、でしたっけ?」

     興味深そうに俺の耳を見つめて、ダイヤの細い指先が、俺の耳たぶに触れる。
     ――――瞬間、全身がぞわりと逆立った。
     びくんと大きく身体が反応してしまい、彼女も驚いて手を離す。

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:06:51

    「ひゃっ! すっ、すいません、変なところ触っちゃいましたか!?」

     ダイヤは心配そうにこちらを覗き込み。
     そんな彼女に俺は視線を逸らしながら、大丈夫大丈夫、と単調に答えた。
     他人に耳を触れられることが久しくなかったため、すっかり忘れていた。
     自分自身の、弱点というべき点を。
     そのことを悟られないように必死に誤魔化すも、彼女はとても敏い。
     すぐに一つの予想に至り、俺の耳に顔を近づけて、小さな声で囁いた。

    「もしかして……トレーナーさん、お耳弱いんですか?」

     瞬間、顔が燃えるように熱くなる。
     俺が長らく耳掃除をしていない最大の理由がこれだ。
     自身の耳がかなり敏感で、耳かきで少し触れただけでも反応してしまう。
     小さい頃は母が無理矢理やっていたが、大きくなってからやることは皆無であった。
     故に、耳が敏感であることを、すっかりと忘れていた。
     ……これじゃあダイヤも大変だろうな。
     手間取らせるのも悪いので断ろう、そう思って鏡越しに彼女の顔を確認する。
     ――――鏡に映るダイヤは、宝石のように目を輝かせて、笑みを浮かべていた。

    「私の弟も耳が弱くて、それで私がやってあげてたんです……ふふっ、可愛かったなあ」

     思わず小さな笑い声を零すダイヤ。
     その表情はずっと前からのなくしものを、思わぬ所で発見したかのよう。
     そして彼女は更にやる気を燃え上がらせて、大きな声で宣言する。

    「お耳のお世話は任せてくださいっ! ダイヤちゃん耳掃除! 緊急開店ですっ!」

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:07:11

    「まずはお耳を慣らすために、マッサージをしていきますね?」

     そう言うと、ダイヤの細くて、柔らかくて、温かい指先が優しく耳を摘まんだ。
     ぞわりとした感覚が耳から背筋に流れるが、このくらいなら大丈夫。
     そしてその指はまず、軽く耳を引っ張ったり、耳の溝や耳たぶに指圧を入れていった。
     痛みはなく、むしろ心地良い。
     ただ、彼女の指の大きさや形を具体的に連想してしまい、少し恥ずかしい。

    「ぎゅー、ぎゅー……どうですか? 痛かったりはしませんか?」

     その言葉に、痛くないよ、気持ち良いよと伝える。
     そんな俺の言葉に満足そうに頷くと、ダイヤはマッサージの動きを更に広げていった。
     耳を畳んでみたり、手のひらで包んで温めてみたり、たまに爪先にくすぐってみたり。
     ……最後のは変な声が出そうになったが、総合的には至福の時間。
     血流が良くなったのか、彼女の指の温もりが写ったのか。
     自分の耳全体がじんわりと熱を持っていることを、感じる。

    「お耳が熱くなってますね……うん、そろそろ頃合いみたいです」

     そう言うと、ダイヤは一本の棒を取り出した。
     耳掃除における定番アイテム、竹製の耳かき棒である。
     その姿を見た瞬間、過去のトラウマが蘇ってきて、思わず身体を縮めてしまう。
     あまりに情けない俺を見て、彼女はくすりと笑い、軽く頭を撫でた。

    「ふふっ、本当に弟にそっくりです。大丈夫ですよ、痛くしませんから」

     ゆっくり、何度も、優しく頭を触れる、彼女の手。
     それはなぜか、妙な懐かしさと安心感を抱かせて、俺は自然と肩の力を抜いていた。

  • 7二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:07:43

    「……じゃあ、入れていきますよ?」

     気づけばすっかり、ダイヤの太腿に身を任せて、その言葉を聞いていた。
     少しふわついた頭で頷くと、ゆっくりと、耳に固い竹の感触が触れる。
     ……うん、耳が熱を持っているせいか、感覚が少し鈍くなっているようだ。
     一瞬身体が反応するものの、すぐに力が抜ける。

    「まずは外側から綺麗にしていきます……」

     そう言うと、ダイヤは耳かき棒を、耳の溝に走らせていった。
     すっ、すっ、と弱い力で撫でるようにかかれると、垢が乖離していく感触が伝わる。
     くすぐったさと気持ち良さが耳から脳へと、ダイレクトに伝わっていく。

    「かりかりかり……弟もこうやって囁いであげると、安心したんですよ?」

     ダイヤはそう言って、耳かきをしながら擬音を口にした。
     確かに、彼女の声と耳かきの感触がシンクロして、心地良さが加速していく。
     耳の汚れが落ちるごとに、自分の意識がそぎ落とされていくようだった。

    「トレーナーさん、口が開いてますよー……ふふっ、可愛い」

     指摘されて、慌てて口を閉ざす。
     その様子を見て、ダイヤは楽しそうに笑うと、一旦耳かきを離した。
     そして、また耳元に顔を近づけて、小さな声で囁く。
     
    「……じゃあ、中の方をやっていくから、動いちゃダメだからね?」

     ダイヤの言葉に、わずかな違和感を覚える。
     けれど耳かきの快感に支配された俺は、それを指摘することはできなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:08:00

     先ほどよりとゆっくり、そっと、優しく、耳の中に耳かきが入り込む。
     ざり、とノイズ混じりの音が耳の中で響き渡った。
     どうやら放置されていた時間相応に、中はひどい有様になっているようである。
     だが、固さはそこまでではないのか、ダイヤは軽い力で垢を取っていく。

    「がりがり……がりがり……辛かったらスカートを掴んでね……くださいね」

     そこまではしないよ、と苦笑しながら言葉を紡ぐ。
     耳の通りが、かかれるごとに良くなっていく清涼感。
     敏感な耳の中を、くすぐるように優しく撫でられる快感。
     迷走神経が、程良い力加減で刺激されていく心地良さ。
     何故、今までこんな気持ち良いことを敬遠してたのか、そう思ってしまうほど。
     気づけば、ほうっと息を吐きながら、ダイヤの耳かきを堪能していた。

    「えへへ、気持ちいーい……良いですか? 目もとろんとして来てますね……?」

     眠気が押し寄せて、ふわふわとした頭では、その言葉を正しく理解できない。
     気づけば耳かき棒は耳から離れていて、ただ静かで、穏やかな時間が流れていた。
     ダイヤは俺をどこか真剣な表情で見つめると、やがて小さく問いかけた。

    「あの……トレーナーさん……一つお願いがあるんですけど」

     ダイヤには珍しい、遠慮するような、躊躇するような、そんな様子。
     そして決心したのか、恥ずかしそうに顔を緩ませながら、そのお願いを口にした。

    「――――ダイヤお姉ちゃんって、呼んでもらえませんか?」

  • 9二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:08:37

     これは、後から知った話ではあるが。
     ダイヤは小さな頃から他人に甘えることはあっても、甘えられることは少なかったらしい。
     トレーナー選びにトライアルを行うような家の娘だ、さもありなん、といったところ。
     そんな彼女に素直に甘えられる存在、それが小さい頃の、彼女の弟であった。
     キタサンブラック曰く、それはもう、大層な甘やかしようだったとのこと。
     ……とはいえ、思春期を迎えた少年が、ずっとそんな態度を取るわけもなく。
     弟が姉に甘えることがなくなって、長い月日があって。
     表には出さないが、彼女の中に、自らも知らない大きな欲求が溜まり続けていた。
     一種の承認欲求に近い――――誰かに甘えられたい、という欲求が。
     故に、ここは分水嶺だった。
     きっとここでちゃんと断れば、ダイヤの中の怪物は眠り続けたままだったのだろう。
     しかし、この時の俺はそんな背景なんて知らず。
     また、飛びかけていた意識では、そのお願いにどのような意味があるのかを理解できない。
     だから、ただ彼女へのお礼も込めて、何も考えずに、お願いに応えてしまった。

     ――――ダイヤお姉ちゃん、と。

     その言葉に、ぴくんとダイヤは耳を立てた。
     尻尾はゆらゆら怪しく揺れて、頬は少しばかり上気して、目は熱っぽく潤んでいる。
     
    「ダイヤお姉ちゃん……ダイヤお姉ちゃん……ダイヤお姉ちゃん……」

     うわごとの様に、ダイヤは小さく言葉を反芻する。
     頭に触れる彼女の体温が急激に上昇していき、また彼女の香りの甘さも増していく。
     ここに至り、俺はようやく自分がやらかしてしまったことに、気づいた。
     
    「えへ、えへへ、えへへへ……♪」

     壊れたように、愉しそうな笑みを零すダイヤ。
     姉に目覚めた好奇心と甘やかしの怪物が――――誕生した瞬間である。

  • 10二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:09:03

     そんな感じで、冒頭に戻るのであった。
     さすがにお腹に顔を突っ込んだ状態からは解放されたが、姉モードは解除されていない。
     反対側の耳を優しく揉み、撫でて、弄びながら、彼女は問いかける。

    「痛くない? 痒いところはない? 気持ち良い? ダイヤお姉ちゃんに何でも言ってね?」

     恥ずかしさを超えて若干の恐怖を抱きつつも、マッサージを受け入れた。
     絶妙な力加減で、耳のツボを押さえられて、俺の口からは妙な声が漏れてしまいそうになる。
     ダイヤは必死に我慢する俺のことを見透かしたように、こちょこちょと耳をくすぐった。

    「声は我慢しなくても良いんだよ? もっと可愛いお声を聞かせて……?」

     ……ダイヤの弟くんが、彼女に甘えなくなった理由がなんとなくわかる気がする。
     俺は彼女の手つきに翻弄されながら、早く自分の意識が落ちるように祈るのであった。

  • 11二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:09:34

    お わ り
    ANTR(あねとられ)展開注意

  • 12二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 01:10:14

    iPhoneだからなのか知らんけど罫線途切れ途切れになっとるで

  • 13123/06/13(火) 01:14:19

    >>12

    oh……指摘ありがとうございます。

    普段と環境がちょっと違うせいですかね、御迷惑おかけしました。

    まあ直せないので諦めます。

  • 14二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 12:49:41

    ええやん……

  • 15二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 12:53:59

    >>12

    こちらAndroid

    正常です

  • 16123/06/13(火) 13:00:01

    >>14

    ありがとうございます

    姉ダイヤちゃんいいよね……

    >>15

    実はほかのSSを書いたところ今まで罫線だと思って使ってたのがずっと間違ってた(環境によっては普通に見える)ぽいんですよね

    確認していただきありがとうございました

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