[SS]繋がり

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 21:55:40

    本格的に秋が訪れた頃、私、ナカヤマフェスタはトゥインクル・シリーズからの引退を表明した。
     私の名前がトレンド入りし、引退を惜しむ声で溢れたウマッターを見ながら、私はこうやって本格的にエゴサーチをしたのは始めてである事に気がつく。
     今までは自分の評判など気にする暇もなかったが、こうして好意的な声があるのはやはり嬉しい。

    「フェスタ、入るぞ」

     ノックの音が響き、スーツ姿の青年が部屋に入ってくる。
     トレーナー室なんだから別にノックする必要は無いだろうと思いながら、私は振り返ってそいつを出迎えた。

    「トレーナーか。随分とお疲れじゃねえか」

  • 2121/12/05(日) 21:57:00

    >>1

    「ちょっとマスコミに絡まれてな……」


     トレーナーは大きくため息を吐いて、長いソファに座り込む。

     私は彼の隣に座ると、疲れ切ったトレーナーの顔を覗き込んで言った。


    「そういう時は私に言え。追っ払ってやるから」


    「いや、お前に迷惑はかけられないよ」


    「今さら気ぃ使うなよ。私達の付き合いの長さを忘れたのか?」


     デビューしてから今日まで、私の競走生活にはいつもトレーナーがいた。

     不器用な程にバカ真面目で、そのくせ時には私ですら躊躇うような勝負にも嬉々として挑む面白ぇ男。

     お世辞にも愛想の良い方じゃない私に向き合い続けてくれた優しい男。

     そして、明日から離れ離れになってしまう——。

  • 3121/12/05(日) 21:58:26

    >>2

    「……どうした?」

    「いや、何でも」


    「あ、さっきウマッター見たぞ。お前の名前、トレンド入りしてたな」


    「私も見た。SNSってのも、案外悪くねえな」


     そこで私は言葉に詰まってしまった。あまりにいつも通りすぎて、何を話すべきかわからない。

     明日コンビは解消されてしまうのに、これからも変わらず彼と過ごせるなどと考える愚かな自分が恨めしい。

     伝えたい事は山程あるのに、このままでは何も言えない。

     それだけは駄目だ。私は賭けに出た。

     

    「……なあ、トレーナー」


    「ん?」


    「今日、アンタん家で飯でも食わねえか。引退記念にさ」


    「いいけど、俺ん家狭いぞ? しかも散らかってるし」


    「それがどうした。こんな時くらい、素直にわがまま聞きやがれ」


    「へいへい」


    「決まりだな。じゃ、外泊届け出してくる」


     私はひとまず事態を進展させられた事に安堵しながらトレーナー室を出た。

     窓から射す夕陽が眩しい。

     長い廊下を歩きながら、私はこれからどう立ち回るべきか考えを巡らせるのだった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:02:40

    期待

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:05:07

    保守

  • 6121/12/05(日) 22:18:28

    続きはまた明日書きます

  • 7121/12/05(日) 23:26:04

    >>6

    姉ちゃん!明日って今さ!


    >>3

    「あー……寒っ」


     例えコートを着ていても、秋の夜というのはやはり肌寒い。

     吹く風もそうだが、何よりも夜空の黒さがこの寒さを際立たせているような気がした。

     早く暖を取りたい。私は自然と早足になりながらとあるアパートの一室を目指す。

     夕方行くと約束した、トレーナーの家だ。

     程なくして扉の前にたどり着いた私は、インターホンを鳴らして家主を呼んだ。


    「フェスタか? ちょっと待ってろ、すぐ開ける」


     ノイズ混じりの声が響いた直後、金属が軋む音と共に扉が開く。

     出迎えたトレーナーに促され、私は部屋の中に足を踏み入れた。


    「外寒かっただろ。さ、上がって上がって」


    「悪ぃな。邪魔するぜ」

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 23:29:30

    危ない見逃してた

  • 9121/12/05(日) 23:43:10

    >>7

     内装は相変わらず典型的な男の一人暮らしといった感じで、モノクロを基調とした殺風景な部屋だった。

     それでも、初めて来た頃よりはだいぶマシになったと思う。

     当初この家には、トレーナー用の教本くらいしか私物が無かった。

     だが私が訪れる回数に比例してボードゲームや最新の据え置き型ゲーム機などが揃えられ、今ではすっかり私好みの空間へと様変わりしている。

     2年前渡したスミレの苗も、元気に育っていた。

     部屋を支配するモノトーンの色合いだけはとうとう変わらなかったが。


    「ホルモン鍋で良いよな?」


    「ああ」


     時計は午後の6時を指している。今から作れば、晩飯にはちょうどいい時間に出来上がるだろう。


    「じゃ、手ぇ洗ってくる」


     エアコンの暖気が体を包むのを感じて、私はコートとニット帽を脱いだ。

     レースの際に身につける勝負服の姿を現した私を呼び止めて、トレーナーが心配そうに声をかける。

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 23:46:18

    希少だナカヤマss

  • 11121/12/05(日) 23:59:26

    >>9

    「なあ、それは流石に寒くないか?」


    「いいんだよ。ある意味、今が一番こいつを着るのに相応しい時だからな」


     私の勝負服は普段着にしても違和感のないデザインだが、防寒着としては些か心許ない。

     それでも私がこいつを着てきたのは、今が文字通り勝負の時だからだ。


    「……よし」


     手を清めていく流水を見て心を落ち着け、私は深呼吸をする。

     水場……トレーナーの一番濃厚な生活の匂いが、肺を満たした。

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 01:31:59

    保守う

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 02:14:33

    下着まで勝負モノつけてそうだ

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 12:59:50

    期待

  • 15121/12/06(月) 23:39:06

    >>11

    「へえ、中々手際が良いじゃねえか」


     洗面所から戻ると、トレーナーが鍋の具材を切っていた。

     より一層鮮やかになった手捌きで食材を切りながら、鼻歌まで歌ってみせている。

     私はそんな彼を揶揄ってやろうと思い、出会った当時の恥ずかしい記憶を暴露した。


    「でも忘れてないぜ? 最初の頃、コンロの前で火にビビりまくってたアンタの醜態」


    「なっ! あ、アレは昔の話だろ!?」


    「そんなに怒んなよ。今はこうしてまともな飯を作れるようになったんだから」


    「まあ、担当に恥ずかしいとこ見せるわけにはいかないからな」


     それはもう手遅れだと思うが、敢えて言わないでおく。

     私は具材を鍋に放り込むトレーナーの背中を見ながら、彼が料理上手になった理由が私にあると思うと少し嬉しくなった。

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 00:39:41

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 07:54:21

    期待

  • 18121/12/07(火) 15:59:08

    >>15

    「……上手いもんだ」


    「だろ? さて、後は小一時間程煮込めば完成だ。出来上がるまでなんかゲームでもしてようぜ」


    「いや火加減見てろよ」


     軽口を叩いて笑いながら、私は次にどう動くべきか考えを巡らせる。

     勢いで家に上がったは良いが、そこからの事はまるで決めていなかった。

     これでは別れの時を先延ばしにしただけだ、と私は唇を噛む。


    「……どうした?」


     思考の海に溺れかけた私を、トレーナーが現実の世界へ引き戻した。


    「凄え深刻そうな顔してたけど、何か考え事か?」


    「何でもねえよ。……ただ」


    「ただ?」


    「色々あったなぁ、と思ってさ」

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 18:51:27

    保守

  • 20121/12/08(水) 01:22:10

    >>18

    本当に色々な事があった。デビューしてから今まで、トレーナーと積み重ねてきた数々の思い出が頭を過ぎる。

     時に熱く、時にバカバカしく、時に切ないそれらを噛み締めながら、私はこれからもずっとそんな日々が続くようにと願った。


    「そうか……そういう事だったのか」


     私はようやくここへ来た目的を悟った。

     例え競走生活を退いてもなお続く繋がりが欲しい。担当ウマ娘としてではなく、ナカヤマフェスタとして私的な関係性が築きたい。

     それが何なのかは良くわからなかったが、取り敢えず目標がはっきりしただけ収穫だ。


    「ん、何か言ったか?」


    「いや、何も」

  • 21二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 06:53:29

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 13:50:41

    期待保守

  • 23二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 22:52:34

    これは期待大

  • 24121/12/09(木) 01:18:39

    >>20

    それから、私達は何も言わずに鍋の完成を待った。

     出汁の香りが食欲を駆り立ててくる。

     私はこの沈黙が好きだった。

     二人が個別に持つバイオリズムの奇跡的な一致。時間が溶け合い、一つの生活を共有する安らぎ。

     例え私が一方的に抱いている幻想なのだとしても、すっと身を委ねてしまう魔力がそこにはあった。


    「……なあ、フェスタ」


     不意にトレーナーが口を開いた。


    「お前、ドリームトロフィーリーグとか行かないのか?」


     トゥインクルシリーズで好成績を収めれば、ドリームトロフィーリーグで走ることが認められる。

     一つだけとはいえG1を勝っている私にはその資格があったが、敢えて移籍はしなかった。


    「もう十分走り切ったからな」


     私の体は、全盛期をとうに過ぎている。

     未練が無いと言えば嘘になるが、それでも私なりにやり切ったという自覚はあった。


    「何より、ドリームトロフィーにはアンタがいない」

  • 25二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 01:38:47

    俺のゴミみたいな語彙力では到底表せないモノがある

  • 26二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 08:51:38

    保守

  • 27二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:03:34

    保守う

  • 28121/12/10(金) 01:18:47

    >>24

    「担当ウマ娘にそこまで言ってもらえるなんて、トレーナー冥利に尽きるなぁ」


    「本気だぞ? アンタより私を熱くさせられるトレーナーなんか、世界中のどこ探したっていやしねえんだ」


     私がそう付け加えても、目の前の男は神妙な態度を崩さない。

     こうなったら、意地でも本心を聞き出してやる。

     トレーナーから見た私はただの担当ウマ娘なのか、はたまたそれ以上の存在なのか。

     これは勝負だ。絶対にトレーナーの本心を暴いてやる。

     そう思うと俄然やる気が出てきた。

     こればかりは勝負師の本能だから仕方がない。


    「なあ、アンタはこれからどうするんだ?」


    「勿論、トレーナーを続けるよ」


     予想通りの答えが返ってくる。

     初担当でありながら私というG1ウマ娘を輩出し、見事に勝ち取った出世コースを手放すほどこいつも愚かではない。

     何より、こいつはトゥインクル・シリーズが好きなのだ。

     トレーナーという立場でそれに携わろうとするための並々ならぬ努力を、私はよく知っている。


    「……そっか」

  • 29二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 01:25:16

    保守

  • 30二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 07:55:20

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 17:21:42

    保守

  • 32121/12/11(土) 01:28:08

    >>28

     それなのに、トレーナーの答えを聞いた時に湧いてきた感情の色は黒かった。

     同時に、耐えがたい不安に襲われる。

     もしこいつの未来の担当ウマ娘が三冠を獲ったらどうしよう。宝塚記念を連覇したら? 凱旋門賞は?

     そうなれば、私はもうトレーナーの隣に立てなくなってしまう。

     トレーナーも私の事なんか忘れてしまうかもしれない。

     そんなのは嫌だ。

     こいつの隣は私だ。今までも、これからも。


    「なんか凄え睨まれてる……」


     トレーナーの独り言で、私は我に帰った。

     どうやら凄まじい目つきでトレーナーを見ていたようで、私は咄嗟に睨んだなどいないと釈明する。


    「別に睨んでないぞ。ただ壁のシミを見てただけだ」


    「壁のシミかぁ」


    「ああ、壁のシミだ」


     しばらくしてホルモン鍋は完成した。

     立ち上る湯気と出汁の香りに、思わず食欲をそそられる。


    「おっ、我ながら美味そうだ!」


     トレーナーも上機嫌にそう言って食器を配り、待ち切れないとばかりに急いで席に着く。

     私も椅子に座り、同時に手を合わせた。


    「いただきます」

  • 33二次元好きの匿名さん21/12/11(土) 08:22:06

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん21/12/11(土) 16:45:06

    保守

  • 35二次元好きの匿名さん21/12/11(土) 21:21:04

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 00:03:06

    保守

  • 37121/12/12(日) 01:56:34

    >>32

     熱々の鍋を囲みながら、私達は思い出話に花を咲かせた。

     きっとこのタイミングを見計らっていたのだろう。今まで懐かしむような素振りを微塵も見せなかったトレーナーは酒の勢いも手伝ってか大袈裟な動きで話し続けている。


    「でさ、その時お前なんて言ったと思う?」


    「そのくらいにしねえと、残りの肉全部食うぞ」


    「やめろって! お肉は共有財産だぞ!」


     恥ずかしい出来事を蒸し返されそうになったので意地悪く鍋の中の肉を取ると、トレーナーは面白いほどオーバーな反応を見せた。

     こいつが私の前でここまで酔うのは初めてだ。

     これはいけるかもしれないぞ、と私は心でガッツポーズしながらしかし冷静に肉を頬張る。

     その後も熾烈なる肉争奪戦は続き、やがて鍋の中身を全て食い尽くすという形で戦いは終結した。


    「ごちそうさまでした」

  • 38二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 08:24:31

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 08:28:23

    いいところで止まってやがる…

  • 40二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 18:32:51

    保守

  • 41二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 22:31:22

    保守

  • 42121/12/13(月) 00:41:40

    >>37

    「ぷはぁ〜、食った食ったぁ」


     長いソファに腰を下ろし、トレーナーは満足げに膨れた腹を撫でる。

     酔いと満腹感で満たされた彼の顔は赤く染まり、にこやかに笑う達磨のようになっていた。


    「ああ、美味かったな」


     彼の隣に座って、私も軽く腹を摩る。


    「これからも、アンタの飯が食いたい」


    「そりゃ嬉しい事言ってくれるなぁ! あははっ!」


     ああしまった。こういうのは酔いが回る前に言うべきだった。

     私は後悔してソファを立ち、トレーナーの使っていたコップに水道水を注ぐ。

     油の浮いた水の中で、食器が漂っていた。

     明日になったら洗おう。そう思いながらソファに戻り、コップを差し出す。


    「水飲め水。流石に酔い過ぎだ」


    「おっ、ありがとうフェスタ。気が利くなぁ」


     トレーナーは私からコップを受け取ると、中身を一気に飲み干した。

     酒じゃないんだからそんな豪快に飲むなよ……と呆れる心を押さえつけて、私は小さく呟いた。


    「でもまぁ、それだけ信頼されてるって事だよな」

  • 43二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 07:42:52

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 12:25:18

    保守です

  • 45二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 21:26:08

    保守

  • 46121/12/14(火) 01:57:23

    >>42

     そんな余韻をぶち壊すように、トレーナーが大きな欠伸をした。


    「なんだ、眠いのか?」


    「めちゃ眠い。飲み過ぎたかな」


    「じゃあ寝てろ。勝手に布団敷いて運ぶから」


     トレーナーが眠ったのを確認して、私はリビングから寝室に向かい、押し入れから寝具を取り出す。

     布団を敷いて毛布をかけてから、私は眠りに落ちたトレーナーを担いで床に寝かせたのだった。


    「……どうするかなァ」


     時刻は午後の11時を指している。窓を開けて夜風と街の光を浴びながら、私は一人思索に耽っていった。

     この関係性に名前をつけたい。

     担当ウマ娘とトレーナー、なんて事務的な言葉で片付けるには近過ぎて、かといって友情や恋慕と言うには遠過ぎる。

     どっちつかずのぬるま湯みたいな感覚が心地よくて、いつしかそこにのめり込んでいた。

     恐らくは、トレーナーも。


    「……共依存か」


     言葉にすれば酷くチープだが、しかしそう言わざるを得ない。

     中途半端な繋がりに依存して、あまつさえ引退してもなおそれを続けたいと願う私。

     口には出さなくてもそれを受け入れ、教え子の不健全な精神に目を向けないトレーナー。

     これが共依存でなくて何なのか。

  • 47二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 13:25:45

    保守

  • 48二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 22:24:22

    保守
    湿度がすごいな最初っから

  • 49二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 07:42:49

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 18:20:55

    保守

  • 51二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 00:39:05

    乾燥してるから湿ったナカヤマ待ってる

  • 52121/12/16(木) 00:46:16

    >>46

    「……はっ」


     今の私達を繋ぐものに名前が着いた瞬間、乾いた笑いが込み上げてきた。

     勝負師として勝つか負けるかの世界を生きてきた私が、無自覚のうちにそんな爛れた関係に浸かっていたとは。

     むしろ過酷な勝負の世界だからこそ、身を寄せ合える存在に溺れてしまったのかもしれない。

     そう思うと、恐怖が心を埋め尽くした。

     トレーナーのいない世界で、私はどうやって生きればいいのだろう。


    「嫌だ、嫌だ」


     とにかくトレーナーの姿が見たくて、私は寝室に駆け込んだ。

オススメ

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