【SS】理子ちゃんと耳かき

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:20:23

    ――最近、耳クソ取るのが流行ってるらしいじゃねえか。
    ――耳かきとか言って下さいよ。て言うか、流行るような物なんですか?

    どこかに置き忘れたペンを探しながら通った道筋を辿ると、印刷機の近くから話し声が聞こえて来た。
    よく一緒にいる二人、“彼”とその先輩。吹き出しそうになったのを咄嗟に堪え、なぜか隠れてしまう。

    「いや、自分のじゃなくてヨ。生徒が自分のトレーナーの耳掃除してやるのが、密かなブームなんだって聞いた」
    「密かにって、それはブームなんですかねえ。ちなみに先輩はもう?」
    「俺は耳鼻科で取ったばっかでナ。たまに行くんだが、今回はタイミングが悪かった。しかしあいつら、あんな残念そうにする事ァねぇだろ、って」
    「モテますねえ」
    「よせやい、子供だぜ。流行りに乗りたかっただけろォ」

    二人が自分たちの用事を終えて去った後も、しばらく身を隠したまま――熱を持った耳を摘まんで、“その事”を思い耽っていた。
    ――――――――――
    何故耳かきなどが流行るのか、半日その事に気を取られたまま帰宅する。

    一つ、異なる身体構造への好奇心。
    一つ、日頃の恩返しの一環。
    一つ、親しい者とのスキンシップ。

    理由は単一とも限らない。トレーナーと担当の距離が近いところも多い、流行とも特別な事とも思わずにしているかも。そう考えてからは、内心に暗い炎が灯ったままだ。

    例によって、私は嫉妬を抑えられない。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:21:17

    翌日の昼休み。まだ多くの職員や生徒が昼食の途中であろう頃合、人目を忍んで“彼”のトレーナー室に入る。普段よりいささか態度が硬い。

    「急にごめんなさい」
    「いえいえ。電話やLANEでは出来ない話というのは……僕の担当の件でしょうか」
    「……半分はそうです。ただしこれは理事長代理ではなく、私個人として」
    「?」
    「『公私混同』をします」

    ドアの内側に吊された『不在』の札――今どき実用性の薄い、彼の律義さを思わせるそれ――を素早く表に出し、鍵をかけた。そして内ポケットから、用件のものを出す。
    先端が特有の曲線を描く竹の棒。反対側にはいわゆる梵天(毛玉)ではなく小さなコケシをあしらった、確か実家からお馴染みの耳かきだ。

    「……貴方はもう、担当にしてもらっているでしょうか」
    「え、耳かきを?もしかして、昨日の話聞いてました?」
    「はい。立ち聞きは良くないとは思いましたが、貴方の耳かきをしてみたいな、と思いまして」
    「え……っと、はい、お願いします」

    彼のソファで膝枕をして、耳の穴を覗く。一旦ウェットティッシュで全体を拭ってから少しずつ先端を挿し入れた。

    「しかし、昨日の今日とはまた急ですね。休みの日でも良かったのに」
    「流行りと知ったら我慢出来なくなりました。あなたが担当の子にされたら、しばらく機会が無いでしょう?
    その前に、私がしたかったんです。我ながら酷いとは思いますが」
    「それで急いで来てくれたんですか。なんとも可愛い『公私混同』ですね」
    「可愛い、なんて言ってくれるのは、貴方くらいですよ」
    「僕以外には言われるのは嫌です」
    「……もう。はい、終わりました。こっち向いて下さい」

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:22:00

    「痛くありませんでした?」
    「ありがとうございます、とても良かったですよ。昼間から理子さんのお腹に顔を埋めて、何と言うか……フフ」
    「まあ!だっていつもはもっと、色々と、その……あるでしょう」
    「今この場所だからですかね、特別感があるのは。じゃ、お礼に僕も耳かきしてあげますね」

    彼が机の引き出しから取り出したのは、黒いプラスチック製だ。

    「ほら、よくしなるんで痛く無いと思いますよ。寝て下さい」
    ――――――――――
    「んっ」
    「あ、痛いですか?」
    「大丈夫……、もう少し奥でも……」
    「ここは?」
    「気持ち良い、です……」

    彼の優しい手つきは全く痛みを感じさせない。それよりもまるで予想外だっのは、不思議な充足感。
    ――ああ、そうか。彼の本来触れる事の出来ない所に、この先端は触れているのだ。それが今、彼の手で私の……
    体験の共有が、この感覚の正体か。彼もさっき、同じ事を感じてくれただろうか。そうだといいな。

    「意外と出るものですね……お互い」
    「ちょっと、恥ずかしいですから早く捨てて下さい」
    「人間の体液って苦い・塩っぱい・その両方、のどれからしいですが」
    「本当に早く捨てて下さい!」

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:23:04

    予鈴にはまだまだ余裕があると言っても、もう出ないと人目につく。理子さんはもうこの部屋を出ようとしている。
    しかし名残惜しさゆえ、理子さんの肩と頬を捉えて引き寄せた。

    「いけません、学園内で」
    「耳かきには来てくれたのに?」
    「意地悪です」
    「僕の担当が来る心配はありませんよ。『今日の定食は外せない』と言ってたから、きっとまだカフェテリアです」
    「……一度してしまうと、際限がなくなりそうで。本当はこんな、横取りみたいな事もダメだと思ったのに」
    「ダメついでに、良いでしょう」

    理子さんは少しだけ迷ってから、赤い顔で呟いた。

    「お、お休みの日に、いっぱい出来ますから……」

    その可愛いらしさにほんの一瞬目が眩み、ハッと気がつくと、手を振りほどいた理子さんはもうドアの外。予鈴が流れる中、僕はいつまでも理子さんの赤面を反芻した。
    ――――――――――
    ミーティングの終わり、リトルココンとビターグラッセが何やら言いたそうな顔をしている。後ろ手から出した物は――ライト付きの耳かきだ。

    「あの、今流行ってて……片方ずつさせてもらえませんか?」
    ――――――――――
    今日、僕の担当は最初から、少し様子が変だった。モジモジしながらも差し出したそれは、粘着式の綿棒である。

    「知ってます?今ちょっとした流行なんですよぉ、それでですねぇ」
    ――――――――――
    「「残念、耳鼻科に行ったばかり」」

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:24:43

    おまけ
    あ~美味しかった。やっぱり定食で正解ね。デザートの桃餡マンも映える可愛さのパンダちゃんだったし。
    うーんまだ未読かぁ。『ファン獲得のためにウマスタも気にしろ』って言ってるのになぁ~、写真選んで欲しかったよ。ちょっと文句の一つも言ってやるか。
    あれ、『不在』の札が。外に食べに出たのかな?真面目だなぁ。……いや今ソファの音したな。居るのかな?

    ――んっ
    ――あ、痛いですか?
    ――大丈夫……、もう少し奥でも……
    ――ここは?
    ――気持ち良い、です……

    ひええええ何してんのトレーナーさぁん?この部屋私も使ってるんですが?てか相手は?いったい誰なの?
    わりと誰にでも丁寧語だからなぁ、この声誰だろ?……あー駄目、もう限界!忘却のラストスパート発動よおおおお!
    こんなの抱えてたら“お願い”するの無理ぃ~!

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:25:35
  • 7二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 12:28:20

    素で悪いことできないから公私混同します!と宣言が必要になる理子ちゃんカワイイねぇ

  • 8123/06/16(金) 13:08:08

    感想ありがとうございます!
    真面目で堅物すぎるくらいなのが理子ちゃんの可愛い所でもありますよね!

  • 9二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 13:12:01

    トレーナーの方いじめっ子とまではいかないけど代理相手だと結構Sだな…

  • 10二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 13:30:10

    普段の関係がよく分かりますねえ!

  • 11123/06/16(金) 14:35:51

    感想ありがとうございます!

    >>9

    Sというか、どんどんおバカ少年的な一面が出てきたというか……

    前はスゴく取り繕っていたんですが、書いてる内に変わって来たんですよね

    >>10

    互いに穏やかな愛情を重ね合っていて欲しいとは思ってます が、嫉妬りした理子ちゃんが私の大好物なのです

  • 12二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 16:32:46

    耳かきは性行為
    死海文書にもそう書き記しておいた、

  • 13123/06/16(金) 18:33:50

    >>12

    感想ありがとうございます!

    改竄はいただけませんよ~w

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