- 1二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:15:32
- 2二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:15:57
屋台の店長は、俺が学園の生徒で、御三家の一人であっても態度は変えない。
こちらのいつも通りの注文に「あいよ」と短く答えただけで、後は調理を始めていく。
そしてこれまたぶっきらぼうに差し出されるラーメンを受け取り、俺は据え置きのスタンドからフォークを取り出して食す。
美味い。運動後というのもあるが、こうして夜も差し掛かった時間帯に食べるものはどうしてこう美味く感じるのか。もしかすると、背徳感のようなものがあるかも知れない。
こんなところをラウダに見られでもしたら、また小言の一つや二つを言われてしまうな。 - 3二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:16:31
そうこうしてラーメンの半分を食したところで、俺の左隣から女性の声がした。
横目で見ると、何やら大層なヘルメット……いや、仮面か? を被っている黒髪のスーツ姿の女が席についた。仮面のせいで年齢は分からないが、仕草からして俺よりも年上なのは間違いなさそうだ。
あまり人をジロジロと見るのも悪いと思い、以降は気にせずに残りのラーメンを食べ終える。
……トレーニング後のせいか、まだ小腹が空いている感覚がある。
寮の食事はもう少し後だしここは何か他に頼むか、と思ったところで隣の女が声を掛けてきた。
「貴方。アスティカシア学園の生徒さんね?」
いかにも俺はベネリットグループを代表する御三家の一つ、ジェターク・ヘビー・マシーナリーのCEO、父さ……ヴィム・ジェタークの息子であるグエル・ジェタークだ。
まさかこの女、俺を暗殺しに来たとでも言うのか? - 4二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:16:57
「だとしたら……なんだ?」
目上の者には敬意と礼儀正しい作法をするべきだが、身元が怪しい大人にはこれぐらいの態度でいいだろう。落ち度がこちらにあれば、ちゃんと謝るが。
しかしそんな俺の態度を気にもせず、女は話を続ける。
「私はアスティカシア学園の神よ」
「……は?」
「正確には恋愛の神様ね」
「いや、別に聞いていませんが」
ついつい言葉遣いを正してしまう。それ程までに女の話は突拍子もないものだった。
俺の返しに対し、神を名乗った女はくつくつと喉を鳴らす。 - 5二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:17:22
「あら知らないの? 私は貴方のことなら何でも知っているわよ?」
「……」
「ご両親のことや、弟のラウダ・ニールのこと。幼少期に貴方とそのラウダ、君のお母さま方がお父様……ヴィム・ジェタークを捨てて家を出たこと」
「は?」
「貴方は幼少期よりドミニコス隊に憧れ、またお父様に認められるためにパイロットとして勉強、努力してきたこと」
「な、え……?」
「そしてアスティカシア学園に入学してからは連戦連勝の学園ホルダーになり、つい最近、水星から来たという一人の女子生徒にそれを奪われたこと」
「うそ……だ」
「それも一回は勝敗を取り消した上で二回目も敗北して」
「それは意志拡張型AIが!」
「貴女がそのAIに振り回されたことによって、敗北の一助になったことは認めましょう。でもそれだけではないはず」
俺の脳裏を、これまでの学園生活を含む人生が走馬灯のように流れた。
よりにもよって誰が聞いているかも分からない公園の片隅で、最近受けた敗北という名の屈辱すらも掘り返されて、思わず叫びそうになったがそこは御三家らしく耐えた。 - 6二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:17:50
「お、大きなお世話だ! お前には何も関係ない!」
「もうじきフロントの季節が夏に変わるわ。そうすれば、学園内でも決闘関係なく恋の火花が散る時期になる。
そこで恋愛の神たる私の仕事が始まるのだけれども、このご時世、恋愛の一つや二つでは自分を賄えなくてね。
今では末端も末端なMS開発企業を立ち上げて働かなくてはならないの」
「ちょっと待て。話が全然見えてこない」
「けれども私の本職はあくまでも恋愛の神様だから、すぐ傍で恋の火花が発生しているのを見たら居ても立っても居られない。最早習性ね」
女は嬉しそうに笑いながらタブレットを懐から取り出す。いきなり阿呆な話を始めたせいか、その懐から取り出すのは実は暗殺用の銃ではないかと警戒しなかった俺も俺だが、電源が入れられたそれを素直に見てしまう。
「ここにスレッタ・マーキュリーの顔写真があるわ。そしてその両隣には左にミオリネ・レンブラン。右には貴方、グエル・ジェタークがいるわ。分かるわね?」
「どういうことだ?」
「思いのほか頭が堅いのね」 - 7二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:18:22
今日初めて出会った女に馬鹿にされた。
普段の俺であれば即座にその売られた喧嘩を買って決闘に持ち込むところだが、生憎二度の敗北によって父さんから決闘禁止令が出ている。
苛立ちを隠さない俺に対して、女は怪しい笑みを浮かべてこちらへと向き直る。
その際に、ヘルメットに青白い光が走ったような気がしたが、見なかったことにした。
「私は恋愛の神様として、貴方が公開プロポーズした女の子、スレッタ・マーキュリーを誰かとお付き合いさせようとしているわ」
そして、女はそこで一旦言葉を切り、更にこちらへと身を乗り出してくる。
「要するに、貴方かミオリネ・レンブランのどちらかよ」
フロントの管理者によって空調は調整されているはずなのに、風が右側から流れてきた。
見れば空を映すモニターはすっかりと夜を示す暗闇を表示している。
「希望があればこの名刺に掛かれた会社へと来なさい。シン・セー開発公社よ」
この奇怪な風貌の女は恋愛の神を名乗り、スレッタ・マーキュリーを俺かミオリネのどちらかと結びつけると言う。 - 8二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 15:22:25
別スレで「恋文の技術」なんて久しぶりなタイトル見てしまったからついつい書いて
その書き込んだ人が見ているのかも分からないが、何となく返礼(?)としてスレ立てしてしまったことは本当に申し訳ない
元ネタは森見登美彦氏の小説「四畳半神話大系」より
伸びないだろうけれども伸びたら続き書きまぁす!