- 1二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:53:54
書類を提出して、眠気を誤魔化すために瞼を擦りながらトレーナー室に帰ってくると、ムスッとした顔のキタサンブラックがソファーに座っていた。
おかしいな?出ていく前は普通だったよな?『いってらっしゃいトレーナーさん!あたし待ってますね!』うん、こんな感じだった。いや、でも一瞬悲しそうな顔してたような……?少なくとも、怒ってはいなかったはずだ。
今ここで考えても仕方ない。とりあえず声をかけてみて、様子を伺おう。
「キタサン?」
「………………」
ムスッとした表情のままで、俺の声に反応もしてくれない。これは間違いない……怒ってる……。
でも、何をしたんだ俺?分からないぞ……。
頭を抱えて悩んでいると、キタサンがムスッと顔のまま小さく手招きしている。
怒っているけど、来てほしい……ということだろうか……?分からない……もう少し頭が冴えていたら、分かるのかもしれないが……。
とにかく、呼ばれたからには行かなくては……。恐る恐るキタサンに近づく。するとキタサンは、少し横に逸れて、ポンポンと優しくソファーを叩いている。
えっと……隣に座ってほしいということだろうか?断る理由もないので、大人しくそれに従うことにした。
「その……何かあったのか……?」
「…………」
プイッと横を向いたまま答えてくれない。
本当に何をしてしまったんだ俺?行動を思い返してみる。
キタサンに嘘は……ついてないな。何より俺が嘘ついてもバレそうな気がするし。いや、待てよ……?広く言えば嘘に当たることしてたな……。
なるほど……キタサンが怒るとしたらこれしかないな……。
「最近ずっと夜遅くまで働いてて、それを隠してたのは謝るよ」
「……そうですか。隠してたのはそれだったんですね……」 - 2二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:54:26
俺の言葉を聞いて、すぐにこちらを向いて悲しそうな顔になっていた。
突然の表情の変化に面食らってしまい、思わず後ろに退く。しかし、キタサンはすぐに距離を詰めて、悲しそうな瞳でこちらを見つめていた。
「寝不足は体調を崩すきっかけになるんですから、しちゃ駄目なんですよ……」
「いや、でも……」
「駄目なんですよ……」
「はい……」
「それならよかったです……」
キタサンのうるうるとした瞳に勝てるわけがなく、同意せざるを得なかった。
俺の言葉に安心したのか、ホッした顔に戻っていた。あれ?
「キタサン、もう怒ってないのか?」
「怒る……?あっ……!えっと……その……」
顔を傾けて俺の言葉を復唱したかと思えば、何かに気づいたように驚いた顔をして、しどろもどろになってしまった。
そうしていると、シュン……とした顔でこちらに向き合ってくれた。
「ごめんなさいトレーナーさん……。あたし本当は怒ってなんかないんです……。それなのに無視しちゃって……本当にごめんなさい……」
よかった……。本当に怒っていたわけではなく、理由があってそうしていたみたいだった。
それなら、どんな理由で怒ったフリなんかしたんだろう? - 3二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:54:49
「いや、怒ってないならいいんだよ。でも、どうしてあんな事を?」
「実は……ですね……」
目を伏せながら、ポツポツとその理由を話してくれた。
元々は、俺が何か隠してるのが気になっていたのが始まりだったらしい。
ただ、聞くタイミングが中々なかったこともあり、何も出来ないまま、今日まで来てしまったとのことだった。
焦ったキタサンは、俺が居なくなったタイミングで親友に電話して、どうすればいいかを相談した。
悩んでいるキタサンの為に考えた方法が、いつもと違った態度をとって、相手を動揺させることで隠してる事を自分から話してもらう、というものだった。
「ダイヤちゃんはあんまりやらないほうがいいとは言ってくれたんです……。だけど、不安が強くなっちゃってて……。早く聞かなきゃって焦っちゃって……。だから……その……本当にごめんなさい……」
そんなことはない。悪いのは隠していた俺の方で、謝らないといけないのも俺の方だ。
そのことを、頭を下げているキタサンに伝えなければいけない。
「そんなことないよ。謝るのはこっちの方だ。隠しててごめんな……。それと心配してくれてありがとう」
「トレーナーさん……!謝らないでください……!」
しっかりと頭を下げて謝罪と感謝を伝える。すると、キタサンが慌てた声でそう言った。顔を上げると、声と同じで慌てた様子になっていた。
「悪いのはあたしの方です!」
「いや、俺の方だよ」
「あたしです!」
「俺の方……って言っても聞いてもらえないよな……。どっちも悪いということにしないか?」
「むむむ……」 - 4二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:55:17
簡単には納得してくれないみたいで、複雑そうな顔で悩んでいた。その姿を微笑ましく思いながらも、どうしたらいいか考える。
よし、これならどうだろう。
「それなら、お互いに1つお願いを聞くのはどうかな?」
「お願い……ですか?」
「うん。悪いことをしたと思うなら、いいことで返すのが、きっと一番だと思うんだ。そうだな……俺なら……うん。キタサンに笑って欲しいとかかな」
「笑う……」
「君の笑顔は皆を温かくしてくれる。俺はずっとそうだった。だから、悲しそうにしてるとやっぱり辛いよ」
「俺のお願い聞いてくれるかな?」
「……」
俺の言葉を聞いて、少しだけ俯いてしまう。けれど、それもすぐのことだった。
顔を上げてペチペチと頬を叩き、拳を握ってこちらを見る。
キタサンの瞳はキラキラと光っていて、いつもの笑顔に戻っていた。
「分かりました!このキタサンブラック、頼まれたことは守ります!お助けキタちゃんにお任せあれです!」
自信に満ちた様子を見て安心する。俺はキタサンの、優しくも頼りになるところに惚れ込んだのだ。
「あたしのお願いも聞いてくれますよね?」
「もちろんだ」
俺の言葉を聞くと笑顔をさらに輝かせ、素早く俺の手をグッと握った。突然の行動に驚いてしまい、キタサンの顔と繋いだ手を何度も見てしまう。 - 5二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:55:42
「き、キタサン……?なんで手を握るんだ……?」
「あたしのお願いは……一緒にお昼寝です!」
「お昼寝……お昼寝!?な、なんで……?」
「軽いお昼寝なら、疲れもとれるって聞いたことがあります!睡眠不足で疲れ気味なトレーナーさんにピッタリです!」
「いや、仕事が……」
「15分くらいなら大丈夫ですよ!それに、休んだほうがきっと効率も上がります!」
キラキラした瞳の強さに押されてしまい、何も言えなくなってしまう。
いや、それよりも何よりもだ。これは、キタサンからのお願いなんだ、これくらい叶えるのは簡単だろう。それで笑顔になってくれるなら、喜んで受け取ろう。そう思い直して、キタサンに向き直った。
「分かった。ちょっとだけお昼寝するよ」
「えへへ……それなら、ソファーどうぞです!」
キタサンは手を離した後にゆっくりと立ち上がり、ソファーに横になるよう誘導する。
俺はそのままソファーで横になってゆっくりと目を瞑った。
「暫くの間お休みなさいです、トレーナーさん!」
「ああ、時間が来たら起こしてほしい」
「任せてください!」 - 6二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:56:05
心強いキタサンの声に安心したからか、頭の中に靄がかかるようになってきた。きっと、もうすぐに意識が闇に消えるのだと確信が持てた。
意識が遠のく最中で、右手を握られる。
凄く温かい。
「ゆっくりと休んでくださいね……」
その声と一緒に頭を撫でられた。
それは、自分よりも小さいけれど、何もかもを包んでくれる優しい手だった。
穏やかな声と撫でられる感覚に導かれながら、意識が消えていった。 - 7123/06/18(日) 19:58:45
書きたいお話が中々書けなくて、息抜きも兼ねて書いたお話です。
6月はこの月にあったテーマで書きたかったんですけど、中々上手くいかないですね……。
ムスッとした顔のキタちゃん可愛いだろうけど、見るのは怖いですね……。怒らない子が怒るのって何よりも怖そうです……。 - 8二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 20:16:59
息抜きは大事だよ〜
スレ主のトレーナーとキタちゃんはいつも可愛いねぇ、末永く微笑み合っててほしい
無言のまま手招きして無言のまま座るように支持する様子を想像して可愛すぎてニコニコしてしまった - 9二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 20:22:12
梅雨にピッタリのしっとりキタちゃんはこの時期の乱れがちな自律神経を急速に回復させてくれる…良き
「悪いのはこっち」のキャッチボールにお互いの信頼関係がよく現れてて好きです - 10123/06/18(日) 20:29:47
- 11二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 20:42:32
一緒にお昼寝、と言うからくっついて寝るのかと思った私は汚れていたらしい…キタちゃんはいつも優しくて可愛いですね
- 12123/06/18(日) 20:48:54
感想ありがとうございます。
一緒にお昼寝と言ったら普通そうなりますから汚れてなんかいません、大丈夫です!
一緒にお昼寝に関しては、くっついて眠るのも考えてはいたので間違いではないと言いますか……。はい……日和りました……。
本当にキタちゃんは優しくて可愛いですよね……。分かります……。