- 1二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:07:37
「ふむ……それなら私と同じ布団で寝るというのはどうだろう。」
──言った。言ってしまった。
窓から注ぐ月明かりしか光の頼りはないが、一瞬、彼が目を丸くしたのが分かった。
「人肌、体温というものは安心感を与える効果がある。
そうすれば睡眠の質も向上し、よりよいリラックス効果も得られるだろう。」
それらしいことを言い、眼鏡の縁を触れようとする。
そして、寝る前なので自分が眼鏡を外したことに気づき、そのまま行き場のない手で痒くもないこめかみを掻いた。
緊張していると、ここまで思考が鈍くなるのかと思い知らされた。
「さぁ、こちらへ来てくれ。スペースは既に開けてある。」
そう言って布団の隅に寄り、彼一人分のスペースを明け渡す。
そして、布団の端を持ち上げ、彼を自分の隣へ来るように誘導した。
少しはだけた浴衣姿の私は、彼の目にどう映っていただろうか。
彼は少々動揺する様子を見せたが、何も言わずに隣へ来てくれた。
そうして横たわる彼を見て、心の中で胸を撫で下ろす。
……今思うと、私の本心がバレていた可能性もある。
だがそれはもう、大した問題ではないのだ。 - 2二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:08:21
流石だ姉貴
- 3二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:08:38
とりあえずありがとう(ハヤヒデ推し)
- 4二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:11:13
何がヒト肌だ
ヒトミミつけてから出直せ - 5二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:13:03
ウマ娘視点助かる
- 6二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:15:32
「…………うっ……」
この計画には何度も計算外があった。
その一つ目が……情けないことに、自分の毛量を考慮していなかったのだ。
ふと隣に目をやると、彼の半身が私の髪の毛で埋もれてしまっているのが見えた。
「す、すまない、トレーナー君。どうやら私の毛量は……二人で並んで眠るにはいささか多いらしい……。」
本当ならここで二人、天井を見上げ、他愛もない会話をするつもりだった。
もし仮に、後で彼に拒まれようとも……せめて少しでも、多くの思い出を残しておきたかった。
滑稽な理由で計画は頓挫する。
その代わりに、私の脳は新しいルートを演算したようだ。
「仕方ない……私の髪の毛を君の方にやらないためには……。」
わざとらしく、理由を述べながら体勢を変える。体を倒し、彼の方へ向く。
そうすると、こちらを向いていた彼と目が合った。
「こ、こうして……向かい合うしか……。」
流石に、露骨過ぎただろうか?
勝手に口調が弱まる自分が、恥ずかしくて仕方がない。
……そういえば、彼は何故こちらを向いていたのだろう。
もしかすると、私のことを……いや、根拠の無い推論はやめようか。 - 7二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:22:41
「……め、迷惑だっただろうか?」
つい、口からこぼれてしまった。
自分の自信の無さから、無意識に保険を掛けてしまう。
こんな問答は無意味だというのに。
「……と聞くのも卑怯だな。
こう聞けば君は首を振るに決まっているのだから。」
速やかに反省し、正直に自分の考えていることを口にした。
彼が私の我が儘を、真っ向から否定してきたことなどまず無い。
仮に私がいきなり『君の血が欲しい』などと宣っても、正当な理由さえあれば、彼は二つ返事で自分の腕を爪で引っ掻くだろう。
それほどまでに、彼はどうしようもなく優しいのだ。
だから私は──
「そして──こうして君を抱きしめようと、君は拒まないのだろう。」
──その優しさを貪るように彼に甘えるのだった。 - 8二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:30:43
助かる
- 9二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:35:34
「私は卑怯者だな。自己嫌悪の感情すら湧いてくるよ。」
口とは裏腹に、彼の体を抱き寄せる。浴衣越しに伝わる彼の体温が心地良い。
彼は黙って私を抱きしめ返す。腕に包まれる感覚に思わず顔が綻ぶ。
先刻までの緊張が、嘘のように解けていく。
「君がどうすれば私を拒まないか、頭が勝手に計算してしまうんだ。」
そう、私は彼の優しさに触れすぎた。
心という不安定なものでさえ、計算に組み込んでしまえるほどに。
「私の脳は……どうしても君が恋しいらしい。」
顔を限界近くまで近付ける。
あと少しで自分の唇が、彼の唇が届きそうなほど。
寓話に出てくるプリンセスのように、私は思わず目を閉じた。
その時だった。
「…………なっ!?」
彼は私を更に深く抱き寄せた。
動揺する私など気にも止めずに、彼の手は滑り落ちるように、私の体を撫でていく。
「トレーナー君、そこは……んっ……。」
……どこを撫でられたのかは、私と彼の名誉の為に、伏せさせてもらおう。 - 10二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:42:36
「困ったな……これは計算外だ……。」
彼の手捌きに少し体を震えさせながらも、私はひとまずその手を制する。
……このまま放っておけば、私は彼と、もっと深い仲になれたかもしれない。
ただ、私は今更になって怖気付いた。
私の脳は一つの可能性を算出してしまったのだ。
その可能性とは、『彼が優しさから私の体に触れている』という可能性。
彼が、私の肉体目当てならまだ良いだろう。私を好いてくれているだけ健全ですらある。
だが、『彼が優しさから私を拒めず、無理をして触れている』というならば、私はこのまま彼に体を触れさせるわけにはいかない。
「……トレーナー君、ひとつ聞かせてくれ。」
彼の腕に抱かれたまま、私は尋ねる。
自分の声が震えていることには気付けないまま。 - 11二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:47:32
「その行動は、叶わぬ恋に落ちた私への憐憫からか?それとも君の本能か?
前者なら……今すぐにその手を止めてくれ。」
ああ、もしもこの私を抱きしめている手を緩められたらどうしようか。
このまま私を抱く腕を解き、何事も無かったかのように仰向けになったらどうしようか。
「ごめん、ハヤヒデ」と、謝られたらどうしようか。
だが、もしも──
「──もし後者というのなら……。」
私はそのまま言葉を紡ぐ。
恐怖も期待も勇気も込めた、私の正直な気持ちを乗せて。
「……このまま、私を好きにしてほしい。
トレーナー君。」 - 12二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:50:14
サンキュー
- 13二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:57:57
今日>>1にありがとうと言いたい
- 14二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 01:58:03
それから時が止まったような、静寂が訪れた。
永遠のようでいて、刹那のようでもあるその時間。
胸と鼓動を止められないままに、私は彼の返事を待った。
だが──
「……トレーナー君?」
──彼の小さな寝息に気付き、私は全身の力が抜けてしまった。
どうやら長々と語り過ぎてしまったらしい。
「…………やれやれ。まさか寝落ちするとは……一番の計算外だ。」
内心、どこか安心しつつ、私は彼の腕を解く。
乱れた浴衣を整えつつ、彼の寝顔に目をやった。
それにしても、なんて安らかな寝顔だろう。
……いや死んでないが。
「綺麗な寝顔だ……幸せな夢でも見ているのだろうか。」
期待していた解答は得られなかったが──もしも私が、その幸せそうな寝顔の要因になっているならば、それはこの上ない喜びだ。
「数刻とはいえ、幸せなひと時だったよ。いつかまた続きをしてもらおうか。」
そう言って二人だけの空間で、私は一人で悪戯に笑う。
孤独の無い静寂と、落胆の無い脱力感が、妙に心地良かった。
そして私は彼の耳元で、囁いた。
ほんの少しの期待と、胸いっぱいの感謝を込めて。
「……愛しているよ。トレーナー君。」 - 15二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:02:22
『──俺もだよ、ハヤヒデ。』
「……え?」
その言葉が空耳だったのか。
彼は本当に眠っていたのか。
私が浴衣を整えた意味はあったのか。
"いつか"の続きはいつ行われたのか。
その問に、もちろん解はあるが──
生憎、それは私だけの秘密だ。
-(無粋な蛇足)の終わり- - 16二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:03:29
本家の続きに書いてもええんやで
- 17二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:04:52
このレスは削除されています
- 18二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:05:22
こういうスレって有志によって挿し絵ついた例ある…?
- 19二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:08:19
このレスは削除されています
- 20二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:09:25
- 21二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 02:12:42
読ませる文章書きやがって♡
- 22二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 03:34:26
よるあげ
- 23二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 04:20:11
更にあげ
- 24二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 05:59:57
- 25二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 16:36:28
姉貴ほんま可愛いな
- 26二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:53:54
興奮しちゃうじゃないか…♡
- 27二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:56:34
本当に本当にありがとう
- 28二次元好きの匿名さん21/08/29(日) 00:34:48
助かる
- 29二次元好きの匿名さん21/08/29(日) 00:37:30
なかなか寝付けないことに感謝したよ。
ありがとう、こんなに素晴らしいものを読ませてもらって… - 30二次元好きの匿名さん21/08/29(日) 00:38:41
ああ・・・これでやっと寝れる
- 31二次元好きの匿名さん21/08/29(日) 00:42:53
助かる