【SS】どこまでも続く空

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 22:05:13

    夏の中に、私は居る。

    その日は快晴で、嫌になるほどの熱が私を照らしていた。
    青と緑をかき消すほどの透明。
    鮮明に錆びついた情景の中、舗装などされていない砂利道の緩やか斜面を進んでいく。
    汗が滴り、息が乱れてくる。
    じっとりとした嫌な気分も今は、気にならなかった。

    より一層暑さが増し、影はその姿を消した頃、ようやく目的地へと到着する。
    青空に包まれた緑以外、何も無い丘の上。
    いくつかの墓が、マイルストーンの面影を残すように点在していた。
    その中にひとつ、まるで赤ん坊のように小さな墓石が置かれている。
    まるで誰かを、待ち続けていたように。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 22:05:25

    「ごめんね…来るのが、遅くなっちゃって」
    音も無く輝く太陽の下で、暫しの静寂を噛み締めて。
    今、あなたに伝えなければ。
    「ありがとう。あなたのおかげで目が覚めたわ」
    子供と目を合わせる時みたくしゃがみこみ、静かに佇む大理石に話しかける。
    「私、ずっとあなたの事を誤解してた」
    ふたりを邪魔するものなど無い、その場所で。
    「私のやっていた事は間違いだった…あなたにも辛い思いをさせてしまったわね。本当に、ごめんなさい」
    片時も忘れた事のない、あなたに。
    「けれど、今はもう大丈夫。私ひとりでも、前へ進めるから…」
    私の想いを、伝えなければ。
    「だから…ありがとう、本当に」

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 22:05:42

    線香を焚き、手を合わせる。
    目を開けると、線香の煙が無情にも上へ上へと登っていくのが見えた。
    それがなんだか悲しく見えて。
    陽の光に照らされた墓石を、そっと撫でる。
    「…もう大丈夫だって、言ったばかりなのにね」
    もう、あの子はいない。
    そう、分かっていた筈なのに。
    「でも、なんでかな」
    受け止めていた、筈なのに。
    「あなたがもういないだなんて、やっぱり、さみしいよ…」
    晴れ渡る空の、煌々とした光のなか。
    ぽたりぽたりと、地面を雨が濡らし始めた、その時。
    ふわり、風が吹く。
    「…ぁ」
    私の身体を抜けていった、一筋の風。
    優しい風が、錆びついた私の頬を撫でながら。
    『大丈夫だよ』
    そう、あの子が言っていた。
    そんな気がした。


    晴天のなか、立ち上がる。
    再び訪れた静寂の中。
    晴れやかな空は、どこまでも続いていた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 22:18:52

    終わりです
    1レスにまとめたかったけど無理だった。
    無念。

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 22:30:53

    盆が近づいてきたなぁ…乙

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 22:40:07

    ちゃんとお別れできたのつい最近だもんな


    > 目を開けると、線香の煙が無情にも上へ上へと登っていくのが見えた。


    ここ好き 煙って見える範囲で消えちゃうよね

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