むかしむかし

  • 1◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:32:10

    ある国にカフェというお姫様がいました。
    お姫様は小さい頃から見えないものが見える娘でした。
    周囲は不気味がり、距離を置くようになりました。いつしかカフェは部屋に閉じこもるようになりました。
    ある日のことです。風の噂で奇妙な姫さまがいることを聞きつけた隣国の王子がお姫様を一眼見たいとその国に来賓としてやってきました。

  • 2◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:32:22

    使用人に案内されドアの前に王子が立ちます。使用人はそそくさとさっていきました。
    「お姫様。出てきておくれ」
    「あなたは誰ですか」
    「貴方に会いにきたものです。扉を開けてくれますか?」
    「…お友だちが開けるなと言っていますので」
    「ほう!お友だち!」
    王子は目を輝かせながらその言葉に反応しました。
    「それはまた興味深い。是非とも話がしてみたい」
    「帰ってください」
    「分かった。今日は帰りましょう。私の名前はタキオンです。覚えてください」
    「覚えません」

  • 3◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:32:47

    次の日のことです。
    まだ太陽が頭を出したばかりです。
    「おはようございますお姫様。さあ出てきて話しましょう」
    「…………常識とかないんですか?」
    「早朝は空気が清々しい。人もあんまりいませんよ。出てきて話をしませんか?」
    「人の話を聞いているんですか?」
    「出ないという事かい?でも大丈夫。今日は私の国の物語。それを君に聞かせましょう」
    王子はその手の書物をポンポンと叩きます。
    「まだ夜には早いですよ」
    「まあまあ聞きたまえ。どうせ君は一日中暇だろう?」
    タキオン王子がドアに背を預けた途端。
    その手の書物が勢いよく燃えました。
    「ああ!?私の書物が!?」
    「帰ってください」
    「そうかい…今日は帰ろうか…」
    しょんぼりしてしまった王子は内心明らかな心霊現象に王子はますます興味を惹かれました。

  • 4◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:33:04

    王子は通い詰めました。
    ある日は自分の国から持参した茶葉でお茶を淹れて行きました。
    「さあさあ!紅茶を飲みましょう。美味しいお菓子もありますよ」
    「飲みません」
    「ああ!?カップが!?」
    「……あとタキオンさん。私はコーヒー派です」
    タキオン王子はあまりにしつこいのでお姫様はいつしかタキオン王子の名前を覚えてしまいました。
    ある日はよく分からない器具を持っていきました。
    扉の前に座り込み、何やら器具を触り始めます
    「私はこう見えても実験家。数々の薬も作れます」
    「そうですか」
    暫くカチャカチャという音が響きます。
    「できたよ!」
    「うるさいです」
    「ククク…アーッハハハハ!身体が!身体が光り輝いているぞぉ!実験は成功だ!」
    「ええ……」
    お姫様はタキオン王子の事を変人と思いました。
    カフェのお友だちもタキオン王子に威嚇をしています。

  • 5◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:33:25

    心霊現象が強くなるもタキオン王子の知的興味は止められません。
    来る日も来る日もタキオン王子は通い詰めました。
    そしたら押しに負けたのか、お姫様は段々とドア越しですが自分から話をするようになりました。
    ちなみにお友だちはもう「部屋に入らなければお好きにどうぞ」と面倒くさくなっていました。
    ある日は食べ物の話を。
    「今日は…お腹が良く空く日でした」
    「食べ過ぎじゃあないのかい?さっき運び込まれたあんな食べ物の山、私も食いきれないぞ?」
    ある日は体質の話を。
    「先程の人だかりは?」
    「身体が重くてベッドが壊れたので」
    「壊れたのかい!?」
    たまーに、お友だちの話も(仕方なく)しました。
    「誰と話しているんだい?」
    「聞き耳立てるとかデリカシーないんですか?」
    とまあこんな感じで色々な話を二人はドア越しで話します。

  • 6◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:33:42

    ある日のことでした。
    話している途中のことでした。
    大きなものが床に倒れ込む音がします。
    「…タキオンさん?」
    返事はありません。
    ふざけているのでしょうかとカフェは思います。
    しかしどれだけ経ってもタキオン王子の声がしません
    お友だちに聞いて見ます。
    首をふっています。
    暫くドアの前で考え込み。嫌そうにドアを開きます。
    するとタキオン王子と思われる人物が倒れているではありませんか。
    お姫様はあわててドアを開けました。
    お姫様は今日、初めてタキオン王子を見ましたのです。綺麗な顔をしています。
    しかし顔に生気があまりありません。
    お友だちは「何もしていないのになんで…?」みたいに困惑しています。
    とりあえず揺さぶってみます。
    返事はありません。
    叩いて見ます。
    返事はありません。
    思いっきり叩いて見ます。
    「……痛っ!?痛いよカフェ!痛い痛い!」
    やっと返事がありました。
    「どうしたんです。倒れ込んで」
    「えっと……ご、ご飯…」
    「……えっ」
    「ご飯をおくれ……」
    なんてことはありません。
    ただお腹が空きすぎて倒れたのです。

  • 7◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:34:10

    お姫様は頭を抱えます。
    いろいろ考え込んで、ため息一つつきました。
    タキオンを部屋に引きこみます。
    重いのでお友達がポルターガイストを介して助けてくれました。
    何かしらテンションが上がっているタキオンをソファに向け雑に放り投げ、久々に城の中を歩くことにしました。
    迷いそうになったらお友だちが案内をしてくれます。
    城内で聴こえるのはいろんな声でした。
    ですが気にすることはありません。
    タキオンの方がうるさいので。
    厨房でスープとパンとお菓子を少し貰います。

  • 8◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:34:30

    とりあえずスプーンでスープを掬い餌付けしているみたいにタキオンに食わせます。
    聞けば何日も連続で話しに来たせいでろくに物を食べてないそうです。
    …馬鹿じゃないかとお姫様は思います。
    さらに聞けばしょっちゅうあるとのことです。
    ……この人馬鹿だとお姫様は思います。
    あの後王さまからは「王子のために外に出たのかい?ふむ。よろしくやりなさい」と暖かな手紙を部屋に送られました。
    何か勘違いをしていると、正そうとしましたが、とりあえずめんどくさいのでお姫様はそのままにしておきます。

    タキオンとカフェはその日から対面で話すようになりました。
    まあもう部屋に入れたしもういいやという理由とまた倒れてしまったら困るからです。
    きっと今日も変わらずうっとおしくタキオンがカフェに絡んでいることでしょう。
    めでたしめでたし

  • 9◆vd9x5eft9s21/12/08(水) 00:34:43
  • 10二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:35:53

    ナイスSS!

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:36:12

    good job.

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:36:16

    良いね

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:38:11

    よくがんばったな!

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:40:11

    面白かった!
    開かない扉に通い詰めるの童話感あってとても素敵だった。ぽかぽかする。

  • 15二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 01:07:53

    面白かった(こなみ)

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 04:27:51

    こいつは素敵だ、大好きだ

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