【SS】これはあらゆる言動が湿気ているパーマーにビビるマックちゃん

  • 1◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:47:30

    「──ねえ、行っちゃおっか」

     さっきよりは弱くなった雨、ぬるく湿った風、未だドロドロ不良状態の正門前通路。少し上目遣いになったメジロパーマーは傍らに立つトレーナーの顔を覗いた。

    「行くってまさか」
    「大丈夫、大丈夫。トレーナーと一緒なら私、怖くないからさ」
    「怖い怖くないじゃなくて──だって、まだ」
    「”まだ”も、”だって”も今は禁止だよ、トレーナー。どうせ行くなら早い方がいいって教えてくれたのはトレーナーなんだから」
    「レースとは別だろう」

     目を細めて彼女は笑う。心なしか楽し気な、揶揄う様な含み笑いに心臓が跳ねる。それすら見透かされているかのように彼女は一歩々々確実に、退路を、塞いでいく。

    「──もともと言い出したのは、トレーナーの方だった気がするんだけどなー。これはパーマーさんまさかの聞き間違えしちゃったかな?」
    「……わかった、わかったからそんな言い方しないでくれよ」
    「聞き分けがよろしーい」

     ばしゃり。
     泥水へ先に踏み出したのは彼女の方。革靴に踏みつけられた茶色が跳ねて、それが靴下へまだらを作るのも構わずに二歩三歩と踏み出して、雨の中躍るように回って見せる。

    「あ──はッ、見て、汚しちゃった」
    「……パーマー」

     泥だけではない。昨晩から緩く続いている雨がメジロパーマーのブラウスに、髪に、顔に、大小無数の跡を付けていく──

    「一人で、行くな」
    「じゃあ一緒に行こうよトレーナー。連れて行ってくれるんでしょ」

     そんな目で見られて踵を返せるわけがない。
     いま行くよと小声で零して──濁った水面を踏み砕いた。

  • 2◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:47:54

    >>1

    *****


    「あ……あわ……あわわ……」


     葦毛の長髪が震えていた。


    「見……見てしまいました、わたくし……見て……」


     髪だけではなく手も震えていた。散々タップし慣れたはずの番号入力すら手間取ってしまう。こういう時、一番頼りになる連絡先は──


    『──ヘーイもしもしこちらゴールド生活センター相談窓口だぜ!ピーッっつったらお困りの要件を何でも叫んでくれ!はいピーッ』

    「ゴ、ゴルゴルゴッ!!」

    『ゴルシちゃんと数字の13の相性は50%くらいだな!ちなみにゴールド生活センターは新聞広告出してないぞ!じゃあもう一回。ピーッっつったらお困りの要件を何でも叫んでくれ!はいピ』

    「ゴールドシップさんッ!!今すぐ来てくださいまし!大変な、大変なことが!!メジロ家解体の危機ですわッ!!」

    『本当に叫ぶヤツがいるかよマックちゃん』

    「パ、パーマーが……」


    「パーマーが駆け落ちしました!!!!」

    『な……なんだってェ────ッ!!!!』

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 23:48:00

    ビッグマックちゃんってなんだよ

  • 4◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:50:51

    ※以前建てたんですけど諸事情で爆破したので立て直しました

    梅雨時なのであらゆる行動が湿ったパーマーがトレーナーとデート
    ……するのを見て掛かり散らすマックちゃんと付き添いのゴルシで江ノ島を旅します

  • 5◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:51:33

    >>3

    (一点を凝視する)

    ……そこになければないですね

  • 6◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:52:02

    >>2

    *****


    「ずっとさ、楽しみだったんだよね。今日のお出かけ」

    「ありがとう……天気予報外れたな」

    「トレーナーが一緒なら、天気なんて関係ないよ」


     言い返せる言葉の持ち合わせがないのを、運転に集中するフリでごまかした。

     助手席に座るメジロパーマーは肩にタオルを巻いたまま、窓の向こう側を次々と流れていく雨粒を見つめていて、反射して見えるその表情こそ読めないが声音は明るい。


     レースに勝ったご褒美を提案したのは確かに私の方だったけれど、まさか車に乗ってのお出かけを所望されるとは全く予想していなかった。自分の詰めの甘さに後悔しながらなんだかんだと言いくるめられて、こうして彼女と二人中央自動車道を南東へと走っている。


    「トレーナーはさ、どうなの」

    「何が?」

    「何ってほら、私は確かに雨でも全然平気だって言ったけどさ。トレーナーが嫌だったら……まだ八王子にもついてないし、引き返してまた次の機会にー、でもいいよ」

    「パーマーはそれでもいいのか」


    視界だけ左に動かす。やはり表情は読み取ることができない。


    「私のことは心配しなくて大丈夫!結構その辺はちゃんと割り切れるからさ。──うん。天気が理由なら、仕方ないもんね」

  • 7◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:52:30

    >>6

    「行くよ、私だって今日が楽しみだったんだ」


     カーナビのボタンをいくつか押せば、ガラスに当たって砕ける雨の音をギターとドラムのサウンドが上書きして消していく。


    「パーマーと一緒に出掛けるのが楽しみで今日まで過ごしてきたんだ。ここまできてリスケなんて嫌だね」


     しばしの沈黙を挟んだ後、そっか、と呟く声がした。

     身じろぎする音がして、彼女の香りが鼻腔を撫でる。


    「ありがとう、トレーナー。”私と一緒の時間”を考えてくれて」


     何か一言でも口にすれば空気を台無しにしてしまいそうで、怖くて、引き結んだ口のままゆっくりと頷いて答えるしかできなくて、囁かれて熱くなった左耳の赤さを隠す手段もない。


    ──♪甘い、弱い、何も出来ない僕が 明日生きるための、頑張るための一言──


     歌詞までシンクロして、心の内をすべてつまみ出されたようだった。

  • 8◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:53:23

    >>7

    *****


    中央自動車道に低いエンジン音が響いている。

    天気は相変わらずの雨。弱くなったとはいえ傘が欲しい程度の雨量はあって、家を出るのが少し億劫になる天候であった。


    「──ええ、確かに私はあの二人を追いかけたいと言いましたわ」

    「流石にGPS仕込むのは流石のゴルシちゃんもドン引きよ、帰ってきたらちゃんと謝んなきゃだめだぞ」

    「もちろん謝ります、今日二人が無事にトレセン学園まで帰ってくれば、もちろん。貴女にも足を用意いただいた恩がありますから」

    「あーんな必死に叫ばれちゃったもんだから超ビビッちまってさ、必死でゴルゴル号漕いで来たんだから感謝しろよなー」


     時刻は午前10時、メジロマックイーンの救難信号を迅速に拾ったゴールドシップが高速道路に乗り込んで、まだ15分も経っていない。


    「ええ、ゴルゴル号。確かにゴールドシップさんに相応しいワイルドさです」

    「だろ?あげねーぞ?」

    「いや要りませんわ……ッというかそれ以前に、なんかもうちょっとなかったんですのッ!?」

    「あー叫ぶな叫ぶな、なんだよマックちゃんフラットツインが嫌いかよ」

    「だってこんな、こんな、雨ざらしだなんて聞いてませんわッッッッッ!!!!!!」

    「あー!?電話口でゴルゴル号をご指名したのはマックちゃんじゃんかよ。アタシだってこんな雨の中サイドカー運転したかァなかったのにさー」

    「オーダーした覚えなんて……ぇんぶしゅッ!」


     中央自動車道を赤いシルエットが駆けている──ウラル・サハラ。

     サイドカーにちょこんと座りこんだメジロマックイーンは、ヘルメットバイザーに打ち付ける雨の感触に名優の顔を捨てて、今日何度目かの盛大なくしゃみをした。


    「あー……もう、とにかく、今パーマーはどこに向かっていますのッ」

    「分かんねーけどちゃんと付けてるから安心してなマックちゃん。動きがあったら知らせるし適当に寝ててくれていーぞ」

    「寝られるわけないでしょうッ」


     返事の代わりにスロットルが深く回される、小さく悲鳴を上げたマックイーンは諦めたように背もたれへ身を預けた。

  • 9◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:54:57

    >>8

    *****


    「なんかさ──トレーナーって懐かしい曲聞くんだね」

    「いやこれはどっちかというと……親が若者だったころに流行ったやつを聞いて育ったからそうなったというか」

    「あははっ、いや全然責めてるとかじゃなくてさ。面白いなーって」


     相模川を横に見ながら進路を南に。湘南へ行くんだしサザンオールスターズでもかけるかと思った安直な先週の自分を呪ってやりたい。聞かされて育っていたものだからすっかり忘れていたけれど、とてもじゃないが”担当と聞くべきではない”曲が多すぎる。

     あと、サザンは茅ヶ崎──今回の目的地よりも少しばかり西がホームタウンだ。


    「──あっ、これ知ってるかも」


    ──♪稲村ケ崎は今日も雨 海啼く南風 砂にまみれ見つめあった 手をつなぎ泳いだ──


    「あ、ああ……確かにこの曲、有名だからな」

    「もぅ、大丈夫だってトレーナー。私こういう曲も好きだし」


     少し”大人”な歌詞もあるけれど、そこに触れない彼女の”オトナ”さは普段自分が見ているメジロパーマーそのもので、どちらかというと他のウマ娘に向けられることが多いその在り方を、現在進行形で享受している自分が情けないのである。


    「こういう時じゃないとなかなか聞けないから、良かった。……ねぇ、トレーナー。トレーナーの好きなもの、もっと教えてよ」

    「……ああ、私の好みでよければいくらでも」

    「トレーナーの好みが識りたいんだよ、私は」


     上ずった調子で紡がれた彼女の言葉に偽りの色は見えない。


    「わかった」

    「その──代わり、って言っちゃなんだけど。よかったらトレーナーにも、私の好みを少しでも知ってほしいなって。そしたらきっと、いつか学生時代を振り返った時にさ、あーあの時幸せだったなー……なんて思える気がして」

  • 10◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:56:29

    >>9

    「──パーマー、」

    「……や、ごめんごめん!ちょっとシリアスやりすぎたかも!流石に冗談!未来の話なんてマジわかんないもんね!……まだ秋だってレース控えてるし!爆逃げでブチ上げて勝つって決めてるし!」


     彼女は努めて明るく、冗談だと口にした。私は安堵した……嫌な、安堵だった。一瞬でも自分が何かを打算しようとしたこと、正面からその言葉を受けることに僅かな躊躇いを覚えたこと、そのすべてが杞憂で済んだと胸をなでおろしたこと……どれも嫌だった。


    「──でもね、今それくらい幸せなのも、本当のこと」

    「……そう、なのか」

    「うん」

    「そうか……ありがとう」


     彼女は再び窓の外を見やって、会話は途切れる。


    ──♪いつも僕をそばにおいて 二度と離さないで あの日に戻れたら

       走りくる影は 明日への追い風 永遠に見果てぬ夢──


    きっと満点の解答じゃなかった。

    サザンの歌詞に出てくるような大人には、まだ成れそうにない。

  • 11◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:57:24

    ※24時以降に更新途切れたら大体IP規制に引っかかってます

  • 12◆yHeFAtHegA23/06/27(火) 23:58:14

    >>10

    *****


    「つーかマックちゃんよー。そもそも秋にレース控えてるG1ウマ娘がそーんな軽々しく駆け落ちなんてするもんかね」

    「ゴールドシップさんはあの光景を見ていなかったからそう言い切れるのです。あれだけの迫力、きっと遠く誰もいないところへ爆逃げしていくに違いありませんわ!」


     追い越していく車からの注目を浴びながら、真っ赤なウラル──ゴルゴル号は南へ下っていた。サイドカーの感触にも大分慣れた令嬢は、そのヘルメットに備えられた窓の奥深くで怪しく目を輝かせる。


    「まず、聞こえてきた雰囲気から察するにパーマーが主導権を有しているようでした」

    「トレーナーに対して主導権握るのはウマ娘の基本だろうがよー。ゴルゴル号も出世払いで返すっつって買ってもらったしな」

    「いや貴女何してるんですの」

    「サイドカーほしいなって思ってさー。トレーナーに話す言葉を全部”ウラル”にしたら耐えかねて買ってくれたぜ。もちろんゴルシちゃんはえらいから出世払いで返すけどな」


     ウラルの新品が300万円以上することを、メジロマックイーンはまだ知らない。


    「それは”主導権を握る”とは言わない気がしますわ」

    「確かに。一週間かかったからな」

    「結構粘りましたわね!?……まあ、それはそれとして。それだけじゃありません、パーマーは制服ではなく私服でしたし、何やら荷物も抱えていました」

    「雨だもんなあ。そもそもマックちゃんもさぁ、トレーナーと出かける時おめかしするじゃんよ」

    「……いつの間に見られていたの……」


     ゴールドシップは答えなかったのではない、堪えられなかったのだ。トレーナーと出かける時の油断しきった顔を見物するのが楽しくてGPSを活用していたなんて言えるわけがないのである。


    「──油断禁物、あとは日頃の行いを振り返るってことだな」

    「今の間!なんですのそれッ!」

  • 13◆yHeFAtHegA23/06/28(水) 08:06:44

    >>12

    「……そもそもパーマーは少し、危ういところがあるのです」

    「確かに。ハロウィンの時はマジ規約ギリギリでゴルシちゃんハラハラしたぜ」

    「規約……?まあとにかく、どれだけ明るく振舞ってはいても急にふらりといなくなってしまいそうな陰をどこかに含んでいて──」


     空は灰色の波に覆われて、時折雨粒を落としながら風に流れて揺らいでいる。湿った風は不安の雲を心にもたらす奇妙な気持ち悪さをはらんで、メジロマックイーンを包み込む。


    「メジロ家の危機と言いましたが、実際それはあまり重要ではないのです……良く見知った仲間がもし、去ってしまうというのなら、引き留めて心の内を聞きたい。それだけですわ」

    「マックちゃん……」

    「──なんて、いけませんわね。メジロの者がそんなことを言ってしまっては」

    「マックちゃん、引き留めるのはたぶん逆効果だからやめた方がいいと思う」

    「急に真顔で諭そうとするのやめてくださる?あと運転するときは前見てッ」


     カーブに乗ってウラルが加速する。ヘルメットの奥に表情を隠して正面を見据え、ゴールドシップは言葉を続ける。


    「そういうトコまで背負うのは……おすすめしねーよ。マックちゃんがすべきなのは誰かが帰ってこられる場所を守ること、だ。誰かさんの恋路に出歯亀したくなる気持ちは分かるけど」

    「で、出歯亀って貴女──」

    「マックちゃんには似合わねーよ。精々湿気た空気の出し方勉強するくらいにしといたほうがいいんじゃねーか?」


     バイクに合わせた赤いライダースーツとヘルメットはそれ以上の言い合いを拒絶するかのようにまっすぐ前を向いている。


    「あとマックちゃん」

    「……何ですの」

    「この辺に海老名サービスエリアってのがあってさ。メロンパンがうめーらしい」

    「め、メロンパン!?今すぐ買いに行きましょうッ最優先ですわ」

    「わりーが今回はストーキングが優先だからスキップな!また今度トレーナーと来りゃいいよ!」

    「あーッ!わたくしのメロンパンッッッ」

  • 14二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 08:27:37

    表情がコロコロ変わるマックイーンがかわいい
    パーマー達とは違って物理的に湿ってるのも滑稽で面白い

  • 15二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 13:58:52

    >>8

    「ぇんぶしゅッ!」

    令嬢のくしゃみか?これが…

  • 16二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 17:48:34

    もっと続くのかな、楽しみ

  • 17◆yHeFAtHegA23/06/28(水) 20:44:32

    >>14

    早速仕込んでた小ネタに気づいてくれてありがとうございます、くだらないワンフレーズから状況描写まで、小ネタは突っ込んで行きたいですな


    >>15

    アッ見覚えのあるコメント......ありがとうございます


    >>16

    江ノ島周辺の観光を終えて帰宅するまでが旅ですので......ね。

    主は仕事やらIP規制の都合で21時〜24時位しかSS書けないのでスローになりがちですけど、お付き合いいただけたら幸いです


    こういうコメントは通勤路でも書けるんですがね、本文はなかなか難しい

  • 18◆yHeFAtHegA23/06/28(水) 22:22:49

    >>13

    *****


     エボシライン、というらしい。

     高速道路を降りて少し走った後、灰と鼠の二色で滲んだ境界線を引く海が見えたぐらいのタイミングで、トレーナーは今走っている国道の愛称を教えてくれた。朝からずっと浅い緊張に張り詰めたその首元を見て、肩こりが心配になる気持ちとどうしようもない嬉しさとがないまぜになって肺を甘く重く満たしている。

     幸い雨は弱まっていて、エボシラインと呼ばれる所以の烏帽子岩も容易に見つけることができた。


    「どうパーマー?烏帽子岩見えた?」

    「──うん、見えてる」


     右に広がる海と大小の岩を眺めるふりをして、もっと手前、右に居る人の顔を見ている。目、鼻、唇、ちょっとだけ赤くなってる”人間の耳”……どれもまだ触れたことはなくて、でもそんなことはできなくて、こうして見ているだけで時間は簡単に過ぎて──たぶん、バレてる。それに言及しない大人なトレーナーと、それに甘えるコドモな私で結んだ暗黙の協定が、狭い車の中を支配していた。

    本当に天気なんてどうでもいい。トレーナーの左に座って、134号線を走って……私はそれで十分幸せなんだ。


    「パーマー、ちょっと早いけどお昼にしてもいいかな」

    「──確かにもう11時半過ぎちゃいそうだね、OK!いいお店知ってる感じ?」


     濁って淀んだ妄想を打ち砕いたのは、さっきまで邪な目を向けていたその人。罪悪感と羞恥心に胸の奥が痛んで、無理した元気な声が勝手に出てくる。


    「まあそこまで気取ったお店じゃないし高級店じゃないけど、味は確かだよ……イタリアンは嫌いじゃない?」

    「大丈夫!好きだよ!」


     貴方と一緒に食べられるなら。なんだって。

     言えない言葉は奥歯で潰してしまい込む。


    「よかった、とりあえず駐車場に入れるよ。地下だし歩いてすぐだから、濡れないで済みそうだ」

    「もー、雨は気にしないってば」


     ガタリとひとつ音立てて車は地下へ。

    エンジンキーが捻られて、蛍光灯の青白さの中、私のエボシラインは静かに終わった。

  • 19二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 22:43:05

    追跡する濡鼠な2人は入れるお店限られそうだな…

  • 20二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 22:53:45

    このレスは削除されています

  • 21◆yHeFAtHegA23/06/28(水) 22:54:57

    >>18

    「──これはアレだね、傘さすかささないか迷うラインだね」

    「歩いてすぐなんだけどどうしようか」

    「どうするぅトレーナー?私と勝負しよっか」

    「冗談はよしてくれよ、転んだらどうする」


     大げさにため息を吐いたトレーナーはメッセンジャーバッグから折り畳み傘を取り出して、広げて、そこでようやく私を見た。


    「パーマー、傘」

    「ごめん!忘れた!半分借りるね」

    「ちょっ──」


     続く言葉を言わせる前に、傘を持った左手の横に滑り込む……傘の中に入るためなら、腕を組んだってきっと合法だ。どうしても持ち上がってしまう口角と赤みがさしているだろう頬を隠すために下を向いたのはちょっとした抵抗。きっとトレーナーのことだから、尻尾とミミの動きで全部分かってると思うけど、そんな人だから”言わぬが花”って言葉もきっと知っている。


    「──ッ、オッケ。行こう」

    「ありがとね、トレーナー」


     こっそり見上げたその人の耳は、やっぱりちょっと赤かった。

     勝手に終わらせたつもりのエボシラインは、勝手に100m延長されていた。

  • 22◆yHeFAtHegA23/06/28(水) 23:33:20

    一応、実名出してる店舗や施設は主がマジで行って検証している店なので是非行ってみてください
    今日中にもう一回更新できるかな……

  • 23二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 07:34:14

    保守

  • 24◆yHeFAtHegA23/06/29(木) 08:20:32

    >>21

    *****

     ウマ娘のお客さんは何人も見ている。その上で断言してもいい──とんでもねえ美女二人だった。

     そんな具合に後日語られることになるウマ娘二人は、極めて自然な動きでレストラン”イル・キャンティ・ビーチェ”のドアをくぐりフロアを見回した。「……一階にはいねえな」と呟いた後、案内に駆け付けたスタッフへ、濃緑のサングラスの奥から笑いかける。


    「ふたりぶん、席空いてる?」


     ──10分前、片瀬海岸地下駐車場。


    「ほ、ホントにこの格好で行きますの?」

    「あったりめーだろマックちゃんよぉ。今更ビビってんのか?」

    「だって、こんなの、着た事なくて……」

    「水着でレース出てたウマ娘の発言とは思えねー」

    「そ、それとこれとは違います!」


     白いブラウスにデニムのサロペット、黒縁の伊達メガネをかけてこれまたデニムバケットハットを被ったウマ娘──メジロマックイーン。トレードマークの長い葦毛を編み上げて帽子へ収めたその姿とその名前を一目で結び付けられる者は少ない。

     ポンチョのおかげで大規模浸水は免れていたものの、湿り気を帯びたサロペットが気になってどうにも尻尾は落ち着いていない。


    「いいじゃんかよ、似合ってるぜ。やっぱゴルシちゃんのコーディネートは天才的だな」

    「あ、ありがとうございます。その言葉は素直に受け取ります」

    「これでばっちりストーキングできるってワケ」

    「言い方!……貴女は、頭のアレ外すだけでいいから楽ですわね」

    「アレ言うな」


     ライダースーツとブーツを脱いだゴールドシップはブルーのカッターシャツに黒のスキニー、サングラスとシンプルな格好でまとめている。


    「行こうマックちゃん、相合傘やろーぜ相合傘」

    「……もう、嬉しいこと言ってくださるのね」

    「ほい、じゃマックちゃん傘よろしく。いやー運転で腕が疲れちまって」

    「ぶち壊しですわッ!!!!!!」

  • 25二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 09:23:54
  • 26二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 21:15:15

    マックちゃん万能説

  • 27◆yHeFAtHegA23/06/29(木) 21:22:10

    >>24

    *****

     二階席からは江ノ島が良く見える。曇り空を背景に聳えたそれは優美な造形でありながらも、青空や星空を背にした時とはまた趣を異にして、キャンドルという名にふさわしく灯台としての在り方により近いような気がした。

     何か気になるメニューはあったかと声をかければ、これまたそびえたつ巨大なメニュー表の向こうから「ごめん、まだ見終わってない!」と言葉が返ってくる。


    「ちょっとメニュー多すぎない?このメニュー表たぶん、ニュースでちょくちょく見る”不当判決”って書いてある紙より大きいよ」

    「週替わりメニューはあっちの黒板に書いてあるからね」

    「わ、見逃してた。これは迷っちゃうなー」

    「時間はたっぷりあるからゆっくり決めてくれ」


     イル・キャンティ・ビーチェはメニューが多い、というか大きい。冊子形式にしないですべてのメニュー──前菜からドルチェまで──を一枚の紙に載せた結果だ。王道メニューから江ノ島らしい海鮮食材を使った変わり種までが同じ紙面上で踊っている。


    「ね、トレーナーのおすすめはどれ?何回か来たことあるんでしょ」

    「まあそだなァ……シラスマルゲリータは外せないな」

    「シラス、あっそっか江ノ島名物。それはちょっと気になるかも」


     イタリア語が敷き詰められた壁の向こうから声が返ってくる。


    「ねね、このお店どうやって見つけたの?もしかして若き日にデートした思い出とか?トレーナーの青春時代、いやーパーマーさん気になっちゃうなー」

    「違ッ……、そういうんじゃなくて」


     飲み込みかけた水が逆流しそうになったのを何とかこらえた。壁の向こうに隠された顔は見えなくて、揶揄うような声音だけが投げつけられている。


    「だってさー、トレーナーモテそうじゃん!それに大学生の時は色々と好き放題できただろうし」

    「言い方ァ!」

    「今は遠い青春時代の思い出、甘酸っぱいと語りたくなくなっちゃう感じ?それとも黒歴史的な?」


     嘆息した。


    「私の学生時代は"歴史"呼び出来るほど過去じゃないんだけどね。……両親と来たんだよ。就職祝いに。レディーファーストが成ってなかったなら謝るよ──デートで来るのは初めてなんだ」

  • 28◆yHeFAtHegA23/06/29(木) 21:51:00

    >>27

    ひっくり返した盆が水で満たされていたと気づくのは大体ひっくり返した後だ。


    「──ッ、ぁ、パーマー、今のは」


     ゆっくりと──ゆっくりと、赤い城壁が崩れていく。

     細かく震える長い耳、片目を隠すほど長い前髪が現れて、次に見えたのは射貫かんばかりに私の顔を見つめる二つの眼。


    「いま、デートっていった」

    「ごめ──」

    「謝らないでいいよ。だって謝っても無駄だし」


     鼻、ついで口元があらわになる。

     メジロパーマーは、私の知る限りここ一か月で一番イイ笑顔をしていた。


    「──今の、絶対忘れてあげないから」

    「……不快だったら、許してほしい」

    「駄目。一生覚えとく」


     観念。

    両手を上げてそれ以上返す言葉がないことを示せば、彼女は少し目を細めてから、再びメニューの奥に顔を隠す。


    喉が渇いて目の奥がちかちかする。「ご注文お伺いしま~す」と近づいてきたスタッフを不思議に思いながら、かすれた声で何品かオーダーして、注文を終えたところで漸く、そういえば私は飲食店で手を上げていたのだなと思い直した程度には動転していた。

    幸い、当の彼女は機嫌良さそうに尻尾を振って窓の外を眺めている。


    こぼれたのが自分の血ではなかったことに感謝しつつ、私はキウイジュースを口にした。

  • 29◆yHeFAtHegA23/06/29(木) 21:52:53

    >>26

    マックちゃんは何しても様になるので本当に助かります。今まで他に書いたパーマーSSでも登場してもらってるくらいには

    パーマーの内心描写の次くらいに早く書けるのもマックちゃんのいいとこですね

  • 30二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:37:20

    (パーマーがおいしくいただいているシラスマルゲリータ)

    画像引用元 
    イルキャンティ ビーチェ iL CHIANTI BEACHE(イタリアン・フレンチ)のメニュー | ホットペッパーグルメwww.hotpepper.jp
  • 31二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 00:03:53

    おいしそうな上に良い……………


    >駄目。一生覚えとく

    ここすき 言われてえ

  • 32二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 00:17:12

    こりゃ素晴らしい大作だ
    パーマーパートとゴルマクパートの温度差で風邪引きそうだぜ

  • 33二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 05:55:16

    age

  • 34◆yHeFAtHegA23/06/30(金) 08:39:26

    >>31

    感想ありがとうございます!元々は自分で行って美味しかったお店をパーマーに巡らせようと描き始めたんですけど、最初の1レスぶん書いたところであれ?湿度高いな?って...


    >>32

    まだまだ出したいお店あるんでゆっくりお付き合い頂ければと。

    なお、ゴルマクは除湿機じゃなくて業務用クソデカ扇風機です


    >>33

    Thx!

  • 35二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 09:55:28

    めっちゃいい…
    心にスッと効く…

  • 36二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 13:25:41

    一応ほ

  • 37◆yHeFAtHegA23/06/30(金) 20:59:08

    >>28

    メジロマックイーンは舌鼓を全力で叩き壊さんばかりに打ち鳴らしている。前菜のカルパッチョに始まりフジツボのフリット、小エビの風味が生きたパスタ、シラスマルゲリータ、地鶏と香草のロースト、季節限定メニューのスズキのソテー……もちろん、間にレモネードとマンゴーのジュースを挟むのも忘れない。湘南の海──及びその恵みを前にして昂った心は当初の目的すら霞ませているようであった。


    「そろそろ、ドルチェを頼むにはちょうどいい頃合いですわね……決めましたか?」

    「誰もがマックちゃんの食欲について行けるとは思わねー方がいいぞ。少なくともアタシはまだ見ての通り、地鶏のリゾットを攻略中だ」

    「それは失礼いたしました。マンゴーと湘南ゴールド、迷いますわね」

    「話聞いてた?」


     慣れた光景に些かの呆れを覚えつつ、卵が芳醇に香るリゾットを口に運ぶ──確かに、うまい。石焼リゾットの文字に物珍しさを覚えて頼んでみたが、卵とご飯の焦げた香ばしさにアクセントのコショウが絶妙な風味を演出している。今度トレーナー拉致ってきて奢らせようと心に決めた。

     まあ、それはさておき──


    「マックちゃんはさ、トレーナーとデート行かないのかよ」

    「デッッッ!?」


     マンゴーのシャーベットをオーダーし終えたばかりの少女は、まるで令嬢らしからぬ驚き方をして(持ったピザからシラスがこぼれそうになったのは見逃さずにかじりついた)、少し頬を染めながら目線を明後日の方向に投げる。


    「デ、デートだなんてそんな……第一、私とトレーナーはそういう間柄ではありませんし」

    「へえ……なぁ知ってるか、デートってのは何も恋人や夫婦じゃなくてもやるもんだぜ」

    「し、知ってますわよ勿論!それでも、デートできたとして……特別な関係でなくとも、私にとってその時間は特別なものになりますわ」


     ゴールドシップは「本人の前で言ってやれよ」と言い捨てて、背凭れに身体を預けた。額に押し上げていた濃緑のレンズをあるべき位置に押し下げる。


    「……ん?シチュエーション的に今もしかしてアタシ、マックちゃんとデートしてる?」

    「あら、確かにそうかもしれませんわね」

    「──。ストーキングデートとはまた、なんかすっげー変態っぽいな」

    「物は言い様の悪い例ですわね……」

  • 38二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 21:17:32

    パーマー達とは方向性は違うがこっちもいい雰囲気だ

  • 39◆yHeFAtHegA23/06/30(金) 21:18:30

    >>37

     そうかよ、こんなんでもデートって思えんのかよ。

     幸せなこった。


    「これ!このマンゴーのシャーベットが看板ドルチェだそうです」

    「お、マジで旨そう」

    「一口だけなら差し上げますわよ」


     こういう時、マジのちょびっとじゃなくて自分が食べる時と同じサイズの一口をくれるのはマックちゃんの美点、だと思う。


    「ん、うまいうまい!一瞬で口の中がどげんかなったわ」

    「宮崎産でしたの?これ」

    「いや、知らん」


     耳をせわしなく動かして、いっそだらしなささえ感じるくらいに緩んだ笑顔で──本当に、美味そうに食べる。

     案外、これを自由に見ていられるのはアタシの特権なのかもしれない。

     だからアタシは少しばかりそれに甘えることにした。


     テーブルを3つ隔てた向こうの通路を追跡対象が歩いているけれど、甘味を堪能中のマックちゃんに比べれば優先順位は下だ。


    「うめーか?」

    「もちろん!……あっ、もうあげませんからね」


     食欲減退色に染め上げられた視界の中で、メジロマックイーンだけが笑っていた。

  • 40◆yHeFAtHegA23/06/30(金) 21:21:47

    >>35

    ありがとうございます!登場人物の中でパーマーだけが少しエミュに工夫居るので、違和感なく読んでもらえたならうれしいです!


    >>38

    この二人の組み合わせ好きなんですよね……

  • 41◆yHeFAtHegA23/06/30(金) 21:52:19

    >>39

    *****


     折りたたみ傘を開いた瞬間、メジロパーマーはごく自然にぴたりと横についた。自分の失言──明らかに条例違反なソレを思い出して、まともに彼女の顔を見られなくなる。


    「ん?どうかした?」

    「いや……何でも、ない」

    「そう?ならいいけど」


     上目遣いと彼女の香りから逃げるようにして必死に言葉を紡ぐ。


    「そういえばこの後なんだけど、幾つか行く場所の候補は考えてあってさ。このままえのすいに行くか、江ノ島に行くか、いっそ江ノ電に乗って鎌倉まで行っちゃうか……まだ1時前だし、どこでも十分楽しめると思う」

    「んー……そっか、もうそんな時間なんだ。……なんか、時間進むの早いな」


     幸い雨はほぼ止んで霧雨ですらなくなってきている。この天気ならどこでだって楽しめるはずだ。


    「強いて言うなら、 dice1d3=1 (1) になんとなーく興味あるかも」

    1:すぐ近くだし、新江ノ島水族館

    2:ずっと目の前にあって気になってたから、江ノ島

    3:そういえば行ったことないし、鎌倉

  • 42二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 08:14:03

    ほしゅ

  • 43二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 13:16:43

    このレスは削除されています

  • 44二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 14:26:26

    このレスは削除されています

  • 45二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 14:46:38

    あれっSS本編が消えた…

  • 46◆yHeFAtHegA23/07/01(土) 15:19:18

    >>41 ※トリップミスってたんで再投稿です


    「強いて言うなら、すぐ近くだし、新江ノ島水族館になんとなーく興味あるかも」


     本当に目と鼻の先、イル・キャンティ・ビーチェから100m少々も歩けばそこはもう新江ノ島水族館のエントランスになっている。


    「んじゃ行くか、今は紫陽花をイメージした展示をしているらしいぞ」

    「アジサイ?すごいね、そんなこともやってるんだ」

    「鎌倉の方には紫陽花で有名な寺社もあるからな、そのうち見に行ってみたいもんだけど……あ、雨止んだか」


     傘を畳もうと上に伸ばした手が──止められた。


    「……まだ、ちょっと降ってるから」

    「もうすぐそこだぞ」

    「トレーナーが風邪ひいたら、寝覚め悪いしさ」

    「そう、か」


     断る理由はなかった。それ以上は何も言わないまま、彼女の歩幅に合わせて134号線沿いをまっすぐ、2分ちょっとのランデブー。

     傘を閉じれば、メジロパーマーは困ったような顔で笑っていた。


    「──着いたね。行こっか」

  • 47◆yHeFAtHegA23/07/01(土) 20:38:42

    >>45

    すまんやで

  • 48二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 21:58:00

    完結してから感想を書く派の私は!!
    良SSの気配に今か今かと続きを待ちわびる!!!

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 22:05:18

    >>47

    ええんやで

    id被った誰かのいたずらを疑ってごめんなさい

  • 50◆yHeFAtHegA23/07/02(日) 09:01:47

    >>46

    *****


    「実にリーズナブルでよいお店でしたわね。前菜からドルチェまで余さず堪能できてよかったです」

    「そっかそっか、マックちゃんが満足でよかったよ」

    「パーマーのトレーナーさんにも感謝しなくてはいけませんね……あっ」

    「どした?」


     綺麗に編み上げられたその葦毛とは対照的に、顔色はみるみるうちに青くなっていく。


    「完全に忘れていました……GPSの確認をお願いしてもよろしいでしょうか」

    「そんなこったろうとさっき見といたぜ、幸い近く──新江ノ島水族館に二人ともいるらしい」


     ぱっと血色が戻る。メジロマックイーンは両手を合わせて「まぁっ」と表情を明るく輝かせた。


    「近くですのね!それはよかったですわ……シャーベットもう一個行っても時間的には大丈夫そう」

    「マックちゃん」


     ゴールドシップの整った顔の上で眉根に皺が寄り、今日一番の悲壮感があった。


    「駄目だマックちゃん、カロリーが」

    「──あぁ、そんな……」


     あちこちから光の差す空とは裏腹に未だ鈍色の海岸線を見やるメジロマックイーンは、自嘲気味に歪んだ笑いと共に掠れた声を微かに漏らし、キウイジュースを一口含んでから困ったように首をかしげる。


    「食べ過ぎ、ましたわね──」

    「いや途中で気付けよ」


     コンディション【太り気味】を獲得した。

  • 51◆yHeFAtHegA23/07/02(日) 17:03:21

    >>50

    *****


     紫陽花コラボ仕様に彩られたフォトフレームの中で笑う自分は緊張を隠し切れない様子でぎこちなく笑っていて、その横に身を寄せる担当はきっちりとカメラ目線でいて、その落差に恥ずかしくなった。

     そんな気持ちを知ってか知らずか、メジロパーマーはテンションがすこぶる高い様子でこちらに笑いかけてくる。


    「トレーナー!こっちこっち!見てよこれマジですごいんだけど!」

    「おおっ、こりゃ迫力あるな」


     建物に入ってすぐのフォトスポットを抜ければそこはもう『相模湾大水槽』の始まりで、激しく波が打ち寄せる様子を再現した展示には、流石に大のオトナな自分でも気分が上がらざるを得ないのだ。


    「わ、エイでっか!こっちウツボもいる!ヤバ!」

    「案外気の抜けた顔してるもんなんだな」

    「確かに、なんかかわいいかも」


     尻尾を揺らして、笑顔で水槽の丸窓をのぞき込んでいる。そこに先ほどまでの陰はなくて少し安心した。


    「あっこれシラスだって……さっき食べたやつだね、キンメダイもいるし……ここにマックイーン連れてきたら大騒ぎかも」

    「いやまさか、いくら食い意地張っててもそこまでやるかね」

    「甘く見ちゃだめだよ、油断するとすぐ食べだすんだから」


     磯を再現した水槽に波打ち際の水槽、川魚、熱帯魚、漁港と様々な水槽が彩も鮮やかに並ぶのを見ながら通路を下へ。海へ潜っていくように深く深く下った先には、新江ノ島水族館が誇る最大の水槽が現れる。

     ちょうど昼過ぎの時間ということで水槽内の魚は給餌を受けていた。ダイバーが泳いでエサを渡すのに合わせて、大小さまざまな魚がその後を追って群れを成す。


    「すごいね、これ……綺麗」

    「──そうだな」

    「どしたのトレーナー、ぼーっとしちゃって」

    「いや、綺麗だな……って。それだけ」


     水槽越しの光に照らされてこちらを振り向いた笑顔に気を取られ、返事の言葉が気の抜けたものになる。薄暗く青い世界の中では、お互いの顔色なんてわからなかった。

  • 52◆yHeFAtHegA23/07/02(日) 22:53:39

    >>51

    「なんかさ、こういうこと水族館で言うのもよくないかもしれないけど、水槽の中にいる子たちってきっと幸せなんだろうな……って思うよ」

    「どうだろうな」


     トレーナーは難しそうな顔になってしまった。──困らせるようなセリフだってわかっていても、言わずにいられなかった自分が嫌になる。

     嫌になっても、言葉は勝手に続く。


    「水槽の中に居ればさ、そりゃちょっとは狭いかもしれないけど、毎日ご飯はもらえるし病気になったら診てもらえるし、お客さんだって来るから暇しないし……私が魚だったらきっと、幸せなんじゃないかな」

    「確かに、そうかもしれない」


     難しい顔をしたまま、私を見ていた。


    「だけどパーマー、それは君が水槽と水槽の外を知っていて、比べられるから思いつくことでもある──世の中には水槽に魚を閉じ込めることを良しとしない人もいるけど、結局魚自身がどう考えてるかなんてわかったもんじゃない」


     水槽の中ではイワシが渦を巻いてきらきら光を反射させている。「あのイワシ、よく食べられちゃうんだって」という自慢気な子供の声が聞こえた。


    「──まあ、パーマーが考えて下した思いなら、それはもう尊重されてしかるべきだ。あんまり他人の声を気にしすぎないようにな」

    「そっか。──トレーナーは、水族館で働くの向いてないかもね」


     困惑した顔を見て、顔が勝手に笑みを形作る。


    「たぶん、すぐに魚を逃がしちゃうから」

  • 53◆yHeFAtHegA23/07/03(月) 08:13:05

    >>52

    *****


     サロペット選んでおいてよかったなと、ゴールドシップは己の先見の明に感謝した。目の前ではハリセンボンがごとく腹を大きく膨らませた葦毛の太り気味が、魚を見て興奮気味に尻尾を振り回している。


    「あっウツボ!案外かわいい顔をしていますのね……意外と美味だと聞いています、気になりますわ!……あら大きなエイ、そのうちお酒が飲めるようになったらヒレ酒にチャレンジしたいですわね!……あの綺麗な魚は食べられるのでしょうか?どれも知らない名前ですわね、帰ったら料理人に聞いてみましょう」

    「なあマックちゃんよ」

    「どうしましたのゴールドシップさん、あっここ川魚もいましたわ、アユ以外あまり食べたことはありませんけれど、この間貴女が採ってきてくれた──そう、アマゴでした。あれもご飯が進む味でした。こっちにはタイが居ましたわ見てくださいまし!トレーナーはエボダイの開きが好きと言っていましたが、わたくしはやはりキンメダイの煮つけが外せませんわ。貴女はどれがお好き?」

    「あー……アタシはアマダイ派かなあ。や、それよりマックちゃん」

    「どうしましたの?あっあちらに」

    「ドン引きよ。もう大人からキッズまでドン引きされてるぜマックちゃん」

    「えっ、もしかして私何か間違ったことを言っていたのでしょうか……いや、確かにウツボは美味だとハルウララさんは言っていました。あのウララさんが嘘を吐くはずがありません!」

    「TPOをわきまえてくれご令嬢ッ!」

  • 54二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 08:21:17

    パーマーの懸念通りになっちまった!
    いい…この温度差が一粒で二度美味しい…

  • 55◆yHeFAtHegA23/07/03(月) 12:44:23

    >>54

    レス感謝です!

    マックイーンはゴルシがいるからこのムーブできているってつもりで書いてます、トレーナーとか他のメジローズではこうはならないんじゃないかなと

  • 56二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 22:16:24

    age

  • 57二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 22:57:38

    食欲モンスターモナリザ
    しかしその体作りに向ける情熱誉れ高い

  • 58二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 23:48:25

    芦毛令嬢ステイヤーは食欲のことしか考えないのか

  • 59◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 08:34:13

    >>53

    *****


     相模湾大水槽だけが新江ノ島水族館の見どころではない。一般に水族館と聞いて想像するイルカやシャチ、ペンギン、アシカのようなアイドルだけではなくカワウソのようなかわいらしい生き物、目の前に広がる相模湾で採れた珍しい魚やカニは数限りなく、変わったところではクラゲだけで一つの展示エリアを形成しているのも大きな見どころだろう。

     ちなみにパーマーは……ペンギンエリアの家系図が気に入ったらしい。


    「うわ、アレ見てよ。昼ドラよりごちゃごちゃしてる」

    「場合によっては飼育員さんもあの中に入るらしい」

    「マジで!?どこの業界もトレーナーって超大変なんだね」


     ちょっと気になる発言だったが、藪蛇が怖くて無視した……いやまさか、そんな源氏物語みたいなトレーナーなんて居るわけない。


    「……どうだろうね」

    「パーマー、笑顔が怖い」


     一方、展示だけでなく研究施設としての側面を多く見せているのもこの施設の特徴で、私自身はそっちが見たかったものの──


    「おお……高圧容器……!このカニは……未記載種か、しかしこの脚の構造はいったい何のために……なるほど熱水噴出孔、じゃあ細菌……なのか?こっちはクジラの骨……ああ鯨骨生物群集、硫化水素、つまりこいつは所謂ゾンビワーム!累代飼育出来ているのか、流石えのすい……」

    「……なんか、 テンションアガりすぎておかしくなってない?」


     デート大原則、”レディより楽しみすぎてはいけない”からの大幅な逸脱。この後半年ほどこれをダシにいじられ続ける未来が待ち受けていることを、この時の私はまだ知らない。

  • 60◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 08:36:43

    >>57 >>58

    強いて言うなら連れてきたのがゴルシちゃんだった時点で定められし運命だったというか...

  • 61二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 14:25:06

    湿度高いパーマー良いよね…

  • 62◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 19:21:26

    >>61

    故人曰くパーマーには雨を降らせよ。

    至言ですな

  • 63二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:41:20

    オフが明けたらなぜか太り気味を獲得しているマックちゃんのトレーナーに悲しき未来…

    雰囲気が最高なssですの

  • 64◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 22:28:03

    >>59

     見どころの多かった新江ノ島水族館、当然そのショップは色とりどりのお土産で溢れかえっていた。小さなものでは星の砂が入ったキーホルダー、鮫のマークがかわいらしく入ったクッキー、シラスのお菓子。大きなものだとチンアナゴのぬいぐるみにTシャツ、キャンバスバッグ。普段使いに困らないものも結構いっぱいあった。


    「どうする?いつもの皆にお土産でも買って帰るか」

    「ん……いや、今日はちょっと。いいかな」


     ヘリオスとか、メジロのみんなとか、友達とかと来るときはたぶんお土産を買う。知り合い皆に配れる、当たり障りがなくて適度にお土産感があるもの。

     でも、今日の私はそうじゃない。


    「その代わり、って言うのも変だけど。これが欲しいかも」

    「これ、って──」


     目に留まったのはガチャガチャ──復刻版・新江ノ島水族館立体生物図録。かわいいっていうよりリアルな感じがするフィギュアに目を惹かれた。トレーナーはちょっと困った顔……そうだよね。だってこれ、トレーナーの方が好きそうだし。


    「君が買って帰りたいものを買えばいい。水族館だからってそれらしいものを買う必要はない」

    「なんかねー、今日はこれの気分」

    「いいのか?年頃の娘が机に飾るには渋すぎる気がするけど」

    「いいの。だって私、普段こういうの買わないからさ、逆に面白いかもって」


     そんなことを言った。

     きっとこれから生きていく中で水族館に行く機会はいくらでもあるはずで──誰と行けるかなんてわからないけど、ぬいぐるみとかTシャツはいつだって買える。

    だから私は、趣味でもないこれを今日買おうと思った。


    「まあそこまで言うなら」

    「そうだ、どうせならさ、このガチャガチャをトレーナーからのご褒美ってことにしてよ。今日のお出かけだって元々は勝利祝いなんだしさ」

    「プレゼントならもっとちゃんとしたの買うぞ、流石に」

    「いやいや、ご飯代も水族館代も出してもらってるんだしこれはおまけくらいでいいからさ、お願い!」

  • 65◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 22:32:35

    >>64

     頼み込めば不承不承、ポケットの小銭入れから300円を出してくれた。

     金属へ残る微かな温度を手に包む。


    「ありがとね!」


     そんな顔しないでよ。私にとってはこれが一番の宝物になるんだからさ。

     筐体のつまみを指で挟んで、回す。ねじを締めるように、小箱へゆっくりと鍵をかけるように、回す。

     トレーナーと一緒に水族館を回ったこと、ご飯を食べたこと、相合傘までしちゃったこと。誰にも見せない大事な、私だけの思い出。私だけが覚えておくための、小さな小さな記憶のカギ。


    「何が出た?」

    「ちょっとまって、今開ける……これ、カメかな」

    「っぽいな……アオウミガメか。おお、これ結構よくできてるな」

    「なんか思ってたよりかわいいかも」

    「良いの当てたな」

  • 66◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 22:51:10

    >>65

     ウミガメはハワイで幸運の守り神として親しまれている、とトレーナーが教えてくれた。

     私の願いにぴったりな生き物で、本当にびっくりした。


     ──いつか歳老いて記憶がなくなったとしても、この小さなウミガメが今日の幸せを証明してくれる。

  • 67◆yHeFAtHegA23/07/04(火) 22:54:41

    >>63

    レスありがとうございます!実は時期的に6月末の設定なので(水族館のイベントもそれに準拠)、デカいレースはちょっと先っていうのもあって好き放題させてます


    ……おかしいな、トリップに「FAT」って入ってるな……これはもうそういう運命だったのか……

  • 68二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 23:02:14

    >>67

    FatHageじゃなくて本当によかった

  • 69二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 23:02:49

    HeyFatHage!

  • 70二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 08:35:09

    久し振りに江ノ島水族館行きたくなった

  • 71◆yHeFAtHegA23/07/05(水) 12:59:42

    >>70

    ドマイナーだったり激レアだったりな生物も大量に展示しているえのすいは良いものですぞ

  • 72二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 13:30:15

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:39:58

    タイキホシュル

  • 74二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 23:13:08

    保守や

  • 75◆yHeFAtHegA23/07/05(水) 23:29:37

    >>66

    *****

    「ターゲットが水族館出たっぽいな」

    「そうですか、では私たちもそろそろ参りましょう」

    「いや、待て……こっちは駐車場じゃない……なんか歩いてんな。これはそんなに急がなくても平気かもしれねーや」

    「歩きなら駆け落ちもできませんものね」

    「まーだそんな心配してたのかよ」


     雨上がりの屋外デッキ、海を背にしてフェンスへ凭れたゴールドシップは風に髪をなびかせている。メジロマックイーンもその横に並びかけ、「当然ですわ」と答えて、手を伸ばした──もう片方の手にしっかりと握ったシャークナゲットへ。


    「まだ食うんだ」

    「あら、スタッフの方が言っておりましたよ?鮫の肉は低カロリー・低脂肪・高たんぱくだと」

    「今日のマックちゃん全部オーバーしてるからな」

    「なら誤差みたいなものですわね」

    「そうだけどそうじゃねえんだ」

    「貴女も食べます?」


     ゴールドシップは一瞬、ものすごく苦々しい顔をしてからため息を一つ零した。半ば諦めたような顔で、顔だけマックイーンの方へ向けて口を開ける。


    「はい」

    「ん……ぁ、たしかにさっぱりしてうめーな」


     潮が砂浜を擦るザ、ザという音の合間に強い風が時折吹いて、磯の匂いを運んでくる。午後のぬるさと雨上がりの湿気に当てられて、朝からずっと抱えてきた好奇心よりも今は少しばかり、気怠さの方が勝っている──少なくとも、ゴールドシップはそうだった。普段ならもっと語彙が爆発しそうなシャークナゲットの食リポも、下ネタを禁止されたコロコロコミック並みに薄味な言葉でしか表現できていない。


    「なーマックちゃん、あの二人が戻ってくるまでここいらでダラダラしてよーぜ」

    「構いませんわ」

    「やー流石のゴルシちゃんもカラータイマーが……えっ」

    「朝から運転させてごめんなさいね、少し疲れているのでしょう?多少目を離してもきっと、車を置いて駆け落ちはしないでしょうから」


     はは──ッと笑いが漏れた。マックちゃんにもモロバレなら相当キテんな、と納得して空を仰いだ。

  • 76◆yHeFAtHegA23/07/05(水) 23:42:01

    >>75

    「お言葉に甘えるかね」

    「ええ、今のうちに休憩しましょう。それから──」


     濁った灰色の合間に時折青が見え隠れしていた視界に、館内マップが差し込まれた。


    「──疲れた体には、スイーツですわ!」

    「……ハッ、……ああ、そうだったなマックちゃん。なんか食おう、めっちゃうまそうでめっちゃ甘そうなヤツ」

    「もちろん!ここ色々ありましたわ!カメの形をしたメロンパンに、かき氷、つぶつぶゼリードリンク、黒ゴマソフトクリーム……それから、今の季節は紫陽花フロートも」

    「迷うじゃねーの、どれにしよっかなー」


     なんか、どうでもよくなってきた。

     発端がどうであれ今日は特別なお出かけで、色々と言ってはみるものの結局は、この笑顔に抗うなんて無理な話だ。マックちゃんのトレーナーにはアタシも一緒に頭下げに行こう、あとついでにアタシのトレーナーも連れて行こう。頭数は多いほうがいいはずだ。


    「あら、楽しそうな顔してますわね」

    「たりめーだろがよ!ゴルシちゃんは楽しいことだけして生きてんだからな!」


     アタシも随分と甘いヤツらしい。

  • 77◆yHeFAtHegA23/07/05(水) 23:57:55
  • 78二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 08:06:54

    >>1のしっとりだけじゃなくて絡み付く感じ良いよね…

  • 79◆yHeFAtHegA23/07/06(木) 08:32:39

    >>78

    ありがとうございます、6月並のの湿度が書きたかったので伝わって嬉しいです

  • 80二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 09:43:06

    私だけの思い出を作ろうとするパーマーが切ないけど、今後少なくとも半年は一緒にいるのが確定してるのがいい

    マックちゃんは一貫して食い意地張っててかわいいね

  • 81二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 10:32:17

    >>80

    半年なんてあっという間だからなぁ…

  • 82二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 19:35:56

    お次は江ノ島かしら

  • 83◆yHeFAtHegA23/07/06(木) 20:54:57

    >>80 >>81

    レスどもです。トレーナーからしたら何ともないお出かけなレベルでも、前提の思考からしてやや偏ったリアリズムを持ったパーマーは重めに受け取るじゃないかなと


    >>82

    実際のところ読んでくださる皆さんにどの長さまで許容して頂けるか次第です……

  • 84二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:58:33

    >>83

    スレ主さんが思うがままにしっとりねっとりとしたパーマのデートという名の逃避行を続けて下され


    止まない雨は無いし、それに雨が止んだ時はきっと青空と虹が掛かっているから…!

  • 85二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 07:10:57

    観光と料理二つの方向からレビューする形になるの良いね

  • 86二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 15:36:41

    >>83

    楽しみなので書きたいように書いてくださいな

  • 87◆yHeFAtHegA23/07/07(金) 22:47:47

    >>76

    *****

     午後3時にもなれば甘いものを食べたくなるもので、江ノ島とは反対方向のある場所を目指して歩いている。すばな通り──江ノ島らしい海鮮丼を売りにした店、ハワイアンカフェ、いかにも南国なドリームキャッチャーを吊るした店、サンダル屋、射的場、流行りのよくわからないスイーツ……観光地特有のごった煮じみた様相に湘南の香りが加わった路地は、すぐ隣を歩くメジロパーマーの興味を引くに十分な空間だった。


    「見てトレーナー、射的屋だって!出店じゃなくてちゃんとお店あるの初めて見たかも」

    「一周まわってレトロって感じで若者にウケてるのかね。やりたい?」

    「あー……いや、私はいいかな、苦手だし」


     いつかの夏を思い出せる困り眉で笑っていた。


    「まあ、目的は甘味だしな。行こうか」

    「ジェラートだったっけ?気になるなあ」


     6月終わりともなればサーファーの姿もちらほらといるもので、石畳にも似た通りを時折、サーフボードを備えた自転車がゴトゴトと音を立てて通り過ぎていく。


    「なんか、夏だね」

    「……そうだな」


     海風が吹く、どこかの軒先に吊るされた風鈴の音がする。

     メジロパーマーは目線をまっすぐ前に向けたまま、歩いている。


    「合宿も楽しいけど、こういうお出かけも結構楽しいな……って思ったんだけど、どうかな。トレーナーは──楽しい?」

    「ああ、楽しいよ」

    「……そっか、ならよかった」


     彼女は前を見たまま、寂しそうに笑っていた。

     ラーメン屋の前で右に曲がってすばな通りを外れると、そこに湘南の浮ついた雰囲気はなくただ海風に当てられて褪せた住宅がひしめいている。


    「この坂登ったらもうすぐだから」

    「おっけー」

  • 88二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 08:01:46

    パーマーもマックイーンもそれぞれ良いなぁ

  • 89◆yHeFAtHegA23/07/08(土) 09:54:20

    >>87

     坂を上った先は国道467号線。海岸線から続く、とにかく混むことに定評があるこの道は両側を高い住居に挟まれていて、よく風が吹く。

    そんなことを思い出しながら、私は数歩先に居た彼女が信号の歩行者ボタンへ触れるのを、ぼんやりと見ていた。


    「──ゎ、」


     風が吹いた。

     メジロパーマーは、風を受けて枝垂れた前髪を左手でさらりと掻き上げた。

     その後で私の目線に気付いて、こちらを見上げてはにかみながら「風、強いね」と零した。


    「────。」

    「どしたの?ぼーっとして」

    「──いや、なんでもない。気にしないで」


     青に変わった信号を少し早足で渡る。顔を見られるのが恥ずかしくて、歩道が狭いのをいいことに彼女の前を歩く。目的地は目の前、早く顔の熱を引かせなければ、左胸で鳴る早鐘を抑えなければ、そう意識すればするほどに熱くなった血液が上半身を忙しく循環する。


    「──どしたのトレーナー、もしかして競争の気分とか?」

    「いや、違う……店が見えたから、早く食べたくなっただけ」

    「えー、絶対違うでしょ。パーマーさん気になっちゃうなー」


     本当のことなんて絶対に言えない。

     ましてや、私と彼女は指導者と教え子の間柄で──まかり間違っても、綺麗だなんて、言っていいわけがないんだ。

  • 90二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 12:19:46

    >>89

    じっけじけだなあこいつら!

    フラッシュのとこを見習え

  • 91◆yHeFAtHegA23/07/08(土) 20:32:14

    諸事情重なってこの先一週間弱、かなり更新速度落ちますことご容赦ください


    >>90

    フラトレは禁止カードなので……

  • 92二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 21:04:49

    >>90

    親紹介RTA勢を出すんじゃない!

    マクトレとかアルトレとか身内から見習うべきだと思うの

  • 93二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 00:20:56

    パーマーたちがスルーした射的屋さん

    朝日軒(射的・スマートボール) · 〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸1丁目13★★★★☆ · ゲームセンターgoo.gl

    いやマジでこのご時世江ノ島周辺みたいな地価高そうなとこによく生き残ってるなと……なんだかんだいつ見ても多少人が入ってるんで納得はします

  • 94二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 00:44:39

    かなりレスの進み遅いなと思ってたけどみんな投稿されるのを待ってるだけなんかな。
    進行早すぎてもよみにくいしな

    ポンコツかと思いきやゴルシの体調も見抜いてるし、メジロ家のことも考えてるしほんといい子だなぁ
    ブクマ入れたからがんばってください

  • 95二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 10:19:28

    >>91

    無理せずゆっくりなさってください

  • 96二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 14:22:12

    のんびりと続きを楽しみにしてます

  • 97二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 22:23:50

    保守 のんびりいこう

  • 98二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 06:47:09

    保守

  • 99◆yHeFAtHegA23/07/10(月) 08:43:12

    >>92

    この世界線のマックちゃん担当はどんな人物なんだろう...


    >>94

    ありがとうございます、マックちゃんはベースが優秀だと思ってます。ゴルシといるとアレなだけで


    皆様保守&レスありがとうございます、今週を乗り切れば仕事も少し余裕できますんでその暁には速度戻します

  • 100二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 18:07:47

    どんなジェラートを頼むのかな

  • 101二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 22:58:14

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 07:03:57

    >>99

    のんびり行きましょう

  • 103二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 08:33:22

    このレスは削除されています

  • 104二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 20:08:53

    保守

  • 105二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 07:08:07

    保守

  • 106◆yHeFAtHegA23/07/12(水) 08:32:21

    >>103

    「パーマーが気に入りそうだから保証するって言ったんだけど」

    「──ぁ」


     駄目だ、顔が笑っちゃう。

     こんな顔見せたくなくて、下を向いてドアへ3歩踏み出した。


    「……先、選んでるね!」

    「あ、ああ。そんなに焦らんでもジェラートはまだあるぞ?」


     ああ、私ってほんと悪いヤツだ。だって、嬉しかったのは”私のことを考えてお店を選んでくれたから”じゃない。本当に正直に言ってしまえばジェラートの好みなんて特にこだわりがないし、そもそも一緒に行けるならどこだって楽しい──そう、そもそもトレーナーが思っているほど私は上品でも綺麗でもない。

     この喜びは、直接的で生々しくて見るに堪えないモノ。

    ──私のこと”だけ”を考えてくれたことが、笑っちゃうほどうれしいんだ。


    「色々あるなぁ、どれも美味しそうかも」


     パステルカラーの優しい風合いが華やかに並ぶショーケース、ガラスに反射した私の笑顔は、醜い。

  • 107二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 18:14:27

    良い…

  • 108二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 18:59:42

    江ノ電ニキってなんや…

  • 109◆yHeFAtHegA23/07/12(水) 21:38:51
  • 110二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 23:07:54

    >>109

    ああ、これか

    撮り鉄頭いかれてるなと思ったやつだ

    パーマーはそんな事知らなくてええんやで…

  • 111二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 08:42:43
  • 112二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 14:58:19

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 21:11:24

    保守にはまだ早いんかな?
    一応レスしときます。

  • 114二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 06:51:46

    ここのパーマーはトレーナーと恋人繋ぎして歩いてそう
    そしてその絡みついた手は絶対離さなそう

  • 115◆yHeFAtHegA23/07/14(金) 08:57:26

    >>106

    *****


    「食欲減退色……聞いた時はどれだけ恐ろしいものなのかと震えましたが、こうして実際口にしてみれば──」


     花弁と見紛うばかりに薄桃の舌が小さく伸びて、青色のカタマリを掬い取る。妖艶さはなく、さりとて無邪気な幼子のそれでもなく、あえて言葉を当てはめるなら可憐という形容詞が相応しいその少女は、満足げに呟いた。


    「──大したことありませんわね」

    「色ごときでマックちゃんが止まるわけないんだよなあ」

    「あら、色という色全てにあたればいずれ見つかるかもしれませんわ。この間ウマッターで”白だけで200色存在する”という言説を見かけましたし、片端から試せばそのうち」

    「200食する気かよ」


     当然です、の”す”を発音し終えた瞬間に再び、青く冷たいラムネ味のそれに再び顔を寄せた──デニムソフト、という。

     呆れ顔のままゴールドシップが齧った中華まんはこれまた青く、また彼女が肘をついているテーブルはデニム張り、その背後にはデニムが巻かれたサーフボードのオブジェと濃いインディゴブルーののれん。


    「あら貴女だって食べているのですし人のことは言えませんわ……それはデニムまん、でしたっけ?お味はどうでしょう」

    「これ、マックちゃんのサロペットとほぼおんなじ色なのにさ、なんか普通に美味いから混乱するわ」


     湘南デニムストリートのデニム推しっぷりに終始二人は圧倒されている。水族館につく前までやや不満げにデニムのサロペットを着ていたメジロマックイーンもすっかりその気になって、先程買ったジーンズリメイクのメッセンジャーバッグを肩にかけ、デニムバケットハットから出したミミを機嫌よさげにぴこぴこと動かしていた。


    「ここに来るのを見越してこの服装を用意いただけるなんて、流石ですわね」

    「いや、こんな店あるなんてさすがのゴルシちゃんもリサーチできてなかったっつーか」

    「偶然でしたの?でも……」


     コーンの端を齧ってから、言葉を続ける。


    「こういう服装も悪くありませんわ、教えてくれてありがとう」

  • 116◆yHeFAtHegA23/07/14(金) 12:16:08

    >>110

    まあ、この旅行の下調べ(という名の妄想)中に見つけたんでしょう。きっと...

    (メタ的にはThe Market SE1の場所紹介に便利)


    >>114

    パーマーは一回付き合い出すとそうなる気がする一方、そこに至るまでめちゃくちゃ長いし拗らせる印象です。

    今は絶賛拗らせ中


    >>111 >>112 >>113

    保守感謝です!

  • 117◆yHeFAtHegA23/07/14(金) 19:00:39

    明日辺りから少しペース戻して書き進められそうです、皆様保守感想感謝です


    >>107

    漏れてました、感謝です!

  • 118二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 22:14:11

    保守保守
    パーマーもマックちゃんも可愛いなあ

  • 119二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 05:57:17

    >>117

    楽しみです

  • 120二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 13:08:44

    あげ

  • 121二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:59:09

    お捕手

  • 122二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 09:00:49

    マックイーンはかなり楽しんでるね

  • 123◆yHeFAtHegA23/07/16(日) 17:57:57

    IP規制の影響でちょっと安定して上げられそうにないので(電車の中)20時ごろにまた上げます

    >>118

    トレーナーにしか見せないだろう大分かわいいパーマーは私の性癖にクリティカルです


    >>122

    当初の目的を忘れかけている本日の元凶

    ちなみにデニムソフトも本当に混乱する味です。おいしいんですがね


    >>119 >>120 >>121

    保守ありがとうございます!

  • 124◆yHeFAtHegA23/07/16(日) 22:51:53

    >>115

    *****

     冷たい甘味の魔力は、舌の上で溶ける瞬間に発揮される。


    「──わ、甘い」

    「だろう?」


     ジェラートではあまり見かけたことの無かったトマト味は正直期待度が低かったけれど、トレーナーの勧めてくれただけあって実にさっぱりとしていて、何より意外なことにほの甘く心地よかった。

     口の中に広がる酸味と甘みに頬が緩めば、左に座ったトレーナーも表情を柔らかく崩して私の顔を見てくれる。


    「江ノ島に来るって決めた時、とりあえずここは連れて来たいなって思ってたんだ」

    「流石トレーナー、詳しいじゃん」


     湿った海風に腐っていた感情は、ジェラートの冷たさに溶かされて遠くへ流れていく。吹き込んだ風が背中を通って心地良い。


    「初めてここに来た時食べたのがトマト味でさ、結構衝撃的だったから」

    「うん、これはちょっとビックリかも。でもすっごくおいしい……こっちのミルク味もさ、思ってたよりずっとさっぱりしてるから全然飽きないよ」

    「気に入ってもらえてよかった」


    トマトの赤とミルクの白で何となくおめでたい配色な私のジェラートと違って、トレーナーの前にあるそれはうす紫と黄色のトロピカル感あふれる仕上がりになっている。


    「……気になる?」

    「あは、バレてた」

    「遠慮しないで食べてくれればいいさ」

    「ありがと。これ、紫が山ブドウで黄色がマンゴーだっけ」


     小さくうなずいたのを確認してから、紫の方へスプーンを差し込んで掬い上げる。


    「もっと多めにとってもいいんだよ」

    「いや、流石に申し訳ないっていうか」

  • 125二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 08:14:08

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 14:19:44

    あげ
    パーマーかわいいね……

  • 127二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 23:08:31

    おいしそう…

  • 128二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 06:58:27

    保守

  • 129◆yHeFAtHegA23/07/18(火) 08:41:48

    >>124

    「気にしなくていいのに」

    「っちょ、──」


     私からすればごく自然な、ただの善意から出た行為でしかなかった。

     先端に少しだけ紫の乗ったスプーンを持っているパーマーの指を、くるむようにして手で捉える。僅かな抵抗を感じながら細やかな氷の山へに再度スプーンを深く、深く差し込んで持ち上げる。

     じゅわりと柔らかく濡れた感触が、パーマーの細い指越しに伝わった。


    「遠慮しないでこれくらい持っていきなよ」

    「──ぁ、うん……あり。がと……」

    「私は何回か食べたことあるし、気にしないでくれ」


     パーマーに勧めたミルク味とトマト味はそれぞれがスタンダードと変わり種の代表格のようなイメージで、このお店を覚えてもらうのにちょうどいい味だ。これで気に入ってもらえたなら、また来ることもできる──我ながら小賢しいがそんな算段だった。


    「ぃただき、ます」


     言葉のおぼつかない彼女は、ぼうっとした芯のない表情のままスプーンと私の顔を数度見返して、ゆっくりとジェラートを口に運んでいる。


    「これも中々うまいよな」

    「うん……」


     窓の向こうでは踏切の音がして、江ノ島駅の方から現れた、緑とクリームのツートンカラーを纏う車両がゆっくりと通り過ぎていく。こういうのをきっと、穏やかな時間というのだ。


    「トレーナー、もう一個の方も、ちょっともらっていい?」

    「気にしないで食べな」


     木のスプーンが遠慮がちに黄色い層を削る──そのまま待っていると、「え?」という声が右から聞こえた。

  • 130二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 08:46:38

    おや?パクパクご一行か…?

  • 131二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 11:12:28

    パーマーはトレーナーの奴を食べさせてと迫ってしれっと互いに食べさせ合うような湿度を放ちそう

  • 132二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:31:10

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 06:54:34

    保守

  • 134◆yHeFAtHegA23/07/19(水) 08:40:21

    >>129

     お店のスタッフは奥に引っ込んで何やら仕込みをしているらしく、店内には私とパーマー以外の姿はそもそもない、ついでにガラスの向こうを行きかうのは車ばかりで人の姿はなかった。

     右には、パーマーしかいない。


    「パーマー?」

    「……あの、さ。やっぱりどれくらい貰っていいのか、わからないんだけど」

    「?好きなだけ持っていけばいいさ」

    「うん、わかってる。でもほら、ちょっと難しいじゃん──」


     スプーンの先端は、僅かに黄色い層へその先端を埋めている。

     彼女のミミが小刻みに揺れ、尻尾はゆっくりと、しかし大きく左右に揺れていた。貌を隠すように垂れた前髪の向こうから、覗いた右目が上目遣いに私を見ていた。いつになく彼女らしくない、童女のような遠慮がそこにあった。


    「──さっきみたいなのは、してくれないの」

    「さっき、って」


     あ。と声が漏れた……今度は私の声だ。

     さっき──山ブドウ味をあげた時、私は何をした?


    「だめ?」

    「いや、全然そんなことはない!ダメじゃない、ダメじゃないんだ」


     指の細さを、暖かさを、そしてそれが僅かに震えているのを意識しないように努めながら再び手で包む。……バカなことだ、私の腕だって今更震えている。レースで勝った時、夏合宿の時、それ以外にも今まで何度だって自然に触れていたはずなのに、ジェラートを掬うというどうしようもなく日常的な行為がこんなにも心臓を逸らせる。

     じゅわ、とした感触が再び伝わった。


    「ん、これもめっちゃおいしいね」

    「……私も、そう思うよ」


     嘘だった。顔を冷やすために慌てて口の中へ放り込んだジェラートは味がしなかった。

  • 135二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 15:56:13

    中学生みたいないちゃいちゃしやがって…

  • 136二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 19:24:57

    スレタイ通りにしっとりしてて非常に味わい深い
    日常的なことでも誰とするかによってこんなに湿るなんて

  • 137◆yHeFAtHegA23/07/19(水) 21:57:50

    >>127

    ここマジでおいしいです。変わり種もいろいろあるんですけどまずはスタンダードのミルクから試してみることをお勧めします。シンプルに美味いってわかるので


    >>131

    このまま湿度をたっぷり含んで育てればごく自然にやるようになると思います。やれ


    >>135

    これはメジロ家に対する偏見なんですけど、一般的な小学校中学年~高校生くらいのライフで形成される記憶とか思い出とか感性が丸ごと欠落してるイメージがあります(この辺はアプリ内で補完されますが……)

    パーマーはちょい特殊で、自分自身の感情"だけ"は年齢不相応に幼さがあって、かつ扱うのがドヘタクソなのでこういう初々しい感情のやり取りすら自己体験として全部新鮮に感じられるわけで、故に幼さが湿度という形で出力されてるのかなって思ってます。ストーリーもそんな目で見てました。


    >>136

    スレ主的には湿度ウマ娘好きなんですけど、なぜか(過去作含め)パーマーしか出力できないんです……なんで……自己肯定感低いくらいしか共通点ないぞ……

    皆もっとウマ娘を湿らせてくれ。トレセンを熱帯雨林にしろ


    >>125 >>126 >>128 >>130 >>132 >>133

    保守ありがとうございます!いつも大変助けられております

  • 138◆yHeFAtHegA23/07/20(木) 09:00:23

    >>137

    *****


    「見ろよマックちゃん」

    「何ですの?」

    「ターゲット2名様がもうすぐここ通るぞ」

    「あら、そうでしたか。……ってもうちょっと早くに言ってくださる!?そういうのは!!!!」

    「思いのほかマックちゃんがしっかり忘れてて流石のゴルシちゃんもビビったわ……お、下の鳥居くぐったな」


     紀の國屋本店で買ったばかりの団子──右手にゴマ団子、左手につぶあんの草団子──を持ったまま、メジロマックイーンはしきりに左右を見渡してあわあわし、たまに団子を口の中へ収めてはまた小さく右往左往している。


    「落ち着け、とりあえず歩くか団子食うかどっちかに……ウワッ急に落ち着いて団子食うんじゃねえよッ」

    「えお、おあ゛んあぉはい」

    「飲み込んでから自己主張してくれお嬢様。あとあんこついてる」

    「……あら、ありがとう」


     両手の塞がった彼女の代わりに口角を指で拭った。瞬き一回分くらいの時間逡巡してから、口に運ぶ──甘い。


    「でも、このままだと往来の真ん中で出くわしてしまいます。それだけはなんとしても回避しなくては」

    「マックちゃんは結構変装うまくできてるし、案外平気と思うんだけどなあ……ほら、お店の横、ご丁寧にベンチまで用意してあんじゃんよ」

    「この場所じゃ丸見えですわ!」

    「安心しろい、今日は髪まとめてるし、服装も全然違うし……一応予備の伊達メガネもあるから貸しとくわ。ちょーっと深めに帽子被ればわからんって!」


     それに、とゴールドシップは言葉を続ける。


    「これはマックちゃんを貶めるセリフじゃないんだけどさ、たぶん今日は変装してなくても、マックちゃんは視界に入んねーと思う」

  • 139◆yHeFAtHegA23/07/20(木) 12:42:00

    ここまでお店が抜けていたので補足


    The Market SE1:ジェラートのお店。今回は描写を省いたがピザも美味である

    The Market SE1The Market SE1themarketse1.com

    湘南デニムストリート:デニム製品の店。ジーンズや帽子だけでなくリメイク品なども安価で売っている。デニムソフトをコッペパンに挟んだメニューもおすすめ

    「湘南デニムストリート」のブログ【公式】湘南デニムストリートさんのブログです。最近の記事は「EDGE OF LINE 新作入荷(画像あり)」です。ameblo.jp

    紀の國屋本店:和菓子のお店。すぐ横にベンチがあり座れるのが結構嬉しい。昼食を近くの「ゑじま」さんでとってから、食後の甘味に団子を食べるのもスレ主のおすすめ

    紀の國屋本店 · 〒251-0036 神奈川県藤沢市江の島2丁目1−12★★★★☆ · 和菓子屋maps.app.goo.gl

    ※引用元明記のない写真はすべてスレ主撮影です

  • 140二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 22:57:58

    江ノ島行きを検討し始めてようとしている
    マックちゃんはジーンズづくしで普段と完全に印象が違うからね、それ以上にデートを楽しんでる二人だし

  • 141二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 08:57:31

    保守

  • 142二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 19:33:29

    保守

  • 143二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 22:46:17

    「えお、おあ゛んあぉはい」
    これ好き

  • 144二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 00:52:00

    マックそろそろ目的忘れてるだろうなぁと思ったらやっぱり忘れてて草

  • 145二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 08:28:51

    今更だけど>>1のパーマーのしっとりさに興奮してしまった…

  • 146◆yHeFAtHegA23/07/22(土) 11:09:51

    >>138

     結局、赤いベンチに座ったまま今か今かと待っている──自分と同じ家名を背負った少女が”目の前を通り過ぎる”のを、待ち構えている。

     ゴールドシップの言っていたことはいまいち想像がついていなかった。普段あれだけ周囲に気を配り、気を遣い、気を付けている彼女が、よもや最も意識せざるを得ない存在の一人である自分──自覚はある──を見逃すとは思えない。


    「何だか、理解できませんわ」


     左手に残った最後の草団子をほおばる。

     ゴールドシップは『トレーナーになんか買うわ』と言い残し、向かいのデニムストリートへ行ってしまった。手元の端末が映すGPSアプリ画面は二人がもうすぐそこまで来ていることを示しているが、夕方前の晴れ間に増えた片瀬江ノ島駅からの人波が人探しを難しくしている。


     だから、気付かなかった。


    「──あれさ、何て読むの?じょふ……?まんじゅう、みたいなの。ほら、アレ」

    「あれは”めおとまんじゅう”だな、知名度そんなに高くないけどこの辺の名物だったと思う」

    「面白い漢字使うんだね……女夫饅頭かあ、みんなに買って帰ろうかな」


     つい先ほどゴールドシップと交わした内容とほぼ同じような会話、何の変哲もない観光客の言葉でしかないそれが妙にはっきりと喧騒の中聞こえたのは、よく見知った少女の声であったこともそうだけれど、聞き知っていたはずの声とは質感があまりにも異なっていたからだった。


    「ヤバ、デニムアイスだって。超青い」

    「これ確か普通に美味かった気がするぞ」

    「マジで?……いや、でもさっきジェラート食べたし……」

    「また今度食べればいいよ」

    「──今度、……そうだね、今度来れたら、試してみる。今度ね」


     アスリートとして鍛え上げてきたはずの心臓の脈打つ音が、耳の奥で五月蠅く叫んで鳴りやまない。赤くなっているだろう事さえ自覚できるほど熱を帯びた顔に流れる汗は、しかして身震いするほど冷たい。

  • 147◆yHeFAtHegA23/07/22(土) 18:09:14

    >>146

    (なぜ──なぜ私はこんなにも、苦しいのでしょう)


     見慣れた癖毛が人並みの合間にちらりと覗いた刹那──自分でも何が何だかわからないまま反射的に顔が下を向いた。

    そうして初めて、自分の右手が着慣れないサロペットをぐっと掴んで震えていることに気が付いた。


    (駆け落ちしてしまいそうなくらいに思えた──彼女の幸せな姿を見ればきっと私もよい刺激を受けられる……そう思っていたのに)


    「ドクターフィッシュ?って何だっけ」

    「ざっくり言えばコイの仲間だな、人間の皮膚のいらないところだけを食べているような様子からドクターなんて呼ばれてるわけだ。野生だと温泉地にも生息できるから人間の皮膚を食べるらしい」

    「もしかしてトレーナーって魚介類めっちゃ好き?」


    ウマ娘の優れた聴覚が遠く離れた声でさえ拾ってきてしまうのを、ただ震えて耐えるしかできない。あれほど見たかったはずの、メジロパーマーの顔を見ることはできなかった。


    (視界に入らないだなんて、そんなの──)

    「マックちゃん?」

    「……ゴールドシップさん、」

    「目の前歩いてみたけど案外気づかれねーもんだな。……なんか顔めっちゃ青いぞ、拾い食いでもした?」

    「──貴女の言った通りでしたわ」


     心配そうに見下ろしていた目が、緑のレンズの向こうで怪訝そうに細められた。


    「貴女が言った言葉そのまま、でしたわね──私が視界に映る隙もありませんでした」

    「……んだよ、信じてなかったのかよ」

    「私だって何も知らない小娘じゃありませんわ、何かに夢中になって周囲が見えなくなることだって経験はあります。ただ……」


     はぁ、とごく自然に吐く息は深いため息と化した。


    「今のパーマーには……学園も、レースも、メジロという軛もないように見えました」

  • 148◆yHeFAtHegA23/07/22(土) 18:35:58

    >>147

     メジロマックイーンは、困ったような顔で笑っていた。

     一言々々、探るように言葉を続ける。


    「こんなこと、私が言うのも烏滸がましいとはわかっていますけれど──少し、少しだけ、パーマーが羨ましい」

    「……」

    「ごめんなさい、貴女にとって無為な言葉とはわかっています……ただ、家のことすら忘れられるほどに夢中になれていることが、眩しくて」

    「分かるぜ、マックちゃん」


     この言葉に偽りはなかった。


    「アタシだって、羨ましいって思っちまったよ」

    「意外ですわね」

    「言い方ァ!」


     デニムのメッセンジャーバッグを肩にかけなおした少女は、折角だし砂浜に行きましょう、と立ち上がった。概ね同じような気分だったので二つ返事でついていく。


    「マックちゃんさ、ちょいこのサングラスかけてみろよ」

    「何ですの急に……ほら、どうですか」

    「……今後生きていくうえでサングラスを買うこともあると思う。その時のために教えておくけど──やめとけ」

    「そこまで言うレベルなんですの?????」


     緑の眼をしたウマ娘が二人、江ノ島の坂を下っている。

  • 149二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 19:24:01

    マックもスイーツ食ってるときは家のこともレースのことも忘れてると思うが

  • 150二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 20:08:05

    このレスは削除されています

  • 151◆yHeFAtHegA23/07/22(土) 22:45:35

    *****

    dice1d2=2 (2)

    メジロパーマーはメジロマックイーンの存在に

    1:気付いていた

    2:気付かなかった

    *****

  • 152二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 23:24:21

    このレスは削除されています

  • 153二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 10:34:52

    このレスは削除されています

  • 154二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 18:17:30

    >>149

    よくスイーツ関連でネタにされたり馬鹿にされたりしてるけどレースやメジロの重責を常に背負ってる1人だから自分の好きな物を楽しんでる時ぐらいは色々忘れても良いと思うの

  • 155◆yHeFAtHegA23/07/23(日) 22:00:53

    >>140

    江ノ島色々と楽しいのでぜひ行ってみてください!ガイドの一助になれば幸いです


    >>143

    たぶん「お団子が……」とか言ってます。たぶん


    >>144

    美味しいもの食べまくってるのもそうだし、この時点では結構浮かれてるのも理由だったりします。かなり非日常だと思うので


    >>145

    ありがとうございます!湿度を1で使い切ってしまった感があってやや苦戦してます……もっと過湿しなきゃ……


    >>149 >>150 >>154

    一応スレ主的にはマックちゃんのセリフが「忘れられるのが羨ましい」ではなく「忘れられるくらい夢中」なのが「眩しい」になってるあたり彼女の真意、なつもりです。あとは先述のメジロ観あたり……

    マックちゃんかわいいね


    >>152

    ちなみにこれストーリー分岐ダイスでした


    >>141 >>142 >>153

    保守感謝です!

  • 156二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 23:55:09

    >>154

    でもよ!ジャングズ!

    体重が!

  • 157二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 07:00:22

    保守

  • 158二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 08:42:47

    朝age

  • 159二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 18:53:17

    保守

  • 160◆yHeFAtHegA23/07/24(月) 22:47:55

    >>148

    *****


     江ノ島神社と聞くと、人によっては一つの神社が島全体にわたって鎮座しているような印象を受けるかもしれないが実際のところ、島にはメインとなる──縁起に関わる神4柱分の社殿、それ以外にも稲荷社など数柱や仏教系の施設などかなり多くの建造物がある。

     そのうち、島の入り口からでも見えるほど大きな鳥居を備えているのがこの「辺津宮」だった。


    「……いや思ったより階段がキツいな」

    「大丈夫トレーナー?おんぶしたげよっか」

    「もうちょっと頑張らせてくれ」


     自分より小柄で若いウマ娘に背負われて階段を上る醜態に耐えられるほどまだ老いてはいない、そう思いたい。


    「……江ノ島ってさ、結構神社とか、あるんだけど、どこまで巡ろうか」

    「トレーナーがきつそうだしここの上だけでいいよ」

    「俺のことはッ、気にしないでくれ……」

    「気にしないでって言われたら余計気にしちゃうよ。それに、おみくじとか絵馬とかあるんでしょ?やりたいことはだいたいできるからさ」


     辺津宮の絵馬、と聞いて──いや、まさかなと思い直す。まさかパーマーがピンポイントでそれを知って言ったとは考えにくい。


    「OK、とりあえず並ぼうか」

    「やっぱこういうのって5円玉の方がいいのかな」

    「信心さえあればいくらでも平気だろうさ」

    「──ごめんっ、5円玉借りていい?」


     江ノ島の三女神は弁財天と習合されており、財宝や芸事の神として信仰されている。競争成績の向上が見込めるかは分からないが……少なくともライブパフォーマンス向上くらいは祈っても許されるか。


     ──パーマーが無事に走り続けて、最高のライブを続けられるように。そう祈って必勝祈願に代えた。

  • 161二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 23:02:47

    このレスは削除されています

  • 162二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 05:24:40

    >>161

    やはりメジロよ…しっとりが底無し沼に変わっていくんだ…

  • 163◆yHeFAtHegA23/07/25(火) 08:37:16

    >>160

    *****


     お手洗いに行くと言ってこっそりトレーナーの下を離れた私は、嘘つきで小狡い。


    「あのー……すいません、この絵馬ください」


     いかにもなピンク色に彩られた絵馬。行きの車内でなんとなく調べていた時に見つけたのはたぶんよくあるタイプの恋愛成就を祈願するおまじないで、それでも頼りたくなってしまうのは、自分の心を正面切って伝える勇気がないから。

     素直な感情で勝負することから逃げて、こうして何かもっと別のチカラであの人の心にしがみつこうとしている私は、臆病者だ。


     一生に一回のデートだって割り切ろうとして半ば無理やり連れてきたのに、ほんの少しの言葉や行動に”次”を期待している私がいる。


     それでも楽しく連れまわしてくれているあの人の笑顔が刺さった痛みと、あの人の善意を利用している自覚に苛まれる良心が流す血と、そうまでして尚おまじないに縋ろうとする私を見下す私自身への悪意がないまぜに膿んで黒ずんで、油性ペンの先を通って私の名前に形を変える。


    「……トレーナー、ごめんね」


     私の名前と対になる場所へ、震える手で名前を刻む。

     耳に心地よく響くその文字列は、口に出すだけでミミまで赤くなりそう。


    「──っ、よし」


     縁結びの絵馬はそれ専用に掛ける場所がある。その一角だけはいっそ近寄り難くさえ思えるような色彩と雰囲気を放っていた。


     いろいろな名前があった。

     目にしただけで甘さを覚えるあだ名が書かれた絵馬があった。片方が空欄な絵馬もあった。丁寧に絵が施された絵馬があった。拙いひらがなと歪んだハートが添えられた、可愛らしい絵馬があった。これでもかとぎっしり願望の添えられた絵馬があった(ちょっと気圧された)。ご丁寧に「運命の人求む!」と連絡先の描かれた絵馬もあった。


     いろいろな感情と願望がそこには折り重なっていた。

  • 164二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 12:55:25

    恋愛成就するだけなのにこの湿気りよう…
    てか向こうの絵馬ってどういう扱いなんだ?
    絵ウマ娘とかになるのか?

  • 165二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:20:31

    古代、神様は神馬(しんめ)という馬に乗って人間世界にやってくると考えられていて、神事においては生きた馬を献上していたそうです。ちなみに白馬が重宝されたのだとか。

    また本物の馬の代わりに、土で作った馬形(うまがた)や、木で作った板立馬(いただてうま)を奉納する簡略化バージョンも古くからあり、さらに絵に描いた馬も奉納されました。これが「絵馬」の始まりです。


    つまり馬がいないウマ娘世界では神様は多分ロバにのってるから絵ロバだな!

  • 166二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:25:28

    このレスは削除されています

  • 167二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:38:39

    >>166

    ウマ娘を献上していたのか…興奮してきたな

  • 168◆yHeFAtHegA23/07/25(火) 13:39:47

    >>164 >>165 >>166


    うわ修正ミスしてました指摘ありがとうございます、絵マが正しいです(奉納舞ウマ娘イメージ)

    消して上げ直そうかしら

  • 169二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:42:12

    神馬駆のイベントはよかったがとことん和風なのに女神像だけ西洋で違和感凄かった思い出
    日本では独自解釈されて和風になったでよかったのに

  • 170二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:47:59

    >>168

    ええんやで

  • 171二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 14:50:58

    このレスは削除されています

  • 172◆yHeFAtHegA23/07/25(火) 14:55:22

    ★当SSでは絵マの起源について以下学説を採用しています

    古来、豊穣を祈願する神事に置いては常人より多く食物を必要とするウマ娘が奉納舞を納めることが多く、各村落から踊り手を選んだため「舞いウマを納める」と表現した。

    年月を経る中で言葉は変容し、「舞ウマ」→「舞いマ」→「メイマ」→「メーマ(室町)」→「エーマ(江戸初期)」→「エンマ(江戸中期以降)」と移り変わる。

    江戸時代中期以降、人口増加と文化の変化に伴い舞ウマ娘を納める事は少なくなり、エンマが転じた「絵ンマ」すなわち舞ウマ娘の絵を納めることで舞ウマ娘に代える文化が定着した。
    この文化が現代における「絵マ」のルーツである。

    引用元文献:「民俗神道とウマ娘(民明書房)」

  • 173◆yHeFAtHegA23/07/25(火) 21:24:33

    >>163

     積み重なった想いを上書きするのがなんとなく憚られて、通りとは反対側の目立たない場所で、裏向きに引っ掛ける。自然と、名前の裏に書かれた文字が目に留まった。


    『恋の成就・良縁祈願

    ・片思いの恋

    ・思い描く人との出会い

    ・平凡すぎて何か足りない人に

    ・絆を強くしたい人に

    ・心から信頼しあえる人に

    ・しあわせになりたい人に

    ・心を和ませたい人に』


    「ぁ────」


     ──全部、私だった。

     一つ一つの願い全てが、私の心だった。

     ここにある数百、あるいは千に届くかもしれない想いたちも、きっと私が抱えている”これ”と同じなんだと理解した。


     バツが悪くて背を向け立ち去る。散々思い悩んで言葉にもできていなかったはずの感情にあっさり名前を付けられたことが恥ずかしい。きっと一人でいたらもっと恥ずかしくなってしまうから、私はあの人のところへ逃げ帰る。


    「ごめんねトレーナー、遅くなっちゃって」

    「大丈夫。どうかした?」

    「あはは……さっきおみくじ引き忘れちゃってたからさ、ほら」

    「そうだったのか、結果は見た?」

    「まだ。こういうのってさ、一緒に見てもらった方がなんかイイかな……って」


     嘘は言っていないけれど、嘘をついた。私は小狡くて臆病な嘘つきだ。

     だからこうして、神様に頼る。

  • 174二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 21:27:22

    胸の奥に秘めたはずの湿度が溢れ出す!

  • 175二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 21:46:55

    水の中かな?

  • 176二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 23:03:45

    このレスは削除されています

  • 177二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 07:46:16

    もうその霧はホワイトアウトする程の深さなんだ
    だから我々の見えない所で何が起こってもおかしくないのだ

  • 178◆yHeFAtHegA23/07/26(水) 08:33:21
  • 179二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 14:05:43

    このレスは削除されています

  • 180◆yHeFAtHegA23/07/26(水) 20:11:21

    >>173

    「どれ……中吉か。どれくらい良いのかよく分からんね。『方向……東はよろしいでしょう』だとよ。やっぱ有マかなあ」

    「いいねぇ、狙っちゃいますか!」


     江ノ島神社のおみくじには『恋愛』の項目がなくて、少し残念だったけど何だか安心した。

     トレーナーの横を歩きながら、おみくじにゆっくりと目を通す。


    『待人……くるがおそくなります』

    『縁談……急がないほうがよいでしょう』


     もうちょっと、粘ってみようかなって思った。

  • 181二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 21:30:38

    パーマーは可愛いな

  • 182二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 03:15:30

    このレスは削除されています

  • 183二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 06:57:48

    トレーナーを見る目つきがよりじっとりしてそう

  • 184◆yHeFAtHegA23/07/27(木) 08:29:44

    >>174

    秘め......秘め......?


    >>175 >>176 >>177 >>179

    霧中と夢中って似てますよね()


    >>181

    👺


    >>182 >>183

    寂しそうな湿った目線から好機を待つ湿った目線にグレードアップ!

  • 185二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 12:20:31

    いいよーいい湿りっぷりだよー!(ヤケ)
    湿りすぎて江ノ島がラムサール条約に加盟できちまうよー!

    マックちゃんパートで除湿できるかもうわかんねえな?

  • 186二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 20:14:13

    このレスは削除されています

  • 187二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 00:27:00

    マックイーンは戻ったらカラッと減量メニューだから平気平気

  • 188◆yHeFAtHegA23/07/28(金) 01:19:01

    (一応物語の結末まで考えて描き進めてるんですが、どうあがいても次スレが必要な状況……)

  • 189◆yHeFAtHegA23/07/28(金) 08:40:21

    >>180

    *****


     ファイッ、オーッ、ファイッ、オーッ、とウマ娘の一団が砂浜を駆けていく。

    それを尻目に葦毛の二人はコンクリートへ座って、オフシーズンで誰もいない海の家を日陰に涼んでいた。


    「あの方たちは南関東の所属でしょうか」

    「だろーな……ジャージが中央のとだいぶ違う」

    「ダートの練習にはうってつけですわね、今の時期なら泳ぐ人も少ないですし」


     コンクリートはすっかり乾き、葦毛にも似た灰白色の雲が僅かに雨の面影を残すだけの空の下、江ノ島の海は穏やかに漣を立てている。


    「良かったのか、二人を追いかけないで」

    「ええ、大丈夫です」


     デニムのバケットハットを脱いだ少女は満足そうな、それでいてどこか寂しそうに笑っている。


    「というより、正直に言うならば少々……許容量を超えてしまいましたわ。その……想像していたよりもずっと空気が甘やかで」

    「コーヒー飲む?」

    「私は紅茶派です。マックスなアレはたまに飲みますが」

    「原材料一覧でコーヒーより前に練乳が来る飲み物はコーヒーじゃねえと思う」


     メジロマックイーンは──受け流す。


    「……パーマーがあんな声音で会話しているところ、初めて聞きました」

    「確かにあんまり印象ねーかも」

    「だからそれに少し戸惑ってしまって、なんだかいっぱいいっぱいでしたの」

    「そっかぁ……んま、身内ならさもありなんって感じだよな。普段親しいぶんそういう面を知る事ってあんまりないだろうし。案外さ、マックちゃんもトレーナーと話してる時は雰囲気違うかもしれねーぞ」

  • 190二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 12:20:15

    >>188

    私は一向に構わん!

    もっとしっとりパーマーが欲しいわ!、

  • 191二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 20:14:50

    このレスは削除されています

  • 192◆yHeFAtHegA23/07/29(土) 00:06:04

    >>190 >>191

    ありがとうございます、何とかできるようにします

  • 193二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 00:30:02

    おいおいマックちゃんもジメジメしてきたぞ
    メジメ家か?

  • 194二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 01:05:55

    このレスは削除されています

  • 195二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 10:29:12

    楽しい江ノ島デートも終盤か

  • 196◆yHeFAtHegA23/07/29(土) 12:40:17

    >>189

    「……まさか。そんなことありませんわ」

    「こういうのは本人にはわかんねーもんなんだよ。どんな奴でも、好きな相手と話す時はどーしたってテンション上がっちまうだろ」


     その言葉に、メジロマックイーンは伊達メガネの奥で綺麗な目をパチパチと数度瞬かせた後で、少し鼻息を荒くしながらこちらに顔を寄せる。


    「言い切れるということは──ゴールドシップさんは経験がおありなんですの?その……好きな人、と、話した経験が!」

    「近い近い……つかそれくらいマックちゃんもあんだろ?アタシだってガキのまんまデカくなったんじゃねーんだからよ」

    「やっぱり──トレーナーさんでしょうか?貴女の無茶に付き合って、なお愛想尽かさずにいるなんて常人じゃありませんわ」


     まあ、事実ならばあっさり認めるのがゴルシちゃんの美点だ。


    「確かにアイツのことは好きだな……でもそもそも性別とか年齢関係なく、アタシは好きだと思ったヤツみんなのことを全身全霊で愛してるぜ」

    「聞く相手を間違えましたわね」

    「勝手に聞いといてそれはねえよマックちゃん」


     悪戯っ子の笑みを浮かべた顔の、不思議な迫力と可憐さが共存している眼を彩る長い睫毛は微かに陽光を反射させてきらきらと輝いている。アタシ自身も大概傾国の美少女ちゃんだと思うし、そもそもウマ娘はおしなべて美少女揃いで、そんなことを分かっていてもなおメジロマックイーンは綺麗だと思う。


    「つっても、マックちゃんはトレーナーのこと好きなんだろ?じゃないとあの二人を追いかけようなんて思わねーよ」

    「もう!からかわないでくださいまし!」

  • 197◆yHeFAtHegA23/07/29(土) 12:47:48
    【SS】これは湿気たパーマーにあてられてちょっと湿ったマックちゃん|あにまん掲示板・前スレ:https://bbs.animanch.com/board/2087848/・前回までのあらすじ: 雨の降るトレセン学園、何処か昏い蠱惑に濡れるメジロパーマーはトレーナーを江ノ島デートへ連…bbs.animanch.com

    次スレです。


    スレ主はこれからアイビスSDに向けてバイクで石川→新潟移動しますんでちょいと更新が遅くなります。

    保守並びに感想本当にありがとうございます、次スレもどうかお付き合いください。

  • 198二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 14:49:39

    このレスは削除されています

  • 199二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:51:58

    >>198

    やはりゴルシは常識人…

  • 200二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 17:06:26

    このレスは削除されています

オススメ

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