屋上の死闘! ナリタ四天王 vs 野菜の王様【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:55:40

    飯の美味さとは即ち気分の良し悪しである、と言っていたのはどこかの脚本家だったか。
    気に入らないヤツの前で食えば高級肉もク不味く、家族と食べる安肉のすき焼きはいつ食べても美味い。
    それは食に留まらず、精神論と一言で切って捨てられない効果がある。

    良い気分で走るヤツは、強い。
    ナリタブライアンが渇きを満たす相手を求めたのも、極論同じことなのだ。

    つまりブライアンは──気持ちの塞がる様な考え事ぐらい、開けた屋上でしたいと思ったのだった。

    「……よう」
    「ん」

    屋上には先客がいた。
    ナリタタイシン。
    同じ"ナリタ"を冠するウマ娘だが、サクラやメジロ、シンボリの様な何かしらの繋がりはなく、お互い特にシンパシーを覚えてはいない。
    姉の親友、親友の妹。それだけの関係。
    ブライアンは丁度その塩梅の関係を欲していたところだった。

    「なあ」
    「何」
    「ブロッコリーを食べたいんだが」

    「……」
    「……」

    「世界滅亡の日か──成人するまでは生きたかったな」
    「おい」


    屋上の死闘! ナリタ四天王vs 野菜の王様!

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:55:55

    「つまり。
     マヤノの食事メニュー変更に巻き込まれたと」
    「『ストイック!それはオトナの覚悟!』だとかでな……」
    「断りなよ」
    「無理だ」

    「大人ぶるならあれぐらいストイックになってみせろ」と、そう言ってワンダーアキュートを指したのが運の尽きだった。
    彼女はレースに向けての食事制限中。食べるのはブロッコリー、茹で卵、鶏ササミのみ。

    一例として出しただけとはいえ、言い出しっぺが実行できませんとはいかない。ブライアンはやむを得ず同じメニューに付き合うことになってしまった。
    (そういうとこ姉妹だな……無駄に律儀というか)

    「だが──ブロッコリーは、まずい」

    ブロッコリー。野菜はこれだけ食べておけばいいとまで言われるほど栄養価密度の高い野菜。
    あらゆる癌、病気を予防する抗酸化ビタミン。
    スルフォラファンをはじめとする解毒・抗酸化作用に優れるファイトケミカル。
    脳の神経細胞にはたらきかける葉酸。
    そしてもちろん食物繊維。

    すべてを高水準に備える野菜界のグランドスラム──人はそれを"野菜の王様"と呼んだ。

    「マヨネーズを塗ったくれば飲み込めないこともないが、今回はそれができん」
    「余計な脂肪取れない訳だしね」

    「てかなんでアタシ?ハヤヒデとか他に相談できるのいるでしょ」
    「マヤノが飽きるまで凌げればいい。アマさんや姉貴に言ったら永続的に食えるようになるまでやりかねん」

    いっそそうなったらいいじゃん、と喉まで出かかってやめた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:56:18

    「ただ嫌いっつっても解決策出てこないでしょ。もうちょい詳細に言いなよ、嫌いなとこ」
    「詳細にと言ってもな」

    ブライアンは実際に口の中にブロッコリーが現れたように苦々しく顔を歪めた。

    「──管理の行き届いておらず緑色になった池の底の土を濾過したような土っぽい青臭さとエグ味。
     木材と劣化プラスチックの中間のような中途半端な繊維性食感の茎。
     先端の蕾の集合体が口内で崩れ、羽虫の群れのように舌の上を這い回る不快感は他に類を見ない。

     単一であり無数、自然と人工のまだら模様。土と木と羽虫。あれは野菜などではない。

     あれは────森だ」
    「どういうことだよ」

    ともあれ。

    「青臭さと食感なんとかなりゃ我慢できるんじゃない?マズいのはこの際いいでしょ」
    「良くはない……が、その二つと比べればマシだ」
    「決まり。あとは調理法だけど……クリークさんに聞いてみるけど、そっちはアテある?」
    「なくは、ない」

    方針は決まった。
    マヤノがトレーナーと話を早々につけるにしても、栄養管理の観点から実施は即日とは行かないだろう。
    2人は一度解散、準備を始めた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:56:44

    🐈)))

    (しかしまあ……何が良くないかキッチリ分析して余計に嫌いになってるあたりホント姉妹)
    (アレコレ考えすぎてんのがダメなんじゃ……あ、そうだ)

    「委員長、今いい? ……ちょっと相談なんだけど」
    「はいっ!いいですよ!」

    「……いやせめて内容聞いてから」
    「お任せください!!!」
    「ああうん」

    🐈‍⬛)))

    (マシ、とはいえ対処するに越したことはない。二つの課題はタイシンがなんとかするだろう……ならば)

    「邪魔するぞ」

    「おやおや副会長のお出ましかい?今日は目をつけられる覚えが無いんだけどねぇ」
    「今までに山ほどあるがな。今日は別件だ」





     🐈‍⬛))) 🐈)))

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:58:20

    茶猫→タイシン
    黒猫→ブライアン

    なるほど?

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:59:07

    そして夕刻、屋上。
    栄養の森を打倒すべく、4人は集まった。

    「ブロッコリーを美味しく食べようの会、全員揃いましたね!よろしくお願いします!」

    ナリタタイシン、ナリタブライアン、ナリタトップロード。そして。

    「じゃあ試食会始めるけど……こいつ何?」
    「ご挨拶だねぇタイシンくん。好き嫌いというのもある意味では感情と肉体の結びつき、とブライアンくんの詭弁に興味を持ったというわけさ」

    アグネスタキオンである。

    「こいつは問題児ではあるが、頭はある。目的と課題を設定しておけば外れたことはしない
     ……これまでの問題行動の傾向としてはな」
    「あー……まあ、お疲れ」

    「さあ役者(モルモット)は揃った!私の実験を始めようじゃないか!」
    「仕切んな後輩!」

  • 7二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 22:59:35

    Case 1. 食感克服ロイヤルBジュース

    「これは…………」

    それは──野菜とは呼べないものだった。
    目に優しい緑色の、流体。

    「スムージーですね!タキオンちゃんがいつも飲んでたやつです……最近はお弁当ですよね?」
    「ちゃんはやめたまえ。要は食感がなければ良いんだろう?
     茹でたブロッコリーを完全に液体になるまでミキサーした。あとは飲めばいい」

    もったりと半固体めいた重さを伴ってカップに注がれるソレは、既に食欲を削り落としている。

    「……おい、これは」
    「タキオン呼んだのアンタでしょ。観念したら?」
    「だ、大丈夫ですか?持ってきたタキオンちゃんが一番怪訝な顔してますけど」
    「ちゃんはやめたまえ。私はリクエストに応えただけだよ」

    明らかにアカン産物ではあるが、試さないことには次に進めない。

    『…………いただきます』

  • 8二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:00:14

    眉間にシワを寄せて、あるいは目を閉じて、あるいは鼻をつまんで、あるいは心閑かに。

    絶対マズいそれを、それぞれ一息に飲み込んだ。


    それは──羽虫が這い回る感触ではなかった。
    口の中を、甘苦い軟体生物がねぶった。
    噛むこともなく喉へ一直線、食道の輪郭を思い知らせながら胃にへばりついた。

    そして鼻の正面から、口内と喉の中を経由して鼻の裏側から。青臭さが嗅神経を挟み討ちした。

    そういえば、臭いを感じる神経は唯一脳幹を経由せず直接大脳に刺激を伝達する最も原始的で本能的な感覚だって聞いたことがあるな。


    『 ゔっ 』



    ダメだった。
    「劇薬」
    「生物兵器」
    「すごく甘苦くてすごく変ですごくすごいぞわぞわします」
    「失敗だねえ、わかりきってたけど」



    ※後でモルモットくんがブロッコリーソースにしてお弁当のおかずにしました

  • 9二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:00:47

    Case2. すごくカリカリでなんかどんどんパリパリ行けちゃいます!美味しいです!

    「で、これ。ブロッコリーチップス」

    タイシンがこっそりクリークに相談して得た答えは、薄切りにしたブロッコリーを素揚げしたチップス。
    微かにキツネ色を纏ったブロッコリーが、ざらざらと野菜らしからぬ音で皿に盛られた。

    「揚げたのか」
    「天日干しならノンフライだけど、時間なかったし。味はそんなに変わんないでしょ」

    「これって茎の部分ですよね?四葉のクローバーみたいで可愛いです!」
    「……他は萎びたパセリだがな」
    「海苔だと思えばいいでしょ。食べるよ」

    『いただきます』

    かりかり、ざくざく。
    香ばしい香りが青臭さを抑え、煩わしい粒々は脱水して一塊になっている。
    カラカラの繊維は軽い食感で砕け、適度な硬さが食べている実感を与え、野菜につきまとうどこか物足りない淡白さはない。

  • 10二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:01:10

    問題は深刻(?)だけどコミカルですき

  • 11二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:01:27

    ぱりぱり、がりがり。

    「ふぅン……食感は別物。ここまで水分を抜けば当然か」
    「……ああ」

    口に入れて噛んだ直後。食感に誘われるまま次に手が伸びたが、そこでブライアンの手は止まってしまった。

    (…………食感は野菜のそれではない。しかし、噛むと踏まれて土に埋まった葉の──)
    「あっ、これ!すごく美味しいです!カリカリで、わぁ〜、美味しい……!なんかどんどんパリパリ行けちゃいます!すごく美味しいです!」
    「…………」

    ブライアンの顔から険がとれる。
    拒否感の並ぶ内心は、カリカリしてて美味しいことしかわからないへっぽこ食レポにすっかり吹き飛ばされてしまった。

    さくさく、かりかり。

    タイシンの本命はこっちだった。
    要はブライアンも姉に似て考えすぎるのだ。

    何が自分にとって不味さを感じさせるのか。どの要素が入っていると不味いもので、どの要素が無ければ美味いのか。
    そんな事を考えていても、食事は美味しくならない。
    良い気分でいれば、大抵なんでも美味いのだ。

    「語彙、酷くないか」
    「え、美味しいですよ?」
    「…………まあ、な」

    ばりばり、ざくざく。

    『ごちそうさまでした』

  • 12二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:01:51

    結果、なんとブライアンは3人と同じ量のブロッコリーを食べ切った。大成功である。

    「でも油使わないためには何日も天日干ししなきゃいけないんですよね?」
    「そこなんだよね」

    まして、今は梅雨時。不安定で雨が降らずとも曇りがちな今の時期に安定して乾燥させるのは現実的ではない。

    「なんだ、簡単じゃあないか」
    「……やっと役に立ちそうだな。何か作れるか?」
    「作らないさ。フードドライヤー。フラッシュくんなりアケボノくんなり持ってるんじゃないかい?」

    「「「……なにそれ?」」」


      🐈‍⬛)))

    そして、後日。

  • 13二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:02:14

    「わ、ブライアンさん!それなに!?」
    「これもブロッコリーだ。フードドライヤーとやらでチップスにしてある」
    「普通のは食べないの?」
    「…………こっちの方が肉に合う」

    ブライアンはなんとか先輩のメンツを保ちきっていた。
    鶏ささみとブロッコリーチップスをまとめて箸でつまみ、次々に口に入れていく。

    「あ、ホントにやってたんだ」
    「……アンタか」

    「ね、タイシンさん!フードドライヤー?なんて持ってるの?」
    「ヒシアケボノのトレーナーがね。遭難対策とかで保存食やたら作ってた」
    「遭……難……?」

    マヤちょっとわかんないや、と頭上にハテナを撒き散らす。
    幼い仕草をする小柄な少女に似つかわしくない、ストイックな食事。
    拒食とサイズに悩まされたタイシンは、特に何事もなく。
    なんとなくの、老婆心で声をかけた。

    「マヤノ、こういう絞るためのメニューはまだやんなくてよくない?栄養要るでしょ」
    「でもマヤは──」

    「背、伸びないよ」
    「食べ終わったらトレーナーちゃんに相談する!」

    しまった!とショックを受けたマヤノが、慌ただしくブロッコリーを掻き込む。彼女のトレーナーも察してはいたらしく、明日には彼女の食事には幾許かの脂質と糖質が追加された。

    「こう言えば良かったんじゃない」
    「…………早く言ってくれ」

  • 14二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:02:42

    凝縮された森のコピペを思い出すなあ

  • 15二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:03:52

    なぜタキオン……と思ったけどナリタタキオン!?

  • 16二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:04:36
  • 17二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:07:37

    ブロッコリーの栄養素とか味の表現とか細かく書き込んでてすばら
    こういうお話書きたいなとは思う

  • 18二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:12:37

    タイシンの案とトプロの捉え方とタキオンの器具調達
    美味しく食べようの会のみんなのおかげで食べられるようになってるところがよかった

  • 19二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:24:38

    姉貴が感動してあらゆる野菜の乾燥チップ作りそうだなー……
    ちなみに乾燥させてから粉砕してカレー作ると煮溶かしたりミキサーかけるよりも手軽かつ味の濃縮された野菜の溶け込んだカレー作れるよ

  • 20二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:28:03

    良かった(語彙力0男の必死の叫び)

  • 21二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 23:34:27

    やっぱりタキオンはナリタだよね…

  • 22二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 00:04:07

    スレ画の圧がすごいんよ
    タイシン視点だとブライアンが姉貴の妹らしく見えるのすき

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