【トレウマSS】あの夏のリベンジ

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:15:49

    「………最後の夏合宿、かぁ」

    時はとある年の7月。
    アタシは今年の末で引退する予定だった。
    この合宿所に来るのもこれが最後。

    「………」

    ちらり、と横を見る。
    ………トレーナーさんと歩むのも、あと半年もないんだ。

    「…あーッ!!!」

    バチン、と両方の頬を自分で叩く。

    「うおっ!?どうしたんだ、バンブー!?」
    「なんでもないっス!さあ、行きましょう!!!」

    こんな感傷に浸るだなんてアタシらしくもない。
    今年もマジメにトレーニングして、最後の最後まで頑張って。
    そして………

    (…そして………?)

    アタシはその先を想像するのをやめた。
    …何故か、怖かったから。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:16:08

    「1998、1999………2000ッ!!!!!今日の筋トレ終わりッ…!!!ふはぁ………つかれたっス…」
    「お疲れ様、バンブー。はい、スポドリ」
    「ありがとうございますッ!!!んく、んく………ぷはぁっ………」

    冷たい水分と程よい塩気、甘さが、体に染み渡っていく感覚を覚える。
    今日もトレーニングが終わった。

    こんな調子でなんだかんだと、夏合宿は半分も終わってしまって。
    アタシは謎の焦りを覚えていた。
    でも、何に焦っているのかを言語化するのは難しくて………そんな時、視界の端っこにとまったものがあった。

    「………この服…」

    いつかのサマーウォークで、友人に選んでもらった夏服。
    『夏の正装』と聞いたから、あれ以来夏合宿には毎回持ってきている。
    …最も、トレーニングばかりで『正装』を纏う機会はなかったんだけど。
    アタシはその時、ひとつ閃いた。

    アタシはその服に着替える。
    相変わらずスカスカとした、落ち着かないくらいに露出している服。
    アタシの気合いの象徴であるハチマキを外して、思わず耳が垂れてしまいそうになるのを我慢しつつ。
    トレーナーさんに教えてもらった爪の手入れの応用で、爪をカラフルに塗っていって。

    そんなこんなで着替え終わって、自分に言い訳しながらトレーナーさんの元へ向かう。

    (これは…『デート』じゃない)

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:16:20

    とある年の夏合宿を思い出す。
    あの時はそれが『デート』だともわからないまま、子供で未熟なアタシを晒してしまって。
    結局は、みんなで体を動かすという『アタシらしい』しめ方をしたけれど。

    (………それじゃ、ダメなんだ)

    『アタシらしい』ままじゃ、きっとトレーナーさんはアタシを『アタシ』としてしか見てくれない。
    そうなったら………この年末で、トレーナーさんは。
    だから、ここで『デート』………

    (いやいやいや、何考えてるんスかアタシ!?これは『デート』じゃない!!!それにアタシは『アタシ』なんだから、そう見られることになんの問題も………)

    頭の中に渦巻いているのはたくさんの思い出。

    あの夏にカフェで大声を出す『アタシ』を受け入れてくれたトレーナーさん。
    一緒に温泉旅行へ行った時はトレーナーさんが『特別』だと気がついて。
    その『特別』が何かなんてわからないまま今日へ来てしまったけれど。

    違う。

    目を逸らしてただけだ。アタシは風紀委員長。不純な交際は絶対にしない、してはいけない、そもそもしたくない。
    だけど………この『特別』は消せなかった。

    認めよう。

    「………トレーナーさん、一緒にカフェ行きませんか?」

    アタシは勇気を出して、声をかけた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:16:36

    トレーナーさんとアタシは談笑していた。
    ここまであった色々な出来事、思い出、その全てを静かな声で振り返っていた。

    時々トレーナーさんが落ち着かなそうにするのに気がついた。
    けどアタシはそんなに勘が鋭くないから、理由はわからなかった。

    「………なあ、バンブー」
    「ん?どうしたんスか、トレーナーさん?」
    「…食事が終わったら、海岸へ行こう」
    「?…わかりました」

    なにか理由があるのくらいアタシでもわかる。ちゃっちゃとご飯を食べちゃって、お会計を済ませて、アタシはトレーナーさんと並んで歩いて海岸へと向かう。

    「…それで、どうしたんスか?」
    「………我慢、しないで良いんだぞ?」
    「へっ?」

    「俺は君の聞いてると元気がもらえる声が好きだからさ。その声を抑えてカフェの雰囲気に合わせなくて良いんだよ。だから、ありのままで………」
    「そっ、それじゃダメなんス!!!」
    「えっ?」

    「アタシは、アタシは…今まで通りの『アタシ』じゃないアタシを見て欲しくて。だって………」

    この先を言ったら、今まで通りではいられなくなる。
    トレーナーさんは、アタシを真面目な風紀委員長としては見なくなる。けれど。

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:16:51

    「………トレーナーさんに、振り向いて欲しいから。担当としての元気なアタシじゃなくて、トレーナーさんといる間に成長した、女の子としてのアタシを見て欲しいから。だから、子供なアタシじゃないアタシを………」
    「………バンブー」

    ああ、言っちゃった。
    もうダメだ。
    溢れる涙。アタシは後悔していた。ずっと我慢していれば、きっと最後まで仲良しでいられたのに。

    ………一人泣きじゃくっていると、ぽん、と頭を撫でるあったかい手の感触があった。

    父さんのそれとも違う、大きなあったかい手。

    「…トレーナーさん」
    「………そうだな、大きくなったよ。見た目はあんまり変わらないけど、成長したよな。俺も誇らしい」
    「…ごめん、なさい」
    「なんで謝るんだ。俺は嬉しかったぞ?」
    「え…」

    「ただ、そうだな。…君が卒業するまでは何もしない。それで良いよな?風紀委員長」
    「!はい、それは当然っスよ!!!アタシも大賛成っス!!!」

    ああ、あんな言葉をかけても、アタシを風紀委員長として見てくれるんだ。

    「…トレーナーさん、改めて、しっかりと言わせてくださいッ!」
    「ああ、しっかり聞くよ」

    「………大好きですッ!!!」

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:17:42
  • 7二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:21:21

    こういうの好き
    ニヤニヤしちゃった

  • 8二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 18:30:43

    良い…

オススメ

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