- 1二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:12:32
今年も春がやってきた。
昔から変わらない、桜色に染まる道の中を、昔よりも少し低い目線で私は進んでいる。
キコキコと音を立てる車輪は、道中の長さを示すように桜色に染まっていた。
「ローレル」
頭上からの声に顔を上げると、彼の濁った瞳には微笑みを浮かべる私が映っていた。
昔はもっと澄んでいたはず。でも、今はこのくらいが好み。
「よく、こんな風に桜の花が丸ごと地面に落ちていることがあるだろう」
「ええ、不思議ですよね。花びらが舞い散るのは分かりますけど、花そのものが落ちてしまうなんて」
「それはね、雀の仕業なんだ」
「雀?」
雀と聞いて、小柄でなんとも可愛らしい姿が目に浮かぶ。そんな鳥がこんなことを?
「知っての通り、桜にも花の蜜がある。メジロ──もちろん鳥の方だが、メジロなんかは器用に花にくちばしを突っ込んで蜜を吸えるんだけど、雀の場合はくちばしが太すぎて蜜まで届かない。だから根本から花をちぎってしまうんだ」
「……へえ、そんな習性があるんですか。トレーナーさんは物知りですね」
「トレーナーさん」と、久々に彼をそう呼んだ。意図的に避けていたつもりはないけれど、暮らしの中でなんとなくその呼び名を使う機会がなくなっていた。
彼にものを教わるのなんてそれこそ久々だから──無意識に呼んでしまったのだ。
「花に惹かれて、その花を手折ってしまうなんて……まったく酷い話だよな」
「ええ、本当に。やっと花を咲かせたのに……どうしようもなく酷い人です」
不釣り合いなほど高い枝に咲いたサクラの花は、蜜を求めた雀に摘まれてしまった。
でも、その雀は次の花を探すでもなく、同じように地に降りて、つぶれた花をじっと見下ろしている。 - 2二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:13:01
一生かけて償うなんて口約束、本気にしてるとでも思いました?するつもりもなかったし、したくもなかったんです。
なのに、どうして貴方は──いいえ、そんな貴方だからこそ私は惹かれたんでしょうね。貴方ならこの花を啄んでもいいと、そう思ってしまったんです。
「ねえ、トレーナーさん。雀の鳴き真似をしてみてくれません?声帯模写が上手でしたよね」
「うーん、どうしようかな……」
濁った瞳には、相変わらず微笑んだままの私の姿。
いつか花びらが朽ちるまで、名残惜しく色づいて── - 3二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:14:05
オワリ。ファブルみたいに──使う癖があるなと最近気づきました。
- 4二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:15:34
このローレル もう走るどころか歩けなくなってたりする?
- 5二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:15:52
やめろ……やめろぉ!
- 6二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:22:25
なんか悲しいね
- 7二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:23:40
この行為を盗蜜と言うらしいな
花から蜜を奪うだけで花粉は運ばない……
次世代を残さない……
ローレルの青春や恋心を奪うだけ奪って次世代に語り継ぐ勝利を与えられなかった……ってこと?
- 8二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:32:24
- 9二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:48:50
そりゃ花を摘んでしまったらこうもなる
- 10二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 10:52:09
- 11二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 11:23:03
本当に一生を捧げるやつがあるか
- 12二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 11:25:19
承太郎は短命だったなって続くかと思った
- 13二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 11:26:59
初めての担当でフランスで輝く可能性があった子をこんなことにしちゃったらマインドクラッシュしてトレーナー続けられないだろう
- 14二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 22:57:27
こういう苦いやつすき
濁った世界で幸せに暮らしてくだされ… - 15二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:10:05
辛い……本当に辛い
でもものすごくこういう空気の虚無感好き…… - 16二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:26:32
- 17二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:28:59
灰色で閉じた世界観も似合うな
- 18二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:40:02
また守れなかった…