魔女と騎士

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:32:00

    ・書き逃げSSじゃい!
    ・最終話で御三家の共闘が見たかったんじゃい!(グエル、エラン5号、シャディク)
    ・グエスレ、シャディミオ、5ノレ、ラウペト推しじゃい!
    ・剣と魔法の世界でのグエスレが見たかったんじゃい!
    ・最終回を見た後と、グエスレのスレから気持ちが爆発した結果がコレだよ!
    ・細かい設定とか誤字脱字とか知らねぇ~! 私が見たいから書きなぐった、以上!
    ・画像はイメージ図





     剣と魔法が飛び交う世界、アド・ステラ大陸。
     工業技術は魔法の台頭によって遅れ、魔法を使うための粒子を「パーメット」、その粒子を宿す道具は「モビルスーツ」と呼ばれ、世界の発展や人々の生活に大きく貢献していた。
     21年前、事件が起こった。
     パーメットを自在に操り、魔法を駆使して、強大な力だが使用者に不幸をもたらす「ガンダム」という名の魔道具を生み出した機関。
     その「魔女」と呼ばれる者たちが集う「ヴァナディース」とガンダムを危険視した、当時、アド・ステラ大陸屈指の大国となりつつあったベネリット公国が、魔女とガンダムを消すべく武力行使を行ったのだ。
     ガンダムやモビルスーツを用いた戦いは、血で血を洗うような凄惨なものとなった。
     そして、後に「ヴァナディースの魔女狩り」と呼ばれるようになったその事変は、ベネリット側の勝利で幕を閉じた。
     一部の魔女と、ガンダムという存在を残して……。


  • 2二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:32:31

     アド・ステラ122年、マーキュリー地域。
     その地域の辺境にあるシン・セーの森を前に、「騎士」であるグエルは苛立ちを隠せなかった。
     ベネリット公国のお膝元、ラグランジュ地域。その広大な土地を治める「御三家」と呼ばれる騎士王の息子である自分が、何故遠く離れたこの地に赴かなくてはならないのかという憤りだった。
     それも、名誉あるアスティカシア騎士団の中でも一番の実力者に与えられる勲章、「ホルダー」持ちの自分がだ。

    「権力欲の強いお父様を持つと、そのご子息様も大変だねぇ」

     これからこの鬱蒼とした森の中を抜けるのかと思うと、苛立ちに加えて気さえ滅入りそうになる彼の後ろから軽口が飛んでくる。
     グエルが眉にしわを作りながら威嚇するような顔で振り向くと、その視線の先にいる彼と同じ騎士団の鎧を身にまとった好青年がしたり顔を見せた。
     速度よりも力強さを重きに置いたグエルの重鎧に比べ、速度と動きやすさを追求したような軽鎧に身にまとった彼は、自分に掴みかかってきたら何時でも避けられる、と言わんばかりにその場で跳ねて見せた。
    薄ヨモギ色のショートカットの髪を揺らし、ケラケラと笑う姿は、彼の端正な顔立ちも相まって悪戯好きの妖精を想起させる。

    「うるさいぞ。エラン」
    「まぁ、まぁ。そう苛つくな、グエル。君の父親も、ここに住むという魔女さえ討伐すれば、騎士として認めてくれるさ」

     獅子を思わせる怒り顔を露わにするグエルに対し、今度は横から別の青年の声が聞こえてくる。
     彼とエランと呼ばれた青年が声に釣られてそちらを向くと、彼らから少し離れた位置で森の様子を伺っている金髪ロングで褐色肌の好青年が二人の視線に気付いて顔だけを彼らに向ける。

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:32:52

    「あぁ、そうだな。だが、シャディク。父さ……ヴィム騎士王はお前の進言を聞いて、俺たちをこんな辺境な地へと向かわせた。本当にこの場所にいるんだろうな?」
    「いるさ。目撃情報もあるし、何よりもパーメットが濃い。分かるだろ?」

     飄々としており、どこか掴みどころのない騎士、シャディクの言葉を聞いて、グエルも小さく舌打ちした後に再度目の前の森へと視線を戻す。
     シャディクの言う通り、魔法やモビルスーツを使う際に必要なパーメットの濃度が、グエルにも嫌と言う程分かっていた。
     普段は鎧という存在を知っているのか、と疑いたくなるような軽装をしているシャディクが正式な騎士鎧をキチンと身に纏っていることからも、彼が得た情報が正しいことを物語っている。
     この森に漂うパーメットの粒子の濃さから、魔法を使う魔女が住むのではないか、とまことしやかに囁かれてきたが故に、ついた別名が「魔女の森」。
     その森に本当の魔女がいたという話が、ベネリット公国を代表する騎士王御三家の元に届いたのが2週間前。
     情報の真偽を確かめるべく、御三家を統括する公王、デリング・レンブランより魔女討伐の命が御三家に下されたのが1週間前。
     そして、その命を受けて各騎士王たちがそれぞれの騎士を選抜し、派遣した。
     獅子のエンブレムを持つ、ジェターク家の嫡男、グエル・ジェターク。
     鷹のエンブレムを持つ、ペイル家の三つ子の三男、エラン・C・サンク。
     蛇のエンブレムを持つ、グラスレー家の養子、シャディク・ゼネリ。
     この三名は目的が同じとして、この旅を共にし、現在に至る。

    「だが分かっているな? 今回の魔女は俺が狩る」
    「好きにしなよ。ま、本当に魔女がいるって言うのなら、お坊ちゃんには少し荷が重いんじゃない?」
    「なんだとぉ?」
    「おいおい。争うのは情報の真偽を確かめてからにしてくれ」
    「ちっ」
    「ハイハイ」

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:33:17

     グエルとエランの衝突をシャディクが諫めるという、この三人だからこそのやり取りを終えた後、彼らは誰ともなく陣形を組んで森へと突入する。
     槍のモビルスーツ、「ディランザ」と、分離し、最大で四本の剣となるモビルスーツ、「ダリルバルデ」を持つグエルが先頭。
     重装甲であり、その重さを物ともせずに動ける彼が先陣を駆け、道を切り拓く。
     その拓いた道を整えつつ、グエルのサポートをするシャディクが中央に位置する。まるで飛ぶかのように中距離を制圧できる飛翔剣のモビルスーツ、「ミカエリス」を持ち、視野が広い彼だからこそ、グエルも信頼して突撃が出来る。
     そして、そんな彼らを更に後方から支援するのが、弓のモビルスーツ、「ファラクト」を巧みに操るエラン。彼は道を拓くグエルやその道を確かなものにするシャディクの露払いを担当し、それ故に最後方で眼を光らせる。
     家や立場こそそれぞれ違うものの、彼らの息の合った連携は完成度が高く、御三家の名に恥じぬ戦いぶりは全アド・ステラ大陸に広まっていた。





    「ここが、魔女の住む家、か?」
    「へー。てっきり鶏の足の上に建つ小屋だと思ったんだけれどもねぇ」
    「エラン。それは御伽噺の話だろ?」

     そんな彼らの陣形を前に、森に住むであろう魔物は手出しが出来ず、特に労せずして三人は目的の場所へと到着した。
     なんてことはない、素朴な掘っ立て小屋。大きい煙突こそ目立つも、エランが言うような魔女らしい家ではなく、どちらかというと隠居した厭世家な魔法使いが住んでそうな家だった。

    「だが、この小屋がここにあるということは、魔女もいる。そうだな、シャディク?」
    「あぁ。そうだろうな」
    「さてさて、どんな偏屈婆さんが住んでいるのやら──お?」

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:33:35

     小屋の前の開けた空間に三人が並び、それぞれが思い思いに言葉を並べていると、その小屋の扉がゆっくりと開く。
     魔女か、とグエルがディランザを構え、シャディクは見据えるような目つきへと変わり、エランは興味深そうな笑みを浮かべた。
     三人が警戒する中、扉は完全に開かれる。そして中から白いローブを身に纏い、同じく白の三角帽子を目線が隠れる程に深々と被った一人の女性が姿を現した。
     手には先端が盾を思わせる意匠が施された杖が握られており、見た目だけなら魔女そのものである。

    「あ、あのぅ……何か御用、です、か?」

     帽子でも隠し切れないくしゃくしゃ頭の赤紙女性の声はどこか幼さが残る、少女のものだった。
     見れば身長こそ高そうではあるが、前かがみになっているせいか、三人とそう変わらない年齢の女性に思えた。
     姿形こそ魔女のそれだが、想像していた者と違ったためか、彼女を見た三人は見事に固まってしまった。

    「魔女? こいつがぁ?」
    「うーん」
    「ははっ、こいつはいいなぁ!」

     グエルは訝し気に、エランは期待外れといった風に。そして、何故かシャディクは嬉しそうに笑い、三者三様の反応を見せた。

    「あ、あのっ! おかさ……魔女プロスペラでしたら、その、今は、いませんけれども!」

     そんな三人の様子に少し機嫌を悪くした様子で、白いローブの少女は姿勢を正す。
     彼女の言葉に反応するように、杖の先の盾の意匠が発光して分解、11つの浮遊物となって少女を守るように展開する。
     流石にその様子や展開した際のパーメット反応を確認した三人は、顔を引き締め、警戒態勢を取った。
     一触即発。そんな空気が漂い、エランとシャディクはそれぞれのモビルスーツに手を伸ばして構えようとする中、グエルだけが何も持たずに胸を張って彼女へと近づいた。

    「ふん。だが、お前も魔女なんだろう?」
    「え? あ、いえ。私は、その……魔女、というか、まだ見習いと言うか」
    「名前は? くしゃくしゃ頭」
    「くしゃ!? わ、わわわ、私にはスレッタ・マーキュリーっていう名前がですね!」

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:35:01

     堂々とした態度のグエルを前に、言葉尻が小さくなる彼女だったが、名前を聞かれる際の言葉に憤慨した様子を見せる。
     そんなスレッタと名乗った少女の怒気に反応するかのように、分解した浮遊物がその突起物をグエルへと向ける。それを見たエランとシャディクは慌ててモビルスーツを手に取るも、それはグエルが挙げた右手によって遮られた。

    「そうか。なら、魔女見習い、スレッタ・マーキュリー。俺と決闘しろ」
    「け、決闘、ですか?」

     突然の申し出に、スレッタは素っ頓狂な声を上げる。
     しかし、「決闘」とはこのアド・ステラ大陸において古くから行われている由緒正しき戦いの作法であり、知らぬ者はいない程の伝統でもある。
     特殊なフィールドを展開するモビルスーツを用い、各決闘者の胸の中心に誇りともいうべきエンブレム付け、それを互いに狙うという儀式。
     特殊なフィールドの効果により、命のやり取りをする実戦とは違い、ダメージのフィードバックこそあれ、四肢の欠損や命を奪われることはない。相手の胸中にあるエンブレムさえ破壊すれば、勝敗はそこで決着する。そこに至るまでの過程や手段も問わないし、使用するモビルスーツ武器も問わない。
     正に「結果のみが真実」ともいうべき、各決闘者の名誉と誇りを賭けた勝負である。
     グエルはこの決闘において、これまでアスティカシア騎士団で無敗を誇っており、自信があった。
     そして何よりも、彼の高潔なプライドから、忌むべき魔女であっても女の命を奪いたくない、というともすれば甘さとも取れる判断による申し出であった。

    「どうした? 田舎者でも、決闘の流儀ぐらいは心得ているだろう?」
    「はぁ。でも良いのですか?」
    「何がだ?」

     突然の決闘にビビるかと思って傲慢な態度を取るグエルであったが、スレッタの反応は意外なものであった。

    「私と、『エアリアル』は負けませんよ?」
    「何だと?」

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:36:04

     落ち着き払い、自信に満ちた様子。それもハッタリや虚勢ではない、正に自分の方が上だとでも言うような声色に、グエルの眉が吊り上がる。

    「……シャディク! 立会人を頼む。エランはフィールドの展開を」
    「はぁ、分かった」
    「面倒だなぁ」

     舐められたと思ったグエルは腹の底が怒りで煮えたぎるのを堪え、後ろに控えていたシャディクとエランに声を掛ける。
     勝手に話を進められ、やや呆れ気味の二人ではあったが、決闘の単語を出されてしまえば騎士である以上、作法に従わなければならない。
     彼は構えを解いて武器をしまい、エランは懐にある特殊フィールドを展開するモビルスーツを置きに行き、シャディクは相対する二人の元へと向かう。
     そして、彼はちょうど二人の間に立つと、姿勢を正した。

    「双方。魂の代償をリーブラに」

     普段の軽い口調が鳴りを潜め、真面目で凛とした声が小屋の前の広場に響く。

    「決闘者は騎士、グエル・ジェタークと魔女、スレッタ・マーキュリー。フィールドはここ、シン・セーの森の広場、でいいかな?」
    「は、はい」
    「ありがとう。ルールは一対一の個人戦を採用。二人とも、異論はないかい?」
    「あぁ」
    「はい」

     シャディクの口上に相対する二人は同時に頷いた。その相槌に、彼もまた満足そうに頷いて口上を続ける。

    「スレッタ・マーキュリー。君はこの決闘に何を賭ける?」
    「えっ、とその……勝った後に、決めます。いいでしょうか?」
    「ふむ? グエルがそれを了承すれば、だが?」
    「構わん。俺が負けると思うのか?」

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:36:35

     決闘前に賭けの対象を話すのが流儀ではある。しかし、あくまでも流儀であって絶対ではないため、相手の了承次第では賭けの内容を決めなくても良い。
     それを知っているが故に、敢えてシャディクはわざとらしく尋ねるも、同じように当然知っているグエルは二つ返事で応答した。

    「だ、そうだ。では、グエル・ジェターク。君はこの決闘に何を賭ける?」
    「俺が勝ったら、お前の身柄を拘束する。見習いだろうと関係ない。魔女として、公王に引き渡す」
    「アーレアヤクタエスト。決闘を承認する」

     両者の決闘の子細が決定し、流儀に則ってシャディクは両手を広げ、柏手を打った。
     今ここに、騎士と魔女の決闘が承認されたのだった。





    「これより、双方合意の元、決闘を執り行う」

     森とはいえ開けた広場の上空には雲が覆われ、一雨降りそうな雰囲気の中、粛々と決闘の準備が進められていく。
     お互いに向かい合っての歩幅10の距離。相対するは騎士のグエルと魔女のスレッタ。

    「勝敗は通常通り。相手の胸中にあるエンブレムを破壊した者の勝利とする」

     そんな二人を離れた位置から見守りつつ、立会人を務めるシャディクの澄んだ声が広場に響く。

    「立会人は、グラスレー家の騎士、シャディク・ゼネリが務める。両者、口上」

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:37:04

     シャディクの言葉を聞き、まずはグエルが一歩前に出て口を開く。

    「勝敗はその者の立場のみで決まらず」

     そんなグエルの言葉に呼応するようにスレッタもまた、一歩前に出て口を開く。

    「その者の技のみで決まらず」

     そしてその口上から一拍の間を置いて、両者が同時に口を開いた。

    「ただ、結果のみが真実!」
    「ただ、結果のみが真実!」
    「フィックスリリース」

     特殊なフィールドに覆われた広場全体に聞こえるような大声の口上を終えた二人に間髪入れず、シャディクの声が続く。
     決闘の火蓋が、今ここに切って落とされた。

    「身の程を思い知らせてやる!」

     先に仕掛けたのはグエルだった。
     重装甲の鎧を身に纏っているとは思えない程の速さで、一気に距離を詰めに掛かる。
     手にしているのは槍のモビルスーツ、「ディランザ」。それを構え、真っ直ぐにスレッタの胸中にあるエンブレムを狙い突き──

    「なっ!?」

     ──そして、止められる。
     槍の穂先は確かに彼女の胸中に向けられているのに、その間に何か壁のようなものがある。
     見えないそれに驚くグエルだが、無理もない。走りの速度を乗せた力任せだがそれ故に精錬された一突き。それを相手の態勢すら崩すことなく凌がれたのだ。
     それも真っ向から止められた。

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:37:30

    「エアリアル!」
    「っ!?」

     槍を引き、再攻撃もしくは距離を取る間もなく、スレッタの声が響く。
     すると見えない壁……を形成していた杖の意匠が槍を上方向に弾かせると、そのまま切っ先をグエルへと向ける。
     よく分からない意匠だと思われたそれは、彼の視点から改めて至近距離で見ると、まるで宙に浮く剣の刃先のようであり──陣形を組んでいる槍兵の穂先でもあった。

    「行って!」
    「がっ!? ぐぅっ!?」

     スレッタの声に反応し、円を描いていた「エアリアル」と呼ばれたそれらが突っ込んでくる。
     一本一本がまるで意思を持つかのように突いてくる様子に、グエルはディランザを振るって捌くことも、ダリルバルデを抜いて対応することも間に合わなかった。
     決闘のフィールド、重鎧越しとはいえ、響く刺突。しかも突っ込んでくるそれの何本かは鎧の間、間接部分を意図的に狙ってくる。
     いくら決闘仕様で四肢が切断されることがないとはいえ、そのダメージは計り知れず、グエルの油断や予想外の強襲も相まって、彼は成すすべなく仰向けに倒れる。

    「何、なんだ……そのモビルスーツは!?」
    「そこです!」
    「なんなんだ……お前は!?」

     そして倒すべき魔女であるスレッタではなく、曇天の空を見上げることになったグエルは未知の驚きと怯えに近い声を上げる。
     しかし、その疑問に返答は無く、エアリアルの内の一つが仰向けに倒れたグエルの胸中にある獅子のエンブレムを破壊した。
    「ガンドアーム……ガンダム」
    「っ!」

     まるで生き物のように動くそれを見て、エランは魔女が作り出した魔道具であるモビルスーツの名を思い出し、シャディクはその精錬された動きを見て思わず笑みをこぼすのだった。


  • 11二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:37:55

     決闘はスレッタの勝利で終わった。

    「……俺の負けだ。好きにしろ」

     如何に相手がヴァナディースの魔女狩り以降、禁忌とされてきたガンダムを用いたとはいえ、お互いに決闘内容を了承した身。
     結果のみが真実という作法に則り、グエルは覚悟を決めるように胡坐を掻いて座り込みスレッタの言葉を待った。
     目を閉じて視線を合わせない彼を前に、スレッタは少し迷うような仕草をした後に三角帽を取り、視線をグエルに合うよう膝を折る。

    「貴方さえ良ければ、その……私が一人前の魔女になる旅のお供になって、貰えませんか?」
    「はぁ!? 騎士である俺がそんな──ぁ」

     いくら決闘を了承し、覚悟を決めたとはいえ、騎士であるグエルが魔女に仕えるなどあってはならないことだった。
     それを覆そうと、目を見開いて再度決闘を申し込もうとする彼であったが、目の前のスレッタを見て動きを止めた。
     出会ってから決闘が終わるまで、三角帽子を深々と被っていたせいで、グエルは彼女の顔を知らなかった。
     しかし、目線を合わせて正面から見たらどうだ。
     整った顔立ちに愛嬌を感じさせる太い眉。目尻の下がった垂れ目は可愛らしく、その瞳は透明に澄んだ海の色をしていて美しさも感じられる。全体的に幼さが残るも、ラグランジュ地域はおろかアド・ステラ大陸全体を見渡しても見たことが無い彼女の容姿にグエルは見惚れてしまっていた。

    「え? ひ、ぇええっ!?」
    「スレッタ・マーキュリー、と言ったか」

     気づけば姿勢を正し、彼はスレッタの手を両手で包み込むように握っていた。
     彼女が驚き悲鳴を上げるのも構わず、グエルは片膝を立てて、所謂騎士が忠誠を誓う姿勢を取った。

    「俺と、結婚してくれ!」
    「……え?」

     そして彼は戸惑うスレッタを余所に、一目惚れをした勢いそのままに、求婚するのであった。
     これは、世界を守る魔女と、その魔女を守る騎士となる──二人の物語。

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:38:16

    終わり! 閉廷! 書き逃げ! 以上!

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:49:53

    本編と同じ用語使ってるから頭に入りやすかった、です

    あっちでは離れちゃった代わりにパラレルワールドで一緒に冒険するグエスレ…いい……

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 00:30:02

    ありがとうございます!
    良きグエスレも嬉しいし、御三家男子の距離感も最高!

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 07:20:18

    SS注意とかCP注意とかつけるべきだった(冷静になる)

    反応あざます! 1に書いた通り、グエスレもそうだけれども御三家共闘や他CPも見たかったからね!
    脳内がパーメットキマって且つこのスレが残っていたらそこら辺の続きも書きたいね!

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 07:21:51

    まあスレ画見たら一発でわかるから……

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 07:38:17

    ありがとう、書き逃げしてくれて。
    もっと書いてくれて良いのよ。

  • 18二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 10:06:43

    キャリバーンといい、舞台背景となった「テンペスト」といい、魔女と騎士、は割と合っている気がしなくもない

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 20:48:27

    >>11




    ※※


    ※※※



     グエルがスレッタに唐突過ぎる求婚をしてから1週間後。

     魔女が森にいるのは間違いなかったが、肝心の魔女がいなかったこと。そして決闘の結果、魔女見習いのスレッタと共に旅をすることになったのを報告すべく、一同はマーキュリー地域からラグランジュ地域まで帰還した。

     当然、魔女見習いの従者になったということでスレッタ自身も一同に加わっての帰還であったが、グエルは未だにその報告を父親である騎士王ヴィムに報告出来ないでいた。

     それもそのはずであり、いくら見習いとはいえ魔女は魔女。ガンダムをこの世界に生み出した存在として忌むべき者になろうとしている者の旅路についていくなど、ヴィムが許すはずがない。

     スレッタ自身も急いでいる様子が無かったのもあり、何か別の報告と共に、と彼は思っていた。

     そんなグエルを助けるかのように、アスティカシア騎士団の別グループより決闘の申し出があった。

     同じ騎士団内とはいえ、序列による収入の違いや発言権の強弱があるが故に、騎士団では研鑽の意味も兼ねて常日頃から決闘を行っている。

     今回挑戦してきたグループは騎士団内でも有力者であり、オッズ表でも上位に食い込む者たちであった。

     これ幸いと、グエルはエランやシャディクを巻き込んで、彼らの決闘を受けることとした。

     目的は二つ。

     一つは、この決闘に勝利し、父親であるヴィムに報告と同時にスレッタと同行する旅の許可を貰うこと。

     そしてもう一つは、スレッタとの決闘では一瞬の攻防で破れてしまったため、彼女の前でグエル自身の実力を示すことであった。

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 20:49:08




    「これより、決闘を執り行います」

     ラグランジュ地域、アスティカシア騎士団領内。アスティカシア決闘場の立会人席にて、耳に残る女性の声が拡声用のモビルスーツによって決闘場全体に響く。
     声の主は女性騎士の鎧ではない正装を身に纏った褐色肌の青みがかった銀髪ショートカット。端正な顔立ちだが、どことなく人を小馬鹿にしたような表情が特徴的であり、挑発的なアイスブルーの釣り目がそれに拍車をかけていた。

    「勝敗はチーム戦のルールに則り、全ての相手の胸中にあるエンブレムを破壊した者の勝利とします」

     彼女の名前はセセリア・ドート。
     騎士の称号こそ持つものの、それは騎士として戦う者としての称号ではなく、戦略戦術面におけるものであり、決闘や戦場には出ない騎士である。
     しかし、彼女はアスティカシア騎士団内の決闘を取り仕切る、「決闘委員」のメンバーの一人であり、今回の決闘の立ち合いを務めることとなった。

    「立会人は、ブリオン家の騎士、セセリア・ドートが担当しまーす」

     今回の決闘は三対三のチーム戦。
     しかも、決闘者の片方はあの御三家と呼ばれる三人がチームを組んで行われる。面白さを追求し、他に重要なことが無ければそちらを優先するセセリアに取ってはお金を払ってでも見てみたい戦いである。
     故に彼女が率先して立会人に立候補し、こうして今、決闘場全体を見渡せる特等席で彼らの戦いを見ることにしたのも無理からぬ話であった。
     また、同じように決闘場の観客席には数多の他の騎士たちや、入場料を払ってでもこの決闘を見たいという街の者たちが詰めかけていた。

    「周囲に障害及び妨害者無し。入場、どうぞ!」

     セセリアの言葉に決闘場は揺れる程の歓声に包まれ、それを合図に控室の世話人の二人が決闘場への扉を開く。
     開かれた扉を出て、石造りの廊下をグエル、エラン、シャディクは無言で進む。
     薄暗い廊下の先にある光へと抜けると、そこは熱気に溢れた決闘のフィールドである円形の広場があった。

    「グエルー! 今日も勝てよー!」
    「きゃー! エラン様ー!」
    「シャディクー! 俺の女返せー!」

  • 21二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 20:49:47

     御三家の三人の入場を見た観客の熱気は更に高まり、三人それぞれへの声援や黄色い声、中にはよく分からない罵倒すら響く。
     グエルはその声援を無視するかのように真っ直ぐに反対側にある入場口を見据え、エランは黄色い声援の元へと笑顔を振りまきながら手を振る。そしてシャディクは「人聞きの悪いこと言う人がいるなぁ~」と白々しく肩を竦める。

    「いけー! クラウダスー!」
    「御三家の鼻っ柱をへし折ってやれー!」
    「いけ好かない奴らを潰せー!」

     そんなグエルたちと同じように、反対側から三人の騎士たちが姿を現す。
     顔さえも見えぬ全身鎧の重装の騎士。不穏な雰囲気の彼らに呼応するかのように、その声援もまた聞いていて気持ちの良いものではなかった。
     しかし、それらの声援は六人が事前に取り決められた位置に行き、セセリアが左手を挙げたことによってピタリと止まる。

    「チームリーダー、口上」

     そして、彼女の言葉を聞いた中央に位置したグエルが一歩前へと出る。

    「勝敗はその者立場のみで決まらず」

     そのグエルに呼応する形で、彼の正面、歩幅20の距離に立つ騎士もまた同じように一歩前に出た。

    「その者の技のみで決まらず」

     鎧越しの低い声色の口上を聞き、グエルの左側、歩幅にして5の距離に位置したシャディク。またグエルの右側、歩幅同じくの距離に位置したエランがそれぞれ武器であるモビルスーツを構える。
     左右から聞こえる武器の擦れる音を耳にし、グエルもまた騎士の盾と武器である槍のディランザを構える姿勢を取った。
     相手方もまた、同じように武器を構えた後、一瞬の静寂が決闘場を包む。

    「ただ、結果のみが真実!」
    「ただ、結果のみが真実!」
    「フィックスリリース」

     口上を終え、セセリアの合図により、6人が動く。それに合わせて、決闘場は今日一番の盛り上がりを見せた。

  • 22二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 20:50:58

    スレが何故か残っていたのと
    御三家共闘回が(剣と魔法のファンタジー世界だけれども)見たかったので続いてしまった…

    戦いは明日また…スレが残っていたら…

  • 23二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 20:59:08

    というか、また反応貰ってる…ありがとうございます…ありがとうございます…!

  • 24二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 21:06:35

    凄く面白かったです!
    ありがとうございます

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 06:45:43

    >>24

    ありがとうございます!

    共闘と他CP(シャディミオ、5ノレ)まで書けるといいですねぇ!

    (スレが残っていれば)

  • 26二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 10:10:23

    決闘と騎士ものの相性の良さよ…

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 17:34:08

    保守

  • 28二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:28:13

    >>21

    「シャディク! エラン! 援護を頼む!」


     先陣を切ったのはグエルだった。頭と上半身はゆうにカバー出来る真紅の騎士盾。ダリルバルデの盾を左手に掲げ、真正面の騎士へと突撃する。

     いつものように、誰よりも先に敵陣に切り込む。それがチーム戦に置ける彼の初動であり、単純ではあるがこれまで破られたことのない攻撃であった。

     当然ながら何も考えていない訳ではなく、左右の二人を信頼しての行動。また、正面のチームリーダーである騎士、クラウダス及び他二名の騎士の動きを見ながらの突撃でもある。

     相手が陣形を組む、もしくはクラウダスのフォローに入るなどすれば切り口を変える腹積もりだった。


    (動かない? いや、構えたか)


     しかし、他二人の騎士はグエル正面のクラウダスへのフォローには入らない。また、彼も手にした全身を隠せる程の大盾でグエルの突進を受ける体勢を取る。

     互いに40あった歩幅の距離は気が付けば半分を切った。いつもであれば、ここでエランの援護射撃が後ろから飛ぶはずだったが、それもない。


    (散開して一対一の状況を作ったか)


     歩幅が10を切ろうとしたところで、グエルは意識を一瞬だけ左右に向けるも、シャディクの声もエランの声も聞こえない。離れたか、それとも見物人たちの歓声でかき消されたか。

     そのいずれにせよ、彼は今更行動修正を出来ないし、するつもりもなかった。


    「なら、打ち砕いてみせる!」


     グエルは来るであろう衝撃に備えて意識を左腕に集中する。盾の大きさからすると足元が疎かになるが、大盾を構えた相手からその手の攻撃は来ないと読んでの行動だった。

     距離2、1──0。二つの盾が衝突する。

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:28:39

    「ぐぅううぅぅっ!?」

     盾同士をぶつけたことによって、相手の様子は伺えない。
     しかしいくら大盾を構えたとて、手にした盾にはグエルの全体重と速度を乗せた突撃。当たる際に角度を付けられて突進を逸らされることは覚悟していたが、相手の騎士、クラウダスは真正面からそれを受けた。
     流石に衝撃で彼もやや後ずさりすることとはなったが、少なくともグエルの突進は勢いを殺される。

    (──重い!?)

     大盾だけなら、グエルは吹き飛ばせる自信があった。それはフル装備でこそないものの、重量級のモビルスーツ、ダリルバルデの盾を用いているからだ。
     仮に相手が自身と同じように盾のモビルスーツを用いているのであれば、持ち主である騎士を後方に吹き飛ばせたはずだ。
     両足で地面を踏みしめ、勢いが完全に失われる前に再度盾をバッシュするように押し付けるが、相手はビクともしない。

    (今回のルールでは武器防具のモビルスーツの持ち込みは二つまでのはずだ……大盾と全身鎧か?)

     足が完全に止まる前に、グエルは今回の決闘のルールを脳内で再確認する。
     自身が持ち込んだのは武器であるディランザの槍と、防具であり、シールドバッシュにも用いるつもりでのダリルバルデの盾だ。
     戦場ならともかく、ルールが定められている決闘おいては武装の数は事前に決められている。所持数は事前に確認が入り、決闘時に違反が発覚すれば即座に決闘委員から待ったが掛かる。
     相手が事前に決闘となる場所に細工などをする場合もあるが、今回は円形の決闘場。周囲に障害物はおろか、何かを隠せそうな場所も無い。
     ならば、自身の突進を受け切られたのは、相手はモビルスーツの使用を防御に振ったと考えるのが自然だった。

  • 30二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:29:20

    「ぐっ、くっ」

     衝撃だけを左腕に残る感触を覚えながら、意識を思考に割いたことも手伝いグエルの足は完全に止まり、クラウダスと膠着状態に陥った。
     すぐに彼は前後左右に素早く意識を散らすが、止まったところを狙うような他の者はいない。

    「グエル気を付けろ! 彼ら、以前とは違う! くっ!?」

     突如、歓声の間を縫うようにグエルの左後方からシャディクの声が飛んでくる。
     これまでに聞いた覚えのない、余裕が失われた声色。グエルがそれに反応する前に、彼の焦る声と共に金属同士がぶつかる音が響き、すぐにそれらはひと際大きな歓声に呑まれる。

    「シャディク!? ぐっ!?」
    「他を心配する余裕は与えん!」

     一瞬。グエルの意識がシャディクの方へと移ってしまった。
     当然、クラウダスがそれを見逃すはずもなく、今度は逆にグエルの盾へと彼は大盾でバッシュする。
     大盾であるため、速度こそはない。しかし、密着した状態での面で攻める勢いは、騎士盾であるダリルバルデの盾では殺し切れない。
     加えて、先程グエルが感じた重さは間違いではなく、大盾とそれを手にするクラウダス全身の鎧の重さをバッシュに乗せている。
     一度、二度、三度。
     反撃しようにもグエルが手にした槍では間合いが近すぎであり、かといってそれを手放して帯剣で応戦する隙はそれこそ相手が与えてくれそうもない。

    (シャディク、エランからの援護は期待出来ないか)

     相手のバッシュに合わせて、グエルはその都度僅かに後退して勢いを殺してはいるものの、左腕にはそのダメージが蓄積されていく。
     額に汗が滲むのを感じながら、彼は反撃の機会を伺うしか出来なかった。

  • 31二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:32:06

    (パリィは無理だ。重すぎる。逆にこちらが弾かれてしまう……だが、どうする!?)

     衝撃によって、グエルの左手の指が痺れ始めた。後、一度か二度のバッシュを真正面から受けてしまえば、しばらくは使い物にならなくなる。
     それを感じながらも、彼は現状の打開策を見いだせずにいた。
     グエルが装備しているのは対面するフルアーマーの相手程ではないにしろ、重さのある鎧。後方に飛ぶにしても大なり小なりの隙が出来る。一跳びで相手の攻撃範囲から逃れられるのであればそれに越したことはない。だが、それが出来るのは軽装のエランぐらいであろう。
     進退窮まる状況。彼の額の汗が一筋の線を描く。
     その時だった。

    「グエルさぁああんっ!」
    「っ!?」

     左側から、声が聞こえてきた。
     その瞬間だけ、彼の意識は他の全てを置き去りにした。
     盾と盾がぶつかり合う音も。その衝撃で軋む鎧の音も。心臓の音も、見物客の歓声も、その全てがどこか遠くに聞こえた。
     また、左腕の痛みも、そこからくる焦りも。額から鼻を避けて口元にまで到達した汗さえも、グエルは気にならなくなった。
     その声の主が誰であるか、彼は見なくても分かっていた。同時に、そういえば彼女を関係者専用の観客席に招待していたことも思い出した。
     そして、声の主であるスレッタ・マーキュリーの前で今、自分は戦っているということを自覚することが出来た。

    「いい加減!」

     度重なるバッシュでも態勢を大きく崩さないグエルにクラウダスは痺れを切らし、一旦大盾を大きく引く。次のバッシュで決める算段であろう。
     しかし、スレッタの声援を受けたグエルの前で、その行動は完全に裏目であった。
     一目惚れした相手が自分を見ている。
     そんな時に、こちらの情けない姿をグエルは彼女に見せる訳にはいかなかった。

  • 32二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:32:38

    「っ、ぅおおおおぉぉあっ!」

     声が裏返るのも気にせず、グエルは叫び、大盾の重みが消えた盾を左に払うと地面を踏みしめ、跳ぶ。狙うは引いた相手の大盾ただ一つであった。

    「っらぁああああぁぁああっ!」

     大盾を正面突破するのは至難の業だ。だが、それでも人が手にしている以上、少なからず付け入る隙が必ずある。
     グエルは大盾の中心には目もくれず、その上方部を思いっきり蹴りつけた。
     初動の突進に比べると、その蹴りの強さは遥かに劣る。だが、グエルの狙いは大盾の突破ではなく、そのバランスを崩すことであった。

    「ぐぅうっ!?」

     彼の目論見通り、急な大盾上部へと入る衝撃に盾ではなく、その持ち手であるクラウダスが苦悶の声を上げる。
     大盾を引いたところでの思わぬ一点集中の攻撃は、流石の全身鎧であっても勢いを殺し切れず、彼は止む負えず大きく後退することで態勢を立て直す。

    「はぁああああっ!」
    「ぐっ!? こ、こいつ!」

     しかし、大盾を構え直したところに、同じく蹴りからの態勢を整えたグエルによる槍の薙ぎ払いによって、立て直せた態勢が再び崩れる。
     いかに大盾が正面からの攻撃に強かろうとも、側面に衝撃を加えられたのであれば、攻撃こそ防げても勢いまでは防げない。
     大盾の大きさも相まって、右に大きくよろけてしまうクラウダスの隙をグエルが見逃すはずもなかった。

    「取った!」
    「うっ、ぐぉえぇっ!?」

     槍を薙ぎ払った勢いのまま右へと跳んだグエルは、そのまま地面を踏みしめて今度はクラウダス本人へと突撃バッシュを喰らわせるのであった。

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:34:28

    壁|・ω・) 続いちゃいました

    壁|ω・`) もはや本当に水星の魔女のSSか怪しくなってきた気がしますが…

  • 34二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:45:17

    ありがとうございますm(_ _)m
    戦闘の臨場感もあって面白かったです!
    パロディだから大丈夫!

  • 35二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 21:53:45

    >>34

    反応ありがとうございます!


    すぐにでも落ちるかと思いましたが…意外とスレ落ちしませんねぇ?(小首を傾げる)

  • 36二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 06:55:26

    保守
    続き楽しみにしてます

  • 37二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 16:32:16

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:43:45

    >>32





    「あー、あー。女の子の前だからって格好付けちゃって、まあ」

    「このっ!」

    「おっと」


     グエルのシールドバッシュがクラウダスへと直撃し、倒しこそしなかったものの優勢に転じたことを、エランは遠目で確認しながら相手の騎士剣を躱す。

     彼の場所はグエルらから見て右側後方。ともすれば決闘場の観客席のある壁際付近での戦闘となっていた。

     戦闘開始直後にグエルの正面に立っていた、クラウダスのフルアーマー大盾の異様さに気付き、エランは彼の言うとおりに援護するつもりだった。

     しかし、自身へと突進してくる正面の騎士に気を取られ、援護失敗。そのまま相手の勢いを回避しながら気が付けば右側の観客席付近まで誘導される形となった。

     相手の騎士はクラウダス程ではないが、関節部分ぐらいしか装甲が薄くなさそうな全身鎧。その鉄の塊が被弾覚悟で突撃し、騎士盾や騎士剣を振り回しているとなると、流石のエランも悠長に弓を狙い引く余裕がない。

     今回彼が決闘に持ち込んだモビルスーツ武装はファラクトの変形弓と騎士剣よりも短いファラクトのショートソード。

     相手が剣戟を望むのであれば、短くともモビルスーツなだけはあって威力は保証されるショートソードで応戦しても良かったが、相手の騎士剣もまたモビルスーツの剣であるのなら逆に不利となる。

     結果、彼は何とか距離を稼いで弓で牽制。押せるのならそのまま押し切り、そうでないのなら優位を保ちつつ自身の軽装を活かした速度勝負に持ち込もうと考えていた。

  • 39二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:44:09

    「くそっ! いい加減に、喰らえ!」

     相手の騎士の苛立ちが乗った剣が振り下ろされるも、エランはその切っ先が当たらない距離まで後退して回避。薙ぎ払いも、突きも、シールドバッシュも、全て事も無げに避けて魅せる彼に対し、騎士が苛立つのも無理はない話だった。

    「冗談じゃない」

     相手に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で、エランが低い声でぼやく。
     そもそも彼にとって、今回の決闘は本意ではないのだ。
     ペイル家のトップの通達により、行きたくもないマーキュリー地域の魔女討伐に参戦。おまけに対した収穫も無く、そのまま帰還したと思えば今日の決闘。
     御三家の騎士という宿命とはいえ、一目惚れして魔女の騎士と化したグエルに巻き込まれる形で今この場に立っている。相手のクラウダスとやらがわざわざグエル本人と他自分たち御三家全員を指名しなければ、エランは今頃、昼間から酒場という最高のエンジョイを出来ていたはずなのだ。

    「わざわざ休日を返上してまでこの場にいるんだ」
    「むっ!?」

     モビルスーツではない、何の変哲もない短剣を腰から抜き、エランは相手へと投げる。
     狙いを澄ませた訳でもなく、力強い投擲でもない。当然ながら、それを確認した相手の騎士は彼を追う足を止め、冷静に盾でそれを防ぐ。
     けれどもエランにとって、剣の投擲で相手を負傷させることよりも、隙そのものを作ることが重要であった。
     ファラクトの変形弓。洋弓がベースとなった、鋭利な黒のその弓は、状況に応じて長弓から短弓へと切り替えが出来る。但し、ワンアクションで付け替えられるとは言え、当然ながら弦はその都度張り替えないといけない。
     グエルの援護を想定して長弓モードで挑んだ決闘だったが、結果として一対一を強いられる形となったため、彼は長弓から短弓へと切り替える必要があった。
     そして今、その隙を作り出せた。

  • 40二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:44:40

    「ふっ」

     相手が眼前に盾を構えたのを見て、エランは大きく後ろへと跳躍。
     その間に素早く弦を外し、長弓から短弓へと切り替える。そして相手が彼を再度視認し状況を把握する間に、膝を折って地面に伏せるようにしゃがみ弦を装着。
     距離を詰めようと盾を再び構えて突撃する相手に対し、そのままの姿勢で後ろの腰筒から矢を抜いて装填し狙う。

    「むざむざやられるのは御免だ、よ!」
    「うぉっ!? こ、このっ!」

     放たれた矢は相手の左膝に命中。思わぬ攻撃によって突進の勢いこそ無くなったが、それでもエランへと向かってくることに変わりはなかった。
     短期間での変形と装填と正射。当然エランもこの一射で決められるとは思っていない。狙う時間が短すぎたせいで、流石に動く相手の関節を正確に射貫くことも出来ない。
     狙いが甘い中でも相手に当たっただけでも儲けものではあるが、そもそもの話、相手は重装甲であり、適当に撃っても大したダメージは見込めない。

     しかし、エランはこの一射で防戦一方という状況は打破することが出来た。

    「よっ! ほっ!」
    「くっ!? こい、つぅ!?」

     姿勢を戻し、更に二射。立って且つ余裕が出来たことにより、一射こそ盾で防がれたが、もう一射は相手の右肩に命中。
     逆上しつつも明らかにエランの様子を伺い出す相手を見ながら、彼もまたここからどうするかを考える。

    (肩に当たったんだから剣ぐらい落としてくれると嬉しいんだけどねぇ……長弓に比べると短弓威力の無さもあるけれど、相手が硬すぎるな)

     そしてわざと矢を装填する素振りを相手に見せつけることで牽制とし、迂闊に攻められないような状況へと誘い込む。

  • 41二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:45:32

    (グエルのお坊ちゃんでも、クラウ……誰だっけ? に、相当苦戦していた様子だったな)

     相手がまんまと二の足を踏んでくれたのを確認し、エランは更に疑問への追及に意識を割いていく。

    (相手が鎧や盾のモビルスーツを選んだ、と考えるのが普通だ。けれどもそれにしては機動力が高すぎる)

     エランの一番の疑問点はそこであった。
     剛弓でも使わない限り、彼の装備は動きやすさや機動力を優先した軽装鎧。しかし、相手はその装備のエランの動きに追随してきているのだ。
     ならば、敢えて鎧や盾は通常のものを用意し、機動力を補う武装モビルスーツを用いている、と考えるのが自然だった。

    (となると、こいつの出番な訳だけれども……それで相手の騎士剣がモビルスーツ武装でした、は洒落にならないんだよなぁ)

     相手の鎧や盾が通常のものであると踏んで攻撃するのであれば、モビルスーツ武装とはいえそれらに対して効果が薄い短弓の矢よりも、同じくモビルスーツ武装であるショートソードで斬った方が早い。
     しかし、エランの懸念は相手がそれを読んでの攻撃武装にモビルスーツを仕込んでいた場合であり、だからこそ迂闊な接近戦はリスクを考えると仕掛けられなかった。

    (さてさて、どうしたものか──)
    「エラーン!!」

     いい加減、相手もしびれを切らしそうだと思考を切り替えようとしたエランの耳に、少女の声が飛んでくる。

    「──ん?」
    「うぉっ!?」

     自身の右側から聞こえてきた、と思い、相手の騎士へと一射無造作に撃った後、彼は右に跳びながらも声のする方へと顔を向けた。

  • 42二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:46:18

    「ソフィ! ……ノレアも!」

     エランの視線の先には観客席にいる他の客を押しのけて、最前列で自分を見ている二人の少女の姿があった。
     一人はともすればオレンジ色にも見えるくすんだピンクのカール掛かったボブヘアの少女、ソフィ・プロネ。勝気な顔つきに、海色の釣り目が特徴的な女の子であり、その格好は酒場のウェイトレスであった。
     客席の都合上、エランからは腹部から下こそ見えないものの、前面に白のタンクトップに腰の白の配膳エプロンという見る人が見ても絶妙にミスマッチな格好をしている。
     もう一人は青み掛かった深緑色のくせっ毛のあるショートボブの少女、ノレア・デュノク。端正な顔立ちだが、どこか眠たげというか気だるげな表情を浮かべている女の子であり、彼女もまたソフィと同じ格好をしている。
     ソフィとの違いは白のタンクトップが七分丈袖の黒インナーに変わっただけであり、接客服というよりは仕事の合間に着替えもそこそこに抜け出してきたという評価が正しい様に思える装いだった。

    「なにチンタラやってんのさ! さっさと終わらせて、今日もフォルドの夜明けに金を落としなよ!」
    「僕は財布の紐か何かかい!?」

     右手を高々と振り上げて、興奮するように捲し立てるソフィに対し、エランは苦笑しながら答える。
     確かに今日の決闘さえなければ彼女の言う通り、「酒場・フォルドの夜明け」に入り浸っていただろう、と思っていただけに、二人が応援に駆けつけてくれていたのはエランにとって嬉しい誤算であった。
     特に、特別料理も酒も美味しいという訳でもない酒場を行きつけにする理由である子が来てくれたとなれば、その喜びもひとしおである。

  • 43二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:46:43

    「戦いの最中によそ見など!」
    「おっと。……野暮だ、なぁ!」
    「ちぃっ!?」
    「ノレア! ノレアも僕の応援に来てくれたのかい!?」

     隙が出来たと接近し、剣で薙ぎ払ってくる相手の騎士の攻撃を回避しつつ、接近したからこそ狙える関節への一射を以てエランはあしらう。
     それからすぐに、ソフィの隣にいる真剣な表情で自分を見てくれているノレアへと声を掛ける。
     エランから言葉を投げかけられた彼女は、一瞬目を伏せ、開きかけていた口を横一文字に閉じた。
     しかし、そんな自身の様子すらも嬉しそうに微笑んで見つめるエランに根負けした形で口を開いた。

    「エラン・ケレス! そんな相手なんてさっさと片付けて、うちにお金を落としなさい!」

     ソフィと同じく、応援と言えないような言葉。
     けれど、エランにとっては何よりも嬉しいお願いだった。

    「おー、酷い。お姫様は無茶を仰る」

     彼女の言葉に応えるように、短弓を手にした右手を掲げ、エランは改めて意識を正面の騎士へと戻す。
     先ほどの関節正射が響いているのか、それとも意識を二人に割いているのは油断を誘うためだと誤解してくれているのか、相手は未だに彼へと攻めあぐねている様子だった。

    「グエル。先程の発言は撤回させてもらうよ。女の子の前だからこそ、格好付けなきゃ、ね!」

     そして、短弓の弓柄と弦の間に自身を通す形で、握を背中のベルトへと装着。その後、腰に下げていたショートソードを抜剣し、相手の騎士との剣戟に応じに行くのであった。

  • 44二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:47:55

    グエスレも見たい!
    5ノレも見たい!

    だから書いた! 何故かスレもまだ残っていたし! 以上!

    …いや、5ノレか? 5ノレと言えるのか?

  • 45二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:52:43

    大丈夫です5ノレ美味しいですありがとうございます。
    いやフォルドの夜明け酒場なんかいwww

  • 46二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 22:12:49

    >>45

    反応ありがとうございます!

    よくよく考えたらすんごいむさくるしい酒場になりそうですね、「酒場・フォルドの夜明け」って…


    このスレが保守される限りと私のネタと文章力が続く限り…この話は止まらねぇからよぉ…



    保健衛生大臣「しかしねぇ…明日は残業確定なのだから…」

  • 47二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 10:05:38

    保守
    続きお願いします

  • 48二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 10:12:15

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 20:17:15

    保守
    残業お疲れ様です
    続きお願いします

  • 50二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:47:40

    >>43





     エランが攻勢に打って出る少し前まで時間は遡る。

     ちょうど、グエルがクラウダス自身へと一撃を喰らわせたところを横目で見ながら、シャディクは相対する騎士の攻撃を捌き、状況を確認する。

     場所はグエルたちから見て左側後方。左側の観客席近くまでとは言わないが、少なくとも他の二組からは離れ、簡単に援護へ行く、援護を貰えないような位置で戦っていた。


    (流石はグエルだな。俺が一言挟むまでもないか)


     決闘上位の御三家相手に、チーム戦を挑み、その全員が全身鎧で挑むという異質さ。加えてチームリーダーであるクラウダスの大盾仕様を見て、彼もまたエランと同様に違和感を覚えていた。

     そして、その違和感は相手の騎士たちの機敏な動きによって確信に変わる。


    (エランも何かに感づいた動きをしている。攻勢に転じるのは時間の問題か)


     それは、あまりにも相手の動きが良すぎること。

     御三家の中でも直感的に相手の力量や仕様を把握して、その都度切り替えるグエル。相手の出方を伺って、対応した後に予測や戦闘構築をするエラン。

     どちらかというと実際の戦闘を介して状況把握をする二人に対して、理屈や理論、損得勘定から物事を考えがちなシャディクは、広く視野を持って可能性を一つ一つ洗い出す。

     自身が相手をする騎士の動きの良さは、他の騎士二人にも同じことが言えるのか。それとも、たまたま自分が相手をした騎士だけの特色なのか。

     グエルに違和感を伝えたのは、彼の援護が出来ないという意志表示であり、情報提供であり、同時に情報収集でもあった。

  • 51二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:48:29

    (間違いない。ペイル家の機動・運動性能を上げるモビルスーツ。加えて各人の持つ盾も同じと見ていいだろう)

     あのグエルがダリルバルデの騎士盾を以てしても崩せなかった大盾。軽装のエランが逃げの一手に徹さざるを得ない機動力。
     こうして相手と数合打ち合っても、シャディク自身が持つ武装モビルスーツ、飛翔剣の「ミカエリス」で有利を取れる点などから、彼は相手の秘策に当たりをつけた。
     シャディクの飛翔剣、ミカエリスはその名の通り有線で飛翔させることの出来る剣である。
     通常の騎士剣の二倍の長さはあるグリップに仕込まれた、有線ワイヤーを以てして剣を飛ばし、意識を割くことである程度の操作が可能なモビルスーツ。
     その特殊性から扱いが難しく、且つ奇襲性や戦況コントロールに重きを置いているため、単純な火力ならば他の剣や槍型のモビルスーツに一歩劣る。
     しかし、その飛翔剣と相手の騎士剣との剣戟で優位に立ち回れる以上、今回の相手は攻撃よりも防御や立ち回りを意識して決闘に挑んだのだとシャディクは確信した。
     御三家相手に長期戦の構え。
     自身は小剣が内蔵された腕部小盾があるので相手の攻撃をいくらか裁けるが、グエルはともかく攻撃と援護に特化させたエランは辛いだろうとシャディクは思った。
     更には、自分たちの手の内が把握されたところで問題が無いように、全身鎧で防御を底上げし、切り崩しにくくしている。
     決闘の花形とも言える、武装モビルスーツの打ち合いを徹底的に拒否するという奇策にも近い作戦。だが、それも御三家の騎士全員を相手取るとなれば、悪くない策だとシャディクは思った。
     加えて、こちらの攻撃のいくらかは相手のモビルスーツの盾で防がれる。場合によっては鎧で受けてからのシールドバッシュや騎士剣での反撃で優位性を奪還及び保つという一朝一夕では覚悟も完成もしないであろう相手の練度の高さ。
     対御三家の決闘用として、彼らが如何に今日の戦いのために研鑽を積んできたのかが分かる。

  • 52二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:48:53

    (鎧や武装による疲労はモビルスーツで軽減。こちらのモビルスーツ武器による被弾は盾で打ち消すか鎧で軽減。長期戦になれば体力的に不利となるのは俺たちと言う訳か)

     相手からの攻撃を捌く一方で、こちらからは迂闊に攻撃が出来ない状況。
     素直に相手側の作戦の有効性を心の中で称賛しつつ、それでも尚、シャディクが考えていることは彼らや同じチームであるグエルらよりも二歩先のことであった。

    (マーキュリー……水星ちゃんは魔女になるためにガンダムを集める、と言っていたな)

     相手の作戦や決闘の仕様を完全に把握し、その上で自身と対面している騎士の出方を伺いつつ、彼の思考は先の魔女討伐で出会ったスレッタ・マーキュリーに割かれていた。
     それは決して、相手方の作戦によって千日手の状況になったからではなく、また、グエルやエランがこの状況を打破した上での援護を期待した訳でもない。
     シャディクは既にこの状況の打開策、勝ち方までの道筋を組み立て、相手の攻防からそれが有効と確信したが故に、その先のことを考えていたのであった。

    (ガンダム……禁忌とされた魔道具。それを有効に使うまたはレンブラン王の前に献上すれば俺は──)

     騎士と農民との間に出来た、疎まれる存在である俺は、姫と、ミオリネとの結婚を許されるだろうか。
     シャディクはそう思い、相手の剣を大きく弾いた隙を見て特別観客席へと視線を走らせる。
     その席には自身の養父であるサリウス王の姿、グエルの父であるヴィム王の姿。そして、エランの兄、ケレス家のトップにして長兄のエラン・C・アンの姿は確認できた。
     けれども、そこにはシャディクが密かに恋慕するミオリネ・レンブラン姫の姿は無かった。

    (──何を期待しているんだ、俺は)

     視線を目の前の騎士へと戻し、態勢を整えバッシュを繰り出す相手の盾を飛翔剣で受けつつ、彼は己の浅はかさを笑う。
     彼女の性格、才知の高さを考えれば、ミオリネがこんな決闘を見に来るわけがない。
     こんな、最初から「結果」が見えている決闘など、彼女からしたら退屈に他ならないだろう。

  • 53二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:49:20

    『当然よ。最初からあんたたち御三家が勝つと分かっている決闘なんて、見ていて何が楽しいのかしら?』

     ミオリネならそう言うだろうな、とシャディクは思いつつ、ならばこそ、そんな彼女を失望させないためにもこの勝負を決めに行こうとするのだった。

    「くっ! だが、攻めあぐねているようだな、シャディク・ゼネリ!」
    「え? あぁ、うん。そうだね」
    「ふはは! その余裕も今日までだ……がっ!?」
    「おっと失礼。こっちも今後についてを考えなければならないから、そろそろ決めさせてもらおう」

     シャディク。ともすれば御三家全員が自分たちの術中にハマったと驕る相手へと小剣を先端から出した右腕部の小盾で攻撃し、彼は一気に勝負を決めに行く。

    「うっ、おぉおおぉぉっ!?」

     騎士から見て、右からは小剣と小盾の攻防一体の攻撃が、左からはその名の通り飛翔剣が飛んでくる。その変幻自在ともいうべき攻撃に惑わされながらも、それでも騎士剣と騎士盾、そして全身鎧の防御力を以てして相手は耐えてみせる。
     そんな正に戦況を支配し、優位に立ち回るシャディクは、その余裕を以てして再び思考をミオリネへと割いた。




    ※※

    ※※※

  • 54二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:49:49

     騎士と農民の子でありながら、己の高い才覚を以てしてサリウスに見初められて御三家の養子、騎士として幼くして成ったシャディクは、城内で出会ったミオリネを一目見て恋に落ちた。
     当時は二人とも幼く、また他に同年齢の子どもたちがいないこともあって、姫と騎士という立場を越えて遊ぶ仲であった。
     自身の境遇を呪い、成り上がることで貴族や王族を逆に利用する立場になろうとしていた矢先の恋であったため、一目惚れから始まったこともあって、深く知ればミオリネの嫌な部分が見えるであろうと幼いながらにシャディクは思っていた。
     しかし、知れば知る程、王族とは思えない聡明さのミオリネに惹かれ、何よりも彼女の生い立ちを知った彼は、どうしようもないぐらいに恋の沼に堕ちた。
     ミオリネもまた、王族と騎士という身分差の恋によって生誕した子であり、姫と言う立場でありながら、王族たちの間からは疎まれる存在であったのだ。
     自身と似たような境遇。不自由のない生活の中にある確かな理不尽。けれども彼女はその立場を呪うことなく、寧ろ反発して色々とやらかすお転婆姫でもあった。

    『きみのような賢くてもおてんばなお姫様だと、だれもお嫁さんにもらってくれないよ?』
    『ふん。見た目や言動でひとを判断するようなあいてなんて、こっちからねがいさげよ』
    『こんなに可愛くてきれいで、すてきなお姫様なのに、もったいないよ』
    『……なら、あなたがわたしをお嫁さんにすればいいじゃない』
    『……それは、とてもみりょく的な提案だね』

     幼い頃の、それこそ傍から見ていても微笑ましくなるような子ども同士の婚約。
     それが幼くも聡明なシャディクにとって、正式な婚約ではないと頭では理解していても、動揺せざるを得ないものであった。
     その日から、彼は生き方を変えた。
     もちろん、自分と言う存在を生み出した国を変え、自分たちのような存在が疎まれないような世界にしたいという原点は変わらない。
     しかし、そのために王族貴族を利用するのではなく、正式にミオリネ・レンブラン姫との婚約を取り付け、結婚して王族へと成ろう。そして、自身の原点に則って彼女と共に国を変えようと考えるようになった。
     だが、それが茨の道であることは、他でもないシャディク自身が一番良く知っていた。

  • 55二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:50:19

    『あぁ~^、許されぬ一夜の恋は蜜の味~^』

     と、吟遊詩人たちは気安く身分差の恋について歌うが、現実はそうはいかない。
     王族と騎士。その身分の差は埋め難く、それこそいっそ全てを投げ打ってミオリネに自身の想いの丈を全て打ち明け、駆け落ちすることも考えた。
     けれども古今東西、そうした愛の逃避行をした者たちの末路を考えると、現実的ではない。自分はそれで満足出来るが、ミオリネに被害が及ぶことが何よりも耐え難かった。
     となれば、後は騎士としての地震の身分を底上げするしか方法がない。
     決闘での活躍、戦場での勝利。国内外問わない武勇と知略の高さを以てして自身の名声を高める。
     だがそれでも騎士である自分がミオリネ姫に婚約を申し込むには恐れ多い。

    『あと一歩、キミに踏み出せたなら』

     そう歯がゆい思いを抱えている中で、思わぬ光明が転がり込んできた。

    『ガンダムを集めれば一人前の魔女になれる。そう、お母さ……魔女・プロスペラは言っていました!』

     魔女狩りの中で出会った見習い魔女であるスレッタ・マーキュリーの言葉。
     それが真であるのなら、ベネリット公国が、レンブラン王が禁忌としているガンダムが手に入る。
     それを利用すれば──ミオリネの隣に立つのは俺だ。
     そう、胸を張って言えるのではないか。
     と、シャディクは思うのであった。




    ※※

    ※※※

  • 56二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:51:17

    グエスレ! 5ノレ!

    そして、シャディミオ!

    シャディクの真っ直ぐながらもどこか屈折したネチョり恋愛模様が表現出来ていれば良いのですが…

  • 57二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 23:00:18

    ありがとうございます。戦闘シーンが躍動感があっていいですね!

  • 58二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 23:55:24

    >>57

    ありがとうございます…! お褒め頂き感謝の極み…!

  • 59二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 07:17:20

    ほしゅ

  • 60二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 17:21:19

    保守

  • 61二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:08:23

    (ミオリネとの婚約を許されるためにも、俺にはガンダムが必要だ)

     身分の差から成長していくにつれてミオリネと距離を置くようになったシャディクだが、それでも今だ彼女のことを想い続けている。
     結婚の約束も、子どもの頃の戯言と断じながら、未だにその話をミオリネに思い出話の一つとして振ることも、約束を反故にすることも出来なかった。
     そしてだからこそ、目の前に転がり込んできた好機を逃さずに掴み、彼女と結婚したいと考える。

    「く、くそっ!」
    「粘るね。けれどもそろそろ、ダメージが無視できなくなってきているはず」

     飛翔剣による陽動。小剣付き小盾による防御及び反撃は相手の体力を確実に削ってはいる。
     しかし、騎士剣も騎士盾も、更には鎧さえも防御に回されるとそれでも切り崩せない。
     決定打となる策はあるが、それを看破されると更に面倒なことになる。
     そもそも、ガンダムを手に入れてミオリネとの婚約を成立させようと考えているシャディクにとって、こんなところで躓く訳にはいかなかった。

    (やれやれ。これも必要な犠牲か)

     わざと飛翔剣を飛ばすのを止め、相手と距離を取る。
     それから押し切れば勝てると思っていたであろう観客へのアピールとして、わざと騎士らしく両手持ちにした飛翔剣を顔の前で構える。

  • 62二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:09:04

    「きゃー! シャディク様ー!」
    「格好付けてねぇで、さっさと決めやがれー!」
    「シャディク様、素敵……!」
    「俺の12.8倍のために負けろシャディクー!」

     シャディクの思惑通り、騎士然とする彼の姿を見て、観客が様々な反応で盛り上がりを見せた。
     当然、このような盛り上げ方をされて、面白くないのは相手の騎士だ。

    「こんの……っ、俺はお前に倒される悪役じゃあねぇぞ!」

     先ほどまで防御一辺倒だった相手は、まるで自身が倒されるべき悪のような扱いをされたと思って激高。剣と盾を構え直してシャディクに突撃する。
     どちらかといえば、絡め手や策略が得意な彼にとって、なるべくなら控えたい真っ向勝負。
     しかし、そうしなければ相手が見せないのだ。
     ──破壊対象である、胸中のエンブレムを。

    「ふっ!」
    「ぐっ! だが、甘い!」

     飛翔剣を飛ばすことなく、相手の騎士剣を小盾で捌き、その胸中のエンブレム目掛けて突きを繰り出す。
     だが、剣の切っ先が胸元に届く前に相手はそれを盾受けする。

    「モビルスーツ同士なら!」
    「ちぃっ!」
    「そこだ!」
    「がっ!?」

  • 63二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:09:51

     そして、相手は受けた盾を横に流すことで飛翔剣の切っ先を明後日の方向へと飛ばされる。勢いそのままだったのか、グリップから剣の部分が分離してしまい、ワイヤーごと離れていく飛翔剣。
     その剣へと意識を割いている最中に、相手が小盾受けしていた騎士剣を滑らせ、そのままシャディクの胴体へと一撃を喰らわせる。
     モビルスーツ武装ではないとはいえ、決闘仕様であるとはいえ、鎧越しに鉄の棒で思いっきり殴られたようなものであり、その痛みにシャディクは苦悶の表情を浮かべる。

    「もう一発!」
    「それはっ、断る!」

     態勢が崩れそうになるのを持ちこたえるところに、相手の騎士によるシールドバッシュが飛んでくる。
     だが、その狙いが顔もしくは胸中のエンブレムにあると察したシャディクは、咄嗟に小盾で防御。衝撃までは殺せないが、直撃を防ぐ。

    (そして、剣も盾も塞がれたとなれば……)
    「胴体がお留守だぜ!」
    「ぐっ……と。まあ、そうくるよな」
    「ちっ」

     再び相手が胴体を狙った斬撃は、大きく後退することで被害を最小限に抑える。
     しかし、あの御三家であるシャディクが劣勢と見るや、観客は悲鳴や相手を推す声で盛り上がり始める。

  • 64二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:10:19

    「へっ。余裕を見せた割には、顔が歪んでいるぜ」
    「真っ向勝負は俺の趣味趣向じゃなくてね」

     溜飲が下がったのか、それとも趣向返しのつもりなのか、自身も先程のシャディクと同じポーズを取り、彼を煽る。
     だがシャディクはその挑発には乗らず、肩を竦めて軽口を返した。

    「なら、その真っ向勝負とやらで、土の味を教えてやるよ!」

     シャディクが攻勢に出ないと見るや、相手は盾を構えたまま剣を突き出し、刺突を繰り出そうとする。

    「んがっ!?」

     そして、何かに躓くような姿勢で盛大に前のめりに倒れた。

    「な、なにっ、がっ!?」
    「調子に乗るのは悪くないことだけれども、俺のミカエリスの行き先ぐらいは見ておくべきだったな」

     倒れた状態で呻く騎士に対し、シャディクはゆっくりと近づき、飛翔剣を持っていた右手を挙げる。
     先ほど相手にパリィされたことにより、その握り部分より先は有線ワイヤーしかない。だが、顔を上げてそれを見た騎士は低い呻き声を漏らした。

    「ま、まさか……っ」
    「その通り。意識をミカエリスに割く必要はあったが、お前の足元に仕込ませて貰った。こっちに大きく動こうとする時に、足に絡まるようにな」
    「ぐっ、くっ……あの攻防、俺が入れた一撃も、全て計算の内か」
    「良い一撃だったよ。そこは誇っていい」

     起き上がろうとはせず、剣や盾すらも放り投げて地面を叩く騎士に対し、シャディクは笑顔を見せる。
     彼の予想通り、全身鎧を着こんだ際の機動・行動力こそモビルスーツで補ってはいるが、その鎧の重さ自体を軽減している訳ではない。
     そのため、一度行動不能状態に陥ると、自力で立ち直ることは不可能。防御力の引き換えに、鎧そのものを重くしたことが招いた結果だった。

  • 65二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:10:56

    「さて、このまま君を転がしてエンブレムを破壊してもいいのだけれど」
    「……それには及ばない。直立状態からの転倒とはいえ、胸から倒れたのだ。鎧の重みも手伝って、エンブレムはもう破壊されているだろう」
    「それはどうも。だが一応は確認させてもらう」
    「いいだろう。……神経質な奴め」
    「用心深いと言ってくれ」

     相手の嫌味を右から左に受け流しつつ、シャディクは反撃を警戒しつつ相手を横から足で蹴り転がす。騎士もそれに合わせるように横転したため、容易く仰向けとなった。
     騎士の胸中にあったエンブレムは見事に割れており、シャディクは小盾を持った方の左手を高々と上げる。
     その戦いを見ていた者たちからの盛大な拍手と歓声が同時に巻き起こり、勝者であるシャディクを讃える。

    (さて、水星ちゃんとガンダムを利用するためには、まずこの戦いに勝つ必要があるけれども……)

     しかし、当のシャディク本人は冷静に、あるかも知れない次の戦いを見据え、視線をグエルやエランの方へと走らせるのであった。

  • 66二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:12:09

    関係ない決闘でも良かったので、本編でもシャディクが勝つところが見たかったのです(ガクッ)

  • 67二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:17:17

    ねちっこくも熱いぞ、シャディク!
    そして観客にオジェロがおったwww

  • 68二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 00:37:21

    >>67

    ありがとうございます! 真っ向勝負でも恐らく勝てるでしょうが…シャディクの場合は策を弄して勝率高い方にBETするイメージがありますねぇ

    後はまあ、決闘ともなれば賭け事は切っても切り離せないので…

  • 69二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 07:23:45

     
    保守

  • 70二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 17:29:09

  • 71二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:47:06

    >>65





    「くそっ、こいつ! ちょこまかと!」


     シャディクの戦闘が終わる少し前に時間は遡る。

     ノレアの激励(?)を受けたエランは、ファラクトのショートソードで相手と肉薄していた。

     しかし、女の子の前で格好付ける、と宣言した手前ではあったが、全身鎧及び騎士剣と騎士盾持ち。防御力に加えてリーチの長さでは相手に分があり、尚且つ機動力も軽装の自身とそう変わりはない。

     そのため彼はショートソードで斬りかかるよりも、少しでもリーチを稼ぐように突きの構えを取り、相手の騎士を相手取っていた。

     その突き自体も深く踏み込むものではなく、相手の騎士剣の長さを計算し、エランの剣の切っ先と相手の剣の切っ先がぶつかる程度の距離を保ち行う。

     多くが素人である観客にとっては、剣と剣がぶつかり合う、正に騎士同士の戦いと言った攻防に湧いていたが、対する騎士の苛立ちが露わになっていた。

     騎士が距離を詰めてもエランはそれを察して後ろへ下がり、こちらが後ろに下がればそれに合わせて前へ出ると同時に突きを繰り出す。

     それならば、と一気に踏み込もうにも、その予備動作を見て先の先と言わんばかりにエランはやはり突きを放つ。

     まるで騎士自身を獲物に見立てて消耗させようとする狩り。反応を伺って、即座にそれに対応するエランの立ち回りに、彼は否応なしに自身が狩られる立場として見られているように感じた。消耗戦自体は騎士も望むところではあったが、明らかに自分が下に見られる戦い方では面白くないと思うのも仕方のないことだった。

     しかし、いくら機動や運動性をモビルスーツで補っているとはいえ、全身鎧であることに変わりはない。そのため、それぞれの挙動や動作にはどうしても一手遅れが出てしまい、逐一エランに対処されてしまう。

  • 72二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:47:29

    「粘るねぇ~」
    「一撃でも当たれば、こんな奴!」

     だが、それはエラン側も同じであった。
     軽く踏み込む程度の突きで相手をおちょくることは出来ても、それは姿を現している蛇を棒で突いているようなものだ。
     強く突けば当然その蛇から反撃を喰らい、かといって牽制するような突きばかりでは蛇自身を倒せない。相手の防御の高さは既に知っているため、反撃覚悟で踏み込んだ突きをしたところで成果は知れている。それどころか、エランは軽装であるため、相手に与えるダメージ以上のものを貰う可能性が大である。
     そういう意味では、騎士の言葉が当たっている。
     エランが一撃でも受ければ、軽装ゆえのダメージ及び体勢が大きく崩れるのは間違いない。そこを付け込まれてしまうと、折角の優位性が崩れ、ダメージが残った状態で振り出しに戻る。
     それを繰り返した先にあるのは消耗戦後の敗北だ。

    (ふぅん……そういうことか)

     しかし、三男とはいえエランも御三家の一人。騎士としての戦い方、軽装時の立ち回り、相手の戦い方の癖、戦略眼。そして勝ちに至るまでの道筋とその組み立て方。
     それら全てを叩き込まれている。
     エランや相手の騎士にとってはチャンバラにも近いこのやり取りの中でも、彼は相手の策や仕様に当たりを付けた。
     後はそれが本当にそうなのかどうかを試すだけとなっていた。

    (シャディクぐらい策謀に富んでいれば、迷いなく決められるが)

     だが、エランは次の段階に踏み込めない。
     それは彼自身が慎重な性格であり、戦い方も生き延びることを第一として構築しているからであった。
     自分の予想と違った際に受けるであろうデメリットを考えると、それだけで勝敗が決しかねない。
     それが普段のどうでも良い決闘ならば、死ぬ訳ではないのだから負けるのも一興と仕掛けられるが、ノレアが見ているとなると話が変わる。

  • 73二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:47:58

    (……さて、どうするか)

     仮にここで自分が破れたとしても、他の二人が相手を倒してくれれば決闘としては勝ちになる。
     しかしそれは、エランが負けたという情けない結果は残るものであり、「結果だけが真実」である決闘であっても悔いは残る。
     ならばこそ、彼女が見ている前でエランは勝たなければならないと覚悟を決めており、その覚悟が逆に彼自身を縛ってしまっていた。
     となればエランのプランとして、後はこうしてチクチクと相手をいやらしく攻めて、痺れを切らした相手の隙を見てエンブレムを破壊する、という面白くない戦いをするだけとなった。

    「エラン・ケレス! あなたの戦いはそんなにも消極的なのですか!?」
    「っ!?」

     互いに決定打が見いだせずに、それこそ相手が望んていた長期戦の様相を呈し始めた時、再び観客席からノレアの声が飛んできた。
     だが、接近戦でしのぎを削る最中で、エランは彼女の方へと目を向ける余裕はなく、何としても声を拾おうと耳だけを集中させる。

    「格好付けていないで、あなたらしい戦い方を見せて下さい!」

     女の子の前で格好付ける、と接近戦に持ち込んだのに決められないどころか、当の女の子から叱責されてしまう。
     そう言われてしまう自分が情けないと思ったのも一瞬であり、エランは彼女の言葉に笑みを浮かべた。

    「ありがとう、ノレア。おかげで目が覚めたよ」

     どうして生き汚いとすら言われる戦い方をするエランが、その自分らしい戦い方を捨ててまで格好付けようとしていたのか。
     それは惚れた女の子の前で格好付けるために他ならない。
     だがそれで攻めあぐねた挙句、敗北するとなれば、彼にとってはそっちの方がよっぽど格好悪いことだった。

  • 74二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:48:43

    「いい加減!」
    「おっと」

     痺れを切らせた相手が大きく剣を振りかぶり、横に薙ぎ払う。その動作は簡単に避けられるものではあったが、エンブレム自身は上手く腕で隠しており、結果として隙を突こうとするエランの策は不発に終わる。
     しかし、彼にとっては最早どうでもいいことであり、相手の攻撃に合わせて大きく後退。そしてショートソードを納めて再びファラクトの変形弓を構える。
     威力の無い、短弓モード。だが、それを長弓モードに切り替える余裕はなく、またそうする必要もないと彼は考えていた。

    「ノレア! 僕が勝ったらご褒美をくれよ! 二人だけの時間とかさ!」
    「決闘の最中なのに、馬鹿ですかあなたは!」
    「ダメかい!?」

     とはいえ、まずは自分らしく、彼はそうしてくれたノレアを口説くようにお願いしながら相手に一射放ち、牽制。
     攻めあぐねる相手を無視し、エランは怒るノレアの方を向いて笑顔を見せる。

    「ま、まあ……いい、でしょう」
    「本当かい!? 約束だよ!」

     そして、まさかのOKを貰い、エランは俄然やる気となった。

    「戦いの途中で女の子とお喋りか、良い身分だな。だが、そのせいで優位性は失われたぞ」

     しかし、意識を割いた結果、相手の騎士には距離を詰められてしまい、エランが矢を番えて弓を引く前に斬り伏せられる位置を取られる。
     それでもエランの口元から余裕の笑みは消えず、その眼はやる気に満ち溢れていた。

    「そうかい? でもそれは君も同じさ。“わざわざ近づいてくれて”ありがとう」
    「ぬかせ!」

     反撃に備えて盾を構えつつ唐竹割りをする騎士に対し、エランは軸をずらすように回避。それから相手の側面に回る。
     だが相手はそれを読んでいたのか、燕を返しのように振り下ろした剣の向きを変えて追撃する。

  • 75二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:49:11

    「おっと、怖いなぁ」
    「ちぃっ」
    「こっちこっち」
    「くっ」

     エランはその攻撃すらも読み切り、更に相手の後ろ側へと回る。
     流石に防御に徹した装備をしているとはいえ、後ろ側は無防備。相手は攻撃を恐れて反転する。
     しかし、その反転した先にエランがいない。

    「……まさか!」
    「あ、流石に気付く? そして自分たちの弱点もちゃんと把握していたようだね」

     騎士は慌てて彼の気配を追って、更に90度回転させる。だが、その先にもエランはいない。
     エランの声だけが視界外から聞こえてくる最中、騎士は鎧の中で初めて冷めた汗が流れるのを感じた。

    「ふっ!」
    「ぐぉっ!?」

     騎士の後ろ足。その膝の裏側に矢が刺さる。
     いくら全身鎧とはいえ、移動するための足の動きまでを制限する訳にはいかないため、多くの鎧は足の関節部分のみ露出していることが多い。
     正面や側面は保護されているものの、足の曲げ伸ばしに対応する柔らかい金属など存在しないが故の仕様であり、エランは相手の周囲を回りながら矢を番えてそこを狙い撃ったのだ。
     決闘仕様のフィールドであるため、実際に矢が刺さることはないが、その痛みは確実に相手の膝を折ることとなり、体勢を崩させた。

    「こんのっ!」
    「おっと、ハズレ」

     相手はこれ以上の攻撃をさせまいと、見えないエランに対して剣を振り回すも、彼はこれを回避。更に相手の死角に回り込むように動きつつ、矢を構える。

  • 76二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:49:39

    「ぎぃっ!? ぐっ!」

     騎士が恐れていたこと。
     それはペイル家の武装モビルスーツによって前後への動きこそ軽装と変わらぬ行動が出来るものの、全身鎧の重みがそのままであるため左右や旋回などの動きは変わらないことであった。
     無論、それを悟らせないための間合いの詰め寄りであり、動きが制限されていると分かっているからこそ相手のモビルスーツによる防御へと振り、鎧を更に重くした。
     彼らが想定していたのは、それこそ剣や盾による正面からの決闘による長期戦。防御を底上げし、機動力で相手を追い詰め、疲弊させて打ち取る。
     それが今、軽装のエランによる旋回戦術によって全てが裏目となった。

    「うっ、うぉおおおぉぉっ!」

     旋回では間に合わない。そう思って騎士はエランのいない方向へと進む。
     移動後に反転する手間こそあるものの、このままいたちごっこをするよりは、という思い切りの良さ。
     戦術が見破られて逆手に取られても尚、機転によって対応する彼もまた御三家程ではないが、アスティカシア騎士団の中でもトップクラスの実力者だった。

    「ダメダメ。自分から仕掛けておいて逃げるなんて、格好悪いよ!」
    「んぎぃっ!?」

     しかし、それすらも相手が悪かった。
     近接戦闘であれば、背中に多少の被弾をしつつも距離を取る策は成功しただろう。
     そのために鎧を重くし、防御を高めたのだから。
     だが、相手は御三家のエラン・C・サンク。
     援護、遠距離攻撃でアスティカシア騎士団の中で右に出る者はおらず、背を見せて離れようとする相手の隙さえ貰えれば、走るという行動故に位置の高さが変わらない場所を射貫くのは造作もない。
     膝の裏を一射で当て、走っていたこともあってその衝撃を受けた騎士は転倒する。
     それでも咄嗟に胸中のエンブレムを庇ったことは称賛に値するだろう。

  • 77二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:49:57

    「くっ、これ以上、はぁ!」

     更なる追撃が脳裏を過り、転倒から復帰するために、剣と盾を手放して騎士は上体を起こす。
     それでもエランからは背を向ける形となっており、それを知っているからこそまずは彼を視界に捉えようとそのまま反転。
     そして、それを後悔した。

    「チェックメイト」

     距離が空き、相手が転倒するという大きな隙を見せた。
     エランがそれを逃すはずもなく、短弓から長弓へと切り替え、相手が振り向くであろうことを予測して矢を番えて狙う。
     十二分の狙い。予想通りの相手の行動。
     彼は勝利を確信して誰とも聞こえない声で呟き、騎士が振り向いたと同時に矢を放つ。

    「がっ!?」

     防御に振った重さのある鎧であるため、いくらファラクトの長弓モードでも、相手の騎士に差したるダメージは与えられない。
     だが、それは綺麗な弧を描いて、彼の胸中にあるエンブレムに命中。見事に破壊して見せた。

    「……」

     相手がそれを察し、何かを諦めるかのように天を仰いだ後に仰向けで倒れるのを見て、エランは長弓を持った手を掲げて無言で勝利を示して見せる。
     彼の戦いを見ていた観客は一瞬の沈黙の後に大歓声を上げる。
     その中にはとても嬉しそうにエランを見つめるノレアの姿があったことは言うまでも無かった。

  • 78二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:50:26

    5ノレしつつエラン5号君を格好良く勝つところが本編でも見たか(ry

  • 79二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:56:00

    チラッとこれまで書き逃げしてきた文章の単語数見たら28000文字超えてて草わよ

    おかしい…最終回のグエスレのある書き込みを見て突発的に書き逃げたSSだったはずなのに

  • 80二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:56:02

    ありがとうございます。
    ノレアが可愛いです
    でもきっとソフィにからかわれたら、「うちの店にお金を落としてもらうためだから!」って反論するんだろうなあ

  • 81二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:58:06

    >>80

    ありがとうございます!

    …まさかここまでの文章量を書くことになるとは


    (スンッ)


    グエスレ美味しい! シャディミオ美味しい! 5ノレ美味しい!(脳を溶かす)

  • 82二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 06:43:36

    続きをお待ちしています

  • 83二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 17:04:15

    ほっしゅ

  • 84二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:09:37

    >>77





    「うぉおおぉぉっ!」

    「こんのぉおおっ!」


     エランが相手の騎士のエンブレムを丁度破壊した頃、グエルはクラウダスとの剣戟に応じていた。

     態勢を崩した際のシールドバッシュの勢いにより、相手は大盾をロスト。しかし、エンブレムの破壊まではいかず、大盾を廃棄した方の手でディランザの槍を掴まれる。

     このままでは騎士剣で胸中を突かれると判断したグエルは槍を放棄。

     しかし、相手にそのまま利用されるの防ぐために即座に騎士剣を抜剣して再突撃。距離の近さから手にした槍を持ち換えての対応は不利と見たクラウダスは、槍を大きく横に投げた後に同じく騎士剣で迎え撃った。

     ダリルバルデの盾と騎士剣のグエル。騎士剣両手持ちのクラウダス。

     盾がある分有利と思われたグエルだったが、そこは流石の決闘上位騎士。全身鎧の硬さと重さもあって、盾なしでもクラウダスは彼と対等以上に渡り合う。


    「くっ!」

    「ぐぅうっ! はぁあっ!」

    「ちぃっ!? ぐっ!?」


     グエルがシールドバッシュをすれば、クラウダスはそれを鎧の肩部分で受ける。そして、両手持ちの騎士剣を下からすくい上げるように斬り上げる。

     下側からの強襲にグエルは咄嗟に騎士剣で受けるも、片手持ちと両手持ちの力差は埋め難く、勢いを抑えられずに一撃を貰う。こちらもまた鎧越しとはいえダメージは確実に入り、グエルは顔をしかめながら後退。


    「そこだぁっ!」


     態勢を崩したと見たクラウダスは斬り上げからの振り下ろしで、エンブレムではなくグエルの意識そのものを刈り取りに行く。

  • 85二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:10:07

    「舐める、なぁっ!」

     しかしグエルはそれをダリルバルデの盾で受け、その勢いを殺しながらも即座に騎士剣で突きを繰り出す。
     距離が近いため、勢いこそないもののクラウダスにそれを回避する術もなく、直撃を受ける。

    「ぐっ、ぐぅうっ!?」

     辛うじてエンブレムへの直撃は回避したものの、左肩の付け根を貫かれたことによって、クラウダスは追撃を止めて後ろへと下がる。
     一進一退の攻防。これらのやり取りが、シャディクやエランの決着を待たずして幾度となく繰り返された。
     それこそ、クラウダスらが望むところであった長期戦にまで足を踏み入れていたが、グエルの動きが鈍る様子は見せない。

    (こいつ、化け物か!)

     決して表にこそ出さないものの、クラウダスはフルフェイス兜の内側で悪態をつく。
     大盾に全身鎧に対して、重鎧と騎士盾と槍という不利な状況から、ほぼ同条件まで持っていく戦闘能力の高さ。
     クラウダスの仕掛けに対して、最早天性の戦術眼とでも言うべき勘の良さで悉く直撃を避ける戦闘センスの高さ。
     それでも切り崩せない相手に対して決して折れない精神力の高さ。
     普段の傲慢さとその中にある確かな高潔性の高さも相まって、正に騎士の中の騎士と言うべき才能を前に、嫉妬心すら消し飛んだ。

    「グエル。苦戦しているようだが、手伝おうか?」

     一瞬でも気を抜いたら持っていかれるという状況ですら厄介だというのに、ここにきてクラウダスが最も恐れていた事態が発生する。

    「こいつら、僕たちの対策をしっかり行っていたからね。荷が重いようなら、手伝ってやってもいいよ?」

  • 86二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:10:27

     対策をした上での一対一想定。
     仮にいずれかの味方がやられても良いように防御を固めた長期戦を選択したが、その均衡がシャディクとエランの登場によって崩れたことを知る。
     とはいえ、これは複数人による個人戦ではなく団体戦。先鋒、次鋒、とお行儀よく戦うのではない、いわば乱戦方式なのだ。
     ここで二人が割って入って三対一となったところでクラウダスが物申すことは出来ず、そういう状況になることを想定した上での決心解放。
     グエルだけでも手一杯な状況にこの二人が参戦してくれば敗北は必至。
     鎧の中で一気に冷汗が噴き出すのをクラウダスは感じる。

    「二人は手を出すな! 一対一の勝負だ!」
    「っ!?」
    「正々堂々、か。お前らしいよ」
    「それで負けなきゃいいけどねぇ」

     しかし、グエルの一喝によってシャディクもエランも大人しく引き下がる。
     思いもよらぬ状況から再び一対一の戦いへとなり、クラウダスはグエルの高潔さに舌を巻いた。
     同時に、そんなグエルのことを理解して、本当に武器の構えを解いて見に回る二人も含めて……自身の敗北を確信する。

    (だが、せめて騎士として……)

     だがそれとは別に、騎士の矜持として、今は目の前のグエルに集中し、そして最後まで戦い抜くことを誓い──

    「邪魔が入ったようですまない。決闘を続けよう!」
    「あぁ。来い! グエル・ジェターク!」

     ──グエルとの決闘を再開するのであった。

  • 87二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:11:41

    申し訳ないです
    これとは別のSS依頼があって、そっちもちゃんと進めなきゃならないので
    今日はこれぐらいで…

  • 88二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:34:19

    お疲れ様です!続きはゆっくり待ってますね!!

  • 89二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:38:21

    お疲れ様でした!
    続きをお待ちしています

  • 90二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 19:39:15

    他のSSもあるとかスレ主すげえなあ……しかも毎日こんなハイクオリティを……
    ゆっくり続き待ってます!

  • 91二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:03:29

    >>88 >>89 >>90

    ありがとうございます…!

    文章力褒められたことないので本当に嬉しいです…!

    もう一つの方は…詳細は伏せますが個人依頼なので少しこっちの文章量は減るかもです

    すみません

  • 92二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 08:32:05

    ⚔️🧙‍♀️

  • 93二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 17:38:04

    ほしゅ

  • 94二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 23:30:03

    >>86




    ※※


    ※※※



     最早死闘と言っても差し支えの無いグエルとクラウダスの決闘。

     正々堂々の真っ向勝負の末、辛くもグエルが勝利し、結果として見れば下馬評通りの御三家勝利で幕を閉じた。

     しかし、あの御三家の騎士たちがチームを組んで戦うなど、久しく見なかったためか観客たちは興奮冷めやらぬ一夜を過ごすこととなった。

     そしてその翌日。


    「んー。良い天気だ。風も気持ち良いし」

    「そうね」


     決闘疲れこそあったものの、その決闘によって振替の休日を貰ったエランは、眉根を寄せるノレアに食い下がってご褒美を貰うことにした。

     白い雲がまばらに見える春先の晴天。風も穏やかで、過ごしやすい日和。

     以前、彼が口説き落として教えてもらった、ノレアのお気に入りの景色が見える場所に二人はやってきていた。

     アスティカシア騎士団の普段着でもある肩掛けマント付きの暗めの青緑色の制服を身に纏い、城下街から少し離れたその野原にエランは腰を下ろす。

     この後仕事があるということで、昨日と同じ服装のノレアが彼に相槌を打ち、少し逡巡した後にその右隣に腰掛ける。彼女の手には布巾が掛けられているピクニックバスケットがあり、それを自身の右側に置くのを見たエランは無意識に口角を上げる。


    「穏やかだね。それこそ目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうなぐらいに」


     遠くに見える白銀の霊峰。手前に見える牧場と点のように小さい家畜たち。そしていくつもの芽吹きが感じられる緑の丘が重なり合って見える風景を前に、エランは軽く欠伸をしながら優しい声色で呟く。

  • 95二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 23:30:28

    「だったら眠ればいいじゃないですか」

     すると即座に横からノレアが歯に衣着せぬ物言いをし、それを聞いた彼は「あのね……」と少し落胆した様子でため息を吐く。

    「隣に君がいるのに、どうして眠らなきゃいけないんだい?」
    「? だって、眠いのでしょう?」
    「あー、いやまあ、そうなんだけれども」

     エランが笑顔を張り付けた顔で横を向くと、そこには自分は何かおかしなことでも言っているのか、と言わんばかりに小首を傾げるノレアがいる。
     無表情で、淡泊。感情が荒ぶらない限り、抑揚のない喋り方は人によっては鬱陶しさすら感じるだろう。

    (そうだった。彼女、こう見えて直情的なんだった)

     しかし、エランが心の中で独り言ちって反省するように、彼女は素直で飾り気のない性格。彼のような、人によってはイラつきそうな大げさな物言いや、迂遠的な言い回しではノレアは誤解しかねない。
     現にこうしてエランが言ったことを、彼女はそのまま素直に受け止めてしまう。

    (ま、そういうところが可愛いのだけれども)

     けれども彼は知っている。
     常に無表情と思えるノレアが、穏やかに笑えることを。淡泊と思われる彼女が真剣な表情で自分の好きなもの、好きな景色をスケッチすることを。相方であり、どこか危なっかしいソフィのことを仕方がなさそうにしながらも、どこか嬉しそうにフォローすることを。
     そして、そんなノレアに、惹かれていることに。

    「このまま眠るのも気持ちが良いだろうけれども、それは勿体ない」
    「何が勿体ないのですか?」

     だからこそ、彼は大げさな物言いを止め、遠回しな言い方を止め、作った笑顔をせず、自然と浮かべた笑みでノレアの顔を見つめる。
     相手はまだ何を言いたいのか分からないのか、オウムのように同じ言葉を返して質問する。

  • 96二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 23:30:53

    「ノレアと落ち着いて、ゆっくりと話せるのに、その機会を捨てるなんてことは出来ないさ」
    「ぁ……」

     エランの噓偽りのない、それでいて気取るつもりも飾るつもりもない言葉を前に、ノレアはようやく先程の言葉の意味を察し、俯く。

    「そのために、無理を言って君からご褒美を貰ったんだ」
    「……ばか」

     その様子を見て、流石に直球過ぎたかと彼はすぐにいつもの調子に戻し、その声色の違いにノレアは小さく罵倒した後に顔を上げる。
     彼女の少しだけ頬の染まったその顔は、エランが何よりも見たかった穏やかな表情をしていた。

    「最近のフォルドの夜明けはどう? 変なお客さんに絡まれていない?」
    「えぇ。絡まれていますよ。いっつもわたしにしつこく声を掛けてくる騎士様が」
    「わぁ、なんて奴だぁ。僕のノレアに手を出すなんて、一体全体どんな男なんだい?」
    「ちょうど手鏡がありますよ。覗いて見て下さい。そこにいますので」
    「やいやい。鏡の中の僕。ナンパするぐらいならもっとノレアの好きなものとかを聞き給えよ」
    「鏡の中の自分に話しかけるとか、あなた馬鹿ですか?」
    「酷いっ! 君が先に言ったんじゃあないか」

     心地よい風が流れ、草木のせせらぎが耳を優しく撫でる空間。
     二人は他愛のない会話に花を咲かせ、時にはエランがノレアをからかい、時にはノレアがエランの話の腰を折る。
     騎士と村娘。二人の身分の差は今この場にはなく、ただ時間だけが穏やかに流れていく。
     この逢瀬が一時のものであり、終わればまた二人はそれぞれの身分の道を歩む。

  • 97二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 23:31:22

    「この間、また新しい景色が見られる場所を見つけたんですよ」
    「へぇ~。ノレアが見つけた場所ならきっと良い景色が拝めるだろうね」
    「えぇ。きっとあなたも気に入る景色だと思います」
    「気になるなぁ。ノレアのことだ、もうスケッチしたんだろ? 見せて欲しいな」
    「あっ、その、今日はノート、持って来ていなくて」
    「なんだ残念。でも、君が案内してくれた時の楽しみに取っておこう」
    「そうですね。……って、どうしてわたしがあなたに教える前提で話が進んでいるんですか」

     二人とも、それが分かっているからこそ、今を楽しむ。
     それぞれの胸中にあるものを、全ては曝け出すことは出来ずとも。
     お互いがお互いのことを少なからず想っているからこそ、こうして何でもないことを愛おしく思いながら、会話を弾ませる。
     そんなエランとノレアの二人は、互いに心安らいでいると分かるほどに、穏やかな顔をしていたのであった。

  • 98二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 23:32:59

    おやぁ…?
    おかしいですね…話を進めるために(本編で勝っているし)グエル君の戦闘を省いたのに
    どうしてグエスレではなく5ノレを…?


    まぁいいかぁ! よろしくなぁ!(画像略)

  • 99二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 23:37:34

    エンドカードが現実になった…(泣)
    ありがとうございます
    この素敵な文章でグエスレやシャディミオの様子もお願いします
    もちろんご自身のペースで無理のない範囲で…

  • 100二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 00:03:52

    >>99

    お褒め頂きありがとうございます!

    グエスレも5ノレもシャディミオも!

    みんなイチャイチャしてくださいぁああ!(魂の叫び)

  • 101二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 00:06:44

    ありがとうございます、本当にありがとうございます……(5ノレ推し号泣民並感)

  • 102二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 07:58:27

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 18:08:57

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:36:58

    ほしゅ

  • 105二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:54:06

    >>97




    ※※


    ※※※



     時刻は進んで正午付近となった。

     空の雲の数が増えたことによって、日差しは強くならず、相変わらずの穏やかな気候を維持している。

     エランがノレアの横に置かれたピクニックバスケットを横目で見て、「あー、なんだかお腹が空いてきたなー」と露骨な昼食の催促を始めた頃、シャディクは王宮の庭園に足を運んでいた。

     彼もまた昨日の決闘の振替休日を貰っており、今後のスレッタやグエル、そしてガンダムについてに考え、煮詰まったことによる気分転換のつもりだった。


    (とはいえ足を運ぶのが“ここ”とは、我ながら行き先のレパートリーが無いな)


     考えている内容が内容なだけに、最後に思い浮かぶのがミオリネのことであり、彼女がよく来る場所を選んだことにシャディクは心の中でため息を吐く。

     ミオリネ・レンブラン。

     青みがかった綺麗な銀髪に、少しキツさを感じさせる薄い琥珀色の瞳。鳥の羽のように跳ねた前髪と頭頂部の浮き毛。同じく鳥の尾羽を思わせる長い後髪もあって、シャディクは彼女を美しい白鳥に例えたこともある。

     ベネリット公国のデリング・レンブラン公王の一人娘であり、運動神経を除けば才色兼備の姫。

     見た目の儚さすら感じられる美しさも相まって、国内外の王族貴族たちから求愛や縁談の話が後を絶たない。

     しかし、そんな見た目に反して性格は苛烈。再三の縁談話や父親の過干渉にうんざりしており、年頃の娘ということも手伝って、ノレアとは違う意味で歯に衣着せぬ物言いで父親や他の者たちを困らせている。

     感情的な性格で且つ行動的な彼女ではあるが、本来は思慮深く心優しい女の子でもある。だが、他人に心を開くことがあまりないせいか、それを知っているのはシャディクを含めてごくわずかであった。

     そして、そんな本来のミオリネを知っている彼だからこそ、彼女に恋をし、何としてでもその隣に立とうと画策してきた。


    (公王が騎士団の中の最も優れた騎士、「ホルダー」の称号を持つ者に娘を嫁がせる、なんて言い出した時は焦ったものだが──)


     ミオリネや彼女に関することに思いを馳せながら、ハーブ園や小花園、バラ園すらも素通りし、シャディクは庭園の奥へと進む。

  • 106二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:54:41

    (──肝心のミオリネはそれを断固として拒否しているし、水星ちゃんには負けたものの、ホルダーとしての地位にいるグエルはそもそもミオリネに興味がない)

     シャディクの目的は庭園の片隅にある菜園であり、そこが彼のお気に入りの場所であった。

    (興味があるとすれば、あいつの父親であるヴィムの地位を上げる勲章としてのミオリネ。それがまかり通るのであれば、いくら幼馴染のグエルとて全力で潰す必要があったが……)

     そのグエル自身がシャディクのいう水星ちゃんことスレッタ・マーキュリーに一目惚れし、よりにもよって魔女の騎士となろうとしているのだから、彼からしたら杞憂に終わりそうだと安堵する他ない。
     となれば、とシャディクが菜園に足を踏み入れたところで、彼は考えるのを止めた。
     否、目の前の光景に思考が停止してしまった。

    「み、ミオリネ?」
    「あら、その声は……シャディクじゃない」

     彼の視線の先には青い小鳥がいた。
     王族貴族たちの社交パーティーで着飾るような青色のドレスを容赦なく土で汚し、その小鳥、ミオリネは振り向かずに声の主がシャディクであると言い当てる。
     地面に両膝を立て、目の前の植物を一心不乱にチェックし、時には傍に置いてある鋏を手に取って何かの作業をしている。
     正に農作業をする風景ではあったものの、綺麗に整えられた彼女の後頭部の髪や、肩を出し、背中を大きく開けたそのドレスが不協和音を生み出していた。
     流石のシャディクもそんなミオリネの行動に理解が追い付かず、正に開いた口が塞がらない状態となった。

    「な、何をしているのかな?」
    「見れば分かるじゃない」
    (いやまあ、それはそうなんだけれども)

     何とか会話を続けようとシャディクは見たままの感想を言うが、淡泊に返答するミオリネの言葉に口を閉ざす。
     しかし、その言葉の端からは、それこそシャディクぐらいしか分からない彼女の苛立ちの感情が聞き取れたため、余計なことは言えなかった。
     こういう時のミオリネは何を言っても無駄であり、逆に不用意な言葉が彼女の苛立ちを加速させてしまう。
     長年の付き合いでそれを熟知しているシャディクは、それ以上何も言わずにただ黙って彼女の近くまで行き、その作業風景を眺めることにした。

  • 107二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:55:14

     1秒、1分、10分、と黙って作業を進めるミオリネと、それを後ろから見守るシャディクという状況が続く。
     彼が何も言い出さないことに痺れを切らしたのか、先に口を開いたのはミオリネの方だった。

    「……何も聞かないのね」
    「君が聞かれたくなさそうだったからね」
    「ふん。私が土いじりしているところなんて、黙って見てても面白くないでしょうに」
    (いや、かなり面白いけれども)

     作業によって彼女の苛立ちは収まりつつあったようだが、それでも何がきっかけで爆発するか分からないだけに、シャディクは素直な感想を心の中にしまう。
     とはいえ、ミオリネが土いじりを趣味としているのは以前から知っていたが故に、彼女がドレス姿のままそれを行うことには違和感を覚えていた。
     だからこそ、何かあったのだろうと察し、敢えてそこには触れずにミオリネから言い出すのを待つことにした。

    「ん? あれ?」
    「なによ」
    「いや、そのトマト。小さくて青いままだけど収穫するんだなって」

     しかし、後ろから作業を眺めているところにミオリネが青いトマトを剪定したことが引っかかり、ついつい口を挟んでしまう。
     思わず彼女のしたことに口を出してしまったことにシャディクは後悔するが、それに対するミオリネの反応は穏やかなものだった。

    「……このままだと大きくならないのよ。だから先に切って栄養を他に回すの」
    「分からないな。その栄養は土にあるのだし、そのままでも育って赤くなるんじゃないのか?」
    「いくら土に栄養があっても、植物自身が貯えられる栄養には限りがあるの」

     そうシャディクに説明しかけたところで、彼女は「そうね」とここにきて初めて作業を中断し、振り向いた。
     その顔は作業による汗でメイクが崩れかけていたものの、彼の目を奪うには十分過ぎる美しさがあった。

  • 108二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:55:43

    「シャディク。貴方が元手の額を決めて投資するとして、1か所に投資して三倍の利益を出すか、3か所に振り分けてそれぞれ二倍ずつの利益を出すか。どっちかを選べるとしたらどうする?」
    「前者を選ぶ」
    「即答ね。理由は?」
    「一見すると後者の方が六倍の利益が出て得をしているように思えるが、投資する元の額は同じなんだろ? だったら──あぁ、そういうことか」
    「御明察。流石ね」

     いきなりの経済学の話だったが、シャディクはその問いに答える途中で、彼女の言いたいことに気付く。
     そしてそんな彼を見たミオリネもまた、その聡明さに笑みを見せる。
     だが、シャディクからしたら眩しく思えるぐらいのその微笑みよりも、彼女が手にしている選定された青いトマトを見て、彼は勝手に暗い気持ちになってしまう。

    (大きく、赤く実ることのない青いトマト、か……まるで今の俺だな)

     ミオリネに対する自身の想いも気持ちも、心の中でハッキリとした形になっているのに、それを大きく育てることなく、何とかそのままで上手くやろうとしている、
     シャディクにとってそれが正しく青いトマトであり、それが目の前で剪定されたことに、何だか自分の気持ちも刈り取られたように思ってしまった。
     無論、それは彼が想いと青いトマトとを重ねてしまっているだけであり、シャディク自身も勝手に泥沼へと沈む様相を呈していることに嫌気がさしている。しかし、どうしてもその青いトマトから目を離せなかったのも確かであった。

  • 109二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:56:13

    「……ねぇ。知っているかしら?」
    「……何がだい?」

     少し考えるような仕草をした後に声を掛けてくるミオリネに対し、シャディクはいつも通り振舞おうとしつつも、自身の声が低くなっていることに気付く。
     けれども、彼女は気にせずに青いトマトを優しく、愛おしそうに撫でながら続ける。

    「青いトマトはね。追熟によって食べられるようになるのよ」
    「……へぇ」
    「つまりは、赤く実らせることが出来るの」
    「……」
    「私、待っているから」

     ミオリネが手にしているトマトについての知らなかった知識を得て、素直に感心していたシャディクだったが、その後に続く言葉を聞き逃す訳にはいかなかった。
     耳を澄まさなければ、聞こえないような小さな声。
     けれども確かに自分へと向けられた言葉を前に、彼は驚きで言葉を返せず、また頭と心の整理がつく頃にはミオリネはシャディクに背を向けて作業を始めていた。

    「……そうか」

     その後ろ姿に言葉を投げることは無粋と思ったシャディクは小さく呟くと、そのまま彼女の作業風景を嬉しそうに眺めた。
     お互いに無言のままの二人だけがいるその空間は、パーティー会場から抜け出したミオリネを探しに来た侍女が来るまでの間、穏やかに続くのであった。

  • 110二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:57:07

    頭が良い人同士の会話は、私には分かりません^q^
    なので雰囲気でシャディミオを感じて頂ければ幸いでございます

  • 111二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:59:45

    わあ、しっとりしてる…
    大人なシャディミオをありがとうございます

  • 112二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 00:06:54

    >>111

    しっとりとした大人な感じを表現出来たようで良かったです…


    二人とも地頭が良すぎるのでこの書き逃げSSの中で一番文章考えるの苦労しました(小声)

  • 113二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 07:57:44

    ほしゅ

  • 114二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 17:24:44

    ほし

  • 115二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 00:01:34

    ほしゅ

  • 116二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 00:06:41

    >>109




    ※※


    ※※※



     ミオリネがふくれっ面をした状態で、彼女を探しに来た侍女に引きずられていく頃、ジェターク家の応接間で乾いた平手打ち音が響く。

     頬を叩かれたのはグエル・ジェターク。そして、その頬を叩いたのは他ならぬ彼の父親であるヴィム・ジェタークである。

     騎士王の正装。権威と絢爛さが垣間見えるその意匠の凝った服装は、それまで別の会場、それこそ社交パーティーにでも出席していたかのようなものであった。


    「勝って当然の決闘報告に来たのかと思ったら、魔女に負けただと? そして、その魔女に同行するぅ? 馬鹿も休み休み言え!」

    「申し訳ありません、父さん」


     叩かれた左頬に手を添えて一瞬だけ捨てられた子犬のような顔をするグエルだったが、スレッタのことを見誤り、且つホルダーの地位にいて自惚れた結果が今なのだと思い、すぐに頭を下げて謝罪する。

     そんなグエルを見て、ヴィムは寧ろ更に期限を悪くしたように鼻を鳴らした。


    「許さん! そもそもの話、俺はそんな決闘の結果など認めていない! その魔女とやらを連れて来い。俺が直々に叩き潰してやる」

    「待って下さい! 確かに勝手に決闘をして敗れたことは謝ります! ですが、それは俺の責任であって、彼女は関係ありません!」


     苛立ちを隠しもせずにぶつけるヴィムに対し、グエルは顔を上げて必死に説得する。そんな彼の様子に眉根を寄せたヴィムであったが、やはりその態度を軟化させることはなかった。


    「ふん! まあいい。俺がその決闘を帳消しにしてやる。だが、お前が負けたという話を、その場で立ち合いをした養子野郎に流布されると面倒だ」

    「……」

    「もう一度その魔女と決闘をしろ。今度は俺が手を貸してやる。大衆の面前で魔女を叩き潰せば、お前の名誉は回復し、また魔女を倒したということで我が家に箔が付くというものだ」

    「!? そ、それはっ!」

  • 117二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 00:07:04

     一方的な決闘結果の取り消しと、八百長を公言する再決闘の話。
     苦虫を嚙み潰したような顔をしていたグエルも流石に看過できずに食い下がって見せる。
     しかし、そんな息子の様子を見ても尚、ヴィムの態度は変わることはなかった。

    「子どもは親の、騎士は王の言うことを聞けばいいのだ。返事は、グエル」
    「っ……はい」

     二重の意味で圧を彼からかけられたグエルは、震える口を一文字に紡ぎ、堪えるように返事をするしかなかった。
     その後、来客があるとのことで人払いをされるかのようにあしらわれたグエルは、無言でヴィムに一礼すると部屋から出て、スレッタが待機している客間へと向かうのだった。





    「なるほど……そんなことが」

     客間に戻ったグエルは事の経緯を伝えるにはジェターク家では危ないとスレッタに説明し、家を離れ、人通りの少ない路地裏で改めて先程の話を説明した。
     彼の申し訳なさそうな顔を見たスレッタは、何と言っていいのか分からない様子であり、グエルもまた自分がどうしたらいいのか分からないというように首を擦る。

    「すまない。俺は──」

     父親を、騎士王を止められなかった。
     そうグエルは言いかけて、止める。尊敬する父親を悪く言うようであり、騎士として王の判断を疑うという行為が背信的であると思ったからだ。
     しかし、ヴィムの判断は間違っている。それだけは自分の中でハッキリとしているというのに、その場で断固として反対の意思を見せられなかった。
     それなのに、今はそのヴィムを悪に仕立てて彼女に謝罪しようとしている自分が酷く矮小で卑怯な男に思え、グエルは貝のように押し黙ることしか出来なかった。

  • 118二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 00:07:53

    「お父さんのこと、好きなんですね」
    「え?」

     だが、批判を覚悟していただけに、スレッタの口から次に出てきた言葉にグエルは驚き、彼女の顔を見つめる。

    「分かります。さっきのグエルさんの説明。とても申し訳なさそうにしていて、それでいてそのお父さんのことを悪くも言いたくない、そんな必死さが伝わってきましたから」
    「……」
    「私も、お母さん……魔女・プロスペラのことが大好きですから。グエルさんの気持ち、分かります」

     自身を魔女と誹られ、一方的な決定を突き付けられたというのに、スレッタの顔は穏やかだった。
     その眩しすぎる程の真っ直ぐと、人を信じて疑わない純朴さ。
     もしかすると、嘘を言って彼女を陥れようとしているかも知れないというのに、スレッタという少女は、グエルという出会って間もない一人の男の言うことを信用してくれていた。

    「ですからその……旅のお供は、他の人を当たることにします」
    「いや、俺は……」
    「あ、あとっ! そ、そのっ、えっと……ぷぷぷ、プロポーズについても、ですね!? そ、そーゆーことは、もっとお互い、親身になってから、その、行うべきだと、私思うんです!」

     俺はただ父親が怖くて逃げてきただけだ、とスレッタの言葉を聞いて自覚したことを言いかけて、グエルは目の前で勝手に慌てだす彼女の姿に肩の力を抜く。
     最初はただの一目惚れだと思っていた彼だったが、なかなかどうして、その直感は当たっていたことに眉が下がるのを感じた。

    「あっ、あー! 何を笑っているんですか! そもそもグエルさんがいきなりですね──」
    「スレッタ・マーキュリー」

     だからこそ、父親の意見を受け入れ、王のために動く騎士の本懐である忠義を為し。そしてそんな親に、王に逆らって独り立ちという名の叛逆の覚悟を持って。
     何より目の前の惚れた少女の力になるために。

    「はい?」
    「お前に決闘を、申し込む」

     グエルは彼女を利用する形になって申し訳ないと思いつつも、決心を解放するのであった。

  • 119二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 00:10:34

    グエスレドコ…ココ・・・
    でもグエスレを成立させるためには必要なことだったのです…('、3_ヽ)_

  • 120二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 00:12:46

    わぁ…!
    グエルが何か覚悟きめてる!

  • 121二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 07:13:52

    >>120

    はやくグエスレさせるために覚悟RTAをさせるしか…! ござりませぬでした!

  • 122二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 18:12:04

    ほしゅ

  • 123二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 21:49:47

  • 124二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 00:15:41

    >>118




    ※※


    ※※※



    「双方、魂の代償をリーブラに」


     翌日の昼前。

     アスティカシア騎士団領内の天秤の間にて、決闘の儀が執り行われる。

     立会人となったエラン・C・サンクが、月桂樹の枝を輪に組んだ冠を被った天秤と騎士剣を手にした女神像の前に立って、口上を述べる。


    「決闘者は騎士、グエル・ジェタークと魔女、スレッタ・マーキュリー。場所はアスティカシア決闘場。ルールは一対一の個人戦を採用。両者、異論のある者は前へ」

    「問題ない」

    「はい」


     エランから見て、右側に立つグエルが頷き、続いて左側のスレッタが了承する。二人の確認を取った彼は、軽く双方へと視線を走らせた後、スレッタへと顔を向ける。


    「スレッタ・マーキュリー。君はこの決闘に何を賭ける?」

    「私が勝ったら、一人前の魔女になる旅に、グエルさんを同行者としてついて行って貰います」


     彼女の真っ直ぐな言葉にエランは頷き、次にグエルへと顔を向ける。


    「グエル・ジェターク。君はこの内容を受けるかい?」

    「あぁ。構わない」

    (まあ、だろうね)

  • 125二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 00:16:09

     淀みなく答えるグエルに、エランは顔色を変えないまま内心彼に同情する。
     シン・セーの森での決闘は、ヴィムの手によって非公式のもとされ、その内容や賭けは取り消しとなった。そして彼の異議申し立てによって、こうして再び決闘が行われる運びとなっている。
     先の決闘を間近で見たエランとしては、グエルも結果を受け、且つスレッタに一目惚れをして勢いそのままにプロポーズまでいているのだ。それが仮に自分の身の上で起こったと思うと、恐ろしすぎて身震いする。
     グエルの性格からして、不本意な決闘のやり直しなど、苛立ちや不満でしかないだろう。

    (それにしては、直情的なお坊ちゃんはやけに落ち着いている。流石のグエルでも父親が怖いのか、それとも──)
    「どうした?」
    「あぁ、いや。すまないね」

     彼の態度には何かあるに違いないと邪推するエランだったが、当の本人の言葉によって我に返り、決闘の儀を続ける。

    「では、グエル・ジェターク。君はこの決闘に何を賭ける?」
    「俺が勝ったら……この魔女、スレッタ・マーキュリーのアスティカシア地域の追放を望む」
    「ふぅん?」

     少し考える素振りをした後に答えるグエルに対し、エランは思わず意外そうな声を上げてしまった。
     決闘の儀とは古くから行われている文化なだけあって、立会人と決闘を行う者。そしてそれを取り仕切る決闘委員でなければ、基本的に同席は認められていない。
     それを抜きにしても自治領の管理で忙しいヴィムはこの場にはおらず、勝ち負けに関わらずグエルにとって有利な賭けも出来たはず。
     しかし彼はそれをせずに、ヴィムが望む賭けの対象を出してきたことが、逆にエランの興味をそそった。

    (とはいえ、一目惚れこそしたが、知っている者は必ず忌避するという魔女の見習いを取るか、尊敬する自身の父親と今の騎士としての地位を取るかの二択なら……ということかな?)

     視線をグエルからスレッタへと移す間に、彼の心境を推測するエランだったが、結論としては「子は親に、騎士は王に逆らえない」というものに落ち着いた。

  • 126二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 00:16:50

    「スレッタ・マーキュリー。君はこの内容で問題ないかい?」
    「はい」
    (こっちも特に気になる点はない……互いの目に決意が宿っている気はするが、まあ決闘の場においては些事だろう)

     憶測は尽きないが、それで決闘の儀を滞らせてはいけないと、エランは一旦考えるのを止める。
     それから今一度スレッタ、それからグエル。そして決闘委員としてこの場に参加をしているシャディクやセセリアへと視線を走らせた後、両手を広げる。

    「アーレアヤクタエスト。決闘を承認する」

     そして、柏手を打ち、二度目となる二人の決闘は今ここに成立となった。

    「……」
    「……」

     決闘成立となり、エランが二人の間を通って退席しようとしても尚、グエルとスレッタは無言で見つめ合う。
     奇しくもその時の二人は、この決闘が成立する前に話をしていたことを思い出していた。




    ※※

    ※※※


    『共謀する、ですか?』

     時間は遡って、昨日の人気の少ない路地裏。
     急な決闘の申し出の後に、彼から提案された内容をスレッタは反芻する。グエルはその言葉に頷き、話を続ける。

  • 127二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 00:17:26

    『あぁ。恐らく父さんの介入によって、この決闘自体は避けられない。だから、どちらが勝っても俺がお前の旅に同行するようにする』
    『でも、どっちかが手を抜いて戦うというのは……』

     ズルみたいで嫌です、と落ち込んで見せる彼女に対し、グエルは表情を柔らかくする。
     スレッタと同じように、彼もまたそういうことを嫌うタイプだったからだ。

    『そうだな。その時の観客はともかく、父さんにはバレるだろう。スレッタが手を抜いて負ける場合はそれでも良いだろうが、あまりにも露骨な場合は俺たちが何かを企んでいると見られかねない』
    『じゃ、じゃあじゃあ、どっちが勝っても旅に同行するような内容にすれば──』
    『それも考えたが、決闘後に賭けの内容を聞いた父さんによる物言いがされるだろう』
    『──駄目ですか』

     食い気味に名案とばかりに笑顔を見せるスレッタだったが、グエルの言葉を聞いて顔を下に向けて肩を落とす。
     しかしその後すぐに何かを思いついたかのように、顔を上げて彼へと視線を向けた。

    『あ、あのー。そもそも私たちがここから去れば丸く収まる気がするのですけども』

     恐る恐る提案するスレッタに対し、グエルは「その通りなんだがな」と顔を逸らす。

    『それだと俺は父さんから逃げるだけになってしまう。それに──』
    『それに?』

     最初はどこか諦めるように、だが途中からスレッタへと視線を戻し、真剣な表情をするグエル。

  • 128二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 00:17:53

    『──俺はもう一度、お前と戦いたい。お前と戦って、俺の強さを証明したい』
    『グエルさん……』
    『後はあれだ、魔女を護衛する騎士が魔女より弱いと話にならないだろ?』

     負けたままではいられない、というグエル本人のプライド。そして、同じように護衛をするためにもその対象に強さを証明したいという、騎士としてのプライド。
     手前勝手な理由ではあったが、決闘をする理由としては彼にとって十分過ぎた。
     その熱を真正面から受けて感化されたからか、それとも彼女も彼女で魔女としてのプライドが刺激されたのか。グエルの言葉に、スレッタは頷き覚悟を決めた顔を見せた。

    『分かりました。その決闘をお受けします』
    『感謝する』

     スレッタの了承を以て、ここに二人の決闘であり、共謀であり、共闘が成立したのであった。




    ※※

    ※※※


     そして時はそこから正式な決闘の承認。その後の二人の無言の見つめ合いから更に進み、決闘の当日の日となった。

  • 129二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 00:22:05

    グエスレをするために始めたSSなのに、グエスレするために剣と魔法の世界で3回も決闘シーンを描写する羽目になる謎


    書き逃げSSですからね! フィーリングで毎回書いているので仕方がないですね!(言い訳)

  • 130二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 08:35:25

    ほっし

  • 131二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 15:13:01

    このレスは削除されています

  • 132二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:30:34

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:55:26

    >>128

    「これより、決闘を執り行う。勝敗は通常通り、相手の胸中にあるエンブレムを破壊した者を勝者とする」


     二日前に御三家の決闘を行ったばかりだというのに、間を置かずして再び行われる御三家の決闘。

     それも、相手は見習いとはいえ知る人ぞ知る魔女ともなれば、市民は見ない訳にはいかなかった。それでなくとも、決闘自体が大衆娯楽や賭博行為の場となっているこの世界に置いては、相手が誰であろうと関係がない。

     入場料自体も安くないというのに、決闘場は満員。

     特別席にはグエルの父親であるヴィムや、グラスレー家のトップであるサリウス・ゼネリ。そして、公王であるデリング・レンブランも観覧に来ている。

     控室にて待機しているスレッタはもとより、グエルですらやや顔が強張る程の大歓声の中、エランの宣誓が続く。


    「立会人はペイル家の騎士、エラン・Cサンクが担当する」


     その言葉に決闘場は歓声に揺れ、それを聞いた案内人がスレッタに声を掛ける。


    「周囲に障害及び妨害者無し。入場、どうぞ!」

    「ありがとうございます」


     グエルとの共謀、共闘の決闘とは言え、その戦いはお互いに本気でやり合う。

     初対面こそ舐めて掛かってしまった相手ではあるが、その認識は二日前の決闘を見て改めた。

     決闘相手も決して弱くはなく、寧ろ対策も含めて騎士として強さだけならグエルにも引けを取らなかった。しかし、彼はそれを正面から叩き伏せて魅せた。

     泥臭くも、絡め手を受けても、真っ向勝負と技量で勝利を掴む。正に魅せる戦いであり、かくいうスレッタ自身もその戦いに魅入っていた一人だった。

  • 134二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:55:56

    「よぉっし」

     だからこそ、自分の旅についてきてもらうためにも彼女は頬を叩いて気合を入れ、入場する。
     通路を抜けて、決闘の場に出ると観衆の応援や怒号がスレッタを包む。

    「いっけー! 俺の8.6倍ー!」
    「魔女と聞いたからどんな人かと思ったら、まだ子どもじゃない」
    「誰だっていい、グエルをホルダーの座から追い出せー!」
    「グエルー! 田舎者の魔女なんて潰せー!」

     歓声を全身に受けながら、スレッタは決闘開始の位置につく。正面を見ると、グエルもまた同じように開始位置に立つ。
     歩幅にして20の距離。
     スレッタの装備こそ、白の三角帽に白のローブ。そして、自身の相棒でもあるガンダム武装、エアリアルが右手にある。
     対するグエルの装備は、二日前の決闘とも初めて会った時とも違うものであった。
     鎧自体は通常のものだが、両肩の先についた盾。両刃のジャベリン。全身が赤色なこともあって、実際よりも大きく見える。

    「両者、口上」

     初めての時のようにはいかない、と改めて気を引き締めるスレッタの耳に、エランの声が届く。

    「勝敗はその者の立場のみで決まらず」
    「その者の技のみで決まらず」

     スレッタ、グエル共に一歩前に出て、口上を述べる。

    「ただ、結果のみが真実!」
    「ただ、結果のみが真実!」
    「フィックスリリース」

  • 135二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:56:18

     そして、エランの決闘開始の合図を以て、陰謀と策謀が渦巻く決闘の幕が上がった。
     両者は構え、互いの距離を詰めていく。

    「ふっ!」

     先に仕掛けたのはグエル。
     距離が歩幅にして10を切る前に跳躍し、スレッタ目掛けて両刃のジャベリンを投げる。

    「エアリアル!」

     それを見て、彼女は立ち止まって杖を掲げる。
     スレッタの声に合わせて花の形を模していた杖の先端が11つに分かれ、一度散開した後に素早く彼女の前で盾の形を取った。
     ジャベリンはその盾に弾かれ、あらぬ方向に飛ぶと思われた。
     しかし、グエルが投げたのはジャベリンだけでなく、ジャベリンを握っていた小手ごとであり、モビルスーツであるその小手がグエルのパーメット操作に反応する。

    「っ!? くっ!」

     スレッタの斜め後ろに飛ばされたジャベリンは縦回転を止め、再び矛先を彼女に向けて飛ぶ。後方からのパーメット反応を感じた彼女は、エアリアルの11つの「ビットステイヴ」を同じくパーメット操作。
     自身の後方という死角外の攻撃を捌いて見せた。

    「取った!」
    「しまっ──!」

     だが、それはグエルの策だった。
     スレッタがジャベリンに意識を割いていた間に、彼は一気に距離を詰める。
     同時に彼の背中に装着してあったビットステイヴと似た装備、「イーシュヴァラ」を起動。パーメット操作によって、グエルの空の右手に収まったイーシュヴァラはパーメット粒子によってサーベルを顕現。
     スレッタの胸中にある星のエンブレム目掛けて突きを放った。

  • 136二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:56:53

    「──つぅ!」
    「なにっ!?」

     しかし、それは直前でエアリアルの杖の部分によって防がれる。
     脅威なのはエアリアルの武装であって、スレッタ本人の強さは騎士よりも低い。そう判断したグエルの予想は外れ、杖で受けたスレッタは勢いを殺し切らずに半身で攻撃を受け流す。

    「えいっ!」
    「ぐっ!?」

     そして、勢いを止められずに正面衝突しそうなグエルのイーシュヴァラを持つ腕を抱えるように掴み、腰を落とす。
     身長差こそあれ、体格自体は似たような二人であったため、彼は直感で地面を蹴って宙に浮く。それから空いた左手の手刀で再びスレッタのエンブレムを狙ったが──

    「えぇい!」
    「うっ、おおぉっ!」

     ──それを読んだスレッタは掴んだ彼の腕を引っ張り、後ろへと倒れる。突撃の勢い自体は死んでいなかったこともあり、グエルはスレッタに覆いかぶさる形となった。

    「とぉりやぁああっ!」
    「がっ!? うぉおっ!?」

     だが、グエルが彼女を組み伏せることは出来ず、スレッタは地面に背中が当たった瞬間に左足を彼の鎧の腹部に当て、パーメット操作。
     転がる勢いそのままに、宙へとグエルを巴投げしてみせた。

  • 137二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:57:57

    グエスレのはずが、何でガチ戦闘しとるんだこの二人…

    という決闘開始からの攻防で今日のところはこれにて

  • 138二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 00:02:51

    流石スレッタ、フィジカルも強い!

  • 139二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 00:16:22

    >>138

    反応ありがとうございます!


    私、この戦いが終わったらグエスレするんだ…(その前に書き逃げスレ完走しそうですが)

  • 140二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 08:50:14

    ガチ戦闘いいぞ~
    続き楽しみにしてます

  • 141二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 20:50:03

  • 142二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:48:12

    >>136

    「ぐぅうっ!」


     盾付きの鎧を着ているというのに、パーメットの力を用いて投げられたせいか、グエルは5メートル程の高さまで飛ばされる。

     地に足が付いている状態から急に空中へと投げ飛ばされ、上下も反転したことから平衡感覚が狂いそうになる中、それでも彼は落ち着いて流れに身を任せる。

     彼女がこのまま何もしないはずがない。

     そう身構えたグエルの判断は正解であった。


    「エアリアル!」

    「っ!?」


     投げられた勢いが弱まり、放物線を描いて後は落下すると思った矢先にスレッタの声が響く。

     グエル空中で身を翻して視界に彼女を捉えると、小手付きジャベリンの処理をしていたビットステイヴが先端を彼へと向けていることに気付く。

     しかしそれらはスレッタの周囲に漂っているために距離は遠く、今から突撃したところで間に合わない。


    (落下中を狙うとしても照準は甘くなるはず……ならば、着地した直後を狙ってくる気か?)


     浮いていた身体に重力が働き、重みと同時に落下が開始したことを感じながらグエルは考える。

     だが、それにしてはスレッタの動きは悠長すぎた。着地を狩るのであれば、既に狙いを定めてビットを走らせるべきである。

     けれどもビットは、先端を落下している彼を指差すように追うだけであり──


    「っ!? “アンビカー”!」

    「当たって!」


     ──その行動に嫌な予感を感じて、グエルが両肩の盾をパーメット操作するのと同時に、スレッタの声に反応して全てのビットたちが先端から粒子を放出する。

     その緑色に光る粒子は棒状の形を取ってまるで流れ星のようにグエルへと向かっていく。

  • 143二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:48:42

    「ぐっ!? くぉおおっ!?」
    「防がれた!? なら!」

     パーメット粒子による光弾。
     この世界の魔法使いたちが好む、パーメットをそのまま攻撃に変換した魔法。
     熱と光を帯び、貫通力があり、同じくパーメットを用いたもので防がなければ一発でも致命傷となる攻撃である。
     基本的に魔法使いは一つの魔法につき、一つの光弾を放てる。モビルスーツを用いればそれを複数放つことも可能ではあるが、本人が持つパーメットを利用しているため、無意味に乱射すればすぐに底を尽きる。
     だが、スレッタは光弾がグエルとの間に割り込むように入った盾によって防がれるのを見るや、更に次弾を放つ。
     11つのビットステイヴ全てが連続して放つ光弾。
     普通の魔法使いであっても、否、例えベネリット公国お抱えの魔法使いであってもあり得ない光景。これだけの数と量を放てば、本人の持つパーメットが底を尽きるどころか倒れて動けなくなるはず。
     しかし彼女はそれを事も無げにやってのける。
     観客は二人の攻防に熱狂しているため、その異様さに気付かない。シャディクやエランも、事前にエアリアルがガンダムだと知っているため、特別な反応はしなかった。
     だが、そんなスレッタの攻撃に一人反応した者がいた。

    「あれは……ガンダムか?」

     特別観覧席の一番良い席に座る者。ベネリット公国の公王にして、21年前の「ヴァナディースの魔女狩り」を直接指揮し、その事変の解決を以て英雄と呼ばれた存在。
     デリング・レンブランその人である。
     白髪長髪の老け込んだ顔だが凛としており、騎士王の正装と相まって国のトップに相応しい威厳を持っている。

  • 144二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:49:25

    「ガンダム……ガンダムだと!?」

     実際に魔女と戦い、間近でガンダムの性能、そしてその呪いを見たからこそ湧いた彼の疑問に反応したのは、同じく特別観覧席のデリングの左隣に離れて座っていたヴィムであった。
     ヴィムにしてみれば、グエルに与えた第一の秘策である、ジェターク家の最高傑作モビルスーツ、ダリルバルデの全装備と対等以上に渡り合う相手のモビルスーツ。
     それが21年前に消えたはずの古いモビルスーツとなれば、驚愕するのも無理はなかった。

    「あんな時代遅れのモビルスーツに、我が家のモビルスーツが後れを取るはずがない!」

     吠えるヴィムの視線の先では、着地後も光弾に晒され、盾でそれを凌ぐグエルの姿が映る。ガンダムが旧式のモビルスーツという認識であり、実際にスレッタと戦っている訳ではない彼は、グエルが押されているという事実が認められない様子だった。

    「……で? どうされるおつもりで?」

     息子の様子に不甲斐なさを感じ、席を立って拳を上げて振り回すヴィムを余所に、今度はデリングの席から離れた右隣から落ち着いた老輩の声が上がる。
     デリングが視線だけをそちらに向けると、ヴィムと同じく騎士王の正装から一つ下の王の正装をしている車椅子の男性が彼を嗜めるような表情をしていた。
     老輩の名は、サリウス・ゼネリ。
     ベネリット公国御三家の一角であるグラスレー家のトップであり、あのシャディクの義父。デリングと同じく老け込んではいるが、厳格さを感じられる風貌をしており、彼はそのまま落ち着いた声色で話を続ける。

    「もし、あの子が使っているモビルスーツがガンダムであるのならば、問題ですぞ?」
    「ガンダム・ファラクトのように、あのモビルスーツが申請及び使用許可が出ているガンダムの可能性は?」
    「御冗談を。ファラクトでさえ、度重なる研究と、騎士、エラン・C・カトルの犠牲を払ってようやく認可されたガンダム。あのような無法とすら思える動きをするガンダムなど、申請の時点でドミニコスが動く」
    「……では、彼女が“大魔法使い”の可能性は?」

  • 145二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:50:06

     追及を続けるサリウスだったが、デリングの思わぬ一言で押し黙る。
     剣と魔法の世界であるアド・ステラにおいては、占いもまた剣や魔法と同じぐらい重要視されているものである。
     太陽や星の流れを見て吉兆を占い、羊皮紙に描かれた魔法陣や図形、模様や数字に向かって石や宝石を投げて、その人の運勢や関係を占う。
     人によっては信じていない者もいるが、魔法……パーメットと古くから関係を確立してきたものであるためか、大陸のほとんどの人が占いを信じている。
     そして大魔法使いとは、ベネリット公国を救うと言われている伝説の魔法使い及び魔女のことであり、公国お抱えの占い師の占いにより判明した者であった。
     とはいえ、その存在は公国を救う、とだけの占い結果であり、何故公国が危機に瀕するのか、一体何時危機に瀕するのか。そして、その人物は誰なのかなど、それ以上の占いは全て結果が出なかったのだ。
     そのため、国民の混乱を招くとし、公国の危機及び大魔法使いの存在は秘匿とされ、公王及び御三家のトップにしか知られていない。
     故に、その可能性を持ち出されたサリウスとしては、彼女、スレッタがガンダムを使う魔女と認定して断罪し辛くなってしまった。

    「……国を救う大魔法使い様が、呪われたモビルスーツであるガンダムを用いるとは思いませんがね」
    「……」

     少し考えた後に、サリウスは別の切り口からデリングにガンダムと魔女の存在を認定させようとする。
     サリウスが大魔法使いという言葉で押し黙ったように、デリングもまた、自身がかつて狩った呪われたモビルスーツを用いる者が大魔法使いなのか、と問われてしまうと押し黙るしかなかった。

  • 146二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:50:38

     ガンダムは相手のみならず、使用者にも害を為す呪いのモビルスーツ。
     その分、ガンダムは強力な力を発揮し、決闘のみならず国家同士の戦いにも用いられた。その結果が21年前のヴァナディースの魔女狩りであり、ガンダムの禁止令である。
     ファラクトという禁止の合間を縫って、認可されたガンダムもあるとはいえ、基本的には戦争にも決闘にも使用は認められていない。
     そのため、彼らからすればスレッタが持つモビルスーツがガンダムであれば、即座に決闘の中止と彼女への尋問。そして、追放もしくは処罰を与えなければならない。

    「何をしている、グエル! さっさとガンダムを潰せぇ!」

     ヴィムが叫ぶ中、デリングもサリウスも、決闘を中止にする後一歩が踏み出せなかった。

    「エアリアル!」
    「突撃だけならば! 対処出来る!」

     使用するだけで本来人が持つパーメットの許容量を超える粒子が流れ込み、常に動悸や息切れ、発熱に晒されるガンダム。
     それを無視して尚使い続ければ、意識の混濁、意識の喪失、精神衰弱……そして最悪の場合は死に至るというのに、スレッタは何事も無いかのようにエアリアルを使い続ける。
     彼女は本当に魔女なのか。それとも占いにある大魔法使いなのか。
     それが誰にも分らぬまま、決闘は更なる盛り上がりを見せた。

  • 147二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:51:36

    ガチ戦闘の間に挟まるおっさんズ

    グエスレは一体どこに…(白目)

  • 148二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:54:31

    おっさんズが中世のゴテゴテ服、とても似合いそう

  • 149二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 23:15:07

    >>148

    何だかんだで威厳は三者三様にありますからね

    おっさんズの介入によって書き逃げSSの風呂敷がどんどん広がっている気がしてきました

  • 150二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 02:15:14

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 13:39:08

  • 152二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 22:35:55

    ⚔️✡️

  • 153白銀の城のラビュリンス23/07/17(月) 00:06:35

    >>146

    「うぉおおぁっ!」

    「くうっ!? エアリアル!」


     グエルがパーメット操作を行い、弾かれていたジャベリン持ちの小手を再稼働。再び死角からスレッタを狙う。

     彼女はそれをビットステイヴの盾で防ぎ、また弾かれるジャベリンを確認後にビットステイヴを散開、光弾をグエルに放つ。


    「くっ!? 盾で、防げるのならっ!」

    「ならっ! 散開!」

    「それはっ、させない!」

    「きゃあっ!?」


     光弾の発射を見た彼はアンビカーの盾を展開。盾の裏側でそれをやり過ごす。

     距離による威力減衰と、相手の盾の優秀さに舌を巻きつつ、スレッタはビットステイヴを広域に展開。多角的な光弾を放とうとする。

     しかし、それを盾の隙間から確認したグエルは再びパーメット操作。三度ジャベリンを突撃させ、スレッタに不意打ちを与える。

     盾越しであることと、再三のパーメット操作によりその狙いは甘く、彼女の左の上腕に掠る程度に当たる。

     スレッタが怯んだのを見て追いうちはせず、小手をパーメット操作で戻すグエル。それを見た彼女はエアリアルを戻し、対処出来るように自身の周囲に漂わせる。


    (不味いな……当たったとはいえ、防戦一方だ。それにこっちのパーメットがきつい)

    (……エアリアルの攻撃を的確に捌いて、反撃もこなせるなんて)


     お互いに動きが止まり、または相手の出方を伺う拮抗状態。

     その二人の心中は穏やかではなく、しかして二人とも思うことは同じであった。


    (グエルさん……やっぱり強い!)

    (スレッタ・マーキュリー……強いな)


     互いの胸中は知る由もないが、それでも相手を賛辞し、また心を通わせたかのように二人は同時に動く。

  • 154白銀の城のラビュリンス23/07/17(月) 00:06:58

    「エアリアル!」
    「アンビカー!」

     スレッタはビットステイヴに突撃命令。刺突及び弾かれても散開して光弾を狙う作戦。
     対するグエルは盾を正面に展開し、盾ごと自身を弾丸へと変えるかの如く突撃を開始する。

    「っ!? エアリアル!」
    「ぐうぅっ!? だがぁっ!」
    「きゃっ!? う゛ぁあっ!?」

     ビットステイヴを弾き、散開して光弾を撃ってくるのを鎧で受け、苦悶の表情を浮かべながらもグエルは引かなかった。
     そのまま無防備となったスレッタに盾ごと突撃。
     彼女はそれを杖で受けるものの、勢いのあるグエルを止めることは出来ず、そのまま弾き飛ばされる。
     軽く宙を舞い、背中から地面へと落ちるスレッタ。先程左腕を負傷したせいで上手く受け身を取れず、その衝撃によって肺の中の空気が無理やり吐き出される。

    「かっ、はぁっ!?」
    「もらっ、たぁ!」

     頭こそ打たなかったものの、全身を衝撃が走って動きが止まるスレッタに対し、グエルは残り少ないパーメット操作を行ってジャベリンを放つ。
     ビットステイヴに指令を出すのは間に合わず、そして相手の動きも止まった。これを好機と見ずに何を好機というのか。
     特別席のデリングらも、立会人のエランも、そして観客の中の有識者たちも、グエルの勝ちを確信した。
     しかし──

    「なぁっ!?」

     ──ビットステイヴが倒れているスレッタの前で盾を形成し、ジャベリンを三度弾いた。
     いつの間に操作していたのか。だが、当のスレッタにパーメット操作を行う余裕はないはず、とグエルの額に汗が滲む。

  • 155二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 00:07:40

    (何だこれは……まるでっ!)

     まるでビットステイヴに意識があるように感じられ、彼は得体の知れないものを目にしたように一瞬だけ動きが止まる。
     そして、その停止にビットステイヴが更なる反応を見せた。

    「くっ!? うぅっ!」

     スレッタが指示せずとも、ビットステイヴが光弾をグエルに放つ。
     ワンテンポ反応が遅れたものの、彼は即座に盾を自力で持ち上げてそれを防ぐ。
     モビルスーツに事前に動きを仕込むことは出来る。
     オート操作といい、その動きに必要なパーメットを事前に与えておけば、その指示した状況や自動でモビルスーツが稼働する。
     しかし、エアリアルのビットステイヴはその動きが有機的過ぎる上に、まるでスレッタ以外の誰かが操作しているかのようであった。

    「何をやっている! グエル!」

     スレッタが呼吸を整え、立ち上がるまでの間、ビットステイヴの光弾で再び防戦を強いられるグエルを見て、面白くないのはヴィムであった。
     彼もまた騎士であり、多くの決闘や戦場を渡り歩いてきたが故に、グエルが既に三回も好機を逃していることを知っている。
     だからこそ、魔女の見習いだかガンダムだかに押されるグエルの姿が気に入らず、ヴィムは舌打ちをしながら懐から通信用の小型モビルスーツを取り出す。

    「ラウダ、やれ」

     短くも怒気を孕んだ命令。
     そしてその通信モビルスーツの先から爽やかな青年の声が返ってきた。

    「父さん。兄さんはそんな卑怯な手を使わずとも勝てます」
    「いいからやれ!」
    「っ、分かり、ました」

  • 156二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 00:08:05

     ラウダと呼ばれた通信先の青年がグエルの肩を持つも、ヴィムは聞かず、彼は少し声の低くして了承する。
     通信が切れる音がし、ヴィムが鼻を鳴らしながら決闘場を見ると、その効果はすぐに表れた。

    「っ!? これは……っ!」
    「げほっ……えっ? エアリアル!?」

     金属を打ち鳴らした余韻の響く高音が聞こえてきたかと思うと、グエルは自身の鎧や盾が重く感じ、スレッタはビットステイヴの反応を感じ取れなくなる。
     まるでパーメットそのものが作用しなくなった二人の反応を見て、ヴィムはしたり顔で再び大声を出す。

    「グエル! 今だ! やれぇ!」
    「父さん!?」

     その大声は観客の声をすり抜けてグエルの耳に届く。
     重くなった鎧に感覚をやや取られながらも立ち上がった彼はヴィムに同じく大声で反論する。

    「父さん! 何をしたんだ!」
    「事前に仕込んでおいたグラスレーのアンチドートだ。これで相手はただの小娘! お前の敵ではない!」
    「汚い手を使わなければ俺は勝てないって言うのか!?」
    「それが子どもだというのだ! 大事なのは結果だ!」

     ヴィムの言葉にグエルは顔を憤りで歪ませ、左手で左の肘を叩く。
     父親が何かを仕掛けてくるのは分かっていた。その第一が全身ダリルバルデ装備だというのも。
     しかし、それでも相手を封殺しなければ勝てないと思われていることに、彼はショックを隠せなかった。

    「お前だけの戦いだと何故分からん! それに、決闘なんぞ平等ではない! 子どもは親の言うことを聞いていればいいのだ!」

     そして、自らを執拗に子ども扱いし、信用せず、だが利用する……父親を尊敬するグエルも、ここで堪忍袋の緒が完全に切れた。

  • 157二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 00:08:46

    「黙れよぉおっ!」
    「グエルさん!?」

     怒りの余り天を仰いで吠え、その後すぐに周囲を見渡す。

    「そこ、だぁっ!」

     そして、決闘場の四隅で反応しているアンチドートのモビルスーツを視認すると、重い鎧をものともせずにジャベリンを振りかぶり、そして投げる。

    「す、すごい……っ」

     スレッタが思わず声を漏らすのも納得の投擲術は見事にアンチドートのモビルスーツに命中。ガラスが割れるような音が響くと同時に鎧の重さが消えたのをグエルは確認する。

    「馬鹿がっ!」
    「これはっ! 俺の戦いだ! 俺の! 俺だけの!」

     息子を勝たせようとする親の秘策を蹴る行為にヴィムはグエルを罵倒するが、彼はその声に負けないぐらいのプライドで返す。
     その後、ヴィムから視線をスレッタに戻し、頭を下げる。

    「すまない。横やりが入った。決闘を再開しよう」
    「グエルさん……」

     頭を上げたグエルはゆっくりと大きく息を吐き、それから残り少ないパーメットを操作。
     鎧の背中に付属してあるイーシュヴァラを2つ起動し、それらをそれぞれの手に持ち、パーメット粒子を顕現させる。
     事前に打ち合わせをし、共謀している仲だというのに、その高潔さはスレッタを感動すらさせた。
     だからこそ、彼女は決心をする。

    (グエルさんとの旅なら、安心できる。この人なら、信頼できる──だからっ!)

  • 158二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 00:09:01

     そして、グエルが高潔さを見せたように、自身も奥の手を使うためにここにきて初めてスレッタは自身のパーメットを用いて“それ”を発動させる。

    「グエルさん! 私の本気、受け止めて下さい!」
    「っ!? ……これ、は」

     ビットステイヴが杖の先に戻り、花弁が4つの花の形になったかと思うと、スレッタはその杖を横にして跨る。
     一体何の予備動作かと思って身構えるグエルだったが、次のスレッタの行動を見て呆気にとられる。

    「浮いたっ!?」
    「ええぇっ!?」
    「なに、あれ……」

     まるで箒に跨って空を飛ぶかのように宙へと舞い上がるスレッタの姿に、特別席のデリングら三人はおろか、エランや静かに観戦していたシャディク。そして観客からも動揺の声が上がる。
     箒の穂先と化したビットステイヴからはパーメット粒子が漏れ、彼女が浮いて動く度にまるで彗星のような輝きを以て軌跡を描く。
     アド・ステラでは彗星のことを彗星とは呼ばない。
     空で光り輝き、曲線や直線を描いて流れるその星を水の流れに例えた。
     だからこそ、彼女が飛ぶ様子を見た観客の中の誰かが独り言ちる。

    「水星の魔女」

     と。

  • 159二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 00:09:44

    タイトル回収!
    タイトル回収です!



    (後、最初の名前欄は他で遊んでいた名残なのですみません…)

  • 160二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 07:20:41

    ほしゅ

  • 161二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 12:35:23

    戦いが美しい…

  • 162二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 18:10:31

    おぎゃー!? データストームから復帰して冷静になって見直したら、

    言い訳出来ないレベルの誤字脱字ががが…!

    名前欄の消し忘れはともかく、こいつは口からパーメット吐きそう…


    >>156

    左手で左の肘を叩く。 ×

    左手で左の膝を叩く。 ○


    お前だけの戦いだと何故分からん! ×

    お前だけの戦いでないと何故分からん! ○



    >>161

    ありがとうございます…! ありがとうございます…!

  • 163二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 22:57:56

    ほしゅ

  • 164二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:00:23

    >>158

    「グエルさん、行きます!」

    「くっ!」


     グエルの頭上。高さにして地上から5メートル程の位置を飛ぶスレッタが笑い、行動に移る。杖であるエアリアルに跨り、ビットステイヴを変化させた花の花弁状のクアドラ・スラスターから青白いパーメット粒子を噴射させ、グエルへと真っ直ぐに突っ込んでくる。

     その見た目とは裏腹の速さに怯みつつも、彼はスレッタを迎え撃つ。


    「そこっ!」


     高さと速さがあるとはいえ、直線軌道の突撃ならば、とグエルは慣れていないにも関わらず完璧なタイミングで左手のイーシュヴァラで斬りつける。


    「なっ!?」


     だが、スレッタにイーシュヴァラが当たる前に、彼女はグエルから見て右側に急速旋回。イーシュヴァラは空を切ることとなり、また目の前のスレッタが消えたような挙動に彼は目を見開く。


    「えぇい!」

    「がっ!?」


     しかし、驚いたのも束の間。

     グエルは右側から肩に強烈な一撃を貰ってよろける。咄嗟のことで彼は理解が遅れたが、グエル自身を軸に旋回したスレッタの再突撃によるすれ違いざまの蹴りであった。

     グエルが衝撃から立て直し、周囲を見ても彼女の姿はない。

  • 165二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:01:02

    「上か!」

     そして、目ではなくパーメットの反応を受けて、グエルが顔を上げた先をスレッタが高速移動で横切る。
     まるで箒星のように。アド・ステラ風に言うのであれば水の星の流れ、水星のように尾を引いて流れるように動くスレッタに、グエルはその美しさに見惚れると同時に戦慄する。

    「まだまだ!」
    「流石です、グエルさん!」

     不敵に笑ってみせ、再びイーシュヴァラを構えてみせるグエルだったが、その内心は未知に対してどう動くかでいっぱいいっぱいであった。
     騎士、グエル・ジェタークは、アスティカシア騎士団での決闘でこれまで27連勝という驚異の戦績を納め、地域のいざこざではあるが戦場経験者でもあった。
     複数戦。一対多数。平地、岩場、森、湿地帯。様々な戦場や状況を経験している。
     だからこそ、その経験中から今回の戦い方に有効な戦術を見つけ出そうと脳をフル回転させる。

    「それっ!」
    「……そこだっ!」
    「甘いです!」
    「ぐぅっ!?」

     しかし、山賊に高所である砦を抑えられ、そこを攻略するという、対高所戦こそ思い出したが、今回の決闘にはまるで役には立たない経験だった。
     目標が高所を抑えながらも動いて突撃してくるなど、彼の経験や記憶の中にはないことであった。

    (どうするっ!? どうしたらいいっ!)

  • 166二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:01:23

     スレッタの攻撃こそ単純明快。
     空を自由に飛び回り、グエルの正面や側面、時には死角から突撃するという猪戦法。
     しかし、その速度に反して、急旋回、急停止。急な方向転換など、あまりにも動きが無法過ぎた。
     タイミングを合わせてイーシュヴァラで斬ろうにも、盾で受けようにも、彼女はそれを見た上で回避または直前で停止して突撃を止める。
     グエル側から攻撃しようにも距離はおろか高さが合わず、その高さが合ったところを狙ってもスレッタは急上昇で回避してしまう。
     初めて経験する戦い。初めて出会う戦術。

    「てぇえいっ!」
    「がっ!? くそっ!」

     その攻略法を掴もうと、スレッタの動きに翻弄されながらも抵抗するグエル。

    (……イチかバチか、やるしか、ないか!)

     防戦一方どころか、誰の目から見ても一方的な戦い。ダメージも無視できない程に蓄積しているのを感じたグエルは、それでもスレッタに勝つために自身の足元を一瞥する。
     その視線の先で、足に装備された武装「シャックルクロウ」がグエルのパーメット操作に応えるように鈍く軋み音を出すのであった。

  • 167二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:03:28

    戦闘が…戦闘が終わらない…!
    そしてもうこれ水星の魔女のSSと言っていいのかなぁ!?
    グエスレのイチャイチャはドコココ…?

  • 168二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:08:15

    恋が始まる手前のお互いを知るためのダンスを踊っているだけだし……

  • 169二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:17:15

    ドレスという名の戦装束を纏って、舞踏という名の戦いを舞うんですね

  • 170二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 00:24:50

    >>168 >>169

    本編でも一番戦闘回数多い二人ですからねぇ!

    戦いの中でいちゃつくんですねぇ!



    でも流石に次辺りで決着して下さい(懇願)

  • 171二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 11:22:43

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:04:43

    ほしゅ~

  • 173二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:36:13

    >>166

    「アンビカー!」

    「っ!?」


     シャックルクロウへのパーメット反応を受けて、グエルは残り少ないパーメットで盾を自身の背後に立てる。

     彼が考えている作戦で怖いのは、スレッタが死角からの攻撃を優先した場合だからだった。

     これで、彼女の突撃はグエルの正面左右の三方のみとなる。


    (これで頭上から来られたら対処出来ないが、あいつのことだ……やるならとっくの昔にやっている)


     スレッタが彼に攻撃するには、高さの軸を合わせる必要がある。

     そして、彼女はその攻撃を急停止や急浮上、急旋回などを用いてグエルを翻弄した。

     しかし、その四方の軸の内の一つを潰され、スレッタはやや考えるように空中で静止し、彼を注視する。

     それをやられて困るのは他でもないグエルであり、唯一の勝ち筋であるシャックルクロウすらも見抜かれれば、後は敗北を待つだけとなる。


    「どうした! スレッタ・マーキュリー!」

    「……」

    「俺はここだ! お前の狙いはこれだろう!?」


     誰の目から見ても分かる明らかな挑発。

     スレッタの目から見ても、彼が何かを仕掛けるために敢えての「待ち」に入っていることが理解できる。


    (このまま挑発に乗らず、グエルさんよりも先にあの盾を吹き飛ばせば……)


     グエルがシャックルクロウを奥の手としているように、スレッタもまた乗っているエアリアルの杖の先端を奥の手としていた。

     普段はビットステイヴが花を模した形に収まっている場所が上になるように持っているため、誰も気付かないし気にしない部分。

     地面に当てる部分である杖の下先端。そこには丁度パーメットを放出するようの穴が開いており、エアリアルが飛行モードになる際に丁度スレッタの正面に位置する発射口。

     使用時に飛行の精度がやや落ちるものの、彼女が多量のパーメットを流すことでそこからビットステイヴ1つ分から11つ分までの威力の光弾を放つことが出来る。

     スレッタ的には、グエルへの切り札としてこの機能を使わずに戦っていた。

  • 174二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:36:45

    (……ううん。それじゃあ、駄目)

     理由は単純。
     グエルが騎士として、モビルスーツを扱う者として、強いからであった。
     これまでの自分の攻撃は初見のものこそ反応が遅れていたが、一度手の内を見せてしまうと次からは対処されてしまう。
     現に、急降下、急停止、急発進、急旋回、と、様々な飛行を織り交ぜて攻撃していたものの、段々対応されてきている。
     そこに気付いたスレッタだからこそ、敢えてグエルの挑発に乗ることにした。
     そうしなければならない、と彼女は思ったから。そして、そうしなければ彼に失礼だから。

    「グエルさん、私は貴方に勝って、貴方と共に旅をします!」
    「……ふっ」

     決闘場にいるのは自分たちだけではないというのに、堂々としたスレッタの宣言。
     そこから一度距離を取ってから、自身の頭上斜め上から弾丸のように突撃してくる彼女にグエルは笑みをこぼす。
     真っ向勝負。
     ここで急停止や急旋回などはしないとすら思わせるような潔い突進。

    「このグエル・ジェタークが、負けてたまるかよ!」
    「やぁああああぁぁっ!」

     だからこそ、グエルは敢えて挑発的な言葉でスレッタを迎え撃つ姿勢を取る。
     グエルの予想通り、彼女が進路を変える気配はない。すれ違いざまに胸中のエンブレムを蹴り破壊する算段だろう、と彼は予想する。
     二人の距離が近づく。
     グエルは動きを制止。まるで侍と呼ばれるアド・ステラ大陸から離れた異国の戦士が繰り出す居合の構えのようにスレッタを注視し、動かない。
     対するスレッタは真っ直ぐにグエルへと急降下。少しだけ軸をずらしているのは、右足の位置が彼のエンブレムに当たるように調整しているためか。

    (……っ!?)

     しかし、目算の直線距離で3メートルに差し掛かったところで、グエルは違和感に気付く。
     スレッタの意識が自分に向けられているのではなく、何か別のものに向けられていることに。そして、その意識の先にあるものが、自分のエンブレムにあることに。

  • 175二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:37:32

    「えぇい!」
    「っ!? くぅうっ!?」

     その違和感は正しく、グエルはスレッタのパーメット反応と杖の先端にそれが集まっていることを咄嗟に気付く。
     光弾が発射され、グエルは右手に装備しているイーシュヴァラでそれを間一髪で切り払う。

    「弾かれたっ!? くっ!」

     流石のスレッタもまさか光弾を切り払われるとは思っておらず、彼のカウンターを恐れて急停止からの急上昇を試みる。
     グエルの違和感が正しかったように、スレッタの判断も正しかった。
     そのまますれ違いざまに攻撃しようとしていたら、間違いなくグエルは左手のイーシュヴァラでカウンター攻撃をしていただろう。
     奥の手を見せてしまったという焦りこそあったが、それでも彼女は冷静だった。
     次は様々な飛行に加えて、光弾による攻撃やフェイントも織り交ぜられるのだから。
     しかし、その考えはグエルの次の行動が許さなかった。

    「逃がす、かぁ!」
    「えっ!? きゃあぁっ!?」

     スレッタが急上昇したと見るや、グエルはアンビカーに背中を預けてそのまま仰向けに倒れ、彼女に右足の裏を見せる。
     すると、その足甲がグエルのパーメットに反応して鉤爪のように変化したかと思うと、そのまま発射。エアリアルのクアドラ・スラスターを見事捉えた。
     急な下方からの負荷にスレッタは態勢を崩しそうになりながらも下を見て、目を見開いた。

    「うっおおおおぉぉっ!」
    「グエルさん!?」

     自身に足を向け、急上昇してくるグエルの姿に、スレッタは何が起こったのかの理解が遅れた。
     シャックルクロウ。
     武装モビルスーツ、ダリルバルデの武器の一つであり、足甲。パーメットに反応して鉤爪の形を取り、使用者の意識によって射出。ミカエリスの飛翔剣のように操作は出来ず、直線上に飛んでいくのみ。
     しかし、有線ワイヤーの巻取りはシャックルクロウ側にあるので、一度相手を捉えたのならば一気に距離を詰めることが出来る奇襲用の武装である。

  • 176二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:38:15

    「っ!? くぅううっ!」
    「ちっ!? いぃっ!」

     そのシャックルクロウの原理こそ知らぬものの、それがクアドラ・スラスターを捉えていることに気付いたスレッタはその場で時計回りに旋回することでグエルを自身から離そうとした。
     動きでそれに気付いたグエルは右の足甲をパージ。その後、旋回先を読んで再度左の足甲、シャックルクロウを放つ。

    「きゃっ!? こん、のぉっ!」
    「くっ!? だがっ!」

     左のシャックルクロウがまたもクアドラ・スラスターを捉え、グエルは再加速。
     それに気付いたスレッタは逆時計回りで振りほどこうとする。
     だが、一度加速が乗ったことを良いことに、グエルはその左の足甲もパージ。
     互いに空中で向き合う形となった。
     それは一瞬。けれどもお互いの目が合った時、二人はその時間がとても長く感じられた。
     スレッタはともかく、グエルは勢いが無くなれば後は落下するだけだというのに、その刹那を二人はただ、お互いを見つめ合い──

    「スレッタ・マーキュリーッ!」
    「グエルさんっ!」

     ──そして、互いの武装を相手に向ける。
     グエルは右手に装備したイーシュヴァラで。スレッタはエアリアルの杖先端の発射口で。
     互いの胸中にあるエンブレムを狙い、放った。

    「ぐうぅっ!?」
    「きゃっ、ああぁっ!?」

     スレッタの放った光弾は、見事にグエルの胸中にあるエンブレムを撃ち抜き、グエルのパーメットに反応して真っ直ぐに飛んだイーシュヴァラは、見事にスレッタのエンブレムを破壊した。
     空中で行われた刹那的な攻防であったため、観客はおろか、騎士であるエランやシャディク。一番見晴らしの良い特別席にいるデリングですらも、どちらが先にエンブレムを破壊したのかが分からなかった。
     しかし、同時に二人のエンブレムが壊れたことにより、この決闘は終局となったのだった。

  • 177二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:39:23

    イチャイチャ決闘、終わり!
    後は二人でイチャイチャしながら旅路に出てもろて

  • 178二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:45:30

    相打ち!?
    まああの親父が絶対「うちの勝ち!」にするだろうけど!

  • 179二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 22:59:36

    >>178

    親父ぃ…

    どっちを勝たせるか迷いましたが、このままだと単に3話の魔女騎士版になりそうだったので相打ちにしました

  • 180二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 10:14:06

    保守

  • 181二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 20:54:06

    グエスレ激闘楽しい

  • 182二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:55:29

    >>176


    「くっ、うっ……!」

    「うぅっ」


     スレッタのエンブレムが破壊されたのを視認し、且つ胸中のエンブレムが割れた感覚に、グエルは決闘が終わったことを理解する。


    (引き分け、か)


     自身のパーメット酷使、決闘が始まってからここに至るまでの緊張。スレッタの一挙手一投足に神経を削って対応する精神的及び肉体的疲労。

     それらが一気に襲い掛かり、彼は半ば意識を放棄するかのように全身の力を抜く。

     途中で父親の妨害こそあったが、全力を出し、全力で応えた。その結果が勝ちでもなく負けでもないのが、逆にグエルの達成感を満たしていく。


    「ありがとう、スレッタ・マーキュリー」

    「ぅ……グエルさん!?」


     感謝の言葉と共に仰向けに落下していくグエルの言葉を耳にしたスレッタは、慌てて態勢を立て直して彼の後を追う。


    「グエルさん!」

    「う゛っ!? ぐぅうっ!?」

    「だ、大丈夫ですか?」

    「あ、あぁ……肩が外れるかと思った」

    「あっ、その、すみません……」


     そして、右腕で落下中のグエルの右脇を抱えるように持ち上げ、彼の地面激突を防いだ。

     それから二人して地面に降り立ち、互いに向き合って見つめ合う。

     既にどちらのエンブレムも破壊されているが故に、これ以上戦いを続ける必要は無い。しかし、意味深に見つめ合う二人がこれから何をするのかが気になっているのか、観客は固唾を飲んでその動向を見つめていた。

  • 183二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:56:02

    「あ、あの……っ!」
    「引き分け、だな」
    「は、はい! そう、ですね!」
    「何だ。不服か?」
    「いいえ! そのぉ……」

     彼女へと進めたことに溜飲が下がったグエルに反して、スレッタは未だ歯切れ悪く彼に食い下がる。
     いちいち反応をするのも野暮だと感じたグエルは、黙って彼女の言葉を待つことにする。
     すると、彼を見つめては視線を泳がす行為を繰り返したスレッタは、ようやく意を決したようにグエルへと右手を差し出した。

    「引き分けになっちゃいました、けど! 私、やっぱり貴方と旅がしたい、です!」

     唐突で、それでいて真っ直ぐな告白。
     それを聞いているのは目の前の彼だけではないのに、周囲のことは関係ないと言わんばかりの大胆さ。
     人が違えば、ふてぶてしいとすら思うであろうその言葉を前に、グエルは眉が下がり、胸中が満たされていく感覚に陥る。

    (一目惚れしたのは、間違いなかったな)
    「えっ、あ、あの、グエル、さん?」

     自然と口角が上がるのを感じつつ、グエルは黙って彼女の右手を両手で包み込むように掴み、その場でしゃがみ込む。
     一体何をするのかと、動揺するスレッタを余所に、グエルは決闘に負けた日の時のように、初めて彼女に出会った時のように、右膝を立てて左膝を折る騎士の忠誠の姿勢を取る。
     そして、顔を上げて真剣な眼差しで彼女の告白に答える。

    「騎士、グエル・ジェターク。これより、魔女、スレッタ・マーキュリーの騎士となり、忠誠を誓おう」
    「えっ!? ぁ、あ、はいぃ」

     騎士の誓いを立てたグエルに対し、スレッタは予想外過ぎる答えに戸惑いつつも、自身の告白が了承されたことを理解してはにかみの笑顔を見せる。
     その瞬間、それまでの静寂を破り、観客たちは大いに沸くのであった。

  • 184二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:56:46



    ※※

    ※※※


     立会人のエランが引き分けの判決を下し、興奮渦巻く中で決闘は終了した。
     一部の賭け事に負けた者たちや、「こんな決闘など無効だ!」と騒ぐヴィムを余所に、観客たちは思い思いの場所でその日の決闘内容や、騎士グエルについて、または魔女スレッタのことで盛り上がる。
     そんな熱狂の夜だったが、平穏無事に終わるはずもなかった。

    「いたか?」
    「いや、いない。魔女が宿泊していた宿はもぬけの殻だ」
    「ジェタークの家にも潜伏していないそうだったな……急げよ!」
    「あぁ。公王直々の命令だ」
    「何としても魔女を逃がすな!」

     月が人々の真上を横切る頃、今だその日の決闘の話題で盛り上がるのは酒場か民家の中、という時間帯に、馬に乗った兵士たち複数人が慌ただしく街中を駆け巡る。
     目的は見習いとはいえ魔女と認定を受けた、スレッタ・マーキュリー本人。
     決闘後の熱狂もあって一度は泳がせたデリング公王だったが、やはり彼女自身とその手にあるガンダムが危険視され、身柄を確保するように命を下した。
     しかし、事前にスレッタはそれを察知したのか、兵士たちが街中を捜索しても彼女を見つけることは出来ないでいた。

    「おい。聞いたか? 白い三角帽を被った者が北門を抜けたって情報」
    「本当か!? よし、他の者にも通達してその者の後を追え」
    「一番遠い南門はどうしますか?」
    「そこはラウダ殿が捜索に当たっている。西門と東門のみでいいだろう」
    「了解!」

     街中を馬で慌ただしく駆け、一同は情報を元に進路を北へと向ける。
     通信用のモビルスーツで捜索に当たっている全ての兵士たちに、その情報を発信しながら。

  • 185二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:57:59

    ※※※


    「……うん。もう大丈夫だよ、兄さん」
    「すまないな、ラウダ。助かった」

     南門を抜けて少し走った先にある草原。
     草原を抜けた先には関所も兼ねている町があり、そこが一望できる場所で弟のラウダ・ニールの言葉を聞いたグエルは馬から降りる。
     後ろの髪を肩付近まで伸ばしたショートカットに知的で端正な顔立ち。グエルの弟ではあるが、年齢の差はなく、また彼と似ているのはその目つきぐらいであった。
     異母兄弟である二人だが、その仲はとても良く、アスティカシア騎士団の中でも有名である。そんな現状で唯一頼れる弟の力を借りて、グエルとスレッタは追手がくる前に街から脱することが出来たのだった。

    「スレッタ。降りられるか?」
    「だ、大丈夫、です」

     そんなグエルの後ろに相乗りしていたスレッタが、同じように馬から降りて黒い外套を脱ぐ。
     やや手間取る姿にラウダは彼女に「あまり兄さんの手を焼かせるな」と棘のある言い方をしながらも、自身の後ろへと顔を向ける。

    「ペトラ。悪いけど、空いた馬を」
    「はい」

     グエルとスレッタが馬に相乗りしていたように、ラウダは恋人であるペトラ・イッタと相乗りしていた。聡明そうで整った顔立ちの彼女は、ラウダに言われて馬を降りる。
     グエルから手綱を受け取った彼女は、月明かりに反射する赤みがかった茶色の髪を靡かせながらそのままその馬にまたがる。

    「ラウダ。何から何まで頼りっぱなしで済まない」
    「何言ってるんだよ、兄さん。僕は頼ってくれて嬉しかったよ」
    「ありがとう、ラウダ」

  • 186二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:58:30

     降ろした荷物の中からランタンを取り出し、灯りを点けた後でお礼を言うグエルに、ラウダは嬉しそうに破顔する。
     が、すぐにグエルの横で微笑んでいるスレッタを見て、顔を引き締めた。

    「水星の魔女。分かっているとは思うが、兄さんに何かあったらタダじゃおかないからな」
    「えっ、あのっ、私は護衛される側……あっ、いえ、何でもないです。分かっています」

     急に威圧してくるラウダに気圧され、委縮するスレッタに「そこまでにしてやってくれ」とグエルが困り顔で割って入る。
     物々しい雰囲気になりかけたが、グエルが割って入ったことと、ラウダが持つ通信用のモビルスーツから受信が入ったことにより、話が一時中断される。
     ラウダが受信に耳を傾け、それから眉根を寄せつつも改めて二人へと視線を向けた。

    「兄さん。悪いけれども、そろそろ戻らないと行けなさそうだ。北門で囮役のフェルシーが困っている」
    「そうか。フェルシーにもよろしく伝えてくれ」
    「分かったよ。それじゃあ、兄さん」
    「あぁ。しばらくの間、ジェターク家を頼む。俺が戻るまで、達者で」
    「兄さんもね」

     別れの挨拶を手短に済ませ、ラウダとペトラは馬を返し、足早に去っていく。
     残された二人はしばらくの間、二人の後姿を見送っていたが、どちらともなく振り返ってこれから向かう町を見る。

  • 187二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:59:12

    「さて。まずはどこに行くんだったか?」
    「はい。まずはこの町を抜けて南に行き、オックス・アース地域まで行きます」
    「オックス・アースか、遠いな。それに、名前しか聞いたことがない」
    「そうですね。でも、そこにお母さ……魔女・プロスペラが言っていたガンダム。ガンダム・ルブリス・ウルと、ガンダム・ルブリス・ソーンがありますので!」
    「その二つを回収する、と」
    「はい! 長い旅になるかもですが、よろしくお願いします!」
    「こちらこそ、だ。改めてよろしく頼む」

     荷物を背負い、共に町へと歩き出す二人。
     追手を差し向けられているというのに、二人の会話に緊張感はなく、終始穏やかに進んでいく。
     草原を抜けて町まで後少しというところで、グエルは一度立ち止まって振り返る。
     そして、止まった自分に合わせて同じように隣で立ち止まってくれたスレッタに微笑み──

    「それじゃあ、行こうかスレッタ」
    「はい。グエルさん!」

     ──魔女と騎士の二人は、笑顔のまま旅路を開始するのであった。
     これは、世界を守る魔女と、その魔女を守る騎士となる──二人の物語。
     その始まりの一歩である。

  • 188二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 00:00:31

    書き逃げのつもりが、気が付けばこんなところまで…
    感想を書いてくれた方や保守ってくれた方、そしてこんな拙い書き逃げSSを見てくれた方
    ありがとうございました!
    スレも終わりますし、今度こそ終わり! 書き逃げ!

  • 189二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 00:55:58

    お疲れ様でした!

  • 190二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 07:00:35

    >>189

    ありがとうございます!

  • 191二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 07:44:40

    お疲れ様でした!
    凄く読み応えがありました…

  • 192二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 18:29:50

    乙乙

  • 193二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 19:30:51

    >>191 >>192

    ありがとうございます! ありがとうございます!

  • 194二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 21:19:15

    お疲れ様でした
    戦闘シーンとてもかっこよかったです
    素敵なお話ありがとうございました‼️

  • 195二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 21:41:29

    大変読み応えのあるストーリーでした
    グエスレに限らず戦闘描写が全体的に濃くて大満足です

  • 196二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 06:46:26

    >>194 >>195

    ありがとうございます!

    戦闘描写褒めて頂き、感謝しかありません!

  • 197二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 16:36:17

    目一杯の乙をスレ主に!

オススメ

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