柱間豪傑物語【囲炉裏、鍋、そして友】

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:01:51

    扉の隙間から寒風が吹き込んできて、
    ぶる、と背筋を震わせた。
    いくら鍛えられた忍といえども、
    やはり寒いものは寒い。
    やせ我慢と忍耐はまた別のものだ、なんて
    自分に言い訳をしながら、囲炉裏の上に手をかざす。

    「ふぅ、これで全部じゃねェか?」

    うちはの家紋が入った暖簾が揺れて、
    赤い顔をした友が、ミカンの箱を抱えて入ってきた。肌が白いせいで、耳元の朱も目立っている。
    早く温めねば、風邪を引いてしまいそうだ。

    「お疲れ様ぞマダラ!
    さぁ座れ座れ、鍋もいい感じだぞ」

    片手でピシャリと戸を締めて、
    そのまま友の手首を掴む。
    すぐ無茶するこいつを休ませるには、
    多少の強引さも必要だ。

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:02:49

    「いや柱間、これ蔵に持ってかねェと」

    「そんなもん後ぞ!まずは休憩!」

    「柱間ァ!それお前が腹減っただけだろ!
    火の番してたら食いたくなったんだろ!違うか!」

    「ハハハ、バレたか!まぁまぁ、
    良いではないか、飯にしようぞ!
    食べ終わったらオレも整理を手伝うからの!」

    何だかんだ言ってオレに甘い友は、
    若干嫌そうな顔をしながらも
    囲炉裏の前に座ってくれた。
    やはりマダラは優しい男だ。

    「…お前がミカンを里中に
    配布しようとか言い出した時は、
    とうとうイかれたかと思ったもんだ」

    マダラは時々こういう笑い方をする。
    煽るような、自虐するような。
    こいつが笑顔で表現するものは、
    純粋な喜びだけではない。

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:04:27

    「なッ?!さてはお前、食い物の絆を舐めとるだろ!あのな、そもそも腹が減っては
    戦はできぬと言うようにな、
    忍と食は切っても切れない関係で…」

    「分かった分かった、うるせェな」

    呆れたようなため息を吐いて、友は鍋の蓋を開けた。
    マダラの仏頂面は、案外すぐに崩れるのだ。
    だがその表情は、オレしか知らない。
    それがこんなにも寂しい。悲しい。
    辛くて辛くてたまらない。

    「……お前きのこ入れすぎだろ…」

    「さて、何の事やら」

    具材を漆塗りのお玉でたっぷりすくい、
    取り皿によそってやりながらオレはとぼけた。
    さて、反応はどうだろうか。

    「いや確かに、後は好きな具材
    放り込んでいいって言ったけどよ…」

    「そうだろう?だからオレは、
    俺の好きな物を入れたまでぞ」

    「チッ…勝手な野郎だ」

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:07:47

    そう悪態をつきつつも、
    マダラの手にはもう箸が握られている。
    体は随分と素直なようだ。
    あぁ、これだからマダラを甘やかすのは
    止められない。扉間が知ったら何と言うか。
    考えただけでも恐ろしい。

    「よし、「いただきます」!」

    パチン。二人揃って手を合わせ、
    目の前のご馳走にがっついた。

    「あッつつつ…ま、マダラ、水!」

    「何やってんだ馬鹿!
    冷ましてからじゃねェと熱いに決まってんだろ!」

    大声で怒鳴って、井戸にすっ飛んでいく
    マダラの背中を、オレは涙目になりながら
    視線だけで追いかけた。

    「おらよ!ったく、次からは気をつけやがれ」

    「うぅ…ありがとうマダラ…舌が痛い…」

    「テメェがそそっかしいからだろ!
    これに懲りたら落ち着いて行動するこったな」

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:08:52

    オレを勝ち誇ったように見下ろしながら、
    マダラは竹筒の水を喉に流し込んでいる。
    さっき井戸に行った時に、
    ちゃっかり自分の分も汲んできたらしい。
    こいつの要領の良さには、
    ほとほと感心するばかりだ。

    「しかし良いのかマダラ。貴重なうちはの蔵を、
    ミカン置きなんかに使ってしまって」

    「へぇ…じゃあ何だよ、
    断ってほしかったのか?え?」

    鶏のつくねを箸でつまみながら、
    友は心底楽しそうに口角を上げた。
    今日の意地の張り合いは、
    どうもオレの方が劣勢のようだ。
    珍しく上機嫌なマダラの涙袋を見つつ、
    あっさりめに味付けしたつゆを啜る。
    うん、美味い。ほっと一息つける味だ。

    「いや、感謝してる、って伝えたくての」

    「…お前よくこういう事言えるよな…
    オレにはとても無理だ」

    「そうか?ふふ」

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:09:46

    カツカツカツ。オレ達が鍋をかき込む音が、
    やけに大きく響き渡った。
    しんと静まり返ったうちは集落の真ん中で、
    千手の長たるこのオレが飯を食っているという事実。
    いい世の中になったもんだと、
    つくづくそう思わずにはいられない。

    「なァ、まだ足りねェだろ?皿貸せ」

    …今日は凄い日だ。
    マダラがおかわりをよそってくれると言い出した。
    オレ明日死ぬんじゃないだろうか。

    「うむ、じゃあお願いしようかの」

    しかし言わない。心の声を漏らしたら、
    マダラは確実にそっぽを向いてしまうから。
    こいつは繊細なのだ。
    オレはマダラの、良き理解者でありたい。

    「しかしきのこは美味いな、いくらでも食える」

    「あのな柱間、言いたかないがほどほどにしとけ。
    今日はミトとの記念日だろうが。
    夕飯が入らねェと雷落とされるぞ」

    「……アッハハハハ!
    何とかなる何とかなる!心配ご無用ぞ!」

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:10:33

    白い目で見てくるマダラから顔を背け、
    オレは残りのきのこを口に詰め込んだ。
    友と食う鍋は美味い。
    きっと鍋でなくても美味いのだろう。
    オレの夢にはどうしても、
    マダラの存在が必要なのだ。
    こいつがいてくれないと困るのだ。

    「ん、「ごちそうさま」!」

    オレはすっかり膨れた腹を抱え、
    空になった鍋を持って立ち上がった。

    「いやぁ、美味かったの!
    さすがマダラぞ!つゆも絶品だった!」

    「…そりゃどうも。お褒めに預かり光栄だ」

    孤独なお前に、惜しみない愛を。
    お前だけの、親友として。

    「柱間、とりあえずオレは蔵に行く。
    洗い物は台所に置いててくれりゃいい。
    頼むから余計な事すんなよ」

    「了解ぞ!任せろ!」

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:11:40

    マダラは来た時と同じように、
    うちはの暖簾を揺らして出ていった。
    ずっとお前と、オレ達の夢であるこの里で、
    こうやって心穏やかに過ごしていきたい。
    それが、最近のオレの願いだ。

    「マーダラッ!まずは何からすればいい?」

    玄関で草履を履きながら、
    両手を振ってマダラに呼びかける。

    「柱間、早く来やがれ。最初は区域ごとに分類だ。
    それが済んだら次は住居別。
    さっさとやらねェと夜になっちまう」

    「おう!手早く終わらせようぞ!」

    色々あったが、オレ達はこの瞬間、
    間違いなく昔の仲に戻っていた。
    うちはも千手も関係ない、ただのマダラと柱間に。

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