- 1二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:01:51
- 2二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:02:49
「いや柱間、これ蔵に持ってかねェと」
「そんなもん後ぞ!まずは休憩!」
「柱間ァ!それお前が腹減っただけだろ!
火の番してたら食いたくなったんだろ!違うか!」
「ハハハ、バレたか!まぁまぁ、
良いではないか、飯にしようぞ!
食べ終わったらオレも整理を手伝うからの!」
何だかんだ言ってオレに甘い友は、
若干嫌そうな顔をしながらも
囲炉裏の前に座ってくれた。
やはりマダラは優しい男だ。
「…お前がミカンを里中に
配布しようとか言い出した時は、
とうとうイかれたかと思ったもんだ」
マダラは時々こういう笑い方をする。
煽るような、自虐するような。
こいつが笑顔で表現するものは、
純粋な喜びだけではない。 - 3二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:04:27
「なッ?!さてはお前、食い物の絆を舐めとるだろ!あのな、そもそも腹が減っては
戦はできぬと言うようにな、
忍と食は切っても切れない関係で…」
「分かった分かった、うるせェな」
呆れたようなため息を吐いて、友は鍋の蓋を開けた。
マダラの仏頂面は、案外すぐに崩れるのだ。
だがその表情は、オレしか知らない。
それがこんなにも寂しい。悲しい。
辛くて辛くてたまらない。
「……お前きのこ入れすぎだろ…」
「さて、何の事やら」
具材を漆塗りのお玉でたっぷりすくい、
取り皿によそってやりながらオレはとぼけた。
さて、反応はどうだろうか。
「いや確かに、後は好きな具材
放り込んでいいって言ったけどよ…」
「そうだろう?だからオレは、
俺の好きな物を入れたまでぞ」
「チッ…勝手な野郎だ」 - 4二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:07:47
そう悪態をつきつつも、
マダラの手にはもう箸が握られている。
体は随分と素直なようだ。
あぁ、これだからマダラを甘やかすのは
止められない。扉間が知ったら何と言うか。
考えただけでも恐ろしい。
「よし、「いただきます」!」
パチン。二人揃って手を合わせ、
目の前のご馳走にがっついた。
「あッつつつ…ま、マダラ、水!」
「何やってんだ馬鹿!
冷ましてからじゃねェと熱いに決まってんだろ!」
大声で怒鳴って、井戸にすっ飛んでいく
マダラの背中を、オレは涙目になりながら
視線だけで追いかけた。
「おらよ!ったく、次からは気をつけやがれ」
「うぅ…ありがとうマダラ…舌が痛い…」
「テメェがそそっかしいからだろ!
これに懲りたら落ち着いて行動するこったな」 - 5二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:08:52
オレを勝ち誇ったように見下ろしながら、
マダラは竹筒の水を喉に流し込んでいる。
さっき井戸に行った時に、
ちゃっかり自分の分も汲んできたらしい。
こいつの要領の良さには、
ほとほと感心するばかりだ。
「しかし良いのかマダラ。貴重なうちはの蔵を、
ミカン置きなんかに使ってしまって」
「へぇ…じゃあ何だよ、
断ってほしかったのか?え?」
鶏のつくねを箸でつまみながら、
友は心底楽しそうに口角を上げた。
今日の意地の張り合いは、
どうもオレの方が劣勢のようだ。
珍しく上機嫌なマダラの涙袋を見つつ、
あっさりめに味付けしたつゆを啜る。
うん、美味い。ほっと一息つける味だ。
「いや、感謝してる、って伝えたくての」
「…お前よくこういう事言えるよな…
オレにはとても無理だ」
「そうか?ふふ」 - 6二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:09:46
カツカツカツ。オレ達が鍋をかき込む音が、
やけに大きく響き渡った。
しんと静まり返ったうちは集落の真ん中で、
千手の長たるこのオレが飯を食っているという事実。
いい世の中になったもんだと、
つくづくそう思わずにはいられない。
「なァ、まだ足りねェだろ?皿貸せ」
…今日は凄い日だ。
マダラがおかわりをよそってくれると言い出した。
オレ明日死ぬんじゃないだろうか。
「うむ、じゃあお願いしようかの」
しかし言わない。心の声を漏らしたら、
マダラは確実にそっぽを向いてしまうから。
こいつは繊細なのだ。
オレはマダラの、良き理解者でありたい。
「しかしきのこは美味いな、いくらでも食える」
「あのな柱間、言いたかないがほどほどにしとけ。
今日はミトとの記念日だろうが。
夕飯が入らねェと雷落とされるぞ」
「……アッハハハハ!
何とかなる何とかなる!心配ご無用ぞ!」 - 7二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:10:33
白い目で見てくるマダラから顔を背け、
オレは残りのきのこを口に詰め込んだ。
友と食う鍋は美味い。
きっと鍋でなくても美味いのだろう。
オレの夢にはどうしても、
マダラの存在が必要なのだ。
こいつがいてくれないと困るのだ。
「ん、「ごちそうさま」!」
オレはすっかり膨れた腹を抱え、
空になった鍋を持って立ち上がった。
「いやぁ、美味かったの!
さすがマダラぞ!つゆも絶品だった!」
「…そりゃどうも。お褒めに預かり光栄だ」
孤独なお前に、惜しみない愛を。
お前だけの、親友として。
「柱間、とりあえずオレは蔵に行く。
洗い物は台所に置いててくれりゃいい。
頼むから余計な事すんなよ」
「了解ぞ!任せろ!」 - 8二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 19:11:40
マダラは来た時と同じように、
うちはの暖簾を揺らして出ていった。
ずっとお前と、オレ達の夢であるこの里で、
こうやって心穏やかに過ごしていきたい。
それが、最近のオレの願いだ。
「マーダラッ!まずは何からすればいい?」
玄関で草履を履きながら、
両手を振ってマダラに呼びかける。
「柱間、早く来やがれ。最初は区域ごとに分類だ。
それが済んだら次は住居別。
さっさとやらねェと夜になっちまう」
「おう!手早く終わらせようぞ!」
色々あったが、オレ達はこの瞬間、
間違いなく昔の仲に戻っていた。
うちはも千手も関係ない、ただのマダラと柱間に。