- 1二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:50:37
「「あ」」
腕に止まったヤツに声が揃う。
この数十秒、レース以上の必死さで追っていた標的を逃さんと、隣の獣が視線を送って来る。
(待って。それ腕死ぬ。)
(加減する。こいつは私がやらんと気が済まん。)
命乞い代わりのアイコンタクトも虚しく、狙いは自分の腕へと定められた。
これから来たる一撃へ備えると共に、迷信ではあるが逃さないように力を込めてみる。
そして───
「いっっっっっ!!!」
「チッ。潰したところで痒みが治るわけでは無いのが嫌なところだな。」
ブライアンが痒み止めを塗る横で、こっちは湿布を探している。
「いつつつ...はぁ〜。」
「......悪かった。加減はしたが、逃さないスピードでやるとなると仕方なかったんだ。ほら、貸してみろ。貼ってやる。」
「うーん、ありがとうって素直に言いづらい......。」
「ほら、できたぞ。...あ、クソッ。背中まで刺してやがった。おい。」
「ハイハイ。...って!いやいや!ダメじゃん!」
「位置は指示する。手は届くが薬を塗るとなると勝手が違う。頼む。」
「こんなとこ誰かに見られたら通報もんだよ.....。」
「ならさっさと済ますんだ。私もいつまでも痒いのは御免だ。」
「目瞑りたいけどそれだと余計に変なとこ触るかもしれないし...仕方ないか。」
「あ、そこだ。その辺、塗ってくれ。───ひゃっ!?」
「......これでOK?」
「......ああ、助かった。」
「やっぱ今度からは自分でやってよ。こっちの心がもたないよ。」
「......」
不服そうな目で抗議するブライアンであった。
という感じで夏の鬱陶しさに抵抗するトレウマって在庫ありますか? - 2二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:51:19
そこに
あるじゃろ - 3二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:51:47
ここにあったよ…
素晴らしい - 4二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:52:03
なんだろう
すごくすごいスケベです! - 5二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:52:50
爛れた夏ではないけどそこはかとなくエロスを感じる
- 6二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:55:30
『ココ』は痒み止めいらない(よな)(よね)(ですね)ステークス開幕する?
- 7二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 19:58:27
カワカミ「トレーナーさんの腕に蚊が!?」ドゴォ!
- 8123/07/04(火) 21:44:41
在庫補充遅いな......
- 9二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 22:05:52
7月のトレセンは、暑い。
「あ゛ーつ゛ーい゛ーよ゛ー」
「それ一個で我慢してくれ…」
担当に対するケアが甘かった。明日までにあと二個ぐらいハンディファンを買ってこようと決め、隣の少女を見る。
午後5時と言っても太陽の猛攻はとどまることを知らない。休憩中で日陰の中にいてもその熱はこちらを蝕み続ける。体の芯まで煮えたぎる感じがして、手に持ったオアシスを無意識に口に含める。
「…?トレーナー?」
「どうしたターボ」
「それターボの、だよ?」
瞬間、別の熱が体を覆う。やってしまった、全部太陽のせいだ!
などと冬のスキー場CMみたいなことが頭の中を回り始めたとき、担当が件のペットボトルを奪う。もう中身のないそれをジッと見ては、フタを開ける。
そしてそれに口づけをした。
「な、なな、なにしてんの?!」
「これで、おあいこだから!」
何に関して?正直理解したくなかった。理解したら最後、尊みで膝から崩れ落ちそうだったから。
結局自分にできることは、しゃがみこんで、行き場のないモヤモヤをため息で外に出すことだった。
7月のトレセンは、熱い。
- 10二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 22:16:21
ぐああターボピュアすぎ可愛すぎりゅ
- 11二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 23:28:04
このレスは削除されています
- 12二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 23:29:59
「mosquito・・・蚊が───」
クリスエスの、珍しく不快感が混じった言葉が発端で、殲滅作戦は開始された。
ロブロイへ知恵を借りに行き、殺虫剤と虫除けを教えてもらった・・・のだが。
「蚊取り線香・・・spiral?何故だ。」
「あれ、言われてみればなんでだろう。」
「えーっと・・・最初は普通のお線香と一緒で細長い形状だったそうです。でも、それだと火がついている時間が短くなってしまうのと、折れてしまいやすかったので、その2点を改良するために研究された結果、今の渦巻き状になったようですね。」
「へぇ〜知らなかったなぁ。」
「───流石だ、ロブロイ。そして、日本人の───researchも・・・大したものだ。この暑さに負けない・・・熱意を感じる。」
「まぁ、それだけ先人たちもクリスエスと同じようにイヤだったんだろうね。虫除けなんてわざわざ蚊を集めてそこに腕突っ込んだりして研究してるし、大変だよね。」
「それは・・・凄い、な。」
日本の蚊対策の豊富さと研究熱心さに感心してるクリスエスと共に、図書室を後にした。
「痒くなくても、耳障りなのがやなとこだよね〜。特にウマ娘はストレス凄そう。」
「確かに・・・何よりもstressなのは───寝つけないことだ。その点で言えば・・・この、蒸し暑さも・・・苦手だ。」
「あっちだと、暑くてもここまで蒸しては無いもんなぁ。身体弱くても、暑かったらエアコンつけていいからね?」
「了解した。・・・・・・。」
「・・・ふふ、心配性だね。良い所だけどさ。ほら。」
「oh.───so cool.・・・それは?」
「ふっふっふ。これこそジャパニーズ・ウチワですよ。そーらその熱溜まりそうなふわふわお耳も涼め〜!」
「Ah───good.」
「・・・いつも涼しげな顔してるクリスエスが暑がってると、ちょっと心配になっちゃうけどさ。元気出ない時は、しっかりしてなくてもいいんだよ?」
「トレーナー・・・恩に着る。しかし、no problem.任務は───必ず遂行してみせる。」
「そっか。ま、程々にね。」
その夜、クリスエスとラモーヌの部屋には仰々しい程の虫除けが用意され、見回りに来たヒシアマゾンはその見た目と匂いに驚いたそうだ。 - 13二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 10:40:14
「ホントにこんな所で休むのか?ネイチャ」
「大丈夫ですよ、アタシ、どちらかって言ったら寒がりなんで」
真夏のトレーナー室。エアコンは稼働させてるもののトレセン学園側からの指示で28度までしか冷房は下げることができない。外に出れば35度、こっちは28度。極端なことを言ってしまえば、中も外も変わらない。寮に戻るとか食堂に行けばここより涼しいかもしれないが、そこにトレーナーさんはいないしね。
「言われてみれば…涼しそうだなー」
「でしょう?触ってみます?カラダ」
なんて。少し大胆なお誘いかな〜なんて思ってたら、フラフラっとトレーナーさんがこっちに来た。
待って。
手を、握られた。
待って待って。
「ちょ、トレーナー?!」
「あー、気持ちー」
自分がセクハラまがいのことをしてるのに気づいていない!手つきが汗と相待って、なんかこっちもその気になってしまう!抑えろ、抑えろナイスネイチャ!
アタシの手が、持ち上げられ、トレーナーの首を掴む形になる。
彼の脈が、直接伝わる。
このまま、ウマ娘の力で彼の首を絞めてしまったら、どうなるんだろう。自分の力で頬をさすってあげたら、どうなるんだろう。そのまま口付けをしてしまえば…こっちの脈、伝わってないよね?
パッと、手が離される。
「スッキリした!ありがと、ネイチャ!」
「…ドーイタシマシテ」
テキパキと、何もなかったようにトレーナーさんは持ち場に戻る。
あーなんか、暑いなー、なんて。
- 14二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 10:48:23
うおおおおえっちえっちネイチャえっち!
- 15二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 20:56:43
前もって説明しよう。鼻血が出やすい体質持ちは、冬は冬で、夏は夏で地獄なのだ。というわけで。
「ギャーーーッ!また鼻血ーーーッ!」
「どうどうおマチ!」
特に鼻に傷がつくことはなかったのに、気温上昇による傷口が開きやすくなる現象がマチカネタンホイザを襲った。当人とそのトレーナーはすぐさま保健室に行き、必要な物を用いて必要な処置をする。7月に入ってから毎日のように起きるこのイベントに、タンホイザさんは辟易していた。
「夏、とても嫌いになりました。なってます。プンプンだ〜」
「まぁまぁ…」
タンホイザさんの首元を冷やすため、トレーナーは袋に入れた氷をタンホイザに寄り添って持っている。シュン…と、背中が小さく見えるタンホイザさんに、トレーナーは言う。
「いいことあるさ、夏だって。海に花火、あと…スイカ?」
「元気づけてくれるのはありがたいんですけど…一層何もできない今が悔しいっ!」
心の底から出た本音。こんな私は見限られるんじゃないか、弱った心の持ち主はそう思ってしまう。
「じゃあ…この時間を、最高なものにしようか」
「…?どうやってですか?」
「落ち着くまで、タンホイザを褒め続ける!」
そこから約十分、保健室にはマチカネタンホイザを讃える言の葉が次から次へと湧き出た。
具体例を挙げるなら、「誰よりも可愛い!」「普通じゃ考えられない才能群!」「タンホイザ、サイコー!」とか。
顔が限界まで赤くなったタンホイザさんは「もういい…もういいで…プシュー」と言い残すと、座っていたベットに倒れ込んだ。
それを隣のベッドで聞いていた私、アグネスデジタルは、本日2度目の気絶をしたのだった。
- 16二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 01:31:12
マチタントレダボォルキィル...誉め殺しは精神未発達のJKには刺激が強すぎますわね
- 17二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 11:00:36
夜になっても、ジメッとした暑さは残っている。それは海が近い合宿所でも同じだ。自室でうちわを扇ぎながら、次の週のトレーニングの計画を立てていたときである。充電していた電話が音楽を奏で始めた。こんな時間にどこの誰だ、と画面を見ると、担当の名前があったため即座の苛立ちを反省する。
「どうした、イクノ」
「トレーナーさん。今から大体一時間、余裕があるでしょうか」
「あるけど…なにか用か?」
答えに少しギョッとした。自分でも失礼だとは思うが。
「近くで夏祭りがあるようなので、それにご同行していただきたいのです」
「…友達と一緒じゃなくて?」
「はい。トレーナーさんと」
近くの神社で行われているというその夏祭りに、合宿所の入り口で集合したあと突撃することとなった。
「射的がありますね。なにか欲しい物ありますか」
「その今まさにおじさんを狙うのはやめたほうがいいんじゃないかなァ!」
「いきます!」
「それマグロの型抜きだよね。何でタコになってるの?」
「…チョチョイのチョイ」
「ワンターンファイブ水ヨーヨー…」
- 18二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 11:02:33
どんちゃん騒ぎから少し離れ、座れる場所でイクノディクタスは綿あめを頬張る。しかし実際面をくらい続けた。
「浴衣、着てきたんだな」
「こういうのはまず見た目から入るタイプなので。似合ってますか?」
正直に言うのは少し恥ずかしかったので言葉を濁らす。
「もう一時間か。帰ろう」
「はい。……あ」
プチッと、何かが切れた音がした。急いで振り返ると、かがんで足に手をやるイクノの姿。
「今の音、まさか」
「下駄の緖が切れてしまったみたいです」
帰りはおんぶする形になった。素足で何百mも歩かせる訳にはいかないし。
「すみません、最後にこんなこと」
「構わないよ、いつも頼りにしてるし、こっちにも頼ってもらわないと」
大事には至らなかったものの、確かに最後にこれは締まらないなと思う。そんなことを考えていたら、ふと気づいた。
「今日、息抜きになったか?」
「…はい。なんだかいつもよりハッスルしてしまいました」
彼女の頭がこちらによりかかり、声が聞こえた。
「今日のことは忘れません。あなたと共に、過ごせたことを」
参ったなぁ、と頭を掻こうにも両手は塞がっている。誤魔化しようもなく、照れが彼女に伝わったのだった。 - 19二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 11:28:45
鉄の女イクノさんが攻めに回ったら勝てるわけありませんわ!ドキドキですわ!
- 20二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 23:10:58
在庫待ち保守
- 21二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 10:41:56
「トレーナーくーん。あーつーいーよー」
「この部屋はこれ以上どうにもならないし、恨むんだったら実験で爆発を起こしてマンハッタンカフェから出禁を食らった自分を恨みなさい」
「君の大切な担当が可愛そうだとは思わないのかい!?」
「同情はカフェに向けてしかない」
「鬼畜がァ〜。……まぁこんなこと言っていても仕方ない。トレーナー君。なにか涼しくなるものを出し給え」
「さっきまでのやり取りを忘れた?」
「今私は君を試しているのだよ。エアコンの温度制限をかけられたトレーナー室の中で、まさか君ともあろう者がこれ以上の涼みを得られないわけがないだろう?」
「……分かった」
「ほほう、氷水の入ったタライ……まさにこれだよ私の求めていたものは!」
「飲まないでね」
「使用用途ぐらい分かるさ。夏に体内の温度を下げる為開く動静脈吻合は、手のひらや足裏にある為に、その箇所の冷却が涼みに効果的だというのは科学的にも証明されているからねぇ」
「そこまで分かってたんだったら自分でやればよかったのに」
「おいおいおい君は可愛い担当がわざわざタライを持ってきたり氷水を用意する姿を見て、心が痛むとか、そういうのがないのかい?私が言うのも何だが、人の心が───おや、その手にあるのは……フフン、体内を最も効率的に冷やすあれを用意してるなんて。君も気が」
「このアイスは、どっちも俺のものだ」
「え。えぇ〜〜〜っ!ちょっと!メロン味とチョコ味の食い合わせはないんじゃないのかい!どっちかを渡し給えそんないいじゃないか私と君の仲だろう意外と力が強いな日々の実験の成果がここで仇に……あぁ~ケチ〜〜~」
- 22二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 11:01:06
書いてます保守
- 23二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 21:50:49
- 24二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:14:21
ウワーッ!?ありがとうございます!
- 25二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:28:51
瞼を開けても閉じても変わることのない暗闇。時計はカチカチと、無慈悲に1時間のみの睡眠しかとれていないのを示していた。
「寝付けない…」
寝たいのは山々だが、暑さを耐え忍ぶことに意識がいって、眠ることができない。せめて風通しが良ければよかったが…と、そこに着信音が鳴る。
「もしもし…カフェ?まだ起きてたのか」
「もしもし、トレーナーさん。はい、その調子だと、トレーナーさんも…」
「はは、お互い様だな」
「なにか、涼めることをしましょうか」
「あーだったら、お互いに怖い話をする、とか?」
「…わかりました。では、私から」
その話は、誰からか聞いた話、という体で進んだ。祠を壊した青年が、徐々に近づく気配に恐怖を抱いて…という話。
「そして気配はついに、家の前でも感じることになります。窓から誰かが除く気配、玄関が開いたような音、廊下に響く足音…」
ギィ
「待って、いま、誰かが廊下に」
「そして今まさに、彼のいる部屋のドアをノックする音」
ドンドン
「ねぇ、その話のオチ、今すぐ教えてくれないか」
「……」
「今まさにそいつが、ここに来てるんだ。多分。どうすればいい?」
ドンドン ドン ドン
ドン ドン ドン ガチャ
目覚めた目が見たのは、朝日だった。
横に手をつこうとして、気付く。柔らかい肉。マンハッタンカフェが隣で寝ていた。
あの時ほど、肝が冷えたことはない。眠り眼をこするカフェもそうだが、ドアノブがあらぬ方へ曲がっていたのも。
「どうでしたか?」
「フィジカルで解決するの、やめよう」
- 26二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:36:10
カフェの強かな優しさ好きだ...
- 27二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 09:56:43
「フッ…フッ…フーッ」
「お疲れ、シャカール」
炎天下の下、砂浜で走り込みを終え、渡されたスポーツドリンクを喉に流し込む。
「フラフラするとかない?体になんかあったら言ってね」
「そりゃコッチのセリフだ。わざわざテメェも日差しを浴びる必要はねェだろ」
「トレーナーとウマ娘は一心同体!」
「ンだそりゃ」
疲労と熱によって吹き出す汗をタオルで拭いながら、トレーナーに渡しておいたスマホを見る。
「休憩、合宿所に戻ってする?」
「いやいい。…さっきの走り、フォームが崩れてる。それの修正をすぐにでもしたい」
「休んだほうがいいよ」
「…何ソワソワしてやがる」
トレーナーの体がビクつく。嘘がつけない性格は、こういうところが面白い。
「実は、いま食べ頃のものがあってさ」
「ハァ?」
こっちの返事を待たずトレーナーは合宿所に走る。戻ってきたとき手に持っていたのは…
「アイスキャンディー、ね」
「カロリー計算が狂わないように、甘さ控えめで作ってみた。今、どうかな」
持ってこられた以上いらんでつっぱねるのは気が引ける。ため息を付いて、トレーナーの手からそれをぶんどる。舌に張り付くほど冷えたそれは、口にオレンジの味をばら撒く。
「ま、ワルかねェな」
「良かった」
「てめェは食わねェのか」
「シャカールが食べてるの見てたら、それでいい」
気持ち悪いと言い放ちたかったが、貰ったものには感謝してるので、鼻で笑うにとどめた。それでも微笑むアイツは、よくわかんねェが。
- 28二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 12:42:16
シャカとトレから爽やかな甘味が滲み出ております 大変美味です
- 29二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 14:58:19
「随分と、暑そうだな」
と、思った言葉がそのまま出ていたみたいで、視線の先の〈暑そう〉な彼女は振り返る。
「それが目的で屋外でのトレーニングにしただろう?とは言っても、この暑さは流石に長時間は堪えるだろうがね。」
長い後ろ髪から汗を滴らせながら、顔はいつもと同じように涼しげだ。
「こまめに水分・塩分補給ね、1セット毎で構わないよ。ある程度の疲労は我慢だけど、異常を感じたらすぐに休憩すること。ま、分かってるだろうけど。」
「ああ、忠告感謝するよ。堅忍果決は良い事かもしれないが、私の場合自身の綻びに気づきにくい部分があるようだしな。」
ルドルフを暫くの間見てきて、気づいたことがある。始めこそ能力、性格共に隙のない完璧なウマ娘だと言うふうに見えたが、自己研鑽への執着というか、ストイックさに天井がないために、不調を見せることがままあるのだ。
よく生徒会でエアグルーヴに小言を言われているが、彼女自身もそれを分かっていながら直せていない部分がある。
特に夏は、運動をする上で体調管理には最も気をつけなければいけないのもあり、ルドルフの表情や様子には注視している。今も顔は涼しげだが、声にいつもよりもやや覇気がなく、合間に膝に手をつく回数が多い。何よりも、彼女の長い髪は汗が零れ落ちるのを遅らせるため、不快感にも繋がるだろう。
「その汗ではタオル1枚じゃ足りないな。新しいの持ってくるよ。キリがいいし、ここで長めの休憩にしようか。」
「そうか。わかった、ありがとうトレーナー君。」
びっしょりと濡れた皇帝の全身。見ているだけでこちらまで汗をかきそうだ。実際、外にいるだけで汗をかく気温なのだが。
どうにか涼む方法はないかと思いながら、生徒会室に置いてある私物のタオルを持ち出す。と、目についたのは─── - 30二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 15:00:53
「お待たせ。ほら、タオルと氷嚢。首元か脇に当てて冷やしなよ。」
「助かるよ。ん、おお。気持ちいいな。」
「しかしその髪、ほんと暑そうだ。秋の時みたいに結んだら?」
「確かに、そちらの方が快適そうだが......。私の思い描く生徒会長として、シルエットが広い方が、その...格好いいだろう?」
「ははっ!そりゃあそうだ!君のそんな子供っぽい所久しぶりに見たよ。じゃあそんな君のために、ほらっ。」
「む?何をする気だ、トレーナーく...ん?おぉ、これは......。首が、涼しいな。気持ちいい......。」
「じゃーん。エアグルーヴのトレーナーのとこから借りてきたんだ、ハンディファン。」
「それは...小さな扇風機か?なるほど、団扇や扇子でなくともそんなものが......便利なものだな。」
「君は手を抜くのが苦手だからね。運動も勉強もトレーナーとして碌に導くことができないんだったら、こういうとこで君に貢献していかなきゃ。」
「はは、参ったなこれは。まさかトレーナー君に手抜きを教えてもらうことになるとは。じゃあ、偶には君に甘えてしまおうかな。
首から背中にかけて、汗を拭いてくれないか?ついでに、そのファンを向けてくれると嬉しいな。」
「う、それはまた甘々な事で。まぁ、皇帝様の仰せとあらば仕方ないな。」
とは言ったものの、振り返ってみると、女子高生の背中の汗を拭くって、ちょっと大胆すぎるのではなかろうか......。というか、それ下着が見えてしまうのでは。別に見たくて汗を拭くとかそういうのでは───
「トレーナー君?どうした?」
「あ、いや、その、えっと」
「...?......あっ」
躊躇う此方の姿を見て、察しの良いルドルフにも動揺が伝わってしまったようだ。
「す、すまない。短慮軽率だった。」
「いや、こっちこそ慣れないことさせて悪かった。しっかり休憩できた?」
「ああ、と言いたい所だが、今ので火照ってしまったようだな、ふふ。」
「はぁ、俺もちょっと休憩しよ。」
本当に、慣れないことはしないものだ、全く。
「エアグルーヴー!ここに置いといた俺のハンディファン知らなーい?」
「私が知るかたわけぇ!自分のものはちゃんと管理しておかんかぁ!」 - 31二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 16:15:03
会長も可愛い
たわけも可愛い
一粒で2度おいしい良SSですな - 32二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 16:20:04
- 33二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 21:34:13
ブライアン可愛すぎる......最高ですありがとうございます