- 1二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 16:51:03
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー…」
お母さんが窓際に花を生けながら歌を口ずさむ。
昔の「事故」の影響で上手く力の入らない手は花瓶を持つだけで少し震えている。
それでもお母さんは、私にもママにも手伝って欲しいとは言わないのだ。
「ハッピバースデーハッピバースデー、ハッピバースデートゥーユー…」
ディアのないバースデーソング。
お母さんは毎年この日になると必ずこの歌を歌う。そしてとびきり綺麗な花を飾るのだ。
私のでも、ママのでも、お母さんのでもない、家族の誰の誕生日でもない日をお母さんは一人きりで祝っている。
一度だけ、「誰の誕生日を祝っているの」と聞いたことがある。
「えっとね…知ってるけど、よく、知らない人」
「知りたかった人…」そう言ってお母さんが悲しそうに笑ったから、お母さんの前でこの話をするのはやめた。
ママはお母さんが飾った花を見つめながら
「本当に、鬱陶しいやつ…」
と言いながら優しく笑う。
ママがお母さんと一緒にあのバースデーソングを歌うことは決してない。
けれど、お母さんがいない隙に毎年必ず「ありがとね…あの子を助けてくれて」と呟いているのを私は知っている。
- 2二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 16:56:03
そういうことか
続けて？ - 3二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 16:58:54
こういうの大好きなので続きください
- 4二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 17:23:38
私達の家にはお母さん達のお友達がよく遊びにくる。あまり外を出歩けないお母さんに会うためだったり、ママと仕事の話をするためだったり、理由は人によって様々だけど。
皆、お母さん達の高校のときの友達らしい。
お母さんと同じ寮だったらしい、ニカさん、チュチュさん、アリアさん、リリッケさん、マルタンさん、ティルさん、ヌーノさん、オジェロさん
何かとお母さん達の心配をして様子を見に来てくれるグエルさん
ママの会社で作ってる義足の経過報告に偶にやってくるラウダさんとペトラさん
そして、ママと融資や企業提携のお話をしに来る『ケレス』さんと
年に1回お母さんの身体の様子を見に来るケレスさんと同じ顔をした男の人
- 5二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 17:43:15
お母さん達は基本的に人をファーストネームで呼ぶのに『ケレス』さんだけは『エラン』さんとは呼ばないのだ。お母さんもママも、ケレスさんと同じ学園に通っていたはずなのに。
ケレスさんと同じ顔をした男の人(不思議なことに双子でも兄弟でもないらしい)は、うちに来る度にいつも違う名前を名乗る。ずっと地球を旅していて、その時々によって名前を変えているらしい。
私が「本当の名前は？」と聞くと
「それは、ある場所を見つけるまでは他の誰にも教えないって決めてるんだ」と言って笑っていた。
ケレスさんたちは、同じ顔だけど表情が全然違う。
でも真顔になると、やはり驚く程にそっくりだ。
2人とも、お母さんの前では少しだけ表情を大袈裟に作っている気がする。まるで、物静かな表情をできるだけ見せないようにしているかのように。
「真顔になる度にあんな顔されたら、こっちだって罪悪感くらいは湧くんだよ」
面倒くさそうに吐き捨てたケレスさんは、「本当に面倒事を残してくれたよ」と小さく悪態をついていた。 - 6二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 17:48:39
というふと思いついた話の書き捨てでした。
- 7二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 17:51:45
うむ
続きは？(切ない切ない) - 8二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 17:52:35
いいね。好きだこういうの。
- 9二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 17:57:15
いいねいいね
写真、は撮ってないだろうから、学生新聞とか見つけちゃわない？ - 10二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 18:02:29
そういや、スレタイに書いてないのにしれっと5ノレ匂わせてしまったごめんなさい
- 11二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 01:06:16
ある日、探し物をしていたら引き出しの奥から古い端末が出てきた。
電源を入れようとしても起動しない。なんだか気になって、こっそり持ち出してニカさんのところへ持って行った。
こういうものは大抵ニカさんが何とかしてくれるのだ。
端末を見たニカさんは少し驚いた顔をして
「懐かしいな。まだ持ってたんだ…」
と呟いた。
ニカさん曰くこの端末はお母さん達が学園に通っていた頃の生徒手帳らしい。
起動しなかったのは充電が切れていただけのようで、ニカさんはすぐに充電器を貸してくれた。
画面が明るくなり、端末が起動する。
興味本位でメール履歴を見ると、そこに残っているのは多くがママからのメールだ。どうやらこれはお母さんの生徒手帳らしい。
画面をスクロールしていく。最後までスクロールすると、1番下のメールに鍵がかかっていた。
差出人は『エラン・ケレス』。
内容は「CONGRATULATIONS!」と短く一言だけ書かれている。
日付を確認するが、別にお母さんの誕生日でもなければクリスマスでもない。一体なにをお祝いしたのだろう。
よく見ると、最初のメールから数週間はエラン・ケレスからのメールがいくつかある。
他愛もなく短いそのメールに、1つずつ鍵がかかっていた。 - 12二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 07:15:47
うわー切ない
- 13二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 07:50:24
決して浮気や未練ではないのがいいよね
- 14二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 08:28:59
忘れられない人、だね
- 15二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 18:46:45
エラン顔達のスレッタに対するさりげない気遣いがあたたかくて素敵…