【SS】銀色Horizon

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:11:47

    今アタシ達を含めて、幾億もの命が刻まれ続けているこの広い地球、ヒトの足では隅から隅まで踏破することさえとっても難しいけれど……。
    地球が所属している太陽系☆
    その太陽系の外に広がるのは銀河系!
    太陽から地球に光が届くまではたった8分くらいしかかからないのに、この銀河系の端から端まで移動しようとしたら、光の速度でも10万年以上かかっちゃうんだって!?
    そんなマーベラスなサイズの銀河系、アタシ達の肉眼で確認できるのはその数%だけ☆
    それでも目に映るのは、大宇宙のビッグサイズを感じるマーベラス☆★☆
    星々の集まりがひとつの流れを作って、神秘的でマーベラスなロマンスを届けてくれるんだ★

    アナタは、それをなんて言うか知ってる?

    ……そう!
    アタシ達が生きているこの星が、所属している銀河系の名前は……。

    『天の川銀河』!!

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:12:12

    俺の担当ウマ娘、マーベラスサンデーに呼ばれてやって来たのは、昼間は夏合宿で利用していた海岸だった。
    照りつける日差しと人混みの熱気に溢れかえっていた場所も、夜になればその様相は一転する。
    規則的に寄せては返す波が砂を鳴らし、温い海風が塩の香りをぼんやりと運んでくる。
    そんな寂しさに苛まれそうな浜辺の真ん中に、彼女は1人立ちすくんで待っていた。

    「トレーナートレーナートレーナー!ここだよーー!!」

    「ごめん、待たせちゃったな」

    マーベラスサンデーは相変わらずハイテンションに体を揺らし、砂を蹴り上げ駆け寄ってきた。

    「ううん、全然へーきだよ☆それよりもほら!」

    体全部をめいいっぱい広げるマーべラス、空を見上げるとその視線の先には――

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:12:54

    息を飲んだ。視界全部を覆い尽くす星々の輝き。その中でも特に目を引くのは、夜空を真っ二つに割いた天の川だった。
    絵の具を水面に垂らしたように、紫や紺色の淡い光が滲んでいる。大小様々な星達も、宝石みたいに優しくも強い光を放って川の流れにおめかしを施していた。
    24時間地上を人工の光で埋め尽くす都会では見ることの叶わない絶景。この感傷を言葉で表すには、これ一択しかないだろう。

    「……とてもマーベラスだな!」

    「トレーナーにも解ってくれて嬉しいな!手の届かないほど広い銀河がこの空にぎゅっと圧縮されて、極上のマーベラスを見せてくれてるんだ☆★☆」

    そう言ってマーベラスは俺の周りをぐるぐると回ってはしゃぐ。

    「あはははははは☆★137億年の重み、無限に広がる未知の世界、空の向こうはマーベラス★☆★」

    こうして彼女はまたひとつ新しいマーベラスを見せてくれた訳だが……長い合宿期間、見ようと思えば何時でも見られるこの景色を今日という日に教えてくれたのはどうしてだろう。

    「そうか……今日は7日か」

    深く考え込む必要も無く、答えはすぐに見つかった。7月7日、七夕の日だ。
    織姫と彦星が年に1度会える日……幼い頃は、短冊に願いをかけることもしたが、大人になった今ではすっかり見向きもしなくなったことに気づかされる。
    おとぎ話を信じていた幼い時期はとうに過ぎて、現実を知り現実に追われ……祝日でもない日など気にする余裕も無くしていた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:13:25

    「……ありがとう、マーベラス」

    マーベラスといると、いつだって新しい喜びや発見を知ることが出来る。
    つまらなかった日々が、マーベラスに輝き染まっていく。

    「どういたしまして☆またひとつ、一緒にマーベラスを共有できてよかった★☆」

    隣に戻ってきたマーベラスは地面にどすんと座り込んだ、俺も習って腰を下ろす。

    「何千年も前の人達は、この星空を見て方位や暦を読んでいたんだよね★その人たちが作ったたくさんの星座は、失われることなく現代まで続いてる!これってすごくマーベラスな事だよね★☆」

    人類史のロマンか……ただ星空を綺麗だと感じるだけではなく、そこから更に1歩踏み込んだ見方もできるのか。
    俺もマーベラスにならって、夜闇に散らばる星座を……星座、を……。

    「トレーナー?どうしたの?」

    「……全く分からない」

    知識が無いのもそうだが……どう頑張って見ても、無造作に散らばった星々から絵を見出すのは無理があった。どれも同じに見えて仕方ない。
    少し目を離しただけで、今見ていた星がどれだったのかすら分からなくなる。
    星座は1年かけてこの空を一周するらしいが……昔の人はよく星々の位置をきちんと記憶したものだと感心することしか出来なかった。

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:13:56

    「うんうん、見慣れてないと難しいよね☆でも興味を持って探そうとしてくれただけでマーベラス★」

    そう言ってマーベラスは空いていた隙間を埋めるように、体を寄り添わせてきた。腕と腕がぶつかり、頭を肩に預けてくる。
    いつも元気なマーベラスらしく高い体温が、半袖で冷えた腕を温めてくれた。

    「アタシがトレーナーに星のことを教えてあげる!今日は七夕、せっかくだから織姫と彦星を探してみよう★☆アタシの人差し指を見逃さないでね☆」

    マーベラスの言われるまま、目を凝らして指先を追いかけた。

    「東はあっちだから、天の川を挟んで……ほら、あそこ☆どの星よりも強くマーベラスに光ってる星!あれがこと座α星、一等星の『ベガ』!織姫さんだよ☆★」

    指さす先には、明らかに輝きの違う星が見えた。無数の星に埋もれぬよう、居場所をアピールするみたいに眩しく光っている。

    「わかった!意外と見つけやすいんだな」

    「うんうん!織姫さんが分かれば、彦星さんを見つけるのはすぐだよ★天の川を挟んで斜め右下……ちょうど天の川の岸くらいに光ってる星があるでしょ?見えたかな☆ あれがわし座α星、一等星の『アルタイル』!彦星さんを発見できたね★☆」

    天の川を挟んで、2つの星がここにいると叫ばんばかりに光を放つ。
    天の川にまつわる有名なおとぎ話……年に一度逢える今日という日に、決してお互いを見失わないように。

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:14:55

    「年に一度、しかもたった一日しか会うことができないのに……寂しくないんだろうか」

    スマホみたいな連絡手段もなく、ほぼ全ての時間を想い人のことを考えるだけの日々。

    「……アルタイルとベガとの距離はおよそ14から15光年、会えない時間と距離が2人の愛をマーベラスに育むのかも☆」

    15光年……想像の及ばない距離だ。マーベラス的思考に従えば、離れれば離れるほど気持ちは募り深まると言うけれど。

    「それでも……1人はマーベラスじゃない」

    「……確かに、そうだね」

    何度も彼女から聞いた言葉。元気で明るいマーベラスの、根源に潜む裏返しの暗闇。

    「けどね?抗えない力に引き裂かれて、がんじがらめの運命に飲み込まれても――でもでも!やっぱり2人は出逢うの☆出逢えちゃうんだよ☆★」

    もしふたりの片方でも諦めてしまえば、七夕の伝承が今まで伝わって来ることはなかっただろう。
    昔は何気なく聞いていたおとぎ話も、こうやって理解すればとてつもなくマーベラスな奇跡に思えてくる。
    15光年分を少しでも補うように、マーベラスは一段と体を寄せて来た。

    「無限に広がる宇宙の暗闇も、阻んで荒れる天の川も、2人を引き裂くことは出来ないんだっ☆★大好きって、愛ってマーベラスだね★☆★」

    「ああ……とても真似出来ないな」

    測り知れない距離と時間をものともしないくらい、存在を想える相手がいる。
    そんな風に誰かを好きになるなんて……いや、俺が知らないだけで、『愛する』とはそういうものなのだろうか。

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:15:42

    「そんなことない!トレーナーにだって大好きを理解するマーベラスはあるよ★☆」

    「そうかなあ……恋愛なんてしたことないから」

    「うーん、確かに経験してみないと分からないこともあるよね☆それじゃ、試してみよーっ★☆★」

    えっ、と言う間もなくマーベラスはすくっと立ち上がり、波打ち際を走り出した。流石はウマ娘の脚力、闇に溶けるようにマーベラスの姿は見えなくなっていく。

    「こーーっちだよーー☆★☆」

    うっすら見えるシルエットと、遠くからでもよく響く声だけが、マーベラスがそこに在ると示している。
    恋人同士の想像でよくある浜辺の追いかけっこだろうか。いや、遠く離れた織姫と彦星の気持ちを少しでも理解できるようにとマーベラスが計らってくれたんだろう。
    明らかに距離の単位が違う気もしたが、せっかくなので付き合うことにしよう。
    重い腰をゆっくりと上げて――

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:16:06

    「トレーナー!早く――うぎゃあっ!?」

    突然の悲鳴と何かが海面に叩き付けられる音。
    心臓が絞め上がり、背筋が凍った。
    何が起きたか考えるまでもなく、体が動いていた。

    「マーベラスッ!?」

    言うまでもなく夜の海は危険だ。飲み込まれてしまえば最後、底無しの暗黒に飲み込まれて……。
    気を抜いてマーベラスを止めなかった後悔、そして恐ろしい予感を振り切って走る。
    いいや悔やむのは後、マーベラスを助けるんだ……!
    姿も見えず声も聞こえず、けれどズボンが濡れるのも構わず波をかき分けまっすぐ進む。
    無我夢中で走り続け……何故だろうか。彼女はそこにいると、言いようのない直感があった。

    「マーベラス!!」

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:16:52

    よくよく考えると、この浜辺は合宿の安全を考慮して砂の浅瀬が遠くまで続いているような場所だった。
    つまりは仮にこけても一瞬で海の藻屑になるようなことは無くて――

    「あはは〜っ☆★海水しょっぱい!水冷たい!海の洗礼、マーベラース★☆★」

    たどり着いだそこには、びしょびしょのマーベラスが、笑いながら大の字に寝っ転がっていた。
    足から力が抜けた。びしょ濡れなのはこちらも今更。そのまま波打ち際にどすんと座り込んだ。

    「トレーナー!夜の海って気持ちよくてマーベラスだね★☆……トレーナー?」

    上半身を起こして何事もなくはしゃぐマーベラス。怪我はしていないようだが……。
    今回は何事も無かったとはいえ、夜海に入るのが危険なことには変わりない。急な転倒も怪我の元だし、ここは担当としてきちんと叱るべきだ――そのはずなのに。

    「……無事で良かった」

    気づけば、その小さな体を抱きしめていた。
    全身塩水でべたべた、磯の香りが鼻を突いたが、そんなものはどうでもいい。
    今はとにかく、マーベラスがそこにいることを確かめたかった。

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:17:24

    「……トレーナー。ごめんなさい。心配かけちゃって」

    俺の背中に、ゆっくりとマーベラスの細い腕が回されていく。だけどね、と彼女は続ける。

    「アタシ、とっても嬉しかった。トレーナーはちゃんと、『出逢いに』きてくれたから」

    「彦星みたいにか?」

    「うん……滑って転んで海に浸かった時ね。暗い暗い景色が見えたんだ。1人で、寂しくて……思い出しそうになっちゃった」

    柔らかな彼女の肌がが震えるのを感じた。
    細い指先が、背中の肉を強く掻き寄せる。

    「マーベラスがなくて苦しくて……けどその瞬間、見えたんだ。トレーナーが光になって駆けつけてきてくれたのが。苦しいのがあっという間になくなって、ぽわぽわのマーベラスに包まれたんだよ」

    そして、ぎゅうっと。隙間なくマーベラスの体が押し付けられた。アタシは生きているよって、その鼓動を伝えてくるように。

    「やっぱりだ。トレーナーが傍にいてくれるだけで、アタシすっごくマーベラスなんだよ」

    結局のところ、織姫と彦星が抱く愛とやらが俺にも眠っているのかは分からないまま。
    ただひとつはっきりしたのは……。

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:18:03

    「俺も、マーベラスがいないとダメみたいだ」

    マーベラスが自身のことを『生きててよかった』と思うように、俺もマーベラスがここに生きていることを、心から嬉しく思った。
    彼女に出逢い、マーベラスに触れ、世界にマーベラスが広がっていく瞬間を、1番近くで見ていたいと思った。

    「……トレーナー」

    恐る恐るといったふうに、マーベラスが問いかけてきた。その不安を少しでもやわらげたくて、そうっと背中をさする。

    「どうした?」

    「あのねあのね。マーベラスへの道は楽しいばかりじゃない。こんな風に闇に迷って転んで、溺れて、引き裂かれることもあるかもしれない……ううん、きっとあるんだと思う。その時はまた――」

    「――ああ。絶対にたどり着くよ、君に」

    迷いなんて欠片も無い。大地の果てだろうと、何光年先だろうと。闇が2人を引き裂いても、マーベラスが俺を想ってくれる限り、必ず。

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:18:27

    「トレーナー……トレーナートレーナートレーナー!!」

    「どわあっ!?」

    勢いづいたそのままに、全力で力強く抱き締めてきたマーベラスに押し倒される。
    冷えきった海水が背中をなぞるけれど……それ以上に、マーベラスの燃えるような体温のおかげで、ちっとも寒くなんてなかった。

    「えへへっ☆えへへへへへっ★☆ずっと一緒だよ!地球が何週巡り廻ってもずっとずーっと!!」

    「ああ、ずっとだ!」

    「やったっ!!ううっ、マーベラスが溢れて止まらないよ☆★☆もう言っちゃうね、伝えちゃうね――」

    満開の笑みを咲かせたマーベラス、火照って染まった頬、煌めく水飛沫。鼻先で視線がぶつかった瞬間――俺は理解した。
    これが、織姫と出逢えた彦星の気持ちなんだろうか、と。

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:19:11

    「――トレーナー、世界で一番、大大だーいすきだよ!!」


    Fin.

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:20:29
  • 15二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:23:21

    良かった

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:02:39

    まっすぐに好意をぶつけてくるマーベラスの破壊力たるや
    たいへんよかったです

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 03:35:28

    実にマーベラス……!

  • 18ちゃんこ主23/07/07(金) 06:40:43

    >>17

    マーベラス☆★☆なイラストだ!!

    めっちゃ嬉しいですありがとうございます!!

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 06:44:01

    素晴らしい…
    遠い星の海の織姫と彦星、暗い夜の海のマーベラスとトレーナー…
    離れてしまっても、きっとまた会える…
    素晴らしい…素晴らしい…

    イラストもマーベラス☆★

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 06:48:18

    銀色Horizon 大地の果て

    君に会えるなら怖くはない

    たとえ世界が闇に包まれても

    いつかたどり着くよ 君に

    そして抱きしめたい I’m with you


    名曲だよね……


    銀色Horizon


  • 21二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 07:01:42

    あなたの書かれる真っ直ぐな“好き”が私も大好きです

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