- 1二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:56:59
俺は、誰にも言えない秘密を抱えて生きている。
他の人にとってはしょうもない、ともすれば軽蔑されるであろう秘密。
……俺は、担当ウマ娘に対してエッチな感情を抱いてしまっている。
俺の担当――グラスワンダーとの付き合いは、もう3年にもなる。
彼女はおっとりとして、優しくて。それでいて苛烈で頑固で、力強い。
グラスたちの世代はいわゆる『黄金世代』と呼ばれているほど層の厚い世代だ。
そんな強力なライバルひしめく中で、俺たちは様々なレースを戦い抜いてきた。
勝った時は喜びを分かち合い、負けた時は次は勝とうと共に奮起した。
苦楽を共にして、俺たちは絆を深めていった。
だからこそ、だろうか。俺たちの距離はどんどん近づいていった。
でも俺たちはパートナーであっても、あくまでもトレーナーと教え子だ。
『そういう』感情を抱いていい訳がない。
それも性愛なんて不純な感情を。
でも正直……グラスのこと、すごく好みだし。
だってすごく美人だし、スレンダーで身体のラインが綺麗だし、でも鍛えてるから華奢なようでいてしっかり力強いし、いい匂いするし、お尻が大きいし……。
脚をマッサージする時などは、欲情しないようにがんばって感情を無にして耐えている。
それでもやっぱり、ドキッとする瞬間というのは多いもので。
練習メニューを終えてこちらに駆け寄ってくるグラスからふわりと漂う制汗剤と汗の混じった匂いがした時だったり、トレーナー室のソファで二人並んでタブレットで動画を見ていたら、眠くなったグラスがこちらの肩に身を預けて可愛らしい寝息を立て始めた時だったり。
俺の前で無防備な姿を晒しているのを見ると、グラスが心を許してくれているんだな、と思う。俺がこんなこと考えるような人間だなんて、思ってないんだろうな。
だから、俺は隠し通す。彼女が思う俺であるために。
グラスのことを傷つけないために。彼女のことを少しでも側で支えるために、絶対に知られるわけにはいかない。
そんな、しょうもない秘密。 - 2二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:57:12
私は、誰にも言えない秘密を抱えて生きています。
自分でもどうしていいかわからない、大きな秘密。
……私は、トレーナーさんにいかがわしい感情を抱いています。
自覚したのはいつからだったかは、覚えていません。
明確なタイミングがあったわけではなく、いつの間にかそうなっていました。
彼の側は、とても居心地がいいんです。
いつも微笑んでいて、のんびりしていて、優しくて。
ぼーっとしていて頼りない時もあるけど、いつも私のことを尊重してくれる。
とても大切に思われている、と感じます。
自分でも軽視していた脚の不調をいち早く見抜き、ケアしてもらったこともあります。
あの時に止められていなければ、私はきっと故障していたかもしれません。
それからは定期的に、脚部のマッサージをしてもらっています。
私にマッサージしてくれている時のトレーナーさんは、普段の様子からは考えられないくらい真剣な表情をしています。
それなのに私は、彼の手が触れるたびに……興奮を覚えていました。
大きくてあったかい手で脚を揉まれるたび、マッサージの気持ちよさとは違う別の快感が内側から湧いてきます。
トレーナーさんは真剣にやってくれているのに。それを受ける私が邪な考えを抱くなんて、本当に恥ずべき事です。
なのに。それなのに……むらむらする気持ちを、止められない。
この感情は、恋?
でも、恋というのはもっと綺麗なものだと思うから。
むらむらと渦巻く欲望を持て余すようなものではないはず。
「……はぁ」
私は、ふしだらな女なのでしょうか。 - 3二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:57:25
それは、とある日の夕方の話。
「……冷えてきたな。まだ11月にもなってないのに」
ずいぶんと早くやってきた粉雪を見て一人ごちる。
最近は春と秋が短いったらありゃしない。
「そうですね……くしゅんっ」
隣のグラスが可愛らしいくしゃみをする。
どうやら、先程までの練習で温まった身体が急激に冷えてきたようだった。
「冷えるか?」
「いえ、これくらいは大丈夫です~……」
そうは答えたものの、身体が小刻みに震えている。
俺はとりあえず上着を脱ぎ、グラスの身体に被せてやった。
「無理しないで、大事な身体なんだから。
冷やすといけないから、とりあえず今はこれで我慢して」
こんなに冷えるとわかっていたら、防寒着のひとつでも用意できたのだが。
ちょっとばかし寒いが、まあ練習場から戻るまでの辛抱だ。
「でもこれ、トレーナーさんの……」
「あ、ごめん……嫌だったか?」
「いえ……大丈夫です。これが、いいです」 - 4二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:57:41
そう答えたきり、グラスは黙り込んでしまった。
練習場にいた他のウマ娘たちもぼちぼち練習を切り上げ、帰り支度をしているのが見える。
空はぼんやり薄暗く、橙色の空が夜の青で染められようとしていた。
「これからどんどん日が短くなっていくな。今日からは遅くなりすぎないよう気をつけるか」
「そ、そうですね」
グラスはそう一言だけ答え、再び黙り込んだ。
彼女の方を見ると、頬を紅潮させたまま上着をぐっと押さえている。やはり、寒いらしい。
俺のほうもぼちぼち冷えてきて、雑談する余裕もなくなってきた。
俺はグラスがついてくるのを確認しつつ、小走りでトレーナー室まで急いだ。 - 5二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:57:55
二人でトレーナー室に入ると、トレーナーさんは
「ちょっと色々取ってくるから待っててね」
と言って、出ていってしまいました。
私はソファに座って一人で待つことになりました。なんだか落ち着かなくて、きょろきょろと部屋の中を見回します。
トレーナー室に入ったのは、別に今日が初めてではありません。
トレーナーと一緒にミーティングをする時、ビデオ研究をする時、マッサージをしてもらう時。
何度も入ったことがあります。でも一人でトレーナー室の中にいるというのは、初めての体験でした。
なんだか落ち着かない、変な気分になってきます。
さっきから羽織っているトレーナーの上着も、私を落ち着かせない要因です。
だって、トレーナーの匂いがします。こんなに近くで、こんなに濃厚に。いいんでしょうか。こんなことがあってもいいんでしょうか?
「すぅ……はぁ……」
袖を顔に近づけ、確かめるように嗅いでみます。
やっぱり、トレーナーさんです。夢みたいです。
「すぅーっ……はぁ~っ♡♡」
あっ。だめかも知れません。抑えられません。止められません。
なんで匂いだけでこんなに愛しいのでしょう。切ないのでしょう。きゅんとするのでしょう。
頭の中がぱちぱちして、ふわふわします。
そういえば、いい匂いのする人は遺伝子的に相性がいい、という話をフジキセキさんがしていた気がします。
その理屈だと、私とトレーナーさんは――
「トレーナー、さんっ……♡」 - 6二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:58:13
そのまま私は、トレーナーさんの匂いに耽ってしまいました。
上着を抱きしめるようにぎゅっと被って、すぅすぅと。
「んー、ふぅぅ~っ……♡」
こんなこと、いけないのに。
イケナイコトをしているという事実までもが興奮のスパイスとなってしまいます。
ブレーキが効きません。どうしたら抑えられるのでしょうか?
答えは、一つしかありません。私が然るべき場所に手を伸ばそうとしたその時―ー
がらがらと、扉の開く音がしました。
「おまたせグラス、こたつ布団取ってきた……よ……?」
トレーナーさんです。トレーナーさんが私のことを見ていました。
すぅーっと血の気が引いていきます。
さっきまで興奮していた頭が、急速に冷えていきました。
わたしはいま、なにをしようとしていた?なにをかんがえていた?
「グラス?一体どうし……」
トレーナーさんが困惑しながら私に語りかけます。
ごめんなさい。やめて。いや。ごめんなさい。
ぽろぽろと涙がこぼれて来ます。止まりません。
私は……わたしは何をっ……!!
「わぁ……ぁ……!!」
なんて愚かなことを。トレーナーさんの優しさを裏切るようなことを。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ……!!」 - 7二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:58:26
部屋に戻ってきたら、グラスが泣いてしまった。
俺はこたつ布団を持ったまま立ち尽くす。
何故、泣いてしまったのか。それがわからないほど、俺は鈍感ではない。
俺はこたつ布団を放り捨てて、グラスに歩み寄る。
「えーっと、その……グラス?」
「ごめんなさい……トレーナーさんっ……きらいに、ならないで……!!」
「大丈夫、大丈夫だから。嫌いになんてならないから」
とりあえず落ち着かせないことには話にならない。
俺はハンカチを差し出し、背中を撫でながらグラスが落ち着くのを待った。
・・・・・・
「ひっく……ひくっ……!!」
「落ち着いた?」
「はい……ごめんなさい、トレーナー。私……」
「うん、大丈夫。ちょっと魔が差しちゃったんだよな?」
恍惚とした表情を浮かべながら俺の上着を嗅ぐグラスを見た時はビックリしたが、彼女は大人びて見えてもまだ中等部の女の子だ。
俺が魅力的な男性などと思い上がるつもりはないが、それでも異性は異性だ。
なんかこう、そういう気分になってしまうことも……あるだろう。俺の思慮が足りなかった。イヤがられなくて良かったとか、そんなことばかり考えてしまっていた。
グラスにそういう一面があることはビックリしたが、思春期であることを考えたらおかしくはない。
……いい大人の俺と違って、よっぽど健全だ。 - 8二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:58:42
「実は……今日が初めてではないんです。私は、最低な女です。トレーナーのことを、何度もいやらしい目で見ていました」
「そう、なんだ」
全然気づかなかった。自分がそういう対象に入るなんて、まったく想像していなかった。それもグラスのような、真面目な子の。
「俺は嫌じゃないし、誰だってそういうことはあるよ。それに、謝らなやいけないのは俺のほうだよ、グラス」
グラスばっかりに謝らせるのは不公平だ。
だって、俺も同じようなことをしていたんだから。だから、俺もカミングアウトするのが筋だろう。
「ごめんなさい……俺もグラスのこと、エッチな目で見てしまいました。いい大人のくせに、よりによって教え子に欲情していました……」
「え、えっ!?」
グラスの顔が一気に赤くなる。
「トレーナーさん、一体それってどういう」
「言葉通りの意味です……だから気に病まないでください……」
「そ、そんな!謝らないでください!私トレーナーさんにえっちな目で見られるの、嫌ではありませんから!!」
「へっ!?」
「あっ……!!いやだ私、なに言って……」 - 9二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:58:57
グラスが口を覆う。グラス、今とんでもないこと言わなかったか?
その後、しばらく無言の時間が続いた。先に沈黙を破ったのは、グラスのほうだった。
「考えたのですけど、やっぱり私……トレーナーさんにエッチな目で見られることは、嫌じゃありません。もちろん、他の人がそうしてきたら嫌ですけど、トレーナーさんだったら……」
「お、俺だったら?」
「……大切にしてくれるから。トレーナーさんが優しいの、分かってますから。今日だって私の身体が冷えないように、自分の上着をかけてくれました。自分だって寒いはずなのに」
「そりゃ当たり前だろ。俺なんかよりグラスのほうがよっぽど大事なんだから」
「ッ! ~~っ……そういうところですよ。そういうトレーナーさんはどうなんですか。私にえっちな目で見られて、なんで嫌じゃないんですか」
「あ~……これ、言ってもいいのかな……普通に、嬉しいから。グラスみたいな魅力的な女の子に好かれてるの。なんかちょっと複雑だけど」
「でも、純粋な想いではないんですよ?あなたに対して、汚らしい感情を抱いてるんですよ?」
「グラスで汚いんだったら、俺のは煮込んだドブ川だよ。グラスのは、持ってて当たり前の感情なんだから」
「じゃあ、なんでトレーナーのは駄目なんですか?」
「それは、俺がトレーナーだから……」
「トレーナーじゃなかったら」
グラスの瞳に光が宿り、力強い視線で俺を見る。
「トレーナーじゃなかったら、大丈夫なんですか?」 - 10二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:59:11
「え? ん~……そりゃ駄目だろ。大人なんだし」
「それじゃあ、私が大人だったら、大丈夫なんですか?」
「そういう理屈に、なっちゃうけど……」
なんか、おかしい気がする。
グラスから発する気が強くなってる気がする。元気を取り戻すのはいいことだが、これはまるでレース前のような――
「トレーナー……どうやら私は、私が思っている以上に欲張りだったみたいです~」
そう言って、グラスがおもむろに俺のことを抱きしめる。
「ぐ、グラス!?」
唐突に押し付けられる柔らかな感触といい匂いに、一瞬反応してはいけない部分が反応しそうになってしまう。
それを理性で抑えるが、突然の行動に困惑してしまう。
「……あと3年。あと3年でなんの問題もなくなります。それまで、待ってくれますか?それまで待ってくれたら……えっちなこと、何でもしていいですよ?」
これは夢か?夢を見てるのか?だって、あんまりにも都合が良すぎる。もしも夢なら、覚めないで欲しい。俺はグラスのことをぎゅっと抱きしめ返す。
「あ……♡」
「待つよ。グラスがそう望むなら、いつまでも」
グラスの耳元で囁いた。
「そんな事言われたら……私のほうが、我慢できなく――」 - 11二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:59:23
そんなやり取りをしている中、唐突にトレーナー室の扉が開かれる。
「すいまセーン!マンボ見かけませんでしたか!?こっちのほうに飛んで……」
エルコンドルパサーだった。彼女は目を見開くと、どんどん顔が赤くなっていくのがマスク越しに伺えた。
「あ、わ、わ、わ、わ」
「……エ ル ?」
「お、お、お、お邪魔しました~!!」
エルコンドルパサーはドアを閉めることすら忘れて、慌てて走り去っていった。
「……見られちゃったな」
「安心してください、後でしっかり口止めしておくので~。それに、エルには少し感謝しないといけません。多分あのままだと、私、我慢できなかったかもしれません」
「グラス……」
どちらともなく、俺とグラスは離れる。そのことに若干の名残惜しさを感じつつも、こうするべきだと思ったから。
「好きです、トレーナーさん。たぶん、愛でも恋でもない。この気持ちがなんだか分かりませんけど。でも好きなんです。どうしようもできないんです。こんな私でも……受け入れてくれますか?」
「ただの最低のスケベ野郎でよければ……」
「それなら、丁度いいです。お揃い……ですから♡」
こうして、俺たちは誓いを交わした。 - 12二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:59:39
そんなこんなで、あっという間に時は過ぎていった。
その間にえっちな雰囲気になることは幾度もあったが、耐えた。なんとか耐えた。グラスの方も耐えてくれていたから、俺も頑張った。
そんなリビドーをぶつけるかのように、とにかくレースに打ち込んだ。
おかげでその年の有馬記念も勝てたし、それ以降の年も絶好調。怪物の二つ名に恥じない走りをしてくれた。
そして、三年が過ぎ――
「ついにこの日が来ましたね、トレーナーさん」
「ああ……そうだな」
あの日から三年。グラスはDTLに移籍を表明し、トゥインクル・シリーズから引退を表明した。
もう、子供ではない。立派な大人になった。
俺たちはぎゅっと手を繋ぎ、歩きだす。
きっかけは、ロクでもない事だったのかもしれない。
綺麗な気持ちではなかったかもしれない。
でも、俺とグラスの間には、強い『つながり』があった。
愛とか恋とか、気持ちの種類はどうでもよかった。
大切なのは、どれくらい相手を想っているか――
「さあ、行こうか」
俺たちは歩きだす。ピンクの照明が眩しい、お城のようなホテルに。
橙色の空が、夜の青に染まる。
少し早めの雪が、冬のはじまりを告げる日の事だった。 - 13二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 02:00:04
- 14二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 02:08:25
オチwww
いや当然だし真剣なんだけどねぇ
天然男と真剣娘が俗な性欲に翻弄される姿、実に栄養が豊富ですね
色気のある文章ごちそう様でした! - 15二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 02:17:45
よい、とても良い…
- 16二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 09:55:23
元気が出ました
- 17二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 20:00:42
- 18二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 07:37:03
ほ
- 19二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 13:39:25
♡ 💥