【SS】散歩に行きましょう【トレカフェ♂】

1二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 21:03:31

「……こうしてアナタと散歩に出かけるのは何度目でしょうか」
「もう覚えてないよ」

静寂の堤防沿い。
俺とカフェの間を夜風が吹き抜ける。
さわさわと鳴る音は水か、それとも草木のものだろうか。

「……うん。この辺りなら」
「目的地？」
「ええ、座りましょう」

そう言って道の端に腰を下ろす。
時期は冬。舗装されたコンクリは大気よりも冷たく、このまま座っていると風邪をひいてしまいそうだ。

「……少し、場所を変える？」
「いいえ……ここが良いです」

そう言いながら彼女は距離を詰めてきた。
寒さを上書きするように、服越しに温もりが共有される。
きっとそれも狙いなのだろう。

「……この辺りは随分暗いね」
「街灯もそこまでありませんからね……」
「この暗さが大事だったりする？」
「ふふ、そうです。……今日の目的、まだ言っていませんでしたね」

そう言うと彼女は空を見上げた。

2二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 21:03:42

「今日は、星を見に来ました」

彼女に倣って空を見上げると、満天……とまではいかないが、都会にしては綺麗な星空が広がっていた。

「本来なら都市から離れた場所で見るべきですが……近場ではこれが精一杯です」
「言ってくれれば、すぐには無理でも数日空けたのに」
「今日でなくてはいけなかったんです。……今夜は、月が見えませんね？」

言われてみれば確かに見えない。この暗さはその影響でもあったらしい。

「……新月、ね」
「ええ……そこで、一つ質問です」

薄闇の中で爛々と輝く金色。
そんな彼女の双眸がこちらを覗き込む。

「……月は、綺麗ですか？」

新月の日にはそぐわない問いかけ。その意味するところは分かっていた。
だから、答えも決まっていた。

「……ああ、相も変わらず」
「…………ふふ」

一瞬笑ったかと思うと、彼女はすぐに目線を空に戻した。
ただでさえ暗い夜なので、表情は見えなかった。
背後でさわさわと音が鳴る。
もし尾が地面を撫でる音なら、見えない顔を想像することもできるだろうか。