- 1投稿者21/12/10(金) 23:18:19
いつの間にかアドバイザーが増えていた。
タキオンのSS書いたんだが|あにまん掲示板既にpixiv投稿済みなのだけれど、ここに流しても大丈夫だろうか?bbs.animanch.com↑の続きです。pixivには投稿済みですが、そんなに見てくれる方がいないので供養としてあげます(タイトル名は伏せます)。
- 2投稿者21/12/10(金) 23:18:58
いや、俺たちも同意した上での加入だから『いつの間にか』は間違いか。皐月賞を制し、三冠ウマ娘も夢ではなかった彼女による事実上の引退宣言。その時の衝撃は筆舌し難い。だが、俺とカフェでは驚きの方向が違うだろう。
なぜなら弥生賞の後、彼女のトレーナーと飲みに行った時に言っていたからだ。
『弥生賞をとってからね、あの子トレーニングにも参加するようになったの!あのサボり魔が嘘みたいでしょう?皐月賞は絶対に取るって宣言してきたんだから!だから私も、あの子に応えるの。絶対に彼女を完璧な状態に仕上げて見せる!』
普段からタキオンに振り回され愚痴ばかり言う彼女が見せた、タキオンに対する想い。こっちは彼女は俺以上の才覚を持ったトレーナーだった。あの彼女が、タキオンの引退を許したのか?いや、そもそも引退せざるを得ないほど過酷なトレーニングを強いたのか?
そんな疑問が浮かぶが、すぐに消える。彼女がそんな人間ではないことは誰よりも俺が知っているからだ。
「…どうしたんですか?トレーナーさん。」
いつの間にか、タキオンは去っていたらしい。彼女の真意は分からないが、俺たちだって『お友だち』に追いつくという目標があるのだ。利用できるものは何でも利用するまで。
「いや、しっかりしないとなって思って。」
そう言って俺はカフェに笑いかける。俺は、彼女のトレーナーとして全力を尽くさなければならない。だから…
悪い。お前の担当、利用させてもらうぞ。
数日前にトレセンを去った彼女の幻影を頭から振り払った。 - 3投稿者21/12/10(金) 23:20:35
「は?」
今、彼女は何と言った?
「聞こえなかったかい?走るのをやめると言ったんだ。」
「…なん…で。」
「前々から考えていたのさ。確かに私が『果て』に到達するのが理想だが、少々厳しいと感じていてね。だから同時に別のプランも並行して進めていた。」
「別のプラン?」
この娘は何を言っている?
自分自身で『果て』に到達しなくても良い?
「私自身を被験体としたものをプランAとすれば、誰かに…別のウマ娘を被験体として『果て』に到達してもらう、プランBというやつさ。」
「…。」
「君もよく知っているだろう?マンハッタンカフェ、彼女は実に興味深い。彼女なら私の代わりに到達でき」
「巫山戯るなッ!」
「!」
飄々とした態度で話す彼女に我慢ならなかった。 - 4投稿者21/12/10(金) 23:21:18
「誰かに託す?貴方はウマ娘でしょ⁉︎何故その脚がありながら可能性を捨てる?私はあの時のあなたを見て確信した。貴方だったら三冠ウマ娘だって夢じゃないのに!」
私が欲しくて欲しくてたまらなかったあれ程の才能をドブに捨てるというのだ。
許せない。許さない。
「…君がそんなに熱い人間だったとは想定外だ。トレーニング中にはそんな素振り全く見せなかったのに。いや、違うな。確かに君には『速さ』を追い求める熱意があった。だが…本当にそれだけかな?」
「…何が言いたいの?」
「そうだね…。適切な言葉が思い浮かばないが、君の狂気には羨望や嫉妬、絶望…不純物が混じっているように感じていてね。」
それから間をおいて彼女は口を開いた。
「君、本当はウマ娘が嫌いだろう?」 - 5投稿者21/12/10(金) 23:21:57
「…。」
最悪な目覚めだ。
ここ最近、私は何度も同じ夢を見ていた。
おかげで目の下には立派な隈ができている。
「…とりあえず朝ご飯食べよう。」
私はベッドから降りると、キッチンへ向かった。トレーナー室で寝泊まりすることが多かった為、あまり物は置いていない。改めて部屋を見渡すと、本当に殺風景だった。
「何にも無いんだな、私。」
この1年、ずっと『速さ』を追求してきた。いや、それこそあの夢を抱いた時からか。トレーナーを辞めた今、この部屋の様に私も空っぽだった。 - 6投稿者21/12/10(金) 23:22:28
朝食を済ませた後TVをつけると、丁度日本ダービーの特集が組まれていた。皐月賞直後はタキオンが最有力候補として挙げられていた為、彼女がいない日本ダービーについての専門家たちの意見はバラバラだ。だが、残念ながら彼らの予想は外れるだろう。
…きっとあの子が勝つ。
何処か得体の知れないものを感じる青鹿毛の少女が脳裏によぎる。着実に成果を上げている彼女の唯一の不安要素は、レースに万全の状態で臨めるかということ。あのトレーナーに限って無茶なメニューを組んだりはしないだろうし、何より…
『お前の担当、今カフェのアドバイザーになってるぞ。』
ついさっき届いたあの男からのメールに書かれていたことを思い出す。私に宣言した通り、彼女はカフェさんに自分の夢を預けたらしい。まあ、あの2人は危なっかしいところがあったので、タキオンなら上手くカバーしてあげられるだろう。
だから、もう私とあの子は関係ないのだ。 - 7投稿者21/12/10(金) 23:22:54
「マンハッタンカフェ、ダービー制覇ー!不滅の摩天楼、ここに打ち立つ!」
実況が告げた勝利宣言に、会場中が沸き立った。だが勝利の余韻に浸っている暇はない。
「カフェ!」
俺は急いでカフェの元へ駆け寄り、今にも倒れそうな彼女を支えた。
「トレーナー…さん、ケホッ、ゴホッ…。」
「今は何も言わなくていいから呼吸を整えろ。」
「ッ!…。」
俺の言葉に頷くと、カフェは少しずつ身体を落ち着かせた。カフェは何としてでも出たいといった日本ダービー。何とか間に合わせることはできたが、この激戦は相当応えたようだ。
「よくやったな。まずはおめでとう。それから…後でタキオンに呆れられる覚悟はしておけよ?」
「ふふっ。…はい。」
一時はどうなることかと思ったが、無事走り切れただけでも十分だ。早く帰ってタキオンから栄養剤を貰わなければ、とカフェと共に彼女の元へと向かうのだった。 - 8投稿者21/12/10(金) 23:23:28
「やれやれ、勝ちにいくなと言ったのに。右から左にスルーとは、たいした透過性だね。」
案の定、タキオンは呆れていた。ただ、心なしか嬉しそうに見えるのは、きっと彼女もカフェがこうなることを予期していたからだろう。
「トレーナー、無茶に踏み切った分は、君の治療で取り戻したまえ。栄養剤を、3a、8b、6d_2の順で投与だ。」
「ああ、任せろ。」
タキオンの指示に従い、栄養剤を投与する。効果が出るまで時間を要するだろうが、とりあえず安心だ。
「それから三日は絶対安静だ。まぁ言う通り、トレーニングはそこそこに控えたのなら、これでなんとかなるだろう。」
「すみません…タキオンさん…。」
忠告を無視したことに負い目があるのか、カフェは素直に謝った。
「ハハッ、謝るなら、最初から止めておけばいいものを。走ってしまった以上は、堂々としていたまえ。…欲しかったものは得たのだろうからね。」
最後の言葉の瞬間、タキオンの瞳が揺れた。驚いて彼女を見るが、いつの間にかいつもの狂気に満ちた目で飄々としている。…気のせいか。
渾身のアフターケアの結果、どうにか最高の結果と、秋への希望を両立させることができそうだ。俺は次の目標に向け、スケジュールを組み直すのだった。 - 9投稿者21/12/10(金) 23:24:00
「先生、どーだった⁉︎」
「うん、8秒67。ちょっとタイムが縮まったね。」
「うへぇ〜。まだまだじゃん。」
「もう少し踏み込みに力を入れて走ってみようか。」
わかった、と言って少年は駆けて行く。凍えるほどの寒さだというのに、子供たちは元気いっぱいだ。
トレセンを去った私は、子供の頃所属していた陸上クラブでコーチとして働いている。元々指導する為の資格は持っていたし、大学在籍中にはここでアルバイトをしていたからかすんなりと就職できた。
先程タイムを聞いてきた少年は、このクラブに入ってから日が浅い。決してセンスがないわけではないので、無駄な動きを少なくすればもっとタイムを伸ばせるだろう。他の子だってそうだ。皆目をキラキラとさせてより速く駆けて行く。
「子供たちは元気だねぇ。」
「監督!いらしてたんですか。」
何処か安心する落ち着いた声で話しかけてきたのは、このクラブの名誉監督だった。私が小学生だった頃のコーチで、尊敬すべき優秀な指導者でもある。既に引退しており、当時に比べると白髪も増え、衰えからかクラブに顔を出せない日も多かった。
「こうしてコーチとして頑張ってくれているわけだけど、何か得るものはあったかい?」
「…そうですね。ただ純粋に走ることの楽しさを思い出せた気がします。」
「楽しさ、か。それは、君がこのクラブに来る前の頃かな?」
「私、そんなにつまらなさそうに走っていましたか?」
「そうだねぇ、つまらないというより苦しそうに走っていたと思うよ。」
「…苦しい、ですか。」 - 10投稿者21/12/10(金) 23:24:44
心当たりはある。だってそれは私が『速さ』を求める理由そのものだからだ。
「ああ。そしてそれは今もだね。」
監督は言葉を続けた。
「…もう一度、アグネスタキオンさんと向き合ってみるべきじゃないかい?それから、ご家族とも。」 - 11投稿者21/12/10(金) 23:25:17
ここの繁華街に来るのは久しい。待ち合わせ場所の居酒屋の前に居ると、懐かしい声が聞こえてきた。
「すまん、遅れた!」
「さっき来たばかりだし、いきなり呼び出したのは私だから気にしないで。…久しぶり。」
「ああ。半年ぶり…いや、もっとか。とりあえず元気そうで良かった。」
何ヶ月かぶりに会うかつての同期は、相変わらず人の良さそうな雰囲気で少し安心した。
店内はとても賑わっていた。ガヤガヤと騒がしいが、そのお陰か話しやすかったと思う。
「にしても、全く連絡寄越さないってどういうことだよ?急にトレセン辞めて居なくなって、こっちがどれだけ心配したか…。」
「それは本当に申し訳なかった。」
すっかり酒に呑まれてグダグダの男の説教を甘んじて受ける。いや、悪いのは私だから仕方ないが。
「…タキオンは元気にやってるよ。」
「知ってる。返信しないのに律儀に報告してくれたからね。」
トレセンを去った後も、彼は定期的に状況報告をしてくれていた(時々被験体にされそう、助けてみたいなSOSがあった気もしたが)。 - 12投稿者21/12/10(金) 23:25:54
「そういえば日本ダービーと菊花賞、有マ記念おめでとう。日本ダービーの時は大丈夫かと思ったけど、菊花賞の走りは見違えたよ。その後の有マも素晴らしい仕上がりだった。」
「ああ、ありがとうな。一番はやっぱりカフェが頑張ってくれだことだけど、タキオンにもかなり助けられた。俺も体張った甲斐があったな…。」
「…命の危険を感じたなら逃げなよ?」
私という被験体が居なくなってしまった今、特に問題なさそうな彼が次の被験体となってしまったようである。とりあえずお土産にと持ってきた胃腸薬を渡しておいた。
「なぁ。」
ありがとうと薬を受け取った彼は、急に改まった。
「お前、タキオンと何があったんだよ。」
「…。」
「タキオンから聞こうとしても、この件については黙秘するとか言って全く分からん。お前ら、喧嘩でもしたのか?」
私が辞めた後、元同僚から彼はレース出走休止中のタキオンのトレーナー(仮)として面倒を見てくれていると聞いた。…事実上の引退宣言をかましてしまったタキオンが、再び走りたくなった時に困らないように。
彼には、きちんと話すべきだ。
私のこと、タキオンのことを。
「私が、悪かったの。」
私はぽつぽつと話し出した。 - 13投稿者21/12/10(金) 23:26:29
それは、昔の母の映像だった。
そのレースを観た時、身体中を電流が駆け回ったかと錯覚した。
何てことのない地方のメイクデビュー戦。
その中で後続を大差で引き離し、意気揚々と駆け抜けて行くウマ娘がいた。
『この舞台は私が主役だ。』
彼女がそう言ったわけではない。だが、その走りが、目が、レースを観る者全てに告げていた。
そのままスピードを緩めることなく、彼女は栄光を手にした。鳴り止まない拍手と歓声が耳から離れない。
あんな速さで芝を駆け抜けるのはどれだけ気持ち良いのだろう?ただひたすらゴールに向かって風を切るのはどれだけ愉快なのだろう? - 14投稿者21/12/10(金) 23:26:59
気付けば、私は共にビデオを観ていた母に宣言していた。
「おかあさん!わたし、『ウマ娘』になる!」
子供とは無邪気で、時に残酷だ。
その時の母が何と返したか、よく覚えていない。ただ、申し訳なさそうな顔をしていたことだけは記憶に残っている。
母親に瓜二つと言われていた。
だから、そのうち尻尾が生えてきて、耳の形も変わるものだと思っていた。
そもそも違う種族なのだから、そんなことあり得ないのに。
その夢が決して叶うことがないと知るのは、それから1年後、ウマ娘の妹が生まれた時だった。 - 15投稿者21/12/10(金) 23:27:38
「ウマ娘からは人間の女の子が生まれるってね、無いわけじゃないんだって。」
ウマ娘というのは未だにわからないことが多い。何故女性しかいないのか?ウマソウルというのはどういう要素を持って宿るのか?残念ながらそれらの謎は一切明らかになっていない。
「当時の私の周りには母親しかウマ娘がいなかったから、分からなかったんでしょうね。本当、今思い返すだけでも恥ずかしい。」
世間一般でも、ウマ娘の母親がウマ娘であることが多いと認知されている。現に、私の妹はウマ娘として生まれてきた。
確かに私は『ウマ娘』じゃないし、『ウマ娘』にはなれない。けれど、少しでも追いつけるように努力することはできる。
母の走る姿を見て『速さ』に魅せられた私は、両親に頼み込んで地元の陸上クラブに入れてもらった。
いろんな人の走りを研究した。
何度も何度も、それこそ血の滲むような努力で走り続けた。
だから、それなりに結果を出せたと思う。
それでも… - 16投稿者21/12/10(金) 23:28:06
「それでも、あの娘には敵わなかった。」
私があらゆる物を捨てて得た『速さ』より、ウマ娘として生まれた妹の『速さ』は遥かに上だった。
どんなに努力しても、敵わないものがある。
そんなこと分かっていたのに、受け入れられない自分がいた。
「そんな妹も、ウマ娘の中では地方のトレセンにすら入れないレベルだったんだよ。本当に笑っちゃう。」
元々母もメイクデビューで勝利した後、一勝も出来ずに引退した。ウマ娘だからといって、走らなければならないわけではない。けれど、私が欲しくて欲しくて堪らない才能をドブに捨てるような真似が許せなかった。
母も妹も、元トレーナーの父も、そんな私を気遣ってくれていたが、それが余計に辛かった。だから大学進学を機に家を出て以降、一度も実家には帰っていない。 - 17投稿者21/12/10(金) 23:28:34
「…私は諦めきれなかった。だから、トレーナーになったの。もう一度、あの感動を味わいたくて。」
「タキオンの走りを見た時、初めて母の映像を見た時と同じものを感じたの。彼女はまさに私が求めていた理想そのものだった。」
「でもあの子が走るのを辞めるって言った時、それまでの自分の汚い感情が全部出てしまった。彼女に八つ当たりしてしまった。…タキオンの真意に気付けなかった。」
「彼女、脚に問題があったの。トレセンを去ってから漸く気付いた。自分の限界が分かっていたから、皐月賞は全力で走ったんだって。」
「本当に彼女を想うトレーナーなら、プランBを選ばせちゃいけなかった。私は最後まで、あの子のトレーナーになれなかったんだ。」 - 18投稿者21/12/10(金) 23:29:34
とりあえず投稿分です。
タキオンメインのはずなのにほぼ出番がないです…。次の話では沢山出番がある予定。 - 19二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 23:38:35
「あ?ねぇよ、んなもん」って茶化しに来たらガチめのSSだこれ!
- 20投稿者21/12/11(土) 00:09:06
- 21投稿者21/12/11(土) 00:47:43
とりあえず保守。
遅筆ですが、頑張って続き書こうと思います。 - 22投稿者21/12/11(土) 02:01:24
寝る前に少しだけ。
女トレーナーの父は元トレーナーですが、女トレーナーの母を担当していたわけではありません。母が旧友のレースを見に来た際に、レース場で必死に担当を応援する父に一目惚れしたのがきっかけだったそうな(突然の裏設定)。 - 23投稿者21/12/11(土) 08:30:19
おはようございます。とりあえず保守です。
- 24投稿者21/12/11(土) 15:21:38
保守
- 25投稿者21/12/11(土) 23:59:26
これで最後の保守にします。
一応続きが書け次第、別スレを立てる予定です。
見てくださった方、ありがとうございました。