タマモクロス、訪れる 3皿目

  • 1123/07/11(火) 22:20:27
  • 2123/07/11(火) 22:24:26

    読者の皆様にはご不便をお掛けしております
    規制+仕事により立て直しと投下開始が遅くなりましたことをお詫びいたします
    それではこれより投下させて頂きます

    食欲不振から立ち直ったオグリキャップ
    その姿はまさに一騎当千、万夫不当という例えが相応しかった

    コメダのカツパンが、四口で胃の中に消える
    たっぷりと味噌をかけたコンビニのおでんが、水のように飲み込まれる
    500ml缶ほどもある明宝ハムが、瞬く間に食べ尽くされる
    ココイチのやさいカレーが、1分も保たずに空になる
    ボリュームのある味噌カツ弁当が、米粒一つ残さず口の中に吸い込まれてゆく

    そしてキッチンのテーブルの上が、綺麗に空になったその時

    グゴオォォオォォォゥ…

    再び芦毛の怪物は獲物を求めて咆哮した

    「トレーナー、すまない……
    なんだか凄くお腹が空いているんだ……」
    哀しげな表情で訴えかけるオグリキャップ
    しかしその平らげた食事の量は、可愛げの欠片すら見当たらない

    「…………よし!今から何か外へ食べに行こうか!!」
    そう爽やかにオグリキャップに話し掛ける彼女のトレーナーの目尻から、感動のものでは無いであろう涙が滲んでいた事を指摘する情け容赦のない輩は、この場には居なかった

    『 タマモクロス、後輩にカツを入れる:下 』

  • 3123/07/11(火) 22:25:46

    オグリキャップのトレーナーがあちこちに電話を掛けて確認した結果、味噌カツ弁当を買ってきた店が
    『今からオグリキャップが来店しても構わない』
    と快諾してくれたのは15分ほど後のことだった

    「皆のお陰でオグリが回復してくれたんだし、もう君達がこれ以上俺とオグリに付き合ってくれなくても良いんだよ?」
    「皆まで言うな……!
    乗りかかった船だ、俺も今日は協力するから……!」
    「!!……済まない!この礼は必ず後日するから……!!」

    トレーナー達は裏で熱い友情を深めていたようだが、タマモクロスとしてもヤエノムテキとしても、
    『ここまできたなら完全復活したオグリキャップを見たい』
    との思いで彼女らの店舗殴り込みに同行していた

    「失礼する、先程連絡したオグリキャップだ」
    「いらっしゃいませー!
    お待ちしておりました!
    今日は今居られるお客様以降は、貸切営業とさせて頂きます!!」
    来店の挨拶とともに、松のや府中店のスタッフ達は、決死の表情でオグリキャップに向き直った

    松のや
    牛丼の松屋が経営する、1000円以内で揚げたてのトンカツや唐揚げの定食が食べられる事が売りのチェーン店である
    店によってやっていたりいなかったりするが、ごはん味噌汁お替わり無料と言う太っ腹サービスをやっていることもあり、若い男性やウマ娘中心に人気は高い

    そして今日、松のやの厨房は戦場となる

  • 4123/07/11(火) 22:26:14

    「食券は後からで結構ですので、ご注文をお伺いします!」
    「ありがとうございます!じゃオグリ、何にする?」
    「味噌ロースカツ定食と、上味噌ロースカツ定食をお願いする、手始めにそれぞれ10人前ずつ」
    「かしこまりましたァ!!」
    松のやの店員達の、悲愴な戦いが始まった

    「……ウチらは付き添いとは言え、注文せんでええんやろか……」
    「しかしタマモさん、この有様で我々の分までお願いするのは、お店の方に申し訳ないかと……」
    ヤエノムテキの意見には、悲しいまでの説得力があった

    衝立の向こうで壮絶な勢いでカツを揚げ、キャベツを千切り機にかけていく調理スタッフ達
    その横で恐ろしい勢いで皿を並べていくホールスタッフ達

    そして、その努力を無にする勢いで
    「済まない、ごはんのお替わりを貰えるだろうか
    後、たっぷりササミカツ定食を10人前追加でお願いする」
    ピーナッツでも摘まむかのようにカツを胃の中に収めてゆくオグリキャップ
    勿論追加注文も忘れてはいない
    「アリガトウゴザイマース!!(破れかぶれ)」
    松のやスタッフ達の戦いは、今がまさに激戦区真っ只中だった

    「……ウチらはしばらく待っとこか……」
    「押忍……」
    芦毛の怪物は、倒れた後でもやはり怪物であった

  • 5123/07/11(火) 22:27:49

    券売機の前に貼り付いたまま動かないオグリキャップのトレーナーが、●ayPayの月額上限を越えたのか、タマモクロスのトレーナーに一声掛けて店を飛び出していく
    そして代わって券売機の前で、オグリキャップの食べた分の食券を買い続ける己のトレーナーを見て、タマモクロスは真剣に自分の預金を引き出してこようかどうか悩んでいた

    「済まない、三種野菜の鶏むね肉巻カツ定食を10人前追加で頼む」
    「申し訳ありません!そちら先程のご注文で品切れとなりました!!」
    「それなら仕方ないな、では本格唐揚げ定食10人前を追加で頼む」
    「アリガトウゴザイマース!!(競り合い発生中)」
    無慈悲なオグリキャップの追加注文を捌き続ける、スタッフの悲痛な叫びがまたもや響き渡る

    「ヤエノ……これウチらもお金下ろして来た方がええかもしれんな……」
    「タマモさん……天皇賞・秋の賞金がまだ振り込まれていないので、手持ちと預金を合わせてもそこまでお役に立てそうもありません……
    私は無力です……」
    「嘆いたらアカン、それやったらアンタの分は、何としてでもウチが引き受けるで……」
    「タマモさん……!」
    理由が理由とは言え、まだ未成年な学生の身分で交わすには、重たすぎる会話であった

    「済まない、ごはんのお替わりを貰えるだろうか
    後、ササミカツ&エビフライ2本定食を10人前追加で頼む」
    「申し訳ありません!エビフライは先程のご注文で品切れとなりました!!」
    「なら仕方ないな……
    今在庫が残っているのは、何があるのか教えて貰えるだろうか?」
    「後残っているのは、各種カツ丼と、ロースカツと上ロースカツ、ササミカツだけです!!」

    その血を吐くような叫びを聞いたオグリキャップは
    「……そうなのか、それでは味噌カツ丼を20人前追加で頼む、注文はそれでお終いだ」
    あくまで厳かな顔でそうスタッフ達に告げた
    「!!あ、アリガトウゴザイマース!!!!(歓喜)」

    地獄のマラソン大会のゴールが見えたことで、一気に松のやスタッフ達の士気が回復する
    疲労により鈍っていたスタッフ達の動きが、見違えるように素早くなった

  • 6123/07/11(火) 22:28:36

    「タマ、ヤエノ、私はこれで注文は最後にするので、タマ達も食べたいものがあるなら言ってくれれば良いと思う
    私が食べ尽くしてしまったメニューも多いけど、お店の人も今からなら皆の分も作ってくれると思うんだ」

    「オグリ、お店のスタッフさんにトドメ刺しに行くのはやめーや……」
    「オグリさん、今はそれよりトレーナーさん達のことを心配するべきだと思います……」
    「……そうなのか……、トレーナーはいつも、『俺のことは気にしないで食べてくれ
    オグリの勝った賞金だけで、俺はそれ以上のものを貰っている』と言ってくれるから」
    「いくらなんでも限度があるやろ……」
    「オグリさん、私もその通りだと思います……」
    友人二人の容赦ないツッコミに、哀しそうな顔になるオグリキャップ

    しかしタマモクロスとヤエノムテキの位置からは、その言葉を聞いて『終わった……』と言わんばかりに、券売機の前でへたり込むトレーナー二人の姿がよく見えていた
    その陰を背負った男達の背中が、この塩対応の主な原因であった

    「お待たせしました!味噌カツ丼20人前です!
    ご注文は!本当に!以上で!よろしいでしょうかァ!!」
    スタッフの、慟哭にも似た確認の声が響く

    「うん、これで全部だ
    とても美味しかった、ありがとう」
    「っ…………!アリガトウゴザイマース!!!(歓喜)」

    タマモクロス達のテーブルからは、スタッフ達が皆小さくガッツポーズをするのが見えた

    「……注文は、止めとこな……」
    「押忍、余りにも気の毒です……」
    掃除機のように味噌カツ丼の山を吸い込んでゆくオグリキャップに聞こえないように、こそこそと話し合う二人
    正直二人とも割と空腹ではあったが、この状態でスタッフ達に追い打ちを掛けるほど、人の心を亡くしたつもりも無かった

  • 7123/07/11(火) 22:29:10

    「「「「ありがとう、ございました!!」」」」

    松のやのスタッフ総出で見送られつつ、店を後にする
    スタッフの中には、涙を浮かべているものもいた

    「今日はどうもありがとう、全部とても美味しかった
    皆さんに無理を言ってしまった事だし、次はあらかじめ予約してから来させて貰いたい
    また、よろしく頼む」
    サイン色紙と店員達との集合写真(ポラロイド)を手渡しながらのオグリキャップのお礼の言葉に
    「ありがとうございます!
    またのお越しをお待ちしています!!」
    笑顔と元気を失わずに真っ直ぐに頭を下げた松のや店長の姿を見て、タマモクロス達はそのプロ根性に感服した

    ただ、後ろのパートやアルバイトらしきスタッフさん達の、覚悟を決めたような乾いた笑みは見なかった事にしておいた

    「とても美味しかった、これで元気になれた気がする
    トレーナー、皆、どうもありがとう」
    帰りの道すがら、精気を取り戻して穏やかな笑顔で微笑むオグリキャップだったが、
    「ああ、オグリがそう言ってくれるなら、俺も嬉しいよ……」
    その言葉を聞いて微笑むオグリキャップのトレーナーの目尻に、再び光るものを見つけたタマモクロスは、全力でツッコみたい衝動とひたすらに戦っていた

  • 8123/07/11(火) 22:30:08

    「あー、ほんまに疲れたし腹へったわ」
    「タマ達も、お疲れ」
    あの後、オグリキャップを寮の部屋に送り返した後に解散して、タマモクロスとトレーナーは元のトレーナー室に帰ってきていた

    「ウチらよりもトレーナー達の方が心配やで……
    オグリがなんぼ食べたんかはもう怖いから聞きたくないけど、トレーナーが今月生活出来るんかどうかは真面目に心配や」
    真剣にトレーナーの財政破綻を心配するタマモクロス

    「まあ、普段からそんな使う先も無いし何とかなるよ
    それより、タマもお腹減っただろ?
    俺達もお昼食べようよ」
    そういってトレーナーが差し出したのは、松のやの持ち帰り弁当の入ったビニール袋だった

    「いつの間にこんなの頼んでたんや?」
    「オグリキャップが食べ始めた時に一緒にね
    さもなきゃ、俺達の食べるものが無くなると思ったから」
    「今日に限っては、その判断は正しかったなあ……」
    周囲から食欲魔神のようにオグリキャップが言われるのにはいささか不満なタマモクロスだったが、今日のオグリキャップはそう言われても仕方のない有様だったのは間違いなかった

    「ほなウチがお茶入れるわ、トレーナーはテーブル拭いといてや」
    「了解ー」
    役割分担で食事の準備を整え、袋から弁当を取り出す

    中から現れたのはこんがりときつね色に揚がったロースカツ
    そしてキャベツと白ごはんというオーソドックスなトンカツ弁当だった
    トンカツの衣が湿らないように、キャベツは別容器に入れてくれている心遣いが嬉しい
    勿論袋の中には小袋のソースと辛子も入っており、トンカツ弁当として抜かりはない

    「キャベツ別盛りなんはええな、直置きやと長いこと持ち歩く時なんか、キャベツの水気でカツがぶよぶよになったりするし」
    「トンカツ屋だから、そこはこだわってるんだろうね」

  • 9123/07/11(火) 22:30:55

    お互いの前に蓋を開けた弁当を置いて

    「さて」
    「ほな」
    「「いただきます」」
    二人の遅い昼ご飯が始まった

    ”とりあえずはこれからやな”
    まずこれがなくては始まらない、とトンカツの上に小袋からソースを掛けていく
    辛子はカツの横に出しておいて、食べるときに適宜つけていくのがタマモクロスの小さなこだわりである

    ふと前を見ると、ソースを豪快にキャベツの上にぶちまけて、混ぜているトレーナーの姿があった

    「トレーナー、いつもいうてるけど、ソースはキャベツにかけるんやなくてカツにかける方がええで
    キャベツに掛けると味が薄くなるから、かけすぎになってソースが勿体ないし、体にも良うないで」
    「俺もいつも言ってるけど、この方が美味しいと思うんだよなあ」
    そう言いながらトンカツの上にキャベツを盛り上げて、もっしゃもっしゃと豪快に食べ進めていくトレーナー

    「健康のためには塩分取り過ぎはアカンでー
    タダでさえトレーナーは忙しいから外食多いんやし」
    世話女房の如くタマモクロスの説教がトレーナーに浴びせかけられるが
    「普段から食生活気にするべき何だろうけどねえ
    カフェテリアでご飯食べるときには、野菜多い目を心がけてるけど」
    と、素知らぬ顔でトンカツを食べ進むトレーナー

  • 10123/07/11(火) 22:31:44

    「ウチの食事メニュー組んだり出来るんやから、自分のも気をつけーや
    健康第一やで?」
    この反応は予想は出来ていたので、すかさず追撃を入れるタマモクロス
    「タマの食事メニュー組むのは苦にならないんだけどなー、自分のだとねえ」
    目線を微妙にそらして、すっとぼけるトレーナー
    「何やったらウチがご飯作ったろか?
    毎日は絶対無理やけど」
    トドメとばかりにタマモクロスが踏み込んでツッコむが
    「タマのご飯は美味しいけど、俺には薄味なんだよなあ……」
    トレーナーも心得たとばかりに矛先を逸らしにかかる
    「いくら名古屋のご飯が味濃いいうても、やっぱり塩分取り過ぎはアカンて……」

    わいわいと話が盛り上がる中
    ”……なんや夫婦の会話みたいになってきたな……”
    と多少照れくさい気持ちになるタマモクロスであった

    ”さて、ええ加減話してばっかりなんもアレやし食べよか”
    気を取り直して自分のトンカツ弁当に向き直る
    先程ソースをかけたトンカツに良い具合に味が染みているのを確認して、まずは端の小さめの一切れを口許へ

    あんぐり

    もしゃっ、じゃくっ、じゅわり

    ソースの染みた衣の柔らかな歯触りと、ソースの掛かっていない部分の香ばしい歯触りのコントラスト
    それを楽しみながら中の豚ロースを噛み締めると、滲み出てきた脂と衣のソースとが混ざり合い、コクのある甘味と旨みが口内全体に広がってゆく

  • 11123/07/11(火) 22:32:22

    ”うんうん、こうやってソース染みさせてから食べると、ソースの量が少なくて済むから財布にも体にも優しいんや
    ……トレーナーにもこうさせたった方が、絶対にええと思うんやけどなあ
    うん、やっぱりその内やらせよ”

    脳内でトレーナーの食の好みの矯正を誓うタマモクロス
    気の毒なことにトレーナー本人は、テーブルの向かい側でそんな事をタマモクロスが考えているとは夢にも思っていない
    コミュニケーションというものの難しさの好例であった

    ごくん、と口の中のトンカツを飲みこんで、その味の余韻が残る間にご飯を口にする
    トンカツの余韻がご飯の味と響き合い、ほわりとした柔らかな幸せがひろがる

    ”なんでトンカツと一緒に食べるご飯言うのは、こんなに美味しいんやろなあ
    家で炊いたご飯でも、味は普段と変わらん筈やのに凄い美味しく感じるんや、謎やわ”

    ご飯がトンカツの余韻を全て引き受けて胃の中に去って行った後、今度はキャベツの上に次のトンカツを載せて、先程のトレーナーのように豪快に頬張る

    もしゃっ、じゃくっ、しゃきり、しょり、ざくり、じゅわり

    キャベツの新鮮な歯触りと青い匂いがトンカツの油の風味と打ち消し合い、今度は最初とは異なるさらりとした旨みとキャベツの甘味とが、ソースの味により増幅されて口内に広がる

    ”キャベツをソースづけにするのもええけど、こっちも美味しいんやけどなあ
    ウチはこの方がさっぱりしててええわ”
    この食べ方だと、油の匂いで食欲が失せてくると言ったことが、キャベツの爽やかさにより少なくなるので少食のタマモクロスはこちらの方が気に入っていた
    逆説的にいうのなら、トレーナーは健啖だから匂いを気にしていないのかもしれないが、そこまで察するには彼女の人生経験はまだ少なかった

  • 12123/07/11(火) 22:32:51

    ”次は、辛子もいってみよか”
    真ん中の大きな一切れの、ソースの染みた部分に辛子を刷り込むように載せてやる
    そして辛子を塗った面が上になるようにして、慎重にカツを噛みちぎる

    みしゅ、ざくり、ぐっ、ざきっ、ぐいっ

    衣と肉を噛み切った前歯が合わさったのを感じ、軽く歯を擦り合わせるようにしてカツを真っ二つにする
    口内でカツを噛み締めれば
    、ソースと豚肉の味と共に、辛子のつぅんとした清涼感のある刺激が鼻へと抜けてゆく

    ”~っ、うん、これやこれ
    ちょっと鼻が痛いけども、この感じが癖になるんよなあ
    これがあるとないとで、揚げ物は大違いやし”
    実際揚げ物類は、ソースと油の風味により食べ進む内にクドさを感じやすいのだが、辛子の刺激はそういった揚げ物の『重さ』を軽く感じさせるのにぴったりであるために、衣が油を含みやすいフライ、カツに多用されている

    更に辛子の効能はそれだけに留まらない

    あんぐりと口を開けて、残りの半分を口にする
    辛子の刺激が、再度鼻へと抜けていく
    つうんと刺激が走り抜けた後で、未だ口内に残る味や香りに注意を向けてみれば、ソースの香りに含まれるスパイスの香りの粒子や、豚ロースの馥郁とした脂の香り、衣のパン粉が放つ日向の麦わらのような温かみある香りなど、匂いを構成する様々な成分が一つ一つ際立って感じられた

    ”鼻にリセットがかかるみたいやなあ
    口の中をさっぱりさせるのはレモンなんかでも出来るけど
    匂いをさっぱりさせるのは辛子の特権やな”
    ソースの染みたトンカツの放つ香りの一つ一つを改めて楽しみつつ、タマモクロスの箸は次のトンカツへと向かっていった

  • 13123/07/11(火) 22:33:15

    トンカツ、ご飯、キャベツ、
    ソース、辛子、豚肉

    それぞれの個性を楽しみながら色々な食べ方を試してゆけば、トンカツ弁当はきれいさっぱりと空になってしまった

    ”もうこれでおしまいかぁ……”

    最後に少し残ったご飯をゆっくりと咀嚼しながら、鼻に残るトンカツの残り香を楽しむ

    そんな穏やかな時間は名残を惜しむ間もなくご飯と共に胃の中に消え去っていった

    ふぅ

    なんとはなしに息を吐いて、冷めた湯飲みのお茶をゆっくりと飲んでゆく

    最後まで口の中に漂っていた微かな油と豚肉の匂いは、お茶の軽やかな苦みと落ち着いた香りに流されて薄れていった

    テーブルの反対側を見れば、同じように食べ終えてお茶を啜るトレーナーの穏やかな笑顔

    ”こうして二人のんびりしておれるんが、一番のご馳走かも知らんなあ”

    そう思いながらお茶を飲み干すタマモクロスの表情は、テーブルの向こう側とそっくりだった

    「「ごちそうさまでした」」

    二人揃って手を合わせて食事を終える
    文字通りの『家族の光景』がそこにはあった

  • 14123/07/11(火) 22:34:48

    なおこの話の後日談として、オグリキャップに24時間密着取材を敢行したテレビ局は、URA関連のコマーシャルを即刻全て引き上げられた
    その上にレース中継からも締め出されそうになった為に、経営陣の内何人かの顔ぶれが入れ替わる事になった

    これはURAがいかにオグリキャップというウマ娘の存在がもたらすブームを重視しているか、と言うことの表れだった

    シンボリルドルフに言わせるならば
    「一罰百戒、あのような取材を許してしまえば今後どのような悪影響があるか知れたものではない
    私個人として言うのならば、あのテレビ局は永遠にウマ娘レース報道に関わる権利を剥奪しても良いとすら思ったがね」
    とのことだった

    流石にこの発言にはシンボリルドルフのトレーナーも若干引いていたようで、
    己のトレーナーから危険人物のような扱いを受けたシンボリルドルフのショックは大きかったようである

    「あそこまでトレーナーによそよそしい扱いをされるのは、生徒会長職にあるものとして、ショックだったよ」
    とのコメントを見るに、案外堪えていないのでは?というようにも思えてくるが

    何にせよ、この対応をもってオグリキャップ密着取材事件は幕引きとなった

  • 15123/07/11(火) 22:35:59

    そのオグリキャップ本人はと言うと

    ドッドッドッドッドッ
    力強い踏み込み音と共に最終コーナーを回ってきたオグリキャップが、ゴールラインを越える
    そのタイムを計測するトレーナーの表情は、渋い

    「やはり駄目だ、回復してはいるが、まだ本調子の状態には程遠いみたいだ」
    オグリキャップ本人にもそれは解っているようで、走り終えた彼女は浮かない表情だった
    「参ったな、ジャパンカップまでもう時間が無いのに……」
    難しい顔で眉間を揉むトレーナー

    回復したとは言っても、オグリキャップ陣営は一度どん底まで落ちた状態を立て直すのに苦労しているようだった

    その悩む様子を余所目に

    「うおりゃあああぁ!!」
    小柄な芦毛が加速しながらコーナーから直線へと足を踏み入れる
    そのままグングンと加速してトップスピードにのって駆け抜ける姿はまさに『白い稲妻』
    ゴールラインでタイムを計る、こちらのトレーナーの表情も明るい

    「トレーナー!タイムはどうやった?
    ウチの手応えはかなりええ感じやってんけど!?」
    スピードを緩めて駆け寄るタマモクロスにトレーナーは
    「自己ベスト更新だ!このままジャパンカップ、獲るぞ!!」
    そう力強く語り掛けた
    「当たり前や!今年こそはウチが一着で日本総大将やったるでぇぇぇ!!」
    威勢良く返すタマモクロスの表情にも陰りは無い

    ジャパンカップ当日まで後2週間
    タマモクロスの秋G1戦線が始まろうとしていた

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 22:46:41

    すまない…スレを守れなかった

    それはそうと今回も大作お疲れ様です
    前回からの深刻な雰囲気から一転の明るくコメディな全力オグリキャップに笑うやら恐怖を覚えるやらで
    ノイローゼ状態のオグリの描写があまりにも生々しく読み返すのが怖いくらいだったので安心しました
    この時期のオグリの描写はまだどこでもやってないのでシングレでどう描かれるか楽しみですね
    時系列がどんどん進んでついにJC目前まで来たのでどう〆るのか期待してます

  • 17123/07/11(火) 22:51:21

    以上で投下は終了でございます

    スレをまたいでしまいましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか?


    良く落ちる追いにくいスレではございますが、なんとか完結までは続けていきたいと思っていますので、宜しければお付き合いをお願いいたします


    オグリキャップ物語の中でも特に黒歴史と語られる密着取材事件

    それにまつわる様々なものを書こうとしましたら何故かギャグ空間のオグリキャップが降臨しておりました 

    解せぬ

    しかし「心が弱っているときに一番美味しいのは故郷の食べ物」

    という今回書きたかった内容はそれなりに書けたつもりです

    心がしんどいときにはてきめんに効きますので、

    仕事なんかでキツい時には一度お試し下さい


    ギャグ空間にて今回奮闘していただきました、松のやの皆様ですが、

    個人的にはかつや、かつ膳等のトンカツ屋チェーン店の中でも、手軽さと言う意味では一番ありがたい立ち位置のお店です

    >>1の職場から近いですし、持ち帰り弁当によくお世話になっています


    揚げたてトンカツをお手軽に食べられるという立ち位置にて、これからも松のやさんには頑張って貰いたいとエールを贈らせて頂きます


    それでは皆様、今回もお付き合い頂きましてありがとうございました

    よき、松のやライフを

  • 18123/07/11(火) 22:57:23

    >>16

    ご覧くださいましてありがとうございます

    こちらこそうっかり落としてしまいまして申し訳なく……


    シングレでのこの辺りの表現がどうなるかは本当に楽しみですね

    何せウマ娘すらも含まれる

    『レースの周辺にいる者達からの干渉により追い詰められる主人公』

    という一種のメタ構造による悲劇ですからね……


    アプリウマ娘で描写出来ないのは当たり前として、言うならばマスコミ側にいるシングレのお二人がどうこれを捌くかは>>1も楽しみにしています


    不安定なスレですが、もうしばらくお付き合い頂けますならば幸いです

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 07:47:41

    朝の保守

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 16:53:40

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 03:01:07

    保守保守

  • 22二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 11:39:19

    お昼の保守

  • 23二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 21:51:34

    ほっしゅ

  • 24二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 23:36:57

    >>14

    ルドルフくん、よ。

    取材対象に対して敬意を持たぬ安易な消耗品としての報道を作ることしか考えていない軽薄なテレビの人たちはいずれ自身も消耗品として消費されるだろうから、大丈夫さ…

    君のような未来を背負うウマ娘が手を汚す必要はないよ。もし必要そうであればそれはいい具合に汚れて疲れた「大人たち」の仕事だし、その大人たちに責任を果たさせてくれ。君の心に大きな落ち着きが現れるまで、君の守りたいもののために「撫でる」のをやめないから…


    来週には「新しい」報道局の人たちが挨拶に来るだろうから、彼ら「は」ウマ娘たちのことを大切にしてくれる人達だから、優しく出迎えてやってあげてくれ。

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 07:27:41

    ほしゅー

  • 26123/07/14(金) 12:43:14

    >>24

    ご覧下さいましてありがとうございます

    ……岡部さん、発言が不穏過ぎて怖いです……

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 20:08:52

    おお、続きがあったとは!
    まとめて読ませて頂きます!

  • 28123/07/14(金) 20:21:06

    >>27

    ご覧下さいましてありがとうございます

    連載だというのが分かり難いですよねこのスレってやっぱり……

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 07:01:20

    朝の保守

  • 30二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 13:35:09

    お昼がカツパンになりました。

  • 31123/07/15(土) 14:01:04

    >>30

    ご覧下さいましてありがとうございます

    近頃皆様のご報告を聞くにつれて、このシリーズがコメダやCoCo壱番屋の回し者として管理人さんにBANされないかが心配になってきました

    その前に何とか完結させておきたいので頑張ります

  • 32123/07/15(土) 22:14:27

    皆様いつも拙作をご覧下さいましてありがとうございます

    今回、多少難産となっておりまして次回投下が恐らくは連休明けとなりそうです
    皆様には申し訳ありませんが、もう少しお時間を頂ければ幸いです

    ……決してネタに詰まったので気分転換で別ネタの掌編を書いていたせいと言うことは御座いませんのでお許し下さい(焼き土下座)

    それでは失礼いたします

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 23:03:49

    今やってるか定かでないんだけど、松のやのトマトソースかつがメチャクチャ美味くてねえ…
    疲れた夏の日の夜にあれ食べてビールをカッと飲んで寝ると翌日何もしたくなくなるぐらいにダラダラしたくなるんだ

  • 34123/07/15(土) 23:09:15

    >>33

    先週松のや行ったときには無かったですねえ……

    そんなに美味しいなら一度試してみたいですね、トマトソースかつ

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