♂モブトレーナーの執念

  • 1二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:43:29

    『私は走りたいんじゃないんです。勝ちたいんです』

    声をかけた時、返ってきたのはそんな言葉だった。
    模擬レースで後方を走っていた彼女をスカウトしたのは、打算込みだった。
    上位のウマ娘が俺みたいな新人の要求に答えてくれる筈がないから。
    妥協して声をかけたのだ。しかし、そんな心は見透かされていた。
    リボンマズルカは、見た目に反して意志が固いウマ娘だった。
    固すぎて、こうと決めた戦い方しかできない。不器用な子でもあった。
    それからも彼女は、模擬レースで明らかに合っていない逃げの戦法を繰り返し、そしてバ郡に飲まれ続けた。
    またか、とか。相変わらずだな、とか。
    そんな声が他のトレーナーから聞こえた。彼女は確か高等部、つまり中等部からずっと繰り返し来たのだろう。

    そこに、とても惹かれた。

    頑固で頑迷。そこは間違いなく欠点だ。だが、同時に魅力的でもある。
    強い意思の無いものに先なんてあるはずがない。
    それに、間違っているなら正すのがトレーナーの仕事なんじゃないかと、そう思えた。
    火が付いたと言えばいいのか、そんな気分だった。

  • 2二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:45:53

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  • 3二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:47:12

    それから彼女によく話かけるようにした。

    「やぁ、マズルカ」
    「……あぁ、あなたですか。スカウトなら断りましたよね?」
    「だね。所で逃げにこだわるのは、なんで?」
    「……いきなり、ですね」
    「まぁ、性分でね」
    「答える義務がありません」

    最初の頃はそんな感じだったし、それ以降も特に変わらなかったが、何度も声をかけ続けた。

    「や、ルカ」
    「…………ずっと、なんなんです? あなたは」
    「君のトレーナーになりたいだけなんだけどなー」

    苦笑しつつ答えると、ルカに呆れた目で見られた。

    「いい加減、ねちっこいですよ」
    「ねちっこい……」

    さすがに傷つく。

    「それに、聞きましたよ」
    「ん? なにを?」
    「そろそろ担当決めろって言われてるんですよね? 私みたいな頑固者じゃなく、素直な子をスカウトすればいいじゃないですか?」
    「あー、それかー」

    確かに言われている。それに、そろそろ決めないとデビュー戦に間に合わなくなる。

  • 4二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:48:17

    「ルカじゃダメかな?」
    「担当になってもないのに、あだ名で呼ぶ方は結構です」

    いつだったか、流れで呼んでしまい。しっくり来たから呼び続けていたが、確かにそうだ。

    「じゃ、マズルカさん」
    「…………それはそれで気持ち悪いですよ?」
    「……どうすりゃいいの?」

    彼女は思わずといった感じで、くすりと笑った。
    その時、彼女の笑った顔を見るのが初めてであることに気づく。

    「なんです? その顔」
    「いやぁ、別に」

    素直に答えると、引かれそうなのではぐらかす。

    「そういうの、気分が悪いですね」
    「ごめんごめん。所でさ」
    「はい?」
    「色々調べたんだけど、逃げにこだわるのは、逃げて勝つのがかっこいいから?」
    「…………え」

    図星です、と顔に書いてあった。
    色々、調べられる限り調べてたどり着いたのはそんな結論だった。

  • 5二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:49:25

    「な、なんで……」
    「んー、君ん家の近所で開催されてるローカルシリーズで、君が幼い頃に活躍してたウマ娘は逃げが多かったのと、当時のちびっこレースで君が逃げばっかりしてたって調べたから」
    「……いや、どこまで調べたんですか!? 本当にねちっこいですねっ!?」
    「そう? 対戦相手をスカウティングするのは、トレーナーの仕事だよ? 身長、体重、性格、バ場、距離、脚質、経歴、学園での成績、調子の波、えーとそれから──」
    「いや、あなたの場合……ストーカーの粋入ってません?」
    「──え、マジ?」

    思わず絶句する。
    データを秘匿するのも戦術と教わったので、あまり他人に話した事はなかったが、そんな風に言われたのは初めてだった。

    「ま、まぁ……それだけ君のスカウトに真剣……ということで一つ、どうだろう?」
    「…………一つ、聞いていいですか?」
    「うん」
    「私は、逃げで勝てますか……?」
    「正直、無理かな。君はスタミナはあるけど、逃げに向いてない」
    「~~っ!」

    明らかにショックを受け、強張った顔をする彼女に俺は続ける。

  • 6二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:54:07

    明らかにショックを受け、強張った顔をする彼女に俺は続ける。

    「でも、君は俺に言ったよな? 『私は走りたいんじゃないんです。勝ちたいんです』って」
    「そ、れは」
    「俺はさ、君と勝ちたいと思ったよ。だから、他のウマ娘をスカウトしようとは思わなかった」

    言い切った俺に、肩の力を抜いて、彼女はため息をする。

    「あなた、本当にねちっこいですね?」
    「たぶん、性分なんだろな……」
    「いいですよ。組ましょう」
    「ぅえ、いいの!?」
    「……いや、そこで驚くのは変でしょっ!?」
    「いや、気持ち悪いだのねちっこいだの言われた後だよ、こっちは!」

    俺が言うと彼女は天を仰ぎ、頭をかきむしる。

    「あー、もう! こんなのが私のトレーナーかぁ……」
    「だから君、ひどくない!?」
    「はぁ……、今からデビュー戦間に合います?」

    問われて、首を横に振る。

    「正直、無理かなぁ。まぁ長い目でじっくりやっていかない? 君には悪いけど」
    「しょうがないですね……。あ、それと」
    「うん?」
    「あなたは私のトレーナーになるんです。それに『君』呼びも気持ち悪いんで、『ルカ』でいいですよ……」

    そう言って、自然な笑みを浮かべて言うルカに、俺は彼女のトレーナーになれた実感が湧き、心が震えるのを感じた。

  • 7二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:55:33

    「わかった! これからよろしくね、ルカちゃんっ!」
    「ちょっ!? ちゃん付けはやめてくださいっ!! 本当に気持ち悪い……っ!」
    「だから、ひどくないっ!?」

    とまぁ、締まりは悪いが俺たちは一緒に走り出した。
    きっと、何度も負けるだろう。スカウティングは重要だけど、それだけでレースに勝てるほど甘くない。
    俺もルカもあまりにも粗削りなのだから。
    でもお互いに磨き合って行けば、必ず勝利を掴めるはずだ。
    それだけは確信できる。
    何故かと言えば、ルカはとても頑固で、俺はとてもねちっこいらしいから。

  • 8二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 20:55:35

    モブ娘にもトレーナーはいるんだよな・・・

  • 9二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:01:11

    今回のモブトレ濃いなぁ

  • 10二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:03:32

    時々上位に紛れ込んでくるモブいるけどドラマがあるんだなって

  • 11二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:09:41

    モブトレすきいっぱいほしい

  • 12二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:10:37

    >>8

    ちょっと違うかもだけどマルゼンスキーのシナリオに出てくるモブとそのトレーナー好き

  • 13二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:11:31

    読んだ後、画像のステータス見て、逃げから差しになってるってのと、ステータス低いから調整間に合わなかったってのが分かるのスゴくない?
    特に賢さ(レース知能)が低いのが頑固さを示してて脱帽すんだが?

  • 14二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:20:22

    >>13

    この人の作品全部そうだよ?

    見返してみ?

  • 15二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:32:27

    基本的に画像の前日譚だよな

  • 16二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:37:14

    モブトレのまとめみたいなのあったら教えてくれ

  • 17二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:38:14
  • 18二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 21:42:21

    良いものを読ませて頂きました

  • 19二次元好きの匿名さん21/08/29(日) 07:19:30

    おもろかった!

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