【SS】スレミオに挟まれないグエル

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 13:58:58

    クワイエット・ゼロを巡る騒動からおよそ一年の時が経った。
    余りにも変わり過ぎた情勢の中で、俺はジェターク・ヘビー・マシ―ナリーのCEOとして会社の立て直しに日々奔走していた。

    まだまだCEOとしての業務にはなれないし、経営も未だ厳しい所もあるが、寮の仲間たちもついているし、心強い協力者もいる。

    「CEO、ミオリネ様がいらっしゃっていますよ」
    「ああ、今行くと伝えてくれ」

    ミオリネも、その一人だ。
    既に婚約者ではなくなった俺とミオリネだが、その関係は案外悪くない。
    互いに支え合いながら、時に愚痴なんかを零しあいながら。
    その身には重すぎる立場と責務を背負う者同士で、分かり合えることも多かったのだ。

    そんなこんなで、今の俺は案外満たされていた。
    ただ一つ、気がかりなことがあるとすれば――

    あれから俺は、まだ一度もスレッタ・マーキュリーに会えていない……逃げているということだ。

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:04:47

    うむ…続けて?

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:05:06

    ほう……続けたまえくださいませよ

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:07:43

    「ありがとね、グエル」

    遡って、一年前。
    クワイエット・ゼロの一件が解決してから日も経たないうちに、ミオリネが俺を訪ねてきたことがあった。
    互いに、再び動き出してからだと時間も取れないからと、随分慌ただしかったことを覚えている。

    ミオリネが俺に対して礼を言う理由自体は、いくつか考えられた。
    中でも、ホルダーをスレッタに返した一件のことであれば、正直礼など寧ろいらないとさえ思っていたが。
    だが、ミオリネが語ったその理由は、俺にとって意外なものだった。

    「私のこと、守ってくれて」
    「は?……なんのことだ、心当たりがないが」

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:09:48

    ふむ

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:14:56

    一瞬、シュバルゼッテの一件がよぎったが、わざわざそれを掘り返すこともないだろうとすぐに脇に置いて。
    俺がミオリネを守ったことなんて、何かあっただろうか。
    寧ろ俺は――

    「一番つらい時に、寄り添ってくれてたのはグエルだったから。ちゃんと、救われてたのよ?私。クイン・ハーバーから帰ってきた時も、閉じこもっちゃった時も、グエルは味方でいてくれるんだって思えたから」
    「……」
    「ごめんね、あの時は、あんたに甘えちゃった」

    俺は寧ろ、ミオリネに何もしてやれなかった、俺の認識ではそうだった。
    ミオリネは俺に甘えたといった、恐らく、あの時のミオリネに本当に必要だったのは、「図々しく押しかけて引っ張り出すこと」だったのだろう。

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:16:25

    まぁ……確かにこのお礼は言わなきゃだめよあんた

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:21:05

    いいね…本編の補完みたいで

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:23:54

    俺は、スレッタ・マーキュリーのことが好きだった。
    ミオリネが、スレッタのことを大切に思って、スレッタのために俺の力が必要だと言ったからこそ、俺はミオリネの手を取った。
    婚約者となった俺とミオリネの間には、恋慕の情などなかった。

    それでも俺は、スレッタがミオリネの元に進み、ミオリネの心を救ってみせたことに、「悔しい」という思いを抱いていたことを否定できなかった。
    スレッタに嫉妬したのか、それとも二人の関係、二人の信頼そのものに嫉妬したのかは分からない。
    俺の声はミオリネに届かない、スレッタでなければミオリネを救えない。
    その事実が切なく思えたのは、どうしようもなく事実だ。

    「……心配ぐらい、するだろ」

    ミオリネが言うには、俺の声は確かに届いていたらしい。
    その時の彼女に、本当に必要な物ではなかったかもしれないが。
    そのことは、俺にとって救いのように感じられた。

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:39:38

    このレスは削除されています

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:41:31

    「でも、あんたにあんなことまでさせるつもりはなかった」
    「総裁の真似事か?俺は大したことはしていない、本当に短い時間だったし、ラジャンさん達の助けもあった」
    「それでも、大変だったでしょ?精神的な負担は相当だったはずよ」
    「……大変だな、お前も」

    それを言うならその負担をもっと長い間背負ってきた、これからも背負っていくお前はどうなるんだと。
    言ったところでミオリネに退路はなくて、結局俺は彼女の覚悟を尊重するしかない。

    「ほんと、損な性分してるわよね、あんた」
    「これでも、成長したつもりだ。自分の身の丈以上の物を背負わない、そういう選択を取れるようになったさ」

    クイン・ハーバーの一件についてもそうだ。
    一人で背負っていくミオリネの、その重荷を共に背負ってやりたいと思って、できなかった。
    俺は真っ先にジェターク社を立て直さなければならない。
    俺は、守りたいものの何もかもを全て守れるようなスーパーヒーローではなくて、そうなるための力だって、今はあまりにも足りない。
    勿論、俺に責任の無い物までもを背負う道理はどこにもないのだろうが、俺に言わせれば、ミオリネにだって地球の人々の怒りを受け止めなければならない責任なんてなかったのに。

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:47:32

    ようやっとる

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 14:56:39

    うん、子供が背負う事ではなかったよ

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 15:04:40

    「身の丈以上の物を、ねぇ」

    だが、ミオリネは俺の言葉を聞いて、今日初めて笑みを見せた。
    俺がホルダーだったころに散々見た、ミオリネ特有の意地の悪い笑みに似たものだった。

    「無茶だと思うわよ?御曹司のあんたがジェタークの立て直しを目指すのは、まあ当然というか、誰も文句なんて言えないけど。あんた、アスカティシア学園の存続も目指してるって話じゃない」

    アスティカシア高等専門学園。
    ベネリットグループ運営の高等教育機関にして、俺たちの母校。
    度重なる襲撃を受け校舎そのものが甚大な被害を負ってしまい、ベネリットグループの解散を経て、今後もこれまでの通りに存続し続けることは不可能だった。

    「あんたがやらなきゃいけないこと?」
    「そうだな……俺がやりたいことだよ」

    あの学園での思い出は、決していい物ばかりではなかったが。
    それでも学校というものは、教育機関というものはこれからのより良い未来づくりのためには不可欠なものだと思っているし、俺には学園再建を成し遂げたい理由もあった。

    「俺が、俺たちが作るアスティカシア学園には、スペーシアンもアーシアンもない、望むものが誰でも教育を受けられて、出自も身分も関係なく、奪い合うのではなく誰とでも手を取り合える……そんな世界の足掛かりになる学園にしたいんだ」
    「……眩しい理想ね」
    「笑うか?」
    「笑うわよ。……素敵な未来だと思うから」

    あの時、セドから聞いた願いは、きっと彼一人だけのものではなくて、地球に生きる多くの子どもの願いなのだと思う。
    俺たちが当然のように享受していた生活は、誰かにとっては渇望しても届かないほどに得難い物で。
    でも俺は、その苦しみを皆で分かちあうのではなく、誰にとっても当たり前になるように、そういった方向へと持ち上げたかったのだ。

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 15:54:01

    「私が、ちゃんと約束通りに、ジェターク社の支援を出来れば……学園再建ももっと楽になるんだろうけどね」
    「それを言うな。ジェタークは今も残っている、それだけで寧ろ万々歳だろ」

    俺とミオリネの契約。
    総裁選の際にジェターク社がミオリネの後ろ盾になる代わりに、総裁となったミオリネはジェターク社を支援する。
    結局ベネリットグループは解散になり、グループの資産もほぼ全てが失われることとなり、グループの多くの企業はその立場を危うくした。
    元より、ミオリネの解散の決断がなくともベネリットグループの未来は明るい物ではなかったことは明白だったが。
    無い袖はふれない、今のミオリネにジェタークの支援を求めるのも酷という話だろう。
    そもそもが、総裁選の時だってジェターク社の力は脆いものだったし、後ろ盾として果たしてどれだけ役目を果たせていたかどうか。
    俺の個人的な感情抜きにしても、「残っただけで万々歳」というのは正しくその通りなはずだ。

    「……ほんと、契約なんてするもんじゃないわね」
    「まあ、それはそうだろ。一介の学生同士で、そんなものがなくたって助け合えればよかったんだ」
    「今となっては、正にそのとおりね」

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:01:47

    「……それでも、自分の選んだ道の、責任は取らないとだから」

    ミオリネは、元来強い女だ。
    気が強くて、プライドが高い。
    約束を違えることなど、何よりも好まないだろう。

    「いつか、きっと、ジェタークの力になる。私の誇りにかけて」

    これ以上お前が背負うことなど何もないというのに。
    きっと、心から、そうしたいのだろうと思って。

    「ああ、期待してる」

    俺はやはり、ミオリネの覚悟を尊重する言葉をかけたのだった。
    改めて、俺たちの関係も、随分変わったものだ。

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:06:52

    出世払いみたいなもんね

  • 18二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:23:12

    「グエル!!あんたほんといい加減にしなさいよ!!」

    それから一年後、つまり今。
    何故か俺は、ミオリネからキツイ叱責を受けていた。

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:34:16

    ミオリネが怒っている理由は至極単純だった。

    「あれからもう一年も経つってのに、まだスレッタに会ってないってどういうことよ!あの子がどういう状態なのか、知らないとは言わせないわよ!?」
    「……別に、今更会う理由もないだろ」
    「あんたねぇ……!」

    ガンダム、キャリバーンに搭乗し、パーメットスコアを上昇させたスレッタは、あの戦いを通じて深刻なほどのデータストームのダメージを受けた。
    キャリバーンから離れた後も、幾日を経ても痣は消えることがなく、今もまだ病院で寝たきりの生活を送っていた。

    知らない仲でもあるまいし、一度も見舞いに顔を出さないなんて、我ながら薄情な話だ。

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:39:59

    「……嫌われてるとでも、思ってるの?グエル」
    「……」
    「それか、なんとも思われてない、とか。あの子の心を、勝手にそんな風にはかってるんだ」

    肯定はせずとも、否定もできない。
    そういった心地だった。
    俺にとってのスレッタの存在の大きさと比べて、スレッタから見た俺は、果たしてどれだけちっぽけな存在だっただろうと。
    俺の知っているところで、知らないところで、数々の苦難に遭いながら。
    きっとミオリネと、仲間たちと共に乗り越えてきたスレッタに、俺が出来たことは何かあっただろうか。

    「はぁ……あんたはね、無頓着よね」

    呆れたようにため息を一つついて、ミオリネは俺にそう毒づいた。

  • 21二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:49:27

    「別に、スレッタに対してだけじゃないわ。きっと、ラウダだってそうでしょ。あんたは……あんたがどれだけ他の人に影響を及ぼしてるか、あんたが誰かにしてあげたことについて、無頓着すぎるのよ」

    言葉は少し刺々しいが、ミオリネの表情はずっと優しくなっていて。
    「ラウダ」の名を聞いて、俺はいつかあいつに言われた言葉を思い出す。
    確か、高潔で、傲慢なのが、俺の罪だと言ったか。

    「ジェターク寮の奴らも、あんたのことを心から慕っていたし、私だって、あんたに感謝してることは山ほどあるわよ。……分かりやすく言うと、シャディクのこととか」
    「あ……」
    「あんたそれを、当然のような顔をして『俺は何もできなかった』なんて振舞うのよね。はっきり言って、そういうとこは不愉快よ」

  • 22二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:50:03

    スレッタ→グエルの感情って視聴者的にもイマイチよく解ってないのよね
    「強い人」って評価されてる数少ない人ではあるが

  • 23二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 16:53:47

    「スレッタにだって、伝わってるよ。グエルが、スレッタを思ってやったこと。スレッタを思ってかけた言葉。あんたが思ってるより、ずっと」
    「……」
    「お願い、一度会ってあげて。……友達に会うのに、理由なんていらないんだから」
    「……分かったよ。必ず、会いに行く。約束する」

    結局俺は、ミオリネに押し切られる形で、スレッタと会うことを約束した。

  • 24二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:03:27

    このレスは削除されています

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:04:13

    スレッタに会いたくない理由は、例えば、ガンダムに乗って弱った彼女の姿を見るのが怖かった。
    ……俺は、今でも、どうしても、スレッタがああまで傷ついてまで、彼女が背負わなければならなかったことなのかと疑問に思ってしまうのだ。
    ――変われるものなら、変わってやりたかったとも。
    スレッタの家族が起こした問題で、スレッタが話をしたいと自ら望んだことで、きっとこんな考えは俺の傲慢で、独りよがりなのだろうが。
    ベッドに横たわるスレッタを見るのは……自分の罪を、自分の無力さを突き付けられているように思える気がして、怖かった。

    他にも理由は色々とあるが、いずれにしても自分本位なもので、「絶対」と言うほどの強い理由ではなかった。
    それでも、この一年はジェターク再建、再興の為に忙しかったから。
    単に忙しいということを理由にして、俺はスレッタに会いに行かないことを正当化していたのだ。

  • 26二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:13:42

    寝たきりの人に会いに行くのって勇気いるよね
    元気な時を知ってるからショックも大きい

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:16:56

    仕事量考えたらジェターク流無理をしたら行けるってレベルなんだろうなって感じはする

  • 28二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:21:02

    考えてみると会社と学校運営…どちらも軌道に乗ってない状態で頑張ってんだよな
    グエルよく倒れてないな

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:22:07

    それから少しの時が経ち、俺は久しぶりに地球へと降り立った。
    出来ればミオリネがいる時に、と思っていたが、二人とも多忙の身だ。
    どう調整しても、それは叶わなかった。

    コンコンと、病室のドアを軽く叩く。

    「……スレッタ、俺だ。グエルだ」

    前もって来ることは連絡していたが、いざ顔を合わすとなると、これまで一度も来ていなかったことが後ろめたく感じられ、彼女の名を呼ぶ俺の声は嫌にか細い。

    「はーい!」

    対してスレッタの声は、とても朗らかだ。
    俺の知ってるスレッタの声そのもので、この扉を開けたら、いつかと変わらない元気な姿でそこにいるんじゃないかと思うほど。

    「入るぞ」

    意を決して、扉を開け室内に入った俺の目に映ったのは、

    「グエルさん!お久しぶりです!」

    ベッドの上、身を起こして元気に手を振るスレッタの姿だった。

  • 30二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:28:12

    恋に落ちる瞬間すぎる

  • 31二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 18:04:37

    俺の姿を確認して、パァッと表情を明るくさせるスレッタに、俺は安心すると共に、罪悪感も抱く。
    スレッタは、本当に俺がここへ来ることを望んでいたのか。
    待たせてしまった、なんて言うと少し偉そうかもしれないが、変な意地を張らず、もっと早く来てやれば良かった。

    「寝てなくていいのか、体に障るんじゃ……」
    「大丈夫ですよこれくらい!私、頑張ってるんで!少しずつですけど、良くなってきてるんですから!」

    顔にはまだ痣も残っている。
    きっと、体にも。
    それを痛々しく見せないような、元気なスレッタの振る舞いに、気を緩めたなら涙さえ流してしまいそうになる。

    「食事は、問題なく摂れているんだったな。食事というか、間食用だが、お土産も持ってきた」
    「わーい!ありがとうございます!」

    病室の中ではあるが、スレッタは変わらない。
    俺の知ってるスレッタのように思えた。

  • 32二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 18:24:21

    「グエルさん、ありがとうございました」
    「なんだ、改まって」
    「次会えたら、ちゃんと言わないとなってずっと思ってたんです」

    いつかのミオリネと同じように、スレッタはおもむろに俺への感謝を告げた。
    ミオリネが言うには、スレッタには俺の思いも、言葉も、ちゃんと伝わっていると。
    それでもなお、俺はスレッタの礼が俺の何にかかっているのか皆目見当がつかなかった。

    「お母さんを止める時……クワイエット・ゼロの時に、一緒に出てくれたこと。後ろを守ってくれたこと」
    「……別に、礼を言われるようなことじゃ。結局俺にできたことなんて何もなかっただろ」
    「そんなことないです!だって、グエルさんも、危なかったって聞きましたよ?シュバルゼッテから、みんなを守って……グエルさんがいなかったら、私の大切な人たちが何人も……計画だって失敗してました!」
    「……」

    少し苦笑いをする俺に、スレッタはあっと間抜けな声を出してから、慌てて早口で弁明した。

    「いやっ、別にラウダさんを責めてるわけじゃなくて!!私だって最後はシュバルゼッテの力も借りましたし、それに、えっと、何が出来たかとかじゃなくて、グエルさんが一緒に戦ってくれたその気持ちが嬉しかったんです!」
    「ああ、分かったよ、分かってる!そんなに慌てるな」

    スレッタが、俺がつかれたくないようなことを話すことは、出会って間もない頃から度々あった。
    そこに悪意があるなんて思っちゃいないし、なんならあの時のことは、スレッタがラウダを責めたとして当然というしかない。
    それを「責めてるわけじゃない」と言う、スレッタは優しい人だ。

    「私のこと心配してくれたのも、一度や二度じゃなかったですよね。グエルさんが気にかけてくれてたこと、今なら良く分かります」
    「……そう何度もあったか?」
    「ありましたよ?でも、私はいつも、結局グエルさんの忠告を聞かなくて」
    「お前には、よく『逃げろ』って言ってた気がするからな。でもスレッタは、進んで、大体欲しい結果を手に入れてきただろ」
    「えへへ……」

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 18:35:46

    逃げたら一つ、進めば二つ。
    スレッタが、母親から教えてもらった言葉。
    今となっては、俺にとっても大切な言葉だ。
    いつ何時、逃げることが悪いことだとは思わないが、
    実感として、この言葉を聞いてからの俺は、逃げてろくなことにならなかった、
    逃げることをやめて何とか間に合った、そんな印象深い経験を何度かすることになった。
    今の、忙しくも満たされた毎日も、進んだ結果得られたものだと思っている。

    それでも、スレッタにはつい、「逃げていい」と告げてしまうことがあった。
    最後、スレッタが進んだ結果、今目の前の彼女は入院生活を送っている。
    この結果だけを見ると、進んだことが正解だったとは言いにくい所もあるが。
    それでもあの時スレッタに必要な言葉は、「進め」と、「自分も一緒に進むと」、
    そういった応援の言葉だったのだろう。

  • 34二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 18:52:21

    これまで顔を合わさなかった分、あれもこれもと楽しそうに話すスレッタは、
    正しく俺が恋をしたその人で、しかし彼女は俺の恋人ではない。

    その理由を俺は、「スレッタが、俺にとっての一番大切な存在ではなかったから」だと結論づけていた。
    ミオリネとの契約の際、ミオリネがスレッタを思って彼女のことを突き放すのだと痛いほど分かった上で、俺はミオリネの考えには反対だった。
    「ガンダムとか何にも縛られない世界で幸せになって欲しい」と願うミオリネの気持ちには賛同できたが、きっとそれは叶わないことだと思っていたから。
    それでもミオリネの手を取ったのは、ジェターク社を再建したいと願いながらどう進めばいいのかまだ見えていなかった俺にとって、ミオリネの提案が魅力的に思えたから。
    勿論、ミオリネがただスレッタをいたずらに傷つけ、自分のためだけに俺に協力を求めたのだとしたら、俺はあの手を取っていなかっただろうが、
    あの時俺は、俺にとって最も大切だったジェターク社のために、スレッタを最も大切に思うミオリネの手を取ったのだ。

    シャディク達との決闘の時もそうだ。
    スレッタに助っ人を頼まれて、俺は父さんとの約束があるからとそれを断った。
    俺はスレッタを大切に思いながら、いつだって彼女のことを一番に優先することはできなかった。
    その結果が、今なのだ。

    勿論、この考えだってひどく傲慢なものかもしれない。
    俺が決闘の助っ人を了承しようが、ミオリネとの契約を断ろうが、スレッタと恋仲になれたとは限らないし、
    仮にミオリネがいない世界でだって、スレッタは俺になびくことなど決してないのかもしれない。
    別にそれはどっちでもよくて、俺にとってはただこの割り切りだけが必要だった。
    スレッタ以上に大切な物があるグエル・ジェタークの人生を、俺は後悔していないし、自分の選択に満足している。
    ジェターク社が、ジェタークの仲間が、一番大切なのだと、それでこそ自分なのだと思っていた。

  • 35二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 20:27:36

    「そういえば!アスティカシア学園が再開するって聞きました!」

    ふと思い出したように、スレッタが学園の話題を口にした。

    「グエルさんが、残してくれたんですよね!」
    「俺の手柄、みたいになるのも少しこそばゆいけどな。優秀な協力者に恵まれた、俺の力で残せたわけじゃないさ」
    「でも、ありがとうございます!嬉しいなぁ、あの学園には、素敵な思い出が沢山ありますから!」

    アスティカシア学園で、スレッタは苦い思いも沢山したはずだ。
    その最たる例の一つが、もしかしたら俺との決闘かもしれないが……
    とにかく、俺ですら真っ先に思い浮かぶのは辛かった思い出だというのに、
    「素敵な思い出が沢山ある」と笑顔で語るスレッタは、本当に強くて、心が清らかだ。

    「あの学園で、ミオリネさんと仲良くなって、地球寮の人たちとか、大切な友達も沢山できました!」

    一人一人、名前を呼びながら指を折っていくスレッタ。
    それに……と俺の方を見て、そこで「うーん……」と唸ってしまった。

    「グエルさんとは、言うほど学園では仲良くなれませんでしたね」
    「なっ……確かに、お前からすると俺が学園にいた時間は短かったかもしれないが――」
    「それに友達でもないです」
    「なんだとっ!?」

  • 36二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 20:38:36

    俺は、スレッタに友達とも思われていなかったのか!?
    それは少し、いや大分ショックだ……
    露骨に落ち込む俺に、スレッタはツンとした口調で言った。

    「だって、友達だったらこんなに避けませんよね?一年間も、お見舞いに来てくれないで」
    「うっ……さ、避けてたわけでは」
    「ミオリネさんが言ってました。グエルさんは、私に会いたくないから避けてるんだって。そんな奴のこと友達だなんて言わなくていいって」
    「ミ、ミオリネ……」

    友達には会う理由なんていらないって言ったのはミオリネじゃなかったか!?
    まあ、ほとんど自業自得と言うか、「会いたくなかった」のも事実だからどうしようもないが……

  • 37二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 20:46:40

    「私はずっとグエルさんと友達になりたいって思ってましたよ?でもグエルさん、全然来てくれないし、嫌われたんじゃないかって思ってました」

    嫌われてたわけじゃなくて安心した、とほほ笑むスレッタ。
    そりゃあ、見舞いに来なかったのは俺が全面的に悪いんだが、
    全く、人の気も知らないで……

    「……好きだからこそ、来れないってこともあるだろ」

    思わずつぶやいてしまった言葉は、失言だったかもしれない。
    スレッタには耳聡く聞かれてしまったらしく……

    「なんですかそれ!全然分かんないです!」
    「なんでだよ!!分かれよ!!」
    「分かりません!!」
    「「…………」」
    「くっ」
    「ふふっ」
    「「あはははは!!!」」

  • 38二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 20:52:39

    いつかの時は、こんな流れで、俺はもう一度スレッタに思いを伝えた。
    大切なんだと、そう言った。
    そして、スレッタにフラれた。
    ちゃんと、思いが伝わっていた証明だ。

    今はもう、同じように告白することはできない。
    それでも、俺には彼女に伝えたい思いがあった。

    「今の俺には、きっとお前と同じように、大切な物が……大切な人が、沢山いる」
    「……はい」
    「ラウダ……は、弟だから、別にしても。例えば、フェルシー、ペトラ、カミル……ジェターク寮の仲間たち。あいつらは俺にとって大切な友達で、大好きな奴らだ」

    少し唐突になった俺の話を、スレッタは真面目に聞いてくれる。
    その瞳は、俺の瞳を真っすぐと見据えていた。
    とても優しい瞳だった。

    「……スレッタも、俺の中では、その中の一人だ。お前も同じ気持ちだったら、嬉しい」

  • 39二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 20:58:59

    「……えへへ、グエルさん、今もまだ、私のこと、大切なんですね。嬉しいな、グエルさんにそう言ってもらえたの、本当に嬉しかったから」
    「大切だ、きっと、一生そうだ」
    「私も、同じ気持ちです。これで私たち、友達ですね」

    心から嬉しそうなスレッタを見て、まだ少し、切ないと感じてしまうのは、俺も男だから、仕方ないのだろう。
    割り切ったとは言っても、心はすぐには変わらない。

    「じゃあ、これからは、時々会いに来てくれますよね?」

  • 40二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:00:09

    「それはダメだ」
    「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?なんでですかぁ!!!」

  • 41二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:07:51

    「あのなぁ、簡単に言ってくれるが、俺は本当に忙しいんだぞ?ジェターク社のことも、形こそ残ってはいるがまだまだ安心できないし、学園のことだって分からないことだらけで、業務以外にも勉強しなければならないことも多い」
    「あ、あわわ……」
    「地球に来るのも楽じゃない、今日だって本当に無理をして切り詰めてきてるんだからな」
    「あ、ありがとうございますぅ!!」

    まあ、多少誇張しているところはあるし、俺に怯えていた時のように縮こまるスレッタは可愛くも可哀そうではあったが、
    俺が今日スレッタに会いに来たのは、このことを伝えるためだったから。

    「――だから、お前が会いに来い。そんな後遺症なんて、さっさと治せ」
    「!!……はい」

  • 42二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:08:35


    いいオチだ

  • 43二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:18:55

    忙しいというのは、決して嘘ではない。
    俺は長い時間留まるわけにはいかなくて、「もっとゆっくりしていけばいいのに」と言うスレッタに後ろ髪を引かれながらも、病室を、地球を後にした。
    病室から出る時、来た時と同じようにブンブンと笑顔で手を振るスレッタを見た時は、俺も延々と手を振り返し続けたいとも思ったが、そうするわけにもいかずに控えめに手を振り返してから扉を閉じた。

    次、スレッタと会える日はいつになるのか。
    気持ちだけでは、体は元に戻らないことなんて分かっている。
    これからのリハビリだって、スレッタにとっては決して楽な物ではないのだろう。
    それでも、スレッタに必要なのは、厳しくも背中を押すような言葉だと思うから。
    きっと、ミオリネも同じようにスレッタを励ましただろうから。

    「……待ってるぞ、スレッタ」

    今は、スレッタを信じて。
    俺は、その時を楽しみに、今はまた俺の為すべきことを為そう。

  • 44二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:30:54

    「とかなんかカッコつけてたみたいだけど、普通にお互いの息抜きに必要だと思ったから連れてきたわよ」
    「お、おいミオリネ!引っ張るな!」
    「ミオリネさん!グエルさんも!」
    「はい、これ、グエルのお土産」
    「おいお前が渡すな!」
    「ありがとうございます!!」
    「大体、個人で連絡先も交換してないんだって?友達なんでしょ、それくらいしときなさいよ」
    「あっ!言われてみれば!忘れてました……!」
    「……」
    「スレッタもね、地球に学校作るんだって。誰が一番相談に乗れるかっていったら、あんたでしょ」
    「……力になれる保証はないぞ。アスティカシアのことだって、俺の力なんて精々……」
    「フンッ」
    「いたっ!?ちょ、おい!」
    「あんたはまたそうやって自分のこと……」
    「……フフッ」
    「「?……スレッタ?」」
    「あ、ごめんなさい……二人が、仲良しで、嬉しくて」
    「どこがだ!今思いっきり足踏まれたんだぞ!」
    「えへへ……頼りにしてますね、グエルさん!」
    「……おう」
    「いずれは、水星にも学校を作るんです!グエルさんが力を貸してくれると、心強いです!」
    「ちょ、ちょっと待て、それはほんとに力になれないと思うぞ!?」
    「ま、まあ精々頑張りましょうよ」
    「楽しみですね!」

    【FIN】

  • 45二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:41:34

    爽やかさなラストでいいわね
    途中までのしっとりさもすごく良かった

  • 46二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 21:57:59

    こういう正史っぽいss書いてくれるひとあんま見ないのですっごく助かる!!
    本編でもこんなやりとり見たかったぜ

  • 47二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:25:00

    公式でありそう
    グエルいい男だし、グエルから見たスレッタとミオリネもとても良かった

  • 48二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 10:04:06

    いいSSだった、お疲れ様です

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 19:12:57

    心が洗われるんじゃ~、あ~~

  • 50二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 06:31:19

    グエスレ友達エンド助かる
    ありがとう

  • 51二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 15:18:48

    これは、いいものだありがとうございます。
    グエスレミオに幸あれ

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