- 1二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:20:34
- 2二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:20:53
かわいいからSS書くね
- 3二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:21:29
お願いします
- 4二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:21:48
あと、創作カテでやったらポケカテでやれって言われたからこっちでやるね
- 5二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:22:15
パルデアを遠く離れ遥か東
海を越え、山野をまたいだその又先の名も知れぬどこか
そこでは、広大な平原を我が手中におさめんと、東西南北4つの大国がしのぎを削ってにらみ合いを続けていた。
それぞれの王たちは先代の始めた愚かな争いをどうにか収めるべく頭を悩ませていたが、長年の間に凝り固まった怨嗟の楔は、賢王ひとりではもはやほどけず、いわんやそれが4つもの大国の集まりともなれば。
怨嗟といっても実際に剣戟を交える戦士たちにとっては、居たかどうかも分からない遥か古代の父祖の恨みなど命をかける理由としては軽すぎるものであった。どの国の将も兵も徒に鉄の音を鳴らすばかりで相手を斬ろうなどとは到底思わず、戦線はここ数十年動いていない。
そんな状況に業を煮やしているのは各国の重臣たち。
敵国との密易によって財を蓄える者も多い彼らである。相手国の滅亡を心から求めている者などいない。が、対等な立場で公平な取引をしようなどという気は毛頭ない。相手国よりも強い軍事力をもって不平等な取引を押し付け、それによって財を増やす。それが彼ら重臣たちにとって最も形である。そのためか、戦場での膠着状態は歯がゆいものであった。
本来ならば重臣たちの奸計など王の威勢をもって退けられて然るべきである。しかし、不幸なことに、東西南北どの王も重臣たちを押しのけるほど強い力を持ってはいなかった。 - 6二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:22:38
平和を望む民草と賢王。
暴力と搾取を望む重臣たち。
この広大な平原は数代を経てもなお、悪意が溜まりこんでいくのを抑えることができずにいた。
そんな折、東国の若き外交執政官玉兪は来期開催予定の首脳会談での朝貢品選びに頭を悩ませていた。 - 7二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:23:07
彼は平民出身であったが、幼い頃から言動が明哲で、科挙での論文が王の目に留まり、めでたく王の側に侍るにいたった秀才であった。
(科挙:めちゃくちゃ難しい国家公務員登用試験。論文と口述の2段階。主に儒教や道教、歴史と博物学から出題された模様。ここでは宗教の部分の代わりにポケモン学をイメージしてね。)
玉兪は自らを取り立ててくれた王を心から敬愛し、王の子たる民に対してもまた、深い愛情をもって接することを心がけていた。
重臣たちは平民出身でありながら王のお気に入りとなっている玉兪を、当初は快く思っていなかったが、彼の人当たりの良さに態度を軟化させ、いまや朝廷の中でも玉兪を悪く思う者はごく一部の保守的な老臣だけであった。
平民出身で後ろ盾のない彼が首脳会談での朝貢品選びという大役を任せられたのも、ひとえに彼の人格に起因するところが大きい。
朝貢品といえば、まるで国家間に上下関係があるかのように聞こえてしまうが、実際にはそういった関係性はなく、あくまで東西南北の4国は対等であった。経済でも軍事でも対等であったがために、ここまで問題が長引いたとも言えるが、その件は割愛しよう。
この世界のあらゆるところにポケモンはいるものだが、この平原4国においてもそれは変わらず、火山の中、河の中、森の中、泥の中、貴人の袴の中にまでポケモンたちは生息していた。
これから起こる事件は、人間たちの力だけでは足りず、ポケモンたちの力がなければ起こることはなかっただろう。 - 8二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:23:48
テッカニンが元気よく飛びかう水無月の晦日(つごもり。月末のこと)、外交執政官玉兪は国の西端、つまり平原の中央側へと馬車を走らせていた。馬車を引くギャロップたちも心なしか前のめりに見える。
「西端の村で、王たちに献上するに値するものが見つかった」
部下からこの報を受けた玉兪は、部下の帰りを待たず自らの目でその逸品を確認せんと村へと走るのだった。
村に着いた彼は村長たちへの挨拶もそこそこに、件の逸品を一目見んと足を急がせた。
村長に出された茶がぬるくなる前に、部下が一人の少女を連れてきた。いや、年恰好としては8歳程だろうか、少女と呼ぶにも少し足りないだろう。
「この者は・・・?」
部下がこの女児を連れてきた意図が分からず質問する玉兪。部下が言うには、この女児が今回の逸品を見つけたとのこと。
玉兪は片膝をついて女児に目線の高さを合わせ、にっこりと笑い、感謝を述べた。女児は初めて見る高官に少々緊張していたが、悪意を振りまく人物ではないことを察するや、長袖に隠れた両手を持ち上げて手の中の「それ」を見せた。
「・・・・っ」
玉兪は声を失った。
女児の手の中にあったのは、おそらくは翡翠の原石。それもかなり大きく、女児の両手に収まっていない。雄大な森を思わせるその深い緑は、質としても今まで見たことがないほど上等なものである。人の加工が入る前からこれだけの存在感を放つ原石など、実物を見ずにはとても信じられないだろう。
だが、玉兪が声を詰まらせたのは、その宝石があまりに大きかったからではない。
女児の手が深い火傷によって宝石に癒着していたからである。 - 9二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:24:19
恐らくはその石そのものが溶岩の中にでもあったのだろう。高熱を貯め込んだ石に触れた女児の手はあっという間に焼け付いてしまったようであった。
村全体でこの女児の面倒を見ていたのか、手が使えない者とは思えないほど血色はいい。村長たちの人柄から見ても、この女児が虐待の類を受けているようには思えない。
執政官玉兪は女児と村長ほか村の大人たちに、ポケモンの力を借りて女児の手を治療しつつ、翡翠の原石を剥がし取る作業を行うと告げた。本来問答無用で奪い取っても罪にならないほどの身分の差があるが、敬愛する王の子たる民草は、玉兪自身にとっても愛すべき存在であった。
治療の際の麻酔として草タイプ、火傷を冷やすための水タイプや氷タイプ、原石そのものに干渉するための岩タイプなど、様々なタイプのポケモンたちの力を借りて女児の手から宝石を剥がし取った玉兪たち。
本心では女児の回復の具合まで見ていたいところだが、彼は多忙な身であるため、ここは専門の医家に任せ、都へと帰って行く。玉兪の懐で、特大の翡翠の原石が物言わず静かに時を待っていた。 - 10二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:24:38
外交執政官としての最大の見せ場である首脳会談。
諸国の王たちに誠意を見せ、和平への道を一歩でも進む。玉兪の信念はそこに集中していた。
東国の王は催事の全てを玉兪に一任している。国内行事であれば礼部(儀式担当部署)の仕事であろうが、外国との折衝は外交執政官である玉兪以外に任せられる者はいない。
東国の王はその翡翠の原石を一度も見ていなかった。
これは王の考えによるものではなく、多忙な毎日の中でその数刻をねん出することができなかったからである。
もし、東国の王が一度でもその翡翠を確認していたら、血の雨が降ることはなかっただろう。 - 11二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:25:06
ついに来たか、最後の四災
- 12二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:25:57
- 13二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:37:11
ディンルーやパオジアンのもあるし強いて言うならシリーズかな?
- 14二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:42:31
お尻かわいいキャンセル…
- 15二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:43:30
わー!全裸さんだ!
- 16二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 16:48:56
待ってました
スカート(貴人の袴)の中で笑っちゃった
まだ笑えるなヨシ - 17二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 17:02:15
石にくっついた手の時点でもうちょっと暗い
- 18二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 18:05:40
お尻が無いから言い直してて草
- 19二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 19:31:14
- 20二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 20:24:50
イーユイちゃんキター
イーユイちゃんは尾びれと尾びれの間のケツがかわいいぞ - 21二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 20:26:39
完結した話にわざわざツッコむものでもないよ…下手にスレが荒れることもあるし
- 22二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 20:40:57
新作助かる
最終的にはサンドイッチ爆発オチが約束されているからそれまでの旅路を見守るぜ - 23二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:13:20
プロット組んで書いてたんですが、予定よりかなり早い段階で登場人物全員焼死しちゃったんでもっかい練り直します。
といっても、明日には普通に再開します。
四災SSを追ってくれてる方はもうお分かりでしょうが、チオンジェンのときのスタートを踏襲しています。
四災は最後なんでどれだけおいたわしくなれるか、挑戦します。 - 24二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 22:32:50
- 25二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 06:06:44
いちおうほしゅ
- 26二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 07:03:10
おいたわしいチャレンジ!行ってみよう!
- 27二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 07:08:54
保守
- 28二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 07:23:45
個人的には主にポケカテWatchしてるからこっちでやってくれて(発見が早まる意味で)嬉しい
- 29二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 09:20:28
- 30二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 09:24:43
創作カテ弾かれたのか、いったい何故…(全裸ペパーから目をそらしながら)
- 31二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 11:48:05
広大な平原を治める四大国の王が一堂に会して話し合うといっても、世代を超えて引き継がれてきた争いの鎖はやすやすとは断ち切れない。平和への道を亀の歩みで進む彼らだが、それでも後退するよりは遥かにマシと、会談の成功を祝うのだった。
外交執政官である玉兪は王たちが剣を交えずに舌戦をかわすこの穏やかな戦場の圧力に呑まれることなく、会談後の宴の準備を進めていた。数十人もの毒見を宴席料理の調理過程すべてに配置し、歌舞音曲の職人芸子、護衛警備の達人たちとも顔を合わせていく。
一部の隙も無い仕事ぶりであった。
そして、宴はいよいよ朝貢品のお披露目の段となった。
王たちの眼前に運び出されたのは、薄紅色のパーモットや姿そのものが希少なミロカロス、大きなきんのたまなど珍しいポケモンや様々な宝飾品の数々。
だが、その中でひときわ目を引いたのは、大きな翡翠の環玉であった。
(環玉:宝石類を輪形に加工したもの。小さくて軽いけど装飾品ではなく祭器。) - 32二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 11:48:27
この場に出された朝貢品は皆、通常なら一生を何度繰り返しても出会えないような珍品の数々である。にもかかわらず、その環玉は不可思議な魅力をもって王たちやその側近たちの心を掴んで離さなかった。
環玉は一つ。だが、ここには4人の王がいる。みながその環玉を欲した。
西の王がポツリとおもむろに話し始めた。
「ときに東王どの・・・聞けば東王どのは琴の名手であるとか。ここは一つ、宴席に雅を添えてはもらえぬかな?」
急な頼みであった。といっても、無理なことでもない。東王はなんら疑いなく、宴席の琴を借りて、その腕前を披露した。
「史班よ、今の運び、しかと記録せよ。」西王は供の記録係に命じた。
(史班:歴史記録係。結構な要職。)
「はっ。”東王、西王に命じられ琴を弾く”」
東の王は西の王に嵌められた形となった。西王の要請に従い琴を弾いたのは事実。それを悪しざまに歴史に記録されては王の沽券にかかわる。しかし、平和会談の宴で強く抗議するわけにもいかない。
端から見ていた北と南の王たちも笑っている。西王の不徳を誹る立場ではないのだろう。
手詰まりとなったところ、声を上げたのは東国の外交執政官玉兪であった。 - 33二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 14:17:39
自らの王が嵌められ、嘲笑の的となっているなど、彼には耐えられるものではない。とっさに環玉を掴み王たちの前に立ち、西王の非道を指摘する。
一介の執政官が他国の王を責めるなど、問答無用で打ち首にされてもおかしくない行為であるが、執政官玉兪は己の命を惜しみはしなかった。
西王をはじめ、北と南の王に対して玉兪は「皿を打って音を鳴らさねば、この場で環玉に頭を打ち付けて砕き、自身も果てる」と言い放つ。
環玉を手に入れたい諸王は慌てて、彼の言う通り宴席の皿を叩いて、音を鳴らした。
これで歴史書には「東王の琴に応え、諸王皿を打って宴に興を添える」と書かれることとなった。
東の王の面目は玉兪によって守られることとなったが、結局その環玉は誰に送られることもなく、東の国にそのまま残されることとなった。 - 34二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 15:00:42
首脳会談後、玉兪の立ち回りは重臣たちにも大きく評価され、朝廷の外にまで評判が飛び、いつの間にか都では顔も知れない平民出身の高官を担ぎ上げる勢力まで生まれ始めていた。
王としても、自らの対面を守ってくれた玉兪を重用し、宝物殿の管理人に任命して環玉をはじめとする国宝の守りを任せることとした。
一方、東国の威信を失墜させて圧力をもって環玉を手に入れようとしたほかの王たちは、未だに諦めてはいなかった。それどころか、あれほどの宝石を擁する東の国に対する嫉妬の念を日増しに練り上げている。
もはや、王たちには、いや、あの宴席で「玉」を見た全ての者たちには、「アレを手に入れたい」という欲だけが満ち溢れていた。 - 35二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 15:04:14
- 36二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 16:38:47
- 37二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 16:57:27
はい、玉兪さん全裸確定
- 38二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 16:58:20
サワロ王がマジで居そう
- 39二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 20:12:34
中国の故事にこんな感じの話あったよね。もしかして作者さん中国に詳しい人?
- 40二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:02:15
どっかで拳法修行で中国行ってるって見た。どこかは忘れた。
- 41二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:29:07
首脳会談から数日後、東の国の王は執政官玉兪を連れて、お忍びで市井へと出かけた。もちろん一部の護衛を連れ立ってはいるものの、ほとんど別人を扮しているため、市井の者が王を王と気づくことはない。
「玉兪や、見よ。これが余が守らねばならぬ光景じゃ。とくと見よ。」
王の言葉に従って眼前の光景をしかと目に収める玉兪。城下町を行く人々の笑顔と喧騒は、確かに守らねばならぬ尊い何かを、彼に感じさせるのだった。
時を同じくして、西の王は怒りに震えていた。本来温厚な彼が銅器の杯を握り曲げるほどに激憤している。それも、首脳会談の宴席で、あの翡翠の環玉を目にしてからのこと。 - 42二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:29:29
あの執政官がいなければ、環玉はわがものとなっているはずなのに
西の王は机を叩いて髪を搔きむしり、怒鳴る様に兵部の将軍を呼びつけた。血走るような眼光に射すくめられながらも、将軍たちは忠誠を誓う主君に対して、功を立てることを約束し、持ち場へと去って行く。
その日のうちに、西の国から大軍勢が出発した。目指すは東の国。本来、戦のために随行するポケモンたちは地面タイプや炎タイプが多いものだが、いま彼らの周りにはゴーストタイプや悪タイプの姿が多く見えた。
異様な雰囲気をまとって進軍していく兵士たちを、市井の者たちは心配そうに見つめるのだった。 - 43二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:29:51
そして、また奇しくも南と北の国でも同様のことが起こり、平原の四大国のうち、三国が大軍勢を派遣するという一大事が巻き起こることとなった。
王と共に市井から王宮へと戻って来た玉兪は、その足で宝物殿の国宝の多くを秘密の保管庫へと移し、警備の拡充を図ることにした。
彼はまだ、軍勢が近づいてきていることに気づいてはいない。 - 44二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 07:28:20
はよ気づいて…
- 45二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 11:13:00
玉兪は長年献策の相棒を務めてくれているユンゲラーと、しばしの間平原の大地図をにらんで、少し早めに床に就いた。
翌朝、なにやら胸騒ぎがした彼は従者が起こしに来る前に目が覚めることとなったが、虫の知らせとでもいうべきその胸騒ぎは、確かな実体を伴って従者の報告とともに彼の耳に飛び込んできた。
火急の用、領監級以上の官吏は供を連れて急ぎ登城されたし
(領監:結構偉い職位。この上は大監と大臣だけ。)
詳細の分からぬまま問答無用の招集。それも供を連れての登城許可。玉兪の知る限りでは史上にも見えぬ一大事であることは間違いない。急ぎユンゲラーと共に城へと向かう玉兪。
朝廷に着いた彼が見たのは、今まで見たことのない、役人官吏重臣たちが全員同じ場に集合した場面であった。もちろん、その中心、一段上に王が鎮座している。
伝令の声は大きく、政務会場の隅々にまで届くような良く通るものであった。その声で紡ぎ出されたのは、「安辺隊全滅」の報せ。つまり、国境守護を司る全隊が破られたということである。
平時ならともかく、すでに小競り合いを続けている状況で、一気に国境警備隊までがやられる・・・この奇妙さ、異常さを老臣たちは口々に叫ぶ。
平原四国のうち、三国が敵に回っているということを皆なかなか受け止められずにいたところ、玉兪は膝を着いて顔を伏し、礼を尽くしたうえで声を張り上げ、全軍をもって迎え撃つことを進言した。
もとより、それ以外に道はない。
王の許可のもと、サイドンやマルマインなど高威力をもったポケモンたちを配備した国軍が迎撃のために編成され、都の外に展開していった。
しかし、いつの時代も戦いの趨勢を決めるのは数の力である。どれほど死力を尽くしたところで、圧倒的な数の暴力の前には力なく沈むのみ。全軍敗走の報せが王宮に届くのに、そう時間がかからなかった。 - 46二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 11:21:22
都はあっという間に包囲され、敵軍による言争が始まった。
(言争:相手の不当を大声で主張しまくる嫌がらせ)
いわく、今回の派兵は礼を失した東の国の不徳を正すものであり、道を外れたものではないということ。また、ほかに、東の国の無礼者を無礼打ちにするためにやってきたとのこと。
東の国の無礼者とは、当然、王たちの前で啖呵をきった玉兪のことである。
言争の声は当然都に住む市井の者たちにも届いた。そして、彼らの不安は怒りへと変わり、この事態をもたらしたとされる玉兪への理不尽な憤りを生み出すこととなった。
あいつが余計なことをしなければ・・・・
あいつに責任を取らせろ・・・
王のため民衆のため、国家の体面と威信を守った外交執政官玉兪は、皮肉なことにその行為をもって民衆に忌み嫌われ狙われることとなってしまった。 - 47二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 12:50:14
国民の熱い手のひら返し
- 48二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 14:43:47
和平望んでた王たちがトチ狂ってるの見ると、あの宝石自体がなんかヤバい効果持ってそう
- 49二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 16:36:14
本来、一介の執政官の言動が戦争の火種となることなどとてもあり得たものではない。にもかかわらず、目を血走らせた軍勢が都を包囲している現実に、重臣たちは目を疑うばかりであった。
首脳会談での宴席には王だけでなく多くの臣下が参加していた。あの場での玉兪の立ち回りは賞賛こそされ、非難されるいわれなど毛頭ないはず。重臣たちもそれはよく理解していた。
いかに平民出身の小生意気な若造とはいえ、国と王の名誉を守るために命をかけた者を無碍にするほど重臣たちは外道に落ちてはいない。だからこそ大いに悩むこととなった。敵は都を囲む軍勢だけではないのだ。いつの間にか、市井の民草までが玉兪を差し出せと朝廷の門前に集まってきている。
重臣たちも王も口を開かぬまま、額に汗を浮かべるばかりであったこのとき、玉兪の相棒格であったユンゲラーがゆらりとその姿を際立たせた。
その場にいたはずの玉兪自身の姿はどこかに消えており、ユンゲラーは書簡を、といっても単なる紙切れだが、手に持って重臣たちの前を通り、王に手渡した。
曰く、身命をもって国に忠をなすは臣下の誉れ、とのこと。
つまり、執政官玉兪は自ら敵軍に渡り、首をはねられることを以って事態の収拾を図ろうとしたのである。
王も重臣たちも急いで辺りを見渡すも、すでに彼の姿はなく・・・。
玉兪はよく働く官吏であり、市井の者たちにも顔を見せていた。そのため、彼が都を歩いて包囲中の敵軍に渡るまでの間、多くの者が彼の姿を見止めることとなった。
国を守るために死にに行く者に対して、市井の者たちが与えたのは、賞賛と感謝ではなく、
投石と罵詈雑言であった。 - 50二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 17:04:13
誤解が悲しい
- 51二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 18:55:43
市民くんさあ…
- 52二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:06:43
ほしゅ
- 53二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 00:40:48
チオンジェンのところの市民は無力でも敵対はしなかったのにさあ
厄災になってからチオンジェンに嫉妬するイーユイがいるのかもしれん
いやでも玉兪さん聖人だし…仲良くしておくれ - 54二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 07:29:04
王兪さん…
- 55二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 08:56:48
- 56二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 13:41:56
あっしまった!栄養を与えてしまった!!嬉しいけど嬉しくねぇ!!!
- 57二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 13:44:39
四災SSシリーズそれぞれのバックボーンを前提とした四災による雑談回か…
- 58二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 14:16:51
毎度スレタイと本文のギャップがすごい!!
- 59二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 17:42:27
心無い投石は優しく勤勉な執政官の両目を強く打ち、彼の目から世界を奪った。眼球がつぶれたわけではなかったため、光を失うことはなかったが、目の前の仔細を知るすべを失った玉兪はもはや敬愛する王とその臣民たちのために働くことができなくない。
両目をつぶされたことよりも、そのことが彼の心を強く打ち据える。
痛めつけられた体を押して城邑から出てきた玉兪の全身を打ったのは、包囲していた敵軍の怒声であった。彼らの血走った眼を見ることができないのは、玉兪にとっては幸運なことであったかもしれない。
もし彼の相棒のユンゲラーが同道していたら、彼は道中の難を逃れ、この狂気の軍勢を目の当たりにしただろうが、どちらが彼にとって喜ばしいのか、もはや分かりはしない。
兵たちによって捉えられ敵将の前に膝を折る彼に浴びせられた言葉は辞書を引いてきたかのような罵詈雑言の雨であったが、その意だけはよく知れた。
つまるところ、彼らが言いたいのはひとつ。
「あの玉の宝をよこせ」
この一念のみである。 - 60二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 17:42:51
玉兪は、国宝として管理している故、簡単に渡すことはできない旨を告げたが、敵の将が言う言葉は同じ。
「宝をよこせ。ありかを言え」
狂人のように同じ言葉だけ繰り返す兵たちに囲まれた玉兪。もはや己の手の形すら判然と見分けられなくなった眼だが、確かに彼らの狂気を見て取ることができた。
膝を割られ、耳を削がれても、玉兪の返答は変わらず、国宝を渡すことはできないとの言のみ。
どちらが狂っているのかも知れなくなってから、数刻。玉兪の目にぼんやりと光が見えてきた。実に美しい光であった。
「見よ。あれを。」
敵将は玉兪の目が効かないことを知らない。城邑に火を放ち彼の故国が燃える様を見せつけたが、玉兪にはぼんやりと美しい光が煌めいているようにしか見えなかった。 - 61二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 18:10:29
頑なに宝のありかを言わない玉兪に対して、拷問は激化していく。
もちろん玉兪以外にも官吏たちが連行され尋問を受けたが、そもそもの管理を任されていたのは玉兪のみ。宝物殿にあったはずの宝のありかを知っているのは、彼と彼の作業を手伝ったユンゲラーのみである。
実際は、都の地下奥深くの宝物庫に安置されているのだが、それを知るのは本人しかいないため、玉兪に聞かねば場所が分からない。
狂気におされた敵の将兵たちは拷問の中で玉兪が惨死したことにも気付かず、彼の屍に焼けた鉄をあて続けていたが、宝のありかを知る唯一の人物がこと切れていることに気づいたのは、彼が亡くなって半日あまり経ってからであった。
唯一の手掛かりを失った将兵らの狂気は加速し、城邑の焼け跡を踏み荒らしながら生き残りの者を探していく。
エスパータイプのポケモンがいれば失せ物の探索も容易いだろうが、彼らの軍勢はなぜか悪タイプやゴーストタイプが多く、エスパータイプのポケモンたちは寄り付きもしなかった。 - 62二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 18:10:45
(道を外れて他国を滅ぼしてでも手に入れたかった宝が探しても見つからない。きっと隠しているのだ。いや、もしかしたらすでに他の二国が手に入れているのかも・・・)
将兵たちの脳裏には、いましがた滅ぼした国のことなどかけらも無く、見てすらいない宝を奪いとらんとする嫉妬の心が渦巻いている。
防衛のための軍勢すら全て出張っているこの事態で、他国の軍勢とぶつかり合えば、その損耗度合いによっては国家の存続にも響く。
そんなことが分からない将兵たちではないかったはず。しかし、実際には、彼らはお互いに嫉妬し合い、奪い合い、滅ぼしあって、全ての国の軍勢がみな滅する事態となってしまった。
焼け焦げた城邑の跡で最後の兵が倒れたのは、奇しくも、玉兪が宝を保管した地下宝物庫の真上であった。
護国の将兵を失った民衆たちは、野盗の群れに襲われ、野生のポケモンたちに追われ、あっという間に国の体を成さなくなっていった。
かくして、広大な平原に覇をとなえんと鎬を削る大国たちは、季節が巡るよりも先に滅んでなくなることとなってしまった。 - 63二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 18:21:01
故国が滅ぶどころか何もなくなっちゃった……お労しや
どうなってくんだろう - 64二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 18:45:41
すべての国が滅んだその日、平原の戦場跡には無数のゴーストタイプポケモンたちが集まっていた。多くは主人を失った、人間のよき隣人であった者たちである。
ゴーストポケモンたちはそのおどろおどろしい生態とは裏腹に優しい性格をしていた。人との交わりが彼らをそう作り変えたのかどうかは分からない。
ただ、彼らは主人の魂が無念の底に沈んでいくのを良しとはしなかった。せめて魂だけでも生前の思いを保てるようにと、自らの命と魂に故人の思いを刻み付けていった。
国を滅ぼした狂気の嫉妬の思いを。 - 65二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:23:00
おいたわチャレンジ進行中だコレ…
- 66二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 08:18:18
保守
- 67二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 11:19:22
膨大な感情の奔流は呪いのように魂を焼く。その激しさはゴーストタイプの彼らですら形を保てないほどであった。
戦乱の興奮と流れ落ちた血は、死者の嫉妬と怨念を地の底にまで染み渡らせていく。件の宝玉は、まるで息をするかのように人々とポケモンたちの負の感情を吸い取る。
季節か何度か巡るうちに、宝玉にはヒビが入り、四つの破片に割れてしまったが、まるで加工品かと思うほどにみごとな勾玉の形となってその場に残った。奇しくもこの平原に存在した国の数と同じであった。
死屍累々とした平原の戦場跡地から屍が消え、草ポケモンや虫ポケモンたちが戻ってきた頃、宝玉の中に自我とは言えないまでも、何か思考のかけらのようなものが生まれた。しみ込んでいった数多の魂と負の感情がそうさせたのだろうか。
その思考のかけらは一言、たった一言の言葉を繰り返しつぶやく。
「ミヨ・・・」と。 - 68二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 11:32:45
何を見ようとしているのか、誰に向かって言っているのか、それはもはや分からない。
だが、それが宝玉の中に吸い込まれた数多の怨嗟の中の一つから搾り出された一言であることは間違いない。
さらに歳月を経て、宝玉の中の思考は完全な自我となり、新たな人格を生み出した。いや、もはやヒトではない「それ」に向かって「人格」などという言葉はふさわしくないかもしれない。
自我を備えた「それ」のところに溶岩が降り注いできたのは、完全な偶然であった。もともと平原で周囲に山もないこの地の上で、地面タイプや炎タイプのポケモンたちが大がかりな戦いを繰り広げたのである。その戦い自体はそう長くは続かず、また互いに野生であることもあって、命を奪い合うほどのものにもならなかった。
ただ、その戦いの余波が地中深くの怨念の塊を呼び起こすことになったのは、事実である。
勾玉に宿った「それ」は降り注いできた溶岩を浴びて力を増し、煮えたぎる肉体を得て地上へ姿を現した。
この瞬間、世界に新たなポケモンが足される運びとなった。
災厄ポケモン イーユイ
その誕生である。 - 69二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 11:37:52
もう災厄出てきた…
- 70二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 11:43:33
- 71二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 11:48:27
地上に現れたイーユイがはじめて目にしたのは、つい先ほどまで互い争っていた地面タイプや炎タイプのポケモンたちの群れであった。
みな一様に同じような姿をしている。一目見て仲間たちなのであろうと分かった。
次にイーユイが見たのは己の姿であった。
煮えたぎるマグマに包まれた自らの肉体。同質的な仲間は一体も見えない。周囲には仲間と思しき存在は見えず、独り佇むのみ。
イーユイはその出自の特殊性から、同族というものを持たない一属一種単独のポケモンであった。そんなイーユイにとって仲間や友を多く持つ周囲のポケモンたちは羨望の対象であった。
自分も仲間に入れてほしい
自分も友達にしてほしい
自分のことを見てほしい
「ミヨ・・・ミヨミヨー!」
じゃれついたつもりであった。
イーユイに他を害するつもりはなかった。無邪気に飛びついて遊んでほしかっただけであった。
自らの肉体から沸き立つようなゆらめく炎に視界を遮られた一瞬ののち、イーユイの目に飛び込んできたのは、焼け野原となった大地と元の姿も判然としない黒焦げになったポケモンたちの姿。
そのときイーユイは知らなかった。自らが呪われた厄災の落胤であるということを。 - 72二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 11:59:05
自分を見る者がいなくなってしまった。
見てほしいのに。遊んでほしいのに。友達になってほしいのに。
「ミヨ・・・・」
イーユイは確かに特殊な出自ではあるものの、ほんの先刻生まれたばかりの赤ん坊にも等しいポケモン。にもかかわらず、その身に降りかかるのは永遠の孤独。
イーユイは泳ぎ回った。
どこかに自分を見てくれるものがいるかもしれない。そんな淡い希望を持って平原の隅々までを泳ぎ回る。
必然、のどかな草原地帯であった大平原は、木々は枯れ川は干上がり、溶岩があふれる地獄へと姿を変えていった。
この平原のどこにも自分を見てくれる者がいないことを悟ったイーユイは平原を飛び出し、西へ西へと進んでいく。
西へと進んでいく道中、野生のポケモンたちと出会う機会が何度かあったが、そのどれもが一瞬の後に、消し炭となって消え失せてしまう。もとよりイーユイは嫉妬羨望の中から生まれたポケモンであったが、いまのイーユイを突き動かしているのは寂しさからの焦りにも近いもの。
魚のような目に涙を浮かべながら必死に自分を見てくれる者を探すイーユイ。目の周りの勾玉を通った涙は自らの肉体の熱によって一瞬にして蒸発する。
それでもその眼から涙が枯れることはない。
「ミヨ・・・ミヨ・・・」
呟きながら、泣きながら・・・
その姿はまるで必死には母親を探す幼子のような悲壮さを漂わせていた。 - 73二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 12:11:28
数百年後にはレホ先がウヒョってくれるから耐えてくれ
- 74二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 12:12:06
イーユイの不運は、孤独な運命を背負って生まれてしまったことだけではなかった。
最大の不運は、ヒトの住む国を見つけてしまったこと。その国ではヒトとポケモンが互いに支え合いながら、よき隣人として暮らしていた。
姿形が全く違うにもかかわらず、そこには確かな絆があった。その絆こそイーユイが真にほしかったものであった。
心の底からあふれ出る羨望。自分のその輪に入れてほしい気持ち。
そばに寄っていったイーユイは初めて自分を真正面から見てくれる者たちと出会った。しかし、その眼差しはイーユイが求めていた「仲間たちに対する目」ではなかった。
恐怖と威嚇の目
それは決しておかしなことではない。異端のナニカを見つけたら警戒の一手から始めるのは正しい対処である。
それが、異様な空気感をまとい溶岩の中を泳ぎ回る謎のポケモンともなれば、なおさらのこと。
イーユイには害意などなかった。ただ自分を見てほしかった。遊んでほしかった。
それだけであった。
しかし、イーユイを迎えたのは剣戟と殺意と警鐘の音。ここでもやはりイーユイは焼け野原の上、独りぼっちで泣くことになった。
もはや声も出ない。
流れ出る涙によってイーユイの炎の身体が冷めていくほどの時が経ち、イーユイは再び4つの勾玉へと姿を変えていった。
自我を手放すように眠りにつく。まるで子供が泣き疲れて眠りに落ちるように。
旅の商人がその勾玉を拾ったのは、焼け野原に森が蘇るほどの年月が経ってからであった。 - 75二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 12:12:49
レホール先生が救済みたいになってて草
- 76二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 12:37:48
なお四災たち本人はレホ先に出会ったことを後悔する
- 77二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:09:58
保守
- 78二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:28:46
禍々しいイーユイ
- 79二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 18:09:27
なんか小っちゃい子供が苦しんでるみたいで心が痛い
- 80二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 22:00:50
今回はポケ化が早いな
- 81二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 04:37:10
保守
- 82二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 09:29:18
保守
- 83二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 10:01:35
保守ありがたい・・・
土曜日まで仕事なのはアルセウスのせい? - 84二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 12:03:00
西へと旅続けるうちにその行商人は、自らが蒐集した品々が曰こそ分からないものの何かの意志と歴史を宿すものであると感じていった。
木簡、鉄器、刀剣、勾玉・・・
どれも物言わず佇むのみである。しかし、確かな存在感をもって見る者を圧する。
行商人には分かっていた。これらが闇の産物であろうことが。だからこそ、これらを求める者もいるであろう確信もあった。
そして、その確信は見事に的中する。
西の果てへと行きついた行商人を迎えたのは、隆盛を極める大パルデア帝国。独立した島国でありながら豊かな自然を擁するこの国は、貿易を軸として栄えており、国民たちもこの国をもっと盛り立てようと日々の暮らしに精を出していた。
巨大国家の王の常であろうか、パルデア王は収集癖があり古今東西の名品珍品を集めているとの噂をきいた行商人が、王宮へと足を運んだのはいたって自然なことである。
行商人が王と謁見し、何が起こったのか。その後の顛末を我々は知っている。
響き渡る悲鳴、燃え盛る火炎に呑まれていく街々、流れ出る溶岩・・・
結局のところ、イーユイはここでも同じことの繰り返しとなってしまった。
王に派遣されたポケモン使いが命がけで封じるまで、イーユイは数多の大地を灼熱の溶岩で焼き払うのだった。 - 85二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 12:10:28
漆黒の闇のなか、イーユイは孤独の苦しみに絶望し続ける。見よと叫んでもその声が届くことはない。
ポケモン使いはイーユイを危険視し、高い山の上、複雑に入り組んだ洞窟の中に封印した。外からは見えないばかりか、たどり着くことすら困難であろう。
自分を見てほしいと願ったイーユイにとっては、これ以上ない罰である。ポケモン使いとてイーユイを憎しみで封じたわけではない。その身から湧き出る炎には悲しみがこもっていた。
助けを求めても与えられるのは絶望ばかり。
イーユイは封じられた後になって、ようやく自らの呪われた運命に気づいた。存在するだけで他を害する罪の化身のその運命が、自らを強く縛り付けていることに気づいた。
もはやイーユイを助けるものなどいない。ともに遊んでくれる者などいない。
時間が止まったような闇の中でも、心だけは変わらず痛む。
悠久のときは休むことなくイーユイを蝕んでいった。 - 86二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 12:19:23
外の時間で数百年が経過したある日のこと。イーユイを硬く縛り付ける封印の杭が抜けるような感覚があった。
全ての杭が抜かれて数刻後、目もくらむような眩い光が、イーユイの目に入ってきた。
少女がいた。
少女の傍らには赤い竜が立っている。
彼女はにかっと笑い、元気よく告げた。
「勝負しようよ!」 - 87二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 15:39:58
- 88二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 15:56:39
- 89二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 16:01:58
全ぺ時空のアオイちゃんなら、
マスカーニャのにゃおちゃん
原種ヌオーのまさお
ゲンガーのちみちゃん
ファイアローのヤヤくん
チルタリスのちーちゃん
だっけ? - 90二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 16:02:37
その辺はあまり気にしなくてもオッケーです
- 91二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 18:15:13
保守
- 92二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 19:01:50
ヌオーかわいい
- 93二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 19:55:41
少女アオイは笑みを絶やさなかったが、内心では焦っていた。彼女が厄災と呼ばれるポケモンと相対するのはこれで四度目。そのすべてが開けた空間での戦闘であり、タイプ相性的にも戦略的にも有利に運ぶことができていた。
だが、今回イーユイと相対しているのは閉ざされた高山の閉鎖空間。
地理的条件だけではない。
イーユイの特性によるものかは現時点では分からないが、仲間であるコライドンとヌオーの攻撃の威力が明らかに抑えられている。相性的に有利なはずの攻撃が思うように成果をあげられないでいた。
攻め手を緩めているわけではないのに、攻めあぐねているような矛盾した状況。少女の焦りは至極当然と言える。
イーユイは久方ぶりの他者の視線に歓喜するも、戦いに関しては一切手を抜こうとはしなかった。それで命を落とすことになると本能的に分かっていたからである。
泳ぐたびに溶岩が地を這い、壁を溶かし、閉鎖空間の中の酸素を燃やしていく。草タイプのマスカーニャによって一酸化炭素中毒への対策は取られているが、それでも一秒ごとにイーユイのフィールドが形成されていく状況は、少女と仲間たちにとってかなり大きなプレッシャーを与えている。 - 94二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 20:08:11
いつしか、彼女たちはイーユイそのものへの対処だけでなく、地を流れ、壁から噴き出、天井から滴り落ちる溶岩への注意を強いられることとなってしまった。
決して目の前のイーユイを軽んじているわけではない。このフィールドを形成した張本人を侮ることができるはずがない。
ただ、現実的な脅威として湧き出る溶岩は彼女らの注意を割いていく。イーユイにはそれが、自身を無視しているかのように感じられた。
「ミヨ・・・!ミヨ・・・・!」
自分を見て。無視しないで。お願いだから。
訴えるようにイーユイは強烈無比な一撃を放つ。 - 95二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 20:08:46
カタストロフィ
一撃を受けたコライドンとヌオーは、一気に大半の体力を削られてしまった。それだけではない。致命傷を回避するための体さばきが災いし、少女アオイと仲間のポケモンたちは分断されてしまったのである。
位置条件的に、イーユイの次の攻撃を受けるのは、生身の少女自身であろう。コライドンとヌオーは急いで少女のもとに駆け付けようとするが、間欠泉のごとく噴き出るマグマがそれを許しはしない。
イーユイに悪意はない。ただ全力であるだけ。
ふたたびイーユイから黒い妖気が立ち昇り、奔流をなって迸る。二度目のカタストロフィである。
少女は諦めてはいなかった。これで自分が死んでしまえば、解き放たれた災いとしてパルデアの民衆に被害が及ぶだろう。そして何より今、目のまえで孤独の苦しみにあえぐイーユイが更なる罪を背負ってしまう。
少女は諦めなかった。他ならぬイーユイのためにも諦めなかった。その思いが奇跡を呼んだ。
少女の前に立ち、彼女を守ったのは、同じくかつて災厄とされたポケモンたち。
チオンジェン、ディンルー、パオジアンの3体であった。 - 96二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 20:18:28
チオとパオは気をつけろ!焼かれるぞ!
- 97二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 21:49:23
いつもより苦戦していると思ってたらまさかの展開。
- 98二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 22:20:46
四災ラストにふさわしい熱い展開だな!
- 99二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 05:36:49
保守
まさか他の四災が出てくるとは
続きが気になりすぎる - 100二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 10:17:12
保守
- 101二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 11:23:17
灼熱の溶岩によって紅くきらめく洞窟内に4体のポケモンたちの咆哮が響く。
少女アオイは指示を出していない。それでもチオンジェン、ディンルー、パオジアンは自らの意志で動く。
いま目の前で苦しみ暴れているのは、かつての自分自身。止めてやらねば。倒してやることが救済となる。
国を滅ぼし大地を焼いた厄災たちは、いま、救うためにその実力を発揮している。周囲の野生個体たちはみな避難して、この場にいるのは自分たちのみ。そのうえ、ここは高山の洞窟内。どれほど昂ったところで、被害は出ないだろう。
全力をもってぶつかりあう力の奔流が静まったとき、煮えたぎる溶岩はパオジアンによって鎮められ、崩れゆく岩壁はディンルーによって支えられていた。
もはやヒレ一枚動かす余力もないほどに消耗したイーユイに、チオンジェンが物言わず近づいていく。
タイプ相性ではチオンジェンが不利。そのため少女はチオンジェンに駆け寄ろうとしたが、イーユイとチオンジェンの間に敵意の波がないことに感づき、この場を任せることにした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
互いに一言も話さず、ただただ目を見つめる。言葉という媒介によらず、もっと剥き出しの感情を伝えるため、二体のポケモンは沈黙というコミュニケーションを選んだ。 - 102二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 11:28:07
半刻程経っただろうか、チオンジェンは触手を伸ばし、優しく少女の手を引いてイーユイのところまで連れてきた。
少女はイーユイに何も話さなかった。
目を見つめ、微笑み、うなずき、最後に一言だけ。
「おいで!」
その一言はイーユイが心から欲しかったものであった。
呪われた出自により、近づく者すべてを灰燼となしてしまうイーユイ。宿命づけられた孤独の苦しみを救ってくれたのは、一人の少女とかつての厄災たち。
誕生から悠久のときを超えて、イーユイははじめて他者の温もりを知った。
焼け付くような熱とは違う、穏やかな暖かさであった。 - 103二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 11:34:20
少女の仲間となったイーユイは、主人に連れられてパルデアのあらゆる場所を訪れた。
砂の海、紺碧の空、そびえたつ霊峰、静寂な竹林・・・
もちろん、イーユイのそばにはチオンジェンたちが共についている。もはや孤独ではない。どんなときも仲間が一緒にいる。
その実感は、イーユイの心を優しく温めていった。
あるとき、少女がイーユイに会わせたい人がいると言ってきた。
なんでも、「学校」という場所にその人物はいるらしい。イーユイは先輩格であるパオジアンやディンルーたちに尋ねようと振り返ったが、やたらと遠くにいて距離がある。チオンジェンに至っては姿すら見えない。
いつもそばに居てくれる者たちの不自然な挙動を訝しむほどの社会経験は、イーユイにはまだなかった。 - 104二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 11:41:40
いつもそばに居てくれる者たちの不自然な挙動を訝しむほどの社会経験は、イーユイにはまだなかった。
学校。
知識を蓄え学びを修める探求の揺籃。
その人物は学校の中でも書簡に囲まれた空間に立っていた。
少女がイーユイを連れてきた途端、その人物はそれまで纏っていた気だるげな空気を吹き飛ばし、飛び上がる様にしてこう言った。
「ウッヒョ――――――――――――――――!!!!!!!!」
と。
イーユイの周りをぐるぐると動き回りながら観察し、考察を述べていく謎の女性。イーユイはこんなにちやほやと注目されたのは初めてであり、初対面ながらすぐにこの女性が好きになった。
きゃっきゃきゃっきゃと戯れるイーユイと教師の女性。それを半ば呆れたような目で見ながらも、どこか微笑みをたたえた少女アオイ。
その様を遠くから眺めている女性がいた。その女性はタイムと呼ばれていたが、その右手には2枚の反省文用紙が握られていた。 - 105二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 11:51:51
レホ先いままでよりテンション高くないかと思ったけど4種全部出てきたらこうもなるか
- 106二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 11:59:12
イーユイとレホール先生仲いいのかわいい
- 107二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 12:30:54
タイム先生は大目に見てあげて。
- 108二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 13:13:12
レホ先確定演出まってた
イーユイの周りはピリついてるっぽいのに予想とは裏腹に喜んでて微笑ましい
微笑ましいけどその反省文はやるべきですね…… - 109二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 13:53:33
タイム先生に連行されるレホール先生の姿が見えた
- 110二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 14:42:48
それからもイーユイは仲間たちと共にいろいろなところに行き、様々な人と出会った。
生徒会長と呼ばれている少女が連れているポケモンたちの練度の高さには思わず息を巻いた。イーブイたちをブイブイと呼ぶ少女は、最初は驚きながらも優しくイーユイのことを撫でてくれた。
マフィティフを連れた青年からは独りぼっちでいることの苦しみを知っているような匂いがした。
虫使いの菓子屋の女性は会うたびに少々殺気だったようすが伺えた。
草使いの芸術家の男性に至っては徹頭徹尾何を言っているのかさっぱり分からなかった。
街中で偶然出会った地面使いの男性は、男性ではなく女性でありイーユイを驚かせた。
軽装で雪山を走り回っているとマフラーをした男が激怒しながら追いかけてきたが、怒られながら逃げるのは本当に楽しかった。少女の想定以上の体力で、結局逃げられずゲンコツをされたのもいい思い出となっていた。
無気力なサラリーマン風の男と出会ったとき、彼が無言でおにぎりを差し出してくれたのがとても嬉しかったのを覚えている。
そうして絆を積み上げていくイーユイとパルデアの仲間たち。
少女アオイはイーユイを広大な平原に連れてきた。ここで食事をしようとのことであった。
イーユイにとって食事とは室内のテーブルの上で行うもの。屋外の平原で食事など想像できなかったが、少女はにこやかに告げた。
「サンドイッチにしよう!」 - 111二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 14:43:57
あ、来た
- 112二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 14:46:10
なんでカエデさん殺気立ってるの……
- 113二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 14:53:56
サンドイッチ爆発の時間だぜ
- 114二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 14:58:47
ざわっと風が吹いた。ほんのわずかな空気の動きであったが、花びらや草のかけらを舞い上がらせる風によって、風景が華やかに彩られる。
チオンジェンをはじめとする仲間たちが咆哮をあげた。コライドンも雄たけびをあげ、空にはチルタリスの歌声が讃美歌のように響いている。
これが「さんどいちの儀」なのか。イーユイは何かの儀式が始まったのだと確信した。それも皆が嬉しそうなようすを見るに、相当な慶事なのだろう。
イーユイ自身も細かな炎を散りばめて煌びやかな世界を演出することにした。ポケモンたちの協力によって厳かで神聖な空間ができあがり、その中心には野菜を手際よく切っていく少女がいる。
器に載せられたパン。手際よく並べられていく具材たち。ベーコンにはほんの少し焼き色が付けられている。
仲間のポケモンたちの気勢がより一層強まった。
つぎの一手が「さんどいち」の勘どころなのだろう。雄たけびも讃美歌も炎の演出も、踊るゲンガーとヌオーも、はばたくファイアローとチルタリスも、花びらを舞い散らすマスカーニャも、一層おおきく力を込める。
少女の手がゆっくりと持ち上げられる。その両手の中にはパンが握りしめられている。
上へ上へと持ち上がっていく少女の両手とその中のパンは、イーユイをはじめ厄災ポケモンたちの前途とすべてのポケモンたちの未来、パルデアの生きとし生けるもの全てを祝福する太陽を暗示するかのように、高く高く持ち上がっていくのであった。
両手から放たれたパンは、地球の引力にその身を任せ、自由落下とともに速力を増していく。一瞬ごとに速まっていくパンのスピードは威力をともなってしたたかに下のパンと具材を打ちつけた。
その瞬間、仲間のポケモンたちのボルテージは最高潮に達した。
そう。これこそがパルデアの誇る最高の文化。
「サンドイッチ」の完成である。 - 115二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 15:10:31
イーユイははじめて見る「さんどいち」とやらに、いたく感動した。厳かな儀式によって生み出されたその逸品は、宇宙を、世界を、時間と空間を、ヒトの世を、ポケモンたちを表現しているかのように混沌としている。
皿の上には形の違う様々な具材が渾然一体となって一つの作品を形成していた。
そこには孤独とは正反対の、賑やかな他者の交わりがあった。
サンドイッチをほおばるイーユイ。
その眼に涙が浮かんだのを、チオンジェン、ディンルー、パオジアン以外は気づかなかった。
万物を焼き払うイーユイから流れる涙は、本来一瞬で蒸発してしまう。だからこそ、はじめての体験であった。
嬉しい涙は蒸発することなく、その身を濡らす。
ヒレを使って、ごしごしと涙を拭き、主人である少女に飛びついて美味しさを伝える。
その様をかつての厄災たちは微笑みながら、いつまでも、いつまでも眺めていた。
パルデアの厄災はすべて解き放たれた。彼らの背負った罪は罰によって雪がれ、いま新しい生の一歩を少女とともに歩もうとしている。
暗い苦痛の時代は終わり、輝かしい世界が始まるのである。
季節は春の終わり。
数日待てば命眩しいあの季節がやってくる。
少年少女とポケモンたちの、夏がまたやって来る。
イーユイSS~完~
~ 四災SS 完 ~ - 116二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 15:25:35
- 117二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 15:37:38
暑くてパオジアン溶けてるw
- 118二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 15:42:41
さて、四災もこれで完結ですね。長かった。
そろそろ第2回全裸SS杯を催すとして、次は何書こうかな・・・
過去世界のオーリムAIの冒険?
アオキの食道楽?
レホール先生のエリアゼロ不法侵入録?
ポピーのフェアリー組蹂躙記?
オモダカさんの優雅な日々?
うーん、どうしよう - 119二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 16:08:04
題材が物騒
- 120二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 17:36:17
四災SS完結おめでとうございます、お疲れ様でした
なんて爽やかな終わりなんだ…どのssも読んでてとても惹き込まれた
夏なのできっと彼らには開放感たっぷりの未来(全裸)が待っているんですね、いいことだ - 121二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 18:03:45
お疲れ様でした。四災、良かったな…。
- 122二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 19:17:53
素晴らしい作品をありがとうございました
- 123二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 20:52:35
- 124二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 20:56:17
- 125二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 21:02:02
- 126二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 21:39:38
ありがと♡
- 127二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 01:33:00
四災ファンなので読み応えのある四災のSSを読めて良かった
お疲れさまです! - 128二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 07:45:00
お疲れ様でスター!
マジですごいSSをありがとうございました! - 129二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 10:28:32
中華風味の文体ほんとすき