久しぶりだな、グエル

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:12:15

     夜風に砂が舞う荒野の中。一機のMSと、二人の人影がそこにあった。
    「このタイミングで、まさかお前に助けられるとは……運命だな」
    「シャディク!?」
     金髪の青年と相対している人物は、ジェターク社CEOグエル・ジェタークだった。

     事の始まりは、数十分前に遡る。

    「この地域は荒れてますね。建造物も半分くらいは廃墟だし、ここで人が暮らしているなんて……」
    「十年前からそうだ。場所によっては、ここよりもひどいもんさ」
    「そうなのですか? 過酷な環境ですね、地球って」
     グエルは部下を引き連れ、売上や自社製品を地球へと寄付する活動を行っていた。この日も、アーシアンへの物資支援、及び現地への訪問を行っていた。
    「アーシアンからの信頼も徐々に集っていると思いますが、ジェタークCEOは何を目論んでいるのです?」
    「地球と宇宙の経済格差。これを減らしたいだけだ」
    「経済格差? 自社復興ではなく?」
    「ああ」
    「うーむ……わからぬお人です、あなたは」
     夜になり、軌道エレベーターへと車を進める二人。途中、訪問先とは別の町を通りかかった。
    「ここもダメそうですね。さっきよりも廃墟が多いし、自然と一体化してる建物もある」
    「だが、人は住んでいるな。轢かないように注意して……」
     町の景観を眺めていると、一筋の赤い光が見えた。
    「っ!? 待て! すぐ停めて伏せろ!」
     その光が建物とぶつかり、大きな音が響く。遠くではあるが、車が震えるほどの衝撃が伝わってきた。

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:13:06

    「モビルスーツ!? 議会連合か!?」
     光が飛んできた元を見ると、ベネリット製のMSが数機飛んでいた。
     
     宇宙議会連合。あれ以来も密かに力を蓄え、再び企業連合の解体を目論んでいた背景がある。グエルも、そのことには気づいていた。地上にはあまり戦力を回していないことも聞いていた。
    「ジェタークと地球とのつながりが漏れたのか!?」
     射撃してきたMSが四機。こちらに向かって飛んできている。現地の武装組織がMSに乗って応戦を始めるも、敵より旧式な機体ばかりで相手にならず、次々と落とされていく。
    「敵は四機、ハインドリーにザウォートか……あの時と同じだな」
    「CEO! どちらへ!?」
    「MSで出る!」
    「自ら!? 無茶です!」
    「ここの人達を守らねば、これまでやってきたことの意味がない!」
     グエルは車を降りて廃墟を駆け回り、MS倉庫を見つけた。倉庫内には、以前寄付したディランザが一機だけ残っていた。
    「CEO! ジェタークとアーシアンの癒着はバレてしまえば、奴らの思う壺です!!」
    「だからと言って、見殺しにはできない! ディランザ、出るぞ!」
     発進するディランザ。しかし、このディランザは使い古された機体。ジェターク社が直々に提供したことがバレないよう、地上でも手に入る品質の物を寄付していたのだ。これでは、敵も旧式とは言え、性能は幾分も劣ってしまう。

     しかし、彼の腕は、ホルダーだった頃からなまっていなかった。
    「うああああああ!」
     ハインドリーシュトルムの放つ弾を掻い潜り、ビームトーチを胴体へ突き刺し、切り抜いていく。空上のザウォートヘヴィにはビームをばら撒きつつ弾を避け、相手に斬らせてから斬り返していく。遠距離を保つMSには牽制射撃をしつつ、味方のプロドロスに合図を送り、撃破していった。

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:13:46

     グエルが加勢してから二分後、とうとう四機を葬り、戦闘が終了したかのように思えた。
     しかし、建物の影に隠れたザウォートが、明後日の方向に飛んでいくのに気づいた。
    「なっ、まだいたか!」
     グエルのディランザもバーニアを蒸かし、すぐに向かう。ザウォートの進路先には、一台の車が走っていた。それを狙撃しようとしていると直感でわかった。
    「やめろぉぉぉぉぉ!」
    叫ぶと同時に、胸部ビーム砲を放ち牽制、そして盾のアタッチメントを外す。ザウォートはふわりと空に浮かんで回避、そのままライフルの照準を車に合わせ、引き金を引く。
    「間に合え!!」
     ディランザが腕を振るうと同時に、輝く光線が地へと向かって放たれた。

    しかしその一撃は車ではなく、宙に浮いたディランザの盾に命中した。そして、ザウォートの自由落下に合わせ、ビームトーチを振り抜く。コックピット付近を貫いた。
    「まずい!」
     当たりどころが悪く、グエルはザウォートをそのまま爆発させてしまった。ディランザはその爆風に耐えたが、近くにあった車はひっくり返っていた。
    「大丈夫か!?」
    ディランザから降りて、すぐに車のもとに向かうグエル。

    「っふぅ……助かった。礼を言おう」
    「なっ……その声、まさか……!」
    車の中から出てきたのは、グエルにも見覚えのある青年だった。

    「久しぶりだな、グエル」
    「シャディク!?」

     シャディク・ゼネリ。十年前の騒動の実行犯として、長い公判の末に死刑判決になったはずの男。しかし、グエルの前に立っているのは、シャディクそっくりな人物。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:13:51

    面白い機体

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:14:05

    「なぜお前が生きているんだ!? 死刑になったはずだろ!?」
    「ああ。シャディク・ゼネリは死んだよ」
    「何!?」
    「今の俺は、ルイエ・ルグドさ」
    掴みどころのない態度、声、容姿、どれをとってもシャディク・ゼネリそのものに見える。
    「名前を捨てて、罪を償い切ったとでも言いたいのか!?」
    「いや。俺は本当に死んだのさ」
    「死んだ……? じゃあ、目の前のお前は誰だ!?」

    「GUND医療」
    「え?」
    「株式会社ガンダムが存続したことで、GUND技術の封印はなされなかった。兵器転用する組織は現れていないが、非合法のGUND医療研究は行われている」

    「GUND医療の闇医者……ということか?」
    「そう。俺はあの日、確かに死刑を受け肉体は死に至った。だが、死刑執行犯の中には、俺の旧知の知り合いがいてね。遺体を回収してくれた」
    そう言いながら、シャディクは羽織っていた上着を半分脱いでいく。そこには、本来人間にはない色が見えた。
    「うっ!? ……その身体は!?」
    「サイボーグさ。義手や義足の延長線上。傷んだ臓器は全部機械に置き換わっている」
    「臓器だと!?」
    「非合法の技術だからね。実用化されてないGUND製の人工臓器を移植してもらった」
     鋼色の胸部を開き、中身を見せる。肺や心臓にあたる部分が金属質になっている。
    「というか、大半は機械だ。機械にシャディク・ゼネリの皮がついている、といっても過言ではない」
    「うぅ……」
     見慣れぬ光景に、グエルはわずかに吐き気を催していた。
    「そう怯えるなよ。ミオリネの理想の行く末さ」

    「機械に置き換わったと言っていたな。脳はどうなんだ?」
    「ああ、脳は機械に置き換わっている。だが、死ぬ前のシャディク・ゼネリの人格データを転写している。だからこそ、今の俺はシャディクであり、シャディクではない」

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:14:31

    「というか、そのお前がなぜこんなところにいる? 何が目的で生き返った?」
    「あの事件の後、事態は良い方向に進んではいたが、すぐに元通りになった」
    「宇宙に資産が吸い上げられたことか」
    「そうさ。結局、十年前と同じ状態に戻っている。お前もわかっているだろ。故にジェターク社はアーシアンを支援している」
    「ああ」
    「そこで、お前に頼みがある」
    「なんだ?」

    「俺の存在は連合にバレている。今の襲撃もそうだ。居場所が割れている何よりの証拠」
    「奴らの狙いはお前だったのか」
    「そこで、俺を匿ってくれ。そして、地球復興のために力を貸してくれ。企業連合でも上澄みのジェターク社の力がなければ、俺の目的は果たせない」

    「具体的には、どうするつもりだ?」
    「宇宙議会連合を潰す。企業連と議会連合では、未だに議会連合の方が強い」
    「また暴れるつもりか。過激なことしかしないのか?」
    「現状を打開するためには、誰かが進んで壊さねばならない。そして、それを完遂できた時は、シャディク・ゼネリは役目を終え、本当の死を迎える」
    「ちょっと待て。議会連合を潰した後はどうするんだ? 企業連合は?」
    「だから、トップに最も近い男に頼んでいるのさ」
    「俺は会社の社長なだけだ。総裁でもないし、ジェターク社もトップには昇り詰めていない」
    「お前に全て託す。何をするにしても、大勢殺した殺戮者は後の世には必要ない。違うか?」
    「けどよ……」
    「グエル。お前にしか頼めない」
     一方的なシャディクの提案に、グエルは悩んだ。志は同じでも、やり方が極端すぎるとは思ったのだ。そして、シャディクは自分が助からない道を選ぼうとしている。十年前と同じように。しかし、それは全てにおいて都合がいいのも事実であった。

    「わかった。地球の惨状を変えたいのは俺も同じだ」
    「交渉成立だな。短い旅路だが、よろしく頼む」
    「……ああ」
     風に舞う砂にまみれた町。寂れた地で、革命が始まろうとしていた。

    機動戦士ガンダム水星の魔女外伝  復活のシャディク

  • 723/07/17(月) 21:17:03

    ……ってところまで思い浮かんだ続編の妄想でした
    その先の展開?いやぁちょっと私にはわかんないっすねぇ……

    ロボカテのSSあんま読まないから、ネタ被ってたらすみません

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:19:00

    うあーっ
    『復活』のシャディクなのにシャディク自身が自分はコピーでシャディクじゃないって事一番理解してるの辛…
    救いは…いやでもシャディク・ゼネリは間違いなく死刑執行されてんだよな…展開はわくわくすんのに実情がおつらい…

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:19:31

    すげえ面白かったです!
    シャディクがシャディクの名を捨てる話はよく見かけたけどGUNDでサイボーグ化は目から鱗の発想でした
    出来たら続きも見たくなる良SS!

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:19:33

    シャディク、また自己犠牲してない…?

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:23:57

    シャディク死んでる………泣

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:25:25

    >>10

    だって名実共に死んでてシャディクにとってはボーナスステージでしかないからよ…

    自己犠牲のひとつやふたつ加速するんだよ…

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:29:52

    このレスは削除されています

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 21:38:40

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 22:19:04

    ジェターク側としてはあまりメリット無さそうだけど愚直に進むんだろうか⋯旅路は見てみたいが

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 22:20:51

    このレスは削除されています

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています