- 1二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:00:00
どん底にいた。
疲れきった身体を引き摺って自室に帰ったとき、視界がぐらついて床に倒れ込む。
このまま泥のように眠りたい、そんな欲求を必死に抑え込みながらシャワー室に身体を滑り込ませた。
「誰の七光りでもない、一流のウマ娘になって、世間と母に自分を認めさせる」
そんな夢はとっくに叶いようのないほど遠くへといってしまったことは、わかっている。
クラシック級では三冠の冠をひとつも戴くことができず。
シニア級に入ってすぐ勝った二つの重賞以来、一度も勝利を掴むことができていない。
せめてG1という栄冠を一つだけでも掴み取りたいと、藁にもすがる思いで苦手で避けていたダートのフェブラリーSへと出走した。
一番人気に推された私のレース結果は、十三着だった。
パドックでも、レース後のインタビューでも、私はバカみたいな高笑いを止めなかった。
それをやめてしまったらもう、私に降り注ぐ失望や憐憫の視線に屈して、膝を折ってしまいそうだったから、笑った。
私のトレーナーは、名義だけの存在だ。
私とともに歩んでくれるトレーナーなどいないと、私はすぐに諦めてしまった。
もしもあのとき、もう一日でも長くトレーナーを待っていたならば、今ごろ私にも信頼できるパートナーがいたのだろうか……?
──そんなありもしない妄想を、かぶりをふって打ち消す。
私は大丈夫。
シャワーを浴びたあとだというのに身体が寒い。凍えてしまいそうだ。
私は大丈夫。
震える指で寝間着を着こんで、彼女を起こさないように自分のベッドに向かおうとする。
私は大丈夫。
心身ともに疲弊しきって、誰も認めてくれないことに目を背けながら、私はこれからも一人で歩み続けるのだろうか。
私は大丈── - 2二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:00:16
「ふっ……うぅ……ぐぅ……っ」
ぺたんとその場に座り込んで、私は童女のような嗚咽を漏らした。
もう耐えられない。好奇と侮蔑の視線に晒されながら道化を演じ続けることも、たった独りで勝負の世界に立ち続けることも。
同期のみんなが羨ましくて、妬ましくて、そんな自分が情けなくて、私は涙が落ちて濡れていく床をただ眺めていた。
あぁ……もういいだろうか。あの人の言う通り、競争ウマ娘なんてやめてしまおうか。
そうすればこんな気持ちからも解放されるんだろうか……?
──そんな私の頬をそっと誰かの手が撫でた。
ゆっくりと顔をあげると、寝ぼけ眼で瞼を擦っているウララさんが、膝をついてこちらを見ている。
彼女はゆっくりと両腕で私を抱えると、諸ともベッドの方に引きずり込んだ。
「むにゃ……キングちゃん……泣かないで……」
暖かな体温と心音が、頬を通じて伝わってくる。
小さな手が私の少し濡れた髪を何度も何度も撫でる。
「キングちゃん……いつもがんばって……わたしは……」
彼女は、微睡みから再び深い眠りに落ちる寸前に、ぼそりと呟いた。
「わたしは……ずっといっしょ……」
それだけ言って、彼女は再び大きな寝息を立てて寝始めた。
私を抱き締めたままの彼女の小さな背中に手を回して、しっかりと抱き締め返す。
最近は話す時間も減っていた。余裕がなくなるほどに、彼女と過ごす時間すら惜しいと思って、私は一人でレース研究やトレーニングを行い続けた。
そんな私のことを、彼女はずっと思い続けてくれていた。
ほろり、と、思いもよらず一筋、涙がこぼれる。
「……あたたかい」
彼女の体温が、優しい手の感触が、頑なになった心を一つ一つ解かしていく。
その日の夜は、夢を見なかった。
──次の日、私は初めてウララさんよりも遅く起きてしまった。
私よりも早く起きて、ずっと私の寝顔を眺めてニコニコしていたというウララさんを怒るに怒れなくて、私は溜め息をついて、ゆっくりと朝の準備をした。
高松宮記念。次の戦場まで猶予は残されていない。だけれど、もう少しだけ──この春の日溜まりのような時間に浸っていたかった。 - 3二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:01:57
ウララとキングを同室にしたトレセン職員にノーベル平和賞をあげろ
- 4二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:01:59
これは聖母ウララ
- 5二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:02:08
ウラキングいいよね…
- 6二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:02:17
一人で泣いてんじゃねーーーーーーッ!!!俺は一流のトレーナーだーーーーーーーーーーーー!!!!!
- 7二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:02:40
申し訳ないが別の世界線で幸せになってくれ
- 8二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:02:50
いいキンウラです。私の性癖に合っています。
- 9二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:03:36
なんてこったい(感涙)
- 10二次元好きの匿名さん21/08/28(土) 23:04:51
ジリリリ
- 11>>121/08/28(土) 23:05:51
一流トレーナーとも出会わず長い迷走をしていた史実のような戦績のキングがいたとして何に支えられていたんだろう?と考えるとやっぱりウララちゃんしかいねぇよなぁ!?という妄想から書いた
ウラキングは世界を平和にする