- 1本文23/07/18(火) 21:32:55
ベッドの中の暖かみに、目が覚める。
部屋の窓から見える空はまだ暗く、月の光が薄暗く部屋全体を照らしていた。
違和感の正体を確かめるために、ゆっくりと目を開ける。目の前には、綺麗な髪と、可愛らしい大きな耳と。大人びていて、しかし少女のような寝顔の、あなたが居た。
いつからこうしていたんだろう。寝ぼけてベッドを間違えたのかな、アヤベさん。私と一緒に寝てて狭くないかな。
上手く回らない、けれど妙にクリアな思考の頭でぐるぐると考えを巡らせる私をよそに、あなたは穏やかな寝息を立てている。
いつもは凛々しいあなたの、普段は見せる事のない一面が、なんだかとってもかわいらしく見えて。
無意識のうちに頬に触れようとしていた手が、ぴたりと止まる。
──私にはきっと、あなたに触れる資格なんて無いから。 - 2本文23/07/18(火) 21:33:29
夕陽が私たちを照らしていた、あの日。
私は、あなたを引き止める事ができなかった。
去っていくあなたの背中を、ただ憂う事しかできなかった。
次に会ったあなたは、まるで光を無くした星のようで。
崩壊へ向かっていくあなたを、ただ見ている事しかできなかった。
全てが解決した後、あなたは私にごめんなさいと言った。
本当は、私があなたにかけるべき言葉だったのに。
失う事が嫌で、失う事が怖くて。
それでも私は、何もできなかった。
何もしてあげられなかった。
今でも、考えてしまう。
もしも、あの時勇気を出して、あと一歩踏み出していれば。
あなたは、あんなに苦しむ事なんかなかったんじゃないかって。
もしも、それよりももっと前からあなたの陰りに気づいていれば。
もっとあなたに、寄り添う事ができたんじゃないかって。
もしも、もしもこんなに弱い私じゃなければ。
あなたを、救えていたんじゃないかって─。 - 3本文23/07/18(火) 21:33:42
宙ぶらりんになった手を、私の心へと戻す。
目の前のあなたは、相変わらず心地よい寝息を立てていて。
前よりも隈の少なくなったあなたから伝わる暖かさが、冷たい私を再び夢の中へと引き込んでゆく。
…ああ、やっぱり私は弱虫だな。
あなたに、甘える事しかできないな。
私にへばりついた記憶に、あなたと居れる心地よさを重ねてしまう自分が、どうしようもなく情けなくて。
『ごめんなさい、アヤベさん』
月の光と、時計の針と、あなたの呼吸と、私の後悔。
微睡みの狭間で震えた言葉は、ついにあなたに届かないまま、暗闇の中へと希釈されて、私の意識と共に夢へと消えていった。 - 4123/07/18(火) 21:34:29
- 5123/07/18(火) 21:34:54
あっ上のは前のSSですよければ