【SS注意】『外』にご注意【非CP】

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:45:08

    夏なのでホラーを書きたかったけど書けなかったので書きました。
    タイトルにもあるようにカップリング要素はありません。
    次からどうぞ。

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:45:27

    七夕といえば、短冊。
    それはもはや日本ではごく当たり前の行事の一つ。織姫と彦星が一年に一度出会えるというそれ。トレセン学園でも、浮足立って短冊を笹につける様子が多く見られた。
    私はといえば、知り合い……と言うには付き合いの長い厄介な自称研究者が生徒会に捕まり、同室の彼女は憧れのモデルと用事があると言っていて。他にもそれなりにいる知り合い全てが、奇跡的に私の暇な時間に噛み合わないヤラセのような一日だった。
    久方ぶりの一人はゆっくり過ごせたし別にそれはそれで構わないけれど、なにか陰謀のようなものすら感じてしまうのも事実。本を読もうにもつい先日買ったばかりの本を読み終え、練習は休みでトレーナーは別件で出ていて、とくるといよいよ手詰まりになってしまった。

    「…………ふぅ」

    だから、トレセン学園からすぐ近くの山を登ることにした。門限より1時間だけ過ぎてもいいという特別な許可を得て。ただ山と言っても練習でランニングに訪れたって往復30分で降りられるくらい低く、ゆっくり歩いても余裕を持って帰宅可能な計算。故に今の自分の格好も届け出を出す時の登山スタイルではなく、歩きやすい服にヘッドライトを付けてリュックサックを背負い、中に飲み物、軽食、懐中電灯という、ほとんど散歩に近い装備でしかない。いえ、ヘッドライトは軽装とは言い難いんですけれど、やはり暗い道を歩くのにこれは欠かせないと思ったので。

    「……流石に、あっという間ですね」

    夏なので日が傾くのも遅いけれど流石にこの時間になると暗いな、などと考えながら歩いていると、いつの間にか山頂に到達していた。
    ここにはウマ娘が練習でよく来る場所だからかトイレやベンチ、自販機まで設置してある。ここまで来るとほとんど公園だけれど、今の私にはそれもありがたい。少し星空を眺めて、すぐに帰ろう。そう思って、気がついた。
    先客がいる。

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:45:39

    「~~~~♪~~~~♪」

    (……あれは、ゴールドシップ、さん?)


    ベンチの直ぐ側に建っている街灯から、特徴的なロングの芦毛とそれよりも特徴的なよくわからない被り物が見えた。あれは誰がどう見たって彼女以外にありえない。

    後ろ姿しか見えないがベンチに腰掛けて何かを歌っている様子で、その声を聞いてやはり彼女であることを確信した。破天荒で名の通ってこそいるものの、透き通るような声は耳にすれば立ち止まること請け合いだからすぐにわかる。

    「~~~~♪~~~~♪」
    (何を歌っているんでしょうか)

    どうやら英語圏の歌らしい。彼女は勉学の成績がいいことは聞き及んでいたが、それにしても流暢に英語の歌詞を噛むこと無く口ずさむものだから、思わず感心してしまう。
    少し近づく。そして、それが聞き覚えのあるメロディであることに気がついた。

    (これは……キャロル?)

    確か、鐘のキャロルという歌だった、はず。
    けれど、それを何故夏、それも七夕に?疑問はいくつも湧いてきて、ふと本人に尋ねてみようと思い近づいていく。楽しそうな声色のその歌を聞きながら、気がついた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:46:15

    「Look to the sky, way up on high
     There in the night stars are now right」
    天仰げ 空高く 今宵 星戻る

    「Eons have passed: now then at last
     Prison walls break, Old Ones awake!」
    目覚めよ 我が主よ 封印は すでになく

    (……え?)

    「They will return: mankind will learn
     New kinds of fear when they are here」
    主が戻る 人よ知れ 新しき 恐れを

    「They will reclaim all in their name;
     Hopes turn to black when they come back」
    真の名を 主は示す 闇を望め 希望はない

    (主が、戻る?)

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:46:29

    「Ignorant fools, mankind now rules
     Where they ruled then: it's theirs again」
    無知なる人から 主は取り戻す

    「Stars brightly burning, boiling and churning
     Bode a returning season of doom」
    星々が破滅する 定めの時が今

    (違う)

    「Scary scary scary scary solstice
     Very very very scary solstice」
    至上の星辰と 至高の恐怖よ

    「Up from the sea, from underground
     Down from the sky, they're all around」
    遍く 全てより 海からも 空からも

    「They will return: mankind will learn
     New kinds of fear when they are here」
    主は戻り 人は知る 新しき 恐れを

    (これは鐘のキャロルじゃない)

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:46:42

    早口の英語だったため、きちんと歌詞を理解できているのかはわからない。けれど、ところどころから聞こえるその内容はあまりにも、鐘のキャロルとは遠くかけ離れたものだった。
    混乱する私を他所に、歌が続く。

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:46:53

    「Look to the sky, way up on high
     There in the night stars are now right」
    天仰げ 空高く 今宵 星戻る

    「Eons have passed: now then at last
     Prison walls break, Old Ones awake!」
    永劫は 終わった 我らの 主の目覚め

    (マズい)

    「Madness will reign, terror and pain」
    狂気と 恐怖と 苦痛と 悲嘆と

    「Woes without end where they extend」
    終わりのない災禍

    (これは非常にマズい)

    「Ignorant fools, mankind now rules
     Where they ruled then: it's theirs again」
    無知なる人から 主は取り戻す


    「Stars brightly burning, boiling and churning
     Bode a returning season of doom」
    星々が破滅する 定めの時が今

    (離れないと)

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:47:06

    「Scary scary scary scary solstice
     Very very very scary solstice」
    至上の星辰と 至高の恐怖よ

    「Up from the sea, from underground
     Down from the sky, they're all around」
    遍く 全てより 海からも 空からも

    (これは聞いてはいけない)

    「Fear」
    恐れよ

    「They will return」
    主は来たる

    (私には、手に負えない)

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:47:16

    ものの1分ほどで終わってしまうそれを、繰り返し、繰り返し、繰り返し。
    楽しげに歌うその様とは裏腹に、内容は何ともおぞましかった。思わず顔を伏せ、目を強く瞑って開けるのを拒みたくなるほどの恐怖に包まれた。全く理解の範疇にない。彼女はその意味を知っているのだろうか?いや、知っているかどうか、ではない。知っていようがいまいが関係ない。これ以上、あの歌を歌わせてはいけない。
    そう思って、意を決して顔をあげる。

    「……い、ない…………?」

    街灯に照らされたベンチには、誰もいなかった。いや、いなくなっていた。歌声はいつの間にか聞こえなくなり、まるで先程までの出来事が夢幻だったかのようだ。
    けれど、それは違う。確かにいたし、確かに聞こえた。それが証拠にベンチに触れてみると暖かく、そこに今までいたというのがありありと伝わってくる。だとしたら、どこへ──

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:47:32

    「うしろ」
    「…ッッ!!??!?」

    思わず飛び上がる。耳と尻尾が逆立ち、全身から冷や汗が吹き出るのがわかった。夏らしく日が落ちてもなお気温は高いはずなのに、震えが止まらない。

    「何を怯えているんだ?」
    「貴女は、先程の歌がどんな意味を持つかご存知なんですか?」
    「詳しいんだな?」
    「……いつからか語られるようになった、悍ましい神話の歌でしょう」

    古書店を巡っていたときに一度だけ、その神話について詳しく書いてある本を見つけ読んだことがある。確かルル……何とか。物覚えは悪い方ではないはずなのに内容も殆ど覚えていない。けれどただ一つ、深く記憶に刻まれていることがある。
    それは、絶対に忘れなくてはいけないという義務感にも似た強い恐怖だった。

    「必然か偶然か知らないけど異本を読んだか?忘れる程度で平穏無事な生活を送れるようなシロモノじゃないが……なるほど」
    「たまたま耐性があったんじゃないですか」
    「あー……違うんだよ」

    肩を竦め、わざとらしくヤレヤレといったポーズを取る。
    そこだけ見ればいつもの彼女らしく安心感すら覚えるそのジェスチャーを見ても、私は何一つ安心できずにいる。その理由が未だに不明なのも気持ちが悪い。
    本当なら今すぐにでも会話を切り上げ逃げるべきなのだろう。でも、目の前の彼女を放っておくことができないのも事実。会話を続け、なんとしても解決の糸口を掴むしかない。

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:47:48

    「違う……とは」
    「『アレ』はな、そういう尺度にいないんだ。耐性があるから無事なんじゃあない、お眼鏡に叶わなかっただけのことなんだよそれは」
    「……それは吉報ですね。私は全く興味がないので」
    「ハハ、言えてるぜ。触れないのならそれに越したことはない。何も知らないほうが、幸せなこともある」

    耳を疑う。まるで全てを知っているかのような口ぶりで、全てを諦めているかのような言葉選びをする人じゃなかったはずなのに。
    まさか。
    「『怪物と戦う時は、自らも怪物にならぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ』ドイツの哲学者の有名な言葉さ。ミイラ取りがミイラにならないようにっていうありがたーいお言葉」
    「……貴女、は」

    『     』が目を瞑ると同時、風が吹いた。芦毛が揺れ、街灯の光を受けてキラキラと反射しているように見える。神秘的とすら思えるその光景が、嫌に恐ろしい。
    数秒か数分か、冷や汗が背中でいくつも流れた頃、ふと目を開く。それを見て私はようやく理解した。ああ、そうか。私がずっと感じていた大きな不安はこのことだった。そういうことだったのだ。

    「アタシは繧ゅ≧縺ヲ縺翫¥繧後□縺九i」

    全てを飲み込む漆黒の影すら生ぬるい真の闇が瞳のカタチをしている。それが、私の最後の記憶だった。

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:48:18

    「……ん、ふぁ…」

    眩しい。最初に思ったのは、瞼に暑いほど降り注ぐ日差しに対する文句。
    いつの間にか寝ていたらしい。起き上がると、着替えた覚えはないがキチンと寝間着で寝ていた。伸びをして、欠伸を噛み殺しながら抜け出す。
    そうして覚醒してきた頭に入り込んできた視界は、私の想像とは少し違っていた。

    「…ここ、は?」

    私の部屋じゃない。いや、確かに昨日登山に使った道具などが机の上に置いてあるけれど、その他一切が私の部屋じゃなかった。
    私物もなければ並ぶようにおいてあるベッドには明らかに同室の彼女とは思えない大柄なシルエットが見える。と、そこまで考えを巡らせたところで唐突に答え合わせが始まった。

    「おはよう。よく眠れたか?」
    「……ゴールドシップ、さん?」

    なぜ彼女が?私は確かに昨日、山を登って、頂上まで行き、行き……行き?

    「あの、不躾なんですが……私、昨日どうしてました?」
    「ベンチで寝てたぞ。アタシが脱走して散歩と洒落込んでなかったら大変な騒ぎになってたぜ?」

    どうやら少し休憩しようとして寝てしまっていたらしい。そこまで疲れていたつもりはないけれど、どうやら想像よりも夏の暑さに参っていたようだ。

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:48:32

    「ありがとう、ございます……?」
    「気にすんな。アタシの同室明日まで帰ってこないし服のサイズちょうどよくて助かったぜ」

    ? これは、なにかおかしい気がする。
    私は、昨日、山を登った。頂上へ行った。そして、ベンチで、歌を。歌?
    歌なんて、聞いただろうか?いや、たしかに、透き通った声を。聞いていない。いや、耳に入ったのは間違いないはずなのに、聞いていないの、だろうか。

    「ほら、休みとはいえボーっとしてたらもったいねえぞ。顔洗ってこい」
    「え、ええ、はい」

    きっと、悪夢かなにかでも見たんだろう。そうでもなければ、この背中に流れる嫌な汗の原因が一生わからないままになってしまう。
    考えていても仕方ない。堂々巡りを繰り返すだけの思考を一旦外に追いやり、顔を洗うべき立ち上がる。

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:48:43

    「……星辰は未だ遠く。手遅れだろうと、蓋であり続けてやるさ。ふんぐるい、ふんぐるい」

    後ろからなにか聞こえた気がしたが、よくわからなかった。

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:49:07

    以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 23:50:53

    旧支配者を呼んでしまったか…

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 09:05:14

    ゴルシの何でもアリ感は異常

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