【SS・トレウマ・閲覧注意】グラマラスなグラス(一部分)

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:24:59

    忘却は人間の救いである。

    確かに、過去の傷は忘却と共に癒えていき、傷は傷で無くなる。

    しかし、忘れたくない物もある。

    親友の顔。
    何気ない日常。
    取り止めの無い会話。

    でも、これらは記録を取ればある程度は忘却を阻止できる。日記、写真、動画、その手段は特に今世紀に入ってから多岐に及ぶ様になった。

    であるならば、忘れられたく無い場合は?

    彼女───グラスワンダーは、考えずにはいられなかった。

    いよいよ迫る、トレセン学園からの卒業式。

    それは即ち、愛してやまない日々の終わりを意味していた。
    だから、彼女は取れる記録は全て取った。スペシャルウィークと食べたあの日の昼食を。練習をサボるセイウンスカイとの追いかけっこを。キングヘイローに付き合ってもらった服の買い物を。デスソースを米に掛けんとする、大悪無道たるエルコンドルパサーを薙刀で突っつき回した事を。その夜には全て、事細かに記し、こっそりと戸棚に仕舞い込んでいた。

    ふふっ、若草物語に因んで、草上飛物語とでも名付けましょうか。

    徐々に分厚くなる日記帳に、その日記帳の厚さを同じ量の幸せを感じながら、彼女は考える。

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:25:52

    だが。

    どんなに同期との思い出に浸ろうとも、消せない不安が一抹あった。

    それは、彼女のトレーナーである。

    同期達にとっては、グラスは共に切磋琢磨し、先頭を常に競い合った、言わば唯一無二の仲間である。

    では、トレーナーさんにとっては?

    彼女のトレーナーは、今後もトレーナーとしての道が続く。
    人生に一度の競技人生を、何度もサポートしては送り出す。そんな彼にとっては、自分は所詮は「数多の担当ウマ娘のうち一人」にしかならないのでは無いか?

    徐々に彼女を苛む不安は、白い紙にぽたりと落ちた黒い墨の様に、段々と彼女を蝕んだ。



    「グラス?そろそろ休憩にしないかい?」

    今日もぽわりとした様子で声を掛けるのは、彼女のトレーナーである。

    彼女は、そんな彼に手招きされて肩を並べ合い、ゆっくりと談話しながらお茶を啜る事が好きであった。

    お茶を飲んでいる時は、忘却の恐怖も一時的に消え去り、ただ二人だけの時間を満喫できる様な気がしたから。

    今日も、他愛の無い話で盛り上がって行く。盛り上がって行ったのだが。

    「あれ、そういえばこのお茶、初めて飲む味だね」

    その時、何かがピシャリと音を立てた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:26:19

    初めて?半年前に、京都に遠征した帰りに、二人で飲んだお茶と同じ銘柄ですよ?あの時のあなたは、普段から少しぽわりとした顔を、更に綻ばせて嬉しそうに飲んでいたのに。もう、既に忘れているのでしょうか?

    なんかこのお茶好きだなー、もしかしてグラスも好きだからこんなに良い笑顔なのかなー、等と彼女の心情を一切知らぬまま、ほんわかと笑うトレーナー。普段なら癒されていた所だが、既にトレーナーが自分との思い出を忘れ始めている事を思い知らされた彼女にとっては。トレーナーにとっての”one of them”に成り果てたく無い彼女にとっては。

    この事実は、些か残酷すぎた。

    「……お気に召した様で、何よりです。私も十分休まりましたし、また練習を再開しますね」

    ふらりと立ち上がった彼女には生気など無く、巻物に描かれた幽鬼の如き雰囲気を放っていた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:26:39

    「グラスのトレーナーさん!大変デース!」

    数日後、それは起こった。

    「グラスがお布団から出るのを拒否してるんデース!」

    それは果たして自分は行くべき物なのか?彼は躊躇した。

    当たり前である。彼は成人男性で教育者、彼女は法律上はもうすぐ成人ではあるがまだ学生である。寮の立ち入りだって厳しいし、そもそもこの手の話はトレーナーよりも寮長や、せめて同性の教職員に持ち掛ける話である。

    だが。

    彼は気付いていた、グラスの表情が急に固くなり、それ以降は彼女が色彩を欠いていた事を。

    表情を鮮明に覚えていた彼だからこそ分かる、ごく僅かな差。それは、彼女の中の大和撫子としての矜持だったのかもしれない。しかし、一見は全く同じ笑みであっても、彼から見たら雲泥の差があった。心からの笑みと、仮初の笑み。その原因が自分にある事も、ある程度は自覚していた。

    だからこそ。彼の直感が告げたのである。

    彼女の元に行って来い、と。ただでさえ、既に刻一刻と迫る別れが惜しく、本当はずっと隣にいて欲しいという想いを押し殺しているのだ。こんな事で、二人の関係を悪化させていられるかと。

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:27:02

    そして、直感は当たっていた。

    源氏物語の廃院の如き惨状とは、まさにこの事。
    彼女が秘蔵していた日記が散乱し、肝心な彼女は布団に丸まり、それはかの有名な天岩戸の様な厳重な布団ガードであった。

    「体調が悪いだけです、ご連絡できず、申し訳ありません……」
    「体調が悪いだけじゃ無いだろう?どうしたんだ?」
    「……トレーナーさんにお話するほどの事ではありません、お気になさらず」
    「グラス、これでも僕は君のトレーナーだ。担当の悩み事は、きちんと聞いて、解決出来る様に手助けしたいんだ」
    「……それは、トレーナーとしての業務の一環ですか?」
    「うん…まあ、そういう事になるかな。トレーナーの仕事は、出来るだけたくさんのウマ娘を出来るだけ成功に導く事だし」

    その言葉が、彼女にとっては所謂「逆鱗」であった。

    「そうですか!トレーナーさんにとっては、私なんて所詮は沢山今後扱うウマ娘の中の一人に過ぎないですよね!」

    Why tf would you say that? 脳が嗜めるが、今更彼女は止まれなかった。

    「先日のお茶だってそうです!あなたが、京都遠征の時にこの銘柄が好きだって言うから、ちょっと奮発してお取り寄せしたのに、あなたはそれを覚えてもいなかったじゃ無いですか!」

    To be fair, only tea lovers would really care about the brand. 更に脳内で理性が訴えかけるが、彼女の感情はどす黒い墨汁の様に、溢れ出てしまっていた。

    「なのに……!なのに……!!!所詮は通過点にしか過ぎないウマ娘に対しても、こんなに優しくするあなたに、私は惚れ込んでしまったんです……過去の日記を読めば読むほど、あなたの優しさが伝わって来て、でもその優しさは私の後輩達にも同様に与えられて、いずれは私もその後輩達も同じ、「沢山の中の一人」に過ぎなくなると思うと……」

    Idiot, you’re just too attached to him. He’s probably gonna take a step back from you, what a bad move.
    ようやく落ち着いて来た感情、そして全てをぶち撒けてしまった後悔。この涙は、一体何の感情なのだろうか。

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:28:01

    「それは違うよ、グラス」

    え?

    「僕だって、君のことは忘れたくない。青空も、日差しも、風も、お茶の温かさだって」

    でも、あなたは先日…

    「確かに、遠征の事を忘れてしまったのは申し訳ない。でもね、グラス。それは君自身が僕の記憶を上書きして行ったからなんだ」

    たかが半年、されど半年。それは、とても短い様で、とても長く、濃密な物であった。
    その後も重ねたお出かけ。合宿。何気ない練習。二人だけの茶会。そして、レースを勝った時の強烈な思い出。

    「だから、決めていたんだ。これだけは覚えておこうって。それはさ、君の笑顔なんだ」

    「レースに勝った時の笑顔。ずっと見たかった浮世絵を見れた時の笑顔。君が友人達と仲良くしている時の笑顔。………君が、僕の隣でお茶を飲んで、とめどない話をしていた時の笑顔」

    だからさ、グラス。君の笑顔は一生忘れないし、それを覚えている限り、僕はこの先、一生君の隣でお茶を美味しく飲める気がするから。

    「………ふふっ、プロポーズですか?トレーナーさん?」

    図星を突かれたのか、顔を赤くするトレーナーさんを見て、少し安心します。

    本当に、優しい方。白い紙に滴り落ちた墨汁を、「私の事は少しずつ忘れる」という不安を、巧みに捌いて一つの絵にしちゃいましたね。

    まさに水墨画の様に。白黒のみで描かれる水墨画は、その性質故に多くは語らない。しかし、そこに描かれた一つの物を見れば、人はそこから百を脳内で補完するのである。

    きっと、私たちもお互いの笑顔を見れば、連鎖的にトレセン学園の良き思い出を補完しあえるのでしょうか。

    グラスは、慌てて弁明を始めるトレーナーを傍目に、そんな事を考えながらゆっくりと立ち上がった。

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:28:32

    いつか、人は忘却の渦に記憶を捨てる。
    つまらない事も、楽しかった事も、分け隔て無く。
    丸々と一つの事を全て欠片残さず忘れる事もある。
    でも、彼と彼女、彼女と彼女の友人達はその限りでは無い。
    もしも片方が忘れたとしても、もう片方が記憶を補完してくれるから。
    トレーナーにとって、彼女は唯一の初めての担当であるのだから。
    何があろうと、彼女が初の担当で、一生を添い遂げる唯一のウマ娘なのだから。
    凛とした彼女が時折見せる、信頼する者にしか見せないあどけない笑顔。
    出会ったウマ娘がどんなに強烈であろうと、彼は彼女の笑顔だけは忘れない。
    忘れないと、彼女に誓ったのも理由の一つである。
    羅針盤の様に、常に彼女の記憶に導く鍵であるというのもあるが。
    笑顔が素敵で、芯から強い、そんな彼女に惚れ込んだから、というのが最大の理由だろう。

  • 8123/07/21(金) 14:34:00

    という訳で、[完]

    事細かに全てを覚えようとするグラスと、全てを覚えることは無理でも君の笑顔なら覚えていられる!しちゃうトレーナー。何だお前、サポカでこんな激重感情抱いてんのかよ。トレグラあまり推してなかったけど急に推したくなっちゃったじゃん。

    以上!

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:40:00

    良いものを読ませてもらいました…
    グラスとグラトレは末永くお互いに記憶に残していくべきだと思いました
    ちょっと待って?タイトルにあるグラスのケツ描写が入ってないやん!

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 14:48:56

    仕事速すぎませんかね・・・

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:12:28

    このレスは削除されています

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:27:07

    縦読みニキ?

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:30:38

    昂ると出てきちゃう英語好き
    あと薙刀が具現化してる…グラスって実際に持ってたっけ?

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:33:12

    >>13

    それもWhy tfみたいな、学生スラングを使ってるんだよね、大和撫子にはあるまじき暴言♡

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:33:57

    ケェーッ! 口の中が甘くて仕方ないデェェェス!
    デスソース飲まされたいんデスか!?

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:36:03

    >>7

    縦読みというか、文章の最初の文字で区切ると


    いつまでもとなりでわらえ

    何時迄も  隣で  笑え


    になるのか、エモ

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:37:38

    very gooooood...

  • 18二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 17:02:55

    よき(語彙力喪失)

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 17:18:39

    ポエマートレに名乗りを上げて来たグラトレ

    と思ったけど、シナリオでもグラスとの出会いとか考えると割とそう言うとこある気がするw

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 17:24:13

    シリウストレもそういう所あるらしいしアルトレもいるし
    美浦寮所属のウマ娘のトレーナーポエマー気質多い?

  • 21二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 17:45:39

    >>20

    巨匠タイトレが居るのでトレーナー自体にポエマーが多いのだと思われる

  • 22二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 20:36:52

    >>21

    マクトレもポエマーだったしな

  • 23123/07/21(金) 21:59:07

    >>9

    私は生憎と胸と手派なので…

  • 24二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 05:47:59

オススメ

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