【SS】アイ・コピー。アファーマティブ!

  • 1◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:26:07

     トレセン学園の放課後はあちこちが賑わっている。トレーニングに勤しむ者に、余暇を楽しむ者。
     ある一角では談笑をするウマ娘たちもいる。その二人は語り合う、というよりは一方がもう一方に話しかけるばかりの構図だが。

     彼女たちは、マヤノトップガンとネオユニヴァース。共通点がウマ娘くらいで外見も学年も違う二人は珍しいペアだ。
     いや、珍しさを超えて奇妙とさえいえるかもしれない。それは両者の癖の強さにあった。

     マヤノは自由奔放という言葉が似合うウマ娘だ。天性の才能と呼ぶべきか、物事の理解を論理ではなく直感で成し遂げる彼女はセンスがある。
     しかし、踏むべき手順を飛び越えて一気に正解に辿り着いてしまう彼女は、現実でもそれを当てはめようとして壁に阻まれていた。

  • 2◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:26:37

     対してユニヴァースは神出鬼没としかいえないウマ娘。彼女なりの思考に基づく行動は、独特の言葉も相まって周囲を大いに困惑させる。
     故に、彼女自体を怪しむというか明らかにしてしまうという動きに彼女もまた戸惑い、答えを求めて悩んでいた。

     どちらのウマ娘も、トレーナーと契約して以降はレースでもプライベートでも順調な生活を送り始めていた。
     こうして特徴を列挙してみると、なるほど二人は似通った存在なのかもしれない。

     そんな二人は学園に揃った当初から交流があったわけではない。二人の出会いは、偶然に等しいきっかけによるものだった。

  • 3◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:27:34

    「ふふーん。テイク、オーフ☆」

     ある日、マヤノは校舎の外で紙飛行機を飛ばしていた。どんな紙でもそれを折ることが出来るという特技を持つ彼女は、よく飛ばすことも可能だった。
     噴水のある広場や中庭を行ったり来たりしながら飛ばしていた彼女は、何回目かのフライトでアクシデントを起こしてしまった。

    「うっ」

     紙飛行機が地面に着陸する前に、誰かにぶつかってしまったのだ。後頭部めがけて狙ったのではないかというくらいの衝突具合だった。
     薄い紙製であるから怪我などしようもないが、それでも事故は事故だ。マヤノは慌ててその誰かであるウマ娘の元に駆け寄った。

    「わわわっ!? ご、ごめんね、わざとじゃなかったんだけど、ケガ……してないよねっ? だいじょうぶっ?」

     相手のウマ娘は衝撃の方向そのままに頭を傾かせていたが、ゆっくりと振り返ってマヤノに応答した。

    「……アファーマティブ。問題ないよ」

  • 4◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:28:19

     ユニヴァースがその独特の言語センスによる発声をすると、マヤノの動きが止まった。顔色を窺うために見上げていたものだから奇妙な姿勢だ。
     しかし、自前の体幹バランスの良さでそれを維持したまま彼女もオウム返しに発した。

    「……アファーマティブ?」
    「? アファーマティブ」

     マヤノが繰り返したものだから再度自分の言葉を伝えるユニヴァース。お互いに意味を探ろうとしつつ、首を傾げる。
     もしこの場にもう一人誰かがいたら、いったい二人は何を話しているのだろうと疑問に思う会話のような何か。それでも、これが二人のコミュニケーションのようだった。

    「……アタシ、アタシねっ? マヤノトップガン!」
    「これは……"対話"。"自己紹介"。『わたし』は、ネオユニヴァース」
    「ユニヴァースさんね! ユニヴァースさんは、え、えっと……ヒコーキ、好きっ?」

     そう言ってマヤノは落ちていた紙飛行機を拾い上げてユニヴァースに見せる。

  • 5◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:28:50

    「それは……空と空を"結ぶ"。"軌道に乗って"いたね。あなたが?」
    「う、うん! マヤが折って飛ばしてたの。ユニヴァースさんも見てた?」
    「アファーマティブ。"可視の具現"を"観測"していた。空と……その向こうと」

     そう言ってユニヴァースは空を見上げる。まるで宇宙まで見通すかのように遠い目をする彼女に、マヤノは目をきらきらさせた。

    「じゃあ、じゃあ! 空だけじゃなくて宇宙も好き? あの広くてビューンってどこまでもいけそうなあそこ!」
    「アファーマティブ。あの広い空間は、"断絶"を埋めて………………『つながってくれる道』が、ある」

     この意思疎通が行われた後には、マヤノの表情はもう喜色満面となっていた。そして、両手を翼のように広げてユニヴァースの周りを駆け回った。

    「すごい、すごーーーいっ!! マヤと同じくらいマヤな人と、ううん、少し違うかもしれないけどすっごくマヤみたいな人初めてーっ!」

  • 6◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:29:26

     そのままマヤノはユニヴァースの両手を取ってぶんぶんと上下に振り回す。相手はされるがままだ。

    「うっ、うっ、うっ」
    「ユニヴァースさん! マヤとお友達になろっ! それでいっぱい、いーーーっぱい好きなことお話しよっ!」
    「うっ……トモ、ダチ?」
    「うん! 友達!」

     その単語をユニヴァースは飴玉のように何度も口の中で転がした。

    「"トモダチ"……『友達』………………この"EMOT"は?」

     こうして、二人は四六時中ではないものの編隊飛行をするようになった。

  • 7◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:29:53

     誰にも知られることがなかったあの日以降、マヤノとユニヴァースが会話する姿が目撃されるようになった。
     その経緯を知らない周囲は好奇の目や耳を向けるようになったが、それらはすぐに逸らされることになる。

     それは、あまりにも二人の会話が難解過ぎたからだ。仮にこれが教師やトレーナー同士の会話であれば、業務内容ということで彼女たちも特に気にも留めない。
     また生徒会メンバーによる会話であっても、自分たちにとって雲の上の話ということで自ら遠慮して離れるだろう。

     しかし、この二人の場合はいずれとも違っていた。かろうじてマヤノ側の言葉の意味が理解出来ても、それに対するユニヴァース側の言葉が理解出来なかったのだ。
     自らの経路に従って出力される言葉は、素人から見れば予測できないコースを飛ぶものだった。

     加えて、その飛行に対するマヤノの反応が間髪を入れないものでもあったのだから、たまったものではない。
     周囲が最初の会話の全体の意味を何とか理解しようとしている間に、当人たちはどんどん高度を上げて速度も増していく。

     そうなれば二人は二人なりに地に足をつけて話しているというのに、手の届かない空の向こうにいるのかと錯覚してしまう。
     その現実と空想のギャップに酔ってしまうことを恐れた周りは、複雑怪奇極まるそのエリアを避けて通るようになっていた。

  • 8◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:30:24

    「ユニヴァースさん、どこかな~? あっち? そっち? うーん……こっち!」

     その日もマヤノはユニヴァースと話をしようと彼女を探し回っていた。
     相手が自分のように率先して話すことはないけれど、マヤノはユニヴァースとの飛行をやめようとはしなかった。

     彼女の無秩序な軌道に合わせてくれるというのもあったが、その内容が彼女の好みのものだったから夢中になるのも無理はなかった。
     話題は一日の間に何度もコースを逸れて曲芸飛行をし、また元に戻るという繰り返しだった。

     マヤノは様々なタイプのウマ娘と交流を持つ。ルームメイトのトウカイテイオーや半分絡む形ではあるもののライバル視しているナリタブライアン。
     キラキラに憧れる共通点からかナイスネイチャもそうであるし、マヤノとは違った独特のセンスを持つマーベラスサンデーとも話す。

     しかし、そんな彼女たちでもマヤノと共有することが出来ない話題があった。それこそネオユニヴァースの元に通う理由。それは、飛行機や空のことだった。
     今までにないタイプのウマ娘と思いがけず出会ったのだ。このワクワクでドキドキな時間を彼女が見逃す筈がない。

  • 9◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:30:55

     出会って少し経った頃に、二人はこんな会話をしたことがある。

    『ユニヴァースさん! その返事ってユニヴァースさんもパイロットに憧れてるの?』
    『その……意味を、"求める"をしたい』
    『あのね、ユニヴァースさんは『アファーマティブ』とか『ネガティブ』って言うでしょ? それってパイロットの人たちが使う言葉だからそうなのかなって』
    『あ、でもでも、本当はイエスの時は『アファーム』なんだって。聞き間違っちゃわないようにって少し変えてるらしいんだー』
    『……その"発言"には、ネガティブ』
    『えー!? 違うのぉー!?』

     最初に思い描いていた予想図とは違っていたものの、

  • 10◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:31:26

    『じゃあね、マヤがユニヴァースさんにヒコーキの言葉を教えてあげる!』
    『マヤがね、『ユー・コピー?』って聞く時は『了解した?』って意味だから……ユニヴァースさんは、『アイ・コピー』って答えてね! 『了解した』って意味だから!』

     すぐにマヤノは別の話題を見つけてしまう。
     しかし、その発言は語尾の上げ下げの違いだけという、会話が不得意な者であれば理解が難しい部類の内容だった。
     ユニヴァースにとっても例外ではなかったようで、

    『"ユー・コピー"……"アイ・コピー"……"了解した?"……"了解した"……』

     何度も繰り返して覚えようとしていた。マヤノは待ち切れなくなったのか、

    『ユニヴァースさん、やってみよ! ユー・コピー?』

     そうユニヴァースに件の掛け合いを振ってみせた。

  • 11◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:31:57

    『………………』
    『"ユー・コピー?"』
    『違うよぉー!?』

     おずおずと出された答えに出題者はお気に召さなかったようだった。それでもめげずに、再度彼女は挑んだ。

    『もういっかい! あのね、マヤはマヤで……』

     そう言って彼女は自分を示して、

    『ユニヴァースさんはユニヴァースさんなの』

     次に相手を指し示した。示された本人はじっと説明してくれた相手の手のひらをじっと見つめた。

  • 12◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:32:27

    『ユー・コピー?』
    『………………』

     見つめ続けていた彼女はゆっくりと顔を上げ、同じ速さで呟いた。

    『"アイ・コピー"』
    『わぁ……! ユー・コピー? ユー・コピー!』

     マヤノは嬉しさのあまりユニヴァースの周囲を手を広げて回り始める。中心の彼女は視界に捉え続けようと回転していたが、すぐに目を回してしまった。
     そのままへたり込むユニヴァースをマヤノは心配そうに覗き込んだ。

    『だいじょうぶー?』

  • 13◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:32:57

     宙の意味を持つウマ娘は、空を駆ける者の意味を持つウマ娘を見上げた。
     そしてうっすらではあるものの微笑みのようなものを口元に乗せて、彼女はもう一度告げた。

    『『アイ・コピー』』
    『んー、こういう時はアファーマティブ! でいいと思うんだけどなー』

     そう言いながらもマヤノの顔も笑っていた。この日以降、彼女はユニヴァースへ飛行機について様々なことを教えるようになった。
     教えるばかりではなく、ユニヴァースも空や宙について少しずつ話すようになった。

     マヤノは宇宙についてはあまり詳しくはなかったものの、ユニヴァースの感性に基づくその内容は彼女の関心を呼び起こした。
     航空宇宙という分野があるくらいなのだ。近しい距離のものにマヤノが興味を持たない筈がなかった。

  • 14◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:33:28

     ユニヴァースを探しながらマヤノは思い出し笑いをしていた。やはり印象に残っているのは記憶にも残るもので、最初に相手に教えた言葉ということもあって楽しい思い出だった。
     なかなか見つからない探し人を求めて、彼女はその航跡を伸ばしていく。そうしていくと、漂っているものも捉えてしまう。

     それは、周囲の雑談だった。空に浮かんでいる雲のように掴めないもの。そのまま通り過ぎてしまえば、いずれは掻き消えてしまうもの。
     ただ、雲のようなそれは、例えられたその役割を果たすように曇天や雨、嵐を作って彼女の航路に影響を与えていた。

     その内容は、噂話。マヤノも含めて年頃の少女たちが通う学園であるわけだから、その手のものはどこにでもある。
     それなのに、彼女にとってその話は楽しくない、ワクワクやドキドキといった気持ちにならないものだった。というのも、ユニヴァースについての話題だったからだ。

  • 15◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:34:03

     ネオユニヴァースというウマ娘は不思議な存在であり、不思議な現象も引き起こす。突然現れたと思ったら消えた、あるいはその反対の事象というのが度々学園関係者に目撃されていたのだ。
     それだけであればまだ、マヤノにとっても友達が噂になっている人気者という認識でとどまったかもしれない。しかし、その中にはレースの最中に起こったものもあった。

     日常生活の中ならまだしもレース中に起こったとなれば、不正を疑うのが目撃者の感情だった。
     模擬レースに関してはユニヴァースのトレーナーの助けで事なきを得たのだが、だからといって彼女に対する疑念が全て晴れたわけではない。

     残ったわだかまりはこのように噂話で発散されるわけなのだが、ユニヴァースの良さを知っているマヤノにとっては面白くない。
     彼女自体は直接その場面を見たことはなかったが、話題に上っている人物がそんなずるをするとは思えなかった。

  • 16◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:34:34

    「……むーっ」

     何故ならば、ユニヴァースはいつも空を見上げていたから。ただ見ているのではなく、何かを知ろうとしているような感じだった。
     そして、彼女が色々と不器用なウマ娘であることはマヤノには『わかっていた』。失速しかねないスピードでも彼女は苦手な会話に取り組もうとしているのだ。
     そんなことには手を出さないだろう。

     これがマヤノ本人の噂であればここまで気にすることはなかった。彼女も品行方正とはいえないウマ娘で、トレーニングをさぼったりと問題児のひとりとして数えられていた。
     彼女のトレーナーと出会ったからこそ収まったが、陰で囁かれたとしても「マヤ、知らなーい」の一言で自由気ままに飛び続けたことだろう。

  • 17◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:35:05

     ユニヴァースのために何か言おうか。そんな考えがマヤノの頭に浮かんだ。しかしすぐには実行しなかった。
     彼女はどう思っているのだろう? いや、そもそも気が付いているのだろうか。

     マヤノはまだ幼いものの人の機微を『わかってしまう』ウマ娘だった。
     しかし同時に、下手な行動で思いもよらない結果を生んでしまうということも『わかる』ウマ娘でもあった。

     モヤモヤしたものがマヤノの全部にまとわりついているような幻覚を感じながら、彼女は彷徨い歩いた。
     気が付くと中庭に出ており、視線の先には探し人が空に向かって両手を広げていた。

  • 18◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:35:36

    「………………」

     静かに目を閉じている様を、マヤノもまた黙って見守っていた。
     ユニヴァースはどうやら『交信』や『交感』をしているらしかったので、航空無線とは違うのは分かっていたがその邪魔はしたくなかったのだ。 
     しばらく待っていると、ユニヴァースが手を下ろしてマヤノの方へ向いた。どうやら終わったようだった。

    「………………『アイ・コピー』」
    「……もー、ユニヴァースさん。それは今じゃないあいさつだと思うよー?」

     ユニヴァースがじっと考え込むのをマヤノはまた見守った。
     やはり彼女にはあんな危険な飛行は出来ないと再確認していたマヤノだったが、気が付けばユニヴァースに見つめられていた。
     思わず後ずさりしてしまいたくなる目だった。彼女の目が怖いというのではなく、父親やトレーナーから注意された時を思い出してしまうのだ。

  • 19◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:36:06

    「な、なに? ユニヴァースさん」
    「何か……"断絶"がある?」

     マヤノはぎくりとした。気付かれないと思っていたのに。早く軌道修正をしないと。

    「な、何のこと? マヤはべつに」
    「………………」

     ユニヴァースはマヤノから視線を逸らさない。何とか回避しようとしてみる彼女だったが、そもそも会うのが目的だったのにそれを放棄するというのは作戦失敗に他ならない。
     結局、マヤノは降参して先程の出来事について話した。

    「……だからね。マヤ、もやもやーってしちゃって。でもユニヴァースさんがどう思ってるかは『わからなくて』……」
    「………………」

  • 20◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:36:43

     話を聞き終えた後、ユニヴァースは長い沈黙を保った。そして次に、それを破った。

    「その人たちの話は、"困惑"。でも、ネオユニヴァースはそう見せたのは、多分"本当"。『悲しい』」
    「そうだよねっ? ユニヴァースさん、そんなずるしないもん! みんなの目が少し悪かっただけだよ!」

     一生懸命にユニヴァースのフォローをするマヤノを見て、彼女は両端を少し上げる。

    「ネオユニヴァースは……『走る』がしたい。つながって、感じてもらえるから」
    「つながって、感じる?」
    「そう、"コネクト"。それをただ、"求める"をしたかった。でも、"軌道"がなくて、見えないのなら……」
    「見えるよっ!!」

     突然の大声にユニヴァースは目を見開く。その先には、拳を握り締めるマヤノ。

  • 21◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:37:18

    「ヒコーキはねっ、道路も芝もダートもないの。あの空! 見えないけど見えてるあそこを自由に飛ぶの!」
    「もっと上の宙だってそう。ロケットでも、シャトルでも、垂直や平行に飛んでるよ?」
    「もしずれちゃったって軌道修正すればいいの。旋回したり、高度を上げ下げしたり……道はひとつじゃないよ!」
    「ユニヴァースさんならできるよ! だって、マヤ……」
    「マヤはね、ユニヴァースさんのこと『わかる』から!」

     一気にまくしたてたマヤノは走ってもいないのに息を切らせていた。そんな彼女を暫し見ていたユニヴァースは、

    「………………」

     また沈黙を生み出していた。しかしこれは何事かを考えている様子であり、マヤノは三度待った。
     そしてユニヴァースはマヤノを見下ろすと、ようやく口を開いた。

  • 22◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:37:49

    「………………『マヤノ』」
    「あ、名前……」

     そのままゆっくりではあるものの、はっきりと彼女は言葉にした。

    「『アイ・コピー』……がんばる」
    「……! うんっ、がんばろっ! ビューンって飛んじゃったら、みんなぜったいドキドキして、ワクワクするから!」

  • 23◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:38:21

     そのまま二人はいつものように会話を繰り広げる。今までと違って、ユニヴァースの口数も多いように思える。
     ふとユニヴァースは何かを思いついたようで、それをそのままマヤノに提案した。

    「『マヤノ』。今度、"空港に行く"がしたい」
    「へっ? 空港?」
    「そう。この間話してくれた、"ベルーガ"。楽しそうだった」
    「でも、ベルーガはとっても珍しいヒコーキだから、行っても見れるかはわからないよ?」

     それを聞いて、ユニヴァースは視線を惑わせる。何か空の向こうに答えを探すように、しかしすぐにそれをやめて、自分の手のひらをじっと見た。
     マヤノは不思議そうに相手に尋ねる。

  • 24◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:39:06

    「ユニヴァースさん?」
    「それが目的ではなくて………………『マヤノ』と、『楽しい』がしたい」

     ユニヴァースの言葉に、今度はマヤノが目を見開いた。それを気にすることなく、飛行プランの提案者は相手の目を見て、確認した。

    「"空港に行く"は、いい?」

     判断を仰がれたパイロットは脳をフル回転させて答えを出す。それは彼女にとっては、「わかり」きった回答だった。

    「アファーマティブ!」

  • 25◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:39:36

     満面の笑みで返答されたことに合わせるように、ユニヴァースも微笑んだ。
     そのまま二人は予定を詰めていく。その合間にユニヴァースは誰かに尋ねられたのように空を見上げる。
     呟くように囁かれたそれは、宙の彼方に飛んでいく。

    「この"EMOT"は……『嬉しい』、だね」

  • 26◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:40:19

    以上です。ネオユニヴァースの受け答えを聞いてマヤノと交流させたいと思って書きました。
    ユニヴァースのキャラが難しくて合っているかは分かりませんが、よろしければお読みください。

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 20:41:06

    いいね

  • 28◆zrJQn9eU.SDR23/07/22(土) 20:42:46
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    過去作です。上二つの下の方のレスからさらに書いたもののリンクがあります。


    こちらもよろしければどうぞ。

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 21:05:39

    パイロットとアストロノーツの逢瀬……。読んでて成層圏の穏やかな気流の中を手をつないで飛んでいくマヤノとネオユニヴァースの姿を幻視した。感想を上手く言葉にできないから陳腐な言葉なのは承知だけど言わせて欲しい。
    めっちゃエモい……。
    珍しい組み合わせだけど、この二人のカプに無限の可能性を感じた素晴らしいSSでした。

オススメ

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