スイーピーと使い魔の魔法の知恵袋

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:04:30

    「…っ!ゲホッ、んぐふ…っ!」
    「ひゃっ!?な、何よ急に!?」

     某日の夏の昼下がり。自室でのんびり本を読んでいたらスイープが暇つぶしと称してやって来た。

     友達感覚のような予告なしの急な来訪ではあるが、客は客なので紅茶とお茶菓子を出して饗したのだが…紅茶を口に含んだ際にまだ菓子が口内に残っていたようで気管に入ってしまいむせたのが今である。

     突然目の前で咳き込み始めた俺を流石に異常発生と判断したか、スイープが背中を擦ってくれたおかげでなんとか落ち着きはしたのだが…。

     むせた時はそれどころじゃなかったのでどうでも良かったが、我に返ると白いシャツに分かりやすく付いたシミを見て肩を落とす。

     お気に入りというわけではないが汎用性が高かったのでよく使っていたが、派手に付いたせいでとてもじゃないが着るのも憚られる。どうしたものかと思案していると背中をちょいちょい突かれるので、振り返ると鼻高々とドヤ顔してるスイープがいた。

    「ふふん、アンタも運が良かったわね!スイーピーの脱色魔法を見せてあげるからそれ脱いで着替えてきなさい!」

     …魔法。一体何をするのだろうかと不思議に思いながらも指示通り脱衣所で着替えてから先程まで着ていたシャツを彼女に渡すとそれを洗面台でゴシゴシ洗い始めた。これだけだとただ手もみで洗ってるだけにしか見えないが…。

     その後、ある程度シミが抜けたシャツを敷いたタオルの上に、残ったシミになった箇所の位置を合わせて乗せると今度は使わなくなった歯ブラシを要求されたので新品の予備を渡すと、ブラシ部を濡らした状態で叩き始め───。

    「…うん、これでバッチリね!はい、これ広げてみなさい?」
    「ほ、ホントにとれてる…一体何を」

     儀式が終わったのか、額を拭った後に自信満々にシャツを渡してきたので広げてみると先程のシミはきれいさっぱり無くなっていた。まさか本当に魔法なのだろうか?

    「グランマが教えてくれた魔法よ。こうすれば、どんなに泥んこになってもへっちゃらさってアタシにも伝授してくれたの!」
    「…そっか。助かったよ、ありがとうスイープ」

     なるほど、この魔法は彼女の祖母の知恵袋のようなものだったのかと納得すると共に、恐らく魔法のお披露目が主目的だったのだろうがスイープの優しさに感謝の念が溢れ、お礼として一緒にケーキ屋さんに赴くのだった。

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:04:51

    「もー!このラムネ全然出てこないじゃない!」

     夏合宿も佳境に入り始めた頃。晩夏特有とも言うべき夕頃の穏やかな風が額にわずかに滲む汗を乾かす。

     合宿所の近所で開催される夏祭りの日が休養日の今日と被っていたのでスイープの命で夏祭りに同行し、今はラムネを飲んでるのだが…どうもスイープは上手く飲めないようだ。

    「もうやだ!これ使い魔が飲んで!ジュース買って!」

     そんなスイープもついに痺れを切らしたのか、持っているラムネをこちらに渡してツンといじけてしまった。一応、見てればそりゃ出てくるもんも出てこないわという飲み方ではあるが…せっかくやって来たお祭りが苦い思い出で終わってしまうのも忍びない。

     ここは一つ、魔法を伝授しようではないか。

    「…実はラムネをスイスイ飲める魔法があるんだけど。…聞きたい?」
    「え、何それ何それ…!?勿体ぶらずに教えなさいよ!」

     やはりというか何と言うか、スイープも本心ではラムネにありつきたいようで食い気味にこちらの魔法に興味を持っている。よしよし、後は古来から受け継がれるラムネの魔法を教えるだけだ。

    「まずビー玉を傾けてこの溝にスポっていれます」
    「こう?」
    「そうそう、いい感じ。そのまま口に含んで───、Grevillea Nasturtium!…はい、飲んでごらん」
    「…!飲めた、飲めたわ!すごいじゃない使い魔、アンタいつの間に魔法を…!?」

     目を丸くしながらも、嬉しそうにごくごく飲むスイープに微笑みで応える。結局の所、スイープは瓶を傾けすぎてビー玉が出口を塞いでいたから飲めなかったと言う、正しい飲み方が出来ていなかっただけの話である。

     しかし、それを説明した所でスイープの飲み方は間違えてる事を指摘するわけでもあるのでご機嫌ナナメは免れないだろう。ならばこういう魔法があるんだよと彼女が興味を持ってもらえるような流れにするのが一番だ。

     この後、温くなってしまったからと改めてラムネを買い直し、乾杯してから二人で魔法を唱えながら人でごった返すお祭り道中を満喫するのだった。

    「「グレビレア・ナスタチウム☆」」

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:05:15

    「よし、じゃあ始めるわよ!」

     カラッとした夏の陽気で支配された休日の朝。今日はスイープトウショウがある事をする為に俺の自室までやって来ていた。

    「ふふん、特別にスイーピーがアンタのゴワッゴワなタオルケットを復活させてあげるわ!」
    「期待してるよ」

     事の経緯は先日の話に遡る。結構前から使っていたタオルケットが、度重なる洗濯でだいぶ肌触りもザラッとした感じになってしまったので買い換えようとショッピングモール内の寝具店に出向いた際、偶然友人とお買い物に来ていたスイープと出くわした。

     ここにいる理由をスイープに話し、お邪魔しちゃ悪いしととっとと失礼しようとしたが…むしろスイープはその話を聞くや自分に任せろ、だからタオルケットは買うなと言ってきたのでそれに従い今日を迎えたわけだ。

    「さあ、使い魔に魔法の奇跡を見せてあげる!」

     自信満々に持参したカバンからあるものを取り出し、掲げる。このツンと来るような香りを放つそれはもしかしなくても…。

    「もしかしてこれ、お酢?」
    「あら、よく分かったわね。しかもこれはグランマ直伝の魔法が込められた、スイーピー特製のマジカルビネガーよ!」

     こちらの推察通り、彼女が持ってきたのはお酢だった。まあ匂いを嗅げばすぐに分かるのだが、お酢を洗濯機の中に放り込むと言うのか。

     果たしてどうなる事やらと後ろで見守っていたが、いつも使う洗剤とお酢をかけて洗濯機をワンサイクル回して干しただけなので特に変わり映えもない。本当に効果あるのかと訝しんでいたが…。

    「さて、そろそろ乾いた頃かしら…!ほら使い魔、触ってみなさい!」
    「どれ…え、マジでふわっとしてる。なんで…?」

     スイープに促され、実際に触ってみるとさっきまで寝転がっていた毛がピンと立っており、買った時とまでは言わずとも柔軟剤を使ったかのような仕上がりになっていた。マジカルビネガー、恐るべし…。

     彼女の魔法に感謝の念を示すとこのタオルケットを使って早速お昼寝をしようと提案され、ふわふわに包まれた白昼を微睡んだ…のだが、あまりにも気持ちよかったせいで二人して夕方まで思いっきり寝てしまうのだった。

     …ちなみに。目覚めた時、初めに目に入ったのが腕の中で上目遣いで睨みつけてくるスイープだったので、寝起きのウトウトが一瞬で消し飛んだのは内緒。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:06:47

     夏というのはどうしてもというか何というか、暑い日が続く。暑い日が続けば外の温度も上がり、風が吹いても熱された外の影響で温風になってしまう。

    「使い魔…干上がりそうだから何とかして…」
    「俺に天候操作なんて無理だって…」

     無理難題を言いながら休日にわざわざやって来て仰向けで暑さに音を上げるスイープを嗜める。そもそも、ウマ娘に割り当てられた部屋には冷房があったはずなのでこっちに来て暑さに文句言うのも変な話ではあるのだが…。

    「もしアレなら部屋戻れば?ここはいつまで経っても暑いままだぞ」
    「部屋戻っても誰もいないしつまんないのよ…こんな暑い中街に行くんだって」
    「マジかよ、若者のバイタリティーってすげえな…」
    「ちょっと、アタシもピチピチの若者なんだけど…ああダメ、あっつい…」

     それは確かにいた所で面白くはなさそうだし考えてみたら俺も一応若者の類だったななんて思っていたが、そんな事を考えられなくなる程に暑い。…仕方ない、二度手間になるが背に腹は代えられないか。

    「?どこ行くのよ」
    「この暑さを何とかするアイテム取りに。一緒に行く?」

     何もせずに暑さを嘆くくらいなら何かしてから嘆いた方がまだ建設的だと思い直し、あるものを取りに行く。スイープもついていくそうなので大浴場から未使用のタオルを借りに行ってもらい、こちらも準備を進める。

    「もってきてやったわよー」
    「ごくろうさま、これ置くからそこ敷いてくれ」

     スイープが持ってきたタオルを畳の上に敷き、その上にトレーニング用として食堂の冷凍庫に用意していた水を凍らせたペットボトル5本と使用許可が降りた保冷剤を並べ、その後ろに扇風機を置いて起動する。

    「はぁ〜…涼しい…♪」
    「良かった、ここまでやって涼しくなかったらいよいよ溶けてたかも…」

     結局の話、冷房がないので暑く感じるのだから冷房の機能を有するものを作ってしまえばいい。というわけで、冷たい物を風下に置いて扇風機の風を冷やすという手段を取ってみたが上手く行ったようで何よりと、扇風機に顔を近づけて声を上げるスイープを横目に束の間の夏の日は過ぎていくのだった。

     余談だが、心地よさにウトウトし始めた所で彼女のイタズラで少し溶け始めたペットボトルを背中に突っ込まれ、宿舎内に素っ頓狂な俺の悲鳴と憎たらしくスイープの笑い声がケラケラと響き渡るのだった。

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:09:46

    暑いですね
    1レス完結のため駆け足で進んでるのはどうか許し亭

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:12:41

    育成ストーリーみたいなテンポの良さで読みやすかった
    朝からホッコリさせてもらいました

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:18:13

    スイーピーと使い魔で知恵袋合戦してるのすき

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:19:07

    ラムネのくだり好き
    何も知らないとビー玉で塞いじゃうのあったあったとお話を楽しみながら昔の自分を思い出してました

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:26:19

    グレビレア(Grevillea)の花言葉:情熱、あなたを待っている
    金蓮花(Nasturtium)の花言葉:困難に打ち勝つ、勝利、成功

    なるほど、魔法の意味は勝利があなたを待っているって事ですか…使い魔さんなかなかロマンチスト…!

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:32:17

    よくこういうのでいいんだよって言うけど俺はこういうのが見たかったんや
    緩やかなムードでの掛け合いが心地よかったです

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:37:07

    何がありがたいって1レスで終わるから感想も絞って書きやすい点
    個人的に良かったのはシミ抜きのお話でむせた使い魔君を心配して背中をさすってあげてるスイーピーに優しいところが滲み出てて良かった

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:45:42

    ラムネの部分の使い魔のスイーピーへの理解度の高さがエグい
    普通に指摘したらまた拗ねちゃうから魔法という言葉で興味を釣って機嫌を損なわせず楽しんでもらうのは使い魔ならではの誘導だなとなった

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 10:01:29

    背中にペットボトル突っ込まれてキャッキャしてるのとかもはや歳の離れた友達なんよ
    朝からいいもん見た

オススメ

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