- 1二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 17:22:24
「うん。すっかり寒くなってきたからね。どうせなら皆で鍋をやらないかって話になったのさ」
彼はネットで鍋料理を調べながら言った。季節は冬。確かに鍋をするにはもってこいの季節だ。カフェもそういう催しは苦手ではあるが嫌いではない。
「皆……と言うと」
「タキオンさんとことマックイーンさんとこかな。マックイーンさんのとこはこの間巻き込んでしまったからね。そのお詫びも込めて」
「なるほど……」
彼とカフェはしばしば怪奇事件に巻き込まれる。前回はそれにメジロマックイーン達も巻き込まれてしまっていた。せっかくの温泉旅行をふいにしてしまったことを彼なりに気遣っているのだろう。
「調理器具なんかはタキオンさんのトレーナーが用意してくれるらしいし、食材はマックイーンさん達が用意してくれるそうだから、俺達の仕事は良さげな付け合せかな」
「ああ、それでさっきから調べてたんですね」
「うん。タキオンさんは結構偏食だからね。せっかくなら美味しく頂いてもらいたいし」
カフェは何か食べたいものはあるか、と聞かれてカフェは少し考える素振りを見せる。彼の作る料理はどれも絶品だ。カフェも苦手なものといえば紅茶くらいで、好き嫌いがある方でもない。
「さっぱりしたものが……良いですね」
「それじゃあコールスローサラダとかにしようか。手軽に作れるしさっぱりしてて良いだろう」
「それが……良いと思います」
そうと決まれば先に作ってタッパーに詰めておこう。彼はご機嫌そうにウィンドウを閉じた。 - 2二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 17:55:23
「いやーごめんなさいねカフェさん。荷物持つの手伝ってもらっちゃって」
マックイーン達から食材が多くて運ぶのを手伝ってほしいという連絡を受け、カフェとマックイーンの二人で大量の袋を持ち運ぶ。マックイーンのトレーナーも軽い食料品を幾つか抱え込んでいるが、彼は全くの手ぶらで気まずそうにしていた。手伝いを申し出たがカフェに結構な剣幕で拒否されたのだ。いくら非力とはいえあんまりではないかと思わなくもない。
「いえ……それにしてもこれだけの量、食べ切れるでしょうか」
「うっ、やはり買い過ぎてしまったかしら……でも、でも全部美味しいんですのよ?」
「まあ、A5ランクの和牛に、ブランド野菜に……これで美味しくなかったら詐欺だろうね」
流石はメジロのご令嬢。庶民には到底手が出ないような食材が山のように積まれている。これでもおそらくを気を遣った部類なのだろう。メジロ家が本気でもてなそうとしたらそもそも店売りの食材では済まない筈だ。
「普段からこの値段帯を?」
「まさか」
マックイーンのトレーナーは慌てて否定する。
「祝い事があるときくらいですよ。普段からこんなの食べてたら破産しちゃいますから」
「まあ、そうだよなあ」
それだけ楽しみにしてるってことですけどね、と彼女は付け加えた。 - 3二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 17:57:34
おっあれの続きか
- 4二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 19:17:49
「やっと来たねえ。早く火を付けてくれよう。私はもうお腹がペコペコだ」
「タキオンさん、おこたに包まって……虫みたいに」
鍋パーティの会場であるタキオンの実験室に向かうと、アグネスタキオンは、こたつに収まりながら不満の声を上げた。彼女のモルモット(兼トレーナー)は小言一つ言わずに小柄な体で忙しなく準備している。
「しかしだねカフェ。私は場所を提供しているんだよ? 少しくらい役得があっても良いと思わないかい?」
「そもそも……場所が何処であっても変わりませんよね」
「それはその時になってみないと分からないね」
「まあまあ。ネズミちゃんが鍋奉行してくれるっていうならそれに任せても良いだろ?」
「あー! 幽霊さんまたネズミちゃん呼びしましたねー!」
「幽霊呼びするならお互い様じゃないか」
「仲が良いんですねー」
気のおけない微笑ましいやり取りに、若干外様のマックイーンのトレーナーも笑みが溢れる。
「タキオンさんとトレーナーさん。こちらに買ってきた食材置いておきますわね」
「ああ、ありがとうございますマックイーンさん……って見るからにたっか!?」
鍋奉行も大変だ、とモルモットは愚痴を零した。 - 5二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 19:59:26
「そろそろ煮えてきたかなー?」
野菜を煮ていた鍋の蓋を開けると、水蒸気がわっと舞い上がる。出汁の仄かな匂いが鼻孔をくすぐった。
「うん、良さそう。じゃ、買ってきてもらった和牛を豪勢に、どーん!」
和牛のスライスを言葉とは裏腹に一枚ずつ鍋に放り込む。くっついてしまっては勿体ないという気持ちを誰もが共有していたので、からかう人は居なかった。
「モルモットくん、早く取ってくれたまえ」
「待ってねタキオン。牛肉だから生焼けでも大丈夫だろうけど、ちゃんと火を通すに越したことはないし」
自分で取る気は毛頭ないらしいタキオンにせっせとモルモットが取り分けていく。
「私達も頂きましょうか」
「そうだね。と、その前に」
彼はバッグからコールスローサラダと、それとは別に瓶をいくつか取り出す。
「鍋と日本酒はセットじゃないと」
「幽霊さんだけ飲もうとしてる!」
「ネズミちゃんの分もあるよ。マックイーンのトレーナーさんも飲みます?」
「あの、ここ一応学園内ですよね……?」
「タキオンさんの実験室なんて、他の人は立ち寄りませんよ」
困惑するマックイーンのトレーナーに彼はいたずらっぽくウインクした。 - 6二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 20:02:04
「やっぱりお鍋の人参は格別ですね! ご飯とお肉と一緒に何杯でも行けますわ!」
「そーんなこと言ってるとマックイーンの可愛いお腹がまたぷにぷにになるわよー」
「ひゃっ!? いきなり何しますの、もしかしてもう酔ってらっしゃる!?」
「えー? マックイーンはまだ未成年だから飲んじゃ駄目だよ!」
「飲みませんわ!?」
自分の担当にダル絡みするマックイーンのトレーナーを見ながら、彼もまたお猪口を傾ける。
「いや、こんなに凄い酔い方するとは知らなかったな……」
「私は知ってましたけどね。前女子会で飲んだことあるので。しかもあれから長いですよー」
「モルモットくん。私はそこのお肉が食べたいなー」
「はいはい、あーん」
食べさせてと言わんばかりに口を開けるタキオンにモルモットは煮えたお肉を放り込んでいく。親鳥が雛に餌を上げているようだと思ったが、言うのはやめておいた。
「カフェも楽しんでいるかい?」
「ええ……こうやって複数人で盛り上がる経験はあまり無かったので」
静かだったので不安になって聞いてみるが、カフェの声色に遠慮の色は無い。彼女なりに、この宴会を楽しんでいるようだ。
「トレーナーさんも、もう結構飲んでいるのに平気そうですね」
「前に言わなかったっけ。お酒強いんだよね」
「日本酒ってよく苦いと言いますが」
「慣れてきた」
「そ、そうですか」
美味しそうに瓶を一つ開ける彼を前に、カフェもそれしか言えなかった。 - 7二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 20:08:41
「うわー、死屍累々」
締めと言いながら麺を投入して、それで終わらなかった時点でこうなるのは必然だったのだが。気絶なのか眠っているのか分からない惨状を見て、彼も流石に反省した。健啖家でアルコールにも強い彼は意識を保っているが、最初に酔っていたマックイーンのトレーナーはすっかり潰れているし、マックイーンは満腹ゆえの眠気でうつらうつらしている。タキオンの世話をしていたモルモットもタキオンと一緒になって眠っていた。元気なのは彼とカフェくらいのものだ。
「これは、後片付けは俺達の仕事だね。カフェ、寝ちゃった人達を端に運んでもらっても良いかな」
タキオンの共同実験室には仮眠用の毛布が何枚かあるのを知っている。雑魚寝にはなるが、このまま放置するよりはマシだろう。
「分かりました……」
「わ、私も手伝いますわ……」
「マックイーンさんは……お休みになって大丈夫ですよ」
「せ、せめて自分で休みますわ」
ふらふらと微睡んだ足取りでマックイーンは毛布を受け取る。カフェはタキオンとモルモットを軽々と抱えて毛布のある場所へと運んでいく。
彼もテキパキと皿や箸、コップをまとめていく。持ち込んだ食料を殆ど食べ切っているのは流石にウマ娘が三人も居るからか。
「ふふ……なんだか、後片付けも楽しいですね」
「それなら、また機を見てパーティでも開くかい?」
それも良いかもしれません、とカフェは薄く微笑んだ。
Fin - 8二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 20:09:47
- 9二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 20:38:01【SS】或るウマ娘の死【カフェトレ怪奇】|あにまん掲示板カフェトレ+カフェの怪奇モノ的な長めのSSです。まだ書き終わってないですが完走できるように頑張りますまたショッキング、センシティブな表現が入る可能性があります。ご了承くださいbbs.animanch.com
作中でメジロマックイーンが巻き込まれた事件というのはこちらの作品です
- 10二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 20:39:30
10にしておく
- 11二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 02:56:38
良い日常回ですね…最高です