【SS】ミセス・パーフェクト

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:38:27

    「ねえねえトレーナー!今日は一緒にお出かけしようよ!」

    「ははは、ウララは甘えん坊だなあ。それじゃあ今日は一緒ににんじんスイーツ食べに行こうか」

    「ほんと!?やった~!」

    ハルウララが自らのトレーナーに抱きついて甘え、ハルウララのトレーナーが優しくその頭を撫でる。トレセン学園ではよく見る微笑ましい光景だ。
    そのありふれた光景を、なぜかスカーレットはじいっと見ている。

    「どうした、スカーレット?」

    「……ねえ、トレーナー」

    「ん?」

    「アタシも、アレやっていいかしら」

    「ん、にんじんスイーツ食べに行きたいのか?」

    「そっちじゃないわ」

    ん?
    突然、この子は何を言いだした??

    「え、それってつまり……えっ?」

    あの、ぎゅってするやつ?
    俺は混乱して、スカーレットと自分を交互に指差す。
    スカーレットは首をこくりと縦に振った。

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:38:41

    「いや、それはその……色々、マズいだろ」

    「なんでマズいの?」

    「いやほら、だって、トレーナーと担当ウマ娘だし」

    スカーレットは無言でハルウララのほうを指差す。
    二人は抱き合ってるどころかトレーナーはハルウララのことを高い高いまでしていた。
    ええい、仲が良すぎる!俺はなんとか、断る口実を探す。

    「で、でも、アレはハルウララが子供だから許されてることだろ。俺たちがやったら洒落にならんぞ」

    「ウララ先輩、アタシより歳上なんだけど」

    「えっ?あっ、そう言われれば……」

    そういえばハルウララは黄金世代と同じ学年だ。
    つまり、スカーレットよりも学年が上だった。なぜか完全にスカーレットよりも年下だと認識していた。
    ハルウララが年齢不相応に子供っぽいのか、それともスカーレットが年齢不相応に大人っぽいのか。
    いや……スカーレットも言うほど大人っぽくはないんだ。でも、その、発育が、その、ね……凄いから。
    競技者のトレーナーとしては喜ぶべきところなんだが、一人の男としては正直いって大変だ。
    彼女と契約してもう三年以上経つが、日に日に魅力的になっていくスカーレットを『そういう対象』として見ないようにするのに必死だった。

    彼女はあくまでも大事な担当ウマ娘。俺はトレーナー。そういう仲になるような関係ではない。彼女にもそういった感情はない。
    トレーナーとして信頼されている、と思う。
    だからこそ薄汚い欲望を抱いてはいけない。そんなものが露呈してみろ。信頼を失うどころか、彼女のことをひどく傷つけてしまうに違いない。
    それだけは、俺のもっとも避けたいことだった。彼女が走る姿を、もっと見ていたい。彼女がレースで一番になったときの喜ぶ姿を
    一番近くで見ていたい。できる限り多く、そして長く。

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:38:54

    「イヤなの?」

    「そりゃ、イヤって訳じゃないけど……」

    嫌じゃない、むしろ、何のしがらみも無ければ嬉しいことである。
    だが、スカーレットに抱きつかれた場合……俺のほうが、どうなってしまうかわからない。
    だから俺は、やってはダメな理由を探して逃れようとする。

    「あー、っと……ほら、人目があるだろ」

    「じゃあ、なければいいの?」

    「……いや、それは」

    答えに窮する。確かにその理屈だと、人目がなければOKということになってしまう。
    くそ……俺も弁が立つ方ではないから、説得することができない。困り果てていると、スカーレットは無言で俺の手を引いて歩き始めた。

    「お、おい!?」

    スカーレットはずんずんと進んでいく。俺は手を振り払うこともできずに、ただただスカーレットについていく。
    やってきた先は、トレーナー室。どうしよう、本当に人目のつかない場所まで来てしまった。

    「なあ、どうしたんだよスカーレット。今日、なんかちょっとヘンだぞ?」

    そう問うと、スカーレットの足がぴたりと止まる。
    そして手を離し、ドアを閉めてこちらに向き直る。彼女は怒ったような、悲しいような、複雑な顔をしていた。

    「アンタがいけないのよ。だってアンタ最近、アタシと距離取ろうとするじゃない。前はもっと普通だったのに」

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:39:07

    「……そうかな?」

    「そうよ」

    全く自覚がなかった。俺はいつの間にか、スカーレットと距離を取っていたのか?
    いつから?なんで?いや……理由はある。きっと俺は怖かったんだ。スカーレットの近くにいることで、自分が理性を失ってしまうのが。
    俺はバカだ。そんな自分の都合で、担当に不安な思いをさせてしまっていたのか。

    「ねえ……もしかしてアタシのこと、嫌いになった?」

    よくよく考えれば、スカーレットが自分で言っていたように、彼女はハルウララより年下なのだ。体付きは大人顔負けでも、まだまだ子供。
    もしかしたら、甘えたかったのかもしれない。親元を離れて暮らしているんだ、誰かに寄りかかりたくなる時もあるだろう。
    でも、スカーレットは同年代に対して弱みを隠すタイプだ。俺のこと、頼ってくれているんだ。
    ならば支えてあげるのが大人であり、パートナーだ。俺は保身ばかり考えて、大切なことを忘れていたらしい。

    「……わかった」

    俺は一度だけ深呼吸してから、スカーレットに向かって両腕を広げた。

    「おいで、スカーレット」

    そう言うとスカーレットは遠慮がちに近づき、その頭を俺の胸元に預けた。
    ふわりと靡いたスカーレットの髪から、すごくいい匂いがする。花の匂い?シャンプーの匂い?それともまた違う芳香……ダメだ、深く意識を割くとクラリといきそうになってしまう。

    「トレーナー……」

    そのままスカーレットは俺の背中に手を回し、ぎゅっと控えめに抱きついてきた。スカーレットの身体が密着する。あったかい。そして、柔らかい。
    普段あんなにハードなトレーニングを課して、レースではパワフルな走りを見せてくれるスカーレットの身体。俺よりもよっぽど力強くて、頑丈なはずの身体。それなのに……こんなに、柔らかいんだ。
    とても不思議な感覚だった。なぜだか、そんなスカーレットの事をとても愛おしく感じてしまって……気づいたら、俺もスカーレットのことを優しく抱きしめ返していた。

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:39:19

    「あ……」

    スカーレットは吐息と声の中間くらいの音を出し、俺の胸板におでこを押し付ける。

    「……ねえ、トレーナー」

    「ん?」

    「アタシ、イヤな夢を見たの。あんたがアタシを置いて、どっかに行っちゃう夢」

    スカーレットは消え入りそうな声で、そう呟いた。

    「アンタは、勝手にどっか行ったりしないわよね?」

    「行くわけないだろ。俺はスカーレットのパートナーなんだから」

    「『今は』よね」

    ドキリ、と心臓が大きく跳ね上がった。それは、俺自身もなるべく考えないようにしていたこと。
    彼女との別れ。スカーレットが走ることに区切りをつけたとき、今の関係は終わりを告げることになる。
    俺は新しいウマ娘の面倒を見ることになり、スカーレットは人生の新たな道を歩むことになるだろう。
    それで交友が途切れるわけではないが、少なくとも今のような関係ではなくなる。

    「わかってる。こんなこと言っても、あんたが困ることくらい。でも……でも、イヤなのよ。アタシ以外の誰かが、あんたの一番になるなんて」

    「スカーレット……」

    「どこにも、行かないで。アタシがレースを引退しても、アタシが大人になっちゃっても、ずっと――」

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:39:32

    「スカーレット」

    努めて優しく、諭すように名前を呼ぶ。

    「そう言ってくれるのは、すごく嬉しい。でもね、それ以上言われちゃうと……俺は君を、教え子として見れなくなってしまう。一人の女性として、君を見るようになってしまう。そうなってしまったら、俺は……君を傷つけてしまうかもしれない」

    元々、女性の扱いに慣れているわけでもない。おまけに、トレーナーとしてもスカーレットが初めての担当。
    これ以上踏み込まれたら、俺は……俺は、抑えられなくなってしまう。
    ずっとスカーレットの身体に触れていて……ただでさえ、おかしくなってしまいそうなのに。

    「……それって、アタシのことが好きってことでいいのね?」

    「そうだよ。でもそれじゃダメなんだ。だから――」

    言い終わらないうちに、天地が逆転する。スカーレットが突然体重をかけて、俺を押し倒してきたのだ。

    「え?えっ……スカーレット?」

    なんで、どうして?混乱する俺を見下ろして、スカーレットが妖しく笑う。
    心なしか、息遣いが荒い。そのまま、スカーレットの顔が近づいてきて……。
    お互いの唇が、重なった。

    「ん……っ!?」

    時間にして、1秒や2秒。唇を押し付けられている間、俺は一切抵抗できなかった。
    そして唇を離すと同時にスカーレットは立ち上がり、俺を指差して言った。

    「言質、取ったから!アタシはあんたのこと、絶対諦めないから。くだらない理由でダメとか無理とか言えなくなるまで、アタシはあんたの『一番』であり続けるから!覚悟しなさいよね!!」

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:39:44

    それだけ言って、スカーレットは勢いよくトレーナー室から出て行ってしまった。
    嵐のような出来事に、まったく脳が追いついていない。彼女から、すっごく直接的な告白をされてしまった。
    ……俺も彼女の『一番』であり続けられるようにがんばろう。彼女の気持ちに応えることが出来る日まで……いや、その後もずっと。

    それにしても、スカーレットの身体……あったかかった。やわらかかった。色んなところが、当たってた。

    「うぁぁ~~っ……!」

    俺は心身が収まるまで部屋から出ることも出来ず、ただひたすらに悶々とするしかなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:40:17

    ・・・・・・

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:40:28

    「はあぁ~~っ……」

    アタシはトレーナー室の扉を閉めて、しばらくフラフラと歩いた後……壁に背中を預けてへたり込んだ。
    す、す、す……すごいこと、しちゃった。チューしちゃった。すごく恥ずかしくて、顔があっつい。
    でも、嬉しい。トレーナーがアタシのこと、好きでいてくれた。
    正直言って、少し不安だった。距離を置かれてるのは、嫌われてるからなんじゃないかなって。
    でも、違うとも思っていた。距離を置かれてるのは、その……トレーナーがアタシのこと、いやらしい目で見ないようにしてるからなんじゃないかって。
    だってトレーナーの視線、不自然なんだから。トレーナーがアタシを見る時、まず真っ先にアタシの胸に視線が行く。でもそれは一瞬で、すぐアタシの目を見て話す。目以外の場所は頑なに見ようとしない。

    これは、もしかして……って思った。だから、思い切ってみた。ウララ先輩を口実に、わがままを言ってみた。
    トレーナー、押しに弱いから。そしたら、思ってたよりずっと上手くいっちゃった。
    ……ハグしてもらっちゃった。アタシが抱きついたら、トレーナーはカチコチになっちゃってて。でも、ぎゅって抱きしめ返してくれた。
    トレーナーの身体はちょっとだけひんやりしていて、でも気持ちはあったかくなって……幸せだった。
    身体の全てを委ねたくなっちゃうような、そんな多幸感のあるハグだった。

    「……っ、はぁ~~っ……」

    思い出すだけで、顔がまた熱くなってくる。
    でも、こんなことでいつまでも恥ずかしがってちゃいられない。アタシはトレーナーの……いえ、アイツの『一番』なんだから。
    今までも、そしてこれからも……ずっと、ずっと。

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:40:43

    それからの俺たちは、流石に気まずく……なったりすることもなく、
    二人三脚でレースに打ち込んだ。その結果、スカーレットはそれはもう勝ちまくった。
    というか、あの日以来一度も負けなかった。その結果、誰が呼んだかついた二つ名がミセス・パーフェクト。
    なぜ「ミス」ではなく「ミセス」になったかというと……俺とスカーレットの左手薬指に、お揃いのリングが嵌っていることから分かるだろう。

    結局、お互いがお互いの『一番』であることはずっと変わらなかった、ということだ。

    「今日付けで、俺とスカーレットのトレーナー契約は解消だ。今までありがとう、お疲れ様」

    「うん……今までありがとう、トレーナー」

    「それで……今日からは、俺の嫁さんとして、一緒に暮らしてほしい」

    「うん……これからもよろしくね、トレーナー……ううん、アタシの一番大好きな、旦那様♡」

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:41:21
  • 12二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:48:21

    ええもん見させてもらいました

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 00:50:39

    いかにもダスカって感じの直球で実に良い…

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 10:16:40

    いいぞ

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 10:34:30

    このレスは削除されています

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 10:38:45

    >>15

    ウララさんとスカーレットさんのトレーナーさんは別だから安心するのよ😭

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 11:41:05

    やはりダスカが最強
    素晴らしいSSありがとう…

  • 18二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 11:45:02

    これはパーフェクトブルー

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 11:45:51

    まずい、このままではウオッカとマーチャンにまで影響が

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 11:51:42

    油断したわねトレーナー

  • 21二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 12:18:18

    推せる〜!って言ってるモブの気持ちがわかった

  • 22二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 12:20:24

    ウララよりダスカのほうが年齢低いのなんかのバグだろ

  • 23二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 16:12:28

    ここまで攻めておいてやることがチューまでだなんて奥ゆかしいねスカーレットくぅん

  • 24二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 22:34:24

    いい……

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 02:07:34

    つよい

  • 26二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 05:58:31

    つよつよダスカ好き

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 07:15:16

    やっぱり一番の女よ

  • 28二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 07:40:15

    >>25

    オアアーッ可愛すぎる……。

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 12:12:38

    っぱスカーレットが一番なんだよな

  • 30二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 17:40:41

    >>25

    素敵なイラストありがとうございます……!

  • 31二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:51:20

    ヒューッ!!

  • 32二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:00:01

    >>25

    あぁ~この表情たまんね~

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 14:44:37

    🌸👍

  • 34二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 22:59:22

    よいぞ

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