- 1二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:22:19
- 2二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:22:44
pixivとかはアカウントすら持ってないから、ここに性癖さらすね
- 3二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:22:55
亀の頭って本当にアレに似てるんだな
- 4二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:23:19
(待って待って、何?何なのアレ?あんなの見たことないんだけど!?)
見渡す限りの森。少し小高い丘・・・いや岩に登って辺りを見回しても視界に入るのは、森か川。
ただでさえ混乱している京子は「それ」を見てさらに混乱を深める。なにしろ、目の前には小さな頃、図鑑で見たあの生き物。
「ブラキオサウルス」の群れが闊歩していたのだから。
・ ・ ・ ・ - 5二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:23:40
高校卒業後、モデルを夢見て上京した泉京子だったが、結果は泣かず飛ばず。上には上がいることを思い知ってから、鬱屈とした思いを抱えつつ、「有名なモデルになること」以外の次の目標を見つけられないままで日々を過ごしていた。
受かるはずもないと思いながらもオーディションを受ける。落ちる。また受ける。その繰り返し。夢を完全に切り捨てることもできず、それでいて夢に全霊を注ぐほどの情熱を持てない。
落ちても、さほど心が痛まなくなってから久しくなってきた。背格好はすらりと伸び、容姿は整っていて、運動や勉学にも励んで来た。ずば抜けたトップクラスというわけではないにしろ、概ね優秀な少女時代を経て、いっぱしの大人になりつつある23歳。それが今の彼女の来歴だが、その心の内の葛藤は誰にも明かされていない。
モデル一本で食べていくには厳しい京子は、その日も事務職のアルバイトをこなし、家路についたところであった。
なにも変わらない街中の風景。何も変わることができていない自分。今日は昨日と変わっていないし、きっと明日も今日と変わらない一日になる。
彼女はそれがなんとなく嫌だった。
いつもならどこにも寄らずにマンションの自室へと帰って行く京子だが、その日だけは違った。無意識のうちに、「昨日と違うこと」を求めたのかもしれない。普段あまり行かないコンビニで豆乳ラテとサラダチキンを買い、その足で自宅近くの公園へと赴いた。 - 6二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:24:06
誰もいない。それも当然。なにしろ、とっくに日は暮れている。
住宅街の中にしてはずいぶん広く、木も多い公園で、街灯の光が届かない場所も多くあった。若い女性が独りでいるには少々心配になるところだが、その日の京子は頓着しなかった。
人気のない夜の公園。
暗がりのベンチにどかっと座り、サラダチキンをかじる京子。豆乳ラテとの相性は最悪でろうが、彼女は存外その組み合わせが嫌いではなかった。
どこか心が沈んでいる。いや、停滞している。「昨日と違うこと」を求めている。今の自分ではない、停滞していない自分になりたい。そんな思いがあったからこそだろうか。
「ん・・・?」
彼女がその「ゆらぎ」を見つけることができたのは。
「・・・なんだろ・・・」
ろくに視界も通らない暗がりのなか、何故か陽炎のように風景が揺れている場所があった。正確にいえば、そこは木々の影で真っ暗だったので、「闇が揺れている場所」とでもいうべきか。
近づいてみる。音もなにもない。においもしない。
ただその存在感だけは無視することができなかった。
京子はふと手を伸ばして、その「ゆらぎ」に触れてみた。指の先が「ゆらぎ」に触れた・・・と思われたが、触れた部分の指が見えなくなっている。いくら暗がりと言っても自分の手も見えないわけではない。たしかに指先が「なくなっている」のだ。
思わず手を引く京子。指先はちゃんと付いている。今度はもう少し深く「ゆらぎ」を触れてみる。肘まで見えなくなった。肩まで見えなくなった。
全身をその「ゆらぎ」の中に沈めた次の瞬間、京子の前に広がっていた光景は、広大な森であった。 - 7二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:24:43
時刻は昼の頃だろうか、森が深くて明るいわけではないものも空からは光が降り注いでいた。
後ろを振り向くとそこには、変わらず「ゆらぎ」があり、京子は急いで戻ってみたが、なんの問題もなく夜の公園にそのまま戻ることができた。
どこか別の世界の昼の森と京子が住む世界の夜の公園。不思議なゆらぎで繋がっている二つの世界。京子は興奮したものの、同時に恐怖にも駆られてしまった。得体のしれないものに恐怖するのはおかしいことではない。
結局京子は、見たものを忘れるように自宅へと急いで帰っていった。夕餉がわりのサラダチキンの残りでは、彼女の興奮を冷ますことはできなかったが、ベッドに入れば不思議なほどに安らかに眠りにつくことができた。
翌日になっても京子は、前日の不可思議についての疑問を拭うことができなかった。疑問とはいたってシンプルなもの。
「アレって何だったんだろう・・・?」である。
元来幼少のころから図鑑にのめり込み、男子に混ざって昆虫観察に没頭するような性格であった京子。久方ぶりの「未知の衝撃」がたかだか一晩で溶けるはずもなく、もやもやとした気分でその日のアルバイトを終えて帰路につく。
「・・・・」
その後の流れはもはや言うまでもないだろう。彼女は前日と同じように、件の公園を訪れ、その「ゆらぎ」の前に立っていた。
「ゆらぎ」は変わらず、そこに在る。「昨日と違うこと」を求めているときに見つけたものだが、今回ばかりは「昨日と変わらずそこに在ること」に感謝せざるを得ない。
今日は金曜日。つまり、明日は休日である。普段なら土日にはオーディションが入ることもあるが、今週は土日ともに予定なし。
ちょっとした冒険にはうってつけの状況である。 - 8二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:25:14
職場から一度自宅に戻って装備を整えた京子のポケットには十徳ナイフとカロリーメイト。懸賞であたった未使用のファイヤーピストンとコンパスもある。
もちろん虫よけ類も忘れてはいない。京子はもともと刺されても肌が腫れないたちではあるが、備えあれば、である。
長髪をコンパクトに纏めて、スポーツキャップの中に収め、「ゆらぎ」の中へと入っていく。心の中にはワクワクとドキドキがあふれている。不安や恐怖ももちろんある。だが、どこか停滞していた彼女の心は、子どもの頃以来久しぶりの冒険に大いに弾んでいた。
とぷん・・・と音がしているわけではないが、どこか水面に入っていくような感じで「ゆらぎ」の向こうの世界へと入る。水面といっても「縦の水面」であるが。
「結構・・・暑いわね・・・っ」
タイトな半袖のシャツに身を包んでいた彼女だったが、「ゆらぎ」の先の森は真夏のように蒸し暑い空気感であり、あっという間に汗がにじんでいく。
虫よけが効果を発揮しているのか、うっそうと茂った森の中でも京子に近づく虫はいない。
「とりあえず、目印作ったら、その辺歩いてみるか」
森の中である。「ゆらぎ」を見失ったら遭難しかねない。先に「ゆらぎ」を見つけやすいように目印を立てておこうという京子の判断は、悪くないものだろう。
「目印を作る」といっても、伸縮式のアルミ物干し竿に厚手の白布を縫い付けただけの代物である。
「・・・なんかコンビニのセールみたいだな」独り言ちても自分で作ったのだから仕方ない。
簡易な目印ではあるが、原始的な森の中であり得ないほどに白い布がたなびいている。視界にさえ入れば、夜中でも十分目についてくれるだろう。
目印も立て、京子は本格的に周囲の探検を始めることにした。だが、ほんの数メートル歩いただけで違和感を覚えた。
「虫・・・でかくない?」 - 9二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:25:40
(あれって、トンボ・・・だよね)
大まかな目算だが、頭から尾まで40~50cm近くありそうな巨大トンボが飛んでいる。京子は虫を怖がるタイプではないので、トンボが飛んでいること自体は何の問題もないが、さすがにこのサイズ感には驚いてしまう。
トンボの方も京子の肌についた虫よけの香りが不快なのか、露骨に京子から距離を取ろうとしている。改めて、京子は、自分はいま不思議な世界にいるのだという自覚を強めるのだった。
一時間ほど辺りを歩いてみたが、京子はこの世界を図鑑で見た恐竜の世界のように感じていた。植物学者であれば、森に生えているシダ類から年代の特定までできるかもしれないが、京子にその知識はない。
目印の白旗が豆粒のように小さく見える距離にまで来た京子の目の前には川が流れている。
「今回はここまでかな」
地形の確認、植生の観察、動植物の把握・・・未知の世界でやることは極めて多い。今回の探索ではこの程度に抑えておいて、また準備を整えてやってこようというのが京子の考えだった。
そんな京子のもとに一匹の生物が近づいてきた。
「・・・カメ!!カメだ!!!めっちゃでっかい!!」
川の中からのっそりと姿を現したのは、ゾウガメのような生き物だった。ただ、その大きさが明らかに京子の知識の範疇を超えている。いつだったかTVで見たアフリカかどこかの巨大なゾウガメ、その数倍の大きさである。
もはや大岩とでもいうような甲羅は黒々としていて実に迫力ある様相。巨体を持ち上げる四肢は「ゾウガメ」どころか「象」そのもの。いや、むしろ象よりも大きいかもしれない。
のっそりと歩く様からは京子に対する敵意などは感じられず、ただ草を食みにきただけのようである。 - 10二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:26:13
「すご・・・あ、そうだ。リンゴ食べるかな」
巨大な亀の前にカット前のリンゴをまるごと一つ置く。亀は京子を見上げるが、その様子はまるで「食べていいの?」と聞いているかのようで、京子は思わず「いいよ」と答えてしまった。
京子の返答を聞いたのか、亀はそのリンゴをもしゃりと齧る。いや、「齧る」では正確ではない。なにしろ一口で食べてしまったのだから、「呑む」と言った方が正しいだろうか。
リンゴを食べたその瞬間、亀はその巨体をぐらぐらと揺らし、首を上下に振りたてた。京子にも分かった。その行為は明らかに「喜びの表現」である。
「なに、そんなに美味しかったの?カットしてあるけど、これも食べる?」
あまりに美味しそうに食べるものだから、京子は自分のおやつ用に取っておいたカットリンゴを与えることにした。
(手からでも食べるかな・・・・食べた!)
手渡しでも難なく餌やりに成功した。これが現代の日本であれば、野生動物に餌付けすることは奨励できないが、ここはどこなのかすらも分からない不思議な世界である。京子の行為を無法と責めるのは野暮だろう。
リンゴを食べ終えた亀はすっかり興奮した様子で京子に近づいてきた。そして、ゆっくりと頭を京子の手に擦り付ける。
「んひひ、お前、なんか犬みたいだな!」
よしよしと亀の頭を撫でる。表情が動いたわけではないが、亀の様子はどこか嬉しそうに感じられた。
「ぃよし、命名!亀吉!お前は亀吉!」
亀吉は自分が名付けられたことなど分かるはずもないが、京子が嬉しそうにしているのを見て、ゆらゆらと体を揺らして興を添えた。 - 11二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:26:45
水をかけたり、穴を掘ったり、亀吉とひとしきり遊んだ京子だったが、太陽が傾いてきたのを見て、「ゆらぎ」の方へ戻ることにした。
「んじゃね、亀吉。お姉さんはもう帰るよ。お前も元気でね。」
よしよしと亀吉の頭を撫でながら別れを告げる。もちろん、亀吉にその意味が通じるはずはない・・・と思われた。が、亀吉は京子のそばを通って川を離れて森の中へ入ろうとしている。
「ん?亀吉?どこいくの?」
もしかして見送ってくれるのかと思った京子は、どうせ道は同じだからと亀吉とともに「ゆらぎ」の目印をめかげて歩いていった。
亀吉の同行は実に役に立った。京子ではどうしようもない太い枝や丸太に阻まれた道も、亀吉はそのパワーで蹴散らして京子に道を作ってくれる。その度に京子は頭を撫でてあげた。
来るときは「ゆらぎ」の目印から川まで一時間かかったが、亀吉の同行によって40分程度まで抑えることができた。空は赤く、夕焼けが出ている。この世界でも同じように夕焼け空は赤いようだ。
「それじゃあね、亀吉。楽しかったよ。また会えたら、その時はよろしくね。」
京子もさすがに名残惜しくなったが、またこの世界に来たときに会えたらいいだろうと割り切ってゆらぎの中へと戻っていく。亀吉はそもそも体が大きすぎて「ゆらぎ」を潜り抜けることができない。追ってくることはないだろう。
「ゆらぎ」を超えた京子の目に入ってきたのは、来たときと全く同じ光景であった。バッグに入れておいたスマートウォッチの時刻を調べると、そこには「金曜日」の文字。時間としては一晩経って土曜日の昼あたりだろうと思われたが・・・
「時間が・・・経ってない?」
他にもいろいろと日付を調べてみたが、実は丸一週間経っていたというわけでもなく、やはり「ゆらぎ」を超える前から全く時間が経っていないようである。 - 12二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:27:28
「これって・・・」
あの世界とは空間が隔絶されているだけでなく、時間まで隔絶されているようであった。京子にはその時空間的パラドックスを紐解く見識がなかったが、向こうでどれほど過ごそうとこちらの時間に影響がないのは、好都合に感じられた。
「あっちにどれだけいようと、こっちにはなんの問題もないのよね・・・受験生とか相当重宝しそう・・・あれ?あっちの時間がこっちに影響しないなら、こっちの時間はどうなんだろ?」
そう思い立った京子が向かったのは業務用スーパーであった。
安売りしているリンゴやフルーツを大量に買い込み、「ゆらぎ」の前へと戻ってきては、深呼吸。
「よし」
「ゆらぎ」を超えた京子の前にいたのは亀吉であった。京子が「ゆらぎ」を超えて帰っていったその瞬間のままであった。
「亀吉~~!!」亀吉に飛びついてよしよしと撫でる京子。
当の亀吉は何が何だかよく分からない様子ではあったが、頭を撫でられる上に、大量のリンゴまでもらって、上機嫌この上ない状態になったのは言うまでもない。
その日、京子は「ゆらぎ」を何度も行き来して、探検グッズを持ち込んでは亀吉と遊び、亀の飼育についての知識を蓄えては亀吉を愛でる時間を過ごした。
お互いの世界の時間は京子がいない間止まっているため、土曜日の朝が来るまでの一晩の出来事であったが、京子の体感時間では1週間近く経っていた。
そして、土曜日の昼ごろ、京子は自室で亀の飼育について調べているところ、古代の亀についての記事に行きついた。
「カルボミネス・・・・アーケロン・・・どっちかというと亀吉はカルボミネスっぽいわね。でも、”亀は通常馴れることはあっても懐くことはない”って書いてある。亀吉、犬みたいにめっちゃ懐いてるけど・・・」 - 13二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:27:52
古代の世界にそのままタイムスリップしてるというわけではないようで、他にも植物や巨大トンボの様子を検索して調べてみたが、京子が出会ったものはその全てが図鑑やネットの情報とは明らかに違うものであった。
なによりサイズが違う。カルボミネスにしても、亀吉ほどの大きさは想定されていない。亀吉は、京子が縦にも横にも寝そべってあまりあるほど大きな甲羅を持っていた。
姿も違う。大きさも違う。懐かないはずの亀が懐く。
明らかに異質な世界であったが、確かな存在感を以って、そこに在るのだけは疑いようがない。
「それに・・・」
もう一つ、京子が不思議に思っていることがあった。
それは亀吉の存在そのものに関与すること。大きすぎて、その体重を支えられないはずの生物が、幽遊と森を歩いていたという部分である。
昆虫は自重と強度の関係で大きくなることができないという。昆虫とは違う内骨格だとしても動物はみな大きさや重さに限度がある。京子には、亀吉がその限界を超えているのではないかという疑問があった。
学業成績が優秀だったとはいえ、それはあくまで高校レベルの話。勉強熱心なタイプではあるが、京子は生物工学の専門家ではない。亀吉が理外の生物である断言はできないが、彼女にはなんとなくそんな気がしていた。
そのまま調べものに週末を費やしてまた平日を過ごした京子。金曜の夜になって、またあの「ゆらぎ」のもとを訪れた。今度はキャンプセットと一緒である。
「よし、今度は向こうで一泊する・・・できれば!」
周囲の安全確認も含めて、あちらの世界にもう少し長い時間滞在してみようというのが、京子の今回の目的であった。 - 14二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:29:50
おかしいな・・・俺はエッチなフィジカル強者お姉さんが、それを上回る朴訥なフィジカルゴリラお兄さんに懸想するシチュが好きなのに、なぜ異世界転移を書いてるんだ?
- 15二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 16:30:35
亀吉かわいいな
- 16二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 17:25:53
Arkみたいな感じか
- 17二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 18:43:20
面白いし亀吉かわいいので問題ないのでは
- 18二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 21:07:54
亀吉が可愛がられて俺も嬉しいよ(他人)
- 19二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 07:15:41
うむ、カメいいよね
- 20二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 15:12:19
続きを楽しみに待っている
- 21二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:05:37
今回のキャンプセットにはクーラーボックスと大量の肉が含まれている。一人バーベキューにはかなり多い量だが、京子はハイテンションに流されて腹具合を確かめることを忘れてしまっていた。肉の塊は数キロはあろうが、肉自体は安売りのため値段は大したものではない。
飲料、食料、そして布類を含めてその他雑多なサバイバル道具を持ち込んでいく。いつの間にか、「ゆらぎ」の周りにはベースキャンプのような状況ができあがっていた。複数のテントと食品保管庫。道具置き場に薬置き場。衣類とベッドを置いた生活空間。
京子のマンションも極端に狭いわけではないが、それでも若い女性がアルバイトで無理なく払っていける家賃相応分の広さでしかない。それに比べて、今回京子が作り出したこの拠点は、「ゆらぎ」を中心に半径20mはあろう広さである。京子にはこの空間が贅の極致のように感じられた。
ちなみに、京子が設営にいそしんでいる間、亀吉は京子の周りをちょろちょろと動き回っていたが、いまは近くの川で水と戯れている。
一大拠点を築いた京子。白い登り旗程度しか目印がなかった「ゆらぎ」であったが、京子の設営したベースキャンプによって相当遠くまで来てもその存在を視認することができるようになった。
つまり、これによって京子の行動範囲は格段に広くなったと言える。
拠点を築き終えた京子が次に選んだ行動は、この世界の食料の調査であった。亀吉が京子の持ってきたリンゴを警戒もなく食べたことや、その後の体調に問題がないこと(なんなら元気である)、周囲が植物が京子の知っている植物の知識でも理解できる形をしていることなどから、この世界でも京子が食べられる木の実や果物などはあるだろうというのが、彼女の考えである。
そして、その考えは正しかった。亀吉と出会った川辺でブルーベリーのような実のなる低木が多く発見できたのである。亀吉も好んで食べている。ただ、京子の知っているブルーベリーの品種よりかなり実が大きく、木の枝も太かった。ブルーベリーであれば500円玉程度でもかなりの大玉であるが、いま京子が手に取っているそれはPCのマウスほどの大きさがある。直径で6~7cmだろうか。ほんの少しだけかじってみると、実に甘い味がした。毒の可能性も考えて、口の中でしばらく噛まずにおいておいたが、特に痺れも無い。 - 22二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:06:01
本来こういうときには、腕の内側の皮膚などでパッチテストをするものだが、京子は生来皮膚が強く、虫にさされてもあまり腫れない性質だったうえ、鳴かず飛ばずとはいえモデルの端くれである自覚が、皮膚を使ったパッチテストという選択を取らせなかった。
そこにこだわるなら、「そもそも森になど来るな」というのは言わないでおこう。
「んひひ、美味しいな!亀吉!」
亀吉と一緒に川辺にすわって果物を食べる。なんとも穏やかな時間が流れているように感じた。
だが、京子はそれから半刻ほど経って、ここが未知の世界であり、未知とは危険なものかもしれないということを再認識する。
ブルーベリーもどきをおやつにした京子は亀吉と共に河を遡上していった。道中こまめに枝を折って目印をつけていく。上流に差し掛かり、河が途切れて壁となり、滝と滝つぼ出来ている場所に行きついた。
みごとな滝である。高さも広さも極端なものではないが、どこか荘厳な雰囲気をかもしている。川辺の大岩は苔むしていて、この滝が悠久のものであることが伺えた。
だが、京子の目線が滝には注がれなかった。
そこに倒れていた一匹の巨大な生物に集中していたからである。
「こいつ・・・・映画で見たことある・・・」
黒く巨大な体に生えた大きな帆のような突起。現生のワニ類をさらに凶暴に尖らせたような顔つき。力強く鋭い爪とキバ。
「スピノサウルス・・・・よね」
当然亀吉は答えはしない。いつもどこか犬のような陽気さを感じさせる亀吉だが、目の前の巨大生物を見て、明らかに緊張しているようであった。 - 23二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:06:28
スピノサウルスは化石から察するに、18mほどが最大だろうと思われる。だが今京子の眼前に倒れているスピノサウルスは30m近くはあろう大きさであった。京子には古生物学の知識はないが、この生物が異常な大きさをしていることはなんとなく理解できた。
スピノサウルスは京子たちを目で見て認識したようだが、威嚇することもなく、まして襲い掛かろうなど雰囲気すらない。
「・・・・・・亀吉。ここで待っててね。」
京子は目の前の巨大生物を見たことはない。それは当然である。だが、よく似た状況が京子の記憶の中にはあった。
幼少の頃、祖父母の家を訪ねていたとき、年の近い兄と共に山に入って遊んたことがたくさんあった。山には様々な動物がいる。京子が見たのはケガをして食べ物を得られず飢えてしまったヤマネコであった。
京子は兄とともにそのヤマネコに猫缶やゆで卵などを与えたことがある。その後すぐに生家に帰ることになったため、そのヤマネコがどうなったのか、京子は知らない。
だが、そのときの記憶が京子の目の前に生動していた。
「お前・・・・お腹が空いてるの?」
スピノサウルスは答えない。
「これ、食べられる?」京子が与えたのは、リュックに入れておいた焼いた牛肉。多少塩を振って味をつけているため、動物の食事には適さないがこの際は仕方がない。
おそらく数十トンはあろう巨体からすれば一口にも満たない食事だろう。しかし、気力だけで保っていた命の灯をほんの少し盛り立てる分にはなったようである。
ほんの少しだけ首を動かしたスピノサウルス。巨体ゆえ、ほんの少しの動きでも十分な幅が動く。
河の滝つぼに頭を突っ込んだかと思えば、次の瞬間には巨大な魚を数匹口にくわえ、バリバリと咀嚼する音が聞こえてきた。 - 24二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:07:10
亀吉が京子のそばにやってきた。どことなくあった緊張の色がなくなっているような気がする。
「亀吉、もう怖くないの?」
京子が亀吉の頭を撫でながらスピノサウルスの食事を見守っている間、黒い巨体は少しずつ動くようになっていった。時間にして10分もしない間に全身を起こして四足になることができたスピノサウルスの様相は、まさにこの川辺の王者のような風格を持っている。見た目としては明らかに凶暴で恐ろしいのだが、京子や亀吉には一切の敵意を向けていないのが、なぜか伝わる。
倒れ込んで今にも息絶えそうな状態であったスピノサウルスが、歩き回れるほどに回復するまでそう時間はかからなかった。
京子の前でゆっくりと頭を下す川辺の王。なんとなく京子には、頭を撫でてほしいと言っているように思えた。といっても頭にはとても届かないので、鼻先を優しく撫でてやる。
すると、スピノサウルスは嬉しそうに身体を左右に揺するのであった。亀吉もどこか楽しそうにしている。 - 25二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:07:32
「んひひっ!命名!お前は川丸だ!川で見つけたから川丸!」
もちろん言葉は通じていない。だが、どこか楽しそうな雰囲気が彼女らの間に満たされていた。
亀吉と同様に、川丸も京子によく懐いた。川の深い部分に頭を突っ込んでは魚を取ってくれた。亀吉は魚を食べないようであったが、京子はその魚をさばき、よく炙って口にした。野趣あふるる、良い味であった。
川丸が仲間になったことによって、京子はこの世界で容易に食料を手に入れることができるようになった。サバイバルの観点から見ればそれは喜ばしいことだが、京子にはひとつの懸念が生じていた。
(川丸くらいの大きさの生き物が生きていけるくらい食料はあるのよね。それに・・・川丸みたいな肉食動物もいるってこと・・・初めて会ったのが亀吉で良かったかも。でも、こんなに大きい川丸が目の前の餌も取れなくなるくらいケガしたってことは、それだけ強いナニカがいるってこと?)
その後京子は亀吉と川丸と連れて、ベースキャンプの周りを何度も何度も練り歩き、動物のフン類や足跡を探したが、極端に大きな足跡は見つからなかった。 - 26二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:08:52
おっ、続きだ。亀吉はどうなった
- 27二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 16:18:15
チョイスする古代生物がニッチだな。スピノサウルスめっちゃ好きよ。
あ、でもサイズ感がデカいってことは普通の古代生物とかではないってことか。
とりあえず、亀吉かわいいな。 - 28二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 20:31:42
その後、何泊かこの森の中で過ごしていったが、調査を続けていると京子にとっては好ましくないものを見つけることになってしまった。
「これ・・・トカゲ、じゃないよね。恐竜かな・・・サイズ的に私より大きい。・・・・・・・・・・・ラプトル、か。」
京子が好きだった映画の中でひと際存在感を放っていた恐竜が2種類いた。
一つは暴君竜として有名な「ティラノサウルス・レックス」。レックスの名は王を意味するそうだが、その「王」の名にふさわしい戦闘力を持つ巨大恐竜である。
そして、もう一つが「ヴェロキラプトル」。卵を盗む者という意味があるそうだが、映画の中で描かれた姿は「卵泥棒」などというある意味可愛らしいものではなかった。人間を追い回して捕食する恐ろしい殺人マシーン。
ティラノサウルスが「力の象徴」だとするなら、ラプトルは「恐怖の象徴」と言える。
そのラプトルの足跡を見つけてしまったのである。もちろん、古生物に詳しくない京子には、それがラプトルのものであると断言するだけの知識はない。よく似た別種の生物かもしれないし、足の形が似ているだけの完全な別物かもしれない。
だが、少なくとも「ラプトルかもしれない生物」が近くにいる可能性がある、という事実は変わらない。一旦自分の世界に戻って手に入る限りの刃渡りのサバイバルナイフや発煙筒、ガスバーナーなど武器になり得るものを持ち込んだが、相手の姿が見えないこの状況では緊張感も強い。
この世界、便宜上「ゆらぎの向こう」とでも呼ぶべきか。ここを捨てて日常に戻るというのも立派な選択肢である。ここで命を捨なければならない理由は、京子にはない。京子にはまだそんなつもりはなかったが、現実としてそういう選択肢を取らなくてはならないときが来てもおかしくはないだろう。
だが、結局京子は自分の世界に帰るという選択を取らなかった。いや、取れなかった。
複数体のラプトルの群れが現れ、「ゆらぎ」の周囲のベースキャンプを占拠してしまったからである。 - 29二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 20:32:15
ラプトルたちが現れたとき、京子は亀吉と川辺に来ていた。スピノサウルスの川丸はその巨体のために木々をなぎ倒さない限り森の奥に行くことができない。視認できる距離とはいえ、ベースキャンプのある場所は森の木々に囲まれているため、川丸は近くの川の深いところに身を沈めていた。
膂力としては、ラプトルと川丸が戦えば、川丸が圧倒的な差で勝つだろう。ケガをして本調子ではないとはいえ、圧倒的な体重差はそのまま勝敗に直結する。ケガの程度は勝敗の天秤を覆すほどではなかった。
だが、ラプトルたちは京子たちが川辺にいるときにベースキャンプに現れた。京子は警戒していたが、それでも低く身を隠して迫ってくるラプトルに気づけず、背後からの襲撃を許してしまった。亀吉が間に入って止めなければ、一瞬で首筋を折られていただろう。
巨大な亀である亀吉の甲羅はラプトルの歯では傷一つ付けることができない。ラプトルが苦戦している間に川丸が接近し、巨大な顎でラプトルの上半身を食いちぎって難を逃れた。
大きな生き物が目の前で死ぬのを見れば、通常大なり小なりショックを受けるものだが、京子はすでに覚悟を決めていたため、動揺は最小限で済んでいる。それよりも問題は、ラプトルたちの数がかなり多いということ。5~6体であれば、川丸が各個撃破できるだろうが、数十体はいる。
しかも、そのうちの複数体が京子に気づき、走り寄って来ていた。幸い京子はベースキャンプ以外の場所にも食料や衣類などの物資を点在させていたため、ベースキャンプを放棄してもサバイバルそのものは難なく続けることができる。京子はこの事態も想定していた。ただ、あまりに唐突だったため、対応することができなかったのである。
衣食住の確保は問題なく行えるとして、京子は亀吉の背に飛び乗り、川丸とともに大きな川を渡った。ラプトルたちは水場を超えるほどの執着は持っていなかったらしく、川辺まで来てUターンをしていった・・・かに見えた。 - 30二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 20:32:38
京子たちが逆岸に着いたのとほとんど同じタイミングで、ダダダダッとラプトルたちの激しい足音が聞こえた。振り向くとムササビのように腕の下から膜をはって滑空してくるラプトルたちの姿があった。
岸までは届かず、すべて川丸が噛みついて処理したが、その光景は京子にとてつもないショックを与えた。それこそ目のまえでラプトルが死ぬことよりも大きなショックであった。
「ラプトルじゃ、、ない、、、」
亀吉の背から降りた京子は走り出した。
(待って待って、何?何なのアレ?あんなの見たことないんだけど!?)
森は思ったよりもすぐに開け、また大きな川が現れた。だが、京子のパニックは止まらない。
川の向こうには、ゆうに100mはありそうな巨大な「ブラキオサウルス」が群れを成していたのである。
だが、京子が見ていたのはその群れではない。ブラキオサウルスのはるか向こうに豆粒ほどの大きさで一匹の生物が見えた。羽ばたきながら飛ぶのその姿はまさに神の化身。
「ド・・・ラ・・・ゴン、、、?」
亀吉と川丸が後から追いついてきた。滑空してきたラプトルはすべて処理したようだ。振り向けば、かなり遠くになってしまったが、ベースキャンプは視認できる。だが、ラプトルの数は減らないどころか増えているようにすら見えた。
地理的に、川丸が突っ込んでいっても寄ってたかって襲い掛かるラプトルに力つきるのが落ちだろう。京子は本格的にベースキャンプを放棄せざるを得なくなったことを理解した。
とはいえ、いつかは戻らなくてはならない。「ゆらぎ」がそこに在る以上、ベースキャンプに戻らなくては、元の世界に帰ることができない。
こうして、京子は本格的なサバイバルを始まることになったのである。ちなみに、亀吉は京子が動揺しているのを察して、そっと頭を寄せて慰めようとしたが、それは京子にとっては「撫で」を催促しているようにしか見えなかった。 - 31二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 20:43:03
亀吉w
- 32二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 00:47:41
面白い
- 33二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 11:28:29
読んでるぜ
- 34二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 16:56:29
京子にとってサバイバル生活を強いられることは大した問題ではない。先日までキャンプを楽しんでいたし、食料や火種、水の確保は当然にして、簡易な住処を構築してと多くの衣類布類を持ち込み点在させておいたため、半年暮らせと言われてもさほどの難題にはならないだろう。
また、巨大亀の亀吉は低木の果物や木の実を、大型恐竜の川丸は川魚を獲って来てくれる。食料の問題など起こるはずもない。スピノサウルスの川丸が居る以上、並大抵の肉食獣では襲ってきたとしても返り討ちにできるだろう。
京子にとっての問題は、自分の世界に帰るためのルートである「ゆらぎのベースキャンプ」が夥しい数のラプトルもどきに占拠されていること、こちらの最大戦力である川丸を負傷させた凶暴な強者がいるということであった。
当面の京子の課題は、亀吉や川丸のような味方になってくれる生物を増やし、川丸の傷を癒して、ベースキャンプを奪還すること、となった。
とはいえ、味方を増やすといっても一体どうしたものか見当もつかないのが正直なところ。おそらく草食であろう亀吉はフルーツのおいしさをきっかけに懐いてくれたし、負傷中であった川丸は餌を与えて命をつなぐことで絆を結ぶことができた。
最初から敵意がなかった亀吉はともかく、肉食獣の川丸は元気なときに出会っていたら間違いなく襲われているだろう。言い方は悪いが、川丸が瀕死状態で横たわっていたのは京子にとってはラッキーだった。
「動けないときに、、、餌付け、、、」
京子には大まかな道筋が見えていた。草食獣はともかく、肉食獣を仲間にするためには、罠を張って捕獲し、動けない状況を作って時間をおいて落ち着かせ、その上で餌を与えて敵意をほぐす・・・というプロセスが必要だろう。
「んひっ」
京子はなんだか楽しくなってきていた。眼前の川を超えれば100mはあろうかという超巨大生物が闊歩しているし、後ろの川を戻ればラプトルもどきたちが自分の喉笛を狙っている、そんな状況にいながらワクワクとした気持ちが沸き起こっていた。 - 35二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 16:56:50
つい先日まで夢が叶わないとうすうす感じつつも夢を捨てることもできずに煩悶していた彼女だったが、むき出しの自然の中で命の火を昂らせていく過程が、京子の心に実に鮮やかな色を与えてくれる。
「まずは、縄とかロープとかだよね」
京子は登山用のロープをこの世界に複数本持ち込んでいる。持ち歩いているわけではないため、物資を隠した上流の滝つぼに向かわなければならないが、やることが明確になった京子の足取りは軽い。
亀吉と川丸も、ラプトルに襲われた京子が動揺しているのではと心配していたが、意気揚々と歩き出したのを見て、安心して後ろについていくのだった
上流に向かって歩き出した京子たちだったが、その移動はすぐに遮られることになってしまった。巨大な猿の集団に囲まれたからである。
集団といっても数はそう多くない。見えている範囲で全てだとすれば8体の群れである。だが、その姿が異様であった。人間のように直立して二足歩行する上、体格はまちまちながら大きいもので5mはありそうな巨体。
恐らく一番大きい個体がボスなのだろうが、ヒト型の生き物に囲まれるのは中々の恐怖を感じさせる。川丸がそばにいるため戦闘になれば、そこまで問題にはならないだろう。体毛で覆われているといっても甲羅やウロコもない肌では川丸の爪も牙も受け止めることなどできない。
「巨人・・・いや原始人?」
京子が専門家なら絶滅した史上最大の類人猿「ギガントピテクス」を連想し、その上で大きすぎる体躯に違和感を覚えているところだろう。
京子も亀吉も川丸も緊張してこの巨大猿の群れと対峙していたが、一方で猿たちの方はいうと、警戒はしているようだが、敵意があまり感じられなかった。その「警戒」というのも純粋な興味からくる「観察」としてのニュアンスが強い。
京子たちが緊張を解かずにいると、ボスを除いた7体がどかっとそこに座り出した。あぐらをかいて座るその様は、まさしく人類を彷彿とさせる。 - 36二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 16:57:17
そして、ボスであろう個体がゆっくりと歩いて近づいてくる。もちろん警戒を強める京子たちだったが、そのボスが大きな木の実を手渡してきたのを見て、はじめて警戒を解く。
「くれる・・・の?」多少あっけに取られるのも無理はない。
にこりと笑いかける・・・というようなことはさすがにないが、そのボスであろう個体(便宜上ボスと呼ぼう)が京子の目の前で目を閉じてしばらく動かなくなったのを見て、京子は彼らに敵意がないことを理解した。
ボスはゆったりとした動きで京子たちの前を歩きはじめた。他の個体たちも同様に後に続く。京子たちがその様をじっと見ていると、ボスが振り向いて手を上げ下げして何らかのジェスチャーを見せた。
もちろん京子にはその意味は分からないが、なんとなく「自分たちの後についてこい」と言っているような気がしていた。もともと川の上流を目指していたため、京子たちは特に抵抗もなくそのまま猿たちの後ろについていく。
ボスは、道中何度も振り返って京子たちが付いてきているかを確認していた。ボスは京子たちだけでなく、群れのメンバーに対しても気遣っているような印象がある。京子は、この猿たちの群れは自分が想像しているよりも社会的なのかもしれないと感じていた。
ボスの歩みが止まった場所。そこは京子が川丸と出会った滝つぼからそう離れていない森の中であり、おそらくは巨木がいくつも絡み合うようにしてできたのであろう、かなり大きな木の洞であった。
それこそ今日が作ったベースキャンプが複数収まりそうなくらいに大きな木の洞。京子は小さい頃に遊んだRPGに出てきた「世界樹」を思い出していた。
ここがこの猿たちの住処なのだろうか、と京子が考えたとき、奥の方から声が聞こえてきた。
「Oh~!Franky!Bethy!Good boy! Good boy!」
英語であった。人間の言葉であった。それも男性。おそらくは京子とそう歳も離れていないであろう外国人男性の声であった。 - 37二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 16:57:34
何度も繰り返すようだが、京子はあくまで一般女性である。古生物の知識もないし、外国語を聞いて発音から瞬時に相手の国や地方を推察する技術もない。さらに言うなら、中学高校時代と個人的に勉強した程度の英語力であって、ネイティブスピードを聞き取るのは少々ハードルが高い。
だが、この不思議な世界に自分以外の人間が居たことに驚き、思わず駆け寄っていってしまった。
「ㇵ、ハロー!!」
「・・・!?What!?What happened!?Who are you!? Why are you here!?」
相手の男性もかなり驚いているようであった。ぼさぼさに伸びた髪と無精ひげのようすから、ここにそれなりの期間滞在していることが推察できた。
「マ、マイネーム イズ キョウコ・イズミ!」
「Kyoko?・・・Japanese?」
「イ、イエス!イエス、アイアム フロム ジャパン!」
「Ah・・・コンニチハ・・・キョウコ?」
なぜか手探りの異文化コミュニケーションが始まったが、幸いこの男性マイケルは多少日本語を話すことができたため、京子との会話は片言の日本語で行われることとなった。