「――うっ、ぐ……!!」(ギシギシギシ)

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 21:59:40

     信じられないものでも目の当たりにしたような、あり得ない音を聞いたような、間の抜けた表情だった。
     連邦捜査部S.C.H.A.L.E――通称"シャーレ"の本拠地が存在する、D.U.区内外郭地区に立つ、六角柱を束ねたような形をした背の高いビル。その上層階、トレーニングルーム。そこと廊下を隔離する扉から、明るい光が差し込んでいたところを、その日の当番―シャーレの責任者である先生の補佐を行う、キヴォトスの生徒のこと――である空崎ヒナが見つけたことが、事の始まりだった。
     既に業務は片付き、日が沈んだ夜である。もう用事もないはずのシャーレの中を、ヒナは小さな歩幅でかつかつと歩いていく。彼女の左手には、可愛らしい色合いの包みがあった。それは、弁当箱。ヒナ自身の分と先生、二人分の夕食である。無論、当番の業務に食事の用意などの雑事は規定されていない。完全に、ヒナという少女の厚意による施しであった。見るもの――例えば、ヒナに対して絶対の信頼と信仰を向ける彼女の秘書――が見れば明らかに浮足立った調子のまま、ヒナは先生がいるはずの事務室を覗いて、彼女はそこに部屋の主がいないことに気がついた。
    「――あれ、先生?」
     電気の消えた部屋を見回したヒナの声色には、確かな落胆があった。左手の包みの結び目を握りしめる。小さな溜息を零して、ヒナはくるりと身を翻す。翻して、気付く。シャーレ全体の電気系統を管理するためのコンソールが、電気が点いている部屋が存在すると示していることを。
     ヒナはエレベーターを起動する。箱の中からは、満天の星空が広がったキヴォトスが見えた。もどかしげにボタンを押し、ヒナは六角柱のビルを昇っていく。目指すのは、トレーニングルーム。電気が点いたままの、普段は使われない大部屋だ。
     そして、ヒナは上層階に辿り着く。普段は使われていないトレーニングルームの扉が僅かに開いている。微かに汗の匂いがした。ヒナにとっては暖かい香りだった。何故ならば、その香りは、彼女にとっては嗅ぎ慣れた、愛する人の香りだったからだ。漸く見つけた、という安堵感に従うままに、ヒナはその光へと近付いて、

    「――うっ、ぐ……!!」

  • 2二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 22:00:39

     それは、ヒナの知らない声だった。否、知っている。その声そのものは知っている。知らないのは、その声色。切羽詰まったような、苦しいような、しかしその根底には喜びの感情が敷き詰められた、そんな声。あの優しく穏やかで包み込むような、ヒナの知っている先生とは違う声。規則的に響く、何かが軋むような音と混ざりあった声は、ヒナの脳をぐちゃぐちゃにシェイクする。気付けば、ヒナは弁当箱の包みを胸の前に抱えていた。抱えなければ、そのまま落としてしまいそうだったからだった。
     声はどんどん大きくなっていく。先生の声はどんどん太く、荒々しくなっていく。軋む音の間隔は少しずつ短くなっていく。先生の香りがした。ヒナの好きな香りだった。先生の声がした。ヒナの知らない声だった。
    「いや……」見た目相応な、童女のような声だった。「何、で。せん、せ」
     ふらふらと。ヒナは歩いていく。誘蛾灯に吸い寄せられる蛾のように、ヒナはトレーニングルームの前へと歩いていく。それが破滅への道だと分かっているのに、ヒナの脚は止まらない。
    (分かってた。先生は、私みたいな娘に欲情なんてしないって。……こんな、育ってない身体になんて)今にも泣きそうなまま、(だから、せめて。最後に見せて。先生、せんせい――)
     そして、ヒナは開く。深淵の扉を。光の向こうを。微かな音をたてて、トレーニングルームの入り口である扉は開かれて、

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 22:01:44

    「う、おぁあああああ……!!」

     パイプで組まれた骨組みがふたつ。向かい合うように設置された板切れに張り付きながら、背後に飛んで板切れに腕だけでへばり付く異様な運動をしている半裸の先生を目撃した。
    「――へ」
     信じられないものでも目の当たりにしたような、あり得ない音を聞いたような、間の抜けた表情だった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 22:02:25

    「え、あ、せ、せんせ――え?」
     ヒナの視線は、先生の指に向かう。先生の指は、板切れの真ん中、地面と平行な角度にくっついている細いヘリに引っかかっていた。そこに両手、親指以外の八本の指を引っ掛けたまま、先生はその身体をスイングさせる。指を中心に前後に振られた先生の身体は、腕力と勢いに任せて宙に浮かび、先生の背後に設置されているもうひとつの板――恐らく、そちらにも同じような仕掛けがあるのだろう――に着地する。ぎしり、と。板切れをくっつけているパイプで組まれた骨組みが軋む音がした。
    「……え、あ、ヒナ? もう帰ったはずだよね?」
     飛んだことでヒナがいることに気付いたのか、先生は板切れから手を離す。ぼふん、と。重力に従って落下した先生の身体がマットに吸い込まれる。ヒナはもう、思考を放棄していた。宛ら、今の彼女は写真機と化していた。無論、撮影、もとい記憶するのは目の前に立つ先生の姿である。
     その姿は、恐らくキヴォトスの生徒ならば誰もが生唾ゴックン写真オークション百万から、となるような姿だった。先生が大柄なのは分かっていたし、筋肉質な「男の人」であることも知っていた。だが、これは何だ。こんな身体でこの女の園にいるなんて各方面に失礼である。分厚い胸筋はヒナの顔よりも広そうな大きさで、腹筋は幾つにも割れている。普段は長ズボンだから見過ごされていたが、今の膝丈ズボンから覗く脚は丸太のように太い。そして、腕。あの大きな掌を支えていたパーツは、まさに芸術品としか形容しようのない均整の取れた筋肉に包まれている。その筋肉も太く、分厚い。重機のアームを思わせる頑健さと力強さを醸すそれに抱きしめられたら、どうなってしまうのだろうか。恐らくどうにかなってしまうのだろう。そして、そんな彫刻のような、否、エロ漫画に出てきそうな筋肉が、膨れ上がっている。汗に包まれ、運動によってパンプアップされた肉体が、そこにある。目の前にある。それも、愛する先生の肉体だ。

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 22:02:42

    「――」
     ヒナの喉が動いた。生唾ゴックンである。理性が飛びかけている風紀委員長の姿がそこにはあった。
    「……えーっと?」
     先生の声がする。いつも通りの、優しい声。
    「先生」ふう、とひとつ息を吐きながら、「これが何か、教えて」
     どうにか落ち着きを取り戻して、ヒナは問う。否、落ち着いてはいなかった。白い頬は真っ赤である。先生は汗臭かったかな、と消臭剤を取りに行き、ヒナはそれを止めた。何故なら、ヒナは先生の匂いが好きだからだ。

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 22:03:23

    「SASUKE先生」


    というわけで、録画してたSASUKEの放送見返してたら何人かSASUKE先生がいた、ってことで思いついた一発ネタです……。
    投稿サイトに投稿する気も起きなかったのでここで供養します。

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 22:05:49

    うーん、妙にレベルの高い文才を発揮してる先生がまた1人……

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:20:22

    >>7

    有り難う御座います。

    釣りサムネと釣り文章は適当だったのですがお褒め頂き感謝です。

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:28:39

    よかった…万魔殿で先生をNTRれるヒナは居ないんだ…

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:29:21

    文豪先生は変人しかおらんのか(困惑

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:30:19

    こんなに鍛えてもヒナに片手で制圧(意味深)されちゃうんだぁ……

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:40:47

    >>9

    SASUKEに寝取られていますよ^^


    >>10

    SASUKE見返し続けているのでそういう意味だと変人かも……?


    >>11

    SASUKEのための筋肉であって自衛のための筋肉ではないので……

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