- 1二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:14:49
休みとは、誰にだって平等に来るものだ。それは、トレセン学園で務める職員や教師、トレーナーである俺達にも例外なく。
土日は一般的にレース開催日でもある為、特にトレーナーは土日休みじゃない時もある。その場合はどこかしらで代休を設けることもあるが何もなければ休みなので、リフレッシュに充てたり週明けの書類作業、自己投資の為の勉強に身を投じる者もいる。
中には、担当ウマ娘の心身のケアの一環としてお出かけに同行して思い出を共有する所もある。俺自身、スイープが活発な少女なのもあって結構休みの日も何だかんだで会っている日の方が多い気がする。まるで大きい娘を持った気分だ。
今日はそんな予定も入っていなかったので、今後の助けになればと自室でレース理論について自習していたのだが…。
「使い魔ー、お菓子無くなったから新しいの取ってー」
突然やってきたスイープによって、俺の予定は崩されつつあった。現に、今もこうやってウチのお菓子をしこたま食ったと思えば、おかわりまで要求してくる無敵っぷり。まあ、出すけどさ。
「はい、これで最後だから。まだ足りなかったら我慢してね」
「えー!?ヤダヤダ、もっとお菓子食べたい!」
「ない袖は振れません」
「う〜…じゃあ、今から買いに行くわよ。使い魔、支度しなさい!」
「今は勉強したいしパスで。お金は3000円分あればいいか?」
「ちょっと!何でスイーピーを差し置いて勉強を優先するのよ!?」
スイープはよほど食べたいのか、俺を連れてお菓子を買いに出かけると言い出してるが…正直、めんどくさいし勉強中なので今はそっちを優先させて欲しい。だが、スイープは今の俺の言い方に引っかかったのか、大変ムスッとした顔をしている。
「スイーピーと勉強、どっちが大事なの!?」
「君が大事だから休みの日も勉強してるの」
甘々なカップルなら一度はやりそうな問答をまさか教え子とする事になるとは思わなかったが、あくまでこちらの意思は固いとだけ伝えて参考書に目を戻す。さて、この部分の答えは───? - 2二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:15:13
思案しているとはらり、と左側のページが捲れる。俺が見ていたページは、数刻前に開いていた所に戻ってしまっていた。おかしいな、エアコンの風にしては強すぎるし…とページを戻しながら再度設問を読もうとすると───。
「…?何でページが…」
何故か、左側から風が吹いて戻したページよりも更に前まで遡ってしまう。一体何が、と左手を見ると───。
「…ふぅ〜」
「…何してんの」
風の出所を確かめようと見た先にあったのは、卓に突っ伏してスイープが吐息でページを戻そうとしている姿だった。ページが開き切る寸前を狙って風を送り、見たいページを見させないように妨害しているようだ。
「ふふん、今のアタシは風の祝福を宿らせてるわ。諦めるまで邪魔してやるんだから!」
「…」
「あ、コラ!抑えるのは反則でしょ!?フーッ、フーッ!!…うぅ〜!!」
どうやら、スイープは自分よりも勉強の方にウェートが寄っていたのが大変気に食わなかったようで、俺にとっての最優先対象…勉強を意地でも妨害してやろうと躍起になっているようだ。
今は、ページの端を押さえて浮かないようにしているページを吐息で捲ってやろうと頑張ってるが…捲れなくて涙目になっている。彼女をそこまで突き動かすほどに、自分の予定が勉強に負けたのが悔しかったのだろうか。
…まあ、こちらの言い方は素っ気無かったし、このまま我慢させても彼女の身にも毒だろう。それに、理由はわからないけど、彼女は俺とお菓子を買いに行く事に何かしらの魅力を感じているようだ。
…仕方ない、今回は折れるか。
「わかったよ。もう集中力も途切れちゃったし、お菓子買いに行こうか」
「…!もう、最初からそう言いなさいよね!まったく、手のかかる使い魔だこと」
「お詫びに今日の夕飯はスイープの食べたいものでも食べようか、何食べたい?」
「ホント!?…コホン。そうね、じゃあ───」
嬉しさで尻尾を振り回しているのに、冷静を装ってツーンとした態度をとっているのが何だかもう面白い。そんな彼女を連れて、近所のスーパーへと足を運ぶのだった。 - 3二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:15:40
「さーアタシの可愛いしもべたちよ、こっちに来なさーい!」
翌日。昨日のやり取りの後に明日はスイープの行きたい所に付き合うという約束をした所、ならばという事で猫カフェにやって来た。こういう所は興味はあるけど足が向きにくいので俺も少しワクワクしていた。
しかし…。
「ふふっ、コラァ!そうやってアタシばっか甘えられたら動けないじゃないの!ほら、ちょっとは使い魔の方にも…あっ」
「踵を返された…辛い…」
スイープの呼びかけに猫たちがぞろぞろと集い、甘えているのだが俺のもとには何も来ない。見かねたスイープが一匹を抱き上げてこちらに渡そうとするが床に降りた瞬間、Uターンしてスイープの方に戻っていくという追い打ちまで食らう。
「俺、猫に嫌われる体質とかあったかなあ…」
「おかしいわね…ここの猫たちは基本人にもウマ娘にも懐くはずだけど。アンタ、なんかしたんじゃないの?」
「何もしてないから俺はその基本から外れた存在ってことか!ハッハッハ…」
「はぁ…」
「ちょ、ちょっと!まだ決まったわけでもないのにそんな溜息つかないでよ…!気まずいじゃない!」
きっと、昨日スイープを若干蔑ろに扱った報いを今受けているのだろう。因果応報とはまさにこの事か。
ならばもうその運命を受け入れて、今日はもう猫に囲まれて幸せそうなスイープの写真を撮ろう、彼女の宣材写真になりそうなものが撮れたらもうそれで万々歳だ───、そう思って寝そべりクッションに身を預けながらスマホを取り出そうとポケットを探ると…。
「…」
「あれ…まだ猫ちゃんいたのか」
スイープのもとに行かない、茶色い毛並みの猫が隅っこに突っ立っていた。この子は人馴れをしていない子なのだろうか…? - 4二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:16:01
「?何を見て…あら、まだいたのね。ほぉら、こっち来なさい!」
「…ッ!」
「…何よアイツ、メチャクチャこっち警戒してるじゃない」
スイープの言うように遠巻きで眺めている猫は繊細な子なのだろうか、スイープのハキハキとした呼びかけに少し萎縮してしまっているように見える。寄り添う猫もいない辺り、この集団に於いては孤立してる存在なのかもしれない。
…なるほど、これは色んな意味で俺の腕の見せ所のようだ。
「…」
「?使い魔、何やってんの?」
「あの猫ちゃんに勇気が出る魔法を掛けた所」
「…はぁ?ただ手のひら見せてるだけじゃない」
「まあまあ…見ててごらん」
猫にはあくまで手のひらだけを見せ、俺はその方を見ずにスマホを眺める。不思議な景色に脇でスイープは小首を傾げているが意に介さず手を出しながらスイープが猫と戯れる姿を撮影する。
すると───。
「あっ!あの猫、使い魔の方に…」
「やっぱりか。何となくそんな気したんだよなー」
撮り続けること10分強、隅っこでこちらを伺っていた猫は俺のもとまで近寄ってきておずおずと頬ずりを始めた。それでも、あくまで向こうの気が済むまでは手のひらを見せたままの状態にしてこちらからはアクションをせずにいると、やはり進展があった。
「よっし…ッ!」
「あんだけ警戒してたのに…アンタ何したの!?まさか、本当に魔法…!?」
手のひらに頬ずりを始めてからさらに15分強、ついにその猫は俺の膝の上に乗って腹を見せ始めた。ここまで来たらもう勝ち確と言っても過言ではないだろう。心の中でガッツポーズをした後、丁寧に撫で始めながらスイープに軽く説明する。 - 5二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:16:29
「猫ってさ、こういう所にいる子は基本人懐っこいけど元々心を許すまでは警戒心の高い子が多いでしょ」
「とりわけ、この子は甘え方を良くわかっていない感じだったから…」
「自分から踏み出せる勇気を持てるようになる魔法を掛けて、待ってあげるのが良いのかなって思ったんだ」
俺には猫の扱いなんぞ知らないし、何をしたら喜ぶのなんかわからない。強いて言うなら、予測を立てる事くらいだがそれだって正確ではないだろうし的外れな部分もあるだろう。
だけど、俺にはあの猫が打ち解ける前のスイープと姿が重なった。本当はこうしたいけど、周りのおせっかいで自分の希望とは反した行動をされて…みたいな負のループで甘えたいけど上手く行かずに孤立してしまったように映った。
だから人見知りのような彼女には向こうが甘えたいと思うまでは行動をせず、ただ待ち続けた。その結果がこれなので判断は間違ってなかったのだろう。
「ま、君には助けられたよ。ありがとね」
「?アタシ、何かしたっけ」
「んーん、こっちの話」
きょとんとした顔でこっちを見るスイープに笑って誤魔化す。今回、こうして打ち解けることが出来たのは君と似たような経験をしたからなんだよなんて言ったらアタシは猫じゃないもんなんておヘソを曲げちゃいそうなので黙っておこう。
こうして、俺もスイープも無事猫カフェを堪能した───のだが。
「ちょっと!いつまでその子お膝の上に乗っけてるのよ!」
「いや…あの、降りてくれないというか降ろそうとすると嫌がるので動けなくなりまして」
懐いてくれたのは大いに嬉しいのだが、どうも懐かれすぎたようで降りてくれなくなってしまった。気付かれないように膝から降ろしても爆速帰還、これを二度やったら学習したのか尻尾を左腕に巻きつけて固定してきた。
…正直、悪くないと思った…が。
「ふんだ、鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって…!そいつはアタシの使い魔なの!とっととどきなさい!」
「フーッ!」
「ええとその、俺を巡ってケンカするのはやめて…仲良く、仲良く…ね?」
こんな特殊な形で私で争うのはやめてと言う事になるとは思わなかったが、漫画で見た時は羨ましいと思っていたこれも当事者になるとただただ胃が軋むだけからもうたくさんだと、スイープと猫のいがみ合いを宥めながら肩を落とすのだった。 - 6二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:17:37
休みなので休みの話です
過去イチでオチがないのは勢いで書いたものだからですね
どうか許し亭 - 7二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:25:56
つれないネコほどかわいかったりするよね、うん
タイトルにSSって付けた方が読まれ…って思ったけど
昨今それはそれで別のも呼んじゃうもんな ままならないぜ
おつおつ - 8二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:33:55
ほっこりするね
構って欲しいスイープも猫ちゃんみたいな可愛さでした - 9二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:47:50
スナック感覚で読めるのいいね!
猫ちゃんをスイープと重ね合わせて接し方を組み直す所にトレーナーとしての高い観察眼が光ってました - 10二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 09:07:04
>君が大事だから~
サラッとスゴい事言ってる気がする!しかしお菓子代に3000円は甘い…甘くない?
- 11二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 09:16:15
>あ、コラ!抑えるのは反則でしょ!?フーッ、フーッ!!…うぅ〜!!
この場面絶対に涙目になってるんだろうなあと思ったら案の定でかわいい〜てなった
- 12二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 09:38:21
猫ちゃんに懐かれるお話でスイープと重ね合わせた猫ちゃんがこんなにデレデレってことはスイープも本心では…!?みたいな謎の気づきを得て1人でニヤニヤしてます(告白)
- 13二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 10:08:32
>…ふぅ〜
>…何してんの
ここすっげえ脱力した感じで言ってそうで好き
トレーナーとかオフの素の状態というか
- 14二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 10:37:44
朝からいいものを見てしまった
ほっこりがとまらねえ、加速する…! - 15二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 11:12:00
穏やかな日常って感じでいいですねえ
お茶飲みながらいつまでも見守りたい - 16二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 12:20:24
平和だ…
ほんわか空間ごちそうさまでした - 17二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 15:10:57
外の暑さは勘弁願いたいけどこの暖かさはもっと下さい(強欲)
- 18二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 19:16:01
スイープと勉強のどっちが大事かと詰められてあっさり大事だから勉強するって返す使い魔くんしゅき
- 19二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:57:41
応援隊から来ました
毎度の事ながらスイープの解像度の高さとトレーナーの小慣れた対応に関係の深さと心が和むようなエピソードにホッコリしました、ありがとうございます。 - 20二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 07:42:45
何故か、左側から風が吹いて戻したページよりも更に前まで遡ってしまう。一体何が、と左手を見ると───。
「…ふぅ〜」
ここ最高にスイーピーですき - 21二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 13:29:34
使い魔君は言い方が素っ気なかったかなあって反省してるけどその実スイーピーのお菓子代だけで3000円出してたり別に望んだ訳でもないのにお詫びで晩御飯ご馳走したりと十分甘々ちゃんなんだよなあ…
歳の離れた妹を可愛がるお兄ちゃんと懐く妹みたいで微笑ましかったです…!