- 1二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:44:13
最近、トレーナーさんから熱風のような視線を感じることがあります。
それは真艫よりの風。
ああ、ほら、今も。
私はわかっていながらも、知らないふりをして振り向きます。
「トレーナーさん? 何かおかしなところでも?」
「えっ、あっ、いや、なんでもないよゼファー、うん」
「……ふふっ、そうでしたか」
わたわたと煽風を吹かせながら、明後日の方向を見るトレーナーさん。
その姿に、以前ネイチャさんに見せてもらった動画を思い出して、思わず笑みが零れます。
隠しておいたはずのご飯が見つからず、慌てふためくしましまさんの姿。
少し情けないような、でも愛らしいその姿に、ぞくぞくと背筋に冷風が駆け抜けました。
彼の視線を感じるようになったのは、つい先日から。
学園に、饗の風が吹いていた日。
イクノさんやネイチャさんから尻尾ハグについて教わり、それを私が実践した日。
特別な相手と行う、ウマ娘ならではの、特別な行為。
もっとも、それは私の勘違いもあり、本来はウマ娘同士で行う色風めいた行為なのですが。
彼から説明を受けて、私は頬を赤風に染め上げてしまいました。
…………でも、あの時感じた緑風は、心の奥底に残っていて。
またあの風を浴びたい、感じたいと、尻尾が時折ざわざわと揺らめいてしまう時があります。
そんな時気づいたのです、彼が私の尻尾を見る時────その風向きが変わることに。 - 2二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:44:26
暖かくて、優しくて、心地良い、トレーナーさんの清風。
その風が私の尻尾を見つめる時だけ、熱っぽくて湿っぽい、しゆたらべになるのです。
最初は、とても困惑しました。
それは黒南風なファンの方が、勝負服の胸元に向けるものと良く似ていたから。
しかし、一つだけ大きな違いがありました。
それを私が陰風と思えない、むしろそのことを好風に思ってしまっていることです。
私に帆風を送り続けてくれるトレーナーさんが。
私が私だけの凱風だと思っているトレーナーさんが。
私のことを小風としか思っていないであろうトレーナーさんが。
私に────おぼせな視線を送っている。
何故でしょう、私はそのことを、とてもひよりと感じてしまっているのでした。
時折、彼は無意識に私の尻尾に手を伸ばそうとするときがあります。
それに気づくと、私の胸は疾く疾くと鼓動を早めてしまい、さやさや揺れて、風待ちをしてしまいます。
しかし、彼の手は自然と止まり、やがて視線を私の尻尾から外してしまうのです。
ああ、凪いでしまう必要なんてないのに。
そのまま、風来と触れてしまって良いのに。
そうすれば、私も思う存分風薫るというのに。
彼の気配は長風となると、心は途端に雨模様。
上風吹いていた尻尾は行き場を失って、ゆらゆらひかたを求めて彷徨ってしまうのです。 - 3二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:44:39
「これは、凄い光景だね!」
「はい……! 写真よりもはるかに、風光な景色です……!」
その日、私とトレーナーさんはお出かけをしていました。
以前からずっと行きたいとお話をしていた場所に、連れていってくださったのです。
そこはあまり高くはない山の展望台。
目の前には、遠く彼方まで広がる壮大な自然と、溢れんばかりに私達を満たしてくれる恵風。
アオゾラさん、オオクチさん、ネクタイさん、みんな楽しそうに合唱を風に乗せています。
私はすぐにでも嘯風弄月となりたくて、風早に足を進めて、手すりに掴まりました。
トレーナーさんはそんな私に笑みを浮かべながら、私のすぐ後ろに着きます。
それは万が一の時すぐに支えられるように、彼が流してくれた便風。
ふと、私の中に悪風が吹き抜けました。
ああ、それはいけません。為すべきではない弊風です。
ですが心の中に吹き荒れる大嵐を、私は抑えることが出来ませんでした。
軽風に身を乗り出して────尻尾をトレーナーさんに向けて突き出します。
あまりに素晴らしい風景に気持ちを高ぶらせた『ことにして』、私は尻尾を逆立てました。
そして尻尾の先っぽが、ほんの少しだけ彼の鼻先に掠めます。
「……んっ」
「……!?」
お互いの口から、微かな吐息が隙間風となって吹き抜けました。 - 4二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:44:51
以前の尻尾ハグに比べても、とてもささやかな、無風にも等しい触れ合いでしょう。
それにもかかわらず、私の心には暖かな花信風が流れたかのような気分になってしまうのです。
ちらりとトレーナーさんの方を見れば、顔を紅葉葉楓のように染め上げていました。
私が前で、良かった。
きっと、私の顔も彼みたくなっているのでしょうから。
「……申し訳ありません、尻尾が当たってしまいましたね」
「いや大丈夫、気にしなくて良いから、本当に気にしなくて良いよ」
「ありがとうございます、素敵な風致に、少しハシャいでしまったみたいです」
「そっか、はしゃいじゃうなら……仕方ないよな」
「……はい、仕方ないですよね」
お互いに、どこか飛絮のように浮ついた言葉を交えます。
私達の視線は東風や南風やと彷徨いながら、やがて八重の潮風を見つめるように遠くへと放り出されました。
けれど、その意識と、先ほどの会話だけはその場に置き去りになっていたのです。
こんなに素晴らしい風流を目の前にしているのですから、尻尾が俄風となってしまうのは『仕方がない』。
その結果トレーナーさんの顔に私の尻尾が当たり、その香風を知られてしまうのも『仕方がない』。
私がそんな彼の、少し乱れた息吹を、尻尾越しで楽しんでしまっているのも『仕方がない』。
『仕方ない』という魔法の言葉は、私の背を押してくれる、荒ぶる追風と化してしまいます。
ふぁさ、ふぁさと微風な風音が、私達以外誰もいない展望台にしばらくの間、響き渡りました。 - 5二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:45:06
それからというもの、私には困った新風が吹くようになってしまいました。
事ある毎にトレーナーさんの前に立って、尻尾を振ってしまうのです。
時には少し距離を取って、時には手の届く距離で、時には彼の目と鼻の先で。
ゆらゆらとそよ風のように、ばさばさと羽風のように。
その度に感じる視線と微かな感触がとても涼風で、少しだけもどかしくて。
彼が暴風のようにこの尻尾に触れてくれたら────なんて、淫風なことを考えてしまうのです。
ああ、いけません、本当にいけません。
これは矯風するべき仇の風、吹いてはならない永祚の風。
もう凪いでしまわないと、明日はこの異風を吹かせないようにしないと。
毎日のようにそう考えて、毎日のようにそう決意して。
「こんにちは、ゼファー」
「…………はい、こんにちは、トレーナーさん」
そして毎日、彼の顔を見る度に、固めたはずの意思は浚いの風に流されてしまうのです。
気が付けば今日も私は彼の前、尻尾揺らして春風招き。
風流からは程遠い一句を心の中で詠みながら、私は今日も乱風と誘風に身を任せるのでした。 - 6二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:45:59
- 7二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:51:40
色風だねぇ…
- 8二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:53:00
なんかこう…頭に入ってこないです…
- 9二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 22:21:38
- 10二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 23:09:27
単純に尻尾のケアをお願いしたら和風な手つきで触ってくれるだろうけど、颯に神立な触れ方をしてほしいのが天つ風心なんだろうな
- 11123/07/29(土) 23:54:05
軟風も良いものですが時には束風や颪などの魔風に吹かれたいという乱気流な心地なんですね
- 12二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 00:03:45
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- 13二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 00:25:28
ド色風……
- 14二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 02:08:09
大変良いものを見せていただいた…
- 15123/07/30(日) 08:12:53