- 1二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:45:45
「おかしい……ですか……?」
「いえ、ただちょっと意外で」
学園の中庭の一角を借り、友人たちと優雅にお茶菓子に舌鼓を打っていた時のこと。
珍しい来客があったかと思えば、それまた意外なことを聞かれて、間抜けにもおうむ返しをしてしまった休日の昼下がり。
「まあ!それはつまり、あなたも私たちと優雅な一時を満喫したいということですわねっ!?」
「あ……いや、そういうわけでは……」
「でしたらそんな離れたところに立っていないで、こちらの席へ!さあ!さあ!」
「あの……」
隣に座っていたカワカミプリンセスさんが客人の、マンハッタンカフェさんの肩をがっしりと掴んで、自らが座っていた席へと連行……もとい案内をする。
力自慢のカワカミさんに掴まれたせいか、彼女は少し痛そうに顔を歪めている。
「カワカミさん、少し落ち着きなさいな」
反対の席でティーカップを傾けながら、キングヘイローさんが落ち着いた声色で軽くたしなめる。 - 2二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:46:25
「一流の淑女たるもの、常に余裕をもって優雅でなくてはならないわ。席を譲るのにもマナーがあるのよ」
「そ、それは失礼しましたわ……私、まだまだ未熟ですわね……」
「ふっ、いいのよ……あなたもまた一流を目指し己を磨く者……失敗を糧に更なる高みを目指しなさい」
「……あの」
「流石ですわキングさん!私、もっともっと姫たるものと相応しくなれるよう突き進みますわ!」
「その心意気や良しね!まずは席の立ち方からいくわよ!」
強制的に座らされた挙げ句、自分を放ってマナー講座を始めたテンションの高い二人に挟まれ、カフェさんの目はすっかり虚空を眺めている。
「ごめんなさい、気にしないでくださいまし」
「…………はい」
「あなたのことは、コーヒー通として聞き及んでいましたけれど」
「はい……紅茶は、申し訳ないのですけど……苦手で」
「そうでしたの」 - 3二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:46:54
彼女に差し出したティーカップを引き戻し、お茶菓子を差し出す。
「お茶菓子だけでもいかがです?」
「あんまり長居はしません……みなさんのお邪魔をするのも、悪いので……」
「お邪魔など、とんでもありませんわ。折角来てくださったのですから、少しゆっくりしていってくださいな」
こういった場に不馴れなのか、落ち着かないといった様子でそわそわする彼女がリラックスできるようにやんわり声をかける。
やがて彼女は観念したように、小さなクッキーをつまんで、その端っこを一口だけかじる。
「おいしい……」
「カワカミさんが用意してくださったお菓子ですわ」
「椅子の背もたれが折れてしまいましたわ……」
「そうね……姿勢はよかったから、次は少し力を抑えましょう」
テーブルの反対ではまだキングさんがカワカミさんの面倒を見ていた。
それはさておき、少しは落ち着いたか、ぽそぽそとお菓子をかじるカフェさんを見て、最初の質問へと立ち返る。 - 4二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:47:25
「美味しい紅茶の淹れ方を知りたいのでしたわね? 紅茶が苦手だというのに何故ですの?」
「私が飲むわけではなく……知り合いに淹れるために……すみません……」
「まあ、それは素晴らしいですわね」
うつむき気味に喋る彼女に、椅子をずらしてわずかに距離を近づける。
「謝るようなことではありませんわ。友人のために自身の苦手なものに触れようとすることの何が悪いんですの」
「……別に友人では……いえ、なんでも……」
あら?誉めたつもりだったのでしたが……。
カフェさんからの反応は鈍く、何か違っていたのかと少し不安になる。
だがこの程度で気後れするものか。
ティータイムにせっかくの珍しい客人がきたのだから、もっといろんな話をしてみたい。
「その方は、普段から紅茶を飲んでおられますの?」
「そうですね……割と頻繁だと、思います……」
「銘柄はどんなものを好まれているのかしら」
「そこまでは……今、マックイーンさんが飲まれてるのと……同じような色をしていたと思います……」
となると、ダージリンやアールグレイの類いだろうか。
「じゃあ、お砂糖などは?」
「入れますねぇ……」 - 5二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:47:49
彼女はあごに指を当てて、一つ一つ思い出すように質問に答えてくれる。
まあこれだけ分かれば、紅茶の淹れ方を教えるだけで問題はないだろう。
しかし今、私が知りたいことはそれだけではない。
「それで、どなたにご馳走なさるんですの?」
「え……それは……」
「それは私も気になりますわ!ご友人ではないのですわよね……そうなるとトレーナーさんかしら?それとも他に素敵な殿方が!?」
「ちょっと二人とも、カフェさんが困ってるじゃないの……別に言いふらしたりしないから、名前だけでも……」
いつの間に駆けつけたのか、カフェさんを取り囲むようにしてキングさんとカワカミさんが話題に参加してくる。
やはり私たちの年頃は、この手の話題が持つ魅力からは逃れられないものなのだろう。
三人からずいずいと詰め寄られて、彼女はすっかり翼を畳んだフクロウのように縮こまってしまっている。
「そ、そういうのじゃ……ありませんから……!」
俯いた顔は長い前髪に隠れていて表情は窺えないが、鼻先は心なしか赤くなっているようにも見える。
しかし複数人に攻め立てられ、小動物のように小さくなった姿をみていると、さすが可哀想になってきた。 - 6二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:48:18
「んんっ……まあそれはそれとして……この場所は教鞭を取るには少々不向きですわね」
一つ咳払いをして、自ら脱線させかけた話題を強引に戻す。
場所は中庭、テーブルにはティーセットとお茶菓子の山。
椅子の数も……先程さらに一つ減ってしまったこともあり、一度場所を移した方が勝手もいいだろう。
「キングさん、どこかいい場所をご存じないかしら?」
「そうねぇ……それじゃあ家庭科室を借りましょう」
「では、そうと決まれば早速移動しましょう。『善は急げ』ですわ」
「え……あ、あの……私は急がないので、皆さんはごゆっくりお茶を……」
せかせかと道具をまとめ始めた私たちを見て、カフェさんが申し訳なさそうに止めに入ってくる。
「なにをおっしゃいますの!このままではカフェさんのお飲み物もありませんわ!」
「そうですわ、お菓子だけでは喉が渇いてしまいます。場所を変えるついでに、コーヒーをお持ちになられたらよいではありませんか」
「でも……これは皆さんのお茶会では……」
彼女は小さな眉を八の字にして、困ったように手をわたわたと泳がせている。
どうにも自分がきたことと頼みごとで、私たちの邪魔をしてしまったのだと思っているらしい。 - 7二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:48:40
「おーっほっほっほ!一流は紅茶を嗜むにも場所を選ばないものよ!」
「キングさんのおっしゃる通りですわ。場所の違いなど些細な問題、家庭科室でお菓子と紅茶をいただくのもまた一興です」
でも……と渋るカフェさんにお菓子が積まれたバスケットを一つ手渡して黙らせる。
「それでは一つ荷物を運んでくださるかしら?カワカミさんには先生に教室の使用許可を取りに行って貰うので、人手がほしいんですの」
「……わかりました」
「お任せくださいまし!即行で許可を頂いてきますわ!」
「走らなくていいのよカワカミさん」 - 8二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:49:05
∠(0ヮ0´)¬
◎ 三 三
「おやぁ、カフェじゃないか。また珍しい顔ぶれと一緒だね」
「あらタキオンさん、ごきげんよう」
「ごきげんよう、お嬢様方」
校舎の廊下で出会ったのは、アグネスタキオン。
怪しげな薬を他人に飲ませて実験し、生徒会からも危険視されている危ない噂の絶えない問題児だ。
ちょうど今一緒にいるカフェさんが、お目付け役としてよく一緒にいるところを見かけることが多い。
「それは中々立派なティーセットだね。これからお茶会でも?」
「ええ、カフェさんも一緒ですわ!」
「……カフェが?」
カワカミさんの言葉に、タキオンさんは怪訝そうな顔をする。
確か二人は生徒会から空き教室を共同で借りているという話を聞いたことがある。
同じ空間にいれば、趣味嗜好もある程度は把握しているのだろう。
「私は……これからコーヒーを取りに行きますので……」
「なんだ、てっきり紅茶に興味を持ってくれたのかと思ったよ。私が何回誘っても飲んでくれないから、またカフェでも紅茶を美味しく飲める薬を作ろうと思っててね。どうだい?」
「いえ……別に……」 - 9二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:49:25
カフェさんはそわそわと体を揺すりながら私の後ろに隠れるように立ち位置をずらす。
ははぁ……?
何となく朧気ながらも全容が見えてきた気がする。
「そうそう、紅茶が美味しくなるといえば、このドリンクを一口飲んでから紅茶を飲むとなんとも不思議で味わい深い味が楽しめるんだが」
「まあ!そうなんですの?」
「いえ、いりません……危ないですから……触っちゃダメです……」
いかにも怪しげな色の液体が入ったボトルを受け取ろうとしたカワカミさんをカフェさんが素早く制し、伸ばされたタキオンさんの手を突き返す。
実に手慣れた動きで、これはタキオンさんを扱うプロなのではないかとさえ思う。
「なんだよぅ……ちょっとぐらいいいじゃないか」
「ほう、何がいいんだ?」
タキオンさんは唇を尖らせて抗議していたが、背後から現れた人影に口をつぐむ。
生徒会のウマ娘、エアグルーヴ副会長。
彼女の放つ威圧感は、離れた私たちも思わずたじろいでしまうほどだ。
「先程、反省文を提出したばかりのはずだがな……」
「……これは、健康美容を促進する栄養価の高い……」
「追加で反省文を提出してもらう必要がありそうだな?」
タキオンさんが言い訳を連ねながら首根っこを掴まれ連行されていく様子を私たちは見送った。 - 10二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:49:57
∠(0ヮ0´)¬
◎ 三 三
「さてと、それではいただきましょうか」
「すみません皆さん……私のために……」
「もう、それはいいと言ったでしょう?」
家庭科室の机の上に広げられたお茶菓子とティーセット、カフェさんのマグカップとドリップのコーヒー。
調理台が並ぶ家庭科室に、不釣り合いな絢爛な茶器とお菓子棚。
見ていておかしな組み合わせだが、たまにはこんな風に楽しむのもいい。
私たちの指導の下、カフェさんが入れてくださった紅茶をキングさんとカワカミさんへと差し出す。
「うん、実に良い香りね」
「頂戴いたしますわ!」
白いティーカップの中で湯気を立てながら、柔らかに揺れる紅いお茶を一口啜る。
美味。
お茶菓子の甘さが紅茶のほのかな苦味を引き立て、逆もまた然り。
爽やかな香りも相まって、口の中を鮮やかな彩りで楽しませてくれる。
「すばらしいお紅茶をありがとうございます」
「皆さんが親切に教えてくれたお陰です……」
少し照れ臭そうに顔を伏せながらも、その口角がかすかに上がっているのは隠しきれていない。
今まで彼女との付き合いはあまりなかったが、人付き合いが嫌いだったり苦手というよりは、積極的ではないだけなのかもしれない。
「そうですわカフェさん」 - 11二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:50:54
先程の廊下での出来事を思いだし、ふと思い付いたことを彼女に提案する。
「今度はカフェさんが私たちにコーヒーの入れ方を教えてくださる?」
「私が、ですか……?」
「まあ!それは素敵なアイディアですわね!」
「それは……構いませんが……」
「決まりね。来週の休日なんてどうかしら?」
こうして集まる仲間が増えるのは楽しいものだ。
まだ少し戸惑い気味の彼女も、顔色は悪くなく嫌々という風にも見えない。
「それと、よければタキオンさんも誘ってみてくださる?」
「……え?」
その提案に、彼女は全くの予想外といった様子できょとんと目を丸くしている。
「な……なんでタキオンさんを……?あの人は紅茶好きでコーヒーは苦手なので……」
そこまで言うと彼女は、ハッとしたように口を手で覆う。やはり。
「紅茶もコーヒーも、一緒に楽しめば良いのですわ。今日の紅茶をタキオンさんにご馳走すれば、きっと喜んでくれますわよ」
むすっとしたように唇を尖らせて頬を紅くしている様は、普段のミステリアスな雰囲気を微塵も感じさせず、なんとも可愛らしい姿だ。
やがて観念したらしく、彼女は一つ息を吐いて小さく頷く。
「……わかりました……一応、声をかけてみますけど、期待しないでくださいね……」
「ええ、無理にとは言いませんわ」
廊下でのタキオンさんの表情を思い出す。
一つ増えた来週の楽しみを胸に秘め、残りの紅茶が冷めないようカップを口に運んだ。 - 12二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:00:58
和やかな人間関係が非常に良き
- 13二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:21:35
遠回しなタキカフェですねぇ
- 14二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:55:32
これはカフェがいじらしい
- 15二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 01:30:57
紅茶とコーヒーをそれぞれ入れてあげるといいですねえ