千羽鶴【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:21:29

    ぱたぱたと廊下を早足で駆け抜ける。
    自分のネコ目でつぶさにあたりを見回してもどこにもいない。
    今日ばかりは学園の広い校舎が恨めしくなる。
    階段を降りてくる音が聞こえた。
    もしや、と思って音の方向を向くがそこにいたのは見慣れたボブヘアだった。
    「キング見つかった?」
    「ううん~、ほんとどこ行ったんだろうねぇ~」
    相方がおっとりとした声のまま首をかしげるとボブヘアが揺れた。

    オフのはずのキングを遊びに誘おうと寮の部屋を訪れたのだがおらず、スマホにも連絡がつかなかった。
    なにかあったのではないかと二人で探し回っているのだが一向に見つかる気配がない。
    さすがに大人たちに相談したほうがいいのだろうかと思い始めていると。

    「痛っ……!」

    廊下の奥からかすかに声が聞こえてきた。
    顔を見合わせる。
    「ねえ、今のってぇ~……」
    「キングの声だよ!」
    二人で廊下を駆け抜ける。
    声が聞こえたのは学園の奥まったところにある空き教室からだった。
    教室の扉を開けると隅の席で折り紙に埋もれているキングがいた。
    「あなたたち、どうしてここに……」
    「それはこっちのセリフだよキング!」
    キングの席の隣にはたくさんの折り鶴が並べられている。
    そしてキングの指は折り紙で切ってしまったのか絆創膏が巻かれていた。
    「キングのスマホにメール送っても返信なかったからぁ~」
    「えっ、そうだったの!?」
    どうやらかなり集中していたらしい。

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:21:58

    私は机の上に置かれた折り紙を一枚取って折りはじめた。
    「あなた、なにを……」
    「千羽鶴でしょ?ケガをしたあの子たちに贈るやつ」
    キングが押し黙る。
    手の中の折り紙はあっという間に折り鶴に変わった。
    出来上がった折り鶴をキングに差し出す。

    「キングの大切な人なら、私にとっても大切な人だよ。だから私にも折らせて」

    丸くなっているキングの緋色の瞳に私のネコみたいな目が映っている。
    ボブヘアを揺らしながら相方が折り紙を取った。
    「私を仲間はずれにしないでほしいんだけどぉ~?」
    「あはは、ごめん。“私たち”だね」
    キングがうつむきながらつぶやく。
    「……ありがとう、二人とも」
    ぽたり、とキングの手に雫が落ちた。

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:22:16

    突然教室の扉が開く。
    廊下から空色の髪のウマ娘がひょっこりと顔をのぞかせた。
    「や~っと見つけたよキング~」
    「す、スカイさん!?」
    キングがあわてて目元をぬぐう。

    「メールしても全然返信来ないんだもん」
    「あ、スカイさんもだったんですね」
    「……毎回思うけど、なんでキングにはタメ口で私には敬語なのさ」
    「だってスカイさんは先輩じゃないですかぁ~」

    スカイさんはなぜか困ったように頬をかいた。
    そしてスマホを取り出してなにか打ち込んでいる。
    「なにしてるんですかスカイさん?」
    「ちょっとね~」
    スカイさんはスマホをしまうと椅子を持ってキングの隣に座った。

    「キング、私にも一枚ちょうだい」
    「……あなたも折ってくれるの?」
    「当たり前でしょ」
    「……ありがとう」
    「それに鶴を折ってるのは私たちだけじゃなさそうだしね」
    キングが首をかしげると同時にまた教室の扉が開いた。

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:22:42

    「キングー!一人で千羽鶴なんて水臭いデース!」
    「セイちゃん、連絡してくれてありがとう!私たちも一緒に折るよ!」
    飛び込んできたエルさんとスぺさんはすでに一つなぎになった千羽鶴を何本か持っていた。
    続いて入ってきたグラスさんは袋詰めの折り紙を空いている机の上にどさりと置いた。
    そのままキングに歩み寄る。

    「グラスさん……」
    「キングちゃん、あの子たちは私にとっても大切な子です」
    だから、とグラスさんはキングの手を取った。

    「一緒に思いを籠めて折りましょう。一人よりも二人、二人よりたくさん、ですよ」

    キングがぎゅっとグラスさんの手を握り返す。
    頬にはまた雫が流れ落ちていた。

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:22:58

    三度教室の扉が開く。
    「わあ~!人がいっぱいだねえ」
    「えっと……ライスたちお邪魔、かな?」
    「ライスさん、おそらく彼女たちの目的は私たちと同じはずです」
    入ってきたのは高等部のマチカネタンホイザ先輩、ライスシャワー先輩、ミホノブルボン先輩だった。
    三人ともエルさんやスぺさんと同じように折り鶴の束を持っていた。
    なんで高等部の先輩たちが、と思っていると見知った顔が入ってきた。

    「フラワーちゃん!」
    「お二人ともどうして……ってそっか、キングさんと仲いいですもんね」
    「むしろフラワーちゃんがなんで高等部の先輩と一緒に~?」
    「もちろんフラワーさんが私のライバルだからです!」

    教室に堂々とした声が鳴り響く。
    声だけでわかる、サクラバクシンオー先輩だ。
    キングは涙の跡もそのままにぽかんとしていた。
    バクシンオー先輩はキングのところまでまっすぐ歩み寄り、グラスさんの手の上に自分の手を重ねた。
    「キングさん!さぞ心配していらっしゃることでしょう!気持ちは痛いくらいにわかりますとも!」
    桜色の目をいっぱいに開いてずいと身を乗り出すバクシンオー先輩。

    「でもきっと大丈夫です!この私の……いえ、“私たち”の後輩なんですから!」

    理屈も減ったくれもない言葉。
    でもバクシンオー先輩の口から出てくると不思議とその通りだと思えてくる。
    グラスさんとバクシンオーさんの手に包まれたキングの手が震える。
    「……ありがとう、ございます……!」
    なんとか絞り出した声はさらに震えていた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:23:23

    「おい、お前たち」
    扉の外から声が飛んできた。
    声のほうを向くと腕を組んだエアグルーヴ副会長が立っていた。
    「……空き教室は勝手に使っていい場所ではないぞ」
    思わず私はグルーヴ先輩に駆け寄ってすがりついた。
    「す、すみません!でもこれはキングの……!」
    グルーヴ先輩がため息をつきながら二枚の紙を取り出した。

    「……ここの使用許可書と寮への門限超過証明書だ。お前たちの名前を書いておけ」

    一瞬の静寂ののち、歓声が上がった。
    みんなが紙に群がっている間にキングがグルーヴ先輩に頭を下げる。
    「ありがとうございます、エアグルーヴ先輩」
    「……礼なら彼女に言え」
    グルーヴ先輩が扉の陰に隠れているウマ娘を引っ張り出す。

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:23:55

    「カワカミさん!?」
    驚いて声を上げたが、カワカミさんはもじもじとするばかりだった。
    「キングが一人で千羽鶴を折っているところを見たらしくてな。自分も手伝おうと生徒会室まで許可書を取りに来たんだ」
    「その……二人で折ってもえげつない時間がかかると思って……」
    「カワカミ以外にもキングを手伝おうとするものがいるだろうと思ったが、まさかここまでとはな」
    グルーヴ先輩が少し肩をすくめる。
    なんだか嬉しそうだった。

    当のキングはうつむいていた。
    「その、キングさん……ごめんなさい勝手なことを、ってひゃあ!?」
    キングはカワカミさんに思い切り抱きついた。

    「ありがとう……!みんな、ありがとう……!」

    ぼろぼろとカワカミさんの肩で泣き崩れるキング。
    カワカミさんが顔を赤らめながらこちらに助けを求める視線を送ってきたが、私たちは親指を立てて見守ることしかできなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:24:20

    私は教室を見渡した。

    「まったくキングってばあんなに泣いちゃって」
    「キングと連絡取れないってすごく動揺してたセイちゃんが言いマスか、ってイタタタ!?」
    「エル、知らぬふりをするのも友情ですよ」
    「キングちゃん、元気になってくれたかな?」

    「がんばって折るぞー!えい、えい、むん!」
    「オペレーション『千羽鶴』を実行します」
    「いえブルボンさん!1000×3ですから三千羽鶴ですよ!つまり思いも三千倍です!」
    「えっと……うん、そのくらいの気持ちを込めて折るね!」
    「みなさん手を切らないように気をつけてくださいね。絆創膏は私が持ってますから」

    「はわわわ……ど、どうすればいいんですの~!?」
    「しばらくそのままにしておけ。泣き止む一番の方法は気が済むまで泣くことだからな」

    こんなにたくさんの人がキングのために集まってくれた。
    そう思うと胸が熱くなってしまって。
    「……あの子たちに私たちの想いが届くといいねぇ~」
    ボブヘアを揺らしながら相方がつぶやく。
    「届くよ、きっと」
    隣の彼女がにこりと微笑むとまたボブヘアが揺れた。

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:26:05

    キングを書きたい

    キングの周りの子からのキングを書きたい

    ピクシーナイトと福永祐一騎手の一日も早い回復を祈りたい


    以上をいっぺんにまとめた結果こうなりました

    お目汚し失礼しました


    よろしければこちらもどうぞ

    書いたSSスレをまとめたもの|あにまん掲示板月ごとでまとめるより思い立ったら都度整理してまとめたほうが見やすい(主に自分が)と思ったので以下のスレにまとめてある分も入っておりますのでご留意くださいhttps://bbs.animanch.com…bbs.animanch.com
  • 10二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:42:57

    SS自体は良い!すごく良いんだが…
    あの事故を絡められるとどうしても便乗に見えてしまうな

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:47:01

    >>10

    おっしゃることはごもっともです

    でも、自分なりになにかを表したいと思ってこれを書きました

    やましい気持ちは全くありません

    もし気に障るようでしたらこのスレを報告したり、管理人さんにお問い合わせをしていただいて構いません

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:50:08

    作品で気持ちを表明するってのは別に構わないんだ だから俺は良いと思うし何もしないけど、ちょっと不快に思う人もいるかもしれないから覚悟しといてねって話だな

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 00:54:41

    とりあえず一言言わせてもらうと



    俺は好きだよ♡
    こういう発散の仕方もあるんだし俺は否定せーへんよ、追悼イラストとかも許せる人やし

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 03:16:02

    上手く言えないけどこういうの好き

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