【SS】思い出の音

  • 1二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:30:38

    「今日はそろそろ終わりにしようか」

    いつもの昼下がりのことです。
    今日もライスは一生懸命トレーニングをしました。
    そんな時、メニューをまだ終えていないうちにお兄さまから声がかかりましたのでライスは不思議に思いました。

    「お兄さま、まだ全部終わってないけどいいの……?」

    「うん、あまりに暑いから大事を取ってこのあたりにしておこう。ライスになにかあってはいけないし」
    「それにほら、見てごらん」

    暑い日々が続いておりましたが、今日は特別に気温が高かったのです。
    溶けてしまいそうな暑さでした。
    見ると、周りの子たちもトレーナーと相談しながらそれぞれ片付けを始めておりました。

    「ね?みんな一緒だから大丈夫だよ」
    「それに、今日できなかった分はまた予定を組み直せばいいからね」

    お兄さまはそう言ってライスを安心させました。

  • 2二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:34:41

    トレーナー室に戻って、空調と扇風機をつけました。
    蒸し風呂のような部屋の中を涼しい風が巡り始めて、2人はようやく一息つけたのでした。
    それからお兄さまは、ライスにここでゆっくり休んでいてねと伝えるとトレーナー室を出ていきました。
    ぽつんと部屋に残ったライスは、

    「お兄さま、どうしたんだろう……お外はもっと暑いけど大丈夫かな……」

    そわそわしながら、それでもお兄さまを待ちました。
    1人でいる時間はとても長く感じられましたが、しばらくすると部屋の外から声が聞こえてきました。

    「ライス、ただいま。悪いけどドアを開けてもらってもいいかな?」

    ライスが慌てて駆け寄ってドアを開けると、両手いっぱいに荷物を持ったお兄さまが立っています。

    「ありがとう、助かったよ」
    「おかえりなさい……わあっ、荷物がいっぱいだ」

  • 3二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:38:54

    ライスはお兄さまを手伝って、荷物をすっかり降ろしました。
    手さげ袋からは少し汗をかいたラムネと氷が顔を覗かせています。

    お兄さまはてきぱきと持ってきた桶に水を張って、それから氷を少しずつ入れました。

    「お兄さま、そのお水はどうするの?」
    「これはね、足湯……じゃなくて足水、でいいのかな」

    そう言ってお兄さまは微笑みました。

    「ライスもトレーニングの終わりにアイシングをするでしょ?あれと似ているかな」
    「これは涼を楽しむ為のものだけどね。よかったら試してみて」

    「ライスの為に用意してくれたの……?ありがとう、お兄さま」

    ライスはお礼を言ってから、さっそく足水を試させてもらいました。
    足をよく拭いてから、ゆっくりと桶に浸します。
    ひんやりとした水が足を心地よく包みました。
    汗がすうっと引いて、体が癒されていくようでした。

  • 4二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:42:36

    そんな足水を楽しむライスに、お兄さまはラムネを手渡して2人は乾杯をしました。
    しゅわしゅわと口の中で泡が弾けて踊ります。
    爽やかな炭酸が喉を潤すと、また1つ夏の訪れを感じました。

    さっぱりした心地でのんびりしていると、お兄さまが言いました。

    「そうだ、もう1つライスに渡したい物があるんだよ」

    カバンから大切そうに箱を取り出すと、開いて中身をライスに見せました。

    「あっ、風鈴だ!」

    ライスは目をきらきらさせて箱を覗き込みました。
    お兄さまが丁寧に取り出して見せてくれます。

    それは青いバラの模様が描かれた可愛らしい風鈴でした。
    透き通っていてとてもきれいです。

  • 5二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:48:15

    「この青いバラを見ていたらライスの顔が浮かんできたんだ。それで思わず買っちゃって」
    「もしよかったら貰ってくれたら嬉しいな」

    それを聞いたライスの耳としっぽが嬉しそうに揺れました。

    「素敵なプレゼントをありがとう……ライス、宝物にするね」

    そしてライスは思いついて、お兄さまにお願いをしました。

    「ここのお部屋に飾ってもらってもいい?お兄さまと一緒に音を聞いてみたいの」

    それならばとライスから風鈴を受け取ると、お兄さまはよく見える場所に飾ってくれました・

    りーん。りーん。

    風鈴が透き通るような音を奏でました。
    2人はどちらともなく静かになってその音に聞き入ります。
    とても満ち足りた時間に思えました。

  • 6二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:53:47

    しばらく静かな時間を味わった後に、

    「えへへ……」

    ライスが不意に小さく笑いました。

    「あのね、お兄さまがくれたこの風鈴は、思い出の音になるの」
    「この音を聞く度にこれまでの夏を思い出して、これからの夏を想うんだ」
    「そう思ったら、なんだか嬉しくなっちゃって」

    「そう言ってもらえると、とても嬉しいよ。風鈴もきっと喜んでる」

    お兄さまは目を細めて言いました。

    「これからも、一緒に思い出をたくさん作ろうね」
    「うん!約束だよ」

    そうして2人はにっこり笑いました。

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:57:28

    暑い暑い夏の日の事でした。
    風鈴が小さく揺れて2人を見守っています。

    りーん。りーん。

    爽やかな余韻を残して、風鈴の音はライスとお兄さまの心に溶けていきました。


    おしまい

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:58:25

    ありがとうございました
    以上になります

  • 9二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 23:01:37

    爽やかで良いね…
    暑さと砂と赤因子に塗れた心が癒やされるよ……

  • 10二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 23:10:14

    夏の風を感じるさわやかなお話だった
    ああ現実もこんな涼風が吹いてくれれば

  • 11二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 23:19:40

    >>9>>10

    感想をありがとうございます

    暑い日々の中で少しでも癒やしになりましたら幸いです

    少しは涼しくなってほしい今日この頃

  • 12二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 23:57:43

    素敵な作品でした
    木陰でラムネを飲みたくなる...

  • 13二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 00:42:57

    >>12

    ありがとうございます

    実はラムネを久しぶりに買って飲んだ時にこれを思いついて書きました

    瓶を傾けた時にビー玉がコロコロ鳴るのがまた懐かしいような気分でした

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