- 1二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:50:52【SS】或るウマ娘の死【カフェトレ怪奇】|あにまん掲示板カフェトレ+カフェの怪奇モノ的な長めのSSです。まだ書き終わってないですが完走できるように頑張りますまたショッキング、センシティブな表現が入る可能性があります。ご了承くださいbbs.animanch.com
こちらと同じ世界観に当たりますが、前作を読まずとも問題ないと思います。
- 2二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:51:27
「赤い手紙を拾ったら自分にそっくりなウマ娘が出てきて、面倒なことを代わりにやってくれる。しかし最後にはなり変わられてしまう。ってなんか凄いそれっぽいというか」
彼はシュガースティックがふんだんに入ったコーヒーを傾けた。向かいに座ってげっ歯類のようにマフィンを齧っているのは小柄な人間の女性。アグネスタキオンのトレーナーで、トレーナー仲間からは「モルモット」「ネズミ」などと呼ばれている。
「都市伝説ってそういうものじゃない?」
「まあ、そうだけどね」
モルモットが彼の元へ来たのは、とある都市伝説についての調査を依頼する為だった。実害が出ているわけではないが、彼女が担当するアグネスタキオンは研究者でありながら、オカルトへの興味が強い。彼女自身に全く霊感が無いこともあって、自分の知らない可能性としてそういう超自然的な物を見ているのだろう。
そして、彼とマンハッタンカフェは心霊現象に関しては専門家と言っていい。事実、こうしてオカルトの真偽を尋ねられるのも初めてではなかった。
「しかし、そんな話は俺は初耳だったなあ」
「高等部より中等部で流行ってるらしいよー。タキオンが聞いたのも、スカーレットちゃん経由みたいだし」
「なるほどねえ……カフェはどう思う?」
彼の言葉に、別の席でコーヒーを飲んでいたカフェはその手を止める。
「都市伝説というものは……真実がどうであるかというよりも、真実になってしまうことそのものの方が危険です。悪戯や冗談でも……一度そういうことが起きてしまえば、遡って実在することになる」
「つまり、噂は噂のまま風化させないといけないってことか」
「はい……そして、その場合。私達が動くのは悪手ではないでしょうか」
「どういうことー?」
「火のない所に煙は立たない、ってことさ」
モルモットの疑問に、代わりに答えたのは彼だった。 - 3二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:52:22
「俺達は心霊能力があるってことで多少知られているからね。俺達が調べているってことになれば、もしかしたら本当なんじゃないかと思う人が現れてもおかしくない」
「あー、警察がうろうろしてたらなんか事件あったのかな? って思うもんね」
「そ、だから実際に何かことが起こるまでは関わらない方が良い。タキオンさんからしたら面白くないかもしれないが」
警察が居るから事件が起きる、と考えると奇妙な感覚だが都市伝説とはそういうものだ。彼らは事件を未然に防ぐスーパーマンではない。
「ま、タキオンさんにはそう伝えておいてくれ」
「おっけー。あ、幽霊さんこのマフィン後で作り方教えて。タキオン好きそう」
「レシピ送っとくよ」
「ありがとー」
それじゃあお邪魔しましたと、トレーナー室から去っていくモルモットの後ろ姿を眺めながら、彼は柔和な笑みを崩し、険しい顔つきに変わった。
「カフェ、実際のところはどう思う?」
彼だけに伝わるように、カフェは言葉を濁していた。けして嘘を言ったわけではない。モルモットと、アグネスタキオンに対してはあの返答で合っている。
「私が思うに……成立初期の話にしては作りがしっかりしています」
都市伝説というものは、渡り歩いていくことによって尾ひれがついていくものだ。地域によっても僅かな違いが生まれ、スケールはどんどんと大きくなっていく。
きっかけはまだ分からないが、トレセン学園の中等部という極小規模なコミュニティで発生したばかりの噂にしては物語性が強過ぎるとカフェは感じていた。 - 4二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:52:54
「由来としては赤い手紙は冥婚文化……それも台湾で流行したものから来てるのかな」
彼は都市伝説を文節ごとに分けていく。一から百までオリジナルとは考えられない。それらには何かもっと古い由来がある筈だ。
「文化に流行なんてあるんですか?」
「冥婚、つまり死者と結婚させる文化は中国から東アジアの広い地域に存在するけれど、当然ながら地域によって詳細は違う。赤い手紙ってのは台湾特有のもので、成立としては近代のものではないかと言われているんだ」
未婚女性が死ぬと、その遺髪や財産を赤い封筒に入れ道端に放置する。そして、拾った人間の死者の伴侶とするのだ。台湾では一時期過剰に発生していたと言われ、一般に冥婚というものを知っている人はこの台湾文化のことになるだろう。
「それがどうして結婚相手ではなく自分になったのか」
「もう一人の自分……ドッペルゲンガーというものもありましたよね」
ドッペルゲンガーは西洋を中心とする概念で、一般に言われる要素といえば世界にそっくりな人間は三人いる。そして、そっくりな人間同士が出逢えば片方が死ぬ、といったところだろうか。
「私のドッペルゲンガーなら……寮によく出るそうですが」
「それが関係あるかは俺には分からないけど……」
ウマ娘寮の怪談話は流石に管轄外である。
「後は、自分の代わりにやってくれる。って奴だけど」
「ドッペルゲンガーを題材にしたホラーやミステリだと、そういう属性が付与されることもありますよね」
「逆に言えば、フィクションのみに使われる記号で、実際のドッペルゲンガーとは乖離しているんだ」 - 5二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:53:28
「現象としてのドッペルゲンガーは、自己像幻視と呼ばれる、自分を見てしまうという行為。それから他者によって別地点で同時に観測される別人物のどちらかを指す。どちらも当人に直接の干渉はしない」
「つまり……フィクションから噂話が作られていると」
「都市伝説ならそういうこともあるだろうけど……冥婚と結びつく理由はさっぱりだね」
「そうですね……やはり誰かが意図的に作って流布しているのではないでしょうか」
薀蓄から軌道修正する。誰かが意図的に都市伝説を作って流布しているのではないか。そう仮定を立てたなら、必要なのはホワイダニットだ。
「ただほらを吹くにしては広まってないよね」
「作成者の交友関係が狭い可能性もありますが」
「その推論はかわいそうだから一旦横においておくとして」
もしそうだったとしたら、特に悩むこともない。
「おそらくは、マッチポンプが目的だろうね」
風説を流布し、十分に広まったところで手品か演技で再現することによって、幻想を現実に昇華する。噂を知る人間を減らしているのは、実際に再現を見た割合を大きくする為か。馬鹿らしい試みと言えばそれまでだが、彼らはそれで実際に怪異として成立した例を知っている為、笑い飛ばすことはできなかった。
「だとすると、元々怪異に造詣の深い人の仕業でしょうね。そうでなければ、わざわざこんなことをしない」
「それが誰か……までは分からないよなあ」
放置しておけばおそらく良くないことが起こる。しかしおおっぴらに動けば計画を加速させてしまう。動きにくいとこの上ないと彼は嘆く。
それから赤い手紙が見つかったのは、二日後のことだった。 - 6二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:54:09
「ちょっとこれは……不味いかも」
見つけたのは高等部のとあるウマ娘らしかった。噂のことを知らない彼女は、誰かの落とし物かと思い拾ってしまったのだという。そして、それを聞いた中等部の後輩が、彼女に噂のことを教えてしまった。
「これは……呪いのやり口ですね」
カフェも深刻な表情で呟く。後出しで噂を知らされたウマ娘は、どうやっても忘れることはできないだろう。その不安がいつしか実在の恐怖になるか、或いは真に至らずとも精神を摩耗させる。呪いは相手に知らしめて初めて効果がある、という奴だ。
「ああ、それに。おそらくは無差別だ。愉快犯だったら現場でも抑えない限りどうにもならないぞ」
考え得る限り最悪の事態だった。マッチポンプだと思っていたものが、実際には無差別殺人のようなものだった。この呪いが伝播する前に、何処かでせき止める必要がある。しかし、犯人に心当たりがつくはずもない。
「手紙を拾ったという子に付き添って守りますか?」
「いや、それをすれば逆効果だろうし、万一守れたとしても、次の被害者に向くだけだ」
何か良い手はないか、考える。
「手紙には何かついてたんだっけ」
「いえ……文面も無かったそうです。ただ、少し香水の香りがしたと」
「香り……そうだ。良い事を思いついた。カフェ、少し嫌な気持ちにさせるかもしれないが聞いてくれ」
彼のアイデアを聞いて、カフェは珍しく彼に毒吐きたくなった。 - 7二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:55:34
結果として、都市伝説はすぐさま廃れていった。赤い手紙を恐れる子も、もう一人の自分に怯える子ももう居ない。
「やーだなぁ。面白いことになると思ったのに」
夜の教室でつまらなさそうに、少女は呟いた。トレセン学園の制服を着てはいるが、ウマ娘ではない。
「それに、よく私を見つけられたね」
「……あの子達は、意外と新入りに目敏いので」
くるり、くるりと少女は回る。いつの間にかそこにはウマ娘の耳が生えていた。手品でも演劇でもない。怪異がそこにあった。
「しかし……解せません。あなたは……何者なのですか」
カフェの心中は困惑で満ち溢れていた。人であり、人ではない。ウマ娘であり、ウマ娘ではない。怪異であり、怪異ではない。カフェの知るどれにも当てはまらない。
彼を連れてこなくて良かったと、カフェは確信した。この少女と相対できるのは自分だけだ。聡い者程、少女の正体を暴こうとして混沌に沈む。
「私は、ワタシだよ」
「そうですか」
それが答えなのだろう。それだけ分かれば十分だ。
「では、あなたにはこの学園から去ってもらいます」 - 8二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:57:30
「正直、遊び足りないけれど。この学園で君を相手にするのは骨が折れるね」
少女は降参とばかりに両手を上げる。
「分かったよ。ここからは去ろう」
「本当は、金輪際こんなことをしないでもらえれば良いのですが」
「それは無理。だってワタシだもの」
けらけらと笑う。カフェの表情が険しくなる。
「やる? 確かにワタシは君には勝てないかもしれないけど。君だってワタシに勝てるとは思っていないんじゃないかな」
「……ええ、お互いに少なくない被害を負うでしょう」
「だから、私はここには関わらない。君もワタシには関わらない。それで手打ちにしないかな?」
「……分かりました」
苦渋の決断ではあった。しかし、ここで事を大きくして彼女を止められなかった場合がカフェにとって最悪だ。妥協の必要があった。
「じゃあ、すぐにここを出ていくよ。ああ、そうだ。最後に君の名前を聞いても良いかい?」
「……あなたが先に名乗るのなら」
「なんだ、けちん坊。仕方ないね。■■■■と呼んでよ」
それは人間には到底発音できないだろう音だった。聞き取ろうとすれば、それだけで精神を病んでしまいそうな耳障りな音だ。
「……カフェと呼んでください」
「それじゃあ、カフェ。二度と会うことはないだろうけど。さようなら、良い人生を」
瞬きをする間に少女は消えていた。 - 9二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:58:05
「やあカフェ! 次は何の薬を試そうか。ウマ娘用でモルモットくんにはとても試せないような薬が幾つもあるからねえ!」
「……トレーナーさん」
「ごめん……本当にごめん。耐えて」
アグネスタキオンに捕まってカフェは助けを求めるように彼を見る。しかし、カフェを売った身としては目を背けるしかない。
「急に赤い手紙をばら撒いてくれーって結局なんだったんです?」
珍しくタキオンの被害から逃れているモルモットが彼に尋ねる。
赤い手紙が見つかってすぐ、彼はタキオンとモルモットに連絡して、同じような赤い手紙を学園中にばら撒いてもらった。それには、薬品の匂いがついていて、タキオンの仕業だと言えばすぐに皆が納得するような代物になっていた。
「うーん、簡単に言えば噂の上書きって奴かな」
その結果、元々の都市伝説はタキオンが実験用の手紙を拾わせる為に流した悪質なデマということになった。そうすればドッペルゲンガーに怯える人も居なくなる。居なくなれば現実にはならなくなる。
もちろんタキオンの評判は悪くなったのだが、彼女なら気にしないだろう。だが、見返りもなく手伝ってくれる筈もない為。「カフェを一日自由にできる券」を渡したのだった。
しかし、下手人は結局なんだったのか。カフェに聞いてもはっきりとした答えは返ってこない。理解できないものは知らない方が良い、と言われてしまえば食い下がることもできない。
「無力だなぁ」
彼は枯枝のような腕でコーヒーカップを傾けるのだった。
『文に、知る』Fin - 10二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 12:59:32
- 11二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 13:00:50
カッフェ可哀想
面白かった! - 12二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 15:50:26
あげ
- 13二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 19:35:52
あげ
- 14二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 21:08:33
あげ
- 15二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 23:55:24
あげ
- 16二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 10:04:01
面白かった。
妖怪みたいなもんか。くわばらくわばら。