え゛っっ! たきなの京都時代の友達?! part3

  • 1二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:00:31
    え゛っっ! たきなの京都時代の友達?! part2|あにまん掲示板注意・オリキャラが出るよ・13話の後、日本帰国後もリコリスやってるよ・割とひどい目に遭うよhttps://bbs.animanch.com/board/1458174/全スレまでのあらすじ・たきなと千…bbs.animanch.com

    注意

    ・オリキャラが出るよ

    ・13話の後、日本帰国後もリコリスやってるよ

    ・割とひどい目に遭うよ


    前スレまでのあらすじ


    ・たきなと千束が京都DAからの依頼を受ける

    ・その依頼は京都DAに宛の書類を別の人から受け取って、渡すこと

    ・しかしその書類入れには爆弾が入っていて二人は京都DAを爆破しようとした重罪人として

    取り調べを受けることになってしまう

    ・たきなの抵抗によって、たきな自身がこの捜査に加われば少しは慈悲を加えるというDAから譲歩を引き出す

    ・たきなは作戦の指揮官として隊を率いるが命令通りにできず、結果は失敗という扱いになる

    ・たきなの身柄は京都に移されることになってしまった

  • 2二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:02:21

    ――

    「たきな、呼び出しちゃう?」
     隣に居るはやせに促されて携帯を見る。控えめなコール音は標準設定。
     三コールに達する前にたきなは取る。
    「はい。たきなです」
     低い声。不愉快そう。滅多に感情を表さないたきなにしては珍しい。
     そのことで、はやせは理屈ではなく感覚でたきなの置かれている状況を真に理解した。

    「ほな……行ってらっしゃい、かな?」
     はやせは隣に座っていて、少し小さな溜息を吐いているたきなをちらっと見遣る。
     任務と聞いて、すぐに待機状態にならないたきな、俯きながら重い体を起こすようだ。
     あんなにも華奢な体であるのに全てが鉛でできているよう。
    「あなたも呼ばれてますよ、はやせ」
    「えっ?」

    「……で、なんで銃弾を回収した後に報告しなかったんや?」
    「ア、イャ……ェ……」
     はやせはその目をキョロキョロさせて、隣に居るたきなに助けを求める。
    ここは管理官室。目の前に座った女性係官がはやせを胡散臭そうに眺める。
    たきなは助けを求められていることにすら気づいていない様子で、「銃弾を回収したんですか? それはお手柄ですね、なぜ提出していないんです?」
     と追い打ちをかける。

  • 3二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:03:10

    >>2

    「たきなぁ……いえ、故意に不提出なわけではなくてですね、うっかり忘れてただけです。マジで」

     これどうぞっ! とポケットから取り出したビニール袋を管理官の机に載せる。

     管理官は呆れ顔でそれを受領する。

     港で屯ろしているチンピラどもから平和裏に回収した銃弾一発。

     銃自体は海上保安庁の管轄下に入ってしまったため、手がかりの一つとして重要なのだ。

    「滝川はやせは……まったく、噂に勝る勝手な奴やなあ」

    「あは、あはは……すみません」

     係官はキッとはやせを睨みつけてその銃弾に目を落とす。

    「なんだこれ?……弾頭が青いな」

     たきなもその言葉に反応して、思わず前に進む。

     この係官こそが、たきなを京都に引き戻した張本人で、本当はたきなとしては近寄りたくも無かろうが、弾頭が青いという不思議な情報に対する興味が勝った。

  • 4二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:03:50

    >>3

    「本当だ……青い」

    弾頭が青というか紺色。当然ながらこのような銃弾は普通には流通していないものだ。

    「あああ、そうなの珍しゅうて、たきなに見せたげよって思って」

     えへへ、と声を和らげるはやせ。

     和らげても係官の表情は強張ったまま。

     おそらく周囲の温度すら違うのだろう、無論はやせの周りは冷え冷えとしていて、係官は静かなる怒りで真っ赤であろうが。いいや、怒りが強すぎると青色に見えることもあるのだろうか?

     ガスの炎のように。

    「見せてもらってませんよ?」

    「たきな空気読んで!」

     がおっっ! と半分涙目になりながら抗議するが、たきなはきょとんとしながらその袋を係官の机の上に戻す。コトンという音がして収められる。


    「まあなんにせよ、この弾丸は鑑定に回すからはやせは帰ってよろしい。お前は証拠回収が巧いのだから提出さえしてくれれば完璧や」

     叱責し、その後に少し褒めるという仕草はDAの職員の基本技能だった。

     幼少期のリコリスたちにこのように振舞うと、どんなに手ひどく扱っても懐いてくるという知識体系が彼らの中にあり、最早意識などしていない。ごく自然に、呼吸するかの如くそれができる。

     特に、管理職についているような者はそれの熟練と言っても過言ではない。

  • 5二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:04:55

    >>4

    「あの! たきなは」

    「たきなはこれからまた別の作戦や、お前はお呼びじゃない」

     はやせは縋るようにたきなを、係官を交互にみつめる。

    「私はたきなの相棒やって長いんですわ、一緒に居たほうがよろしいんと違いますかね?」

    「たしかにサードの頃から一緒にやってきているようだな」

     いつの間にか握られていたタブレットの上には、たきなとはやせの身上書があって、その関係を閲覧している。

     解決した事件の日付、規模、成果などが事細かに記載されているそれを見ながら係官は暫し逡巡。


    「まあ、いいやろ、ただし行動を共にするかどうかはまた別途作戦を立てる必要がある。

    それでええな?」

    「わ? えっ、いや私もずっと一緒に居た訳やから頼んどるんですよ? またバラバラにされたら意味ないやないですか?」

    「はやせ、あんまり噛みつかないように」

     しらっとした目でたきながはやせを窘める。

    「はぁ?! たきなが言うか? いやそういう事やのうて!」

    「まあ、長いこと組んできた仲間なので、いてくれたら助かるかもです」

     たきなはさらり、とはやせの追及を避けつつ、係官にはやせの助けを求める。

     今回の作戦の指揮権は依然、たきなが持っていることになっている。

    その指揮官が欲しい、と言った人材だ。昔組んでいたこともあり、公式には断る理由というものがあまり見当たらない。

    「滝川はやせ……よいだろう。一人入れるも二人入れるも変わらんな」

     ああ、面倒くさ。という表情を隠さず係官は、はやせの作戦参加を認めた。

     しかし、心の中で絶対にはやせとたきなは離しておくべきだと、決めた。

    ――……

  • 6二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:06:09

    >>5

    ――……

    「今回は予めもっと情報を共有しておきたいと思いまして……」

     たきなは今度の作戦説明会を主宰しているが参加しているリコリスの士気は低い。

     ホワイトボードに見取り図を貼り、マグネットを駒代わりに作戦の説明を計画した。

     配布資料のような、紙の説明はなかなか用意できない。

     万一の流出をたきなは恐れた。なにをやっても上手くいかない日を厄日という。

    ――厄日が何日も続くの、厄週? 厄月?

     今資料を印刷したらどこかのはずみで流れてしまうのではないか? という嫌な予感が彼女を襲っていたのだ。

     尤も、リコリスは口頭での状況説明や、命令には慣れているからそこまで心配するべきこともないが。


    「たきなが指揮をするの、うち少し不安やわ。もう少し休暇を取ったらいかが? たきなも少しショックでしょう?」

    「士気が上がらん、指揮だけに」

     つまらん洒落を飛ばすぐらいに、この情報を面白く思ってないようだ。

    「ファーストが出払ってなきゃぁよかったんにな」

    「あれ、錦木のお姉さまはどうしたはるん?」

    「まだ取り調べられてるっちゅう話で、さすが東京のリコリスは口が堅い」


    「……いいですか? 話を続けます」

     集まった五人は口々に勝手な話を始めていて、たきなの話には興味がないようだ。

     ただ独り、前回の作戦でも一緒になったサードリコリスだけは俯きながらも静かにしていた。

     時折、たきなの説明した事柄をもごもごと口の中で復唱している。

     メモを取ることを許されていないとき、できないときはこのように覚える方法がありそれをしてくれていることにたきなは少し感じ入るものがある。

     無論、たきなを無視しているように振舞っているセカンドたちも、たきなが話していることは理解しているだろうからあまりうるさいことは、たきなは言うつもりもない。

    「信頼を失うことはこういうこと、全部わたしの所為」と受け止めている。

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:07:51

    >>6

    「いいですか? この八階建てビル全体がアジトです。倉庫や船とは違って出口が限定されてますから、出入り口を固めておけば負傷者も……減らせるはずです」

    「あんまり派手なことするとお客さんにバレるからなぁ」

     京都は観光地区、あまり派手な作戦を立てたり、動き回ると観光客にバレる。それも世界中から来ている人たちだ。一枚の写真や動画が撮られて拡散されると秒速で世界中に不審な情報が洩れる。

     ラジアータで対処するにしても、厄介事は避けたほうが良いのは当然だ。


    「まあ、お寺さん壊さんかったら問題ないでしょ」

     観光客の問題にも加えて、京都と奈良には共通の障害として非常に価値の高い建造物がそこら中にニョキニョキ生えていることもある。下手に発砲すると文化財の屋根瓦や塀が傷ついて、クリーナーでも対処のしようがないことにもなり得る。

    「今度は成功しましょうねー? たきなさん」

    「……っ勿論です」

     京都市内のある廃ビル、観光客の立ち寄る地域から一本道を外れると、それはある。

     

     大きくてそして不自然に静かだった。


    ――

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:08:33

    >>7

    ――

     小畑花子。DAの職員である。

     幼い頃はリコリスとして働き、使用価値が薄れた頃、情報部に転属となったよくある例だ。

     情報部もまた様々な小分類があり、燃料や食料を扱う需品科、車両の手配や整備を司る輸送科、武器に関する武器科、治療、健康管理を担当する衛生科などと豊富である。

     小畑はその中でも需品と衛生に携わる者だ。

     今日もまた現場で負傷したリコリスの情報を受け取り、一般車両に偽装した救急車を向かわせたり、診療情報を集積、分析しつつある。

     DAの中でも非常に役所然とした部署にいると言っていいだろう。

     

     基本的にDAで働く者は外界との繋がりは薄くあるべきとされていて、彼女も職場の敷地内の寮に住んでいる。が、しかしリコリスよりは民間人に近い生活も許されているため、任務の帰りにどこかへ寄り道をすることもたまにある。というか、そのような隙間の時間を縫わなければささやかな趣味の一つも満たせないとして半ば黙認されているというのが実情だ。

     尤も、多くの職員は元々リコリスである者で、外界と触れて楽しもうなどという精神性は少ない。


     しかし、彼女にはそうする理由があった。

     

     いくつかのお菓子を店で買い込むと、職場に帰って同僚に渡す。こんな些細なことで同僚は絆されるようなそんな職場だからだ。

     成人してからもリコリスであったころの習慣が抜けない彼らは、民間人のような生活を送りたいと思っていても上手く適応できない者も多く、こうやって人から貰う以外での調達が苦手であったり、避けてしまったりする。

     ただ、外界の楽しいこと、とりわけ美味しいものには餓えていたりするから、小畑の行動はよく歓迎される。外向的な性格はリコリスの頃は咎められることもあったが、職員に転じてからはこういう点が逆に高評価に至るのも不思議だと内心笑っていた。


     そして、彼女が折に触れて外出することを誰も疑問に思わなくなった頃――。

  • 9二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:09:15

    >>8

     彼女は外部との接触を開始した。それは世界一の天才ハッカーと自称する者。

     とある事件に関わった咎で獄に繋がれるも、いまだ処遇が決まりかねている者。

     あまりにも大事件過ぎて殆ど嘘しか公表されなかったあの事件に関係した者。


     そのハッカーと話すのは中々に骨が折れる。どのような口実をつけて面会すればよいのかと悩むところだ。

     しかし、そこはDA。元々犯罪者に人権などないと考えているところが幸いした。

     彼女のような一介の職員であっても「どうせ後で殺すのだからいいか」と言わんばかりにあっさりと適当な理由をでっちあげた書類を読むだけで通してくれた。

     そこは組織に感謝である。


     地下の牢獄という非常に典型的な幽閉場所。

     牢の向こうに彼は縮こまっていて、小畑は牢の外に椅子を用意して座る。


     そこで、核心に触れるような質問をする。が、返答としては彼女の期待したものではなかった。

     彼自身も「知らない」とか「分からない」という答えで、何度聞いても、角度を変えて質問しても得られるものは同じだった。

     ならば、と柔軟な頭を使って考える。

  • 10二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:10:32

    >>9

     ――探し出せるか? 真島を。


     その質問に彼は、頭を抱える。曰く「探し出してどうする」と。

     そもそも生死が不明なのに探し出そうとするのは無謀だし、あんな状況下に置かれて生きていると想定するのは誤りだと思うと彼は思っているし、そう抗弁するしかない。

    「あいつは確かにすごく頑丈だけど、流石にもう死んでると思う」

    「でもまだ死体は回収されてないわ、だったら生きてるってことでしょ?」

    「そんなのは分からない、単に行方不明ってことだろ、外国にでも逃げてんじゃないの。元々世界を股に掛けるテロリストなんだから」

    「……確かにそれもあるか」

     小畑はつい、と視線を逸らす。これ以上訊いても無駄かと思い、去ろうとするが、男が呼び止める。

    「待ってくれ! 話はしたろ? 減刑してくれ」

     減刑? 何を言っているのか分からない、という風に首を傾げる。

    「……特に何も得られなかったし」

    「分からない、ということが分かったんだから収穫の一つだろ?!」

    「うーん、なるほどねぇ」

     小畑は少し考えながら、彼の言い分もまた尤もかもしれないと思い直す。それにこいつは自称、世界一のハッカーだと言っているから後に便利に使えるかもしれないとして判断を保留する。

    「では今後の捜査に協力した成績次第かな?」

    「……クソ!」

     悪態をつきながらも、それしか頼りになるものはないから逆らうという選択肢が最早残されていない。

    「でも、優秀なハッカーには違いないわけだから暫く生きていてもいいかな?」

    「! 本当か?」

    「そうそう、一瞬とはいえDAのシステムを誤魔化したわけだからそれなりに優秀よね。そうだ、ウォールナットってどうなってるの?」

    「あ……ウォールナットか、まあウォールナットはまだ生きてる。あいつの所為で捕まってるんだからな」

    「あれこそ厄介だった。何度も侵入を許しているからシステム部署がどやされてんのよね」

    「だろう? ボクを生かしておかないとウォールナットに侵入されたときに対処できる人間が誰もいなくなるぞ!」

    「……それもそうか。殺処分はまだ保留にしておくように伝えておきますね」

    「ふぅ……死刑は回避したぜ」

    「死刑? いいえ、刑罰は人間に対して与えられるものです。あなたは現状、人間ではないので、殺処分ですよ」

     とだけ言い残し小畑は牢を後にする。

    ――

  • 11二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:11:47

    >>10

    ――

    「……例によってあなたは連絡係を務めてください。お願いしますね」

     たきなはサードに対してこの前と同じような措置を乞う。

     万が一ということも考えて想定よりも少し離れた場所に陣取らせる。たきななりのやさしさや気遣いではあるものの、根が戦闘民族である他のリコリスからそのサードが嘲笑される。


    「随分と目を掛けられてて羨ましい」

    「そんなんやったらいつまでたっても昇進が遠いわね」

     昇進や出世は概ねどの部隊でも重要視される。特に大型の作戦を成功させれば高評価も得やすくなる。

     今回の作戦もそういった、大型の、難度の高いものに分類されているところから、士気もなかなかに高かった。

     それゆえか、前回も失敗しているたきなに指揮権がまた与えられていることに対するやっかみもまた露骨に示されるようになってしまっている。

    「……昇進の為にやってるわけじゃないでしょう、行きますよ」

     たきなは窘めるのに精いっぱいでさっさと行動を促す。

  • 12二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:13:24

    >>11

    夏の京都は暑い。夜になってもそのままだ。寧ろ湿気が地面から上ってくるかのようで余計に不快だった。

    「……静かですね」

    そのビルは明かりがついているのに、異様なまでに静かでそれが隊員の緊張を呼ぶ。

    「あちらさんもわかってるってこと?」

    「んなアホな。うらちのこと知っとるわけ……ああ、東京の方でバラしてくれはった人がおったな」

    「……」

     たきなはそれらを無視し、他の隊員に予定通りの配置に行くように指示する。

     はいはい、と言って彼女らはそこに飛んでいく。

    「クリア、そちらはどうですか」

    「んー。特になんもないな。ありえないけど誤情報ってのもあり得るんと違う?」

    「いえ……あり得ますね」

    「マジ? ラジアータが間違う?」

    「まあそういうことも、ないとは言えないというか」


     一年ほど前に、自分が駆り出された銃取引の現場を思い出す。あれは正確には誤情報ではなかったが、実際に取引が行われていたのとは異なる時間がDA内に届いていたことがある。

     以前のたきなならば、DAの情報に疑いの目を向けることはなかったが、ここで先に進んでよいものか……という迷いが生まれる。

  • 13二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 16:15:07

    >>12

     特に彼女は今、指揮官の任を負っている。自分一人の判断の誤りが、複数の隊員の安全を脅かすことに対して……責任の重さを痛感している。

    「暫く遮蔽物のあるところに隠れてください。わたしが本部へと確認を取ります。ラジアータで周辺の情報を偵察してもらいます……今度は勝手に動かないでくださいね」

     たきなの指示に何か不満そうな声を出すが、一応、従うという姿勢を見せる。

    「しっかし、船の件もそうやし、なんか待ち伏せされてる気がしてあかんですな」

     船の中にも一緒に入ったセカンドが幾分緊張感を和らげようとたきなに話しかける。

     キリキリピリピリしすぎるのも作戦遂行に支障があると座学でも習うし、こうやって実際の作戦に赴けば嫌というほどわかる。だからか、真面目なたきなも邪険にはしない。

    「不吉なことだけど、あり得ない訳じゃないから……ね」

     たきなの隊の五人は階段を最上階まで上っていく隊で、もう一つは地下に降りてそこから挟み撃ちにするといういつもの流れだ。

     たきなとしては、こちらの方が実は慣れていた。敵の真正面からバシバシと銃弾を撃ち込んでいくような芸当が出来る奴なんか、あいつしかいないと、ふと赤いリボンの相棒を思い出す。

     リコリスは基本的に相手より多人数で、不意討ちで、背後から殺すというのが基本理念だ。

     今回の動きも彼女らにとっては慣れたものである。

  • 14二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:20:23

    >>13

    カンカンと音が鳴る非常階段を上りつつ、角はクリアリング。多少時間はかかるが、訓練通りと言ってもよい。

    「地下はどうです? 異常ありませんか」

     地下は二階まである。通信が弱くなる……程でもない。

    「ない。地下は駐車場と倉庫ぐらいでしかないな、誰っちゃおらん気がする」

     地下特有の、共鳴したような音が辺りに響く。

     囁き声ながらも響くものは響く。

    「そうですか……。あの、はやせはそっちにいるんですよね?」

    「いる、けどどうした?」

    「いえ、無事ならいいです」

     あまり長く話を続けるのもどうか、という判断をしてたきなは無線を切る。

     

     はやせは……突拍子もないことをしますからね、とたきなは内心穏やかではない。一緒の行動をしていてもすぐにどこかに行って犯罪者を音もなく仕留めてくる。そして一番の悪癖が「報告しない」こと。


    「まあ、向こうにも見張りがいるようですから問題はないでしょう」

     ふ、と独り言を漏らす。

     あちら側の隊長がその見張り役だ。

  • 15二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:21:00

    >>14

     廃ビルというのは基本的に誰もないものだ。八階建てのそれも例外ではない。

    屋上に辿り着いたたきなの隊はそれを全体に報告し、タンクの陰やら物置の隙間を覗いて、不審な点を探していく。

     屋上はねっとりとした外気が渦巻いているようで、出て来た隊員の額にはすぐに汗が浮かぶ。


    「なんか……別に何もないすね」

    「物置の中も……古新聞とか、なんかよくわからない機械とかそんなもんしかないですね」

     違法薬物のような痕跡もなく、犯罪に使われそうな凶器――真島らが残していった銃器は見当たらない。


     屋上に散兵したリコリスたちは少々退屈を帯び始めて来た。

     夏の夜につまらない捜索をしなければならないということ、そして、空振りということ。


    「まーええか。一個ずつ下に降りていくって話だったやんな」

     ということで話はまとまり慎重に屋上から下る。慎重に……とは言ったものの階段を降りる音がバラバラに響き始めている。

     足並みが乱れている。これでは何人いるかということがバレてしまう。特に耳の良い人間にとっては。

     

     教科書通りのクリアリングからの入室。ビル内は埃っぽく、隊員の一人が小さくくしゃみをする。

    電気系統はとっくに失われていて、夜の闇に部屋の奥は飲み込まれている。

     事前に用意した図面によると、元はオフィスビルのようで、階の中央にエレベータ。それを囲むようにいくつかの部屋がある、そういった造りになっているようだ。

     しかもそこそこ大きい。一部屋当たり百人は入れるのではないか? というような大きさで、それが何個もあるのだ。一同少し躊躇う。あまり分散はしたくはない。そこで一同が向くのはたきなの方だ。

  • 16二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:21:44

    >>15

    「分散は……やめましょう。時間は掛かるかもしれませんがみんな一緒に隊列を組んで捜索しましょう」


    「賛成」

     分散は当然のことながら、一つ当たりの戦力を減らす。ましてや五人しかいないのだ、分散したら二人と三人とになってしまう。

     地下から上ってくる隊も五人であるから、そちらと合流したりって十人しかいない。

     普段の作戦ならそれだけいれば楽勝と余裕ぶれるものだが、こう広い廃ビルだと心細くなるのは誰も口には出さないが偽らざる心情だった。


    「りゃっ!!」

     閉じられたドアを蹴破り入室する。

     雑然と机が並べられた部屋、椅子が部屋の隅に積まれている。

     背の高いロッカーが部屋の奥に林立している。


     何か隠れた様子もない。

    「ネズミ一匹いませんね……」

     たきなは懐中電灯を翳しながら部屋の隅に移動する。

    「……痕跡もないね。何かゴミなんかもなさそうだ」

     隊員の一人はゴミ箱に手を突っ込んでいるが、出てくるのは五年以上昔の日付の書類――恐らくここが閉鎖された当時のもの。

    「まだ他の階を根城にしてるとか?」

    「他の部屋はまだ見てへんし、そっちも見てみよか」

     

     この部屋の中を移動すると、いくつか扉を見つける。会議室として使われていたのだろう、そっと開けても机と椅子とパソコンの画面があるだけ。


     机の天板をそっとさわると指に白く埃が纏われる。――何年も使われていない。


    「たきな、この部屋はもういいと思う」

    「わたしもそう判断します。次の部屋に行きましょう」

  • 17二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:22:28

    >>16

    「……つー本当にここがアジトなの?」

     二階ほど下りたたきなの隊はもはやダレてきている。その疑惑の目はたきなの方にばかり向く。

    「本部……。ここまで特に痕跡無いですね、もう一度確認をお願いしたい」

     たきなはその視線に圧されたような雰囲気で本部に縋る。

    「全て見たか」

     と訊かれて、いやまだと答える。そうすると無線口の向こう側は、では引き続き捜索せよとしか言わない。

     考えてみれば当然の対応ではある。


    「ん、たきな。誰かいる」

     隊員の一人がたきなを呼び止める。

     一瞬で緩んでいた空気が張り詰められる。

    「どこです?」

    「奥の部屋。何か人影が横切ったように見える」

     奥の部屋とは、廊下を突きあたった事務所スペースだ。扉は閉められているが、扉に嵌った硝子から見えたのだろう。

    「みんな来られますか」

     少し散らばっていた人数を集めて、一挙に潜入するつもりだ。

     前回のような散兵手段はとらない。バラバラと入ってしまえば統制が取れなくて射殺してしまう……なんてことも起きえる。

    「地下隊にも報告します。少しだけ待ってください。あの、絶対わたしが合図するまで入らないでください。……き、危険ですから」

     返事がない。たきなは不安になって。

    「いいです?」

     と聞き返す。隊員はイラっとしたような表情を一瞬浮かべるが渋々といった様相で従う。

    「本部、聞こえますか? 人影を認めました。確保しますか」

    「生け捕りにせよ。二人な」

     この前と命令は変わらない。

    「……っ、現状人影は一つしかないようです」

    「ではそいつだけでよい。なに、総勢十名いるのだから余裕だろう」

     それだけでもう用は済んだと言わんばかりに通信が途絶える。

  • 18二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:23:28

    >>17

    「みなさん、聞きましたね? 命令は生け捕りです」

     今度こそ、という雰囲気で総員に確認をとる。


    「動くな!」という威勢の良い声で相手を圧倒するのはリコリスの役目ではない。

     あくまで多人数で、背後から、音もたてずに制圧する。静寂主義、これが彼女らの役目。


    ――


    「つったく~ねえ、ほんとに人いるん? ウチ必要やった?」

    「静かに。はやせ、あんたが来たいって言うたらしいやん?」

    「そら、たきなと一緒に居たいからに決まっとろうが、なんであんたなんかと……」

    「グチグチ言わん。ここはアジトなんやから」

    「私は強襲得意じゃないんやからさぁ~配慮してな」

     滝川はやせは愚痴りながら隊長の後ろをノコノコと着いて行く。

     右手にはきちんと拳銃が握られていて、足音も全くしない。

     地下を進む隊にとっては、口とは裏腹に、ぴったりだった。

  • 19二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:24:11

    >>18


    「地下って聞いたけど、駐車場みたいなノリちゃうんよな、普通に事務所とかそんなやな」

    「はやせー。んー。オフィスビルやからかなぁ?」

     はやせを窘めながらも周囲を見渡す。

     打ち捨てられたビル内の割にきれいなまま。

     机や椅子は綺麗に纏められ隅に積まれていて、入口から内部が一望できる。隠れられそうな場所はロッカーや小部屋ぐらいしかないが、それらも同じように綺麗にされている。

     犯罪者の潜むアジト感は彼女らの経験からしてもなかった。


    「なあ、こんなに完璧に隠れてるってことは……」

     はやせはある可能性に至る。それはあまり喜ばしくもなく、寧ろ厄介でやめて欲しい事柄。

    「相手はガチのテロリストってこと……かもね」

     金に困っただけのバイト感覚のニワカ犯罪者じゃない、それを生業にしていて、訓練もきちんと積んでいるそういう連中。



    ――

  • 20二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 17:24:51

    区切りが良いのでこの辺で

  • 21二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 21:54:34

    >>19

    ――

    「ロボ太って言いましたっけ」

    「まあ、そう名乗ってはいたけど……」

     小畑はロボ太にパソコンを与えて何やら作業をさせている。

     牢獄の中とは言え、事務スペースが少しずつできつつある。

     冷たい、スチールの机の上にデスクトップ型のよく光るパソコン。補助画面は外付けで三つ。

     ガタがついた折り畳みの椅子。

     ロボ太は「リクライニングも肘置きもない椅子でやってられるか!」と文句を垂れたが小畑は「後で用意するから」と宥める。

     どういった名目でこれを揃えさせたのか、これは簡単である。特に備品の用意を司る彼女にとっては。


    ――行方不明のテロリストの捜索させる。


     発見次第談判猶予なく射殺せらるべき「あの」テロリスト。死体は発見されていないあの災厄の捜索である。


     複数の窓が開いたり閉じたり、コンソール上を奇怪な文字が走り、そして折り返されてまた別の文字列を呼び出す。

     四つある画面にロボットの顔をした紋章が浮かび、「Setup completed」と文字が明滅する。


    「まったく、環境を完璧に破壊したと、技術班は言ってたのですけどね」

     小畑は詰まらなさそうに画面を檻の外で眺めながら言う。

    「ウェブ上にある情報を完璧に壊すなんて、それこそ僕やウォールナットでさえ難しいんだ、そこらの公務員が出来る訳ないだろ!」

     小心者の癖に傲慢なロボ太が帰ってきた。

    「それもそうですね。まあ定期的な報告を頼みますよ」

     小畑はにっこりと笑って牢獄から去る。


     彼女が去ったことを横目ながらきちんと確認したロボ太はふぅと一息つく。

    「……なんでそんなにあいつにこだわるんだろう、まあ日本で一番厄介なテロリストには違いないからそういうことなのかな?」


    ――

  • 22二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 21:55:24

    >>21

    「たきなの隊からの連絡や」

     はやせ達を率いる地下の隊長は無線に耳を澄ます。

     それぞれの通信は各隊員にも通じているが、最も鋭敏に反応すべきなのは隊長。

    「みんな、五階に不審な人影がいるみたいや、行くぞ!」

     

    「んぁー! ホントや! それ以外の階にもおるで!」

     はやせは階段を上りながら、出て来た男を撃つ。その他のリコリスもまた無慈悲に、冷静に次々と生えてくる人間を誰何せずに撃ち殺してゆく。

     バン、と乾いた音の直後、ドサっと人の身体が転がる音が響く。

     相手方は拳銃を携えた戦闘員が多く、通路の端から顔を出して階段を上ろうとしているリコリスを狙っている。ただ、リコリスの多くは自分の命にあまり頓着していないため、殆ど躊躇いがなく廊下の角まで走って殺していく。


    「んぁぁ!」

    「叫ぶな、はやせ」

     はやせの癖を諫める隊長は、それでもなお彼女の悲鳴に感謝する。

     ほぼ先頭を走る彼女の悲鳴というか叫び声は敵がいることを示してくれているから。

     はやせの叫び声の後に、ドサッドサッという音が響く。敵の身体が廊下や階段に転がる音だ。

     そして、その後はやせは敵の身体に寄って行き、何かして戻ってくる。

     腕を後ろに回させて、親指同士を結束バンドで締めてるようだ。

  • 23二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 21:56:04

    >>22

    「なあ、ヨウちゃん、こいつら結構いい装備してんな?」

     ヨウちゃん、と呼ばれたセカンドリコリスははやせの方につかつかと静かに歩みよると、ぴくりと形の良い片眉をあげて背中の鞄から銃を取り出して構える。

    「はやせさぁ、ちゃんとトドメ刺しな?」

     それから流れるように引き金が引かれる。

     乾いた音。呻き声一つ。それはもう二度と声を出さない。

    「殺さないようにしたくてさぁ……」

     額からドクドクと血が流れている敵が目の前にあっても、二人とも目をそらさない。

     それは敬意ではない。しっかり死んだかどうかを確認したいという実務上の理由からだ。

    「たきなリスペクトなのはわかるんだけど、後続が危険だから殺しておいて欲しい」

    「……わかった」

     トドメをさせ、という願いはリコリスとして当然のもの。はやせとて否定することはできない。

     特に集団で行動する際には。自分が殺さなかった所為で他人に危害を加えさせることを許すことになる。


    「ウチが殺さなくても友達が結局殺しちゃうんだし……。一緒か?」


     切り替えが早い。殺さないのは独りで居るときにしよーと切り替えて今度は適度に頭を狙って撃っていく。

    殺すなら一瞬でという彼女なりの慈悲だった。

     心の中でたきなに謝りながら。


    ――

  • 24二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 00:17:49

    >>23

    「たきなさん! 後ろ!」

     悲鳴を受けてたきなは振り返り、丁度いる敵の太ももを撃ち体勢を崩させその瞬間にワイヤーガンでその身体を縛る。

     ありがとうございます、と礼を述べ、周囲を見回す。

    「何人いるんですかね?」

     五階に降りてきてから、十人以上の人間がたきなの隊を襲撃している。

     どれも動きは俊敏かつ、正確で一定程度の練度があることが伺われ、その点もたきなたちを悩ませている。

     いつも相手にしているのはナイフを持っただけの素人で、こんなに手を焼く経験も中々ない。

     それでもリコリスは複数人で動くことと、挟み撃ちにすること、そして遠方からの銃撃によってその体格の差を埋めているのだ。

     しかし、勝手を知らない相手の陣地内ゆえに、神出鬼没の敵方に辟易する。

     たきなたちが銃を向けると机やロッカーの陰に隠れて発砲してくるし、それを避けている間にまた別の人間が脇から突進してくる。

     しかも装備も悪いものではない。

     国防色の防弾チョッキにゴーグル。恐らく丈夫なポリカーボネート製のもので軍用だろう。

     足元はコンバットブーツ。

     手に握っているのは傑作アサルトライフルと呼ばれるアレだ。

     ともかく、多くのリコリスたちが相手にしていたような破れかぶれの通り魔や素人に毛が生えたような爆弾魔のようなものとは趣が違っていた。

    「……わかりませんが、無線によると地下にも複数いるようです。応援は中々難しそうです」

  • 25二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 00:18:42

    >>24

    たきなはその精密射撃の腕を買われて、奥の方から相手を撃つ役割を担っている。

     それが後ろから襲われそうになるとは不測の事態である。

     予想以上にたくさんの人間が隠れていたということか。


    「外の連絡係に頼んでますからなんとか持ちこたえてください!」

     たきなの無線口は外にいるサードリコリスに繋がっていて、至急の応援を頼む。

     サードが受け取った情報は管理室に届けられる。

    「たきなさん! もうそろそろ応援来ますから! 持ちこたえてください!」

     悲鳴のようなサードの折り返しにたきなは少し勇気づけられ、銃を握る手が踊った。


    「大男ですね! 一緒にやりましょう!」

     たきなは目の前にいたリコリスに声を掛ける。

     正面にいたリコリスは、いきなり出て来た大男に怯み、思わず銃を取り落しそうになる。

    振るわれる拳。腕は彼女らの太ももほどに太そうなものでこんなもので殴られたら一たまりもない。

     しかも、体格も、身のこなしもそれなりに訓練されているようにも見える。

     ボクシングの心得があるようにたきなたちに直感させる。

     ブンブンと空を切る音。多くの人は恐れを抱き逃げるだろう。

     しかしたきなは別だった。

     二度、三度と繰り出される拳を後ろに下がって回避して、十分に間合いをとる。

     たきなが避けたその拳は、スチール製のロッカーにブチ当たり、轟音と共にそれをへこます。

     もう二度と扉は開かないだろう変形が一瞬にして与えられる。

     きっとその衝撃は男の身体にも伝わっただろうに、それでも男は平気な様子でたきなを隅へ隅へと追いやる。

     避けるたびに障害物を破壊し、変形させていく。近くにいるリコリスがその男を銃撃しようとするが、やたら俊敏なのと奥にたきながいることから発砲を躊躇う。


    「なかなかの腕ですが」

     バシュ! バシュ! と空気が絞られる音がしてその男は縛り取られる。

     一つは腕を。そして二つ目は脚を。脚を封じられた男はいとも簡単にたきなに蹴り倒されて床に転がる。

     信じられないという顔をした者が二人。そのリコリスと、大男。

    「千束の方がもっと速いんですよ」  

  • 26二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 07:08:55

    >>25

    「畜生……!」

     はやせは転がってくる人間を避けたり撃ったり忙しない。

     小柄な彼女は敵に遭遇するとすぐさましゃがんで、相対する肝臓を中心に撃ち、その後相手が体勢を崩すと額に銃口を突き付けて引き金を引いて確実に殺す方法を得意としていた。

     ただ、これも敵の数が多すぎると、始終スクワットをしているようになってしまい疲労が蓄積される。


     地下から地上五階を目的地として駆けあがって行く隊は、漸く四階に辿り着いた頃であった。

     四階の隅に生き残った隊員が蹲って隠れる。

    「隊長! もう……弾が」

     はやせの後続が呻くように隊長へ声を掛ける。

     こんなに敵方が大量に潜んでいるとは予想できず拳銃一つと予備弾倉二つ程度しか用意がない。

     勿論敵の武器を奪いながら進んではいるものの、訓練を積んでいない武器や装備では普段の実力より劣るものだ。不安がって進軍できない者がいるのも仕方のないことだった。


    「……たきなの隊に合流しなきゃ」

     はやせは独り言のように呟く。隊長の方をちらと見ると彼女だって同じ思いであることを察することができる。あちらからの無線通信も途絶えがちになるし、上階から聞きなれた同志の悲鳴や連続する発砲音が漏れてきている。それを耳に入れるたびに気持ちが逸って仕方がない。

  • 27二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 12:44:40

    保守保守

  • 28二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:09:49

    >>26

    「そのことなんだが、正直今は無理だ。応援を頼んだから、それが来るまで待機しよう」

     隊長は踊り場の陰に隠れた隊員たちを見回してそう言う。

     はやせとしては、ここで隊長に掴みかかって断乎としての進軍を求めたい気持ちが心に充満していたが、貴重な戦力をここで失わせてはいけないとも理性ではわかっている。

     たきなの隊は隊長と交信してはいるが、機材トラブルで上手く繋がらない。

     こんな時の為に外部に通信手を置いているが、それは一旦外部を経由するから即時の対応は難しい。


     耳を澄ますと、いや澄まさなくても五階は、たきなたちのいる階はかなり切迫した状態であるともわかる。

     爆弾が炸裂するような音さえ聞こえる。

     それでもはやせが動かないのは、仲間の隊員を状況不明瞭な場所に突っ込んで殺すわけにはいかないからだし、それになより、たきななら、絶対に死なないという無根拠ではあるが、信頼もまたしているから。

     その信頼が辛うじてはやせをこの場に押しとどめていると言ってもよかった。

     固く握った銃把、汗が吸い込まれずぬるりと滑るようで不快だ。

     いつもより緊張と不安とで発汗が促進され、手に金属臭さがより一層移っていく気さえした。


    ――

  • 29二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:10:46

    >>28

    ――

     無線が通じにくい。

     それがたきなを襲ったもう一つの「敵」であった。

     外部との連携も、中で戦っている他の隊員たちとの会話もままならない。

     五階に辿り着く前からザザっと雑音が挟まる。

     それが徐々に強くなって今では殆ど交信不能といった体である。


     外にいるサードリコリスに応援を要請しているが、うまく伝わったかもわからない。

     死傷者が出たこと、救護がいることも伝えたが返答が来ない。


     無線の障害――たきなの心を搔き乱すトラウマ。

     

     不便であると同時に不必要にたきなの中の不安を育てる。


    「! 伏せて!!」

     

     たきなの眼が捉えたそれは数秒後に爆風と金属片を辺りにまき散らす。

     たきなの声が届くそれまでに、その爆風に巻き込まれて斃れる者もいた。

     音速は爆裂反応よりもほんの少し遅かった。


     ビル内で使われた手榴弾は、パーテーションを容易に破壊しつくし、金属製のドアをひしゃげさせ、厚めの強化ガラスを粉砕した。

     焦げ付いた絨毯の臭いが辺りに充満する。

     うつ伏せに倒れ伏している隊員に駆け寄るたきな、全身をざっとみる。

     防弾防刃を誇るリコリスの制服の背がズタズタに切り裂かれている。

     咄嗟に爆風に対して背を向けエアバッグを展開したというが、それをも切り裂くような強烈なものであったことがわかる。

  • 30二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:10:59

    >>29

     早く助けなければ、と彼女は考えて咄嗟に負傷者を抱えて、背の高い、恐らく更衣室用のロッカーの陰に隠す。

     うつ伏せにさせて、鞄を外す。

     白い防弾布がでろんと出たままで、もう戻ることはないだろう。損傷が激しい。

    「たきな、ウチはもうだめっぽいから……」

     掠れる声、単語自体が途切れ途切れ。上下する胸部はどんどんと背中の傷から血を排出させているように見える。

    「喋らないで」

     たきなは自分の鞄から滅菌ガーゼと消毒液、そしてダクトテープを取り出して手早く彼女の傷口を塞ぐ。

     こういう時は着衣をハサミで切ってしまうものだが、リコリスの制服が邪魔をする。

     彼女に断って、ボタンを外して服を脱がせる。

    ――彼女の身体を守れなかった癖にこういう時だけ性能を発揮しやがって。

     とたきなは心の中で制服に対して毒づく。

  • 31二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:11:55

    >>30

    「……手当てなんかいらない。血痕がここまで伸びてる。たきなまで殺されちゃう、ね、行って」

     振り返ってみればここまで隠れるために辿った経路にポツポツ……どころではない血が流れている。

     これを追っていけば手負いの者が潜み隠れていることなんて容易に見出せるだろう。

     そして血痕を踏んだ足跡が二つ分。救護者がいることだって丸わかりだ。


    「ダメです、少し待ってください」

     たきなは淡々と手当を続ける。こちらに近づいてくる足音があればそのまま撃ってしまおうという計画の許だったけれど、それがうまくいくかどうかは分からない。


    「負傷者有、背中に被弾して出血が多量です――」

     と外部との通信を図るが、繋がらないばかりか、ザザザという雑音が響く。またかよ……とうんざりしながら舌打ちをかます。

     銃声は聞こえる。しかしながらこちらに近づいてきているかどうかは分からない。

    「ね、たきな。他の人を助けてあげてよ」

     そろそろ息が絶え絶えの、赤く染まった青服がたきなの手を振り払う。

     確かに彼女の言う通り、一通りの応急手当は終わっていて、これ以上できることもないだろう。あとは救護班に収容されるのを待つだけだ。

     たきなは現在無傷なのだから、ここから離れたほうが合理的だ。

     

     タタタタと鋭い足音がする。

     ついに見つかったか……。たきなは愛銃を構え直し、それが曲がり角にやってくるのを待つ。

  • 32二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:21:58

    いったんここまで

  • 33二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 23:16:00

    保守しておく

  • 34二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 07:36:03

    >>31

    照明が切れている頃、外からの灯りによってのみ照らされる室内。

     それぞれが準備している懐中電灯だけが頼り。

     そんな中でこちらに向かってくる足音。

     それも、ここは部屋の中で結構奥の方にある。敵に違いない。

     たきなは、壁にピタリと左半身をつけて、それの襲来を待つ。

     漸近してくるそれは、軽快な靴音を立てて、そして金属同士が触れ合う音もさせている。

     ――武装しているようだ。

     

     たきなは銃口をその方向に向けて、人影を撃つ。乾いた音が周囲に広がり、いつも通り銃口が熱せられて煙が吐かれる。が、それより一瞬早くそれはしゃがんで、横に転がった。

     隠れるは机の陰。しかしスチール製の机など銃弾からすれば紙も同然だ。

     パシュ! と何とも頼りない音を立てて袖机を弾丸が貫通する。夜逃げされたオフィスというわけでもなく、正規に引っ越された後だから、引き出しに何も入っていない。

     それゆえ銃弾は面白いように通り抜ける。


    「! 撃たないで!」

     聞き覚えのある声。


    「はやせ……?」


    ――

  • 35二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 07:36:24

    >>34

    「そっちの隊と無線が全然通じひんからこっちはこっちでもう合流しよ~ってことになってな」

    「指示を乞わなかったんですか?」

     作戦指揮を執っている者に連絡をしなければならないはずだが……。

     より大柄なたきなは、負傷者を肩に担ぎ、手の空いているはやせは銃を携え、周囲を警戒しつつ進む。

    あらかたの敵は殺されていて、廊下の脇に積まれている。

     そこら中から血烟の香りがした。それはたきなにとっては顔を背けたくなるような、異質なものに感ぜられるようになってしまった。

     たった一年やそこら、嗅がなかっただけなのに。

    「そら何遍も頼んだわ、それでも無理なら……まあしゃあなし。逆に向こうもこっちのこと監視できひんってことやろ? 好き勝手やったろって」

    「……もう。来るならちゃんと声かけてください。危うく殺すところでした」

    「声掛ける前に撃ったのは……ねぇ?」

    「それは……申し訳ないですが」

  • 36二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 07:37:07

    >>35

     ふと斃れた味方を見つける。たまに混じるサードの制服。リコリスの制服の中で最も明るい色のそれは、而して最も血を色濃く映す。

     血は流れ過ぎると黒くなって固まるようで、余計に酷く見えた。

     たきなは思わず顔を背けた。


    「たきな……」

     はやせが声を掛けようとしたその瞬間、地面がゴウンと揺れる。


    ――


    「先ほどからたきなの隊と通信が不調です。状況どうなってますか?」

     通信室内で複数の操作手が画面を叩いているが、その画面上では正常のままである。

    「こちらも……鏡花の隊とも通信不能です」

     異様な事態だった。通信状況を示す信号は正常。しかし音声だけがザーザーと砂嵐に塗れていて繋がらない。

     再起動の許可を得てこれを行っても復旧されないということは、どこに異変があるのか……と操作手の一人がサーバー室に駆け下りて行く。

     それを見送りながら、別の人は滅多に引かないマニュアルの後ろの方に書いてあるトラブルシューティングを参照しているが、どうも目的のものは見当たらない。

     異常なら異常と示されるはず……。それがないのが最も『異常』だった。

    「はぁ……でもまあ通信がうまくつながらないとしてもやることは事前に教えてる。あいつらなら問題あらへんやろ」

     司令は少々めんどくさそうにしていながらも、特に通信恢復は急がせてはいない。

     実際、ビル内に潜んでいる犯罪者を生け捕りにして数人持ち帰る。それ以外は殺す。程度の簡単な任務だから。

    「しかし、内部で負傷者がいたら……」

     操作手の一人がキーを叩きながら懸念の声を挙げる。

     それを捉えて反応したかは知らないが、司令は呟く。

    「ま、そんときはそんときやな」


    ――

  • 37二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 13:33:58

    DAは無能

  • 38二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 21:05:06

    >>36

    ――

    「なぁ、なんか燃えてへん?」

    「焦げ臭い……」

     先ほどの轟音と揺れに、はやせは咄嗟にその場にしゃがんで頭を抑えた。

     たきなもまた同じように。しかし、背負っているリコリスを守るように前に抱きかかえ直す。

     焦げ臭い、とたきなが言ったように、確かに周囲から物が燃える臭いがする。

     しかし、まだ視界を覆うような煙は見えないし、身体を焦がすような熱は来ない。

     火元が分からない。

     恐怖だ。もし降りた先が火元だったら? 閉じ込められてしまう。

     自分の立っている地面が揺れたということは……。

    「無線……なんですけど」

    「まあ通じひんよな、うちらのもや。まあさっさと逃げよ、火事だとしても廃ビルじゃあスプリンクラーも動かんやろ」

    「ええ」

     はやせに先導されてたきなは小走りする。たきなの他の隊員もたきなに励まされてその場を後にした。

     たきなは隊長であるから退却するのは一番最後だ。

     非常階段の出入り口にたきなは立ち、他の隊員の退却を促す。

     負傷者も多数。辛うじて歩ける者は他の仲間の肩を借りて降りて行く。


     はやせは少しの間、隊から離脱するとあちらの隊長に告げて「まったくこいつはしょうがないやつだな」と言われながらも許可を得ることができたようだ。

     あちらの隊長はたきなとの相談の結果、無線の不調もあるし、怪我人も多数だから救護班が来るまで、あちらの指揮をすべきではないか、ということで一足先に降りた。


     大体の隊員が退却しはじめホッとしたころ。


     ゴウッ!! ともう一度揺れてもう誰も立っていられない。

     バラバラと頭上に砂埃、天井の破片が降ってくる。

     パリンパリンと蛍光灯が割れる。

     さっきまで立っていた所にそれが刺さる。棚が崩れて進路を塞ぐ。

     非常階段の向こうから悲鳴が漏れる。

     地震だと言われたらもう、それしか信じられない。

  • 39二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 21:05:42

    >>38

    「たきな! 早く!」

     はやせはたきなの手を取って身を屈めながらネズミやネコのように走り始める。

     しかし、たきなは一人の女を前に抱えているせいで動きが遅い。


    「はやせだけ先に逃げてください! わたしは彼女を背負って行きますから……!」

    「っ! ったく! 分かった!」

     はやせは苦虫を噛み潰すような表情をしながらもたきなから離れない。

     それどころか、抱えた女を分担して持とうとする。

    「わかってないじゃないですか! 隊長が命じとるんやぞ!」

     たきなは思わず声を荒げる。

    「わかってへんのはそっちやろ! あんな、お前ひとりでこの子抱えて一緒に死んだら元も子もないやろ!」

     はやせはそうやって吠えて、怪我人をたきなと一緒運ぶことを主張する。

    「……元だけど相棒やろ? 二人協力しよ」

     はやせは穏やかに、しかし絶対に退かないという意思を見せつけつつ、たきなの合意を取る。

     たきなは渋々……頷いた。

     しかし、弱った人間を運ぶのは聊か難しい。たきなが考えていると、はやせがどこからか背の高いロッカーの扉を剥ぎ取って来た。

    「ここに載せよ、担架代わりっていうか」

    「はやせってほんと……楽をしようとすると頭が早いですよね」

    「そらね、スチールロッカーでよかったわ。木だと絶対重い」

     怪我人をロッカーの扉に載せて、二人合わせて、よっこいしょ、と扉を持ち上げる。なかなか悪くない。安定している。

  • 40二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 21:06:25

    >>39

    「……! まだおったんか」

     たきなに断って患者を任せると銃を抜いて残党に発砲。

     一人だけ残ったそいつはリコリスから奪ったグロックを携えてはやせに数瞬遅く反応した。

    「うぉっ! ぶっねー!」

     噂に聞く千束はこんなの簡単に避けられるんだろうなあなどと思いながらも廊下の隅に転がって回避する。

     廊下の突き当りにそいつは陣取っていて、はやせとの距離は約十五メートル。

     単純な撃ち合いでは、どちらが勝つかは五分五分だろう。

     はやせもそこまで誇るほどの銃の技量があるわけでもないし、相手方も同じ。

     いや、体格差というのものがある。銃を扱うにも体格が関係する。比較的軽めのグロックを大柄な敵が扱うと狙いは安定する。

     少し冷静になって狙い、引き金を引けば敵方の方に一部の利がある。

     一方はやせは訓練を意外にも、きちんと受けていてその成果を発揮している。

     頭を屈め、ジグザグに走ることによって狙いから外れるように努める。

     途中、徒に床を滑走して目を引いたり、無意味に立ち止まったりして混乱させる。


     ぴゅん! と風を切るような音がしてはやせの制服の袖を弾丸が掠める。

     防弾防刃を標榜する生地でも当たり方が悪ければ切り裂かれる。

     正面から弾丸を受ければ貫通する。当然のことだ。

  • 41二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 21:06:59

    >>40

     相手方が銃を幅広に撃ってくるから危険極まりない。はやせピタっと止まると慣性を利用して廊下からオフィスに滑り込む。

     ガチャ、と扉を開けゴロンゴロンと中に転がる。

     それを追ってくる足音を聞きながら、急いで扉まで走って、バタンと閉めて鍵を掛ける。

     案の定男は扉の前に立ってガチャガチャとノブを回し始めるから少し離れたところからその男の脚の位置を推定する。

    「はぁ……! まったく、殺し……はしないどいたるわ」


     ドン! ドン! と敵方の太腿を正確に射抜く。実際、五メートル離れた物陰から精密に狙った物を撃ち抜くのは、非常に難しい。

     しかし、はやせはそれを成し遂げた。

     合板の扉を銃弾は貫通して、男は呻き声を挙げ、膝を突いて、天を仰ぐように、空を掻くように倒れる。

     はやせは、サッと近づき、さっきまで握られていたグロックを蹴り飛ばしてまた距離を取る。

     太腿を撃つこと、これは確かに積極的に殺そうとはしていない。

     しかし、放置しておけば確実に死に至る。

  • 42二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 21:07:33

    >>41

    「なぁ……今はなんていうか……」

     倒れ伏した男を見下ろす。ううう……と低い声で呻いて、太腿を押さえている。

     黒の手袋からはこれまた黒い血が漏れ出ていて、すっかり抜け切れてしまうのは数分後……ぐらいの状況だ。このまま行っても何も咎められはしない。寧ろ悪人を殺したことを称賛されることだってある。

    「時間あるし助けたるわ」

     しかし、たきなを放ってはおけない。

     二分。二分だけこの男に使うと決めた。


    「まぁね? たきなが千束に影響されて殺さない方針になったのはわかるんだけど……ウチは別にそれに倣う必要もないのよ。ウザいのはさっさと殺しておいた方が世の為やからな」

     ブツブツと言いながら、相手方がしていたガンベルトを外して、思い切り短くした後に、その人の太腿にキツく巻く。その後、消毒液をビュービューと粗く振りかけて、幅広の絆創膏をベタベタと貼る。

     ずっと呻き声を上げているがそれは無視だ。


    「ほらよ、ウチは……まあ優しい方やからこうしたるけど、他の奴らに見つからんようにせえよ」

     タッタッタ、と踵を返してたきなの許に駆けるはやせ。

     そいつから奪った自動小銃を携えて。「いやあ、こんなん殆ど支給されないからなあ、拳銃ばっかじゃやっぱ弱いわぁ」などと少し嬉しそう。

     しかし、半歩ほど動いた後に「そうだ!」と思いついたようにしてまた戻る。

    「あ、そうだ。他に何か武器を隠してへん?」


    ――

  • 43二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 21:08:02

    とりあえずここまでです

  • 44二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 00:29:41

    ほっすう

  • 45二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 07:30:22

    >>42

    ――


    「たきな! はよ逃げるで!!!」

     はやせは自慢げに担いでいた敵方の自動小銃を放り捨てて駆け寄り、たきなの手を取る。

    「えっ! はやせ、どうしたん」  

    「爆発する!」

    「えっ?!」


    ――

    「! おい……ビルが」

     たきなより早く脱出した隊員がビルを見上げる。


     もう避難して数分は経って、万が一のための避難基地にあらかた逃げた頃合い。

     安全基地、とは名ばかりでそのビルから数十メートルしか離れていない空き家の一階にある駐車場だった。

     一応、DAの持ち物で、リコリスが敵に急襲された際に逃げ込めるようにはなっているものだ。


     たきなとの通信は相変わらずとれない。きっとたきななら……はやせだっているし、としてみんな不安を表には出さないようにしていた。

     怪我人の救護を呼ぼうとする。しかしここまで逃げてきても通信状況が悪い。

     ザーという雑音が細かく、そして厚く彼女たちと司令を隔てる。


    「私、ちょっと、DAに行って来ますね?」

     隊員の一人が、通信環境の悪さに痺れを切らして立ち上がる。隊長は本来は諫めるべき立場だったが、この惨状を目の当たりにして頷く。そうしてもう一人を連れ立って走り去る。

     リコリスは一般的な救急車を呼ぶことはできない。特に銃創がある場合には。


     しかし、悪い知らせは続くものだ。ゴオッと音を立ててビルが倒壊しつつある。火の手が上がり隣接するビルをも巻き込むだろう。夏の夜に浮かぶ輪郭は火によって際立つ。

     しかし、すんでのところでそのビルだけが砂塵に帰る。


     ビル内に残る三人の名前を、多くの隊員は叫んだ。

    ――

  • 46二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 07:31:12

    >>45

    ――


    「ダメです! たきなと鏡花の隊の潜入先が倒壊しています!」

     DAが察知するのと同じ速度で、いやもっと早くニュースが中継される。

     複数の操作手が先ほどと同じように通信の恢復を図っているが、それも無に帰そうとしている中、テレビ画面に捉えられた火事の映像に職員一同言葉を失う。

     この報告を受けた司令は「連絡はどうか」と最早聞かなかった。

    「はぁ……救護を回しとき」

     ただそれだけ言って司令は去る。


    ――

  • 47二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 07:32:34

    ここまで。読んでくれて有難いです

  • 48二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 12:49:59

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 21:15:08

    >>46

    ――

    「いやー。たきなもこっちではキリっとした隊長さんなのか~やっぱりやるねえ」

     千束は何も知らず、監禁生活に適応していた。

     閉じ込められてはいるものの、テレビもあるしソファもあるし、拘束もされてはいない。

     座り方も強制されておらず、自然体でリラックスしたままで居られる。

     ただ、自殺や脱走、抵抗を防ぐために鞄や銃、そして通信機器からは隔離されていた。

     ネットに自由につなげないのでテレビを垂れ流しにして暇を潰す。

     世間は夏ムードとやらで、夏休みを舞台にした映画をテレビで流している。

     夕食も終わり、やることもないのでそれをうっつらぼんやりとした様子で眺めている。


     ぴこん、と画面の上端に『ビルのガス爆発事故』の発生を告げるニュースが出た。

     千束は「ふぅん」という面持ちでそれを通過しようとしたが、何かに気づいたようにがばっと身体を起こす。

    「これって……?」

     千束はたきなの任務場所を知らされていない。しかし、ガス爆発事故という言葉が引っ掛かる。

     以前にも同じようなことが起きた。

     以前のそれは、たきなが起こしたことだったが、今回もそうだとよいのだが……。などと千束は凭れかかっていたソファからいつの間にか身を起こして腕を組む。

     チャンネルを切り替えニュースにする。京都市内のビルでガス爆発事故が起きたと視聴者提供の画像がいくつか流れる。確かに爆発している……爆弾の痕や銃弾の痕跡というのは見えないが、もしDAが隠蔽工作しているのなら流れなくて当然。

     手っ取り早くたきなの安全を確認するにはここに呼ぶしかないがここで自分を監視している係官に「たきなはどうしている? 顔を見せろ」と言っても無駄だ。

     

     携帯がとられてしまったのが本当に痛い。あれさえあればたきなの無事が分かるのに。と千束は奥歯をガリっガリッと鳴らしてしまう。


    「はやせ……はどうしてるんだろう」

     はやせも最近顔を出さない。ちょくちょくたきなの様子を窺ってくれた彼女も来てくれない……となると同じ任務に就いているのだろうか?

     一度疑問が湧いたら止められない。

  • 50二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 21:15:43

    >>49

    かといって出ていけるわけでもない。ファーストといっても単なるリコリス、戦場の駒。こうやって閉じ込められてしまったら単なる籠の鳥で、外部に対して影響力を行使することはできない。

     武力で、火力で、いつもなんとでもしてきた千束にとって、その鉄格子は実際より強固で、そして厚く見えた。いつもなら、数発撃って出られるそこに、ずっと居続けなければいけない。

     そして自分がいつになく矮小で無力に思えた。



    「……! そうだ」

     

     食器回収係が来たら頼んでみよう。

     その顔は、イタズラを思いつき、そしてたきなに窘められる時のものだった。

     はやせがそうだったように、配膳係というのはセカンドやサードのリコリスも担当することがある。本職のDA職員だったら絆せないかもしれないが、リコリスなら自分に対する憧れとか敬意とかがあるのかもしれないと賭けた。


     案外その時は早く来る。今日もおいしかったです~とお礼を言いながら千束は回収係――運よくセカンドリコリスだ――に、ねぇ。と声を掛けた。係は壁に開けられた回収口から食器をお盆ごと取ってそのまま行こうとするが……。千束にお茶碗を押さえられて一瞬止まる。

     格子越しに千束の顔を思わず、そのセカンドリコリスは見てしまう。

  • 51二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 21:16:20

    >>50

    「ねえ、えっと……私も戦力にしてみない? 今、苦戦してるんでしょ?」

    「被収容者とは話せない規則です」

    「君の仲間、怪我してるんでしょ? ビルでさ」

    「――っ! 規則違反は出来ません」

     千束の手から強引にお茶碗を奪い取るとその回収係はカートを押して行ってしまう。


    「ちぇ……フキみたいな奴だ。……あれ、被収容者とは話せない規則って言ってたけど、はやせは逆に全然守らなさすぎだろ。そんな規則あるなんて知らなかった」

     しかし……と、千束は少しだけ言葉を交わした時に感じた違和感を思い出す。

    「でも、ちょっと動揺してたよね? あれ、それって私が話しかけたからとかじゃないよね?」

     その洞察力で得た情報を無意識に脳で統合する。

     証拠はないけれども、十中八九あれはガス爆発ではなく、リコリスの作戦のうちの一つで、爆発に巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。、


    ――

  • 52二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 08:06:21

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 12:40:18

    保守〜

  • 54二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 21:37:09

    >>51

    ――

    「たきな……大丈夫か?」

     はやせは辛うじてできた瓦礫の隙間で上半身を動かしながら仰向けに転がる。目の前は灰色の混凝土の塊で、そこまでの距離は五十センチメートルはあった。

     これなら当分押しつぶされることはなさそうだ。

     不思議と身体に痛みはなかった。背負っていた鞄が衝撃を吸収してくれていたのかと感謝する。

     下半身は結構がっちり瓦礫に挟まれてしまっているようで、今の所身動きがとりづらい。しかし、すこし気合を入れて抜こうと思えばきっと抜けるんだろうという具合なので、はやせは少し安心して放置。

     はやせから少しだけ離れた場所から、聞き馴染んだ声がする。


    「わたしも運よく……。平気そうです。こっちの……蓮も」

     ――蓮。さっきからずっとたきなに抱えられていたリコリスもまた無事と聞いて、はやせは胸をなでおろす。

    「たきな動ける? うちら最低でも一階分ぐらいは落とされてるんやけど……。ここ何階かもわからんし、上なのか下なのかもわからん」

     周囲はバラバラに破壊された瓦礫ばかりで、視界が制限されていると言ってよかった。

     目が慣れた頃になってようやく、お互いの顔が少し見えるような距離にいると心から感じられる。声だけではやはり少し不安だ。

  • 55二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 21:38:00

    >>54

    「んぉっ……え、たきな立てるんか?! お姉さんびっくりやわ……体力もやけど……その運の良さというか」

     ほっと安心したのも束の間。たきなは蓮を背負って立ち上がった。

    「少し、ふらつきますけどわたしは大丈夫です。あの……えっと」

    「ううん、蓮の方が重症やろ、はやく連れてったれ。ウチは勝手に抜ける」

    「戻ってきますから」

    「来ない方がええ、まだ爆弾が仕掛けられてるかもしれんからな。戻ってくるなよ。フリじゃないからな」

     はやせは極力明るく、楽し気に、そして最後の方だけは真剣にたきなに釘をさす。いや、刺したかった。


    「……そんなこというなら今から一緒に出ます」

     背負っていた仲間を一旦軽く寝かせて、ぐっ! とはやせの足を拘束していた混凝土の塊を掴んで持ち上げようとする。少しだけ浮くが、浮くけれどもそれで足が抜け出せるわけでもない。


     腰まで埋められてしまっているはやせは、最早自分が助かることなんかはなから諦めているのにたきなは自分の瓦礫に追いすがってあくまで動かそうとする。なんということか。


    「わかった……! わかったから、たきながウチのこと気遣ってくれるのは分かる。でもな、なんというか……。せめて蓮を向こうに連れてってやって。戻って来てくれても……いいからさ」

     こうやって譲歩しないとたきなはずっと残ってくれてしまう。

     自分なんかの為に他の人間を危険に晒せない、そうはやせは判断して方便として蓮を使ってしまった。

     いいや、本当に傷を負っているのだから責められるべき嘘ではないんだ。

    「わかりました。はやせ、この懐中電灯はあげます。もう一個予備があるから大丈夫です。ずっと点灯しててくださいね」

     たきなアルミボディの丈夫な懐中電灯をはやせに握らせてその場を後にする。


    ――

  • 56二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 21:38:46

    >>55

    ――


    「救護、まだ来ないんですか?!」

     たきなが向かった先は絶叫に塗れていた。

     ようやく無線が通じたと思ったら、道が混んでいるだとか(ラジアータの信号操作権限が不調のようだ)、救護キットが足りないとか、そういう通信ばかりくる。

     また同時期の作戦での怪我人が多く、病床に空きもないとか。ともかく「ガス爆発」に巻き込まれたリコリスたちに差し向けることができる物資はそう多くもないし、そして迅速さが欠ける。


    ――

  • 57二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 21:39:22

    >>56

    ――


    「どうです? ロボ太さん」

    「ロボ太さんってなんか慣れないな……」

     小畑は檻の前でロボ太の作業を観るともなしに見ていた。

     ロボ太に依頼した仕事は順調に滞りなく済まされていて、少し退屈してしまうほどであった。

     というのも、ロボ太とて無能ではない。以前行ったハッキングをよく覚えていて、今度は同じヘマを踏まないとか、見え見えの罠に手を出さないとか、そういった思慮が生まれていた。

     その結果、図らずもDAの最深部までたどり着くことができたわけだが……。


    「あんたDAだろ? なんでDA内をハックさせるんだよ。コンソールの操作権限はお前が元々職務上持ってるものじゃないか」

    「真島を探しているからですよ」

    「なんでさ、やっぱ殺しときたいわけ?」

    「そうね、そんなところ」

    「だからって真島との――なんというか、元相棒とか仲間みたいなのに探させるかぁ? 嘘つくかもしれないだろ、真島を庇って」

    「……それもそうね。仲間は大切。でもあなたはきっとそうしない」

    「なんでさ」

     少し、不気味なような気がしてキーを叩く音を止ませる。あまりにも瞬時に否定されるからムっともする。

    「だって見つけ出せたときの喜びが、守秘の心より大きいでしょ? そしてそれを自慢したくなる。その自慢相手は今は私しかいない。この檻の中のあなたにはね」

     小畑はにこりともしない笑顔――表現としてはおかしいがそれを浮かべる。


    ――

  • 58二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 01:34:40

    保守

  • 59二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 07:56:07

    >>57

    ――


     小畑は地下牢からいつもの仕事場に戻る。外の風が少し湿っている。近いうちに大雨が降るのだろうな。という予感。


    「真島様……今どこにいるんでしょうね」


     誰ともなしにポツリと呟く。DAの職員としては絶対に誰かに聞かれてはならないような修辞付きの台詞。

     

    ――

  • 60二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 07:56:54

    >>59

    ――

    「たきなもお揃で入院とかウケるんやけど」

     頭に仲良く包帯を巻いたはやせとたきなは並んで病床に伏していた。

     DAの施設内の病院、いや規模としては保健室を少し大きくした程度だ。

     その位のところで、二人並んで寝かせられていた。

    「わたしだって自分がこんな倒れるとか思ってなかったんですけど」

     むすっとして口を尖らせる。額から血が出たらしく、そこを重点的に包帯で締められているから少しでも表情を変えると痛みが走って強張る。

    「はやせが自力で抜け出してきてくれてよかったです。そっから……まあ二人落ちちゃったんですけどね……」

    「まさかあんなに足場が弱ってるとはなぁ」

    「でもまあ、何とかなってよかったじゃないですか」

     天井を見上げる他やることがない。骨折やらなにやらはなくて、ただの打撲程度で、今は念のため寝かされているだけに過ぎない。

     明日にはもう任務復帰だろう。


    「はぁ……千束はどうしてんだろうな。見にいったんやっけ?」

     天井を見上げながら、独り言のようにたきなに零す。

     答えるか答えないかは全て彼女の裁量にあるように優しく放る。

    「……はい。なんというか、楽しそうにしてましたよ」

     千束がやわらかそうなソファでうとうとしていて、温かいご飯を食べているだろう姿を想像した。

     自分が捕まって、酷い拷問を受けていた場所とは全然違う。そういう場所に千束はいたのだった。

    「まあ、千束はなんにでも適応しちゃうタイプに見えるしな」

     はやせが最後に千束をみたのは、まだ千束が地下の薄暗い牢獄に入れられている時だった。

  • 61二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 07:57:17

    >>60

    「任務……まだ終わってないんですよね。解除の命令がないので」

    「千束にまだ会えないってことか……。それと、たきな。いつになったら容疑が晴れるんや?」

    「わたしだって知りたいですよ。こんな、監視用の首輪までつけられて」

     ぐっ、とチョーカーと首との間に指を滑り込ませて引っ張る。

     外れる訳もなく、ただきつさを再確認するだけになってしまう。

    「あのタッキー、たぁ坊がオシャレで着けるわけないと思ってたしな、やっぱまだ疑われてるんやな」

     はやせが昔のあだ名を呼びながら冗談めかして笑う。しかし、たきなはそれに応えずにただ天井の方を向く。

    「真犯人が分からないですからね。一生このままかも……アホみたいね」

     自嘲めいたその口ぶり。千束には見せないようないじけた様子。

     そこまで言って自分の口が滑ったことに気づいたたきなは慌てて手を自身の顔の前で振る。

    「……犯人は別にいますから。きっとみんなもわかってくれる」

     

    「たきな……」

     はやせの台詞は虚空に飲まれた。

    ――

  • 62二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 08:00:03

    >>61

    ――

    「本当にやるんですか? 予定の日は台風の予報ですよ?」

    「台風だからいいんでしょう? 絶好の天気だ」

     正気を疑われたその人は、なおも自信のあるように振舞う。

     明日が台風と言われてその人は、愛おしそうに今座っている椅子が置かれている床を、靴でコツンコツンと鳴らした。

     大きな洞に響くような音を立てる。


     テレビのニュースは台風の接近を伝え終わると、今日も何の事件もなくて良い日ですね。と世迷言を抜かす。

     彼らが放った銃は確実に多くの市民の許に届き、そして……特に誰の命も奪っていない。

    ――


    「たきなは無事に復帰した。蓮は……暫く療養が長引きそうだな」

     管理官がこの前の作戦に参加したリコリスたちを一堂に集めて労を労った。いや……今度の作戦の指示をする場という性格が強かった。

    「ウチも復帰してるんですけどぉ?」

     はやせはそう主張して周囲の笑いを誘う。

     管理官は何も言わない。

    「皆が無事でよかった。今回はきちんと生け捕りもなされたし、無線のトラブルがあったが目標が達成されてよかったと思う。司令もお褒めであった」

     司令が褒めていた、というところで隊員らが皆一斉に色めき立つ。

     そして、管理官は、たきなの方をちらっと見ると、何かを言いたそうに、しかし何も言わずにそのまま視線をずらした。

    「よくやったな。蓮もたきなが運んだんやろ?」

     とだけ声を掛ける。たきなは、一瞬反応が遅れて「あ、はい……」とだけ呻くように言葉を繋いだ。

    「ところで、次の作戦だが、奴らの一人が吐いた通りだとすると港にまた行くことになる。まったく密輸ブームか?」

     管理官の指示だとこの通りだ。

     また大型の武器を密輸する計画があり、先ほど捕まえた、ビルに潜んでいた者たちはそれを使って武装してテロを行うつもりだったという。

     人員を捕まえたことは中々の手柄。今後は武器の摘発に注力する。ということだった。

     確かにそれは妥当な話だ。

    「それから……井ノ上たきな。後で一緒に来たまえ」

    「あ……はい」

     たきなだけ呼ばれてその場は解散となった。

  • 63二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 08:01:36

    >>62

     はやせがしつこくついて行きたいとゴネたが当然の如くそれは却下された。

     司令に会うように言われる。たきなは動揺した。自分は未だ容疑が晴れぬ身、危険扱いされて遠ざけられるのを当然と思っていたが、逆に呼ばれるとはどういう事だろう。

     ――いよいよ処分か。生け捕りの命令を遂行したのだからもう用済みか。千束には……さよならを言えてないな。言いたかったな。

     などと頭の中が言葉で占められる。


    「率直に訊くが……千束は反DA的な思想は持っとらんよな?」

     いつもと違う、小部屋に通されたたきな。たきなが上座の方、奥の方に座らせられ、司令が目の前に座る。そして護衛が部屋の隅に二人。

     はは、まるで取り調べだ。とたきなは思う。実際そうなのだが。


    「そんなことは……ありません。本部の楠木司令にとても懐いてますし、DAの仕事だって殺し以外ならやります。リコリスであることに誇りだって持ってます。そもそも何なんですか反DAって」

     自分の命が尽きようとしたときに、真島を延空木の奥底まで引きずり込もうとした不惜身命の精神を持った千束を捕まえて反DA? ふざけるな、とまで喉に出かかって、そして自分の首を絞めている輪をそれを諫める。

     ここで怒ったら千束の立場が危うくなる。

    「ほうか……」

     たきなの弁に司令は顎を掻く。

    「いやな、千束の銃弾が出回ってるんや。あの、殺せない奴な」

    「は?――そんなはず!」

     あれは店長が特別に作ったものだ――とも言わない方が良いのかと黙る。

     この司令は千束を疑っている。そして、店長までその範疇に入れさせる訳にはいかなかった。仮令既に入っていたとしても、たきなの口から出た言葉は証拠として強くなりうることを実感体得していた。

  • 64二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 16:03:11

    保守しておくね!

  • 65二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 22:28:45

    >>63

    「これ」

     ビニール袋に入れられた、見覚えのある青い弾丸。

     そして同じものがまた別のビニールに入れられている。

    「両方とも同じやんな?」

    とたきなに問い、たきなが「ええ」と肯定の意を示すと、ゆっくりとした動作で司令はそれを取り出した銃にスコンといれて、無表情のまま右手側の壁に向かって撃った。

     破撃音と共に見覚えのある光景が広がる。

     ――粉が舞っているのだ。青色の。

    「はやせが持って来てくれた弾丸な? 港でフラフラしてた奴から貰ったちゅう話で、まあそれ自体は正確やわ。監視カメラの映像があるからな――まあともかく、どこぞの破落戸が千束しか持ってないような特注品を持ってんの、不思議すぎるんやわ」

     たきなは、司令が意味しようとすることを直観的に把握して、そしてそれを初手から否定してかかる。嫌な予感という抽象的な、しかし嫌に実感を伴った恐怖と殺すために。

    「そんな……。いや、似たような弾丸はあるはずです。非殺傷弾というものは市場に既にあるんですから、千束が関係してるって決めつけるのは早計ですよ。だいたい、千束の銃弾は赤いんです。それは青じゃないですか!」

     たきなが憤怒と激情とをなんとか抑え込み、礼儀正しい抗議と訂正になるよう、自分の感情に化粧を施した

  • 66二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 22:30:50

    >>65

    「それはその通りや。でもな、たきな。これはお前らにとってはえらい都合が悪い話や。お前らは日ごろから武器、銃弾を市井に横流しして、挙句に京都のDAを爆破しに来たっちゅう絵図が描けるんやからな」

     ばん! とたきなは机を叩く。

    「ふざ……いえ、絶対! そんなことはありません」

    「お前らが捕まえた犯人もみんなそんなこと言っとったやろ?」

    「いくら司令でも侮辱に程があります。大体! そんなことをする動機は?!」

     鞄が入室前に奪われたのが心苦しい。ここで司令に抗議したところで何になる? 彼女らには訴権もない。組織を離れる自由もない。ならばもういっそ殺してしまえと結論づくのにそこまで時間は要しなかった。司令がさっき使った銃はもう懐のホルスターに仕舞われているだろうか?

     しかしそれも見透かされている。

    「私を今ここで殺しても千束は助けられんぞ?」

     たきなは部屋の隅の護衛をちらっと見た。今ここで司令を激情のまま殺してもそのうちの一人が逃げて千束の入れられている房の管理官に何か連絡するかもしれない。

    「……わたしに何させる」

    「いい子だね。たきな」

     それは幼少期に見せてくれた笑顔と一緒だった。


    ――

  • 67二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 22:32:35

    >>66

    ――

    「まぁた船?」

     はやせが意外そうに、不服そうに口を開く。

     写真が映写幕に大写しになっていて、そこに複数の人間が出入りしている様子が見て取れる。その人たちは大きな箱を腕で抱えたり、台車に載せたりして運んでいる。

     動画はないようで、こういった写真が数枚入れ替えられる。


     しかし、結構遠くから撮ったもののようで実際何を運んでいる……かは判別できない者なのだ。

     もし、これを警察が証拠として検討するのなら、不採用になるに違いない。

     肝心の武器は一個も写ってはいないし、そもそも写っている人たちも不明瞭だ。顔に影が掛かっていたり、横向きだったりと……この写真を持って聞き込みや張り込みをしても、被写体の人物を街中で同定することはまず無理だろう。

     しかし、ここはDAだ。


    「こんなんじゃわからんな、武器の密輸かどうか……。ただの薬物かもしれない」

     ただの薬物、という台詞も引っ掛かるものがあるが、このはやせの懸念に、管理官は静かに応える。

    「十人の無辜を罰するとも、一人の犯人を逃がすなかれ」

     DAの基本原則。この中で叩き込まれなかった者はいない。

     はやせだってその例外ではない。

    「決行日は追って伝える」

    ――

  • 68二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 22:36:13

    >>67

    ――

    「すごく天気が悪いんやけど、今日マジでやるん?」

    「今日がベストだという判断のようですから……」

     今度は大捕り物だ。この間の廃船とは異なり、正式に生きている船からの密輸だからだ。まだ正式に活動している組織が存在し、そいつらが関与しているとしたら厄介である。


    「ただ、持ち主は大企業なんですよね。こんな怪しい仕事するんでしょうか……とも思うんですよね」

     名前を聞けば誰でも知っているような大企業が所有している……となっている船なのだ。流石のDAも会長や社長を問答無用で引っ張ってくると角が立つ。


     何より、隠密を旨とするリコリスはそういうことを躊躇しがちだ。何らかの偽装ができるのならやらなくはないが……。積極的にはやりたくはない。

     ただ、はやせの言うように、昼間なのにどんよりとした空気で、灰色の雲が水平線の向こうからこちら側に広がってきている。


     もう少ししたら一雨、いや台風並みのものが来ることだって予想できるだろう。

     天気予報でだって発達した低気圧がどうのこうのと言っている。

    「雨、ということで出航はしないだろう……という判断ですね。それはそれで正しいと思います」

    「なるほどなぁ」


     ただ、大きな船ならおいそれと出て行くこともないだろう。それなら天気が良い方が機動性が上がるのになぁとはやせは思う。ただ、もう決定してしまったことで、反抗するのも疲れてしまうからそのままにしておく。


     はやせとたきなは一足先に会議室に着いて、このような会話をしている。

     会議室から見える外は、はやせの描写するように暗くてどんよりしていて、気分があがるような気もしない。


     ホワイトボードの前に陣取っているたきなとそれを真正面から迎えるはやせ。

     ぽり、ぽり、とじゃがりこを食べながら他の隊員をはやせは待った。

  • 69二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 22:37:48

    >>68

    「なぁ、たきな。司令になんや言われたんやろ」

     ん、と無言でたきなにじゃがりこのカップを差し出す。たきなは少し迷ったような表情を浮かべて一本だけ受け取る。


    「……いえ、お褒めの言葉と激励を頂いただけです」

    「の割には浮かない顔してんな」

    「……いつもこんな顔ですよ」

    「それはそうやけど」


     口をきゅっと結んでいて、少し目つきが悪い。それは昔からのたきなだ。いつも不機嫌そうで、近寄りがたい。そういう感じ。

     でもそれは数年前の「いつもの」たきなだ。ここに帰って来てからのたきなのそれではない。そう、はやせは頭の中で突っ込んでいたけれど。


    「あと、はやせ、衛生科の職員に反抗したでしょう? わたしが注意を受けましたよ」

    「あ、それ? それでそんな顔になったの?」

    「ええ、なんでも『許可とカギがないから救急キットは出せない』って言った職員の前で鍵を銃で撃ち抜いて『これで開いたな、ほな』って持ち出したらしいじゃないですか」


    「……それは、まあ……なんというか、鍵が開かないようだから」

    「そういうことはしてはいけませんよ」

     はい。とはやせは言って天井を向いた。


    「たきな……まあ、ええか」

     はやせはそこで会話を打ち切ってくるり、と背中を向けた。 

     窓の外は何処までも暗い。


    ――

  • 70二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 03:19:44

    >>69

    ――

    「うわぁ、全然ライトついてないやん。廃船も同然やん?」

     こんなにも暗いと、懐中電灯を点けることは自分たちの居場所を知らせてしまうことになる。

     ただスイッチを落とすだけで侵入者の動向を知ることができる、というのは中々に頭が働く敵だ。

     費用が余計に掛かるが、追加装備の暗視ゴーグルを隊員は皆装着することになる。

     

    「まぁ、怪しさが満点ですね。これで心置きなく戦えますね」

    「ひゃぁ……たきなってほんとリコリスは天職やな」

    「アホなこと言ってないでちゃんとついてきてくださいね」


     たきな率いる隊、十人は夜の船の甲板に降り立つ。船に対して人数が少ない? それはその通りだが、前回のビル爆発に巻き込まれたり、その前段の爆弾によって負傷していたりして、現場に出てくることはできないのだ。

     港特有の警笛のような、高い音が響き渡り、薄らぼんやりと雲の向こうに月の形が見える。薄曇りは、晴れている時よりも光が拡散され明るい。

     ねえ、と隊員同士が思わず立ち止まり天を見上げてしまうぐらいだ。

    「結構大きい船やな」

    「ね。この前の廃船と同じぐらい?」

    「それを前より少ない人数とかウケる……」


    「まずは一列で進みます。船室に入りますよ」

     たきなの指示がきれいに通る。

     クルっとドアノブが回る。鍵は掛かってない。たきなの警戒度が一瞬で最大値に上がる。なんだこれは。船室やら甲板の灯りが落とされているのに不自然に「不用心」だ。

     この扉は外側に引っ張る扉だ。錆びの防止の為にアルミで作られた扉は軽く、すぐにこちら側に開きそうだ。

     あまりにもあっさりしている。

    「ブービー来るっしょ?」

     とたきなに後ろから忠告するはやせ。

    「来ますね。まあ……」

     いざとなれば鞄からエアバッグを広げてどうにか衝撃を軽減させようと準備をするが、はやせはそれを静止してしまう。

  • 71二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 03:20:07

    >>70

    「死のうとするなよ。待って」

     はやせの方が、他の隊員を退避させる。

     扉から離れるように。もし入口から爆発しても破片やら爆風が来ないような位置に。

    「はやせがまた変なこと思いついてるやつやな」

    「まああいつなら大丈夫やろ」

     ドアノブに紐を括り、紐の端を近くの柱にくるりと通す。滑車の原理で以て遠くから紐の先端をぐっと遠くから引っ張る。

    「いくで~」


     バァン!! と爆音がして扉が吹っ飛ぶ。

     扉が軽く拉げて、後ろ側に叩き付けられ、目視できるぐらいの大きな金属片が奥の壁に幾つも刺さっている。

     ごくり、と息を飲む音が嫌に響く。

     完全に殺意が込められた罠で、最初の扉かからこうであれば中に進むのはかなりの注意が必要になる。

  • 72二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 05:32:07

    >>71

     この間の廃船にはこんな仕掛けはなかった……と口々に怯えたような台詞を漏らす。

    「……わたしが先に行きます。みなさんは後からついてきてください」

    「それはダメや。隊長が先に死んだら困る。ウチが先行くから」

     はやせはコロン、と破片の一部を拾って入口に放り投げる。何かセンサに反応したのか銃撃が奥でされた。

    「な? こういうのカンが働くの、ウチやし」


    ――

     クルミの捜査網が全てを把握しきれないのは久々のことで、随分手こずりながら情報を集めていく。

     京都市内で秘密裏にDAに回収された者たち。主な罪状は銃刀法違反。密売銃の所持。これだけなら単に警察に任せればよいのに、徹底的に秘匿され違反者は全員DAの施設から出た痕跡がない。

     温情で考えるのなら取り調べ中、しかしDAの習性を元に考えるのなら……もうこの世にはいないのだろう。

    「なあ、東京のDAは腐るほど情報残しておく習性がある癖に、なんで京都は抹消しがちなんだよ~」

     パチバチとキーボードを叩き、ミズキに訊ねる。

  • 73二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 09:09:35

    保守しておく

  • 74二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 15:30:19

    ほしゆ

  • 75二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 20:28:38

    >>72

    「よく知らないわ。まあ、あっちは結果オーライみたいなところあるしね。東京の方が新設で、手続きにうるさいってだけかもね」

    「ははあ……東京のDAも割とヤバイやつらだと思ってたけど京都も京都でマズイところなんだな」

     捜査に関わる文書を秘匿し、それどころかゴミ箱に易々と持って行ってしまう。それが今回のハッキング――千束とたきな救出を妨げているのだから質が悪い。


    「予期せず消されたのかと思って、調べてみたけど何かシステムに侵入した形跡とか改竄された様子も見受けられない。犯人の方も結構優秀なハッカーでも雇ってるみたいだ」

     クルミはある人物の顔をふと思い出す。正確に言えばそれは顔ではないが、ここまで執念深く自分に挑戦しようとしてくる相手は「アレ」しか取り敢えず考え付かなかった。

     しかし、もしそうだったとしても現在出来ることもないと思い、次の話題に移る。


    「ただ、たきなは見つけられた。こっちは屋外だからな。まあ……優秀そうに動いてる。この位置だと隊長か?」

    「そうね。ただ誰一人ファーストが居ないのが気になるわね。普通一人は現場監督として残されるはず。……どっかでもっと大きな事件でも起きてて、そっちにファーストたちは駆り出されているのか……」

     たきなが複数のセカンドと少数のサードを引き連れて船やビル内を暗躍している様子を狭い画面の中で捉える。

    「それは気になるな。あと小畑なんだが、特に怪しい動きは確認できない。たまに外に行ってお菓子を買うぐらいだからな」


    「ほんとの小市民ね、でも……なんとなく怪しい気はしてて、別の同僚に調べてもらってる。あと少しで結果が来るとは思うんだけど……」

    「怪しがる気持ちはわかる。例の鞄爆弾を持たせたのはコイツだし。DA内の画像が確認できれは白黒つくんだが」

     クルミとミズキは臨時閉店したリコリコの中で調査を続けているが碌な進展はない。

     公式の文書の中では、千束とたきなが爆弾犯として捕まったこと。捜査に協力するという情報が載っているぐらいだ。

     千束に関する情報はまったくと言っていいほど取れない。

  • 76二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 20:29:16

    >>75

    「DAが使ってる無線を前に乗っ取ってたって言ってたじゃない。たきなに訊いてみたら?」

    「ボクもそうしたいんだが、なんか無線全体の調子が悪いんだ。たまに繋がるけど……どうもダメだな」

     あちら側の会話がサーーと雑音に紛れて聞こえなくなるし、たまに繋がってもこちらが発話しても向こうからも反応がない。多分通じていないということなんだろう。


    「単なる設備の不調なら何やってんだコイツら……なんだけど、意図的に妨害しているなら、中々の手練れね」

    「ああ。このボクを遠ざけるぐらいなんだからな。あとミズキ、例の件なんだけど――」


    ――

  • 77二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 23:51:00

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 04:03:43

    >>76

    ――

    「ブービートラップが多すぎますね。一旦退避して作戦を練り直しましょうよ、たきな」

     隊員からの悲鳴にも似た申し出にたきなも頷きかける。しかし、何か思うところがあるのか、それに首を横に振って応える。

     サラサラとした長い髪が夜の闇に艶めいて舞った。

     最初の爆発トラップを越えて、四枚目の扉に面するまでにもう八回は爆発と機関銃の自動掃射を経験している。

     使い捨てとして設計されたリコリスとて命は惜しい。いや、それよりも彼女たちの頭に最初に浮かぶのは、単にこれだけのブービートラップが仕掛けられている場所に周到な用意なく行っても、武器の押収もしづらいし実行犯と戦うことだってしづらいという実利の面であった。


    「こんなに罠が仕掛けられている……ということは本命ってことなんですよ」

    「たきな! 装備が貧弱なのに進むのなんか自殺行為や! 防護盾やチョッキの用意整えてからでもええやん」

     そうだそうだ、とたきな以外の隊員からは退避の提案が出る。

    「そうですが……。本命であるなら早くに犯人たちを捕まえなければなりません。こうしている間にも犯罪が進行しているかもしれません」


     隊員たちと誰ともゴーグル越しですら目を合わさず、俯いて、床に向かって彼女は話す。

    ん? とピンときたはやせは一歩前に出てたきなに相対する。

    「たきな、犯人を捕まえたいのはウチらも同じや、でも仲間も殺したくない――分かってくれるよな? これだって……」

     ここまでで一瞬躊躇い、それでもなお続けた。

    「これだってたきなと同じ」

     言うべきか言わざるべきかで悩んだ。でも、これを言ったときのたきなの挙動に変化があるかどうか、はやせは見極めたかった。


     がばっ! とたきなの肩を腕で絡めるように抱くと、はやせは彼女を部屋の隅に連れて行く。いいや、押し切るようなものが表現として正しい。

     素早くたきなの耳に付いていたインカムを奪ってスイッチを一回切る。

    「司令に千束のことで脅されたろ」

    「! ……なんでそんなこと」

  • 79二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 04:05:08

    >>78

    「何年一緒に居たと思う? たきなと滝川で『たきたきコンビ』やぞ?」

    「今日が……決行日であるという情報を掴んだそうです。ですから、今日やらなければ……」

    「情報掴んでる癖に装備が暗視ゴーグルぐらいしか追加で貰えないのおかしいやろ」

    「目立ちすぎるからでしょう。ゴーグルは鞄に入りますし」

     いちいち反論してきやがるなこいつ……とはやせはショートカットの髪を指でぼりぼりと掻いた。

    「ウチ、結構司令のこと好きなの知っとるやろ? だから贔屓目で見てるかもしれん。ここのみんなもそうやと思う。でもな、決行日に装備が貧弱なのはダメや。たきなが死んでまう」

    「別にわたしなんか……」


    「なに言ってんねんアホ、それ絶対千束に言うなよ? それに、たきなが死んだら私も死ぬからな後追って」

     はやせは自分の銃を抜いて、自分のこめかみに銃口を当てた。

    「やめてください。命を粗末にしないで下さい」

    「おあいこやな、ちゃんと心しとけや」

     話は終わった、と言わんばかりに、たきなの身体を抱えて船室から出ようとする。


     ズズスと地が震えた。波の上下に船が適応する。意味するところは一つ。

    「出航……したんですか?」


    ――

  • 80二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 04:08:22

    >>79

    ――

    「本当によかったんですか? 自分も乗り込んで操舵してしまって。いくらでも遠隔操作できるというのに」

    「いいの。こういうのは自分でやらなきゃね」

    陽気な、いつも通りの顔で受け答えする小畑。彼女は今、船を操っている。

     DA職員は乗り物の操縦の訓練を受ける。彼女は特に船を愛した。

     自分の身体の幅よりも大きな舵輪を器用にクルクルと回しながら、鼻歌混じりですらある。

     非常に大きな船だというのに、滑り出しは快調、今はもう既に沖合にいる。


    「船内でちょろちょろしてますよ、リコリスたちが」

    「ええ。でも……少しの辛抱をしてもらうだけ。でも邪魔なら、撃っちゃっていいわよ」

     脇に控えている部下にその通り伝える。伝わった事柄は直ぐにでもまた別の部下に伝えられるだろう。それは、今時古いと技術者に嘲笑を以て迎えられるだろう、伝言とメモというものによって。

     この船の中には、小畑とその部下が実に三十人は下らない数が乗っていた。

     地上の、と言ったら語弊があるだろうか、昼ならば太陽の光をもろに浴びるような場所にしかまだリコリスたちはいない。

     いつ部下と彼女らとが相対するかは、まさしく風の行くまま気の向くまま……といった風情なのだ。

    ―― 

  • 81二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 08:29:41

    >>80

    「だめだ! もうだいぶ港から離れてもうた。……戻れん」

     隊員たちは甲板の手すりまで駆け寄る。数十分前まで立っていた岸はもう遠く、ただ柵から身を乗り出して遠目で追うぐらいしかできない。

     船は快く速度を上げて、静かな海に乗り出す。暗い、柔らかな水面をスイスイと切るようにして何の障害もなく沖の方へと進み行く。

    「ここが武器庫って話で、密輸に走ってんだよな?」

    「そうかも。しかも動いてるってことは、中に犯人がいる。機関士、通信士、操舵……少なくとも五人いることになるか」

     リコリスも専門ではないものの、複数の乗り物に関する知識は得ている。その上で状況を判断する。

    「救命ボートを下ろして……岸に戻るのはどう?」

    「だめです、ブービートラップの格好の仕掛け場所です」

     救命ボートは法定装備なので見えるところに確かにくっ付けられていた。しかし、今までの経験上、何か自分たちの利になるようなものは大体罠が仕掛けられているものなのだ。

     目視は出来ないが、どこかにワイヤがついていて、ボートを降ろそうとするとそれが引っ張られてもう一方の先に付いていた手榴弾が爆発するなんてことも古典的だが十分にあり得た。

     今にもボートに飛びつきそうな隊員をたきなは制する。

     それも確かにそうだ、という雰囲気になるが、そのうちの一人が言う。

    「ってことはですよ? たきなさん、これって私たち密出国になります?」

     

    ――

  • 82二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 08:30:25

    もうそろそろで終わります。少々お待ちください

  • 83二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 19:04:10

    ほしゆ★

  • 84二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 23:34:06

    待つ

  • 85二次元好きの匿名さん23/08/14(月) 10:04:05

    ほしゅしておくね

  • 86二次元好きの匿名さん23/08/14(月) 21:53:57

    まだかなー

  • 87二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 02:13:46

    >>81

    ――

    「たきなの隊が調査している船が出航してしまいました!」

     その言葉に画面を眺める職員の全てが固まる。

     港近くの監視カメラと衛星映像から確かにそれはたきなたちが今、捜査中の船が沖合に向かって進んでいることが実に鮮明に映し出されている。

     口々に、嘘だろ信じられないなどと衝撃を受けて呟くが、更に職員は絶望的な計算結果を発しなければならない。

    「このまま行くと二時間以内に日本の国境を抜けます!」

     助手の報告に司令はキッと歯噛みして画面を睨む他ない。

    「通信は? まぁた通じひんなんてことはあらへんな」

    「通信自体は出来ます。たきなの声届いております」

     操作手がキーを叩くと部屋の隅に据えられたスピーカーから、「司令! 指示を乞います! それから! 救援を要請します! 内部で戦闘発生中です! こちらは武器弾薬人員全て劣勢!」と簡潔かつ悲痛な声が響き渡る。そしてその後ろでは銃弾の発射されるような音と隊員が呻くような声。


    「司令、失礼します」

     先ほど前控えていた助手がタブレットの画面を司令に示す。

     ちらっと視界の端にだけそれを捉えて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそれに渋々といった様子で向き合う。

    「はぁ……君影草の親方がどうしたんです」

     リリベルを司る虎杖、が司令の口に言わせれば趣味の悪い、紫色の背広を着て画面に映っている。時たまカメラ越しに何かを命令している様子。あちらもあちらで何か忙しそうだ。

    ――そしてその忙しさの素であるリコリスの司令に連絡してやったという体だ。

    「どうしたもこうしたもない。これは失態ですな。直ぐにリリベルを向かわせ全滅させることを伝えておく」

    「確定事項みたいに仰いますなぁ?」

     どことなく馬鹿にした抑揚。実際馬鹿にしているのだから仕方がない。

    「下手に国境を出られて騒ぎになったら非常に困るのでな。密輸犯もろとも死んでもらう」

    「あら、でも……どうやって行くつもりです? もう外は……」

     先ほどまで眺めていた窓の外の景色を虎杖にそっと伝える。

    「台風ですよ? お得意のヘリは飛ばせませんな」

     少しの条件違いで支えられていた天気が、ふとした弾みで崩れた。

     外は予定されていた通りの大雨、そして大風。


    ――

  • 88二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 07:52:07

    >>87

    ――


    「小畑のプロフィールを割るのにすごく苦労したわ。今回の首謀者は全部こいつね」

     怪しいと直観していた小畑の行動につじつまが合う。ミズキが独自の人的調査網を使って得たデータだ。

    「偽の職員だったか?」

    「いや、本物は本物。元リコリスの優秀な奴ね。でも、妨害工作はコイツの仕業」

     クルミに構内のログを漁るように助言したところ、不正に改竄された箇所は全くなかった。ただ単に最初から不正な値が正規の手順で登録されていたのだ。


     無線の修理予定日が意図的に本来より遅く登録されていたり、救護車の中に備え付けられる救急キットの手配をしていなかったりと正規の手段で達成される嫌がらせ、妨害工作がズラズラと書かれていた。

     そして、登録者は様々な実在する職員の名前であったが、需品科、衛生科の彼女なら自在に変えることもできる。

     たきなたちが司令に渡したとされる爆弾の原料も訓練用として消費されていると記録されているがこれも小畑によって書き換えられているはずだ。


    「……これじゃあ紛れてしまうのも無理はないな。通信の不調の原因が無線機本体のハードウエアならボクがなんともできないのもその通りだ……考えたな。あ、そうだミズキ、頼んでたやつはできたか?」

    「こんな日にですか?! って何回も訊かれちゃったわよ。これでまたDAの中で私の評判が落ちるわ……そして婚期が遠ざかる!」


    「近づいてきたことなんかないだろ、ほら! 早く行くぞ!」

    「命令すんなガキンチョ!」

     二人は喫茶リコリコを大慌てといった様子で出て行く、カランカランとドアベルが乱雑に鳴った。


    ――

  • 89二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 13:07:56

    保守!

  • 90二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 00:17:32

    >>88

    ――

    「錦木千束がそこにいるはずだ。どうしてもリコリスの連中を助けたいならそいつを使わざるを得ないだろう」

     虎杖は至極当然といった雰囲気でそう提案する。が実際は命令に近いようものだ。

    「流石耳が早い。ただ、あの子は以前みたいな自由の身ではないんですわ」

     ことのあらましを伝える。虎杖はふぅとため息を吐いて、そうかとだけ言う。

    「取り調べが終わったのなら処分した方が良いだろう。それから、リリベルは今回は撤収だ。もうすぐ日本の排他的経済水域を出る」

    「そうねぇ……そうしときますわ」

     言いたいことを言いたいだけ言って消えて行く虎杖に苦笑しつつ、司令は椅子にキィと身体を預ける。


    ――

  • 91二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 00:18:36

    >>90

    ――


     バァン! と発射音が雨の吹き荒ぶ海を乱高下しながら進む船の上でいたるところから聞こえる。

     たきなが率いる隊は苦戦を強いられている。

     まず、人数の問題だ。たきなの隊は十名程度の小規模のものであった。敵方は軽くその倍はいるだろう。

     次に、装備。例によってリコリスたちは拳銃と、今回は特別に与えられた暗視ゴーグルぐらいしか持っていない。

     対して相手方は何連発も可能な自動小銃は勿論、手榴弾すら持っていることによって攻撃の効率に差が開いてくる。

     そして最後に、未知の性能を発揮する武器に対する困惑だ。

    「なんなん? この弾……?」

     敵方の銃弾を喰らって倒れた仲間の治療をしようとしてぐいとその身体をこちらに引き上げると、キラキラとした青い粉が服についているだけで、血も何も出ていない。

     ただ激痛のあまり患部を押さえて呻いているだけ。死んだ方がマシな痛みを一瞬のうちに植え付けられる。


    「これ……ほんとに千束の弾」

     たきなはサラサラとした弾の粉を指にとって眺めると、その見覚えのある感覚に閉口した。

     まさか本当に千束がこの計画に関与している? そんな訳あるはずない。


    ――

  • 92二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 07:54:04

    保守〜

  • 93二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 12:56:16

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 22:16:15

    >>91

    ――


     千束を収容している部屋の前に司令はいた。彼女を解放するためか? 否、千束もそれを期待して笑顔を司令に向けていたが、どうやら様子が違うと、不審と緊張とを混ぜた表情を改めて向ける。

     鉄格子や分厚いアクリルで以て遮られた二人は、暫し言葉を飲んだ。

    「もう疑いは……晴れたんですよね? だって直々に来てくださるってことなので……」

    「今日はあんたの今までの貢献に免じて予告をしに来ただけや」

    「な、なんのです?」

     死刑の前に予告ってやつですか。最後の晩餐を選べる的な? などといった文句がポンポンと千束の頭に浮かんだ。流石にそれは口には出さなかった。


    「たきなはもうすぐ死ぬ」


     ぽそり、とそれだけ司令の口から出た。

     一瞬、何を言われたのか、千束には判断がつきかねた。

    「は? 嘘でしょ、冗談はやめてくださいよ、えっ? 怪我したんですか?」

     それには答えない。代わりに、

    「たきなは、正確に言えばたきなの隊は、作戦上の失敗により彼女らが潜入した船が国外にもうそろそろ出そうになる。そしてたきなには監視の為に……ある一定距離を超えると致死量の毒が身体に回る首輪がついている。もうそろそろその一定距離に差し掛かる」

    「何……してんだよ! たきなに何してんだよ!」

     ガン!!! とけたたましい音を立てて、千束が鉄格子に食って掛かる。

     厚さが何十センチメートルもある扉だというのに、こんなにも音が出るのか、本当に今にでも壊れるのではないかとも予感させる気迫。

     真っ赤な、尖った双眸が鋭く一直線に司令の眉間を狙っている。

     とん、と助手は一歩退いてしまうぐらいだった。

    「勘違いするなよ、まだあんたらは被疑者や。せやからあんたはこんなところに入れられとる。そしてたきなは監視されとる。わかるな?」

  • 95二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 22:17:55

    >>94

    「だからって……だからってなんで……私をここから出して。そうすれば、たきなたちは勝てます」

    「そうしたいのも山々なんやけど、もう死が殆ど確定したセカンドの為に、有能なファーストを送り出す訳にはいかないんよ。わかってくれるな?」

    「たきな! は……セカンドとかそういうのじゃなくて、私の相棒なんです。そんな風にまるでただの材料みたいな言い方しないでください」

     司令の言い草にカチンときながら、口汚く罵ることは堪える。

     材料である、ということを千束だって心の底では理解しているから。自分だっていくらファーストだなんだと煽てられ、祭り上げられていたとしても、単なる戦闘用機械であることを知っていた。そして、DAは自分たちをそのように管理運用していることぐらい。

    「それは分かる。しかしセカンドぐらい幾らでもいる。相棒の代わりはいる。たきなは立派なリコリスやろ?」

    「はい、当たり前です」

    「なら、死の覚悟ぐらいいつでもしてるな?」

     それは事実だった。作戦で死亡する者は幾らでもいた。そして元相棒を見送った後、後任が来て作戦を遂行するのには困らない。殆どのリコリスたちはそういった「交換」を何回か経験する。そして今度は自分が見送られる立場になるのではないか、と薄らぼんやり覚悟しながら生きている

  • 96二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 22:20:19

    >>95

    「……」

     そして千束はそれを十分に理解していた。

    「たきなは遠隔射撃が非常に得意です。ご存じですよね」

    「ああ、あれは非常に素晴らしいもんやな」

    「それから、私は近接戦闘では他の追随を許しません」

    「そうやな」


    「……私たち二人を組ませれば、DAが苦手としている証人の生け捕りの成功率が上がります。事実実際、実績としてそうですよね。私が近くから攻撃して、たきなが後ろから私が倒しきれなかった奴らを実弾ですが非殺傷でどうにかできる。あれほど銃の取り扱いを精密にできるリコリスなんかそう簡単にいないんですよ。それに個人プレイだけじゃなくて、状況判断能力も優れていますから延空木での活躍だってあった筈です。それに、あそこから落ちそうになった私を掬い上げてくれました。彼女がいなければ私は今ここに居ません」


     自由落下がいきなり止められて、身体に掛かった衝撃が鮮明に蘇る。

     動きもしない心臓がドクンと跳ねるような感覚がその時にはある。

    「……せやなぁ。たきなはそうや」

    「日本の治安の為に、たきなは必要なんです。私の、個人的な思い入れだけじゃないんです。あなたが、司令が有能と評してくれた私の能力を十全に発揮するためにも必要なんです」


     千束は滔々と懇々と司令に対して彼女の有能さ有益さを示す。京都から転属してくるぐらいだ、実際に優秀なのは司令もよくご存じだろう。それを失うことの損をなんとか感じてもらいたいと思って。

     個人的な思い入れを訴えても仕方がないと、千束は感じ取る。ならば損について話せば、と。


    「なるほどな……。言い分、確かに分かる。しかし、もう……」

     司令は頭を左右に振って、またクルリと背中を千束に向ける。

    「外は荒れてる。近づくことは……無理やな」

     カツンカツンと踵を鳴らして去る。その後ろ姿に対して千束はいつまでもいつまでも呼びかけていた。

    ――

  • 97二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 07:23:30

    京都時代の友達SS復活していたのか!
    そしてもうクライマックスじゃん!うわーどうなる!?

  • 98二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 12:56:22

    保守

  • 99二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 21:30:40

    >>96

    ――


    「小畑。放送の準備はできています。いつでもできますよ」

    「ありがとう。そうね、出来るだけ早い時間でやりましょう」

     小畑は舵輪を手繰りながらそれに応える。

     

    ――


    「司令! 京都全域の放送が乗っ取られています!」

    「うちらは後手後手の後手なんか? しっかもまあ……放送を乗っ取るとか、独創性がないこと」

     半ばうんざりした様子でその報告を受け取る。

     報告通り、タブレットにはそのような映像がきっちり動いている。少し異なるのは、今回は放送者の顔が大写しになっている状態ではないということ。

    あるのは、多くの書類のスキャン画像、そしてリコリスの活動している映像やDA施設内の写真だった。


    『こんにちは。以前、真島という人物が日本における、女子高生に扮した秘密警察についての事実を放送したと思います。案の定、それらは秘匿されまたは解釈が書き換えられ、東京都が製作した映画ということになりました』


     綺麗な女性の声の放送。淀みなく喋るそれは恐らく合成のもので、始末の悪いことに、今回は英、仏、中文の字幕が付き、インターネット上にも同時に配信されている。


    「なにこれ?」

    「え、リコリスクライシスの続編とか?」


     街中で、家の中で、多くの者はその放送を受けとる。今度は国内外に数万、いや数百万人の人間に一斉に届く。用意周到なことに、その動画は世界最大級の動画サイトにあげられ、そしてそのページから動画のダウンロードページにまで遷移できるようになっていた。


    『あの放送は真実です。日本にはどの法令にも基づかない組織があり、それらは裁判なしに被疑者と思われる者を殺しまたは予防拘禁をする、といった白色テロを行っています』

  • 100二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 21:32:55

    >>99

    動画の来訪者数を示す数値が一秒ごとに何万、何十万と上がっていく。

     監視カメラに捉えられた、サードリコリスが銃を構えて、通りすがりざまに男を射殺している様子。

     駅のホームのベンチに座っている者がまた撃たれ、どこかへ運ばれていく様子。

     いくつもの短い、しかし決定的な証拠が次々に世界中へ拡散されている。


    「司令、訂正があります」

     凛、とした様子の助手がたったいま受け取ったばかりの情報を持って参じる。

    「なんや?」

    「先ほど、放送は京都全域といいましたが……」

     ごくり、と彼女は喉を鳴らす。

    「この放送は、殆ど全世界同時中継です」

     

    「日本の放送局へはどうにでもなります。しかし、世界中のサーバーに同時多発的にアップロードされています、そこはどうにも……。CNNの生放送にまでジャックが効いてるとは……」

     助手は悲痛そうにタブレットを操作しながら司令に告げる。

    ――日本の法に基づかない組織が、日本の法の範囲外の組織に苦慮するのは因果応報だろうか?


    『そしてそこで働く少女、少年たちは孤児であり、幼少期から衣食住を人質にとられ、このような行為に疑問を抱かぬように育てられます。そして彼女たちには戸籍、その他の公民としての権利や市民権――人権がありません。勿論これの選択の自由も』


    『彼らが死んだらどうなるか。弔われずにただ焼き捨てられるだけです』

  • 101二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 21:37:48

    >>100

     裁判や法に基づかない『法執行組織』があるという告発は実はそれほど世界にとって衝撃があるものではなかった。

     必要なプロセスを飛ばして現場射殺をするような国も依然あるからである。

     しかし、リコリスたちが暮らす棟や、訓練の様子が映し出されると、打ち込まれるコメントの質や量が劇的に変わった。

     それまでのコメントが、警察や軍隊に関する秘密組織に関する考察や感想、擁護だとしたら、その情報が流れた瞬間に人攫いのテロリスト集団を糾弾するものに変わったと言ったら一番端的かもしれない。

     様々な批判があるが、軍人や警察官は基本的に職業として選択するものだ。訳も分からず連れてこられた少年少女はいない。


    『彼らの本拠地は日本のここと、ここ。ここに集められた少年、少女たちはこのような白色テロを強制させられた後、必要とされる各国に傭兵として、いいえ、市民権の無い状態で道具のように出荷されていくのです』


     DAやその他の拠点を地図上で示され、画像も大量に載せられてしまう。と

    「リリベルのことまでバラしよってからに……」

    「司令、指示を待っています」

     助手がそう言ったが、その言葉はここにいる全ての者の総意であるに相違なかった。


    ――

  • 102二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 07:20:49

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 13:23:26

    ほほほほほしゅ

  • 104二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 22:09:36

    まだかなあ

  • 105二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 05:38:07

    保守

  • 106二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 12:13:33

    >>101

    ――

    「おいおいこれはマッズいだろ……」

     タタタタとパソコンを操りながらクルミは呻く。クルミはすぐさま放送を妨害しにかかるが、何分、数が多すぎて手が物理的に回らない。

     動画サイトにあげられたそれは瞬く間に個人の端末にダウンロードされ、加工され、動画配信する人たちによって「fake news or not ?」のような派生動画が作られてしまう。


     それらを潰している間に、各国の公式の放送がそれをキャプチャして「突然のことで驚いている。もしもこれが本当のことであれば、少年兵を禁じる条約に反する」と懸念を表明している。

    「真島より厄介ね、小畑」

    「消すのは別に問題ないんだが……複製が早い、そして多すぎる。あ! ミズキ揺らすな!」

    「しょうがないでしょ! こんな雨風の中飛ばせなんて無茶なのよ」


     二人は洋上。船ではなくヘリであった。こんな時に飛ばすことは普通はできない。

     実際、どのDAの職員でさえもここには来ていない。落ちると分かり切っているようなものだからだ。

     しかし、やっと掴んだ情報、このままだとたきなは死ぬ。

     それを実現させてはならないと二人は嵐の切れ間をどうにか探して例の船を探している。

     揺れは言うまでもなく大きく、水平を保つことすら難しい。


    「うへ~『ナチですら法はあった』『Disposable Agent』みたいなハッシュタグが出来てる。ヤベ~」

    「笑い事じゃないのよ、まったく……。でも十人は搭乗できないのよこのヘリ。とりあえずたきなは乗せるとして……」

    「たきなが絶対拒むよな。自分だけ逃げるわけにはいかないって」

     ……はぁとため息が空間を支配する。

    ――

  • 107二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 12:14:53

    >>106

    ――

     

    「もうすぐ台風の目が来ます! 二十五分二秒の間にすべてを片付けましょう!」

     たきなはフラフラになりながら、甲板の上でドラム缶の上で隊員を鼓舞する。

     風雨が酷く、こちらの銃弾は軌道がブレてしまう。これではどうしようもない。

     対して敵方は無尽蔵とも思えるほどの銃弾――例の青い物を使い続け、こちらに大きな損害を与え続ける。

     たきなはインカム越しに与えられる、台風の目に突入するという情報、そしてDAの救援ヘリも来るという情報に賭けた。


    「なんかもうすぐ国境超えちゃうって話なんですけど!!!」

     隊員が震えながら銃を握りしめる。ドラム缶に背中を預けて祈るように目を閉じる。

    「絶対他の国の警備隊が撃ち殺しに来るよぉ……」

    「そもそも海保が来ないのは変だろ」

     こんな時でも、いや、こんな時にこそ無駄話をするように彼女らは習性づけられている。

     絶望しきらないように。活路を見出せるように。


    「たきな、髪」

     はやせから黒いゴムが渡される。あまりにも濡れて乱れて活動に支障がありそうに見えたのだろう。

    「……ありがとうございます」

     前方への警戒感を途切れさせぬまま、それを受け取り纏める。最近はめっきり一つに結ばなくなったな、などと場違いな逡巡。

  • 108二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 12:17:38

    >>107

    「まず、なんでうちらずっと甲板にいるんやっけ?」

    「中に入ったら罠だらけで、しかも滅茶苦茶撃ってくるからですよ……」

     一旦は侵入に成功したが武器と物量とに圧されて出て行かざるを得なくなったということだ。

    「あいつら、実はウチらを殺す気ないんじゃないか?」

    「……なるほど」

     実弾の何十倍も高価な非殺傷弾を撃ちまくってくることから、そう推測しても変ではない。例のブービートラップも本物と比べると曖昧に弱い。


     ああ、そうこうしているうちに台風の目が近づく。たきなたちにとって非常に有利。ということは、同時に相手方ももっと精度よくたきなたちを狙えるということだ。

     弾が死にはしないものであったとしても、怪我は当然するし、当たれは動けなくなる。


     甲板は広い。一般的な二十五メートルプールが四つは広げられるほどの広さにまだまだ余りがある。

     テーブルやドラム缶、その他の資材が点在していて、船首の方にリコリスたちが追い詰められている。後方の船室の方に敵方がいて、睨み合っているような様子だ。

     船は轟音を立てて上下運動し、また気まぐれに揺動して全員に等しく船酔いを提供している。

     リコリスが隙を見て動こうとすると撃たれ、二進も三進もいかない。

     雨を吸った服がぐっしょりと重い。腕に袖が巻き付いてきて、銃の操作がいつも通りいかない。


    「あと、十分で台風の目です。そしたら一気に攻め立てましょう」

     その頃にはDAの救援が来ている筈。とたきなは天を仰ぐ。

     特に何ら影のない空を。

  • 109二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 17:51:58

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 02:21:06

    まだですか!

  • 111二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 12:22:10

    >>108


    ――

    「メディアの反応はどう?」

    「みな衝撃を受けています。案の定日本向けの放送は削除されてしまいましたが」

    「他に残っているのならそれでもいいわ」


    ――


    「目です! たきな!」

     その声と共にふんわりとした光が周囲を照らす。

     船の上下動は収まり、凪のよう。

     天は、にわか晴れ。台風の目に入った証拠だ。

     隊員たちは気分が悪そうにしながらも、戦闘の準備には入っている。

     

    脱兎のごとく駆け出す。非殺傷弾は真っすぐには飛ばない。それが本当に面倒くさいんだ。 

     たきなは相手方の死角から実弾を放ち、まずは肩を、次にふくらはぎを着実に撃ち抜く。

     その間に分かれたはやせは、船室の中に次から次へ空のドラム缶を転がして侵入させ、あらゆるものをなぎ倒してく。

     センサが反応して爆発したり、何かのワイヤが引っ掛かって銃弾が放たれたりと付き次にネタが割れていく。

     どこからか拾って来た一斗缶を小脇に抱えながら、中にガラクタを沢山入れて、空間に侵入する前に放り投げでセンサと仕掛けの挙動を把握。

     それを順次壊していく。


    「たきな! いけるで!」

     たきなたちに声を掛けて、船室になだれ込む。もはや殆どの罠は攻略されてしまった。


    ――

  • 112二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 12:22:51

    >>111

    ――

    「ここ、こんなふうになってるんやな」

     電気がつかない船室内に、はやせたちは警戒しながら進む。窓が大きい造りの客船だから辛うじて月の灯りなどが道を照らしてくれる。

    「ええ、なんというかこの間入った船もこんな感じでしたし」

    「ブリッジ……操舵室って上の方やんか、中々……怖いな」

    「分かります。上からの襲撃というものは怖いものですよね」


     下の階や、その他の場所に隊員は散らばって捜査を開始している。たきなとはやせは二人で本丸である操舵室を狙う。

    「千束なら……多分余裕なんでしょうね。どんな罠があっても見抜けてしまう。ワイヤがは張られていても見えてしまう」

    「すごいな、まるで千束博士や」

    「たった一年と少ししかいないんですけど、分かりやすい人ですから」

    「なるほどな」


    「リコリスの、井ノ上たきな様と滝川はやせ様ですね」

     突然声を掛けられる。前方にいたのに全く気付けなかった。一気に警戒レベルを最大近くまで上げる。

     それは細身の男で丁寧にセットされた髪と細い目と優しそうな声が特徴的だった。


    「誰だ」

     二人して一斉に銃口をそちらに向ける。

    「DA職員の沢木といいます」

     襟に着いたDAという文字変形させたバッジを彼女らに見せる。

     制服を着ていないときは、このような徽章を確かに着けることはある。

    「……?」

     なんでそんな奴がここにいるんだろう。という疑問が真っ先に浮かぶ。

     見たところ、特に何も……。武器を帯びている様子もない。

     手ぶらで、手を前に組んでいた。

    「……沢木さんが一連の犯人ですか」

     はやせがたきなの身体を守るように前に出て、質問する。

  • 113二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 12:23:43

    >>112

    「そうですね。その一人です。尤もただの雑用係でして、尋問するには不足でしょう」

     あっさり認められすぎてどうしようもなく力が抜ける。

     そして、複数の人間が関係していることまで仄めかされる。まあ、何人もの銃を携えた仲間がぞろぞろと出てきているのだ、単独犯だと言ったら大嘘だ。

    「どこまでやったんですか」

    「放送を乗っ取ったのは私たちです」

    「何のために?」

    「それは本人に直接聞いた方がいいと思います。正直私には分かりかねますからね」

    「共犯なのに?」

    「なんというか、籠っている熱が違うんですよ、説明するときの。ですから私が言うよりも効果的というか」

    「……主犯の所に連れて行ってくれるってことですか」

     どこまでも暢気そうな沢木の受け応えにたきなは表情を曇らせるし、はやせは次々に質問を投げる。

    「はい。というか、もうそろそろその時でしょう」


    ――

  • 114二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 21:44:53

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 01:54:30

    わくわく保守

  • 116二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 08:43:40

    保守

  • 117二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 18:25:35

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 00:54:07

    >>113

    ――

    「こんばんは、井ノ上様、滝川様。需品衛生科の小畑花子といいます」

     殆ど何の抵抗もなく、その首謀者に会うことができた。

     操舵室から出て来た彼女は、白っぽいコートを着て、長い髪を優雅に後ろに流した、可愛いというより綺麗な女性だった。

     カツン、カツンとヒールを鳴らして、二人の前に立つ。

     そしてそのまま一人掛け用のソファに座ると二人に三人掛け用のソファを勧めた。

     ここは、操舵室近くの応接室のような場所。七メートル四方の家具もないガランとした部屋で、念の為周囲を窺うが誰か人が入っていそうなロッカーやらカーテンはない。

     その部屋の入口と反対側に、操舵室への扉がある。まさしく前室と言ってもいいだろう。

     ただ、無警戒にその場所に座ることは躊躇われるのは二人共通した見解であった。

     だから、部屋の入口近くに二人は経ち続けていた。

    「……どうしたんですか? 固まっちゃって」

    「お前が首謀者なんだな? 取り敢えず早くこの船を止めろ。そして港へ戻せ」

     たきなは銃を下ろさず小畑に命ずる。

     そんな権限はないから、ただ恫喝しているだけだが。

    「勿論。ただ、目的を達成したら戻ります」

    「何が目的なんだ、言え」

     たきなの恫喝に目もくれず、窓の方に目を向けて小畑は口を開く。

  • 119二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 00:55:32

    >>118


    「あなた方は、理不尽だと思いませんか?」

    「……?」

    「存在しないことにされて、そういう仕打ちをしてきた人たちのための平和を守り続けるなんて」


    ――

     

    十二年前

    「花子……。わたしもうダメだから、早く逃げて」

     花子が腕を伸ばして掴んだ先に、一人のリコリスがいた。

     彼女は高い建物の非常階段から落ちそうで、すんでの所で、花子に助けられた。

     ギリギリのところで掴んだ落ち行く彼女の手、向こうから握り返そうという力がまるで感じられない。

     こうしている間にも、もっと上の階から激しい銃撃が来ていて、他の仲間はこれに応戦している。

     ――ビル内の立てこもりテロ事件だ。

    「何言ってんの! 絶対手を離さないから!」

     

     花子の腕も無傷というわけでもない。何か大きな銃弾が貫通した花子の腕は、だらだらと血が溢れ、役立たずの防刃防弾制服を黒く染めるし、ぬるぬるして手が滑る。

     伸ばした右手は限界に近い。でも、左手で自分の身体を支えるように手すりに捕まらないと二人で落ちてしまう。

     もう少し、もう少しだけ耐えられたら。

    「ダメだって、もう……花子の身体が壊れちゃうから……じゃね」

     ぶら下がったその子は、わざと花子の手に爪を立てて、その手から逃れた。

     

     その子の身体は遥か遠くに落ちた。それが最後だった。


    ――

  • 120二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 00:57:16

    >>119

    ――

    「思わなくはないですよ。でもこんなことは許されない」

    「こんなこと……ね。そういえば私が何をしようとしているのか、あなた方はご存じなのかしら」

     全否定されるも、特にムっとした表情を浮かべない。

    「わかりませんよ。でも、ビルの爆破の件もお前なんだろ。ふざけないでください。あれで仲間が何人も重傷を負いました」

    「あれは申し訳ない。爆破のタイミングが悪くて。全員出てった後にするつもりでした」

    「ふざけやがって……!」


    「井ノ上様。あなたの相棒の錦木千束様がDAに死ぬ直前まで酷使されたのを見てきたはずです。あなたの頑張りによって命を繋ぐことが出来ましたが……」

    「千束の話をするな!」

     カッと頭に血を登らせて銃弾を放った。小畑の耳を掠めて奥の壁に弾は埋まった。

     小畑の表情はなおも変わらない。

    「たきな落ち着け。いま殺すな」

    「わかってる、ごめんはやせ」

     

    「理解してもらおうとは思わないわ。私だって小さい頃はそうだった。リコリスとして誇りをもって生きて来た。私が日本の平和を守っていて、世界中から尊敬されるような治安の良さを保ってるんだって。毎回の訓練や任務は辛かったけれど、それが報われている気持ちだった」

     すっく、と彼女は立ち上がった。長い脚を交差させて、周囲を歩く。


    「でもね。何人もの相棒を見送ってきた。私はなぜか悪運が強くて生き残ってしまう側で、毎回毎回、仲間は死んだわ。助けられた数もあるけれど、それは問題じゃない。問題は――私たちが秘密裏に使い捨てになっていたことなの」


     小畑は特に激情に駆られる様子もなく、ただ淡々と所思を述べているだけのように見える。

     それに対して、たきなとはやせは反論するでもなく、ただ聞いているだけ……というか、あまりに自分たちと基本思想が異なりすぎるため、何を言ってよいのか分からないというか。

    「孤児であるけど、私たちも人間のはずなの。親がいなかった、それだけで死んだって無視されるような道具になる謂れなんかない」

  • 121二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 07:57:56

    保守

  • 122二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 13:12:59

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 22:16:27

    >>120

    「だからDAを潰そうと?」

     場の雰囲気がすっかり、小畑に支配されそうで、たまらずはやせが口を開いてそれを阻止する。

     大きな窓の向こう側に見える月が非常に明るく、波は凪で、ある一定の秩序が静かにこの場を支配しようとしていた。

    「潰す? そんな気はない。ただ単に『リコリスは存在する』と公式に認めてもらいたいだけ。そう、私は気づいた。延空木事件の時にね」

    「真島のことか」

    「そう。別に潰す必要なんかないんだって。DAの存在を公式に認めさせ、職業の一つとして選べるようなものにさせればいいんだ。決して行き場のない孤児を半強制的に行かせるべきじゃない」

    「……」

    「まあ、そんなところね。放送ではこのようなことも言われてるし、私の言いたいことは全部全世界に流れたわ、そしてこの船はもうすぐあちらの国に着く」


    「……! そうだ! 早く止めなさい! このままだとこの船、警備隊やら軍隊に攻撃されますよ!!」

    「それは避けられない。でも警告を受けたらそれに従う。……じゃあね」

     がちゃ、とドアノブを回して操舵室に戻った。

     たきなは一瞬にしてそのドアに飛びつくも、少し遅く、もう鍵が閉められてしまった。

     そして鍵穴の破壊に気を集中してしまったところ、はやせに警告されたが、それに対処できず脇腹に激痛を受ける。

     そして思わず蹲ってしまう。銃を取り落さなかったのはせめてものリコリスとしてのプライドか。

    「……!?」

     一人、いた。銃を持った何者かが、部屋の入口に。

    「少し大人しくしていてください」

     先ほどの沢木と名乗った男だった。

  • 124二次元好きの匿名さん23/08/23(水) 00:36:02

    >>123

    「残念ですが、これからは仕方がありません。少しだけ静かにしていて貰いたいのです」

     沢木は銃を構えて、はやせにも発砲する。

     が、これは一瞬猶予があり、はやせは避けきる。避けた先の壁に銃弾は中り、キラキラと青い粉を散らす。

     はやせは銃相手ならリーチを詰めろ、という定石に従い、銃を取って相手を撃つ。

     相手もこれを避ける。背後の排水管に孔が開いて、勢いよく小さな弾痕から水が飛び出す。

    「待て! 何故?!」

    「だって邪魔しに来たんでしょう? 結構私もこれには時間を使ったので、邪魔されると全部おじゃんなんですよね」

     無機質な表情で沢木は撃ちまくる。


     たきなは痛みからなんとか恢復すると愛銃を構えて、沢木に狙いを定めて発砲。しかし上手くはいかない。先ほどの脇腹への非殺傷弾が効いているのだ。

     チュン、と狙いが外れた弾が沢木の後方で跳ねて、どこかに孔をあけた。

     たきなはこれ以上の発砲を一瞬、躊躇う。沢木と同じ方向にはやせがいた。

     フラフラな状態で発砲すれば、どうなるかわからない。

     沢木、ちらっとたきなを見据える。殆ど動かない表情で、たきなの方に歩み寄って、銃口を向ける。余りにも殺気が出ない。

    「おや、まだ動けますか……。面倒ですね……頭を狙っておいた方が良かったですか」

  • 125二次元好きの匿名さん23/08/23(水) 08:05:56

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん23/08/23(水) 13:08:06

    保守しておくか

  • 127二次元好きの匿名さん23/08/23(水) 21:42:02

    そろそろ終わりか

  • 128二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 07:59:33

    ほしゅ

  • 129二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 13:45:04

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 22:03:17

    >>124

    その時、赤と金色の影が窓をたたき割って飛び込んでくる。


    「!」


     煌めく硝子の破片と共に、鳴る複数の銃声と、咲き散らかされる赤い花。

     しなやかな身体は着地と共に、沢木の顎に向かって銃弾を発し、すんでの所で避けた彼の崩れた体躯の隙を逃さず、脚を払って転がそうとする。

     ただの事務職員を名乗った沢木であったが、これまでの攻撃を紙一重で回避しつつ体勢を整えようとする。

     咄嗟に動けるはやせは、沢木を後ろから撃つ。

     自分の射線上に被っていたとしても、そいつなら絶対に避けられると信じていたから。


    「千束!!」


    ――


     沢木は突然現れた千束に相対し、そして彼女が近接戦闘が非常に得意と一瞬で見抜き、距離を取った。

     そしてはやせからも。

     必死で立ち上がろうとしているたきなの背中にもう一発、青い弾丸を入れてまた地面に伏せさせる。

  • 131二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 22:24:49

    >>130

    「ってめぇ! うちのたきなに何すんだよ!」

     千束は沢木の土手っ腹に発砲するが何故か華麗に回避されてしまう。何なんだ一体。

    「錦木千束様ですね。流石優秀。ここまで来てしまったのは計算違いでしたが、残念ながらここから先へは通す訳には行かないのですよ」

     ふと、たきなが転がって呻いているのを沢木は見て、厄介そうに彼女を抱える。


    「人質にでもする気か?」

     はやせの問い。銃口を沢木に向けているが、妙に身のこなしが良いから咄嗟に盾にでも使われたら困る。

    「少々お借りするだけです。では」

     何かピンが抜ける音がして、一瞬のうちに煙が辺りを暗くする。煙幕とか、やめろよ! と千束が目をいつも以上に真っ赤に腫らしながら沢木の去った入口から追いかける。

    「千束! 操舵室はそっちじゃない!」

     千束を追いかけながら叫ぶ。狭い廊下内にドタドタとした足音、そしてはやせの絶叫が響いた。

     千束なしであの操舵室に入ることなんか命の放棄に思える。

     今までの傾向からすれば、何も仕掛けられていないなんてことはあり得ない。


    「どうでもいい! 早くこの船からたきなを連れて戻さなきゃ!」

    「わかるけど! このまま進んだら国境超えてしもて、外国の軍隊にこの船ぶっ壊されるで!」

    「……! そうだけど! たなきの首、見たでしょ? あのチョーカーの中に仕掛けがあって一定距離離れたら毒が回るようになってんの! 早く連れ戻さないと! 操舵室は後で取り返す!」

  • 132二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 22:31:11

    >>131

    「はぁ?! 誰がそんなことを!」

    「司令だよ! 司令! あんな奴だとは思わなかった!」

    「ウッソだろお前、はぁ……でもあり得るな」

     煙幕が張られていたのはほんの一瞬だけのはずだったのに、沢木の姿はもうない。ただ、たきながどこか怪我をしているようで、ポツポツと垂れた血が目印になってようやく導く。

     千束は暗視ゴーグルを掛けていない。標準装備の懐中電灯を手に持ってほぼ全速力みたいな速度で走っていく。

    「あの野郎、たきなにケガさせやがって!」

    「たきなをキズモノにしたって? まあ初めてはウチがもろたけどな」

    「は?!」

     二人はその血痕が途切れた扉の前に立った。急いで蹴破ろうとした千束をなんとか制して立つ。

     単なるアルミの軽い扉に見えるが、はやせは訝しんで千束を止めたのだ。


    「あいつらトラップ大好きマンだからな、あんま勢いづいて突破するのは危ないやろ」

    「でも、この扉全然開かないよ? どうする?」

    「……何か手立てがあるはず」

     はやせは周囲を見渡して、何かないかと探る。

    「……そうか、別に扉くぐらなくてもいいわ」

     転がっていた椅子を積み上げて乗っかり、天井板を破壊。ヨイショ! と掛け声を上げて中に入り込む。

    「千束! こっからいく!」

    「うぉぉぉ! 映画みたいだね!」

     案外暢気じゃねえか、とは思ったが言わなかった。


    ――

  • 133二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 22:40:30

    >>132

    ――

    「ごめんなさい。怪我をさせてしまいましたね」

     たきなの両腕を後ろに回して手錠を掛け、床に転がす。

     客室の一つにたきなを運び、鍵を掛ける。

    「また拘束されるなんて……なんて情けないんだろう、わたし」

    「いいえ、あなたは優秀なリコリスです。分かります」

    「……なんなのお前は」

    「昔、あなた方と似たような仕事をしていただけですよ」

    「リリベル……か」

     その質問にも似たものには答えず、沈黙のまま。

    ――


    「いた! たきなだ!」


     天井裏をうごめく二つの影は、天井の隙間からたきなが床に転がされているのを捉える。

     沢木が入口の近くで待機してやがる……と二人は歯を噛む。

     客室は非常に豪華なもので、ベッドが大きいのが一つ、部屋の奥にあった、そして広めの空間に、猫脚のソファ。なぜかベッドの横の方にキッチンまでついている。

    「たきなをベッドに運ばないのなんでなんや、ベッド横の床に転がしとくとか酷いやっちゃな」

    「えっ、ベッドに連れてかれた方が私はムカつくけどなぁ。何する気なんじゃって!」

    「ああ、なるほどな。その観点はなかったわ」

  • 134二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 08:11:41

    保守

  • 135二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 14:21:20

    保守保守

  • 136二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 21:13:59

    まだかな

  • 137二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:50:51

    週末だからなあ

  • 138二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 06:48:11

    保守

  • 139二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 17:16:22

    >>133

     二人は部屋の隅の吸排気口から部屋の中に侵入する。

     キッチンがある関係で、こういう排気口は備え付けられることになっているのが功を奏した。

     電気がついていない状態だから、ライトなんか点けたら一発で居場所がバレる。

     だから暗視ゴーグルをつけたはやせが主役だ。

    「よーし。たきな……」

     ぐったりとしたたきなを抱えようとしたとき、緑色のレーザーが暗闇を切った。

     その数瞬後、発砲音、知っていたことだ。

     発砲音と共に、いきなり部屋の明かりが点く、単なる部屋の照明でも唐突に与えられると眩惑される。

     その一瞬の隙を突かれて、はやせと千束の胴体に銃弾が叩き付けられる。

     ――千束は見えていなくても、雰囲気で回避したが。


     沢木はたきなを置いて、部屋から消える。

     なんにせよ、たきな救出という目標は達成された。


    「たきな、まぁたおでこから血が出て……」

     千束は持ってきた鞄から救急セットを取り出して手当を始める。

     取り敢えず喋ったり聞いたりという受け答えには問題ない。

    「千束……どうしてここに?」

    「あっ……うん、う、疑いが晴れて?」

    「……そうですか」

     何やら怪しい、とたきなは訝しむ。


    「まあいいでしょう。わたしの手当はもう大丈夫です。二人とも怪我はないです? 操舵室に戻りましょう。阻止しないと」

  • 140二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 17:17:17

    >>139

     部屋から出ると、いや、出る瞬間に空を裂いて銃弾が飛んでくる。

     それも一発や二発ではない。雨あられという風情だ。キンキンキンキンと薬莢が地面を烈しく叩き、青い粉が空気中に執拗に舞って視界を塞ぐかのよう。

     少し屈んで様子を窺うと、防弾チョッキやヘルメット、ゴーグルを装着し、手には自動小銃で武装した奴らが数人、この部屋の入口周辺にいる。

    「千束、いけますね?」

    「いや、さっすがに四方八方はむりっしょ! しかも暗いんだけど?!」

    「ああ、千束、暗視ゴーグルかしたげる。やってき」

    「いや、あの?!」

    「早く!!!」

     モタモタ優柔不断な千束のケツを二人が物理的に叩いた。


     狭い廊下だったのが幸いする。一人の弾の軌道を読んで、その瞬間に身体を動作させ、すり抜けて行く。

     今までとの逆走、さっきまでは天井裏を通っていたが、今は正規に廊下を進まざるを得ない。

     千束は相手の兵隊をすり抜け、打倒し、どんどんと先に進んでいく。

  • 141二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 17:18:11

    >>140


     たきなはその後を進み、逆にはやせは部屋の中に次の兵隊を招き入れる。残り十名近くが客室に誘導される。

    「お、電子レンジあるじゃん! ガスも来てる」

     周囲を見回し、ボロボロになった金属片や彼らが打ちっぱなした弾丸の薬莢が大量にあることを見つけると、それらを電子レンジに突っ込んで起動させ、ガスの元栓を捻った。

     その瞬間にはやせは兵隊の間をすり抜け、ドアを潜り固くこれを閉めて椅子をドアノブに噛ませて固定。中から開かないようにする。

     先行の千束、たきなの後を追った。


     電子レンジはマイクロ波を食品に当てる機械だ。金属にこれを当てると火花が出てしまい、危険だからアルミホイルで食品を包むことは禁止されているか非推奨。

     今回は尖った金属片を大量に突っ込んでしまった。そうしてガスも沢山漏らした。

     意味するところは?


     ゴオン!!! 扉をぶっ壊しながらその客室は爆発した。中にいた者は、金属片が体中に刺さっていたかもしれない。


    ――

  • 142二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 01:58:16

    保守

  • 143二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 06:01:41

    待ち

  • 144二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 17:12:17

    >>141

    ――


    「しつこいですね。もう井ノ上様には手出しをしないつもりでしたのに」

     先ほどまでいた操舵室の前室にまた四人が集まる。

     沢木は操舵室へ通じる扉を背にして守るように立った。

     両腕はダランと垂れているように見えて、どこから取り出したか拳銃が二丁握られている。

     そして、それに臆することのなく、括った長い黒髪をたなびかせて、同じように守るように立った。千束とはやせとを。

    「船を止めなさい。国際問題になります」

     たきなの凛とした命令。多くの人は権限や階級の別なくいやがおうにも従わざるをえない風格を感じさせるもの。

    「それが目的なので構いませんよ」

     小畑だ。操舵室から出て来た彼女はにっこり笑った。照明のない前室において、その笑顔がよく、月明かりに映えた。

     自動操縦なのか、船は静かに一定の速度を保ちながら、凪の波間を滑るように走る。

     二人とも、銃口を向け合って膠着状態だ。いや、銃口の数自体は、三対二だ。

     沢木が二つ。千束、たきな、そしてはやせの三つだ。

     しかし誰も徒に発砲しない。お互いの技量を少しは分かっているから、中々銃弾は中らなくて、泥沼になると分かっている。

     その間にも、小畑は悠々と立ちながら言う。

    「日本が幾ら揉み消そうとしても、国際問題になれば――国境を越境してしまえば、絶対に無理です。真島様の計画を私が――」

  • 145二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 17:13:07

    >>144

    「俺の名前を勝手に使ってんじゃねえよ」

     その声を、たきなと千束はよく知っていた。地獄の底から聞こえるような、低くよく響く声。歩く時にする、バサバサとした特徴的な衣擦れの音。

     そして、最もその場で目を丸くしたのは

    「真島……様……?」

     小畑だった。


    「真島様! なぜここに?!」

     飛びつかんばかりの小畑。部屋の隅に立っているだけの真島は随分嫌そうな顔をしながら後退する。


    「お前、俺の計画に乗ってんな?」

    「乗っているというより共感しているだけです」

    「はは、なるほど」


     真島は真島であくまでマイペースに話を小畑と交わしている。

    「まあ、俺の時よりよく考えられてる。実際、派手だしな」

    「でしょう」

     とこか誇らしげ。発想元からのお褒めの言葉はさぞや嬉しいに違いない。

    「……でもな」

     真島は銃を抜いて躊躇いなく小畑を撃った。

     反動が少ないそれは、最小限のブレで小畑の肩射抜く。肩を貫通した。黒っぽい血がぽつ、ぽつ、と床に垂れた。

    「俺の名前を勝手に出すな。それから……全肯定はバランス悪いだろ?」

  • 146二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 00:41:20

    >>145

    それが戦いの狼煙であった。

     沢木が構えた二丁の拳銃が精密に、正確に千束、たきな、はやせ、真島のいる場所を捉える。

    「ハハ! お前ただの事務員じゃねえな。――っそうか、元リリベルとかそういうやつか!」

     リコリスの三人が苦戦している中で、一人余裕綽々で笑いながら銃の射線を避けながら殴り合う。およそ同じ程度の身長と体重だろう、それぞれの力が伯仲する。

    「てめえら! ただぼおっと見てんじゃねーよ! 船止めんだろ?!」

     吠えるように忠告されて、はやせはキュキュッ! と床を鳴らし、たった一瞬前に閉まった操舵室への扉の鍵を銃で壊す。

     内部に罠が仕掛けられているかもしれないが、そんなことは知ったことではもうなかった。

    「千束! たきなを連れて船のお尻の方に行って! あとボート使ってよ!」

     たきなの首につけられた猛毒の仕掛けが、正しければもうすぐ作動してしまう。

     少しでも日本側に近づいてくれとはやせは千束に託す。ブービートラップが作動して腕や最悪、脚がなくなったとしてもたきなが死ぬよりよっぽどいい。

    「……! ごめん! たきな連れて行くから!」

    「ど、どこに連れてくつもりなんですか!」

     たきなは自分の状況をまだ知らない。千束は直観している、たきなにそれを話しても気にも留めないで、この船を止めることを、まだ乗っている仲間の隊員のことを、そして国家の利益のことを優先するはずだと。

    「た、たきなは少しこっちに来てほしい。説明は……後でするから!」

    「だめですよ! はやせを一人きりにしてしまいました! 真島は今はなぜか気まぐれでこっちの味方ですが、いつ気が変わるか……!」

    「あの……ね! 私ここまでヘリで来たの。怪我してる仲間を運んで来いって京都の司令から……」

     イチかバチかの嘘。

    「なるほど。それなら分かります。でも……はやせが……」

    「わかってる。だからなるべく早くね」

     動かない心臓が、ズキりと痛む気がした。

  • 147二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 00:42:51

    >>146

    台風の目からはあと十分以内に出てしまう。

     急がなければ。

    ヘリポートに向かって、歩ける隊員は歩かせ、辛そうに横たわっている者は手分けして運ぶ。

     全ての者をヘリポートに集め終わると同時ぐらいに、漸くそのヘリの扉が開いた。

     丸っこい車体というより、前後に長い、多人数が乗れるような便利な代物だ。

    「……っ! お前は!」

     たきなはヘリの操縦士を見て鞄から銃を出して構えた。


    「たきな落ち着いて! 今は敵じゃない!」

     半分眠そうな目、まとまった髪。――姫蒲。

    「千束は、こいつに連れられてきたんですか?!」

     姫蒲は二人の言い争いにはとんと興味がなさそうに見え、ただ一言だけ残す。

    「吉松から頼まれているので。さあ、早く乗ってください」

     ……たきなはそれに従わなかった。


    「取り敢えず全員載せましたね! このまま彼女たちを戻してあげてください。わたしは隊長として必ず最後に出なければいけません」

     そう言い残してくるりと踵を返してもと来た道を駆け戻る。

    「な! たきな!」

     千束は一瞬、操縦桿を握る姫蒲と目が合うが、「行って!」と放って自分もたきなを追いかけて船の中を走っていく。

     

    ――

  • 148二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 07:40:57

    保守

  • 149二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 12:46:05

    ワクワク

  • 150二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 22:36:23

    >>147

    ――


    「リリベルもリコリスも強い癖に自我ってもんが……足りねえよなぁ」

     真島は沢木の攻撃を躱したり、流したりとしているが、余裕そうな口ぶりがどんどん減っていく。疲労。瞬発力に優れる真島は、同じような攻撃でも何度も受けると流石に消耗してくる。

     対して沢木の方は長年の訓練の結果か、特に呼吸も乱れることもなく、逆に動けば動くほどキレが取り戻されているかのように見える。

     殆ど月明かりだけの空間は真島にとって有利に違いないのに、ここまで互角に戦える沢木はむしろ驚嘆すべきだった。


     そんな様子を物陰から見る千束とたきな。千束はたきなの首輪の件についてまだ触れられていない。

     次の瞬間に作動してしまうかもしれないのだ、無理もない。

     気合を入れていないと、絶対に気持ちが上の空になってしまう。


    「千束。わたしがここから――癪ですけど真島への援護射撃をします。あの体術には遠距離からの方が有利でしょう。千束は操舵室を押さえてください。はやせは小柄で近接戦闘だと少し力が足りません。幸い、はやせが扉を壊していてくれていますし、中で戦闘が起きてます」

    「……わかった」

     千束はファースト。しかし現在の臨時の体制ではたきなの部下。

     指示と理由とが明瞭簡潔。千束はそれに従う。

  • 151二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 22:37:31

    >>150

     千束は合図とともに開けっ放しの操舵室の扉へ突っ込む。途中沢木が千束に気づいて発砲しようとするが、その瞬間を狙って、たきなが沢木の構える銃本体を狙って撃つ。

     果たしてその狙いは命中。強い力で銃は空中に捥ぎ取られたように舞う。

     真島もそれを見逃さない。空になった沢木の左手を長い脚を駆使して蹴りを入れる。掌にしたたかに爪先蹴りが入ってしまい、思わず苦痛に顔をゆがめる。


    「おお、黒いの。相変わらずうめえな」

    「集中しろっ!」


     たきなはその瞬間を利用してバシュッ! バシュッ! とワイヤを放って沢木の身体を縛り付けるとその隙に沢木の胸に向かって発砲した。

     放たれた弾丸はたきなの狙い通り、左胸に吸い込まれていくようであった。

     しかし彼は死なない。薄く、丈夫な防弾チョッキのお陰だ。


     ドゴッという鈍い音がして彼は気絶する。

     たきなはいつも千束がするように、敵方の口元に駆け寄り、湿った空気が、息が口から洩れているか確認する。

     まだ生きている。

    「はぁ……。疲れました」

     平和裏に気絶させることに成功して、たきなはどっと疲れを噴き出して床に膝を突いた。

    「ヒュー。よくやったじゃん」

     いつもなら絶対不快な労いも、今だけは、少し殊勝に、照れくさく受け取った。


    ――

  • 152二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 06:19:01

    保守

  • 153二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 08:38:41

    ほしゅい

  • 154二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 15:46:47

    保守

  • 155二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 20:17:33

    今日はまだ来ないかな

  • 156二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 00:26:40

    >>151

    ――


    「はぁ……。たきなに何か用だったんかお前は」

     はやせが相対している小畑。それが何かを話している。千束は直ぐには攻撃を開始せず、隅っこに隠れて機会を窺う。

     たきなに対して首輪が回るような結果に追いやったのはこの小畑であり、何かたきなに恨みがあるのか、とはやせは問うた。

     たきなを指名して呼び出すようにしたのもまた小畑であるし、アタッシュケースに爆弾を詰めて渡したのも小畑だからだ。

     答えなければ撃つ、と銃を構えたまま。

     しかし、返ってくるのは意外な答え。

    「いや、別に井ノ上様はどうでもよいんですよ、本当の目的は錦木千束様。あの人は非常に強い。だから私の作戦中は拘束しておきたかったんですよ。その為のダシなんでね。恐らく井ノ上様を呼び出せば、錦木様は勝手についてくるだろうと……まあそれだけですね」

     小畑は淡々とはやせの質問に答えている。

     たきななんかどうでもよかった、という趣旨の台詞に千束は表情を曇らせる。京都に来る前に「それにわざわざ指名されるなんて、わたしが必要とされているみたいでとっても嬉しいです」と喜んだたきなの姿。それが踏みにじられているかのようだ。

     怒りに任せて吶喊しようとも考えた。でも相手は舵輪を操る権利を有している。下手に刺激するとやけっぱちでどう動くか分からない。

     ――どうする? 私。

  • 157二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 00:27:45

    >>156

    「はぁ……まあええわ。とりあえずまあ、リコリスの秘密を全世界にバラすっていう目的は達成されたみたいだし? ここらで仕舞にしようや」

     はやせは最早うんざり、というか飽きたといった風に小畑に投降を勧める。

    「いえ、まだまだ。本当の終わりはこれからです」

     ちら、と小畑は窓の外を見るように促す。

     どれほど遠くかは分からないが、あちらも結構大きめの船が待ち構えている。国境を侵す者を駆除しに来た何かだ。

     しかし、見通しは良くない。雨は強くなり、もうそろそろ台風の目から抜けそうになる。次第に立っている地面が湛える横に対する揺れや、縦に対する震えが大きくなっていくことがわかる。

    「あれに捕捉されて、破壊されるまで――が!」

     バン! 赤く白い影が小畑に近づいて、そして聞きなれた発砲音。


    「無駄よ、確かに痛いけど、私を倒したところで……何も変わらないわ。さっきのヘリで逃げてしまえばよかったのに!」

    「うるさい!」

     千束は吠えて、なおも追撃する。小畑の身体に何発も非殺傷弾が当たるも、立ち続けている。

     衝撃が軽減されているのだろうか? だとしても超人的な忍耐力だ。

     小畑はそのまま立ちながらふと、千束の方に目を向ける。

    「千束……錦木様。あなたはとても優秀なリコリスです。それなのにどうして他のリコリスを助けてあげなかったのですか?」

    「へっ……?」

     いきなり話を振られて戸惑う。

  • 158二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 05:25:44

    ほしゆ

  • 159二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 12:41:45

    保守

  • 160二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 20:59:49

    >>157

    「どうして喫茶店に引っ込んでしまったのですか? 何千、何万ものリコリスが、仲間が殺されているのに。それを心苦しいとは思いませんでしたか」

    「それは、殺しは私のしたいことじゃない――」

    「わかります。あなたは命を救われてから誰も殺さないと、救世主になるといったそうですね。――でもその救う対象にリコリスたちは入ってなかった」

     ですよね? と確認するように小畑は千束の方を首をかしげて見る。

     千束は何も言わない。


    「残念です。あなたにも大事な相棒がいるように、他の子にも、私にもいました。もしあなたがDAに居て味方になってくれていたら……その人たちの大切な人が死なずに済んだかもしれないのに。朝方に任務に就いた同室の子の遺品整理を夕方にするのはなかなかつらいものなんですよ。遺体を見ることは叶いません」

     千束は何も答えない。

    「リコリス狩り、覚えてますよね。誰が首謀者でしたか? 真島ですね? あなたが十年前、電波塔で逃がした奴。あなたが公園で逃がした奴。わかりますよね。リコリス狩りの禍中にあってもあなたはDAに戻ってきてくれませんでした。自分で蒔いた種を収穫してはくれませんでしたね」

     真島を逃がした、小畑がそう言ったことにはやせは普段から丸い目をもっと丸くしてしまう。

     本当かよ、と今すぐにでも聞きたいような様子だった。

    「私を恨んでいるのはわかった、なら私だけ殺そうとすればいいでしょ!」

    「いいえ、あなたを恨んでなんかいません。勿論井ノ上たきな様だって恨んでない。羨ましいとは思いますけどね。救世主ではなくて、さしずめ救人主で、その対象はたった数人で、その中に入れる者は少し。何が違ったんでしょうね? ――可愛いから?」

     当たらずとも遠からずでしょ、みたいな表情をして小畑は笑った。

     反対に千束はどんどんと表情が暗くなっていく。

  • 161二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 21:00:12

    >>160

    「じゃあ……何がしたいんだよ」

    「私が恨んでいるのはDAです。指揮官は無能でリコリスを使い捨てる。いいえ、それを支えるシステムなので……。一人二人を恨みに任せて殺したってどうにもなりません。あなたをいま殺さなくても、百年もしたら死ぬでしょう? でもDAは百年後もそのまた百年後もこうして存在し続ける。日本の歴史とともにずっとありつづけたし、これからもそうでしょう」

     先ほどの証拠映像の中には大昔からリコリスが存在していたことを示す文書もあった。


    「死んでいった仲間たちが認められますように」

     小畑は何かのスイッチを操作した。その瞬間、嵐の揺れより目立つ鋭い震えと、縦の波が船を襲う。

    「この船はもう終わりです。あなた方は……逃げたほうが良いでしょう。救命ボートには何も仕掛けていません。早く乗って行ってください。全員分ありますよ、ああさっきヘリで逃げたんでしたね。よかった」

  • 162二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 01:24:56

    保守

  • 163二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 06:19:34

    保守

  • 164二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 17:41:18

    保守

  • 165二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 23:29:50

    >>161

    「……!! やっとつながったぞ千束!!」

    「クルミ!」

     千束のインカムに懐かしい声が届く。

    「この船、殆どが機械制御でもうこっちからハッキングは困難だ! 早く逃げろ!! あと三分以内に出て行かないと国境を超える! そしてたきなの首輪が作動するぞ!! ヘリポートわかるな? そこに来い!! 今からそっちに向かうから!」

    「はは、それは大変ですね。早く逃げて」

     小畑も同じ通話をジャックして聴いているよう。

    「お前も一緒に来るんだよ!!」

     千束はなおも非殺傷弾を小畑に向けて撃ちまくる。が、確かに痛そうな顔をするが、倒れてはくれない。

     船室の壁いたるところにひびが入り始め、床からは海水が染み出してくるわ、排水管は壊れるわで本格的に終わりが見えてくる。

    「いいえ、私には戻る所なんかないのです。どうせDA内で殺処分。なら、ここにいます」

     丁度その時、船の構造を支える柱の一つが目の前を分断する。

    「だめや、もう行くぞ!!」

     はやせは千束の手を取って反対側に駆け出す。

     千束は幾度か振り返るも、操舵室の方はもう瓦礫だらけで、仮に生きていたとしても運ぶことは難しかっただろう。


    「ああっ! 通話ハックしてる奴がいるな! ……ロボ太だな?」

     クルミはさっきからこの会話を聞いている奴の存在に気づく。

    「ヘヘン!! ウォールナット!! また邪魔しに来たようだが今度のやつは完璧さ! 絶対制御は取り返せない」

     また例の合成音声。自身に満ち溢れながらウォールナットをdisる。


    「まあ……それはそれでいいが、お前今DAの中の牢獄だろ? 小畑に手を貸したことがバレたら……というかボクがバラすが、そしたら死刑だぞ」

    「な!! なんだと?! これを手伝ったら釈放だって 小畑って職員が!!」

    「その申し出主の小畑がもう行方不明とか死亡だからそんなの反故だぞ」

    「なぁぁぁぁぁぁ!!! ふざけんなぁぁぁ!!」

     通話口でドカドカという音が千束のインカムにも繋がって、思わず苦笑してしまう。


    「わかったわかった、とりあえず国境超えるまでに船止めてくれれば死刑はワンちゃん回避かもだからどうにかしろ」

    「くっそ!! どうして俺ばっかこんな目に……」

     気を取り直してカタッとキーボードを叩き始めようとするロボ太に思いもよらぬプレゼント。

  • 166二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 23:32:09

    >>165

    「ヨォ、ロボ太」

    「その声は、真島!! なんで!!」

     たきなのインカムからする真島の声にロボ太はやっと捜索対象を見つけた喜びを感じる間もなく、背筋が震えた。

    「てめー裏切りやがったなロボ太」

    「はぁっ?! 何! な、なにもしてないけどっ?!」

    「とりあえずこの船どうにかしろ、逃げてんだけど、うぁ、撃ってくんじゃねーよ黒いの」

     たきなのインカムからは船の破壊音と共に銃の発砲音が響いているが、特に真島に命中した様子はない。


    「ホラホラ、世界一のハッカー様なのに止められないのか?」

     というクルミの煽りに、意外と本気で反応してしまう。

    「な! 世界一のハッカーってこのボクのことかっ?!」

    「そうそう。頑張れよ~。こっちにもパス貸して」

    「よし、止めてやるからな!!」


     自分が仕掛けた装置を恨む。中古を現金で買うように指示。外部独立の機械で構成することを条件にしてしまった。

     ただ、船の推力を生むスクリューはプログラム制御をしない訳にはいかない。

     そこの僅かな隙間をロボ太は限られた時間で探る。

    ――

  • 167二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 07:20:01

    保守

  • 168二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 18:31:27

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 01:16:16

    >>166

    ――


     はやせと千束は途中、銃撃戦をしている真島とたきなを一旦休戦させてヘリポートへ向かう。

     上空数メートルのところで止まっているそれは激烈な旋回音とともに縄梯子を垂らして待機していた。

    「げぇ! 真島ァ?!」

     ミズキの絶叫とクルミのケタケタとした笑い声が混じる。

    「真島は乗せなくていいです。行きましょう千束、はやせ」

    「DAに差し出そう。そしたら私たち大手柄で釈放されるかもよ!」

     千束の弁にたきなはギリッと下唇を噛み、「登れ」と命令した。

     席に座った瞬間にワイヤで拘束されたのは言うまでもない。

    「台風の目が終わっちゃう前に出るわよ!!」

     ミズキは操縦桿を切って、空へと、荒天の雲へと飛び込んでいく。

     窓は銃撃されているかのような音を雨粒によって響かせ、次の瞬間に落雷によってすべてが停止してもおかしくはなかった。

     乱雑に左右移動をしているかのようにも見えるが、そうでもしないと体勢が保てない。

     少し行った先の海の上から轟音が、その音から生まれる振動がヘリにまで伝わる。

     国境を超える寸前、それは二つに割れて沈む。その船には二人が残されているはずだった。


    「突っ込むわよ! 掴まってて!!」

     たきなは横にいたはやせを、千束は側にいたクルミを抱きかかえて衝撃に備える。

     シートベルトの根元が千切れそうな衝撃が肩にかかる。

     しかし、兎にも角にも、ミズキのヘリは最も激しい場面を抜けたのだ。


    ――

  • 170二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 01:17:03

    >>169

    ――


    「それで真島は?」

    「……すみません、取り逃がしました」

     上空数十メートルに差し掛かった時にいきなり扉を開けて飛び降りて行くなんて考えもつかなかった。

     京都の司令室、最初に書類を運んで来た運命の部屋。

     そこに、首輪を外されたたきなと、千束がいた。

    「真犯人は小畑花子、沢木京。この二人だったというわけだな」

     司令は紙を手繰り二人の書類をテーブルに置いた。

    「……職員の権限を使ってデータベースを書き換え、任務遂行を妨害して、最後は国境近くで船と共に行方不明……ね」

     倉庫から爆弾の

    「はい。これで事件は一応の終結をみました。わたしと千束を解放してください」

    「そうやね。……疑って申し訳なかった」

     司令は謝罪した。

     形式的なものではなく、真摯なものに見えた。

    ――

  • 171二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 12:06:28

    >>170

    ――

     一日明けて、千束は京都のDAで大人気になってしまった。荒れ狂う波に巻き込まれた船に颯爽と降り立ち、みんなを救助し裏切り者を始末した大英雄として。

     食堂に行けばみんなに囲まれ、ベンチに行けば人だかりができ、千束は少し疲れるぐらいに。

    千束のお皿にはみんなから感謝の印のおすそ分けがもう山のように積まれていて、特にゆで卵などは十個以上はある。


     そんな様子を横目で見ながら、たきなははやせと久しぶりに食事を共にする。

     台風一過の晴天陽気が窓の外からよく見える。強い風雨が今までの曇りを全て掃き清めた。台風の後の景色はこんなにも美しい。

     二人ともカレー。スプーン一つでさっさと食べられて、加熱もされていて栄養もあるから兵隊の食事としては優れている。

    「千束取られちゃってるけど大丈夫なん?」

    「取られるって……別に」

    「はは、正妻の余裕ってやつ?」

    「そういうんじゃありません……ねえはやせ」

     そこで言葉を切った。賑やかな隣席とは何でも仕切られていないはずなのに、そこだけ空気が変わってしまう。

    「わかる。ただこれはウチが追及できることやないでも――たきなに付き合ったる」


    ――

  • 172二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 12:07:02

    >>171

    ――

    「司令、時間を作ってくださってありがとうございます」

     たきなは勧められたソファに座ることもせずに、窓の方を向いている司令の背中に話しかける。

     一方はやせは、ソファに深く腰掛けて紅茶をガブガブ飲み、リラックス状態。

    「ええんや、あんたら三人は難破船の英雄やからな」

    「ナンパっていう音は少し嫌ですなぁ」

     はやせはクッキーを齧りながら突っ込む。


    「それで、用はなんや?」

     もう、何を言い出すか知っているかのよう。

    「一連の真犯人ですが」

    「小畑と沢木やろ、今捜索中やが、十中八九海の藻屑やな」

    「いえ、今回の裏にいたのは司令。あなたですよね」


     何も答えない。一分近く無言が貫かれる。

    「なんでそう思う?」

    「いえ、あの人たちは確かに職務権限は与えられてますが、最終承認は司令にあります。それにうちのハッカー……もうこの際言いますが、彼女が言うに、DA内のシステムにハッキングされた形跡はない。デラタメな職務分掌に書き換えられても、物資が間違っていても、つまり内部の人間が最終的に承認してるってことです」

    「それが私だと? まあ私がよく見ないで承認してしまった、ミスなのかもしれない」

    「わかります。これには証拠がありません。流石です」

    「褒められてるんかいな。ただ真島に感化されたアホがおった。そいつらは死んだ。それだけでいいやろ」

    「司令は毎日慰霊碑に手を合わせてて、死んだ子のことを片時も忘れないとわたしたちは知っています。そもそも今回の事件の始まりはわたしをここに呼んだことですよね?一介の職員がわたしを呼ぶことなんてないんですよ。DAの解体を望んでここまで――」


    「アホ、それぐらいはするけど、ここまで大それたことまでは……単に動く船のリストを作っただけや。それから非殺傷弾について調べたことがあるとか、まあそういう感じやな。人が死ぬのはあまり心地が良くない。仲間だと特にな」

  • 173二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 12:07:33

    >>172

     最初の任務は船だった。船上での動きはここで鍛えられた。

     次のものはビルだった。全員が退避した後に爆発する予定だったという。

     そして最後はブービートラップのひどさ。これは早々に撤退を促すためか? 救命ボートの完備。そして敵方の非殺傷弾の使用。

     非殺傷弾の性能の実験の為に街中にばらまかれたのか。

     全て一本道が整えられていたのだろうか? 隠蔽しようとしてもできないように。隊員がなるべく死なないようにと。

     

    「司令も、やっぱり同じですな。自分の近い者の為なら、少し遠い者は害するなんて」

     はやせは綺麗にクッキーを食べ終えて言った。


     晴れて遮るもののなにもない、光を浴びて、司令はこちらに背を向けたままだった。

     たきなたちは挨拶をして、部屋から出ていく。


    ――

  • 174二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 22:28:10

    >>173

    ――

    「いゃあ、解体なんかされたらたきなに会えなくなっちゃうやあ~ん!」

     見送りの時だ、正門にはたくさんのリコリスが詰めかけているが、大体は千束目当てで、たきなの方に来るのは少し。

     それを幸いにとはやせはたきなの腰に縋りついて頬をこすりつける。

    「また会えますよ、今度は休暇でも取ってきますから」

    「ははぁ、マジ? マジか? ちゃんと来いよ」

     たきなの肩をバシバシと叩くと他の子に「たきなの握手会」の順番を譲り、今度は千束の方に行く、二人ともたまに立ち止まりながら、そして着実に門の方に向かっていく。

     そこからはポツポツと人が抜け始め、最後ははやせだけになった。

     たきなが他の子の対応をしている少しの間、隙を狙って千束の方に行く。


    「千束。ウチは負ける気ないから」

     何をとは言わない。

    「ははぁん、私の方がずっと近くにいるし? 冷静に考えたら私の勝ちなのだが?」

     勝ち誇った勝者の余裕。

    「もう、あんたは器が小さいなぁ」

     そう言いながらはせやはお土産袋を両手に提げた千束をぎゅっと抱きしめてそのまま抱えた。

    「あんた『ごと』愛してやるから! 覚悟しとき!」

     

    ――

  • 175二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 22:29:19

    >>174

    ――

     帰りの新幹線は狭かった。

     座席自体は広いものになっていたのだが、荷物が非常に多くなってしまって、座るのに一苦労だ。

    「そういえば千束、はせやと何話してたんですか?」

    「あ、え? いや、特に何も。連絡先交換してただけ!」

    「そうですか、まああの子は手がかかるので注意してくださいね」

    「うい」

     そうこうしているうちにポップアップが出る。はやせからだ。


    『初メッセージ。たきなのことが大好きな千束ちゃんへ』


     ブフォ! と飲んでいたお茶を吹きそうになる。

     たきなから不審な目で見られてしまうが、なんとか取り繕う。


    『初めて見た時から、この人絶対たきなのこと好きやと思って』

     ピコンピコンと連投されてくる。

    『たきなに言わなかったことがあんねん。「悪即撃」のたきながそれを止めた理由。千束はたきなにとって、すごく大きな存在だったんやなって、私もそうなれれば、振り向いてくれるんと違うかって』

     しかも長文が早い。

    『でもな、一回千束とくっ付いても最後はウチのところに来ればそれでいいし。来ないなら千束ごとお迎えしてやるわ。それまでたきなのことを幸せにしてやってな』

     ここまで来てハートのメッセージで途切れた。


    「……なんていうか、はやせに敗けてしまった気がする」

    「え、千束負けちゃったんですか? まあはやせはあれでいて中々頭使って戦いますからね。結構凄かったでしょう?」

    「なっ! 私が直情バカみたいな言い方すんなし!」

    「えっ、違うんですか?」

    「違うわ!!! 私は戦闘でも最強で頭脳も最強なんです!!」


    ――

  • 176二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 22:30:18

    >>175

    ――


    「はぁ、たきなは油断できないな」

     司令はまたソファに座って、天井を眺める。

    「千束を出して、姫蒲に任したことを突かれなかったのは幸運なのか、見て見ぬふりをしてくれていたのか。まあその時は職員に変装した姫蒲が勝手に出したと言えばよかったか」

    「ただ、嘘というのは大きければ大きいほど見抜きにくいんや。それをまだあの子は知らん」

    「職員の職務分掌やその他の記録は沢木や小畑が書き換えたんじゃない。全員が……。いや、言うまい」



    END

  • 177二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 22:30:51

    おしまいです。ここまで読んでくれてありがとう

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