- 1二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:08:21
「なんで外にいるんだ……?」
オレは確か、地下にいたはずだ。岩の下敷きになって死んだと思ったらご先祖に助けられて運良く生き残ったけど、その後ずっと地下に閉じ込められていた。
なのに目を覚ましたら森の中にいた。幻術を解いても景色は変わらなかったから、オレは本当に外にいるんだと思う。何で外に出れたか分からねーから正直不安だけど、陰気臭いジジイの妄想話や初代との武勇伝、弟のイズナ?の話をこれ以上聞かなくて済む。ジジイが起きる度に永遠に続く話はオレにとっちゃ地獄みたいなものだった。
周りを確認してみても、ジジイや不気味な白い奴らがいないし、今のうちに木の葉に帰ることを決めた。
(待ってろよ……リン……カカシ……!!)
オレは走り出した。リハビリ途中で体が上手く動かないけど、全力で走らなきゃ体は持つはずだ。 - 2二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:10:44
「ハァハァ……何処なんだよここは……!!」
数時間後、オレは見事に迷子になっていた。神無毘橋の真上だと思い込んでた森は、どうやらオレが全然知らない場所だったようだ。走っても走っても見覚えのある場所に辿り着かない。ははは……これだとまたカカシに馬鹿にされちまうじゃねーか……クソ。足が鉛みてーに重いし、少し休まないとぶっ倒れるな。
そう思っていたら、遠くで水の流れる音が聞こえた。川だ。下流に沿って行けば、森を抜けられる!
「………………!」
「…!……………」
誰かが話している。敵の忍だったらまずい。もう敵と戦う力が残ってない。オレは相手に気づかられないように気配を殺してそっと近づき、木の影に隠れた。
「…とにかく色々な……大人も……無視……なくなる」
「……弱点を……するこ……だな」
子供の声だ。大岩の上に2人の子供が座って何かを話している。ここら辺に住んでいる子供達なのか?額当てをしてないから、忍じゃなさそうだ。
(あいつらに地理を教えてもらうか)
オレは木の後ろから飛び出して声を掛けた。
- 3二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:13:56
「なァ!……お前ら、ここら辺に住んでるのか?」
「……お前何者だ」
ツンツンしている黒髪の奴が話しかけてきた。
「あー……実は迷子なんだ。助けてもらいたくてお前らに声を掛けた」
「迷子?」
ツンツン頭が隣にいたおかっぱ頭に何かを伝えている。一体、何を話しているんだ?近づこうと思った瞬間、右半身に鋭い痛みが走った。
「………!!」
くそ……無理をしすぎた……いってェ…………
オレは膝から崩れ落ちた。
「大丈夫か?!」
「おい、待て!」
心配してくれたのか、おかっぱ頭が岩から飛び降りてこっちに駆け寄ってきた。ツンツン頭の方も後から着いてきた。
「お前……!酷い傷だな……」
「……無闇に近づいたりするな柱間!どんな奴なのか分からないんだぞ!」
「大丈夫ぞ、マダラ。怪我人を放っておくような真似はしたくない」
(今、柱間とマダラと言わなかったか……?)
俺の前で話をしている2人の名前をオレは聞き覚えがあった。でも、目の前にいる奴らは子供だ。
「……オレの名前はオビト。あんた達は?」
聞き間違えたのかもしれない。オレはもう一度名前を聞いた。
「ん?もう痛みは平気なのか?……オレは柱間だ!で、こっちはマダラ」
「指差すなコラ!!」 - 4二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:15:23
オレはごくりと喉を鳴らした。オレが知っている柱間は初代火影でとっくの昔に死んでいる人物だ。マダラはよぼよぼのジジイの姿で昨日会ったばかり。オレを睨みつけるようにして見下ろしているマダラは、子供まで若返ったらこうなるのかという顔をしていた。うちはだからかオレとどっか似ている気がする。柱間の方は…………いかつい顔岩からは想像できないお坊ちゃんみたいな顔だった。
「んだよ……人の顔をじろじろ見て。文句あんのか」
「ち、違う!オレが知ってる人と名前が似てたから……ちょっとばかし驚いただけだ!!」
オレより背が小さいから年下だと思うけど、ガキの癖にマダラは怖ェーな………… - 5二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:17:02
「それにしてもお前……その体大丈夫なのか?変な色になってるけど」
柱間が心配そうな顔をした。初代って優しかったんだな……変な色の体はあんたの細胞だけど。
「…………お前、迷子だと言ったな」
「ああ……そうなんだ。何処にいるのかも帰り方も分かんねェ……」
迷子の中にランクがあるとしたら、過去に迷い込むのは最上位の迷子だと思う。どう元の時代に戻ればいいか皆目検討もつかなかったオレは落ち込んだ。
「………………はァ……しょうがねェ。教えてやるよ」
「…………マダラ!石を持ってきたぞ!!」
2人は河原の尖った石を手に持って、オレを岩の元まで連れてそこで地図を描いてくれた。
ここが森で__あそこに村が3つあって__南下すれば大きな町がある。
周辺の地理がわかっても大した役に立たないと思ったけど、柱間とマダラの気遣いが嬉しかった。 - 6二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:19:34
段々と絵を描くのがヒートアップして最後の方は落書き対決へと変わった。オレもその輪に加わって一緒に楽しんだ。
「オビトは絵が上手だな!そのマスクをした子は誰ぞ?」
「こいつはバカカシだ。バカなカカシだからそう呼んでる」
「はははは!何だそれ!……柱間は何描いてんだ……って……うわ…………」
マダラの引いていた声を聞いて、オレも柱間の描いた絵を見た。そこには目や口の大きさのバランスが崩れて宇宙人みたいにでかくなっている、小さな妖怪が3人いた。
「すげー下手くそだな。座敷わらしの妖怪か?」
思わず口から出てしまった。
「酷いぞ!これはオレの大事な弟たちだ!!」
「…………奇遇だな。オレも弟を描いてた」
(初代は3人弟がいて、マダラも4人も弟がいたのか……)
柱間の弟は2代目の千手扉間だけだと思っていたし、マダラの弟はイズナと言う奴だけだと思っていた。里を作る前の時代は戦国時代だったとアカデミーで習ったような憶えがある。もしかして戦いの中で死んでしまったのか……?
未来のマダラがあんなに偏屈になってしまった理由が分かった気がした。 - 7二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:21:29
落書きをするのに飽きたオレ達は、川の畔に立って水切りをすることにした。
「え!お前水切りをやったことないのか?!」
マダラは今日一番驚いた顔をした。
「やったことねー。川で遊ぶ時は釣りばっかしてた」
「じゃあオレが教えてやる!気持ち少し上に投げると上手くいくぞ」
柱間は石をまっすぐ投げ入れた。石は水面を切るように跳ね続けた後、向こう岸まで辿り着いた。結構大きな川なのに反対岸まで届いたことにオレは思わず拍手した。
「次はオレだ。オビト…よく見てろ……」
マダラは石を手裏剣のように投げた。少し荒々しかったが、無事に向こう岸に届いた。
「初めて会った時は失敗したのに上達したな!」
「てめェやっぱ、やな奴だな!!」
「おーし!次はオレの番だ!一発で成功してやる!!」
オレはそう意気込んで2人に選んでもらった石を投げた。 - 8二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:23:03
バシャ、パシャ、トプン……
「「…………」」
「………………才能ないな」
柱間がぽつりと零した。辛辣な物言いにショックを受けたオレはマダラの方を向くと、マダラは目線を絶対に合わせないように反対を向いている。どちらにも見捨てられたオレは泣きそうになった。
「……オレは初めてやったんだ!普通はこんなもんだろ?!」
「オレは8割は行った。」
「オレは届いたぞ!」
無常な現実にオレは膝をつくしかなかった。
「ど、どうせオレは落ちこぼれだ…………」
それから何回か水切りをやったが、オレは一度も向こう岸に石を届かせることができず、お開きの時間になってしまった。 - 9二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:24:59
川を渡っているマダラを見ていたら柱間に話し掛けられた。
「もうこの場所には来ては駄目だぞ、オビト」
「え、なんで?」
「明日には大きな戦がある。ここも戦場になるかもしれない。お前も忍なんだろ?どの一族かは知らないが……なるべく早く集落に帰った方がいい」
「わ、分かった…」
柱間はオレが忍だと気づいていたのか。怪しんだだろうにオビトが家に帰れるようにわざと見逃していたのだ。おそらくマダラも。オレは2人の優しさに涙ぐんだ。
「柱間ァ!投げるぞ!!」
向こう岸に辿り着いたマダラがこちらにいる柱間に声を掛けた。
「いいぞ!!」
そして2人は同時に水切り石を投げ、2人の石を交換した。それはまるで何かを確かめる儀式のようだった。
「2人共、届いたな」
「その石……水切りするには……いい石だ……次に会うときまでてめェーに預けとく!……オビト!お前は手裏剣の修行でもちゃんとしておけ!」
「…るっせーよ!!」
そう言い残してマダラは森の中に消えた。子供の頃から小言が多かったマダラに腹が立った。木の上に飛び乗った柱間がこちらを向いた。
「……オレも帰るぞ。オビト……達者でな」
「……柱間も」 - 10二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:27:37
数日後、オレは再び川に訪れていた。
ここ何日かで森を抜けて町赴いて未来に帰る手段を探していたのだが、手掛かりを見つけることができず、来るなと言われていたのに約束を破って川に来てしまった。オレたちに会わないほうがいいと柱間は言っていたけれど、オレはまたあの2人に会いたかった。
川の上を歩いていると、不意に川の中から何かが光った。
不思議に思いながらしゃがんで川を覗くと、底に苦無と短刀、そして文字が書かれた2つの石が落ちているのが見えた。全てを拾い上げてポケットに暗器をしまい、石の文字を読んだ。
『にげろ』『罠アリ去レ』
これが何を表しているのか分からなかった。だが文字が書かれていた石は、あの2人が水切り用にと選んでいた石と同じく、薄く平たい物だった。この川で遊んでいたのは柱間とマダラ以外いなかった。だからこれはきっと………柱間とマダラのものだ。
石を強く握った瞬間、眩い光が体を包み込んでオレは意識を失った_____ - 11二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:29:05
「___あ!やっと起きた!」
視界に入ってきたのは白い人間。
「うわ!!……し、白ゼツゥ?!どうしてここに!!」
「そんなに驚いてどうしたの?悪い夢でも見たっスか?」
グルグルが揶揄ってきた。懐かしい光景に思わず目を見張る。オレは未来_現在に戻ってきたのか。
「いや……あれは夢じゃねェ…………」
「地下にいるとおかしくなっちゃう時あるよねェ。ボクらもたまには光合成したい時あるし」
「オレはおかしくなってねーよ!」
「それよりさァオビト。手に何持ってんの?」
白ゼツに言われてオレはようやく気がついた。自分は今、何かを握り締めている。この感触は………… - 12二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:30:52
「あの石だ」
手を開くと、文字が書かれた2つの石がそこにあった。肝心の文字は滲んで薄れていて、目を凝らさないと文字を読み取れないが、間違いなく川で拾った石だった。
「……あれはやっぱり夢じゃなかったんだ!」
ベッドから飛び降りて、白ゼツとグルグルの静止を振り切り、魔像の下で眠っているマダラの元へ駆け寄った。
「おい!起きろ!」
「やめときなーオビト。殺されちゃうよ」
「マダラは寝起きが1番不機嫌なんだ!」
後ろの木偶の坊の忠告を無視して、マダラの肩を揺する。ジジイにこれを渡したかった。
「おい!!起きろ!ジジイ!!」
「……………何だ」
肩を強く揺すられて無理やり起こされたマダラは低い声を出した。
「この石!見てくれ!!…………見覚えねーか!?」
手に持っていた石をマダラの目の前に差し出す。マダラは僅かに目を大きくした。オレの急な行動に驚いてるようだ。
「これ、何か書いてあるだろ?!」
文字が書いてある方をマダラの目の前に持ってきて見せた。子供の頃の友の思い出。水切り石はマダラにとって大事な物のはずだ。川の底に落ちてしまった子供の頃の想いを、老いたマダラに届けたかった。 - 13二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:32:08
オレから石を受け取ったマダラはそれを眺めた。
そしてボソリと呟いた。
「これがどうした?………………何も書いていない。ただの石だ」
マダラは興味なさげに石を渡してきた。
マダラに渡され、オレの掌の中で冷たく残された石が2つ________きっと全てが遅すぎた。
- 14二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 20:34:00
おしまいです。最後まで読んでくれてありがとうございます。オビトと柱間とマダラの絡みが見たくて書いたSSでした。
- 15二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 21:05:10
遅すぎたっていうのがなぁ…
それはそうとして文才がすごい - 16二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 21:21:49
最後の儚いオチ好き
- 17SS書いた人23/08/06(日) 22:33:41