黄金千界樹の未来を背負い挑む聖杯戦争 第3.5局

  • 1千界樹の記録23/08/12(土) 14:12:46

    ユグドミレニア復興を目指して10年の月日を費やし、この聖杯戦争に挑むセイバーのマスターだ
    戦いの中、突如各陣営を襲撃した正体不明の魔獣共
    俺達は辛くもそれを退き、その正体と黒幕の調査を行うこととなるーーー

  • 2スレ主23/08/12(土) 14:14:21

    お、落ちてた……
    ち、違うんだ何も夏イベに夢中だったとか、バサトリアガチャ爆死して沈んでたからとかそういう理由じゃないんDA!!
    うう……

  • 3二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 14:15:17

    みんな熱中してたんだ、仕方ない(保守られなかった辺りからして)

  • 4二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 14:15:52

    やべ落としちゃったか
    イベントに夢中で忘れてしまっていた

  • 5スレ主23/08/12(土) 14:17:28
  • 6二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 14:20:05

    スレ主爆死したんか…
    俺もだ

  • 7二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 14:26:19

    取り敢えず10まで埋めとくか
    凌我君達はフェスでどんなのを描くのかな?

  • 8二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 14:38:12

    シグルドはブリュンヒルデの本書きそう
    あるいは「綺麗なメガネの作り方」とか出す可能性もある

  • 9二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 15:02:42

    自叙伝とかも売れそう
    冒険譚は出回ってるけど本人著を見たい人は多いはずや

  • 10千界樹の記録23/08/12(土) 15:42:41

    廃病院を奥へ進み、階段を登る。古い病院でエレベーターも当然停止してしまっているので使えない
    2階の受け付け近くまで来たが、特に変わった形跡は無い。精々がセイバーが暴れ回った影響か廊下が悲惨なことになっているくらいか

    「これは凄まじいな。あのセイバーかな?」

    「でしょうね。あちこちに罠や魔術の攻撃痕が残ってる。でもよほどのことがない限りあのセイバーに魔術の類は通用しないわ」

    廊下を渡りながら壊れた扉を一つ一つ開けて中を確かめていく。事前に波を打って調べた限りは何も無いが、何らかの方法で欺瞞されている可能性も無いわけでは無いのだから
    たが、調べるのはいいものの、特に何かある訳でもなく、収穫は殆どなかった

    「2階はダメね。3階に上がりましょ」

    全ての病室とスタッフルーム、トイレを見たが何も無い。このまま何も無くても宛てが外れたーだけで終わるからいいのだが、折角なのだから何かしら手掛かりくらいは見つかればなと思っている
    3階。此処は主に手術室等が多く、聞いた話によるとキャスターの工房の本丸も此処にあったそうだが……

    「お、邪魔しまーす!」

    衝撃が加えられたのだろうか、変形して歪んだ扉を蹴り飛ばして中へと入る。吹き飛んだ鉄製の扉は壁に激突してかなり大きな音を立てて床に落ちた

    「……此処には、と」

    辺りは暗く、そのままでは視界が利かないため聖火を灯すライターを開ける。辺りは銀色の火によって照らされる。火が揺らめいた。此処にはまだ魔力の残滓が残っている……

    「ーーーおっ」

    僅かに壁面が光ったのを見て其処へ近づく。光ったのは魔力を含んだ蛍光インクで描かれた文字とーーー

    「これはこれは……」

    魔法陣の一部であった

  • 11二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 15:49:23

    よかった…落ちてたから変わりに感想スレみたいなん作って待とうとしてたわ…

  • 12千界樹の記録23/08/12(土) 18:49:25

    「マスター」
    「ライダーは周囲を見張っててね。これは……」
    聖火に照らされ、魔力反応を示している魔法陣の一部。陣が大きく掠れている為詳しくは分からない。これは、詳しい人に聞くべきかな?
    そう思い、渡されたルーンの刻まれた石を取り出して……話しかければ良いのかな?
    「あー、聞こえる?」
    『ああ、よく聞こえてる。何かあったか?』
    おお、この手にありがちな周囲の環境音やノイズが全く入ってない、クリアな音質
    「ええ、3階の奥で、ちょっとした物を、ね来れるかしら?」
    『わかった。今そっちに行く』
    通話を終えて辺りを見渡す。僅かに周囲にも魔力残滓を感じられるが、其々は別に大した事はない。それだけでは何が起きるでもない搾かすの様な物だ。それを言うならこの魔法陣の一部もそうだが、一部とはいえ形が残っている以上、何らかの手掛かりになるかもしれない。そう考えると無視はできなかった。そうして待つこと暫し、凌我君達が来た
    彼に状況を説明して、魔法陣を見てもらう
    「……ふむ」
    「どうかしら。何か分かる?」
    凌我君は魔法陣を見つめると、懐からいつもの小瓶を取り出して、一滴、陣へと滴らせる。僅かに光を放つ魔法陣は、霊薬に触れると光を増して、ほんの数秒、数瞬のみその全容を現した
    「成程な」
    納得して様子で立ち上がる凌我。それを見ていたマルグリットが口を開いた
    「成程なって、何かわかった?」
    この魔法陣が何を目的にして作られたかは、理解した。凌我はそう言って、指をパチンッと鳴らす。すると、魔法陣にかけられた霊薬が赤く光り、そのまま赤い火を出して魔法陣を焼き始める
    「ちょ、ちょっと先輩!?」
    「少なくとも、残しておいて良い類のものじゃあない」
    すぐに燃え尽き、魔力反応が完全に消滅する焦げた痕。それを見届けてから凌我は口を開く
    「恐らく他の壁面と床にも同じようなものがある筈だ。手遅れかもしれないが全部焼くぞ」
    そう言って霊筒をまた取り出し、中身を振りまいた。四散する霊薬は霧となり部屋に行き渡る。すると彼の言った通りに、他の壁面と床にも同じような魔法陣の一部が浮き出てきた
    「これは、大規模な召喚儀式だ」

  • 13千界樹の記録23/08/12(土) 21:00:12

    「大規模な……」
    「召喚術式?」
    「ああ。複数の召喚陣を並列させて行う術式だ」
    此処で凌我は他2人に説明する。この術式は複数の魔法陣を利用して大規模な儀式を行う為の物である事。召喚を行う際、単一の魔法陣で行うタイプとは違い、複数を対象にした召喚儀式が行える事。技量さえ有れば単一の召喚陣に比べ魔力の消費が少なくて済む等の特徴があることを伝えた
    「成程……ね」
    「何?この襲撃はキャスターのマスターが黒幕って事?」
    「……そうとも言い切れない」
    マルグリットが「は?」と訝しげな視線を向けてくるが、どう説明したものか……
    「この召喚陣、使われた形跡があるにはあるんだが、何時召喚が行われたのか、どんな召喚が行われたのかまでは分からないんだ」
    「って事は……」
    「キャスター陣営は、今の所一番黒だけど、確定には至ってないって事ね」
    「そもそもキャスターがいないからな。あれ程の規模の術式が死霊術師にできるかって言うのがな……」
    キャスターのマスターが行方不明になったと聞いた時はマシやと思ったが……これはハズレかな……
    「取り敢えず、この魔法陣は全て使えなくする。万が一中途半端に動かれでもしたら大変だからな」
    少しして、全ての魔法陣を使えなくさせてやり、他にも回っては見たが、目につくものは見当たらず、この場は解散の流れになった
    「結局、先輩の宛はハズレだったね」
    「宛てがないよりはマシだろうが」
    「まあまあ良いじゃない。一応収穫はあったんだし」
    廃病院を抜け、出入り口で話し合う3人。だが、これで調査は振り出しになってしまった。次は襲撃を受けた廃工場跡と血族の魔術師から話を聞くか
    取り敢えずの方針を決めて、最後の仕掛けをしておく。まあ、当たりはないとは思うが、念のためだ
    「じゃ、次は廃工場かな?死んだ魔術の泥くらいは残ってるでしょ?」
    「しゃ、さっさと行こう先輩」
    「そう急かすな。まだ時間はあるんだからよ」
    俺の寝る時間は無くなったが
    その一言は口にせずに先に門まで行ってい2人の元へと向かった

  • 14二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 23:16:29

    あら、キャスター陣営は此処にいないのか
    一時は落ちてどうなるかと思ったけど続けてくれて何より

  • 15二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 07:03:07

    召喚陣はキャスター、キルケーが事前に作ってたのかな?

  • 16千界樹の記録23/08/13(日) 09:16:23

    廃病院を後にし、真逆の方向にある廃工場跡へと向かう一行。途中で買い食いなどを挟んで到着した其処は、既に規制線が張られ捜査当局による調査が入ってしまっていた
    「……まあ、そうなるよね」
    「昨日の今日で早い事だ」
    流石に派手にやり過ぎたからな。俺が拠点の一つとして使っていたホテルも規制線張られてたし。まあ、構う事はないが
    「とっととやること済ませて帰るぞ」
    「はいライター」
    「サンキュー」
    「慣れすぎでしょ……」
    後輩がなんか言ってきているが気にしない気にしない。近づいた段階で警官に止められるが、ライターを用いて片っ端から暗示を掛ける。これで良し
    調査を始めること数十分。魔獣を構成していた泥の様なヘドロの様なものは未だに瘴気を放っており、素手で触るのは危険すぎるので、手袋を用いてサンプルを回収。捜査員の皆にも非常に強い毒素が含まれる為素手で触るなと警告してその場を後にする。そして現在は俺の拠点に戻って来ていた
    「で、これを調べて何か分かるの?」
    「詳細な構成が分かれば少なくとも対策は立てられる」
    と言うわけで再び工房に籠って詳細な検査を開始。こう言う時に使う霊薬は……あったあった。で、これをこうして。反応を見れば……
    成程、そう言う図式か
    「何かわかったの?」
    扉を開けて何食わぬ顔をしながら工房の中に入ってきたルーナ。今更何を言うこともないが、少しは遠慮をして欲しい物だ
    「人の工房の中に入ってくるなよ」
    「良いじゃない。減る物でもないんだから」
    そう言う問題じゃないんだが……。と意味のないじゃれあいは置いといて、質問には答えないとな
    「大凡の構成は理解した。お前の出番だよ、代行者」
    「へぇ……」
    ルーナは意味深な笑みを浮かべる。彼女の出番、これは詰まるところ主に使える、代行する者の力が必要、と言うことだ
    「俺の推測通りなら、今夜にでも勝負を掛けられる。面倒事はさっさと終わらせるに限るからな」
    「それは楽しみ、ね」

  • 17千界樹の記録23/08/13(日) 16:55:31

    日が暮れて夜になる。俺たち3人は事前に打ち合わせた場所で待機している。もうそろそろ、魔獣が来る頃合いだが……
    『こっち、来たけど……』
    『こっちもよ。じゃあ手筈通りに進めるわね』
    「ああ、よろしく」
    通話のルーン石から連絡が入ると同時、こっちも動きがあった。魔獣共がすぐ前に湧き出る様に転送されてくる。だが、今回は戦いの中の奇襲でもなく、初見でもない。しっかりと対策をしてきたのでな
    「『氷雨/天泣』『篠突け/地を潤せ』」
    二重詠唱で先手を打つ。針の様に鋭い雫を雨のように降り注がせ、同時に地面を覆う様に別の雨が注がれる。この雨は謂わば濡れた者の動きを鈍らせる力を持つ。要は出てきた側から動きが鈍り、回避行動もままならずに針の雨に全身を打たれる。リスポン狩りはマナー違反だが、ルール無用の相手には丁度いいだろう
    「さあて、後は……」
    次の術式を準備しながら、本丸が動くのを待つとしますか
    再び転送されてくる魔獣に対して再び術式を発動させた


    「はあ……ダルッ」
    マルグリットは目の前に広がる光景にゲンナリしていた。出る側からアーチャーと自身の矢で頭を撃ち抜いていく簡単な作業なのだが……
    「数多すぎ。なんなのこれ?」
    「ふむ。我々の中では総合的に一番弱いと見做されているのではないか?」
    確かに、マスターとしての能力はあの二人に比べれば低いし、アーチャーも流石にあのセイバーには劣ると言わざるを得ない
    それにしても、さっきから狼やらライオン擬やら先日の人面鳥やら色々来ててもうウンザリ。さっさと終わらせて欲しいと思う
    「マスター。文句を言ってる暇があるなら汝も撃ってくれ」
    「はいはい。分かってるよアーチャー」
    猟犬の霊をボルトに宿らせる。降霊術の攻撃転用する魔術で、強化と併用して発射時の運動量を維持したまま標的を次々と食い破り追い回す強力な矢なのだが、一度に降ろせる霊には限りがある為連射には向かない。元々連射に向かないボウガンなら大した問題では無いのが救いか。ライフルよりもボウガンの方が神秘が乗りやすいから此方を使用しているが、アーチャーの様に速射で殲滅はできないのがどうしても目立ってしまう
    「今更か……」
    そろそろ矢が壊れる。次の矢を装填しながら魔術刻印に刻まれた魔術を起動する。このまま長期戦になっても嫌なので早くして欲しいの願う
    「先輩が信用してるから良いけど……」

  • 18二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 18:26:16

    ひょっとして凌我君…君地味にとんでもない事してる?

  • 19二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 20:21:36

    え?何かあったん?

  • 20二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 22:12:43

    保守

  • 21スレ主23/08/13(日) 22:35:58

    ……ヤッベ……
    (更新分確認して)

  • 22二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 22:41:18

    ど、どうしたスレ主?

  • 23スレ主23/08/13(日) 22:51:15

    そんなつもりは無かったんだがなあ……

  • 24二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 22:54:10

    >>23

    き、キャストリアが勝手に言ってるだけだから……

  • 25二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 22:57:30

    >>23

    冷静に考えてくれ

    魔猪が勝手に言ってるだけだし、本編で使った魔術を思い出すんだ

  • 26スレ主23/08/13(日) 22:59:05

    そ、そうだよね!
    良し、気を取り直して次行ってみよう

  • 27千界樹の記録23/08/13(日) 23:00:04

    ルーナは夜の闇の中、1人佇んでいる。ライダーには少し離れ場所で戦いを行ってもらう様にした。心配そうにしていたライダーだが、少々強引に押し切った。全く、心配性なんだから……

    「そ、れ、に。今回はちょーっとおねーさんマジ中のマジを出すつもりでいるから、ね♪」

    それは凌我の拠点で話した事ーーー
    『……成程。それなら確かに私の出番になりそうね』
    『ああ、それともう一つ。今回はお前にもガチでやってもらう可能性がある』
    『ちょっとちょっと!まるでおねーさんが手抜きしてたみたいに言わないでよ!』
    『手は抜いてなくても片手落ちだろうが。まああの程度の状況で「アレ」を使う訳もないだろうが』
    『痛いとこついてくるじゃ無い。このこの〜』
    『茶化すな。……ったく、今回の件、俺の想定を超える様な事態になったら、お前の「切り札」問答無用で切って貰うからな」
    『ええ、了解よ。そうなったら、キチンと私のアレ、使ってあげるわ』
    なんて言った以上、いつでも切札を切る準備は出来ているがーーー

    「ま、使わないに越した事はないからね」

    戦鎚を持ち上げ、肩に担ぐ。間も無く黒い魔獣共が転送されてかた。取り敢えず一番近くにいる奴をペシャンコにしてやる。破裂する所は敢えて見ないで次の、また次の魔獣を根刮ぎ潰れたトマト、またはどう質量のスープへと変貌させていく銀狼
    その長い銀の髪を靡かせて魔獣の群れの中を蹂躙しながら突き進む

    「聖なるかな、聖なるかな。我が一振りは祈り。我が一撃は主の御心」

    そうして湧き出てくる群れの中心まで到達した所で、空高く跳躍した

    「塵に過ぎない連中は、とっとと塵に還りなさい!」

    戦鎚が真紅に鳴動し、唸りを上げる。大地に叩きつければ石の床は文字通り粉々に吹き飛び、周囲に円盤状の波動を広げる。これは圧縮された振動波と破壊圧。薄く、平たく押し込まれた波は触れたものを容赦なく寸断する振動の刃となる。それは続々と転送されていた魔獣達を最も簡単に寸断し、周辺の構造物をも薄紙の様に切り裂いていく。周囲に人避けと遮音の結界を張っていなければ間違いなく犠牲者が出ていたであろう虐殺の円環を繰り出した本人は、黒い泥の海の中で1人立っている

    「さあ、これで終わりじゃないでしょ?ホラホラ、もっともっと出してこないと、おねーさんがぜーんぶ平らげちゃうわよぉ?」

  • 28二次元好きの匿名さん23/08/14(月) 07:29:45

    銀狼ちゃん恐ろしや…
    てかこの上さらに何かあんの!?

  • 29千界樹の記録23/08/14(月) 13:15:59

    古い地下室。嘗て防空壕として作られたこの空間は今は地下墓として無数の遺体が眠る場所となっていた。そこに1人無数の魔法陣を前に立つ人影

    「やはり……初手で仕留めきれなかったのが痛いか……」

    既にかなりの物量を送り込んでいる筈だがよく耐える。こうなって来ると昨夜で仕留めきれなかったことが悔やまれる。恐らく向こうも何かしらの対策は講じてきているから、長期戦は避けられないだろう
    その魔法陣は謂わばレーダーの役割を果たしており、聖杯戦争に参加しているマスターを捕捉している
    現時点で参加者の全員がそれぞれ別の場所におり、こちらの戦力はほぼ無尽蔵に生産できる故各個撃破がし易い分都合が良いが、向こうにはサーヴァントが付いている。下手に大型を送り付けるよりこのまま数で押し切る方が良いだろう

    「セイバーのマスターは単独……」

    あの男、只管時間を稼いでセイバーに此方を探らせているのだろうか
    だが甘い。例えセイバーの能力が如何に高くとも、この場所の特定は不可能な筈。このまま行けば真っ先に墜ちるのはセイバー陣営。憂慮すべき最難関を苦も無く撃破できると言うものだ

    「生産段階は…….フェーズ3」

    昨日の様に急造のハリボテでは無く、本当の大型魔獣を生産できるラインにまで到達している。いざとなれば大型魔獣を差し向ければ良いし、最悪……

    「そうなる前に全員排除してしまえばいいか」

    注意すべきはセイバー陣営、そしてライダー陣営。まさかライダーのマスターが聖堂協会の刺客とは想像していなかった。セイバーに対する同盟の際も姿を見せる事は無かったからだ
    代行者ともなればその戦闘能力は侮る事はできない。現に今もライダーと二手に分かれて送り込む魔獣を最速で撃破し続けている。このまま続けても日が暮れるどころか世が明けてしまうだろう。ならばいっそーーー

    「ライダー優先で大型の魔獣を送って」

    圧殺してやろう。そう呟こうとした時、天井が微かに揺れた

    『そんな必要はない』

    その声と共に、地下墓の天蓋が崩れ落ちるーーー

  • 30二次元好きの匿名さん23/08/14(月) 20:10:32

    保守

  • 31千界樹の記録23/08/14(月) 20:23:41

    凄まじい轟音と共に天井が崩落し、大小様々な瓦礫が地下墓に雪崩れ込む。天井の穴から星空が見て、その真下に巨大な瓦礫の山が積み上がる。巻き起こる視界を埋め尽くす程の砂煙に、思わず腕で顔を覆う
    「随分派手にやったなー」
    「地上からここ迄、それなりの厚さがあったのでな。発奮させて貰った」
    砂煙の向こう、瓦礫の山から人の声が聞こえる
    「流石。こうもあっさり結界ごとぶち抜くとはな」
    しかも2人、その声の主は知っている。だが、それはあり得ない筈で。何故ならその人物は今尚魔法陣の中に捉えていてーーー
    パチン!と指を鳴らす音が聞こえ、その直後に砂煙が左右に隔たれる。その先にいる人物は、今もここと真逆のエリアにいる筈の人間
    「久しぶりだな。レオノール」
    元キャスターのマスター。ミレイユ・レオノールを見下ろすのはセイバーと、そのマスター神水流凌我であった
    「リョーガ……ッ」
    一体何故?どうやって魔法陣の指し示す位置とは完全に別の所に、いやそもそもーーー
    「どうやって、此処を……」
    此処の偽装は完璧だった。如何なる魔術であろうともここの結界を捕捉する事は不可能、魔力自体検知出来ず、あらゆる電子捜査の手すらも欺瞞出来る
    例えセイバーが原初のルーンを用いて探査した所で発見できる筈もない。その筈なのにどうしてーーー
    「一体何故、偽装は完璧だったのにーーーて思ってるんだろ?」
    セイバーのマスターが此方の思考を読んだ様に声を掛けてくる。セイバーのマスターはホラ、と複数の紙面を投げてよこした
    「これが此処数日で起きた行方不明者のリストと可能な限り追えた最後の目撃情報、そしてその人物達の居場所だ」
    その資料にはこの地の地図に、多くの円や線が書き出されているが、よく見るとその円の数と密度にはある法則性があって……
    「そう、被害者達はお前達の拠点だったこの廃病院付近が最も多く、そこから放射状に分布している。これだけ分かれば此処に何かあるだろうって阿呆でも分かるさ。そしてーーー」
    もう一枚、紙を取り出して広げてくる。その資料は此方からはよく見えないが、何かの見取り図ーーー!
    「ま、さか……」
    「そのまさかだ。この廃病院が経営されていた当時の病院の図面。これを探すのには苦労したよ、お蔭で日が暮れ掛けたんだからな」

  • 32千界樹の記録23/08/14(月) 21:11:27

    だがそのお陰でここの存在に気づくことができた。それにそもそも、の話
    「欺瞞が完璧すぎた。霊が彷徨いているにも関わらず全く魔力反応が無いってのは、それはそれでおかしいからな」
    「ーーーっ!?」
    迂闊だった。まさか追い払ったはずの霊達が戻って来ているとは慮外だった。だが、その程度の違和感に目敏く気付くものだ。通常の魔術師ではそもそもそんな弱い悪霊擬き等気にも留めないだろうに
    それに疑問はもう一つある
    「けど、それでも何で此処にいるの!?この陣でマスター達は全員捕捉している筈なのに」
    そう、今もこうしてセイバーのマスターの反応はここよりもだいぶ離れた位置で魔獣達と戦っている。それが何故、此処にこうして来ているのか。そこさの答えがまだ出ていない
    「ああ、簡単さ」
    そう言ってセイバーのマスターは指をパチンと再び鳴らす。すると彼を起点として2本の線。否、魔力で編まれた紐のような物が天井に空いた穴へと伸びていく
    「其処にいる俺は、俺じゃないからだ」
    そう言うや否や、魔法陣に捕捉されていた筈のセイバーのマスターの反応が消滅する。この消滅の仕方は魔獣達に食い殺された様だが、だがおかしい。だとしても目の前にいる彼の説明がつかないことには変わりはない。どちらが囮?いやそんな筈ーーーそんな困惑は他所に、遠くから誰かの声がする。しかもその声は、急速に此方に近づいて来てーーー
    「ーーーキャアアアアアアアアア!!!」
    「ーーーヤッフゥウウウウウウウウ!!」
    「うるさっ」
    まるでゴムで引っ張られるかのように此処へ突入して来た3者。来たのはアーチャー陣営、ライダー陣営。まさか今の術式で此処まで一気に飛んできたと言うのか
    「ーーー今、お前の補足していたセイバーのマスターは、俺と全く同じ性能をした人形でね。俺は其処にいる銀狼の協力で、一時的に仮死状態になって、人形と反応をすり替えたのさ。人形には予め俺の記憶と意識をインプットさせ、特定の状況で特定の動作を行うようにしていた」
    それをまんまと俺が単独行動をしている、と認識させていたのさ、とセイバーのマスターは言う。言葉にすれば簡単な仕掛けだが、それぞれに求められる魔術や技量は非常に高度かつ膨大な知識量を要求される。それをこうも成し遂げるとは、セイバーや他の魔術師、マスターの協力もあるのだろうが、これがユグドミレニアの魔術師なのか 

  • 33千界樹の記録23/08/14(月) 22:46:29

    「て言うか先輩。何なのあの術式!」

    アーチャーのマスターがセイバーのマスターへと詰め寄る「あんなの聞いてないし、あんなスピードでカッ飛ぶなんてどんな非常識な魔術なの!?」と此方を詰めて来ている

    「何もこうも、アレがトーコトラベルだ」

    目的地と自身を繋ぐ魔力のラインで、アンカーによる牽引を行うように飛行術式として成立させている。飛行と言うよりぶっ飛んでると言った方が正しいが、今回はそれに工夫を凝らした
    本来のトーコトラベルは目的地に対して、コースや速度の自由度が低い。基本最短距離をかっ飛ぶ為に今回のような街中で使用すれば最悪目的地到達する前に障害物へ当たって悲惨な目に遭いかねない
    其処で今回は、魔力のラインで予め行き道を設定し、それに沿うように術式を組み上げた。これなら、まるでジェットコースターのように決められたレールの上を走る為、障害物に当たる心配は劇的に減少する。名付けて
    『レール・トーコ・トラベル』今度これで特許出願しても良いかもしれない

    「フフッ、中々エキサイティングな飛行術式ね。機会があったらまたやりたいわ」

    ルーナは聞いたことのない悲鳴をあげて飛んできたマルグリットにら比べて楽しそうだった。て言うかアイツはアーチャーに抱えられて飛んできていたが、コイツは自分でライン持って飛んできていたぞ

    「アレが最新にして現行最高の飛行魔術だなんて……」

    マルグリットは頭を抱えている。アーチャーはそれを心配そうに見ながら既に弓をキャスターのマスター、レオノールに向けていた

    「さて、此処までだな。レオノール」

    気を取り直して此度の襲撃班へ向き直る。この辺りで不躾な乱入者には御退場願おうか
    恐らく、こいつの今までの襲撃のカラクリは全てキャスターの手腕によるものだ
    この地下墓も、資料よりだいぶでかいのは空間を拡張しているからで、あの魔獣どもを生産する術式もレオノールの持つ死霊魔術の応用だろう。さらにそいつらを任意の座標へ転移させる魔術に聖杯戦争のマスターを捕捉するレーダーとなる魔法陣に、この隠し工房となっている場所を隠蔽する結界も全て、あの神代の大魔女、キルケーが拵えたものに違いない

  • 34千界樹の記録23/08/14(月) 23:13:05

    ご丁寧に魔力の確保さえしてやれば己が消滅しても問題なく稼働するように作られている
    恐るべき発想力、そして発想を実現させる技量
    正に大魔女の名に相応しい仕事だと心から敬服する。恐らく俺達のような現代の魔術師が生涯をかけても決して到達する事のないあまりにも隔絶された神域に等しい魔術だ
    これらを動かす為の魔力リソースは恐らく前もってこの街に潜伏していた魔術師や廃工場、廃病院、スラム街を根城にしていた不良達を襲ってその心臓や魂を魔力源としているのだろうが、それも全て終わりだ
    「3対1。以前の俺と全く同じだが、最早お前に成す術はないだろ?大人しく降参するなら殺しはしないさ」
    但し、相応のペナルティは負ってもらうが、と一応最終通告はしておく。どうせこれ程の工房にキャスターが丹念に拵えた術式の粋、何かしら切り札にたるものが存在している筈でーーー

    「舐めないで」

    と、やはり抵抗する気満々と来た。恐らく此方の攻撃に備えた防壁と、後は何があるかな?攻撃魔術はセイバーには通らないし

    「あら?無駄な抵抗を続ける?そっちがその気なら代行者として貴女を殺しても良いのだけどーーー」
    「ーーー来なさい!」

    ルーナの言葉を遮りって叫ぶレオノール。その数秒後、突然この空間そのものが揺れ始めた。まるでまで地震のように揺れ、それどころか下の方から地響きの様なものまで聞こえてくる

    「ーーーさせん!」

    異変に気付いてすぐにアーチャーが矢を放つが展開された防壁に阻まれる。セイバーが短剣を打ち込んでも悉く弾かれてしまった。これもキャスターの仕込みだろう

    「これまで私が襲って来た魔術師達は、魔力資源であると同時に「素材」なの」

    さらに揺れは強まり、地響きは強くなる。間違いない、この地下墓のさらに下から、何かが這い出ようとしている!

    「素材……だと!?」
    「聡明な魔術師さん?貴方は既に理解してるのでしょう?これまで貴方達を襲って来ていた魔獣の正体が」
    「……まあ、大体はな」

    魔力障壁で隔たれた空間の中、時間と共に大きくなる揺れと地響きの中で行われる答え合わせ。アレらは全てヘドロのような物質と屍が持つ瘴気を含んだ化生共。その正体はーーー
    「アレらは極東で言うところの屍人形。死体を繋ぎ合わせて作った人形に死霊を取り憑かせて操る下法に似ている。恐らく無数の屍で作った生産工場から生み出されているんだろ?」

  • 35二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 10:10:14

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 10:10:16

    まさかの人形再び。ちゃんと回収してたんだ

  • 37二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 10:39:49

    サーヴァントに対抗する切り札…ワクワクするな

  • 38千界樹の記録23/08/15(火) 12:13:21

    死体の塊から生産される物は所詮屍。泥のような塊に魔力を込めて生まれ落ちる生ける屍
    老いた赤子、生まれた時から終わってるどうしようもない命ですらない何か。それがあの魔獣の正体
    死体しか愛せない死霊魔術師にはお似合いの人形共だと、最後に皮肉を付け加えて置く
    「その通りよ」
    レオノールは表情を変える事なく、凌我の回答が正解であると言う
    地響きはさらに強くなり、とうとう床や壁面にまで亀裂を生じ出す。此処まで時間稼ぎに付き合って来たが、あの女の落ち着きよう。サーヴァント3人、マスター3人。しかも彼方にはサーヴァントもいない
    端的に絶望的な戦力差。これでも尚あれだけ落ち着いているのだから余程奥の手に自身があるのだろう
    さて、鬼が出るか蛇が出るか。その時を待ち構えていると、突然地響きが止む
    その直後ーーー

    「ーーーは?」
    マルグリットが呆けた声を上げた。だが、無理もない。これは、この魔力はーーー
    「何だ!?この途方もない魔力量は!?」
    アーチャーが驚愕の声を上げる。その声はこの場にいる全員の総意でもあった
    余りにも桁外れの魔力量、セイバーの宝具すら霞んで見えるような底の見えない膨大なそれが、真下から現れようとしているのだ
    「何をした!?死霊術師!」
    ルーナが戦鎚をレオノールへと向ける。だがそれも威嚇程度の事にはなるまい。舌打ちをしてレオノールを討つべく結界へ飛び込む。だが幾ら魔術だろうが何だろうが粉砕できる彼女の戦鎚も、結界を破壊した側から展開されてはあの死霊魔術師の元へは到達できるはずが無い
    「マスター」
    「ああ」
    セイバーの側へと近寄る。床や壁面に奔る亀裂が大きくなって来ている。間も無くこの地下墓は崩壊するだろう。今のうちにトーコトラベル用のレールを展開しておく
    ここに眠っている遺体と一緒に生き埋めなぞゴメン被るからな
    「聡明なセイバーのマスターさん?貴方の回答は見事だったけど、一つだけ見落としてるの」
    「見落とし?」
    「貴方は魔獣の元を屍を集めた生産工場って言ったけど、それは半分不正解」
    妖艶な、それでいて薄気味の悪い笑みを浮かべて、死霊術師は嗤う。今尚増大を続ける魔力、とうとう亀裂は地割れとなって俺達と元キャスターのマスターを分け隔てる溝となった
    「これが魔獣の母胎にして私達の最後の切り札!この地に目覚め、暴虐を尽くし、我らが悲願を叶えなさい」
    そして、それが姿を現した

  • 39二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 16:40:48

    まさかアサシンかキャスターの死体を使用してる?…流石にないか

  • 40二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 17:18:55

    死体で作られた生産工場…
    だから泥の様な魔獣なのね
    リビングデッドよりもひでぇや

  • 41千界樹の記録23/08/15(火) 20:58:32

    それは黒であった。今まで確認できたどの魔獣よりも暗く、澱んだ黒。屍の肉を繋ぎ合わせて造られたであろう躯体は、触るだけで侵されるだろう瘴気に覆われ、見るだけでも目が焼けるような感覚を覚える
    地割れの中より現れたのは巨大な異形の魔物
    上半身は人の形をしているが、その背に巨大な翼を持ち、髪は無数の大蛇、下半身は大蛇のように鱗の覆われた尾となっている
    人の身体の部分は、一見すると女神像の様にも見えるが、そのほかの構成要素の全てがアレを女神などでは無いとまた真っ向から否定する
    最早悍ましい怪物以外の何者でも無い。蛇の髪、翼あるモノーーー怪物を生み出す機能を持った怪物など、その様な物はそう多くはない
    元来女神として生まれ、狂い2人の姉を喰らった堕天の女。幾多の英雄を返り討ちにした怪物の女王ーーー

    「屍神ゴルゴーン!!」

    「AAAAAAAAAAAAAAAAAAーーー」

    魔獣の根源、キャスターの遺した最後の切り札。英雄殺しの魔物がその産声を上げた

    「ーーーバカな!?」

    真っ先に反応したのはアーチャーだ。彼女の真名はアタランテ。同じギリシャ出身の英霊だ。あの怪物への認識、知識は俺たちよりも上だろう。その彼女が、有り得ないと叫んだ

    「ゴルゴーンは正真の怪物、英霊ではない!召喚されるとしても女神の側面を持った狂い果てる前の状態の筈だ!」

    「ならば、アレはサーヴァントでは無いのだろう」

    セイバーは崩れる瓦礫からマスターを守りながら呟く。その通りだ。アレだけの魔力を保有するあの怪物は決してサーヴァントではない

    「アレは屍をら繋ぎ合わせて作ったネクロドールよ。大きさからして行方不明となった魔術師や他の住民達だけじゃないわね」

    流石代行者。即座に背負いたいを看破してみせた。そう、レオノールの口ぶりからして、アレが魔獣を生み出していた存在。本来、ゴルゴーンに魔獣を意味出すなどと言う逸話は非常に少ないそれにも例外はあって、彼女の血からペガサスが、彼女が母となった怪物がまた多くの怪物を生み出したと言う話が伝わっている。それ以外にも、この屍の塊自体に魔獣を生み出す機能があれば何も問題はない

    問題はーーー

    「けど、幾ら何でもこの魔力量は有り得ない。サーヴァントなんて軽く超えてる……!こんなのどうやって作れんの!?」

  • 42千界樹の記録23/08/15(火) 22:03:17

    そこだ。未だに目覚めたばかりで微睡んでいるこの怪物の保有する魔力はセイバー、ライダー、アーチャーの3騎を出してなお余りあるーーーたとえランサーを加えても尚届かないレベルである。魔術師の遺体を利用したとしても、絶対にこんな怪物を作れるバスがないーーー
    「ーーーまさか」
    凌我が思い至ったのは、日中に調べた廃病院の出来事。部屋全体に配置した複数の魔法陣を用いた大儀式の痕跡。アレが使われた形跡こそあっものの、どの様な召喚に用いられたか定かでは無かった。だが、これが正しければ全てが繋がる

    「ゴルゴーンの魂だけを召喚して、その器に憑依させたのか!!」
    「ーーーご明察」

    凌我の言葉を、あっさりと肯定したレオノール。普通ならこんな事はやらない。と言うよりできない。そもそもそんな発想に至らない。ある意味で偉業とも言える、そんな大それたことをキャスターは行ったのだ

    「はあ!?あの召喚陣でゴンゴーンを呼び出したの!?できんのそんな事!?」
    「そんなことよりーーー」

    すごい剣幕でこっちに駆け寄ってくるマルグリット。それを追う様に走ってくるルーナ。ライダーがそんな彼女を庇う様にしている
    アーチャーが走りながら矢でゴルゴーンを牽制しているが、見たところ大した効果は見込めていない。恐らく、今はまだ起動段階。反射的にアーチャーの攻撃を髪の蛇が対応しているが、奴が起きたらこんなものでは済まされ無い

    「凌我君!」
    「ああ、一旦引くぞ!」

    まさか此処までの化け物を隠し持っていたとは考慮の外だ。想定を上回るとかの次元では無い。サーヴァント複数を纏めるよりも更にでかい魔力の怪物なんざこんな所で相手にしたら死ぬしか無い。と言うかもう此処が持たない。地盤から崩れる秒読みに入っている。一刻も早く脱出しなければ生き埋めになってしまう

    「逃げるというの?」
    「ああそうさ!じゃあな!」

    レオノールの挑発めいた嘲笑を流して伸ばしたラインを掴む。ルーナは俺の持つところの上を握って、サーヴァントは霊体化してもらえれば何とかなりそうだがーーーって

    「こっちだバカ!」
    「なっーーーえ?」

    レオノールを睨みつけているマルグリットを咄嗟に抱き抱える様にして、トーコ・トラベルを発動。予め指定されたレール上、天井の穴を通る様にして猛スピードで離脱する
    霞む視界の先で、廃病院が地盤沈下と共に崩れていくのが見えた

  • 43二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 07:26:32

    保守

  • 44千界樹の記録23/08/16(水) 08:17:01

    トーコ・トラベルの行き先は俺の拠点。かなり突貫でコース取りをした為、少々冷や汗をかく場面もあったが、何とか辿り着いた
    「ギリギリ、逃げ切れたか」
    俺たちが拠点の敷地に着地すると同時に霊体化していたサーヴァント達も姿を現す。これで背満員の無事が確認できた
    「ええ。でも流石にあんなイカサマカードを隠していたなんて思わなかったわよ?」
    「キャスターの仕事だろう。あの女は割とああ言うところがあるらしいからな」
    メディアからそんな話を聞いていると、アーチャーが言っている
    あの怪物、屍神ゴルゴーンとやらは今俺の仕掛けていた霧の結界で、多少は足止めが出来るだろう。日中の調査時に仕掛けていたアレは方向感覚を失わせる魔の霧だ。精々同じ所を回り続けていればいい
    「あの、先輩……」
    「どうした?」
    「いつまでこうしてる気?離して欲しいんだけど……」
    と、脱出の際に咄嗟に抱き抱えたままだった。流石に恥ずかしいのか、顔がかなり赤い
    「っと、悪い」
    ヒョイ、と腕を離してやる。少し強く抱き抱えてたから、少し痛かっただろう。顔を赤くしながらジト目でこっちを見てくるが緊急だったのだから勘弁してほしい
    「あらあら〜、良いの?そのままじゃ無くて♪」
    「ボルト撃ちますよ?」
    ジャキ、とボウガンを突きつけられるルーナだが、笑顔のまま両手を上げるだけである
    「ってこんなことしてる場合じゃ無い!」
    マルグリットは我に帰る様に凌我の方へ向き直る。そう、危急の問題がすぐそこに迫っている。こんなおふざけをしている暇はないのだ
    「アレは一体何なの?ゴルゴーンの魂だけを召喚して、あの死体の塊に憑依させるなんて、そんな事可能なの!?インヴォケーションにしたって限度が……」
    「無理だ」
    マルグリットが問いを凌我へと投げ掛けるが、彼は即座に否定する。あんな事、本来なら不可能な芸当であると
    「その辺は降霊術師のお前の方が詳しいだろう?あんな大それた真似、時計塔のロードが総掛かりでやっても出来るわけがない」
    「だったらーーー」
    「それを可能にしたのが、あのキャスターだ」

  • 45二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 18:01:26

    保守

  • 46千界樹の記録23/08/16(水) 21:14:38

    凌我が今にも吐き出しそうなほどに青ざめた表情で続ける
    「本来、憑依させる術式の前提はその器となる人間が生きている事が前提だ。……あの青崎の人形師も移す先の人形は「生きている」その前提は覆らない……っ」

    言葉の途中で口元を抑える凌我。マルグリットが怪訝そうな表情をして見ていると後ろからルーナが声を掛けた

    「ああ気にしないで良いわよ?どうせあの怪物の元の「継接ぎ」を見て参っちゃっただけだろうし」
    「……煩い」

    その通りだよ全く。俺の「眼」は呪や死を見分ける。特に高位でもない魔眼の類だ。多少の呪いや死なら平気だが、何の準備も無しにアレだけの数の死とそこから生まれる呪い、瘴気が眼に入ればこうもなる

    「……なにそれ」

    マルグリットが、いつも以上に不機嫌な、つまらなさそうな声をあげる。そんなことを言われても仕方ない。魔眼は体質なんだ

    「……話を戻すぞ」

    多少吐き気も治った所で話を続ける

    「生者で無い、しかもアレだけの数の屍を継ぎ接ぎにして作った器に莫大な質量を持つ魂を憑依させて上手くいくわけがないんだ。だがどうだ?降霊術師のお前の目から見て、アレはどう映る?」

    マルグリットに視線を向けて投げられた問い。いきなりの事だが、マルグリットは少し考える素振りを見せて、でもすぐに答えを出す

    「多分、定着出来てる。まだ完全に覚醒はしてなかったけど、拒絶反応らしきものは見なかった」
    「つまり、霊魂と肉体の不適合による自己崩壊は無いって事ね。どうするの?サーヴァント複数騎分の魔力を持つ怪物なんて、暴れられたらそれこそ事よ?」

    そうなっては、神秘の隠匿も何もあったものではない。そうなる前に打倒する他はないだろう

    「ーーーその怪物について、こちらからも報告がある」
    3人と3騎の背後から掛けられた声。いち早くサーヴァントはその主に対して経過を強め、マスター3人はワンテンポ遅れて振り返る
    立っていたのは言峰神父であった

  • 47千界樹の記録23/08/16(水) 22:46:22

    「報告?」
    マルグリットがまるで怪しいものを見つけたかの様な目で神父を見つめる。だが、彼は気にした様子もなく言葉を続けた
    「先程出現したあの怪物から、多数の魔獣が産み落とされたとの報告が入った。魔獣達はキャスターのマスター。ミレイユ・レオノールを中心に集まっている。恐らく彼女を守護する為だろう」
    それともう一つ。神父は全員を見渡しながら、その鉄面皮を崩す事なく口を開く
    「キャスターの霊基が配置されていた霊基盤がいつの間にかあの怪物の不明霊基にすり替わった。つまり、アレもまた聖杯戦争に参加するサーヴァントという訳だ」
    「ハア!?アレがサーヴァント!?」
    「どうやら、キャスターが自身の霊基が消滅した後にと掛けた保険なのだろう。霊基盤を管理するこちらの身にもなって欲しいものだ」
    マルグリットの悲鳴じみた声にため息をつきながらそれに応えた神父
    聖杯戦争の監督役は気苦労が絶えないらしい
    「既に残った魔術師達に声を掛け、情報統制を徹底させている。ユグドミレニアの魔術師には感服するよ。電波を通して暗示を掛ける魔術に助けられているよ」
    「凄いだろ?アイスコルの遺した魔術基盤から俺が組み上げた」
    と、虚勢を張るものの、正直参ってしまう。あの怪物がもし街の被害を考慮せずに暴れ回った場合最悪聖杯戦争どころ手間は無くなってしまう。早急に片を付けなければならないのは変わらないのだ
    「アレがサーヴァントならーーー」
    「ーーーマスター狙いもあるだろうな」
    ルーナの言葉に凌我が続ける
    「アレがサーヴァントの枠組みなら、現界の楔としてあの女がマスターをしている筈だ。丁度キャスターを斃した時令呪が一画残っていた筈、それがアレを繋いでいるんだろう」
    頭の中でまだ素早く戦術を構築していく。敵の推定戦力、こちらの戦力、そこから取れる確度の高い戦法と此方が見込める勝ち筋ーーー
    「二手に分かれる」
    凌我の言葉に2人は耳を傾ける
    戦術概要はこうだ
    「サーヴァント3騎があの怪物と戦闘。俺達でレオノールを討ちに行き、サーヴァントの方は戦況を逐次報告してほしい。それに応じて此方も指示を送る。最悪令呪を切ってゴリ押ししてでも潰しに行く。場所は廃病院と聖杯の安置されている教会の間。自然公園ーーー」
    此処以外に、あの怪物を相手取って全力戦闘が行えそうな場所はない
    サーヴァントとマスター。2陣に分かれての戦線が幕を開けるーーー

  • 48二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 23:32:41

    やっぱり聖杯戦争の花はルール違反のインチキやね。

  • 49二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 06:36:40

    一応保守

  • 50二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 07:24:12

    キルケーやらかすの巻

  • 51千界樹の記録23/08/17(木) 07:34:14

    自然公園入り口、そこで敵を待ち構える3騎のサーヴァント
    セイバー、アーチャー、ライダーは例の怪物ごきたる方向を静かに見据えている。今の所、マスター達からあの怪物が人を襲っていると言う報告は入ってはいない。セイバーのマスターの予想通り真っ直ぐに聖杯を目指しついるのだろう

    『恐らくアイツの目的は聖杯だ。既にサーヴァント2騎分の魔力が収まっている。後は最短コースで聖杯を抑えれば奴の勝ちだ。それ以上の魔力はあの怪物で補えるからな』

    その読み通りにあの怪物は真っ直ぐ背後の教会へと向かっている。確かにこの場所は広く住民も近くには居ない為、サーヴァントとして力を振るうのに憂いはないだろう

    「うん。状況は悪く無い。後はあの怪物がどれほどのものか、と言うところかな?」

    ライダーは剣を地面に突き刺したまま、隣に立つセイバーへ声をかける。その当人は仮面のまま、表情は窺い知れないが、真っ直ぐに倒すべき敵を見据えているのだろうか

    「感じられた魔力だけでも我々を優に上回るものだった。遺体の寄せ集めとはいえ、苦戦は免れないだろう」

    サーヴァントと言うものは、こうも儘ならぬものかーーーセイバーは心中で呟く。生前の己であればあの怪物等単騎ででも打倒しうることは可能だろう。それどころか傷の一つも負う様な脅威ではなかった筈だ
    それがこの身体では3騎係で斃せるか否か、そのレベルの話にまで落ち込んでいる。現代にこうして仮初とは言え生を受けるーーー奇跡にも等しい出来事ではあるが、それ故の制約には歯噛みをせざるを得ない。しかし、例え己の力が生前の数分の一程度にまで落ちていたとしても、このシグルドの成す事に変わりはない。全力で魔剣を振るうのみだ

    「ーーー来たぞ」

    2人から少し離れた木の上に立っていたアーチャーが2本の矢を番える。セイバー、ライダーは互いに剣を構え、セイバーが前に、ライダーがそれをカバーする様に位置取る

    「AAAAAAAAAAAAAーーー」

    女性と男性が混ざった様な、低く甲高い不気味な咆哮を上げる屍神ゴルゴーン。大蛇の体がうねり、木々を薙ぎ倒しながら自然公園の敷地に侵入する

    『お願い、アーチャー!』
    「了解だ」

    マスターの声に応じる様に高まる魔力。引き絞られる矢の向く先は屍の怪物ではなく、月明かりの映える夜空ーーー
    「先手はもらうーーー『訴状の矢文!!』」

  • 52二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 11:35:52

    …これってキルケー倒してなかったらサーヴァント数騎分の死体ゴルゴーン+キルケーのクソコンボ成立してたって事?

  • 53二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 20:35:23

    早いかもだけど保守

  • 54千界樹の記録23/08/17(木) 21:19:04

    夜空に放たれた矢は二大神の加護となり、天より地へと降り注ぐ。前回は広い範囲を薙ぎ払う様に撃たれた矢は、屍神とその周囲のみに範囲を集中して宝具を使った
    例え範囲を狭めても齎される加護の量は変わらない
    その分降り注ぐ矢の密度が上がり単純な破壊力は増す。極限まで攻撃範囲を縮小すれば、それは矢の雨では無く滝と形容して良い。間断なく隙間無く放たれる矢はその範囲を抉る程の局地的破壊をもたらす
    綺麗に草原を抉り赤茶色の丸いクレーターを作り出した宝具。本来ならば全身粉々に弾け飛んでいても何らおかしくはないが、この場の誰1人、その未来を想像していなかった
    上がる土煙の向こう、姿を現すだろうそれを疑う事なく見据えている

    「AAAAAAAAAAAAAーーー」
    「チッ」

    予想していたとは言え、思わず舌打ちをするアーチャー。体表面の大部分がズタズタになり、人骨を繋ぎ合わせた歪な骨格が顕になっている部分もある。だが、その損傷箇所も気味の悪い気泡をブクブクと泡立てながら元通りに復元していく
    更には矢で削がれただろう散らばった肉片からはーーー

    「そう来たか」

    ライダーが剣を構える。散らばった肉片は其々が形を成して個別の魔獣へと変貌する。その姿は様々で、今まで出現した物もいればそれらよりも一回りは大きい亜竜の様な姿をしたものまで出現する

    「ーーーハアッ!」

    近場にいる魔獣から斬っていくライダー。彼はこの場で己の役割を定めた。己はどちらかと言えば守に長けた英霊。どう足掻いてもあと巨大の怪物に対して削る事はできても致命打を与えることはできないだろう。それはセイバーに任せ、自身はこうして沸く雑魚を片付けて、アーチャーとセイバーの負担を減らす事に注力すべきと

    「この程度ならば、私1人でもどうにかなるかな」

    セイバーの斬撃から溢れた黒いヘドロから生まれた魔獣を斬り、剣を握り直した


    「ーーーぬぅん!」

    魔剣を拳で撃ち込む。射出されたグラムは夥しい蛇の髪を消し飛ばし、屍神の屍肉を大きく抉る。抉られた箇所からは血では無い、黒いヘドロの様な体液が地面に零れ落ちる。恐らく、アレからも魔獣が生まれるのだろうが、その処理はライダーに任せ、セイバーは目の前の怪物へと跳躍する
    魔剣で抉ったところは既に復元が始まっており、生理的に嫌悪感を催す様な不愉快な音をたてながら徐々に塞がっていくーーー

  • 55千界樹の記録23/08/17(木) 22:42:43

    セイバーは肩の部品を外して手に握り込む。刻み込むのは硬化、強化、相乗、雷のルーン。青い雷光を迸らせるナックルダスターを握りしめて、修復していく屍神の傷口へ一撃を叩き込む

    「ーーーてぇえい!!」

    爆ぜる稲光が塞ぎ掛けた傷口を再び焼き抉る。
    ルーン重ね、強化された稲妻を纏う一撃に気泡を立てる肉は弾け飛び、醜悪な内側を晒す
    真っ当な生物であればあまりの激痛にその場をのたうち回るか、気を失うほどの肉体破壊だが、屍の塊であるこの化け物に通学というものは存在しないらしい
    着地をした此方へ間髪入れずに蛇に変異した髪を突き立てる様にして攻撃してくる。両手に短剣を構え次々に襲い掛かる蛇を躱し様に斬り払って行く
    たが、斬り落とされた髪は直ぐに復元していき、落ちた蛇はそのまま大蛇となって此方に襲い掛かる
    其れらを魔剣で悉く斬り捨てていき、どうすれば斃せるかを思案する

    ーーーこれ程の復元能力、ただ宝具を使うだけでは斃しきれないかもしれんな

    セイバーはそう考えた。恐らく、自身の宝具を撃ち込めばあのら巨体の半分は消し飛ばせるだろう。たが、この修復の速度を見ると最悪、巨体の全てを消し去らなければ其処からあっという間に復元してしまうかもしれない
    明らかに元々の肉体の総量を上回る復元能力。これはただ死体を結合して作られただけでは無い。複数の神格を持つとされる魔獣ゴルゴーンの魂が肉体に強い神代の神秘を与えているのは確かだろう
    そして、叡智の結晶が確かに捉えた。これは死霊魔術の他にもそれとはまた別の、忌まわしき何かが用いられているーーー

    「ふむ……」

    このまま無策での長期戦、消耗線になるのは避けるべきだが、現状此方に決め手は無い
    此処はマスターを頼るべきかとセアバー逡巡する
    これが我々と同じサーヴァントであるならば、あの魂を繋ぎ止めるマスターの存在は非常に重要だろう
    マスターの攻略も戦局を左右するーーーシグルドは再び剣を構えたマスターの方で何か動きがあるまではこれが教会は向かう事を阻止する事に集中する
    現状この怪物を殺し切る手段に欠ける以上、それが最良の選択だった

  • 56二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 06:56:06

    保守

  • 57千界樹の記録23/08/18(金) 07:52:24

    サーヴァント達が戦いを始める頃、マスター達もまた死地へ赴こうとしていた
    3人は自然公園の敷地内、主戦場である広場から少し離れた湖の辺りで来る敵を待ち構える
    流石に短時間では周到な準備こそ出来はしないが、それでも3人は可能な限りの準備は行なってきていた。特に凌我は一度自身の工房に戻った際に、自身の持つ最高の礼装を引っ張り出して来ていた
    シンプルな黒い柄と鞘を持った刀剣。鍔らしい鍔は無く、鞘と柄の間にそれっぽい膨らみがあるだけの剣は、西洋剣のそれでは無く日本の古い剣に近い雰囲気を持っている
    ルーナもまた戦闘服に身を包み、マルグリットは腰の後ろに矢筒を取り付けている

    「持ってきてたんだ、それ」

    ルーナが視線を凌我の剣へ落とす

    「念の為にと思って取り敢えず持ってきてたんだが、使う事になるとはな」

    刀剣を半ばほど抜く。その造りは日本刀のそれだが、反りはなく諸刃造の刀身が覗く
    ほんの一瞬のことだが垣間見えた刀身からは強い魔力を帯びている

    「それ、先輩が寮部屋に堂々と飾ってる奴だよね?礼装だったんだ」
    「滅多な事で使わないからな。使うのは死徒討伐の時以来だ」

    戦いの前に、其々がリラックスする様に取り留めのない会話をする。適度に肩の力を抜く様にして戦いに備えるのだ

    「ーーー来るぞ」

    張り巡らせた結界が侵入者が来た事を知らせる。見えたのは百鬼夜行もかくやと言うほどの魔獣の群れとその中を歩くミレイユ・レオノール
    魔獣の種類も狼や獅子、人面鳥……セイレーンに加えて人の身体と馬の胴体を持つケンタウロス、小型のゴルゴーンの様な魔獣、ラミアの様な物まで増えていた

    「さて、準備はいいな?」
    「もちのろん」
    「いつでも」

    サーヴァントと屍神の戦いが始まる側で彼らの戦いの幕も上がるーーー

  • 58二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 10:58:07

    さあこの戦いどうなるかな?


    それはそうと>>46の時マルグリットが不機嫌になったの(魔眼とか知らないけど?てか何でその女は知ってるのよ…)って感じにイライラしてたのかな?って思うと…何か良き

  • 59二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 21:31:00

    保守

  • 60千界樹の記録23/08/18(金) 21:33:16

    「『湖水』『跳ね打ち蟲を呑む』『地を舐むまま狂い舞え』」

    先手を取ったのは凌我の魔術。湖と言う地の利を得た彼は正に水を得た魚が如し。態々水を生成する必要がなく、その分の魔力を術の行使に使える分、通常よりも強力な魔術の発動も容易となる
    湖がうねり、巨大な錦鯉となって湖面より跳ねる。空中高く跳ぶ凡そ5メートルにも及ぶ巨大な鯉は重力に任せて魔獣の群れに飛び込む。まるで餌に食いつく様に水で構成された大魚は大口を開けて黒いケンタウロスを飲み込んだ

    「ーーーー!!」

    水でできた鯉は、その透明な外見からは想像もつかないが、内側が高速で廻る高圧水流の渦が巻いており、中に入った異物を容赦なく物理的に削ぎ取っていく。一度呑み込まれれば最後、泥の魔獣は水圧のミキサーに粉々に分解されてしまった
    哀れな魔獣を体内で砕いた鯉は未だ餌を求めるように跳ね回り、その度に内側に獲物を取り込んでは内側で撹拌する様にバラバラに引き裂いていく
    だが、其処に意識を奪われる事なかれ。敵はそれでは無いのだから
    魔獣の群れへ疾駆する凌我とルーナ。その2人を援護する様に撃ち出されるマルグリットのボルト。逸早く群れへ到達するボルトはまるで生きているかの様に飛翔の軌道を変えながら先頭集団の魔獣の頭部を猟犬の様に次々と撃ち抜いてゆく

    「ハアアア!」

    そして頭部を失い崩れ落ちる魔獣を足蹴にして群の中へ飛び込んだルーナ。一度その戦鎚が振るわれれば有象無象の魔獣達はなす術もなくひしゃげてミンチになるか、或いは内側から弾けて泥のスープになるのみだ

    「邪魔だ!」

    さらにその奥から駆け抜ける影。凌我もまた、その手に銀に閃く剣を以て、魔獣達を斬っていく
    その刀剣は目には見辛いものの、刀身に薄く水を纏っており、その水が高速で刀身表面を行き来しており、切れ味を大幅に上昇させていた。それによりどの様な魔獣であろうとまるでバターを切る様に滑らかに寸断されていった

  • 61二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 07:07:19

    保守

  • 62千界樹の記録23/08/19(土) 14:11:34

    魔獣の群れの中を走りながらも、自身の背後を無視して視界入る魔獣を悉く潰して回るルーナ。彼女は前、レオノールだけを見据えて眼前の魔獣を轢殺する。当然囲まれている状況の中で背中を気にしないと言うのは自殺行為に近い

    「HAAAAAAAAAAーーー」

    当然、ガラ空きの背中を狙う魔獣もいる。背後から飛び掛かる数匹の魔獣、振り返るまでもなく、この場にいる全ての動体の動きを把握しているルーナが、それに気づかないはずはない。だが、彼女は敢えて無視して慌てる様子もなく、寧ろ淡く微笑んでいた
    「『五月雨 飛燕と撃て』」

    数匹の水の燕が弾丸の様な速度で魔獣を貫く。魔獣は貫かれた胴体から両断されてもがきながら地面に落ちる。更に躍り出た人影が地面でもがいている魔獣達の首を斬り落とす
    ルーナの背後に背中合わせに立つ神水流凌我。刀剣と戦鎚、銀色の髪と濡羽の髪がコントラストに映える
    「ありがと」
    「カバーはしてやる。そのまま行け」
    「任せて」

    会話は短く、直ぐに背中合わせのまま互いに走る。ルーナは一瞬だけ後ろに顔を向け悪戯っぽく微笑む。視線の先には凄い顔をしているマルグリットがいた

    「なに、アレ……」

    只管真っ直ぐ突撃するあの代行者。流石に背後が無警戒過ぎるでしょって思ったが、あの女を助ける気もなかったから無視して矢を番えていたら、あの女の後ろから魔獣達が飛び掛かってきた時、先輩がキッチリとカバーしてあの女を助けた
    「……」

    しかも丁寧に2人で背中合わせになって、凄い相棒感出してきてるし、なんなのアレ
    「……チッ 」

    思わず舌打ち。あの女、先輩と別れ際にこっちに顔を向けてきた。しかも「私達こう言うの慣れてますー」みたいな顔までしてきた……!
    お陰で苛立ちは最高潮、ボウガンのグリップが悲鳴を上げ始めている

    「私だって……」

    戦っているんだから、2人の世界に入る事だけは許さない。そう思ってボウガンの狙いを定めた
    狙いは、あの死霊術師。狙う好きは一瞬、けど逃がさない。魔獣が転送される間の数秒、その隙間から女を狙うーーー

  • 63二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 14:52:58

    マルグリットに軽く見せつけるようにしてるルーナちゃんもいいね
    この水面下の女の戦いでしか得られない栄養がある

  • 64千界樹の記録23/08/19(土) 21:32:36

    魔獣が送られるタイミング、量、そしてあの2人の殲滅力を離れた箇所から俯瞰しているに近い自分なら狙撃のタイミングを測ることが出来る
    転送された魔獣があの2人へと反応して向かい移動を始めた瞬間
    「bounds=bolt!」
    狙い澄ました矢は真っ直ぐに死霊術師へと飛翔する。撃ち放たれた矢は魔獣の群れを抜ける様に軌道を変えながら飛んでいく
    しかし、魔獣の軍勢を潜り抜けた矢がレオノールに到達する直前に転送されてきた魔獣の肉壁に遮れた
    「その程度?お嬢さん」
    挑発的に此方を嘲笑う死霊術師。ご丁寧に音を送る魔術で此方に声を届けてくる。
    だが初めから届かない事は承知の上、此方の狙いは別にある。一瞬でも此方に意識を向ければ、この次の攻撃に対する転送は間に合わない
    「ならこれはどう?」
    お返しに同じ魔術で此方の声を送ってやる
    「ーーー!」
    水の鯉は既に死霊術師の近くに来ていた。当然その事はあの女は理解していただろうが、一瞬でも此方に意識を向けさせてやれば、このタイミングでは魔獣の転送は間に合わないし、たとえ間に合ったとしても鯉の大きさには術師諸共巻き込まれるは必定
    「大した魔術だけど、相性が悪いわ」
    死霊術師は誰かの遺体のものだろうか、心臓を取り出すと、鯉の中へ投げ入れた
    投げ入れられた心臓は鯉の内部でバラバラに分解されていく。だが、バラバラにされた心臓から、夥しい程の瘴気が膨れ上がっていき、水の鯉が唯の泥水に変化して地面に堕ちた
    「は?」
    威力だけじゃん先輩の魔術
    毒付きながらも理解した。あの女、普通に死霊術師として強い
    今投げた心臓、爆発させて其処から出る瘴気と魔力で効果範囲内にいる敵を呪殺する礼装だろう
    先輩の鯉は水が持つ生命の循環を利用して仮初の生命を水に与えたもの。普通に呪い殺された訳だ
    目論見は外れたが、こうなれば癪だがあの女を援護するら方針に切り替えよう
    幸い、ボルトはまだあるしいざとなれば降霊術の奥の手を見せてやる

  • 65二次元好きの匿名さん23/08/19(土) 21:35:20

    死霊術のエグさは獅子Goさんで判ってはいるが、改めて極まってるとエグいなぁ

  • 66二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 02:01:55

    保守

  • 67二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 10:05:04

    まさかキャスマスがここまでのダークホースになるとはこのリハクの目をもってしても(

  • 68千界樹の記録23/08/20(日) 11:28:19

    セイバー達と屍神ゴルゴーンとの戦いも激化していった。彼らと屍神の周囲には無数の魔獣の残骸が散らばり、屍神も至る所に大小ダメージを背負っているが、それらも全て復元されて行く。無尽蔵に近い修復能力を有する怪物、しかもダメージを与える程に新たな魔獣が出現するのだから始末におけない
    戦況は膠着している。だが時間をかけるほどに此方が不利になるのは明白で、放置するわけにもいかない
    「ハアア!」
    セイバーの魔剣が屍神の神を縦に寸断する。
    切り落とせば其処から新しい魔獣が生まれるが、こうして縦に割くだけならば被害は最小限に留められる
    「AAAAAAA」
    屍神は変わらず自己に対するダメージを全く意識しておらず巨大な腕を振り回したり、尾で周囲を薙ぎ払うなどその巨体を活かした豪快な攻撃を実践し続けている
    幸い、幾らゴルゴーンの魂が憑いていると言っても、物理的に存在しないためか、彼の怪物が持つ最も有名な逸話、石化の魔眼を使う気配は見られない
    ただ、石化とはいかないまでも多少似た力は再現されている様でその両眼に捉えられると、一時的に凄まじい重圧によりステータスがランクダウンする様だ
    さが石化出ないにしろ厄介なことに変わりはないので頭部毎潰そうかとも考えたが、視界を失ったあの怪物がどんな風に暴れるかを想定すると下手な真似は出来ない
    「ふむ。こうなると時間が経つ程に不利になるのは明白だが……」
    ライダーもまた思案する。現状、セイバーの力とアーチャーの援護のお陰で拮抗しているが、幾らなんでもあの修復能力は異常だ。ゴルゴーンの魂によって器の性能が神代に寄ってその強度と回復能力が向上していたとしてもありえない程である
    『マスター。今いいかな?』
    『どうしたのライダー?手短にお願い、ね!』
    向こうも修羅場の様で彼女にしては余裕のない返答が返ってきていた。素早く要点をまとめて報告する。異常な修復能力を持っている事と、セイバーの宝具でも倒し切れるかは分からない事。その2点を伝えると、彼女は暫しの沈黙の後
    「分かったわ。こっちの方でも対策を考える。今はそのままあの化け物を抑え込みなさい』
    との返答を貰う。声のトーンが落ちていたので、詳しく無いが相当な異常自体なのは確かなのだろう。とはいえ
    「ハハ。これをもう暫く抑え込めとは、マスターも無茶を言うな」

  • 69二次元好きの匿名さん23/08/20(日) 19:51:30

    保守

  • 70千界樹の記録23/08/20(日) 22:51:43

    マスターからの無茶な指示が下る
    召喚されてからと言うもの、振り回されることも多いマスターだ。だが、それでも己のやることは変わらない。自分はセイバー達が屍神に集中できる様に周りの魔獣を狩り尽くして行くだけだろう

    「叩き込む!!」

    セイバーは屍神の振り下ろされる巨腕を躱し、その頭部を抉り込む様に短剣を撃ち込んでいく。頭の半分を吹き飛ばす蓮撃に屍神が蹌踉めく。そして空中で戻ってくる短剣を全て回収してライダーの元に着地する

    「セイバー」
    「奴の修復力、奴の肉体や内包する魂によるものだけでは無いな」

    セイバーが現状最も奴にダメージを与えている。あれ程の攻撃力だ、今まで与えてきたダメージ量を鑑みればとうに斃せていてもおかしくは無い
    だが、この現状はあの異常に高い屍神の回復力、修復能力が非常に厄介だ
    しかもダメージを当たれば与える程、魔獣が生まれて来る可能性も高い。セイバーの分析もあるとやはり間違いはないのだろう。マスターとの念話のやりとりを伝えると、セイバーが頷いた

    「了解した。此方もマスターに当たってみよう」

    セイバーは再び跳躍し屍神に斬り掛かる。屍神の攻撃を躱しながら短剣を撃ち込み、魔剣を振り下ろす。屍神の肉体を破壊し尽くすつもりで猛攻を加え続けて行く。例え敵の回復力が異常だとしてもセイバーの動きは淀まず、最悪修復力を上回る速度で破壊して仕舞うか、魔力切れを狙う事も有りだろうとセイバーの動きは止まらない
    「ーーーむ?」
    アーチャーは3騎の中で最も屍神に離れており、全体を見ることが出来る。故に最も早く気付くことが出来た 
    屍神全体から感じ取れる魔力が高まってきている。全体量が凄まじい高さの為気付きにくいが、怪物の動きも少しずつだが速くなってきている
    「仕方ない」
    矢を連続してを放ちながら、前へ駆け出す。放たれた矢はライダーとセイバーを狙っていた蛇髪の頭部に撃ち込んでいく
    突き刺さった矢はその威力で蛇髪の動きが乱れる。その隙を突くように木の幹を発射台にして走り出す
    「セイバー、ライダー!」
    アーチャー、アタランテの速力は全サーヴァントの中でも最高峰。さらにスキル『アルカディア越え』の能力はあらゆる敵、障害物を無視して動くことが出来る
    故に瞬く間にセイバー達の元へと辿り着くことが出来る
    「アーチャー」
    「奴の魔力が高まって来ている。このまま行くとーーー」
    「宝具か」

  • 71千界樹の記録23/08/20(日) 22:55:22

    セイバーの言葉にその通りだ、とアーチャーが頷く。あの屍神は厳密には英霊では無いが、あれでもサーヴァントとして存在している。さらに内包するのはかの複合神格の怪物、ゴルゴーン。であれば宝具の一つくらいは保有していてもおかしくは無い。さらにーーー
    「AAAAAAAAAAAA」
    「チッ、時間もない様だな」
    アーチャーが舌打ちをする。ズゥン、と重い重圧を感じる。ここに来て一気に魔力が跳ね上がった様で、この近距離でも分かるくらいに屍神の魔力が高まって来ている。更には奴の頭部周辺に集中し出している
    これは恐らく、例の魔眼の最大出力での行使ーーーこれ程に高められた魔力が一度に放たれれば、この自然公園が焼き払われるどころか、その背後にある教会迄もが巻き込まれる可能性が高い。どうにかして、食らいついてでも防がなければならない
    「フンッ!」
    セイバーが魔剣を拳で射出する。これまで屍神を容易く撃ち抜き、砕いてきた一撃は、高まり続ける屍神の魔力が防壁となって弾き返されてしまう。ただの一撃では既に屍神には届かない、ならば宝具を使ってでも止めるしかーーー
    「私がなんとかする!」
    「ライダー!」
    「セイバー。君はこの戦いに於ける要だ。無理はさせられないさ」
    宝具を発動しようとしたセイバーを止めてライダーは2騎の前に立ち、そして剣を地面に突き立てた
    そして、ライダーの魔力も屍神同様に高まって行く。彼もまた宝具を発動するつもりだ
    対する屍神の魔力は頭部、更に言えば眼を中心に高まり続ける
    石化の力を持つキュベレイの魔眼は無い。恐らくは膨大な魔力を収束し、凡ゆる生命を融解する熱線として放出する物だろう
    簡単に予期できる未来に対し、ライダー、コンスタンティノス11世は決して臆す事はない。迫る滅びに対峙するのは彼にとっては日常でもあったのだがら
    「断じて我らは滅びはせぬーーー」
    彼の周囲に構築されて行く防壁。彼が守護し、共にその最期を迎えた帝国。滅びたと言えど、難攻不落の堅牢さを誇った三重防壁
    その守護は己でなく、己の守護すべき物を護る堅固なる力
    「私はここにいるーーー『祈誓たるは三重の貴壁!!』」
    「AAAAAAAAAAAAーーー!!!」
    ライダーの三重防壁の擬似降臨。その力が完成するとほぼ同時に、極大の熱戦が防壁に放たれた

  • 72千界樹の記録23/08/21(月) 07:19:23

    ライダーとの念話を終え、ルーナは状況を整理するーーー
    「さて」
    その前に、襲ってきた周囲の魔獣を薙ぎ払う。皆一様に真っ黒な元の姿と同質量のミンチに変えて行く中、思考を回す
    ーーー向こうの怪物の親玉、どうも何か仕掛けがありそうね
    ライダーから聞く限りだとセイバーのインチキ染みた攻撃力でも斃すのが難しいそう。神代の怪物の魂を内包すると言えど所詮屍人形の分際で、それ程の力を持つのはおかしい。あの工房を動かすために使われていただろう魔力炉の2つや3つは内蔵してるのだろうから魔力供給の心配は少ないだろうが……
    「ああもう!」
    此方に向けて突進してきたケンタウロスの頭部を殴り潰す。胴体より下部の原型は留まっているが、直ぐに破壊振動が伝播してグチャグチャのスープに調理される。それを見届ける事もないので飛び込んできたセイレーン擬きを叩き落として一旦その場を飛び退く
    せっかく詰めた距離が離れるがこの際は仕方ない
    で、凌我の元まで戻り、彼の意見を聞きにきたのだ
    「……最悪だ」
    凌我の元へ来るなり、彼は諸々吐き出しそうな顔色で言葉を吐き捨てた。どうやらセイバーから今の状況を聞いたらしい。それにしても、最悪とはどう言う事だろう。確かに最悪と言いたくなる様な状況だけども
    「いきなりどうしたの?おねーさんのおっぱい揉む?」
    「後でゆっくりな」
    どうやら真面目に余裕を無くしてるらしい。私の言葉の内容が頭に入っておらず反射で対応してる辺り相当だ
    そしていきなり顔を上げると魔獣の群れへと突撃して行く。って余りにも彼らしくない無茶な行動、一体何を知った、若しくは理解したのかーーー
    彼の突撃をカバーしつつ魔獣を潰してゆく。凌我は冷静さを無くしつつも的確に此方に合わせてくれるが、その表情は鬼気迫るものを感じる
    「そこまで堕ちたか死霊術師!」
    突然声を張り上げ敵の魔術師、レオノールに今までにない怒りをぶつける
    対するミレイユ・レオノールは変わらず此方を嘲笑うように笑んでいるが、彼はそれに対して怒りを覚える様な人間ではない。ここ迄感情的になるのは珍しいが、何がここまでさせるのかーーー
    「ーーー貴様、あの屍人形を死徒に仕立て上げたな!」

  • 73二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 07:22:53

    攻守遠距離と良いパーティだよね

  • 74二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 07:27:53

    死徒としての階梯はかなり低い、とは思うけど、魔力炉として使う分には申し分ないのか?
    いや、屍蝋人形をそこまでできる時点でヤベぇな………聖職者のブッ殺殺ポンスイッチ入れたけど

  • 75二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 17:27:32

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 17:35:33

    このレスは削除されています

  • 77二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 18:35:42

    この戦争に参加してるマスター全員優秀すぎん?
    ナレ脱落した殺マスも状況が違えばイイ線いったんじゃないか

  • 78二次元好きの匿名さん23/08/21(月) 18:39:26

    形はどうあれ静謐ちゃん相手に生き残った臭い訳だからねぇ


    >>76

    小説にしようとするとより文章とか盛る必要が出るのよ

    ボリューム上げるのと、区切るのとで結構めんどくなりそうだししゃーないわ

  • 79千界樹の記録23/08/21(月) 21:35:23

    凌我の叫びに対して嗤うだけのレオノール。その表情と沈黙は肯定に等しかった
    対する凌我は今までにない程感情を剥き出しにして無謀とも言える突撃を敢行する
    ルーナも合わせて突貫するが、正直ここ迄彼が持ち前の判断力を欠くとは思わなかった
    「待って凌我!」
    何とか落ち着かせようと声を掛けるが、正直言ってな話、彼の気持ちも理解できた。死体を死徒として甦らせる技法、魔術
    それは彼の中でも禁忌中の禁忌なのだからーーー
    かく言う私も、彼が先に沸騰しなければ此方が同じように突貫していただろうと、急速に冷えていく血の感覚が教えてくれた。冷静でいられたのは、彼が先に動いからに他ならない
    「『霙/時雨』『穿つ雨となれ/車軸となれ!!』」
    行使される魔術は前と上からの同時攻撃。針の様に鋭い水が前方を、氷の礫が上から殴る様に、機関銃が如く発射される。それらは全て魔獣達が盾となり防がれてしまう
    「その術式……誰が貴様に教えた!?」
    喉を削るかの様な、喀血しそうな勢いで叫ぶ凌我。だがその問いにすらも、レオノールは嗤って返すのだった
    「さあ?誰だったかしら?」
    「だったら、力づくで吐かせて……!」
    彼は周囲の魔獣を斬って捨て、その切先を湖へと向ける。直後、水面がうねりを上げて持ち上がり始めた
    「『鮫牙渦巻け、火に克ち地を砕け!』」
    彼の礼装たる霊剣に多量の水が渦を巻き集う。近くの湖から見て分かるくらいに水面が下がる程の水量を収束して放たれるは渦を巻く水の巨鮫。それはまるで宙を泳ぎ回る様に大地を削ぎ魔獣の群れを喰い荒らす。生半な強度の魔獣など触れるだけでその身体の大半を削ぎ落とされて行く
    これは唯の魔術ではない。日本が古来より伝える五行思想を取り入れた呪術と魔術の高度な複合により構築されたもの。神水流凌我の持ち得る秘奥の一つ
    金より水が生ずる物とされ、水は火に克つと言われた。其々が相乗、相克と呼ばれる概念が水の持つ力を限りなく高める。そして生まれるのは災害としての水。大地を削り谷を産む。樹々を薙ぎ倒し洗い流す災禍としてその力が鮫と言う暴威と成して放たれた
    鮫は古来より力と畏怖の対象である。古い遺跡に鮫の歯を加工した銛が出土されたが、それは彼等が鮫に力がある事を知り、それに対する畏敬、信仰があった事に他ならない
    それらの要素が混ざり照応する事で、強い神秘が宿り災害のごとく猛威を振るうのだ

  • 80千界樹の記録23/08/21(月) 22:55:51

    次々に削喰い殺されていく魔獣の群れ。鮫は凄まじい勢いで触れるもの、喰らった獲物を容赦なく削ぎ落としていく
    その想定外の破壊力に目を剥いたレオノール。当然と言えば当然だろう。サーヴァントでもない一介の魔術師が出す火力としては破格の一言に尽きる。先程の水の鯉とは比較にならない脅威であることは疑いようも無かった
    「『enfant perdu bouclier(迷い子、我が盾)』」
    周囲の魔獣の構成物を崩し自身を守護する防壁を形成する。本来は屍肉を用いる魔術だが、この魔獣達も死者の属性を有する為、同じ様に運用することができる。が、この防壁もあの凶悪な水の鮫にどこまで対抗できるか
    今も尚進行方向にいる魔獣を悉く食い殺しているあの鮫はとうとう防壁にたどり着く。二重三重に重ねられた屍泥の壁は1枚1枚が銃弾程度なら難なく弾き返す防御力を持ちそれを重ねる程防御力は上がる。それを3枚も重ねれば大口径のライフル弾だろうと弾き返す強固な盾となる
    その防壁をーーー
    「こうも、簡単に……!」
    いくら頑強だろうと屍肉は所詮屍肉。そう言わんばかりに食い荒らしていく鮫。その威力を前にしては僅かばかりに時間を稼ぐことしか出来ず、回避に徹することしか出来ない。だが、躱してもあの鮫は方向転換をして再び此方へ向かい襲ってくる。直ぐに対処せねばならないが、此方の打てる手は一つだけであった
    「『enfant humain bete du terreur(迷い人、恐ろしき獣)』」
    ーーー自分も鬼札を切るより他はない
    此方に転送されてきた魔獣を片端からかき集め、一つの巨大な形と成す
    生み出されたのは巨大な1匹の獣。その姿は人の形に近く、それでもやはり獣の様に荒々しい毛に覆われ、異様に発達した上半身を持ち、魔力がまるで稲妻の様に全身から迸る
    嘗て彼女が作り上げた屍の恐獣、ジェヴォーダンの獣の複製、その具現である
    「GYYYYYAAAAAAAAAA!!」
    凡そこの世のものとは思えない咆哮を轟かせ、獣は水の鮫に真っ向からぶつかる。鮫の肌に触れた魔獣は悉くその身を削られていったが、この獣は僅かに全身を覆う毛の一部が持っていかれる程度で、その鮫を押さえ込んでいる。だが、鮫の咬合力は凄まじく獣の肩口に食いついて離れない

  • 81二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 06:42:30

    早いけど保守

  • 82千界樹の記録23/08/22(火) 08:09:48

    水鮫は獣の肩に食い付いたまま、今度はその肉を喰い千切らんばかりに全身を振り回そうとする。それ異常発達した両腕で押さえ付けようと削り取られながら胴体を掴んでいる
    鮫と獣の戦況は膠着した。だが、鮫が暴虐の限りを尽くした爪痕は残っている。魔獣の数は大きく減り、鮫の通った箇所がそのまま道となった今。奴を追い詰める絶好のチャンスが訪れた
    「ルーナァ!!」
    「了解!」
    叫ぶ凌我に、それに呼応する様に返事を返すルーナ。両者は殆ど同時に駆け出す。その2人の間をマルグリットの放つボルトが駆け抜けて、進行方向に存在する魔獣の残敵を撃ち抜いた
    「レオノール!」
    「ーーーッ!」
    真っ先に辿り着いた凌我が剣を彼女へと振り抜く。対する彼女は袖口から医療用のメスを抜き、振り抜かれた剣を防いだ。刀身を覆う水流を掻き分け流す様にメスを覆う魔力。互いに魔術で身体を強化しており、鍔迫り合いに持ち込まれた
    「答えろ……っ、誰が貴様にその術式を教えた!?」
    「さあーーー忘れたわ!」
    横合いから戦鎚で殴りつけてくるルーナの一撃をその場から飛び退いて躱す。同時に魔獣を仕向けて足止めをするが2人の猛威の前にはあっという間に蹴散らされるけであった。しかし、そのわずかな時間で距離は取れた
    追撃に放たれた雨の弾丸は屍肉の壁を展開して防ぐ
    「チィーーー!」
    「落ち着いて凌我」
    「……ああ」
    再び対峙する3人。不敵に嗤うミレイユ・レオノールと対照的な凌我とルーナ。凌我も今のルーナの声で多少は冷静さを取り戻した様で、魔術式を起動しながら剣を構えなおす
    「まあ良い。貴様にその術をもたらした奴のことは、貴様を倒してからゆっくり聞かせてもらう」
    「できるのかしら?貴方に」
    「ネクロフィリアの首を掻くのは、慣れてるんでな!」
    再び展開されつつある魔獣の中へと飛び込む2人、その瞬間ーーー
    「アレはーーー!」
    「ーーーライダー!」
    セイバー達が戦う主戦場が、煌々とした悍ましい光に包まれた

  • 83二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 12:26:05

    剣主、なんか死徒関係であったのかな?

    >>77

    皆サーヴァントとの関係も良好だしね

    この辺りはアポ時空だから常識なのかも知らんけど

  • 84二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 18:34:59

    >>83

    アポ時空でもサバとの関係あれなマスターいるんすよ、黒のアサシンのマスターとか。

  • 85二次元好きの匿名さん23/08/22(火) 19:19:12

    >>84

    あれは……関係以前の問題じゃ……

  • 86千界樹の記録23/08/22(火) 22:44:52

    屍神から放たれる極大の熱量。直接触れているわけでも無いのに周囲の地面は溶解し、ケロイド状に溶け出していく。更に周囲の空気すらも余りの熱にイオン化しプラズマを発生させている。例えサーヴァントであろうとも触れるどころか至近にいるだけで霊基が崩壊するほどの輻射熱を放ちながら、禍々しい光芒に抗するはライダーの宝具『祈誓たるは三重の貴壁』
    滅び去る筈の帝国を守護し続けた三重防壁が
    灼熱の閃光から己とその背後のサーヴァント達を護る
    しかし、その守護は鉄壁を誇るが相手は神話の魂を持つ正真の怪物
    サーヴァント数騎分に相当する質量の魂、その怪物の眼を擬似とはいえ再現してみせたキャスターの技巧とそのマスターの執念
    その威力は凄まじい。例えライダーの宝具を以てしても留め切れないほどに
    「ぬうううっ!」
    障壁の一層目が焼き溶かされていく。そうでなくても熱線を防いでいる間も伝播する輻射熱でライダーはダメージを負い続けている
    『ライダー!』
    マスターから悲鳴にも似た声がこだまする流石にこの光はマスター達の元へ届いているか。だが、己のやる事は変わらない
    『私は大丈夫だマスター』
    『どこが!?』
    『君はそちらに集中するんだ!』
    念話を強引に切り、眼前の死から守り切る為に意識を集中させる
    第一層目が焼き溶かされ、第二層目が徐々に熱に侵食されていく。それに従い、自身へ降り注ぐ余波に灼かれるが、それでもこの宝具を維持し続ける
    「ライダー!」
    アーチャーの声が聞こえる。だがそれに返事を返す余裕は無い。マスターから癒しの秘蹟が届くが、傷の修復速度を熱線による損傷速度が上回る
    第二層目も半ばが溶解し、自身が立つ足場も溶岩の様に高熱と共に溶け、鎧越しに足を焼いてくる
    「ーーーぐうっっ」
    第二層目が焼失し、とうとう第三層に到達する。それにつれて届く輻射熱も増大し更に自身の身体を傷付ける
    だが、ここで膝を屈する事は、己の消滅と共に背後にいるアーチャー、セイバーがこの熱線を浴びると言うことに他ならない。それは勝利の為の切り札を失うと言うことで、あの怪物を擁する元キャスター陣営の勝利を意味する
    それは断じて許容する訳にはいかなかった
    己の信仰、マスターの信仰
    何よりも人の遺体を弄ぶ下法に敗北する自分自身を許すことができなかったからだ
    「ーーーオオオオオオオオオオオ!!」

  • 87二次元好きの匿名さん23/08/23(水) 04:43:43

    保守

  • 88千界樹の記録23/08/23(水) 08:02:51

    ライダーの目の前を中心に爆炎が上がる。衝撃はは周囲の木々を大きく揺らし、爆風はマスター達の元にまで届いた
    強烈な爆風の音と爆炎の閃光、焼けた草木や土の匂いによって一瞬、あらゆる情報が遮断される
    数瞬の空白が明け、徐々に明瞭になる中、明らかになった光景は、その攻防の凄まじさを示していた
    収まっていく爆煙。風に消えていく煙の中から輝ける城壁の姿が顕になる
    擬似降臨したコンスタンティノープルの城塞は、尚も健在だった。至る所が崩れ、極大の熱線に晒され至る所が融解を始めているが、その輝き、その守りは最後の一枚を以ていまだ毀れてはいない
    セイバーの宝具『壊劫の天輪』を防いだ時とは違い、完全に崩壊することが無かったのは、熱線は広い範囲を焼き尽くす謂わば対軍宝具に相当していたのが要因の一つだろう
    セイバーの宝具は一撃で雌雄を決する一点突破を主眼とした対城宝具。それはライダーの宝具にとっては悪い意味で相性が良かった
    逆に屍神の放つ熱線は比較的広い範囲に広がり、多くの敵を焼き払うのに向いていた。それが今度は良い意味で相性が良かったと言える
    範囲が広い分、障壁にかかる負荷は低く収められるからだ
    だが、守り切ってみせた代償はそれなりに重い。輝きと共に変えていく帝国の壁。その中心にいたライダーはーーー
    「……っ」
    彼が受けたダメージもまた貴壁と同じ様に大きかった
    全身を炙る様な熱に晒されたその姿は至る所が焼け、身体の大部分が重度の火傷を負った様な傷跡を残す。その数は徐々に治療されていくがそれは表面的なもので霊核に届きかけたダメージを修復するには足りないものだ
    だが、ライダーは決して斃れはしなかった。足元が溶岩のようになり、降り注ぐ余波と迫り上がる灼熱に両脚が半ば炭化しかけても、決してその意志は砕けない
    その証拠に見るが良い。これの足元は溶岩と成り果てても、彼の後ろはその殆どが原型をとどめている。輻射熱で草花地面が焼けた箇所も多いが、宝具の展開域を境界として見ればそのダメージの差は天地の開きがある。特に、彼の背後にいたサイバーとアーチャー、2騎の英霊は殆どダメージを負う事はなかった
    ライダーの護りは、被った痛みこそ多大なれど、守るべきものは今度こそ守り切ったのだ

  • 89二次元好きの匿名さん23/08/23(水) 19:12:53

    保守
    マイケルすげえ
    キルケーも何ちゅうモン作ってんだよ

  • 90千界樹の記録23/08/23(水) 21:29:47

    「ライダー!」
    「無事か!」
    そこへ駆け寄るセイバーとアーチャー。セイバーはライダーの側へ到着するや否や治癒のルーンをライダーへと施す。原初のルーンを用いた治癒魔術ならば多少時間を掛ければダメージは回復するだろう。だが、それでも受けた傷は重い
    「ライダー。貴公は一旦引くべきだ」
    セイバーはライダーの状態を鑑みてこれ以上の戦闘は難しいと判断し、撤退を促す。ライダーも自分の状態を客観視した上で、悔しそうに同意した
    「っ……済まない」
    「気にするな。汝は良くやった」
    ライダーの謝罪にアーチャーが彼の行動を讃える。事実、ライダーの献身が無ければアーチャー、セイバー共に消滅していてもおかしくはなかった。あの加害範囲の前にはさしもの俊足を誇るアーチャーも逃げ切る事は困難だっただろう。セイバーも同様で例え原初のルーンを使った結界を張ろうともあの熱線を耐え切る事は出来なかった筈
    霊体化し撤退するライダーを見送り、屍神の方へ振り返る。彼らの前に立ち塞がる怪物はーーー
    「AAAAAAAAAAAーーー」
    屍神ゴルゴーンは、ライダーの宝具に一部弾き返された爆炎と己の熱線を喰らい、頭部を中心に身体の上部が焼け爛れていた。一部とは言えあれ程の破壊力を持った光芒をその身に受ければ屍肉の塊では甚大な破壊を被るのはある種、当然と言えた
    「不死身か彼奴は……」
    アーチャーが呆れた様子で溜息混じりに呟く
    焼け爛れた肉はその内側、悍ましき骨格迄も晒した状態でその顔は原型を留めない程に焼失していたが、それら全てが徐々に修復され始めていた
    「これではまるでヒュドラだな」
    最も、首を全て討てば死ぬと言うわけでも無いが、とアーチャーは半歩下がり矢を引き絞る。セイバーもまた魔剣を構え、戦意を滾らせる。何を言った所で、このままあの化け物の進行を許してしまえば此方の敗北となってしまう。両者とも英雄の肩書きに拘るような性質では無いが、かと言って屍肉の塊に負けることを許せる程心も広くは無い。あらゆる手段を払ってでも討滅する意思には変わりは無かった
    「アチーチャー。提案がある」
    「どうした?セイバー」
    武器を互いに構えたまま、相手の方を見る事なく会話を続ける
    「先程の頭部の損傷時、特別何か変わったものは確認できてはいない」
    「そうだな」
    「ならば次は胸部、奴の心臓部を抉り抜くべきと推測する」

  • 91千界樹の記録23/08/23(水) 23:57:46

    セイバーの提案にアーチャーが尋ねる
    「その心は?」
    「頭部に何もなければ炉心は胸部に存在している筈だ。あのら巨体を十全に動かすならば、魔力炉心が必要な筈だ」
    成程、セイバーの言葉は理に適っている。あの巨体を動かすだけでも相当な魔力消費になるのは間違いない。幾ら神代の魂を内包していても其処は変わらないだろう。それこそマスターからの供給だけでは限界がある
    魔力炉心があの内部に存在しているのは確実だ。それを破壊できればあの理不尽極まりない修復力も多少は抑えられるかもしれない
    「了解した。ならば私が陽動になろう」
    「承知」
    胴体を抉る程のダメージを与えるならば、セイバーが攻撃を担当するのが適任だろう
    で、あれば己が囮となってセイバーには攻撃に集中してもらう方が良い
    それらの判断をアーチャーの一言で把握したセイバーは彼女の提案を即断で受け入れた
    「魔剣起動……!」
    「先手は貰うぞ!」
    これ迄とは逆に、アーチャーが先に前へ出る
    セイバーは魔剣を構え、腰を沈めた

    『分かった。そっちは任せる』
    凌我はセイバーからの状況報告を受け、その後の対応を彼に任せる事にした。事戦術の判断に関しては自身よりもセイバーの方に一日の長があるのは間違いない
    それよりも、セイバー達の状況より此方の方が拙いのは確かだろう
    「ーーー邪魔だ!」
    突撃をしてくる魔獣を斬り捨てる。先程の閃光と爆風が収まり切る前にレオノールへ斬り込んだが、奴が呼び出した魔獣が集結し、また「獣」となる
    「クソが!」
    「私がやる!」
    ルーナが前に出て、あの獣に対峙する。その脇を抜けてレオノールの元へと駆ける
    「『牙を剥け 水の徳よ、地を圧せ!』」
    『鮫』に対して第二開放式を発動。内包する魔力で一時的に攻撃力を爆発的に上昇させる。獣と拮抗していた『鮫』は獣の腕を食い千切り、そのまま上半身毎食い破る
    奴の背後から『鮫』前からは俺自身
    挟み撃ちの状態をどうにかする手段は少ない筈
    このまま仕留めるーーー

  • 92二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 07:13:44

    気が早いが保守

  • 93千界樹の記録23/08/24(木) 08:12:17

    「第二創造体、転送!」
    ーーーそんな俺の目論見は、いとも容易く砕け散った
    空中に展開された魔法陣から突如俺と『鮫』
    へ向かって落ちる魔力の塊。物理的な重さを伴ったそれに対して俺は何もできずに衝撃で吹き飛ばされる
    意識は完全にレオノール本人へ向けられていた為、僅かに身を捻ることしかできなかった
    「があああああっ!」
    魔力塊の直撃こそ無かったものの落下時に発生した衝撃が全身を貫くように駆け巡る。強かに地面に全身を打ち転がった
    「っ……ぐぅ」
    剣を地面に突き刺して何とか体勢を立て直す
    しかしそれでも一度受けた衝撃の勢いは御しきれず幾許か地面を削りながら後ろへ下がる結果となる
    「凌我!」
    その横で丁度あの獣をミンチに変えたルーナがいた更に後ろから此方は駆け寄ってくる気配
    「先輩!」
    マルグリットだ。此方を心配してか魔獣を撃ち殺しながら側へ寄って来たのだ
    「心配ない」
    治癒の魔術を自身に施す。水の持つ特性を利用して新陳代謝を活発にして傷を癒す。どちらかと言うと外傷より内側の方が重症だが、それもこれで誤魔化しが利く
    「先輩……」
    「ふう……無理はしない様に」
    ルーナが半ば諦めたように言うが、それこそ無理な相談だろう。此処は無理無茶をしてでもあの女を止めなければ、聖杯戦争そのものが終わってしまう
    「それより、何だあれは?」
    剣を杖に立ち上がる。凌我の示す先にあるのはこれまでの黒い魔獣とは明らかに違う、黄金に光る炎の様なものを纏った巨大な獣
    その体型は大型犬の様で、黄金の炎は魔力の塊であることが認識できる。恐らく、中身自体は他の魔獣達と変わらないだろうが、それらとは一線を画す強大な存在であることは明白だった
    先程の衝撃をもものともしない『鮫』が、その獣の右の首筋に喰らいつく。そしてそのまま食い千切りラント全身を暴れさせるが、魔獣はびくともしない。そればかりか右の首に食い付く『鮫』の尾を、中央の首が逆に噛み付いた
    そう、あの怪物ーーーあの獣には首が3つ存在した。奥の手の一つだった『鮫』も、その三つの頭を持つ獣を前にあっさりと、まるで餌を食らう様に三等分に食いちぎられて、其々の口の中に収まってしまった

  • 94二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 09:29:06

    ケルベロス………キルケ―が全力サポートした結果とはいえ、無法が過ぎるな
    ホント、早々に退場させられてよかったというか、なんというか

  • 95二次元好きの匿名さん23/08/24(木) 21:05:22

    保守

  • 96千界樹の記録23/08/24(木) 22:11:34

    「何よ、アレ……」
    消え入りそうな声で呟いたのはマルグリット。その足はかすかに震えていた。当然だろう、新たに出現した魔獣から感じ取れる魔力の丈はそれこそサーヴァントに引けを取らないレベル。とても一介の魔術師が太刀打ちできる様な存在では無いのは明らかであった
    無意識に一歩後ずさるのも無理はない。普通なら恐慌し、逃げ出してもおかしくはないが、既にサーヴァントの戦いと、その圧倒的な魔力をその身で感じていた事が彼女に、それ以上後退することを押し留めた
    だが、それでもサーヴァントに匹敵するであろう魔力を保有する怪物を相手取るなど彼女にとっては不可能もいいところであるのに変わりはない
    「これは……ちょっと不味いわね……」
    彼女の前で、ルーナは呟いた。先程まではどんな魔獣怪物が現れても全てをミンチにしてきた、常識外の力を持った彼女ですらその余裕が失われてしまう程の存在であった
    ルーナは一眼見て現れた怪物の正体を見抜いていた
    と言うよりも、この場にいる誰もがその姿を見てたどり着いた答えは一つなのだ。故に恐怖し、戦慄した
    「此処に来てケルベロスなんてね……所詮紛い物とは言え」

    ケルベロス 

    その名は魔術世界に於いてあまりにも有名な怪物である
    冥府の番犬、冥王ハーデスの忠実なる僕であり冥府から逃げようとする死者を喰らう怪物
    そして、かの大英雄ヘラクレスの最後の試練。その目的となった存在である
    3つの首を持つ犬、又は獅子として伝わっていることが多く、目の前に存在するモノは犬のそれに近い造形をしている。全身から余すことなく微量の魔力を放出しており、それが黄金の毛皮の様に見えていた
    恐らく此れもあの屍神から製造された魔獣の一つなのだろう。だが、この魔犬は意味での魔獣とは比べ物にならないほどの力を感じる
    凌我の奥の手の一つ『鮫』をあっさりと食い殺した事からその力は想像を絶するモノだと理解できた
    彼の『鮫』は彼の父親が創り出した『蟒蛇』の理論をもとに、より先頭に適した形に構築された術式であり、その力は死霊魔術で作られた数多の魔獣を喰い散らかしジェヴォーダンの獣の再現体を食い破る。魔術師が生み出せる火力としては破格の魔術だった
    それを最も簡単に術式事潰してしまう。本物には遠く及ばないとしても、魔術師2人と代行者1人を潰すには十分すぎるーーー否、寧ろ過剰戦力とすら言えるだろう

  • 97千界樹の記録23/08/24(木) 23:42:06

    それ程の怪物が3つの鎌首をもたげている
    その血走った赤い眼で睨み付けられるだけで身が凍りつく様な感覚を覚えてしまう
    「ケルベロスか……とんだイカサマカードを出してきやがったな」
    凌我も剣を構えるがその表情は苦々しい。ルーナと凌我、戦闘に長けた2人が揃ってケルベロスの出現に対して苦しい表情を浮かべている
    「JYYYYYGAAAAAAAAA」
    ケルベロスが咆哮を上げる。それだけで魔力が波動となって周囲の構造物を震えさせる。それだけでなく衝撃の波が魔犬を中心に放射状に放たれ、ビリビリと3人の動きを鈍らせる
    「……っくう」
    「チィッ」
    「くううっ」
    強い衝撃に耐える3人。強烈な音と同時に襲い掛かるがそれをどうにか凌ぐ。咆哮が治れば次に来るのはーーー
    「惚けるな、来るぞ!」
    魔犬による直接攻撃だ
    その巨体からは想像とできない程の速度で此方にまで距離を詰め、その前脚を振り降ろす
    巨爪が突き立てた地面には亀裂が奔る。その亀裂から凄まじい魔力の波が吹き出す。地面から溢れ出るマグマの様な魔力の奔流を浴びれば命は無い
    「ーーーハアアアア!」
    「ぜえい!」
    魔力の勢いに弾き出された石塊や魔力の弾丸を砕き潰すルーナの戦鎚。魔力奔流本体を切り裂く凌我の水剣。唐突に迫り来る死線を乗り越える2人
    「ああ……」
    その背後で、マルグリットは1人、突き動かされる様にボウガンを構えた
    それは恐怖と情けなさ。突然に降りかかってきた死の魔力流に対して、自身は何も動くことはできなかった。対する2人は即時に動いて迫る死から道を切り開いてみせた
    それに対して自分は、身動き一つできずにいた。それがどうしても情け無さと、同時に遅まきにやって来た死に対する恐怖が彼女を突き動かした
    「行けえ!」
    狙いは不正確、煌めく魔力の波に視界を遮られ正確な狙いをつけることができなかった
    確かなのは、あの魔犬へボルトを向けてはいたと言うこと
    放たれたボルトは斬り裂かれた魔力の波を潜り抜ける様にしてケルベロスの中心の首、その眉間へ目掛けて飛翔した。そしてそのままケルベロスの眉間へ命中したーーー

  • 98千界樹の記録23/08/25(金) 08:14:38

    猟犬の矢はケルベロスの額に命中したが、所詮強化されているとは言え唯のボルトでは魔犬に何らダメージを負わせることは出来ない
    体表面を覆う魔力に弾かれて消えてゆく。ケルベロスに対して何一つ痛痒を与えられないばかりか、追撃をかけようとしたタイミングで水を刺された様な物で、一気に沸騰しだす
    マルグリットにそのつもりはなくても、結果としてケルベロスの標的にされてしまった 
    「ZYYYYーーー」
    「ーーーッ」
    3つの頭が全てマルグリットの方へ向けられる。6つの眼に睨みつけられるが、マルグリットは一瞬、怯むがすぐに睨み返しボウガンをリロードする
    ケルベロスはその強靭な前脚で彼女を引き裂こうとするが、一瞬とは言え動きを止めた事は、彼らにとっての好機に繋がった
    「良くやった!」
    「後でハグしてあげる!」
    凌我とルーナ。2人は初撃を凌ぐことに力を注いだ為にその後間髪入れずに繰り出されようとしていた追撃に対して対応が間に合わなかった。それをマルグリットの射撃により、一瞬といえども中断されたことで、次の攻撃に対して動くことができたのだ
    「アッハア!!」
    裂けるような笑顔を浮かべ、振り下ろされたその脚を戦鎚でかち上げるルーナの一撃。ケルベロスの脚の至る所から血が吹き出す。相当の神秘が込められたらしき魔犬ケルベロス。黄金の体毛と見紛う魔力によって守られているせいか、普段の様にミンチとはいかないもののかなりの破壊力を叩き込む
    「GAAAAA!」
    大きく怯み仰反るケルベロス。そこへ追い打ちをかける様に、多数の水槍が周囲を取り囲んでいた
    「ーーーやれ」
    凌我の一言で全ての槍がケルベロスを襲う。岩盤を貫く威力の槍はケルベロスに深傷を負わせる事はできないが多少のダメージにはなる。魔力の体毛に妨げられ深くは突き刺さる事はないものの、それでも水槍はその肉体に突き刺さり、ドリルの様に傷口を広げる
    「ZYYYYGAAAAAA!」
    ケルベロスは攻撃を受けながらも体勢を立て直し、3つの首で食いつく様に2人に襲い掛かる。その攻撃を予期していた2人はその牙を避ける。だが、そこから発生した魔力の衝撃を躱せずに直撃を受けてしまうーーー

  • 99二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 17:06:16

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん23/08/25(金) 22:05:01

    ルーナ怖え……

  • 101千界樹の記録23/08/25(金) 22:10:46

    「っーーー、ぐっ!」
    「アアッ!」
    痛烈な衝撃が体を突き抜けていく。吹き飛ばされないよう耐えるが、全身を貫き打ち付けるようなインパクトに容赦無く体内を滅多打ちにされ、迸る魔力が飛び散り刃の様に身体を斬り付けられる
    腕や足、顔に走る切り傷や擦過傷。血が切れる様に飛び、地面にパタタと跡を残す
    「だがっ」
    だが、そうして激痛を覚悟で吹き飛ばされるのを堪えたお陰で魔犬の攻撃の隙を縫うことができた
    「ルーナ!」
    「任せて!」
    亀裂の走った地面から立ち昇る土煙が視界を塞ぐ煙幕となっている。この瞬間を逃す訳には行かないと、外傷と内側の傷を無視して、2人は踏み出す
    全身の身体を限界まで強化し、凌我は風の様に走る。刀剣を鞘へ収め駆けることに集中すると同時に鞘の中に水を加速、収束させていく
    土煙を抜け、景色が開けると同時に眼前には魔犬ケルベロスの足元に躍り出る。それと殆ど同時、いや少しだけ速くルーナが攻撃に出ていた。彼女は地を駆ける凌我と異なり空中、ケルベロスの頭上へ飛翔していた
    其処は下へ向いていたケルベロスの死角。大きく振り上げた戦鎚は彼女の魔力に呼応する様に戦鎚が輝き始める
    「ーーーハアアアアアアア!!」
    紅く輝く戦鎚をケルベロスの3つある首の一つ、左側へと降り落とす。戦鎚が直撃する瞬間、紅い輝きは弾け爆発的な魔力と振動波が魔犬の頭部に叩き込まれる
    「ZYYYYYAAAAAAAAAAーーー!!!」
    戦鎚を打ち込まれた左側の頭部は弾け飛ぶ様に血があらゆる箇所から噴き出す。魔獣をバラバラに吹き飛ばす破壊の一撃を受けた魔犬の頭部は原型こそ留めては居るものの、その内側はぐちゃぐちゃにされてその機能は大幅に低減した筈だ
    その直後、凌我がケルベロスの足元で剣を抜く
    「ぜぇえあ!!」
    抜き放たれた剣は加速、収束させた水によって長大なウォーターカッターとなって、刀剣の軌道上ーーーケルベロスの前脚から胴体に渡って水の刃が斬り裂く様に斬撃を通す
    厚さ1mに及ぶ鋼板を切断しうる水の刃を受けて多量の血を吹き出させるケルベロスだが、切断には至らない。だが、足「切り付けられたことで、魔犬もバランスを崩し切り付けられた前足の膝を崩す
    さらにーーー

  • 102二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 04:58:37

    レオノールとキルケーの最後の会話良い感じの名残惜しさあって良いな…って思ってたのにここまで暴れてるのすげえや

  • 103二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 09:47:42

    >>102

    魔術師らしいっちゃらしいよね

    キルケーの活躍が大部分あると思うけど

    キュケオーンからキュケオーン成分抜いたらもう大魔女しか残らないんだね……

  • 104千界樹の記録23/08/26(土) 10:05:09

    「このボルトなら!」
    マルグリットもまた、あの2人に負けまいと隙を晒した魔犬へ痛打を与えるべく、矢筒から一本のボルトを抜く。このボルトは今まで使用していた通常のそれではなく、幻獣の骨を削り出し呪水に漬け込まれた特殊なものであった。その強度、内包する神秘は其れ迄の物とは大きく異なる。このボルトならば猟犬は当然、より強力な霊に対しても適合し、その力を強める事ができる
    「『Wenn Walder und Felsen uns hallend umfangen!』」
    一つ、飴を口の中に放り込み、それを強く噛み締める
    己の身体に嘗て何処かで死した猟師、その魂を降ろす。その者に訴え一時その力を借り受けるインヴォケーション。飴を噛み締めたのは御霊下ろしの術、その負荷にに耐える為の物
    そしてーーー
    「『Schwertwal =Bolt!』」
    放たれたボルトは空を滑らかに翔ぶ。膝から崩れたケルベロスとはいえ、その頭部はまだ現在で2人を追う様に動き続ける
    自分は魔術師だ。ボウガンを獲物としているものの決してその道に精通する者ではない。ただ撃ったところで狙いは外れてせっかくの矢も効果が薄れてしまう
    だからこそ、自分自身に他の魂を宿し、その力を一時借り受ける降霊魔術ーーー別の言い方をすれば神卸しとも言うらしいーーーそれを行ったのだ
    ボウガンを使った狩を行っていた猟師の霊を受け入れることでその技術を借り受ける
    それにより動き回る魔犬の頭部に対しても自然体で、至極当然の様に構え、標準、射撃を敢行できた
    猟師は動き回る獣を狙い撃つ達人。その力は首を振り回す獣の頭を撃つことなど、造作もない
    そうして撃ち放ったボルトは、魔犬の右側の頭部へと吸い込まれる様に到達する
    さっきまでのボルトでは弾かれた魔犬の代表を覆う金色の魔力帯をこのボルトは貫徹し、魔犬そのものを構成する肉体に突き刺さった
    獲物を追うことに特化した猟犬でなく、鯱の霊は獲物を狡猾に捉え血肉を抉る。その力は、獲物に突き刺さって終わりではない。ボルトは其処からドリルの様に回転を始め、深く深く、魔犬の頭部の奥へと侵入を始めた

  • 105二次元好きの匿名さん23/08/26(土) 20:25:47

    保守

  • 106千界樹の記録23/08/26(土) 21:36:20

    ZYYYYYYY!!!」
    頭を激しく振り回し抵抗するケルベロスだが、もう遅い。鯱の霊は一度くらいついた獲物は決して放さない。弄ぶ様に回転の力に強弱を付ける事はあっても、回転が止むこともない。矢尻まで深く抉り込むまでボルトは深く深く突き刺さって行くのだ。寧ろ抵抗をすればするほど矢は回転の力を増していき、進行速度を早めていく
    そして、ボルトがその頭の内側へ深々と沈んでいった所で、骨に染み込んだ呪水の力を解き放つ
    「ーーー『Anzunden!』」
    起動する術式に呼応して呪水は一気に高熱を帯び、ボルトの鏃に向いた、指向性を持った爆発を引き起こした。当然、矢は頭に深く突き刺さったまま、つまり魔犬の頭の中から爆発したと言うことになる
    「GHAAAAAA!!」
    要点は、ボルトの刺さった深さと同じか、それ以上に深い穴が頭に空いたことだ
    噴水の様にドス黒い血が吹き出し、右の頭部から徐々に輝きが失われていった
    完全に機能を喪失した訳ではないだろうが、一時的には、その頭は動かないと見て間違いはないだろう
    サーヴァントに匹敵する魔力を持った魔犬に魔術師が一矢報いる。正に大金星と言っても過言ではない戦果だ
    「よし!」
    たしかな手応えを感じる。前に出ている2人もなんとか持ち堪えて自分が出せる以上の火力で魔犬を攻撃している だが、まだ魔力は以前非常に高い。ケルベロスの後ろにいるあの女も焦った様子は見受けられなかった
    あの女へ向けてボルトを撃ってやりたいが、あの魔犬に盾になられるのが落ちだろう
    だからこのまま次のボルトをーーー
    矢筒から引き抜こうとした時、それは起きた
    「ZYYYYYYGAAAAAAAAA!!」
    最後に残った中央の頭が、途轍もない咆哮を上げる。それはまるで魔力の暴風。細かい土が此処まで飛んでくるほどの風圧が押し寄せて来る

  • 107二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 07:25:30

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 08:12:29

    エグッ
    マルグリットちゃんそんな怖いもの持ってたの!?

  • 109二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 08:26:06

    このレスは削除されています

  • 110千界樹の記録23/08/27(日) 11:33:19

    ケルベロスの胴体が脈打つ様に震えだす
    体全体に満ちていた魔力が少しずつ、一定の場所へと集まりだす。体がビク、ビクン、と波打つたびに魔力が前の方、頭部へ集約されていく
    その度に、身体を覆う金の魔力帯が薄れていき、その魔力全てが3つの頭に集う
    「今度は何?」
    マルグリットの声に応えるものは居らず、代わりに魔犬の黒い泥の肉体が露出しだす。やはり、性能は段違いだったがあの魔犬も今までの魔獣同様の存在なのは確からしい
    その体が、再び泥の様に溶け出していったーーー
    「また厄介な」
    「次から次に、キリがないわね」
    強い瘴気を孕む泥に触れるわけにはいかず、凌我とルーナも一度後に下がる
    溶け落ちて瘴気の霧がケルベロスを覆う。あの霧の向こうで何が起きているのか、ルーナはそれを視覚、聴覚に頼らない手段で把握していた
    「うげっ、そんなのあり?」
    「何が起きてる?」
    「あのワンちゃん。首だけになって動いてるわよ。しかも2つの首も再起動したみたい」
    ルーナの言葉に舌打ちをする。首だけになった所で性能がどれほど変化したのかは解らないが、潰した筈の首が再起動したのは笑えない。このまま潰しては再生して、潰しては再生してが続くとそれこそもうジリ貧で押し潰されてしまう
    それを承知で、ミレイユ・レオノールはこんな消耗線を行っているのだろうがーーー
    「ーーー来るわよ!」
    ルーナの声に意識を引き戻す。瘴気の霧を突き破り出現した魔犬ケルベロス。だが、その姿は先程までとはかけ離れた異形と化していた
    「GHAAAAAAAAーーー!」
    3つ又の鎖に繋がれた3つの首が、宙を浮き、首の断面から、魔力がまるでジェットの様に吹き出している
    あきらかに異様な姿。あの死霊術師に到達する為には、今度はコレを相手にしなければならないーーー

  • 111二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 12:40:58

    お、見覚えのあるエネミーケルベロスになったか

  • 112二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:03:48

    保守

  • 113千界樹の記録23/08/27(日) 22:25:15

    アーチャーは地を駆けながら矢を次々に打ちだす。主に頭部、それも眼を中心に狙いを定めている。速射を意識しており、一発毎の威力は其処まで高くはないが、あの屍神の気を引くには丁度良いだろう
    蛇を形容する髪を次々にアーチャーへ向けて打ち込んでくる。一本一本が生きた魔獣に等しく、其々独自にアーチャーを食い殺そうと襲ってくるが、その悉くを躱して行く
    この程度の障害で、奔る速さを下げる必要すら感じられない
    アーチャーはその逸話が示す通り、多くの英霊の中でも最速クラスを誇る。彼女に勝てる英霊がいるとすれば、同郷にしてギリシャの中でも最大級、トロイア戦争の中で最強の名を欲しいままにした、大英雄アキレウスくらいのものだろう
    懐に入る直前、屍神の巨腕が鋭い爪を立ててアーチャーへ目掛けて振り落とされる。地響きと土煙を噴き上げる程の一撃、直撃を受ければ耐久の低いアーチャーではひとたまりもないだろう
    果たして、アーチャーはその一撃を避けていた。土煙から飛び出して地面に食い込んでいる腕の上を駆け上がる
    「AAAAAAAAAAーーー」
    屍神はアーチャーを振り下ろすべく地面から腕を引き抜き振り払おうとする。だが、相手は俊足の英雄その頃にはアーチャーは目的の地点へと到達していた
    「フーーー」
    動きだす腕から跳躍する。空中でも身を捻る様にするだけで蛇髪の追撃をかわして行き、逆にそれを蹴ることで加速する
    辿り着くは屍神の目の前、空中で逆さまの状態から矢を引き絞る。アーチャーの持つ、『天穹の弓』によって限界を超えて引き絞られた矢は、筋力の低いアーチャーであろうとも、Aランク級の威力に到達する
    そうして、屍神の頭部に叩き込まれた矢はその超質量の胴体を僅かにだが仰け反らせるに足る。上体を後ろへ反らす形になり、僅かとはいえ視界が大きく制限されるその時間はわずか数秒、だがそれで構わない
    奴ならば、必ずーーー

  • 114千界樹の記録23/08/27(日) 22:37:58

    「魔剣起動!」
    セイバーはその一種の隙を逃すことはない。
    短剣を連鎖のルーンを刻んだ短剣を射出。
    屍神胸部に対して円を描くように突き刺してゆく
    そして仕上げは当然、その手に握る真紅の魔剣、グラム
    「ぬぅんっ!」
    拳を強く握り込み、魔剣を撃ち出す。魔剣に刻まれたルーンは雷、加速、勝利。打ち出された魔剣は加速のルーンの力で音を置き去りにして飛翔、ほの狙い過たず短剣が描く円の中央に突き刺さる
    「AAAAーーー」
    瞬間的に音を置き去りにした魔剣はその衝撃により屍神の肉を巻き込む様に弾けさせた。表皮が破け、露出した肉に突き刺さる稲妻奔る魔剣。普通なら発狂しかねない激痛を襲うだろうが、既に死した屍の器ではそんなこともないだろう
    魔剣が突き刺さると同時に、刀身から稲妻が迸る。その雷光は放射状に、周りに突き刺さっていた短剣へ伸びる
    6本全ての短剣と魔剣が雷光で繋がれた瞬間、雷公が如きプラズマの爆発が屍神をら襲った
    「AAAAAAAAAーーー!!」
    雷轟、電轟、日本で言うところの雷神降臨とはこのことを言うのだろうか、周囲の木々にすら電波し、焼ける程の大電撃が屍神を襲う。上半身の肉体が大きく吹き飛んで、辛うじて肩と首、下半身を繋ぎ止める程度には肉が残るが、骨組みも大半が消し飛んでおり、ことごとく残った部分も焼け焦げてしまっている
    例え如何なる怪物であろうと、ここ迄の肉体損傷を受ければ暫くの間はその、構造上全く動けなくなるだろう
    霊核に届くまではいかなかったが、目当ての物には届いたらしい。セイバーの視線の奥に、然りと魔力炉が存在していた。だが、ぐずぐずしてはいられない。たまげた事にコレほどの損傷を与えても尚この屍神は自己修復がすでに始まっている。この不死性は伝承に聞く、吸血鬼や死徒ーーーそう呼ばれるモノ達のそれに近いと、セイバーの持つ叡智は伝えてきていた
    セイバーは跳躍する。肩から外したナックルマスターを右手に装着し、強化、相乗のルーンを刻み込む。其処から繰り出される破の一撃
    「砕けろ!屍の神諸共に!!」
    気合と共に放たれた正拳突き。強化のルーンがセイバーの全霊の一擲を高め、相乗のルーンがが強化のルーンの力をさらに引き出す
    それは修復されつつあった炉心周り、炉心を覆い始める屍肉ごと、魔力炉を粉砕した

  • 115二次元好きの匿名さん23/08/27(日) 22:39:46

    うーんこのインテリ脳筋

  • 116二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 07:39:08

    >>115

    愛知の結晶x原初のルーンx筋力A+=バ火力で押し通る

    それが出来れば世話ないんですよ

    何で出来るんですかね……

  • 117二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 07:56:30

    「AAAAAAA!!」
    魔力炉を喪い、絶叫をあげる屍神ゴルゴーン
    これで魔力供給の大半を絶たれた事になり、今までの様な活動は行えたさ無くなったはずだろう。これで完全に斃れてくれれば御の字だが、其処は神代の怪物
    霊魂だけの状態でもこの器を崩させずに繋ぎ止めるだけど力は備えている様だ
    あの魂はマスターとのサーヴァント契約により現界している。アレを打倒するには直接霊核となっている魂を砕くか、現世に繋ぎ止める楔の役割を果たしているマスターの方をどうにかして契約を断ち切らなければならない
    だが、それでも供給が大幅にダウンした事で性能は当然低下する。特に反則じみた自己修復機能は低減する。今すぐにとはいかずともいずれ全体の機能が減退するのは目に見えていた
    「これでーーー!」
    セイバーとアーチャー、両騎の手に力が宿る
    勝機が見えてきた


    凌我達は、ケルベロスの猛威に晒されていた。胴体と脚を無くし、宙に浮く魔犬はその犬という形態から解放されて、宙を自由に駆ける魔物と化したのだ
    全体に満遍なく行き届いていた魔力も、全て3つの頭に集約された事で、其々の基本能力が上昇した事で更に手に負えなくなってしまっていた
    「ーーーッ!」
    ルーナは戦鎚で食い付いてくる魔犬の牙を受け止める
    弾き返せない。それほどに凄まじい圧力で押し付けてしている
    「ルーナ!ーーーちぃっ」
    凌我も彼女の存廃をする余裕もない程に追い込まれつつあった。彼は魔術師であり、代行者である彼女より遥かに身体能力で劣る。即ち、彼女の様に頭の一つを受け止め、同時に釘付けにする事などできるはずもなく、何とか回避しながら魔術で反撃することのみである
    ーーーくそ、術式さえ組めれば何とかやりようはあるが……
    その余裕は今は既に無くなりつつある。このまま削り殺されるのは御免だが、このケルベロスは強すぎる。恐らく、と言うよりは確実に本来のそれよりは遥かに弱いだろう。だが、魔術師達を相手取るには十分すぎる暴威である

  • 118二次元好きの匿名さん23/08/28(月) 18:47:08

  • 119千界樹の記録23/08/28(月) 20:57:30

    「ーーーうおあっ!?」
    展開した5本の水の槍を全て受けて尚止まらない魔犬。辛うじて緊急展開した障壁で直撃だけは避けられたが、衝撃で後方に飛ばされてしまった
    「凌我!」
    「先輩!」
    マルグリットはボルトに撹乱用の燕の霊を宿し、魔力を込めて撃つ。ボルトは複雑な軌跡を描きながらケルベロスの周囲を廻る
    そのボルトに気を取られた頭の一つに鎖が引っ張られる。その一瞬を突きルーナは渾身の力で魔犬の頭を蹴り飛ばした。空中へ数m浮き上がる魔犬の首は、丁度中心の頭に接触し、それぞれの動きを阻害した
    さらに、最後の首が周りを飛ぶボルトに対して、鬱陶しそうに噛み砕こうとするが、ボルトは小さくそして速い。今すぐに捉えられると言うことはないだろう
    その隙をついて2人が凌我の元へ駆け寄る。凌我は今の衝撃のダメージか、顔の半分近くを覆う程の血を流し、右目が塞がっている
    「この程度なら問題無いな」
    「問題無いわけないでしょう!」
    駆け寄って来た2人を手で制し、真っ直ぐに前を睨む凌我。その視線はケルベロスではなく、その奥にいる女へと向けられる
    「このままだと俺たちの負けだ」
    「で、でもアーチャー達があの怪物を倒せばーーー」
    「それまで保たん!」
    マルグリットの言葉を両断し、思考を巡らせる。幸い、出血の量は多いが、激痛のお陰で意識を失うことはなさそうだった
    しかし、すぐにケルベロスはこちらへ再度猛攻を仕掛けてくるだろう。此方も魔力が限界に近い。これ以上の消耗戦の様相は此方の敗北以外にはあり得ない
    正直に言って此方の打てる手段はもう一つしかなく、それも上手くいけば状況が好転はするだろうが、あの沸き続ける魔獣共の前では何処まで有効かはわからない
    幸いにも、あの魔犬ケルベロスが顕れてからは他の魔獣の出現は鳴りを潜めている。全く無いわけでは無いがそれでも今までよりは遥かに少なかった。恐らくは魔犬を維持するのに大部分を消費しているのだろうが、それでも放っておけば増え続ける事に変わりはなく、そもそも時間もない
    せめてもう一つ、状況を好転する何かが有ればーーー

  • 120千界樹の記録23/08/28(月) 23:06:13

    突如、凄まじい轟音と共に碧い閃光が瞬いた。落雷ではない。稲妻は天から落ちたものではなく、大地からの輝きであり、稲光と共に轟いた爆音。そして同時に聞こえてくるのは、この世の物とは思えない悍ましい声の絶叫である
    その方向は、セイバー達のいる主戦場。その輝きと轟音はその場の誰しもが振り向かざるを得なかった。凌我達3人はもとより、レオノールすらも発生した事態を無視することは出来ない
    「ーーーまさか」
    死霊術師が震える子で呟く。その声は3人には届いてはいない。そもそも彼女の方を誰も見ていない
    輝きが収まるとすぐに、魔力パスを通して凌我の元へセイバーからの念話が届いた
    『マスター』
    『セイバー!今の雷はまさかーーー』
    『奴の魔力炉を破壊した。これで状況は多少優位になるはずだ』
    その言葉を聞いて、凌我の中で思考が加速する。セイバーの上げた戦果、現在の状況、魔獣の発生数、魔犬の戦力と此方の残された手札。凡ゆる要素がパズルのように一つ一つ彼が思い浮かべる枠組みの中に嵌って行く
    「……ルーナ」
    「うん?」
    彼が打てる最後の手札。文字通りのジョーカーを此処で切る
    「頼む」
    「ーーー」
    その言葉は、ルーナにとってある意味衝撃的なものだった。凌我と言う魔術師は情に厚く、魔術師としては非常に甘い。そんな男だからこそ弱さを決して見せなかった彼が、今までも頼りにされたことはあれども決して頼ることは無かった彼がーーー頼む、と
    純粋に自分を頼って来た。その事実に一瞬だけ頭の中がホワイトアウトしたが、状況迄見失う程おめでたくは無い。その声に、力強く頷いてみせる
    「任せて」
    一歩、前へ出る。これは本来、上級死徒殲滅の為の切り札。この様な場面で使う様な代物では無い。けれど、初めて彼が自分を頼りにししたのだ。主に仕えるものとしてその想いを裏切る様な真似は決して出来はしない
    「一体、何を……」
    「見てろ。アレが銀狼だ」
    戦鎚を地面へ下げる。地面を粉砕するそれをそのままに、自身を中心に円を描く様に地面を削り取った
    戦鎚の円を描く軌跡が光を帯びる。ルーナを中心に一周し結ばれた光の円。それが輝きを増し、その円の中、彼女の立つ大地がひび割れる様に展かれる
    これは門。彼女と「ソレ」を繋げる光の門である
    展 開門したその先に存在する物、それこそが「銀狼」を「銀狼」たらしめる切り札である
    その真骨頂が、此処に顕現するーーー

  • 121二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 07:43:14

    保守

  • 122千界樹の記録23/08/29(火) 07:57:30

    ルーナの足元から、彼女を覆う様に顕れたそれは、白銀の甲冑である
    だが、それが唯の時代錯誤な代物とどうして言えようか。煌々と輝く銀の鎧は、それだけで凄まじい神秘と魔力を内包しており、発する輝きは同時に聖性を強く帯びている。その魔力量、実に彼女の召喚したサーヴァント、ライダーのそれに比類する程
    その造形は狼を連想させ、荒々しくも厳かな美しさすら感じられる工芸品の様でもあった
    これこそは第八秘蹟会が有する秘中の秘。嘗てこの世に存在し、とうに滅びたハギア・ソフィアの大聖堂。その失われた大十字を鋳溶かして鍛えられた特級聖遺物の一つ
    番外聖典、凡ゆる悪意、不浄から持ち主を護る「守護」の概念武装である
    その防御力たるや、例え「滅び」の概念武装を前にしても、そう容易く崩れることはなく、成層圏からの断罪の光であろうとも持ち主は護り切るだろう
    これこそが、ルーナが名乗る銀狼の由来であり、彼女の切り札
    その聖性を前に、木端の死徒やその擬き程度ならば触れるだけで浄化され、灰に還るは必定である
    番外聖典の顕現に合わせ、彼女の持つ戦鎚も一回り大型化する。無骨なウォー・ハンマーから、芸術品を思わせる優美な処刑槌へと変貌し、彼女の鎧と同じ銀色の聖光を放つ
    「ーーーなんなのよ、ソレ……」
    その異常とも言える神秘の強さ。魔犬ケルベロスにも匹敵する魔力量を持つ存在の出現には、其れ迄圧倒的な優位を保っていたレオノールも動揺を隠しきれなかった
    戦鎚を変わらず軽々と振り回し構える銀狼。
    ケルベロスは出現した存在を脅威と見做し、威圧する様に咆哮を上げる
    同時に多数の魔獣達がその白銀の狼へと牙を剥き迫るがーーー
    「ーーーフゥッ!」
    戦鎚の一閃。それだけで飛び掛かる魔獣達は悉く聖光を放つ槌を掠めただけで砕け散り、灼かれて塵になって行く。地面から低姿勢のまま銀狼を襲う魔獣の爪と牙。だが、そんなものは蹴りの一撃で全て灼き滅んでしまった
    量産される程度の木端魔獣ではもはや今の彼女にとって障害にすらなり得なかった

  • 123二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 09:17:09

    牙狼だコレ-!

  • 124二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 12:08:28

    ええ……そんなのありかよ……

  • 125二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 14:01:49

    魔術師たちの奮戦とそれに掛かる魔力・礼装の消耗具合がヤバいな
    並行して戦ってるサーヴァント組と比較すると段違いだし英霊たちの規格外さがよくわかる

  • 126二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 14:52:39

    このレスは削除されています

  • 127二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 19:27:10

    ルーナってひょっとして鎧ありならサーヴァントと互角にやり合えたりするのか?

  • 128千界樹の記録23/08/29(火) 21:48:46

    「まだよ!」
    レオノールは此処に来て初めてアクティブな行動に出る。幾つもの羊皮紙の紙片を取り出して彼女へ向かって投げつける。紙片は気流を操る魔術で風に乗って銀狼の元へと向かう
    一目見て理解した。あの紙片には強力な怨念を抱える死霊が取り憑いている。常人ならば立ち所に呪死しかねない程の力を感じる
    だが、例えどれ程の死霊を呼び込もうとも、その程度では何もできないどころか、触れただけで鎧が放つ聖光に浄化されてしまうだけだ
    レオノールは紙片を銀狼の周囲を取り囲む様に配置する。そして、手を銀狼派向けて翳す
    「la combustion du fantome!」
    唱えられた詠唱に従い、銀狼を取り囲む紙片に取り憑く死霊は声なき悲鳴をあげながら、青白く発火し爆発的に燃焼する
    銀狼を中心に狐火の爆炎が上がる。死霊そのものを火薬の様に炎上させて爆破させる死霊魔術の一つだが、一つ一つはそこ迄のものでは無いが、複数束ねれば現代兵器にも通ずる破壊力を惜しげもなく銀狼1人にぶつける
    ただの魔術師程度ならば例え障壁越しにでも重症になるだろう威力を一身に浴びる銀狼
    だが、「守護」の概念武装。その防御力の前には何一つ効果はない
    爆炎を手で払い、当然の様に傷一つなく現れる銀狼。その輝きにすら一片の翳りもありはしない
    「ならーーー」
    術が効かぬのなら直接砕くまでと、ケルベロスをけしかける
    「GYYYYYYAAAAAAAAAA!!」
    魔犬ケルベロスが咆哮を上げる。3つの首が同時に吠え立て、ただでさえ凄じい衝撃を持った吠え声が、共振効果でその威力が増加し、広範囲に渡る攻撃が今度は銀狼の周囲にのみに集約される。その威力は周囲の魔獣達も内側から吹き飛ぶ程の不可視の破壊の波として銀狼に向けられる
    例え強固な鎧に身を包もうと……否、強固な外殻である程に音や振動は伝わり、その中の生体に致命的な影響を与える
    であれば、増幅された魔犬の咆哮と衝撃をまともに受ければ、鎧は無事であろうともその中にいる生身の人間が無事で済むはずはない
    周囲の魔獣達と同じように、内部から反響する振動の波が体内の水分を震わせ、あっという間に水風船の様に破裂してしまうだろう

  • 129二次元好きの匿名さん23/08/29(火) 22:22:53

    激アツじゃん!
    続きが楽しみだな

  • 130千界樹の記録23/08/30(水) 07:45:45

    だがーーー
    「それも慣れてる!」
    ーーー通用しない
    そもそも、音や振動を利用した攻撃はそれこそ銀狼の得意とする分野。自分が使う攻撃手段ならばこそ、当然その対策も万全なのは自明の理
    銀狼の鎧は振動による攻撃を受けると、それを全体に拡散し外部に排出する様な構造に造られており、さらに鎧そのものが持つ「守護」の概念がその力を高めている
    即ち、その手の攻撃手段で銀狼を害するのは極めて困難であるのだ
    「ZYYYYGAAAAAA!」
    咆哮を受けてビクともしない標的を前にして魔犬は噛み砕かんとばかりに牙を剥いて襲い掛かる
    対する銀狼は大型化した戦鎚を構え、跳躍する。真っ先に突っ込んできた中央の首はそのまま標的を外し地面へと減り込む。跳躍に真っ先に反応した右側の首が宙に跳んだ銀狼へ向けて襲うがーーー
    「ハアッ!」
    振り下ろされた戦鎚の一撃で、いとも簡単に地面へ叩きつけられた。だが、首だけになった事で耐久性も高くなっているのか、戦鎚が直撃した箇所は肉が飛び散った様な破壊痕があるものの原型はとどめていた
    そしてそのまま着地すると同時に、その瞬間を狙い澄ました様に死角となった頭上から左側の頭が攻撃を仕掛ける
    「シスター!」
    着地の隙を突いた不意打ち。そんな形となった魔犬の攻撃を見て、マルグリットが叫ぶ。だが、そんな程度て討ち取れるなら、とうの昔に、凌我との初めての邂逅の時に彼に殺られていただろう
    「ーーーセェイ!」
    魔犬の牙が鎧に届く瞬間、狙い澄ましたかの様なタイミングで放たれるオーバーヘッドの踵蹴り。その一撃はその体格と大きさからは想像もつかない程に重い激突音が響き、不意打ちをしたはずの魔犬の頭部3つの頭をら繋ぎ止める鎖が張るほどの勢いで吹き飛ばされてしまった
    「ーーー凄い……」
    桁違いの戦闘能力に、マルグリットは思わず感嘆の声を漏らす。あのケルベロスをまるで赤子の様にあしらい、派手に吹き飛ばす様子を見て、ただただ圧倒されるばかりであった
    「本来なら上級死徒殲滅の為の概念武装だ。あれを纏う限り奴の力は災害級に跳ね上がる」
    苦笑しながら語る凌我。彼は以前にもあの姿を見たことがあり、その力はよく知っていた
    そして彼は次の付箋だろうか、顔から滴る血を掌に集めつめている。魔術師にとって、生き血は上質な魔術の触媒になる
    「『血潮』 『影を覆え』」
    掌から滴る血潮が霧散し凌我の周囲を覆い始めたーーー

  • 131二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 09:44:55

    このレスは削除されています

  • 132二次元好きの匿名さん23/08/30(水) 10:19:36

    災害級って事は埋葬機関程ではないのか
    いやそれでも凄すぎるんだけども

  • 133千界樹の記録23/08/30(水) 21:50:44

    災害級と言われた力を遺憾無く行使し、ケルベロスを追い込む銀狼。その膂力は魔犬の頭を地面に叩きつけてそのまま押さえ込み、逆の腕で振り上げた戦鎚が襲ってくる他の頭を軽々とその牙を砕いて吹き飛ばす
    しかし其々を結ぶ鎖が互いを引っ張るため、遠くまでは行けず、頭の一つを押さえ込んでいる以上は逃げることも叶わない
    強い魔力を帯び、耐久陸も格段に上昇している筈の魔犬たちも聖光を灯す戦鎚で殴られる度に屍肉が破裂する様な音と共に飛び散り削られ、凄惨な醜姿をら晒していく
    形勢はすでに逆転し、一転して窮地に追い込まれたのはレオノールの方だ。彼女もそれを理解しているが故、自信の持ち得るあらゆる魔術を用いて銀狼を妨害するべく仕掛けるがその全てが徒労に終わる
    レオノールもまさか、相手の纏う鎧が「守護」の概念武装である事は知る由もなく、想像の余地もなかった。知っていたとしても、さらに絶望が深まるだけではあるが、いずれにせよ魔術師が用いる魔術では例えAランク級の儀式規模の術であろうとも銀狼に傷一つ負わせる事はできない
    「ハァアア!」
    地面に減り込むほどの力で押さえつけていた魔犬の頭を蹴り上げ、ゴルフクラブの様にカチ上げる。その一撃でなんと3つの首を纏めて宙へ5m程は吹き飛ばす
    戦鎚を叩き込まれた魔犬の頬の部位の屍肉は完全に消失し、周りの傷に焼けこげた様な痕がわずかに残るばかりの、ごっそりと肉がなくなった事で牙や顎の骨が剥き出しの状態になってしまっている
    「GURRRRRRRRR」
    3つの首は何とか宙空で静止し、ボロボロになった顎を軋らせ、唸り声を上げる。だが、もはやそんな物が威嚇程度にもなるはずはなく、銀狼は戦鎚を構え、姿勢を低く、低くーーー
    「主の御名に於いて、我は炎となりてその罪を潔めん」
    謡い上げられる聖句。主に仕え、その威光を代行する者として、眼前をら闊歩する不浄に、裁きを下す
    「我は鋼、我は力、我は執行するーーー」
    戦鎚に火が灯る。汝、穢れし者なら禊の焔に灼かれるべし。罪を清める痛みにのたうち苦悶の地獄へ沈むがいい
    汝、尊き者なら光の導となりて万代不易の祝福とならん 
    「我はありとあらゆる敵を叩き潰す審判なりーーー」
    揺らぐ聖火が劫火となる。これは主の威光、罪ではなく、罪人を焼き尽くし魂を浄化するハギア・ソフィアの秘宝なりーーー!
    「ーーーAmen」

  • 134千界樹の記録23/08/31(木) 08:11:09

    「ZYYYYYYGAAAAAAAAAA!!」
    吠える魔犬ケルベロス。対して低い姿勢のまま戦鎚を構える銀狼
    奇しくも異形の怪物と騎士と言う、神話にも似た構図が現代の世に現れる
    魔犬はそれまで自身の耐久性を高めていた魔力の守りを捨て、自らの前面に集中させることで攻撃の威力を最大限に高めようとしている。対する銀狼の戦鎚はたぎらせる劫火が徐々に収束し銀色の光球に変わっていく。聖火の光が一点に集い、戦鎚自体も振動を加速させていき、徐々に朱みを帯びていくーーー
    「GAAAAAAAA!」
    「ハァアア!」
    削られ砕け、その醜悪な内側を露出させながら突撃する魔犬と、それを迎え撃つ聖火の鎚。激突する両者の勝敗は一瞬でついた
    聖火を宿した戦鎚から放たれる破壊振動がケルベロスの魔力を粉砕する。更に魔力を乗せた振動はケルベロスの集約させた魔力を伝播し、魔犬本体にまで到達する
    「GHAAAAAAAAAAAーーー!」
    戦鎚が赤熱化する程にまで高められた振動波は例え離れた所へ伝播したとしてもその威力は殆ど減衰する事なく魔犬の屍肉を内側から蝕む。振動は内部で反響し、魔犬を形作る骨格や肉を震えさせるそのままでも内側から崩壊するが、銀狼の攻撃は弛まない。魔力障壁を破壊すればその次は本体だ
    集約させた魔力の壁を超えて魔犬そのものに叩き込まれた破壊鎚。すでに内側から崩壊の始まった魔犬に対しては絶望的な一撃として、今度は直接打撃により振動を撃ち込まれた
    外部と内部による破壊圧の同時攻撃を前に、魔犬はとうとう声を上げることすらなく砕け散り、戦鎚に宿した収束された聖火が解き放たれ、砕けた屍肉の塊を焼き尽くす
    粉々に砕け散るとほぼ同時に爆発的に燃え広がる聖火によって灰すら残さず浄化され、燃え尽きる魔犬ケルベロス
    その最期はこれまでの暴虐がまるでなかったかの様に、銀狼の聖撃の前に抹消されるのであった
    「ーーーふぅ……」
    「嘘……こんな事って……」
    その光景を見ている事しかできなかったレオノールは今度こそ青褪めた表情のまま、魔犬が消滅した跡の虚空を見つめていた

  • 135二次元好きの匿名さん23/08/31(木) 19:47:11

    保守

  • 136千界樹の記録23/08/31(木) 23:14:49

    聖火に灼かれ、燃え尽きた灰が風と共に流されていく。その中で1人佇む白銀の狼の紅い瞳は、真っ直ぐに茫然と虚空を見つめる死霊術師を射抜いている
    「お終いね。死霊魔術師」
    銀狼は戦鎚の先をレオノールへと向ける。死霊術師、レオノールは銀狼の言葉に我に帰る。虚空を見つめていた瞳は白銀の鎧へと目を向け、射殺さんと鋭く睨み付ける。だが、既に魔犬ケルベロスは無く、屍神は心臓部たる魔力炉を破壊され、新しく強力な魔獣を製造する余裕は無い
    「けど……!」
    だからと言って諦める選択肢は無い。キャスターの協力を経てここ迄大それた事をしたのだ。遅かれ早かれ神秘の秘匿を侵したとして時計塔や聖堂教会から何かしらのアクションがあるに違いない。そのリスクを犯してまでこの聖杯戦争に勝ちに来たのだ
    敗北が濃厚になった程度で、今更諦める訳にはいかないのだ
    「そうよーーー」
    諦めるには早い。まだ自分は生きているし、何より、魔力炉を失って弱体化したとはいえ未だ屍神は健在なのだ。炉が無くなったとはいえその戦闘力はサーヴァントのそれを上回る
    「まだ負けていない。私が追い詰められても、その前に貴女達のサーヴァントを倒してしまえばいいんだから!」
    最後の令呪。それが刻まれた右腕を掲げる
    魔力炉を失い、魔力量が大幅に減退したとは言え、令呪で補えばそれで済む。銀狼は未だ自身の前に居る。その奥には降霊術師の姿が居てもう1人、あの男もそこに居る。この状況なら相手から何かをされる前に、やり切れる
    「令呪を以てーーー!」

    「ーーー悪いな」
    声が聞こえたと思ったら、胸に熱い物が奔る。続けて鋭い痛みが駆け抜けた
    「ーーーえ」
    視線を下に向けると、胸から刃が突き出ていた。その刃は銀色の切先から緋色の雫が滴り落ちている。気づけば、口元にも鉄の味が滲み出していた
    「ーーーコフッ」
    口から、小さな咳と共に多量の血が溢れ出していた
    一体、何がーーー
    「銀狼に意識を向け過ぎたな」
    背後から聞こえる声
    その主は、あの男ーーー神水流凌我のものだ
    そんな馬鹿な。だって彼は銀狼の後ろにーーー居なかった。消えていったと、言った方が正しいか
    「『碧血の姿眩まし』血の霧に姿を隠しその奥に偽りの己を映す」
    レオノールに突き刺した剣を引き抜く。支えを失い、死霊術師の身体は力無く崩れ落ちる
    確実に心臓を貫いた。例え魔術刻印が持ち主を生かそうとした所で最早意味は無い

  • 137二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 07:54:43

    決着かぁ、ここで死んでた方がマシだよな、協会に領地と秘奥を腑分けにされるだろうし

  • 138千界樹の記録23/09/01(金) 08:14:31

    レオノールが崩れ落ちたのを確認して鎧を解くルーナ。白銀の鎧は細かい部品に分かれながら虚空の先、元の場所へと戻って行く
    「ーーーフゥ……」
    大きく息を吐くルーナの額から大粒の汗が流れている
    銀狼の鎧。それは彼女にとって切り札であると同時に大きな危険を孕んだものでもある
    「守護」の概念武装は守りであると同時に攻めの為の秘宝。守護とは防御のみに在らず、敵を殲滅する事も守護の一つの形であるならば、装着者に驚異的な力を与えるこの武装は、極めて強力であると同時に展開後の維持に莫大なコストを必要とする。本来ならば代行者十数人で維持する銀狼の魔力だが、彼女はそれを1人で賄っている
    だが、一流の魔術師の数十倍の魔力量を誇るルーナでも、長時間の展開維持は困難。その為、彼女にとって銀狼の展開は必殺の意志の表れでもあった
    ーーーこの鎧を纏う以上、敵は必ず滅ぼす
    銀狼は彼女にとっての決戦術式でもある
    「大丈夫か?」
    刀身に付着した血を振り払い、鞘へ収める凌我。彼の声掛けに顔とあげるルーナは微笑んで見せる。この程度、問題ないと伝える様に
    「ご覧の通り、これくらいは平気よ?」
    鎧を解くと同時に元の状態へと戻る戦鎚を担ぎ上げる。その様子に少しだけ呆れた様に苦笑する凌我
    その2人の元へマルグリットが駆け寄って来た
    「終わったの?」
    「取り敢えずこっちはね」
    「これであの化け物も現界の楔を失う。魂魄は屍肉から剥離する」
    所詮屍肉の塊に魂を宿した生ける屍、再生能力に特化した死徒擬き。そして、死体を死徒へと作り替える悍ましい術を誰が奴にもたらしたのかーーー
    「心臓を貫いた。この剣で刺した以上再生はしないだろうが……」
    お陰で大事な情報を聞きそびれた。最も、あの様子では喋る事は無かっただろうが
    「再生しないって?心臓の修復なんてある程度の刻印がある魔術師なら皆んなやってる筈だけど……」
    「水は生命とサイクルの象徴だ。それを断つと言う因果によってその円環を破壊し、不死の力を鎮静する」
    水を纏い、輪廻の輪を断ち切るーーーそれによって不死殺しとなす。それが俺の創り上げた最高傑作
    戒剣「慈雨」それがこの剣の持つ力。現代において再現された不死殺しの剣である
    「ーーーそう言う、事ね」

  • 139二次元好きの匿名さん23/09/01(金) 18:39:44

  • 140千界樹の記録23/09/01(金) 22:22:13

    その声の主はルーナでも、マルグリットでも無い
    そんな馬鹿なーーー振り返るとゆっくりと、何かに引っ張られる様に立ち上がったのはミレイユ・レオノールであった
    だが、あり得ない。心臓を破壊した以上、例え死霊魔術師であろうとも決定的な死は避けられない
    それでも尚立ち上がれるのには、相応のカラクリが必要となる
    「ちょっと先輩、生きてんじゃん!」
    「不死殺しだからって確実に死ぬ訳じゃないんだよ!」
    生命の円環を断つこの剣は斬ったものを滅ぼすのでは無く、蘇らせないという機能が重要。なので殺しきれない時は殺せない
    そして恐らく、奴が立ち上がれた主な要因は魔術刻印の力だろう。心臓を破壊した上でまだ、死んで無いのは刻印が生かしているだけだ。否、生かしているのでは無く死んでいないだけ
    其処に死霊魔術を組み合わせている。だがそんなことをさた所で所詮は完璧に死ぬ迄の時間稼ぎでしか無い
    「まだ、終われない……!」
    レオノールは胸の傷を押さえて流れる血を塞ぎながら焦点の定まらない目でこちらを強く睨む。だが所詮死に体の身で何ができると言うーーー
    一つだけ、できることがある
    「私は負けたけど、貴方達も勝つ事はないーーー」
    そうして、血に濡れた右腕を掲げる
    まずい、令呪を使う気だ。この状況で使う令呪の内容なんて決まっている
    サーヴァントに最後の一撃を撃たせ、何もかも道連れにするつもりなのだ
    「ちぃーーー!」
    そうはさせんと剣を抜いて滑る様に地面を走り斬りかかる。だがーーー
    「敵を焼き払いなさい!」
    振り抜く剣筋は、紙一重の差で間に合わない
    「ーーーアハ」
    振り抜かれた刃は既に手遅れとなった目標の首筋を断ち斬った
    重力に引かれ、落ちるレオノールの首は、その寸前に確かに笑った
    まるで、この後に起きる未来を予見する様に、凌我の目を見据えたまま、嗤っていたのだ

  • 141二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 10:01:53

    保守

  • 142千界樹の記録23/09/02(土) 10:55:09

    間に合わなかったーーー
    令呪の膨大な魔力が解き放たれ、あの化け物の元へと還元される。この一瞬だけ、あの怪物は文字通り何でも出来るほどの魔力が補填された
    「凌我!」「先輩!」
    「分かっている!」
    令呪の内容は「敵を焼き払え」確実にあの化け物の宝具に当たる力を使ってセイバーとアーチャーを纏めて斃すつもりなのは確実だろう
    ライダーは戦線離脱しており盾は存在しない
    如何にセイバーが原初のルーンを使った防壁を張ろうとも、ライダーの宝具程の力は望めない
    打てる手段は、一つだけ
    右腕を広げる。手の甲に宿った残り2画の令呪、その1画を使わざるを得なかった
    例えアーチャーが令呪を用いた所で破壊力という点においてセイバーには遠く及ばない
    ライダーも言わずもがな。俺が切るしかなかった
    「令呪を以て告げるーーー」
    刻まれた剣と黄金樹を象る刻印、残るは左の枝葉と剣。その枝葉が煌めき、レオノールの時と同様、膨大な魔力が発現する
    「宝具発動、あの怪物を滅ぼせぇ!」
    賭けに近い命令だが、生き残るためにはこうするより道はない
    あとは、セイバーに託すだけだ

    屍神との戦いは、こちらの勝利に終わろうとしていた。魔力炉を失った事で再生能力も低下、周囲から湧き出できていた魔獣の数もガクッとその数を減らし、戦況は完全にこちらの優位
    一つだけ問題があるとすれば奴自身の霊核に当たる部分、この場合は器に納められたゴルゴーンの霊魂になるだろう。それがどのように封じられているのかが、不明という点だ
    全身を粉々に砕けば霊核を必ずしも砕く必要は無いのだが、それはそれで骨の折れる作業となる。やるのなら霊核を砕いて一発で終わらせられる方が速いが、キャスターの魔術だろう。巧く隠している
    これでは探すのも一手間となるだろう。更に言えば、炉を失い相当な弱体化をしても尚、この屍神はサーヴァントを上回る魔力出力を誇る。油断しようものならば押し潰される可能性は未だ現在、あまり悠長にもしていられなかった
    「ーーーむ?」
    だが、その屍神ゴルゴーンは唐突にその動きを停める。そして急に苦しむ様に悍ましい声をあげ出した
    「A、AAAーーーAAAAAAAAAAAAAA!」
    限界まで上体を仰け反らせ、絶叫する屍神。その様子は明らかに普通では無く、今までにはなかった変化だ
    その変化の意味する所はーーー

  • 143二次元好きの匿名さん23/09/02(土) 15:07:32

    キャスター陣営の執念がすげえ
    これはキュケオーン落しといて正解だな

  • 144千界樹の記録23/09/02(土) 21:08:50

    「マスター、やったか」
    此方のマスターが、あちらのマスターを斃した、という事の証明だった
    「ふむ、彼奴のマスターを討った様だな」
    アーチャーも発生した事象を理解して弓を下ろした
    如何に規格外の怪物であろうとも、サーヴァントの形をギリギリ成していたのなら、その霊核、ゴルゴーンの魂を現世に繋ぎ止めるのはそのらマスターなのだ。マスターとの契約を切る、若しくはマスターが居なくなればいずれ、現世に繋ぐ楔を失い何時迄も現界する事はできない
    その証拠に、自身の身体はその体表面からゆっくりと崩れ始めていた。更に僅かにだが、あの屍神の身体から、僅かに魂がブレ始めてきているのを、セイバーの叡智の結晶は見逃さない
    こうなったら後は、身体がボロボロに崩れ去り、そのままゴルゴーンの魂は元の場所に戻るだろう
    この戦いの勝利は殆ど決まったと言っていい。2騎は油断はせずとも、戦いの終結の未来を見てふう、と息を吐いたその時ーーー
    「ーーーこれは」
    膨大な魔力が塊となって屍神へと流れ込む。その魔力の形はセイバーもアーチャーも覚えのあるものだった
    「令呪かーーー!」
    セイバーはまだ終わっていない、と魔剣を構え直す。すぐにアーチャーも一跳びで屍神から数十メートル程の距離を取り弓に矢を番えた
    膨大な魔力を得て、屍神が唸りを上げる。しかし、令呪によるバックアップがあったにしてはその身体には特に変化は見受けられない。あれ程の魔力があれば一時的には元々の性能を取り戻せるはずだろうが、それをしない。何処か屍神を構成する屍肉は徐々に崩壊の速度を上げている
    で、有るならば、いったい流れ込んだ魔力は何処へ行ったのかーーーセイバーは即座に看破した
    「もう一度あの「眼」を使うつもりか!?」
    セイバーの言葉の通り、屍神に与えられた魔力は全て奴の頭部に集約されて行っていた。集約される魔力は先程と同じか、それ以上ーーー明らかに、自身の崩壊を厭わない程の出力になりつつあった
    その証拠に、奴の頭部には収束された魔力の余剰分がまるで魔法陣のように広がっていく
    確実にサーヴァント2騎を討つには過剰なほどの魔力が屍神の眼に装填されているのだ
    その直後、セイバーは遠くから己のマスターで有る凌我から下命が降ったのを感じ取った
    ーーーあの怪物を滅ぼせ、と

  • 145二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 08:48:01

  • 146千界樹の記録23/09/03(日) 08:55:43

    今度はセイバーに令呪による膨大な魔力と、それに伴う命令権が行使されたのを感じる
    セイバーの中に宝具を使え、奴を滅ぼせーーーと、強制力のある感覚が満たす
    本来、Aランクの対魔力を有するセイバーであれば、例え令呪の命令だろうと反抗し、拒絶することも可能だった
    だが、セイバーはその命令を進んで受け入れる
    この状況で、そもそもマスターの指示に逆らうと言う選択肢自体存在しないがそれと同時にマスターの命令に同調し、協力する事で令呪の力はより良い方向へ効果を発揮するからだ
    宝具で奴の頭部ーーー否、一撃で霊基事半身を吹き飛ばす。あれ程の魔力が溜まっているのだ下手に体や霊基を残して自爆などされては元の木阿弥だ
    幸い、マスターとの繋がりが無くなったことで霊核の隠蔽効果も消失、その芯を克明に捕捉できていた
    この一撃で、真実決着を付ける。セイバーは地面を、強く踏み締め屍神に対し半身の姿勢をとる
    「魔剣限定解除!」
    セイバーは此処に来て、召喚されてから自身に課してきた魔剣の限定を解き放った
    「破滅の黎明」その力は凄まじい。元来王を選定する剣だった物をシグルドの手により鍛え直され、太陽の魔剣として生まれ変わった経緯を持つがーーーその力はまさに太陽と呼ぶに相応しく、この様な市街地でその力を行使するには周囲へ及ぶ被害が甚大になるであろう事をあらかじめ予測し、出力限界を設けていた。例え霊基に負荷を掛けるほどの力を発揮させても、それは本当のグラムの力では無かった
    その辺りは事前にマスターにも伝えて了承を得ていた
    その力を此処で解放する。その状態で宝具を発動すればこの自然公園自体が焼失しかねないが、屍神が解き放とうとしている魔力、あれが暴走すれば魔力同士が食い合い、対消滅を起こして結果的に被害は抑えられるだろう
    太陽の魔剣、その真紅の刃が碧く染まって行く。そしてその周囲に徐々に魔力が集まり、形を成してゆく
    その刀身は水晶の様な透明さと輝きを持ち、碧い刃は今までの刀身の上からその輝きを形造っている。極めてシンプルな形状だった全体像が、刀身と同じ碧い刃刀身から柄を覆う様にハンドガードを形成した
    透き通る碧い輝きは、刀身から漏出している灼熱の魔力。その一端が全て燃やし尽くさんと煌々と揺らめいている
    これが魔剣グラムの、本当の姿
    破滅の黎明ーーー大神の炎を一閃の元に切り裂いた厄災を呼び起こすモノである

  • 147二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 18:27:55

    え、グラムはまだ底が見えてないんですか?

  • 148千界樹の記録23/09/03(日) 21:23:44

    限定解除された魔剣は、今までに無い程の魔力を引き摺り出されていく。渦巻く灼熱の奔流を伴い、プロミネンスが如き魔力が青い炎の様に渦を巻く。魔力の渦は大気をも飲み込み熱風となってセイバーを中心に極小規模のハリケーンを引き起こす灼熱の旋風はセイバーの立つ大地をも赫く染め上げていき、莫大な熱量に晒された地面はそのに熱に耐えきれず徐々に融解を始める
    「……彼奴、まだ上があるのか」
    アーチャーは屍神とセイバーの高まり続ける魔力量に呆れを、関心を通り越した感情を抱く。総量で言えば未だに屍神が勝っているがセイバーの魔力もそれを越さんという勢いで高まり続けている
    こうなればもはや自分にできる事は何も無い。あれだけの魔力量の前には小手先の攻撃など届く前に弾かれてしまうだろうし、何よりセイバーと違い此方の魔力は有限だ
    真っ先にアーチャーは宝具を使用してその後も最大戦速を維持しながらしこたま矢を連ね撃ちし続けた
    マスターの方にもかなりの普段があるはずで、これ以上の戦闘はマスターへの普段が心配だった
    ただでさえ、マスターとしてはあのセイバー、ライダーのマスターに劣っているのだ。それに加えてあの娘も先頭に参加している以上これ以上の負荷は禁物だろう
    余波に巻き込まれないよう更に距離を取り、あの化け物の射線からも外れる。怪物の目標はセイバーに固定されていた。あれだけの魔力を放つ存在が目の前にいれば然もありなん。と言った所か
    後は……
    「セイバーが間に合うか、か……」
    その点だけが、今の状況における不安要素だった
    その点はセイバーも承知していた。何せ此方も準備を可能な限り高速で行っているが令呪。切ったのが向こうが先、此方も令呪の後押しがあるとは言え、その差は明確に存在していた
    ただでさえ生半な一撃では奴を斃せる保証がなく太陽の魔剣、その真名解放をするのだ
    一撃の下にケリをつけなければならない
    例え己が竜の炉心を持つとは言えサーヴァントである以上はその性能は生前よりも下がっているマスター無しでも現界維持を可能にする程の魔力生成能力も本格的な戦闘に入れば不安が生じるし、まして宝具の発動にはマスターからの供給は必要だが、今回は相当な長期戦に及び消耗戦の様相を呈し、マスターの消耗も激しい
    故にこの一撃で勝負をつけなければならないが、その前に立ち塞がるのは奴のあの眼だ

  • 149二次元好きの匿名さん23/09/03(日) 22:15:23

    >>147

    多分敢えてのスレ画なので今までグラムも第一の状態だからね

    地の文でも度々紅い魔剣って出てきてたし……

  • 150二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 00:41:53

    やっぱおかしいよシグルドさん、一流の魔術師がマスターになるとここまで無法になるんかい

  • 151二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 00:47:13

    >>149

    気にしてなかったけどつまり今までの無法は全て抑制された上で行われてたのか……

    この馬鹿スペックサーヴァント!!(褒め言葉).

  • 152千界樹の記録23/09/04(月) 07:53:08

    恐らくランクA以上の対軍宝具に相当するであろうその力の前にはセイバーの宝具も多少なりとも破壊力が減衰してしまい、結果として仕留めきれない可能性もある
    そんな状態で自爆でもされよう物なら全てが水泡に帰すだろう
    「AAAAAAAAAーーー」
    魂まで凍りつきそうな悍ましい声をらあげながらゆっくりとセイバーに狙いを定める屍神の顔を中心にその眼前に展開される魔法陣の輝きが増して行き、今にも解放されそうな程に魔力が迸っている。セイバーもまた、宝具の展開準備を進めて行くが、今回は魔剣の限定解除を行なった為、あまりある魔力を引き摺り出し、制御するために今までより多少なりとも時間が必要だったが、間も無く解放出来るだろう
    シグルドは自身の培った戦闘経験、叡智の結晶による情報量から無類の戦術眼を備えている。その上で彼は悟った
    ーーー間に合わないか!?
    セイバーと屍神の宝具発動のタイミング、時間が掛かったのは当然屍神の方で、短い時間で発動を可能にしたセイバーとは雲泥の差があるのだが発動の為に作られた令呪発動の時間差。その差が、決定的な差となってこの状況を生み出した
    発動準備に入ったタイミングが遅れた分、その差は明確なアドバンテージとなってこのタイミングで結実する
    予想される宝具発動のタイミング、そのズレは僅か、一秒に満たないレベルの誤差であるが、それでも戦場においては致命的なものとなる
    「AAAAAAAAAAーーー!!」
    屍神の眼を起点に収束された魔力が光天を生み出す。セイバーもまた魔剣の発射体制に入るが、やはりタッチの差で向こうが速い。
    宝具の発動そのものは間に合うだろう。だが、宝具同士のぶつかり合いで威力が相殺されれば斃し切れる保証はない。万が一奴を斃せなければ、その直後に待っているのは霊核となる魂の乖離により起きるだろう魔力暴走による自爆
    ゴルゴーンの魂自体が屍肉との結合に耐えきれず拒絶反応により暴走して破裂した場合、この周囲一帯が吹き飛ぶだろう
    「ーーーAAAAAAAAA!」
    「ぬう!」
    やはり、間に合わないーーー
    此処は無理を通してでも発動するか、そう決断した

    ーーー虚空より、流星が流れる

  • 153二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 19:13:32


    >>151

    今まで散々囲まれて袋叩きの目にあって尚生き残ってるのは伊達じゃない

    周りもかなりの強者揃いだったのに…

  • 154千界樹の記録23/09/04(月) 22:00:05

    それは一瞬の出来事
    夜の空、その彼方から飛来する金色の光。それは流れ星の様に一直線に輝翔する
    その輝きの放つ魔力はセイバーと屍神の放つそれと比べればだいぶだいぶ小さいが、それでもAランク相当の量を凝縮した箒星である
    その輝きがセイバーの頭上を通り過ぎ、気付いた時には既に、屍神の頭部を粉砕していた
    「「!!」」
    あまりにも唐突で、一瞬の出来事であった為にセイバー、アーチャーの両名はその瞬間を見ていることしかできなかった
    屍神の周囲、特にその頭部周りは屍神が収束させた魔力の余剰分が障壁の様に屍神を守っており、Aランク級の攻撃、アーチャーの全力の矢でも弾かれるだろう力を感じていた
    それをいとも簡単に、まるで薄紙の様に突き破りその頭部へと直撃し強烈な魔力爆発を引き起こす。あの一撃の前には屍神の頭など簡単に吹き飛んだことだろう。奴の魔力放出は此方の意図せぬ形で防がれた
    今の一撃は一体なんなのか、何物の仕業なのかーーー疑問は尽きないが、それら全てを捨ておこう。瞬間に勝る優先事項は存在しない
    セイバーは大きく、赫く誘拐する地面を抉り込むほどに強く踏み込む
    「『壊劫の天輪!!』」
    碧き太陽が、解き放たれるーーー

    ーーー高級ホテル、屋上
    心地よい風が建物へと吹き付ける。夜空の下に1人佇む男。吹き抜ける風が男が纏っている黒のマントを揺らし、咥えた煙草から紫炎を燻らせながら、その眼は一方を見つめていた
    それなりに距離があるが、此処からならば自然公園を一望できる。当然、そこで戦うサーヴァントやそのマスター、特に巨体を誇るあの化け物は遮蔽物が木々くらいしか無いのでとてもよく見えるのだった
    この男は、彼らの戦いを、その初めから此処で見物していたのだ
    男の視線には、屍神へと真っ直ぐに飛翔する黄金の箒星が見えていた
    星の正体一本の槍。彼が有する武器の一つであり、後の世には絶世の名剣とさえ呼ばれる様になる程の逸品である
    間も無くして、その槍は凄まじい魔力を放っている怪物へと直撃する。何やら障壁を張っていた様子だったが、その様なものはあの槍の前には無力に等しい。槍は狙い過たず、男の目論見通りに怪物の頭を粉砕した
    『どうかな?ランサー』
    屍神の頭を一投の元に粉砕した男ーーーランサーは煙草を揺らしながら、笑って応える
    「完璧っスよ?これでこっちの勝ちでしょ」
    『重畳重畳。これで運営からの依頼は達成だ』

  • 155千界樹の記録23/09/05(火) 08:25:10

    マスターからの念話を受け、ランサーは改めて、己のマスターの狡猾さに関心を覚えた
    何せ、此方はただ宝具を一発撃っただけなのだから
    恐らくこの戦いに参加している残りの3騎ーーーセイバー、アーチャー、ライダーは例え令呪を獲得出来たとしても相応の消耗を強いられることは間違い無く、此方は逆に本当に最低限の宝具発動の魔力だけで、彼の目論見通りならばそれでお終い
    本当にたったそれだけで褒賞の令呪一画が手に入るのだ。例え手に入らずとも消耗は殆どせず、万全に近い状態を維持できる
    まさにどう転んでも一人勝ちに近い。この絵図を描いた初老の男は、それこそ一度教会に赴いただけでそれ以外は自分の工房から一歩も外に出てはいなかった
    「でも、この何で本当に大丈夫なんですかい?」
    ポリポリと頭を掻くランサーに対して、乾いた、それでいて調子の良い笑いが届いた
    『「最高のタイミングで最低の横槍を入れる」ーーーあの怪物の撃破に貢献したのだから、十分彼らに協力したという体は取れているとも』
    「いやはや……ま、オジサンも楽が出来ればそれに越したことはないけどね」
    そう言いながら、自然公園を覆い尽くす様な灼熱の奔流と魔力爆光に、ランサーは眩しそうに目を細めたーーー

    解放された魔剣は、屍神の肉体からブレ始め、浮き彫りになり出したゴルゴーンの霊魂諸共屍肉の塊に突き立てられた
    瞬間、広がる碧い炎の如き圧縮された魔力の渦は解き放たれる寸前で制御を失った屍神の魔力を飲み込んで肥大化する
    セイバー達を消し去らんと収束された魔力は屍神の眼と言う砲塔を失い、指向性を無くして暴走する筈だったが、それを神業に等しいタイミングで解放されたセイバーの宝具によって、その寸前で逆に碧い太陽に飲み込まれていった
    屍神の持つ魔力が宝具の魔力に加えられたことでその破壊力は飛躍的に上昇、破壊の規模こそセイバーによってコントロールされている為、広がる心配はないがその分密度が高まり、爆心にいる怪物を構成する屍肉は文字通り蒸発して行くのみだ

  • 156二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 15:22:30

    ランサーのマスターの狡猾さが光る
    他の陣営が必死こいて戦ってるところに一発だけ勝利へのアシスト入れるだけで令呪獲得とか

  • 157二次元好きの匿名さん23/09/05(火) 22:37:58

    ほす

  • 158千界樹の記録23/09/05(火) 22:47:58

    碧い太陽は消え、残されたものは溶岩の様に固まった巨大なクレーターだけであった
    本来の破壊力だけでなく、制御を失った屍神の魔力をも飲み込んだ結果の、この何も残らない程の大破壊だったのだろう。黒い焦土となったクレーターの跡には何も無く、屍神ゴルゴーンは、その存在自体初めからなかったかの様に姿を無くしてしまった
    これが太陽の魔剣グラム。その真価であった
    だが、その代償もまた大きくーーー
    「っっぐぬ……」
    セイバーは小さく苦悶の声を漏らす。嘗てキャスターに対して使用した宝具の臨界発動、それをも超えるほどの負荷がセイバーの霊基を軋ませる。外面は何もなくとも、その中身はミキサーにかけられた様にぐちゃぐちゃであった
    幾ら屍神を倒す為だったとは言え、これ程のダメージはセイバーのとっても大きく、それこそルーンを用いても一朝一夕とはいかないだろう
    サーヴァントとして許された企画を上回る宝具の発動、威力だけで言えばそれこそAランクの防御宝具ですらもう破壊しかねないものであった
    しかし、セイバーは全身をら駆け抜け続ける激痛を気合いで耐える。此処でアーチャーに「今なら勝てる」と言う確信を与えるわけにはいかなかったからだ
    アーチャーは狩人。英霊であっても自信や騎士とは違い、弱った獲物を仕留めるのに躊躇はしない。いい意味で彼女に騎士道精神などは無いのだから
    「ーーー終わった様だね」
    セイバーとアーチャーの近く、何も無いところから霊体かを解除してライダーが姿を現す。だが、外面は取り繕えても、その中身はセイバーほどで無いにせよ未だ深いダメージが抜けきれていない。此処での戦闘は出来ないだろう
    「うむ。見事な一撃であったぞ、セイバー」
    「無論、我操るは太陽の魔剣。故にこの結果は疑うべくも無い」
    アーチャーからの賛辞をセイバーは自身と誇りを持って受け取る。余計な謙遜は彼とほ無縁のものであるのだ
    遠くから聞こえてくる足音。どうやらマスター達が此方へ歩いてきたらしい。今回の戦いは、自分達サーヴァントだけでなく、そのマスター達も命を賭けた
    であれば、お互いの無事を祝い、またその戦いを賞賛し合うのは当然のことである。少なくとも、その考えを否定するものはこの場には誰もいない

  • 159千界樹の記録23/09/06(水) 08:14:59

    マスター達と合流して、互いの無事を確認する
    「セイバー!やったな」
    「無論。マスターも無事で何よりだ」
    「アーチャー!怪我はない!?」
    「マスターの方こそ」
    「あらライダー?殊勲賞は貴方のものかしら?」
    「よしてくれマスター。私は私に出来ることをしたまでで、それでも最後までは戦い無かった不甲斐無い男さ」
    お互いを労い、賞賛するのも程々に
    今夜は全員が限界まで体を酷使した。早いところ休まなければそれこそ戦いどころではなくなるのだが、その前に向かう場所がある
    教会へーーー報告と報奨の受け取りは手早く済ませるべきだろう
    皆で教会へ向かう。中立地帯の教会内にサーヴァントは入れない為、外で待機してて貰い、凌我達は中へ入っていく。照明はついておらず、代わりに蝋燭が暗い教会内を室内がかろうじて見れる程度に照らしている
    そんな協会には、あの神父とこの聖杯戦争の主催である魔術師、イザーク
    そしてもう1人、どうやらすでに先客がいたらしい。モーティマー・O・ブライエン。奴は俺達よりも早く此処へ来て、すでに委託令呪を受け取った様だ
    「何で此処に来てるんですか?」
    そこへ真っ先に噛み付いたのがマルグリットだった
    まあ当然か。事実として戦闘に参加していたのはランサー陣営以外の3人だ。それが何故か参加していないはずのモーティマーが真っ先に貰っている。一見すると明らかにおかしいし不公平に映るだろう。その指摘にカカカッ、とその言葉を待っていましたと言わんばかりに乾いた雰囲気の笑い声をもらした
    「いやなに、私達の援護がなければ、セイバー達は全滅していた様だからの?影ながら援護をしていたと言うことだ」
    「な……!?」
    やはりか。凌我はその言葉で全てを理解した。セイバーが宝具の人命解放をする直前、街の方から流星の様なものが飛んでいくのを見たが、あればランサーの宝具なのだろう。その一撃であの屍神の攻撃を一手遅らせられたから、セイバーの宝具が間に合ったのなら、確かにそれは勝利へ繋ぐ一手であり、援護ーーーつまり協力と言えるだろう
    「あの怪異の消滅は霊基板で、確認している。此処にいる全員がこの解決に協力したとして、褒賞は全員に与えるべきだと我々は判断した」
    「だからって……」
    「よせマルグリット」
    言峰神父の言葉に未だ納得のいかない様子のマルグリットだったが、此処は堪えてもおう。さっさと貰うもの貰って帰るに限る

  • 160二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 15:24:31

    汚ねえな魔術師流石汚い

  • 161二次元好きの匿名さん23/09/06(水) 21:27:21

    老獪魔術師好き〜〜〜!!

  • 162千界樹の記録23/09/06(水) 21:55:53

    「でも!」
    「此処までの展開をあのお爺ちゃんは描いたのよ。悔しいけど一本取られたわね」
    まだ食い下がろうとしたマルグリットだったが、流石にルーナにもやんわりと止められて、納得はしていないだろうがひとまず此処は引き下がった様だ
    「年の功という奴だよ。ザックス君」
    モーティマーは柔和な笑顔を浮かべたまま、ゆったりとした足取りでその場を立ち去る。その様子を、同盟など知らんと言いたいほどに、マルグリットは射殺さんとばかりに睨み続けていた
    あの男、モーティマー・O・ブライエンの手腕は鮮やかなものだ。彼らが行ったのはたったの一つ、最高のタイミングで最低の横槍を刺し込むこと
    確かにあの攻撃が無ければ、セイバーは間に合わなかった可能性が高かった。その点を考えれば連中の行動はなくてはならないもので、あの怪物を倒すと言う点においては、文句のつけようのない貢献度だった。恐らく、あわよくばあの一撃で屍神を撃破して褒賞を独り占めーーーなんて事も視野に入れていただろうが、そこまで上手くことが運ばずとも最小の労力で最大の成果を挙げてみせたのは事実
    だからこそ、マルグリットは憤り、ルーナも表情には出さないが腑が煮え繰り返る様な気持ちだろう
    「……あのジジイに関しては理解した。なら早いところ俺たちにも褒賞を渡してくれないか?」
    初老の魔術師がいなくなったところで、改めて主催者側に向き直り要求を告げる凌我。冷静にマルグリットを諭した彼だったが、それはそれで当然怒りの根性が無いわけではないのだ
    「無論だとも。君たちは他ならぬ最前線で戦ったのだから」
    神父は鉄面皮を崩さぬまま、それでいて微かに笑みを浮かべて対応する。その様子はまるで、凌我達の悔しがる様を愉しんでいるかのようだった
    3人にそれぞれ転写される令呪。凌我はこれで2画、マルグリットは3画、これまで令呪を切らないでいたルーナは4画と、全員に行き渡る
    剣から生え渡る黄金樹の枝葉。その片割れが戻った様を見つめ、頷く凌我。一画分が戻ったとは言え、現状令呪の数で言えば最も消耗が激しいのが彼らセイバー陣営だ
    この戦いが終わり、教会を出た瞬間から対屍神の、共同戦線は解消し3つの陣営が脱落したとは言え、3対1の構図に戻るのだ。そうなれば令呪の消耗度も最も高い此方が劣勢になるのは明白だ

  • 163千界樹の記録23/09/07(木) 08:13:24

    これまでの戦いから、彼はこの聖杯戦争において、最強のサーヴァントは自身が召喚したセイバー、シグルドであると確信を持っている。例え3対1になろうともセイバーは渡り合えることだろう
    問題はマスターである自分自身だ。今後周りはセイバーを斃すよりもマスターを狙う方向性でくるだろう。拠点に籠ってセイバーに全てを任せるのが最も確実な戦法だが、そんな戦いでは例え勝利してもユグドミレニアの栄誉は取り戻せない。誰に憚ることなく勝利を宣ずることができて、初めて勝利と言える
    ならば、今後己が取るべき方向はーーー
    「どうしたの?怖い顔をして」
    肩にポン、と手を置かれる。後ろを振り向くとーーー
    「ーーーむぐっ」
    「アハハ。「むぐっ」だって」
    肩を叩いた手から指を一本伸ばした、古典的なイタズラをかましてきたルーナがいた
    「……お前な」
    「そんなに悩んでばかりだと老けるわよ?」
    じゃ、またねと、ルーナは教会を後にする。流石に教会関係者でも聖杯戦沿いに参加してる以上は此処を大っぴらに使うわけにはいかないのだろう
    そんな彼女の後ろ姿を複雑な視線で見つめていたマルグリットはやがて此方に向き直る。その眼には普段よりも3割増しで対抗心を、むき出しにした光を放っている
    「……私も、負けないから」
    そう言い残して早足気味に教会を立ち去る。1人残された凌我はハア……と深い溜息をついた
    「魔術師らしからぬモテ様だな」
    やり取りの一部始終を見ていたであろう言峰神父が、どこか愉快げな言葉を投げかけられた
    「うるせえよ」
    「魔術師同士はさておき、ルーナ君迄君に懐いているのは、はてさてどう言った風の吹き回しなのだろうね」
    「さあな」
    確かに、聖堂教会と時計塔は敵対関係にある。それを抜きにしても魔術師と代行者は相容れないもの達が非常に多い。代行者の中でも穏健で知られていた人物も「魔術師は須く煉獄に魂を焼かれるべき」と言葉を残している程だ
    俺もそうだ。初対面時はサックリと殺されかけた生き残れたのは奇跡だったと言っても良い。尤も、その時に追っていた目標はまんまと奪い取られたのだが

  • 164二次元好きの匿名さん23/09/07(木) 19:40:15

  • 165千界樹の記録23/09/07(木) 22:47:28

    こっちのホームベースと言うのに、ああまで好き放題されて死にかけた。正直、あの女だけは敵に回したくはないが……そうも言ってられないか
    「一夫多妻は君の出身国では認められていないはずだが。そのあたりはどう考えているのかな?」
    「ほっとけ」
    今の俺にそんな余裕はねえよ、と返すと神父はどこが琴線に触れたのか、珍しく表情を崩しくっくっと笑っている。あからさまに人の状況を見て愉悦を感じている様に思わず魔術回路を励起させたくなる
    此処が中立の非戦区域でなければぶっ飛ばしてやるところだが、我慢我慢……っ
    「ーーーでは、此処は神に仕えるものらしく、一つ説教をしておこうかな?」
    と、言峰神父はついさっきまでの愉しそうな、いかにもワインが美味しいと言いたげな様子から一転、酷く鎮痛な表情を浮かべる。その表情は、紛れも無く迷い人を導く、神の信徒のそれであった
    「君がもし彼女達を一度でも助けたことがあるのなら、殺さない事だ。特に……」
    神父は遠くを見つめる様な、苦々しい過去を想起させる表情で語る。それはまるで、自分が経験した事の様でーーー
    「目の前で死なれるのは、中々に堪えるぞ」
    心臓を貫く様な言の葉は、心の底へまるで澱の様に深く沈んでいくのを感じた
    脳裏を覆う砂嵐。まるで古いテレビの様な雑音と映像が流れ、かつての光景ができの悪いフィルム映像の様に過去の記憶を映し出す
    月の映えた雪の夜
    血の海
    冷たい軀
    零れ落ちる涙と言葉
    ああーーー
    「ーーーあんた、人の傷を開くのが得意だろ?」
    「ほう、何故分かった?」
    「わからいでか」
    過ぎ去った過去を振り切る様に映像を遮断し、教会を立ち去る
    俺は、勝たなければならない

  • 166千界樹の記録23/09/08(金) 10:09:29

     教会を出て拠点へと戻る道すがら、霊体化して側を歩くセイバーから声が掛かる
    『マスター。一つ良いだろうか』
    『どうした?改まって』
    『今後の方針について話しておきたいと思ったが、マスターはどうするつもりなのだろうか』
    今後の方針、再開される聖杯戦争での俺の戦う方針か
    そんなものは言われるまでも無く決まっている
    『当然、最後まで勝ちに行くさ』
    『ならば、あの2人と剣を交えるのは覚悟の上と?』
    『くだらない質問だなセイバー』
    そう、そんな物は百も承知。別に共闘した相手と戦うなんて、魔術世界ならよくある事だ
    騙し騙されの権謀術数渦巻く時計塔の中と違って、敵味方がはっきり分かれるこの状況の方がやり易いとさえ思えてならない
    『アイツらだって、最悪死ぬ覚悟はしてきている。殺すつもりは毛頭無いが、これは戦争だからな』
    いざと言う瞬間、躊躇うつもりはない。今後、この戦争はより難しくなるだろう。向こうは俺達をどうしても囲んで殴るつもりだ。全員が理解している。セイバーにはそうしなければ勝てないと言うことくらいは分かりきっているはず。此方はどう動くべきか、考えなければ
    『……承知した』
    何処か、苦笑する様な溜息を孕んだ声と言葉を最後にセイバーは口を閉じた
    まあ、俺がアイツら相手でも戦えるかを聞きたかっただけだろう。特に気にするほどでもないか
    拠点へ戻り、ふう、と一息ついて漸く一区切りがついた実感が湧いてきた。ここ二日で、状況が目まぐるしく変わり、気が付いたらあんなでかい化け物相手に大立ち回り
    そして、今回も尾を掴めなかったと言う事実
    何処かにいるはずなんだ。死徒を人為的に生み出す魔術。それをばら撒いている何者かが存在し、その魔術によりあの悲劇が起きた
    だが、前回も今回もその術式を目の当たりにしてその正体を辿る糸すらも掴めていない
    「……!」
    今は、聖杯戦争に集中しなければならない。まずはここで勝たなければならないとお野良に強く言い聞かせる様に繰り返す
    漸く落ち着いた頃、急に視界が暗くなった
    ーーーああ、もうダメか
    ふと、頭の片隅にそんな思考が通り抜けていく
    とりあえず、これだけは言わなければならないと、ふらつく足取りと淀む思考回路でソファーに向かいながら、セイバーに何とか指示を出す
    「暫く……護衛、を……たの、む……」
    そういえば俺今二徹目だったなと思いながら、そこで意識が途絶した

  • 167二次元好きの匿名さん23/09/08(金) 21:29:56

    保守

  • 168二次元好きの匿名さん23/09/08(金) 22:00:19

    この神父、いい空気を吸ってやがる!

  • 169二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 08:34:44

    保守

  • 170千界樹の記録23/09/09(土) 09:14:07

    幕間
    マルグリットは今日使う拠点を探して街中を歩いている。今まで使っていた自然公園のキャンプ場は昨夜の戦闘の影響で当局の立ち入りのために暫くは使えなくなってしまい、何処かホテルか何か空いていないかと探しているのだ
    のだが……
    『これで3件連続でダメだったなマスター』
    「言わないで……」
    良さそうなホテルを片端からあたっているものの現在全敗。みんな予約が埋まってしまっていた
    こんな時くらい予約キャンセルとかないの!?と、嘆いても始まらないのだが、そう思わずにはいられなかった。体の汚れは魔術でどうとでも出来るが、気分的にはいい加減シャワーの一つでも浴びたいところだ
    「先輩の故郷はセントウってものがあるらしいけど、ここにも欲しいな……」
    等と考えていたら、後ろから声が掛かる
    「ヤッホー⭐︎マリィちゃん?」
    「……うげ」
    聞き覚えのある、しかしなるべくなら聞きたくない女の声。後ろを振り向くとそこには案の定ーーー
    「困ってるみたいじゃない?オネーさん力になるわよ?」
    ライダーのマスター。あの代行者が立っていた
    「……力って、なんですか?」
    警戒しつつ尋ねる。何時でも降霊術を使える様に準備だけはしながら注意深く観察するが、目の前の女性は気にする風でも無く笑っている
    「マリィちゃん、てば拠点を固定してないからさ、今日の宿に困ってるんじゃないかなー
    ってね?」
    「……」
    『マスター、私は何時でも仕掛けられるが』
    『いいよ。今は非戦期間。いくらなんでも人通りのある此処で仕掛けてくる程愚かじゃない筈』
    アーチャーと念話でやり取りしながら、如何に答えたものか考える。馬鹿正直に答えるのがなんと無く癪だったからだ
    「だったら何なんですか?」
    「取り敢えず、当面の宿ならお世話できるわよ?」
    と、ニッコニコの笑顔で直球な提案をしてくるが、だからこそ警戒が強まった
    「何を考えてるんですか?」
    「んもう、困ってる人を助けるのは主に使える身として当然なのよ?今は同盟関係なんだしさ?」
    そ、れ、にーーー。悪戯っぽい笑顔を浮かべてあっさり、警戒をすり抜ける様に間合いを詰めてきた。気付いた時には既に、代行者は自身のすぐ隣に立っていてーーー
    「凌我君について、いろいろ話を聞きたいなーってね?」
    悪魔の様な言葉に、一瞬心臓が止まったかと思った

  • 171二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 12:28:44

    めっちゃ面白いです!応援してます!

  • 172千界樹の記録23/09/09(土) 16:32:51

    夢を見ている
    それはすぐに理解した。広がる情景があの時、あの場所の物でそれはとうに過ぎた過去の出来事。神水流家に、あの惨劇が起きる前の情景だった
    神水流宗家、日本有数の大きさと歴史をもつ魔術師であるこの家で、俺は生を受けた
    生命の輪廻、それを水と言う属性の中に見出しその探究によって根源へと向かう
    恐らく、俺達が最も魔術師らしい道を歩んでいたと思っている
    しかし、俺達は時計塔へのパイプを何も持っていなかった。だから魔術に対する見識が狭く、唯一繋がりのあった父親はその作り出した魔術と行いによって敵を作り過ぎた。時計塔のロードさえ抹殺する実力を持ったその魔術師を時計塔が恐れ、差し向けられた魔術師殺しと呼ばれた男によって抹殺されてしまったのだ
    そんな俺達が時計塔への対抗としてユグドミレニアへの誘いを受けたのはある意味当然の選択だったのだろう
    ダーニックの誘いに乗ったのは父親だったが、今ではそれで良かったのだと思う
    結果論ではあるがそれによって時計塔へのつながりを持つことができ、俺は時計塔への留学が決まったのだから
    そんな中、俺は屋敷の中庭で魔術の鍛錬を積んでいた。水を操る魔術、それをさらに先鋭化させた術式の開発が、この頃の俺の楽しみだったと言っても良かった。次々と浮かぶ魔術を、成立させ改良を重ねて行く日々ーーー
    それを縁側で眺めている1人の少女の姿がある
    「兄様は飽きませんね」
    透明な、澄んだ湖面の様な声。振り返るとそこに座り、今正に俺が組み上げていた魔術式を見ながらそれを模倣している着物姿の少女。俺と同じ濡羽の髪を伸ばし、瑠璃色の瞳を持つ、俺の妹ーーー
    「凪か」
    「相変わらず、兄様の発想には驚きます。何故当主の座を降りたのか、今でも不思議なくらい」
    神水流凪
    本来の神水流宗家の当主になる筈だった少女は柔らかい笑顔を浮かべて、掌に集まった霧を霧散させる
    そうだ。俺は本当なら、この家の当主になる器では無かったのだーーー

  • 173二次元好きの匿名さん23/09/09(土) 23:19:55

    こんな良質な物語が摂取できるなんて最初は思ってなかった

  • 174千界樹の記録23/09/09(土) 23:21:37

    凪は、俺を遥かに上回る魔術回路を持っていた。俺が凡そ86本の回路を持つが、凪は184本。俺の倍以上の回路を保有していた。魔術師としての才覚の差は歴然。俺が何をするでも無く、次期当主としてあいつが選ばれるのは必然だった
    分家からは小娘が引き継ぐなど神水流の伝統に反するだの何だのと喧しくされたが、凪の才能は全ての反対意見を封殺するに相応しいものがあった。結果として誰も彼女が次期当主となる事に異論を挟めなくなり、俺は家に残るとまた面倒ごとが起きかねないと、時期も良く時計塔に渡ったのだ
    あいつが当主になれば、家は安泰。丁度俺たちと同じ程度の歴史を持つ御神火の倅とも仲が良かった。あいつと俺は親友と言っても差し支えない間柄だったから、凪を任せるのも安心して頼むことが出来た
    だから、俺の居場所はもう此処には必要ない
    そう思い、時計塔へと俺は旅だったのだーーー
    「……チッ」
    不愉快な夢から意識が浮上する。過ぎた過去の出来事を今更思い出すなど、愉しいものではない
    窓から外を見ると、もう日が暮れていた。時間は……20:00を少し回ったところか
    「マスター、目覚めたか」
    部屋の前で待機してくれていたらしいセイバーが霊体化を解除して俺の前に立つ。その手には軽食なのか、その手にはトレーがありサンドウィッチとコーヒーが置かれていた
    「半日以上寝たきりだったのだ。軽いものでも食べたほうがいいだろう」
    「助かる。少し腹も減っていた所だ」
    有り難く頂戴しよう。サンドウィッチは3つあり、それぞれ卵サンド、レタスハムサンド、フルーツサンドと中々に洒落た内容だった。確かに材料は全てこの拠点においていたが……
    「これ、セイバーが作ったのか?」
    「肯定。当方も生前は自身の食事を作ることは多く、我が愛ブリュンヒルデともよく食事を共にしていた物だ」
    本当に何もありかこの大英雄。そう思いながらサンドウィッチを食べる。卵サンドを食べ、コーヒーを一口啜る。朝に食べれたら最高なメニューだったが、それはそれ
    「セイバー。今後の方針だが」
    サンドウィッチを食べているこちらを興味深そうに観察していたセイバーだが、俺の言葉を聞いた瞬間、僅かに眼を鋭くさせる
    「今夜、ランサー陣営を叩く」
    あの狡猾な男がこれ以上何かをする前に、叩き潰さなければならない

  • 175二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 11:18:46

  • 176千界樹の記録23/09/10(日) 11:24:18

    ランサーのマスター。モーティマーの拠点は高級ホテルを数フロア貸し切って構築された要害であった
    自身が本格的に構築した魔術工房を挟む形で上下のフロアも貸切にし、番犬を放つ事でフロアごと爆破される可能性を潰し、拠点そのものも強固に構築されている。外面からでは分かりづらいが、構造自体に植物の根を張り巡らせて単純な強度も上昇させており、凡そ外部からの攻撃にも堅固な防御力を備えていることは明白だった
    一時期、敵マスターの拠点ごと爆破すると言った戦法が流行ったこともありその手の対抗手段は抜かりなし、かと言った所
    「魔術師同士なら、あれに挑むのは正直命が幾らあっても足りないな」
    奴の拠点であるホテルを観察して、構造解析を行なった結果、予想通り……いや、それ以上の要塞となっていた
    ホテルのフロントを簡単に暗示をかけて通してもらう。本来なら、あれを攻略するには相当な事前準備が必要だが、今回は何とかなるだろう
    目的のフロアへ到着し、踏み入れると、此処からでも感じられる魔力。周到な罠があると見て間違いないが、そんなものはーーー
    「よろしくな、セイバー」
    「承知」
    セイバーの対魔力の前には、何の効果も上げることは出来ない。何重にも重ねられた魔力障壁をいとも簡単に切り裂くセイバーの魔剣
    「おっ邪魔ー」
    セイバーを前衛にして堂々と侵入。その直後にでかい食虫植物が襲いかかって来るが、そんなものはセイバーの前には意味は無い
    『いやはや、こうも堂々と襲ってくるとはな』
    フロア内を反響するように聞こえてくるのはモーティマーの声。音響魔術でフロア全体に響かせているのだろう
    「時計塔の論文発表以来だったなモーティマー教授」
    『カカッ、よもや正面から攻略しに来るとはなあ。私が何処にいるのか、一つ一つ探ってみるがいい』
    そう言うや否や、大量の巨大食虫植物と怨霊の群れが押し寄せてくる
    「『河川』『流れ清めよ』」
    神事に用いられる塩を溶かした水を振り撒く。この水は術式の触媒となり、青白い光を放つ。光に触れた怨霊は浄化されていき、さらに塩水をかけられた植物もまた変調をきたす
    「浸透圧だ。絞り上げろ」
    塩分を急速に内部へ浸透させ、術式を起動。中の水分を文字通り搾り上げ、植物達はあっという間にミイラのように萎れていく
    さて、このフロアの部屋は残り3つ。スイートルームだったのが災いしたな。すぐに掘り当ててやるよ

  • 177二次元好きの匿名さん23/09/10(日) 14:28:33

    あの2人が動く前に速攻で厄介なランサーを潰しに行ったか
    でもマスターも中々厄介そうだけどどうなるかな

  • 178千界樹の記録23/09/10(日) 22:59:58

    「さて……」
    モーティマーは考える
    相手はセイバー陣営。しかもマスターとサーヴァントそれぞれ単騎での吶喊行為。これを蛮勇というべきか勇猛というべきか……
    だが、サーヴァントはかの北欧最強の大英雄シグルド。彼の有する対魔力はAランクにも達する。それは事実上、現代を生きる魔術師では、彼を傷つける事ができないという事。如何にこの工房が準備に準備を重ねていたとしても出来て時間稼ぎが良いところ
    セイバー陣営は二つ目の部屋へと入り、そこにいる番犬や食虫植物と戯れているだろう。植物の蔓を利用した爆弾なども仕掛けているが、おそらくは通じまい
    「リョウガ・カミズルか……」
    そして、セイバーのマスターである魔術師もまた、厄介な敵に変わりはない
    「どうします?マスター」
    ランサーの問いかけに対して、モーティマーは「取り敢えずこのままだ」と伝える。この拠点に居る以上ランサーへの魔力供給は万全。更に言えば此処にいる限り自身の行うあらゆる魔術にもバックアップが入る
    此処にいる限り自分の能力は時計塔のロードをも凌駕するだろうという自負があった
    だが、モーティマーは亜種聖杯戦争をこれまで二度参加し、生き延びてきた猛者、決して隠したの魔術師が相手でも油断はない
    侮ったものから敗退して行くという結末を彼は幾度も目撃してきたのだから
    「ランサー。私は時計塔の中でも『色位』に位置している。7つある時計塔の階級の中では上から2番目だ」
    「はあ」
    ランサーはいきなりのモーティマーの言葉に気の抜けた返事をする。煙草を燻らせているがあまりマスターの言う時計塔のあれこれについての知識は乏しいのだ
    「対するセイバーのマスターは『祭位』、下から4番目だ。これだけを見れば彼奴は私よりも数段劣る魔術師と言える」
    「の、様ですね」
    「しかしな、『祭位』と言うものは少し特殊でな通常よりも特殊な評価を受けたものが授かる位階なのだ」
    と、言うや否やモーティマーは小瓶を取り出した。その瓶は神水流凌我が魔術に用いるあの礼装の物である
    「これが奴の作った礼装だが、これが魔術正解において小さいながらも一つの革命をもたらした」

  • 179千界樹の記録23/09/11(月) 08:08:58

    その革命とは一体?ランサーが問うと、モーティマーは瓶を弄びながら口を開く
    「元来、魔力とは一所に長期間貯蔵するのは困難な物なのだ。一応、宝石魔術と言うものがそれを可能にしているが、魔術を使う度に宝石は砕けて消えてしまう」
    宝石一つでAランク相当の魔術を使うことも可能だが、それを差し引いてもコストが見合わないとモーティマーは語る
    「だが、奴はこの瓶に詰める霊薬に魔力を一定量長期的に、かつ安定的に魔力を貯蔵する術を作り出した」
    その量は宝石よりも大分少なくなるが、その分遥かに安価に作成が可能。しかも発動する瞬間のみ、自身の魔力で火付をしてやる必要があるが、それさえらやって仕舞えば組み上げた術式に沿って貯蔵された魔力が自動的に魔術を発動させる
    つまり術者と魔術との繋がりがそこで切れるのだ
    例え相手の魔術から魔力を伝って術者に害を与える魔術なり礼装なりをぶつけた所で、その効果は術者である凌我には届かない
    独立した魔術を発動させる事ができ、安易に魔力を長期保存できるタンク。それが彼の作り出した魔術礼装「霊筒」の本質
    それは時計塔に君臨するもの達にとってはとてもとても小さいものではあるが、多くの魔術師にとって衝撃を与えるには十分だった
    彼が解体されたとは言え、ユグドミレニア所属の魔術師でなければ、更に上の位階になっていてもおかしくはないくらいに
    故にこうしてギリギリまで思考する。勝利する為に何をすれば良いのか
    「……やはり、正面衝突か」
    あのセイバーを前に小細工は意味をなさない。そして水を操る魔術を駆使するあの男に対しても、通常に植物を用いた魔術では歯が立たないだろう。特に余りにもセイバーの能力が無法に過ぎたのだ
    「どうします?奴さん間も無く此処に来ますよ」
    「ふむ。直接戦闘は避けられまい。段取りは分かっているな?」
    「あいよ。オジサンも一丁張り切りますかねっと」
    頭をポリポリと掻きながら黄金の穂先を持つ槍を手にするランサー。そこへモーティマーは彼に腕を伸ばす
    「如何にお前と言えどセイバーが相手では分が悪いだろう。故に補強させてもらうぞ」
    「おっ、そいつは有難い」

  • 180二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 10:25:30

    成程施設とかならともかく個人単位で魔力貯蔵ができるっていうのは宝石魔術だけなんだっけか
    そう考えると出力はガタ落ちでもコスパは圧倒的何だな
    そりゃ革命だわ

  • 181二次元好きの匿名さん23/09/11(月) 21:25:14

    ほっしゅ

  • 182千界樹伸ばす記録23/09/11(月) 23:47:41

    伸ばされた腕、その手の甲に刻まれた3画の令呪その一つを此処で使うことにした
    この聖杯戦争における残りの参加者は後2人
    その2騎のサーヴァントもまた強敵になるだろうから令呪はなるべく温存するべきではある
    特にライダーは令呪を使わずに4画分保有している上、マスターが聖堂教会から派遣されたと思しきかの「銀狼」
    戦闘能力という観点で見ればこの聖杯戦争に参加したマスターたちの中でも最強と言って間違いないのだから尚更だ
    しかし、まずは目の前にいる最大の脅威を退けなければ何も意味はない
    モーティマーは思案に思案を重ねた上で行動するが、いざ行動を取れば果断な動きを見せる
    「令呪を以て命ずる。『セイバーを斃せ』」
    刻まれた令呪が紅く輝きを放ち、膨大な魔力がランサーへと注ぎ込まれる
    その膨大な魔力は同時にランサーへ強い強制と使命感をもたらす。そして、下された命を実行する限り、ランサーに強力な恩恵を齎すだろう
    「ーーーここまで来たんだ。オジサンも張り切って行きますかね」
    彼らの準備は、万全である

    「さあて、此処で3つ目。そろそろ辺りを引きたいところだが……」
    凌我は罠の仕掛けられた囮の部屋を2つ踏み潰して3つ目の扉の前に立つ。これまでの囮の部屋は植物の化物、怨霊死霊の番犬。果ては豆科の蔦から飛び出してくるしゅありゅう手榴弾の洗礼を浴びながらセイバーの力もあって大した消耗はしていない。
    しかし、やはりガチガチに固められた要塞のような工房の攻略は苦労する。特に植物系統の魔術は門外漢なこともあり、解析や対応にそれなりの労力を費やした
    しかし、それもこれもランサー陣営を墜とせばお釣りがくる。さっさと捉えて撃破したい所
    「セイバー、宜しく」
    「応」
    この扉も何重にも施された障壁に護られている。おれひとりならば突破するにも相当な消耗を強いられるだろう。しかし、それとサーヴァントがいれば話は変わる
    「ーーーフッ!」
    短い呼吸と共に繰り出された斬撃が、最も容易く扉ごと魔力障壁を切り裂いた
    激しい音を立てて中側に倒れる両断された扉
    さて……
    「次は何が待っているのやら」
    そう呟いて中へ踏みいつまた瞬間ーーー
    「私が待っているぞ、此処でな』
    部屋全体から、頭蓋を震わすように声が響いた

  • 183千界樹の記録23/09/12(火) 08:13:00

    モーティマーの声が聞こえた直後、床を割りながら無数の植物が2人の間を縫う様に生え出てくる。無数に伸びる深緑の蔦は太く、まるで樹木そのものと勘違いしそうになる程の強靭さを有していた
    「マスター!」
    「チィッ」
    辛うじて床から伸びる蔦に巻き込まれて圧死する様な事にはならずに済んだが既にセイバーの姿は見えず、完全に分断されてしまったらしい
    更に、植物の襲撃は未だ続いている
    凌我を呑み込む様に彼の周囲から生えてくる大小様々な蔦や草木がとうとうホテルの床を破砕した
    「ぐっーーー」
    砕け散る床。足元の崩壊を前にして彼はなす術もなく階下へと落ちていった
    「マスター!」セイバーが部屋を覆い尽くすほどに増え、伸びていく根にも似た蔦を全て切り開き、己のマスターの元へ到達した頃には、既に凌我は階下に落ちたらしく、彼のいた周囲には大穴が開いていた
    だが、その大穴も既に例の植物が塞いでしまっている
    マスターとの契約の繋がりは未だに存在しているから、死んでいない事は確実だ
    更にこの植物の蓋はセイバーにとってみれば大したものでは無い。魔術師ならば程度の差はあれ苦戦するかもしれないが、神代を生きたセイバーにとっては切り開くつもりならほんの数秒持つかどうかの代物だ
    ただし、背後の気配を無視すればの話だが
    セイバーは油断無く隙なくゆっくりと背後へ振り返る。気配の正体は自身と同じサーヴァント、さ。クラスはランサー
    金色の槍を持った気怠げな男である
    「ランサーか」
    「どーも」
    ランサーと槍を肩に担ぐ様にして変わらず疲れた様に溜息をつく。マスターの身の安全が保証できない以上このランサーは斃さずとも、手早く畳んでしまいたいところだ。だが、剣の間合いに踏み込もうにも気怠げな様相とは裏腹にランサーには隙が殆どないのである
    「オタクのマスターは、今頃うちのマスターとドンパチしているところだな」
    ランサーは告げると、さり気なくセイバーの様子を伺う。あの仮面の下でどんな表情をしているかは読めないが、少なくとも見られる動きのパターンに変化は無い
    ーーーであれば

  • 184二次元好きの匿名さん23/09/12(火) 09:47:20

    シグルドvsヘクトールかぁ
    激戦不可避

  • 185二次元好きの匿名さん23/09/12(火) 12:05:52

    ヘクトール自体アキレウス相手に防衛戦が成立する位には強いからな
    そこに令呪ブースト掛けたらもう激戦は必至よ

  • 186千界樹の記録23/09/12(火) 22:17:25

    ランサーは徐に槍を構える。セイバーは強いだけでなく、変化球に対しても揺るがない確実性を持つ。搦手での揺さぶりは通じない以上ここはやはり、正面衝突以外にはないか
    セイバーもまた重心を落とし魔剣を構える
    膠着は一瞬、互いに付け入る隙が無いことなどは百も承知。無い隙を窺うくらいならばその隙は自らの手で作るのみである
    初めの攻撃はセイバー。魔剣の影に隠した短剣による奇襲はランサーが槍の柄で受け止める。更に攻撃は止まらず魔剣を振り抜くと見せかけての蹴りを肘の装甲で受け止める。
    頑丈に造られた黒い装甲が僅かに軋みを上げるほどの威力の蹴り。真っ向から受け止めていたら令呪のサポートが無ければ吹き飛ばされていたかもしれない
    更に片足が浮いた状態のセイバーを槍を押し込む様にして姿勢を崩し槍で払う。セイバーはそれを跳躍して躱しながら、追撃をしようとした此方に短剣を2本射出する事で阻止してくる。遊びのない攻撃、短剣はどちらもランサーの急所を的確に狙わっており槍で打ち払わざるを得ず、逆にセイバーが追撃を仕掛けてくる
    「ーーーヌウンッ!」
    「チィ」
    撃だされたのは何と短剣ではなく魔剣である。僅かに魔力が漏出しているが、それだけでも相当な熱を輻射しており直撃を貰えばそれだけで霊基に甚大なダメージを受ける事は必至。躱すには速度が速く短剣を防ぐ事に意識を持って行かれたタイミングを狙い澄ましたこの一撃は、唯のサーヴァントならばこれで決着がつくであろう程のものだ
    だが、セイバーが北欧にその名を轟かせる大英雄であるならば、ランサーもまたトロイア戦争における屈指の英雄
    槍をまるで曲芸の様に器用に振り回し、灼熱を放つ魔剣を弾き返す
    並の武器ならばいくリンサーの技量と言えど武器自体を破壊されてしまい、そのままやられていたかもしれないが、ランサーの持つ槍不毀の槍。魔剣の一撃をものともせず、鉄が溶けるだろう熱に晒されても尚、赤熱することも無く無傷で太陽の剣を弾いてみせた
    ーーーが、セイバーの追撃は止まらない
    「って嘘でしょオイ!?」
    魔剣を放ったのは、どうやらそれに集中させる事で一瞬だけ視界を塞ぐことが目的だったらしい。魔剣を放った直後にセイバーは両手に短剣を握り、ランサーの死角へ入り込んでいたーーー

  • 187千界樹の記録23/09/13(水) 08:44:13

    「ーーー甘い」
    「ヘイヘイっと!!」
    ギリギリで短剣による連撃を躱し、弾き返す。ほんの一瞬でも反応が遅れていれば素っ首を叩き落とされていたであろう鋭い攻撃の数々。ランサーが護りに長けた英雄で無かったら、彼と同じ様な強大すぎる英雄を知らなければこの一連のセイバーの連続攻撃を無傷で防ぎぎることなど、出来はしなかっただろう
    槍の柄を短縮させ、剣のようにして横薙ぎに払う。セイバーはその一閃を短剣で受けながら彼の元へ戻ってくる魔剣を掴み取るその一瞬を突き距離を取るランサーだが、その額には、うっすらと冷や汗をかいてた
    「いやいや、あんたそれだけのスペックで奇襲奇策使ってくるってどうなの?」
    「貴殿の強さはこれ迄の戦いで理解しているつもりだ。故に奇策を用いてでも倒すべきと当方は認識している」
    ランサーの軽口に帰ってくるのは四面四角な返答。大英雄様は余裕も面白みもなく此方を潰しに来ている
    セイバーはランサーに付け入る隙を与えまいと再び攻撃に出る
    2本の短剣を発射。弾丸もかくやと言う速度で飛翔する短剣を槍で弾き飛ばす。そしてーーー
    「今度は上です、かっ!」
    ランサーの頭上から魔剣を振り下ろす
    だが、ランサーはそれを読み切って槍の穂先で受け止める。火花が散り、魔力の奔流が突風となって部屋の中を駆け巡る
    セイバーは膂力でそのままランサーを押し切ろうとするが、ランサーもそれを踏まえて、良く耐えている
    本来のの威力で言えばランサーといえどもセイバーの筋力には太刀打ちできない。数値で全てを語れるわけではないが、厳然たる事実として、ランサーの膂力はセイバーのそれに及ばない。にも関わらずこうしてセイバーの圧力に真っ向立ち向かえている。先程の攻防もそうだが、如何に戦上手と謳われるランサーといえども無傷で済ませるのは難しかっただろう
    「……成程、令呪か」
    「あらら、バレました?」
    ま、別に隠してた訳じゃ無いがな!と、ランサーは右腕の甲の機能を発動。肘部の装甲が分割され、ノズルの様な機関が露出する。次いで噴射される赤炎はジェットエンジンの様であった
    「!!」
    「オラァ!」
    剣と槍の鍔迫り合いの所へジェット噴射による力押し。効果は如実に現れて押し潰さんとしたセイバーを逆に吹き飛ばす。セイバーもすぐさま体勢を立て直すがそこへランサーからの追撃が迫る

  • 188二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 19:50:15

    ヘクおじもシグルドもかっこいいな………

  • 189二次元好きの匿名さん23/09/13(水) 23:00:08

    おお、シグルドと真っ向から渡り合ってる
    令呪があるとは言えヘクオジも強いんやな

  • 190千界樹の記録23/09/13(水) 23:14:46

    突き出される金色の穂先。躱そうとと思えば躱せた筈のその一刺しを、セイバーはあえて躱さず、逆に短剣で斬りかかる
    「ぬうっ」
    「チィーーー!」
    短剣と槍が擦れ合い、火花を散らす。しかし、それにより互いに狙った軌道を外れ、霊核を狙ったランサーの槍はセイバーの肩を裂き、首を狙ったセイバーの短剣はランサーの頬を斬りつけるに留まった
    互いに武器を振り抜いた状態から相手の攻撃に対応するべく、同時に後ろに跳ぶ。そして再びセイバーが先に攻撃を仕掛けた
    「確認、発動!」
    短剣を握った手で指先だけを伸ばして虚空へ刻むルーン文字
    行使されるは当然ルーン魔術
    素早く刻まれた拡散と雷のルーン。そこから放たれるのは広範囲に広がる電撃による面攻撃
    「オイオイ!」
    よもやセイバークラスのサーヴァントが魔術による直接攻撃を仕掛けてくるとは想像だにしていなかっただろう
    何せ迸る電撃の一筋一筋が神秘を帯びた高圧電流に等しい。まともに喰らえば魔術師ならば一瞬で黒焦げ、サーヴァントだろうとタダでは済まない威力を秘めている
    セイバーの狙いはこれを布石にして一気に攻め立てる事だろう。この電撃がをランサーが喰らおうとも回避しようとも対して違いはない。確実に対処のためにできた隙を突く為のものであるとランサーは一瞬で見抜く
    部屋中に広がる電撃を躱きる術はない。宝具で吹き飛ばす事はできるがどちらにせよ隙が生ずる。それを分かった上で、この面白みの欠片も無い無慈悲無情の戦術なのだ
    ランサーは槍を再び短縮させる。槍では真名解放も解放後も大きな隙を作るだろう
    ならば、槍では無く剣を抜こう
    あらゆる武具を過不足なく操る技巧こそが、ランサーの真骨頂なのだから
    「唸れーーー『不毀の極剣』!」
    真名解放と共に振り抜かれた剣は、果たして迫り来る稲光を切り裂いた

  • 191千界樹の記録23/09/14(木) 08:01:30

    霧散する電光。金色の刃の閃撃によって原初のルーンが打ち破られる。その光景に少なからずセイバーは驚いていた
    何故ならば自身の扱うルーンこそ原初のルーン。その力は戦士としての戦いに最適化されたもので、彼の最愛の女性より授かったもの
    その力は真実、大神がてずから刻み込んだそれには及ぶべくもないが、それでもルーン魔術と呼ぶものの中では最高峰の物である事は間違いない
    特にセイバー、シグルドの技量はそのままキャスタークラスとしての召喚も可能とされるレベルで習熟している
    そのセイバーが行使した魔術の一撃を、一閃の元に撃ち落とした。それはランサーの技量あってのものであるが、当然それだけで可能なほどセイバーの魔術は易しくはない
    「『不毀の極剣』……なるほど、「兜輝くヘクトール」の宝具として相応しい聖剣の一振りか」
    「お褒めに預かり光栄ってな」
    その得物の銘はドゥリンダナ。これこそは後の聖剣デュランダルーーーシャルルマーニュ伝説においてシャルルマーニュその人が天使より授けられ、ローランに渡した聖剣である
    但し、聖剣として成立したのはそのシャルルマーニュが伝説の中で、ヘクトールが所有しているのは不毀の硬さと如何なるものをも貫くと言う元来の特性のみである
    だが、それだけで英雄ヘクトールの得物としては十分すぎる
    「ーーーならば」
    魔術による攻撃は意味を成すまいと、セイバーは再び剣を握り直す。あの槍が後のデュランダルと言うなら、この魔剣こそが相応しい
    「あちゃー、さらに戦意を滾らせちゃったか……」
    ランサーは困った様に頭を掻く。だが、次の瞬間にはその目付きは今までにない程に鋭く光った。咥えていた煙草を吐き捨てて足で火消しする
    そして、彼もまた剣を槍に変えて構え直した
    「……!」
    今まで以上に隙がなく、戦士としての顔を前面に出したランサーを前に、セイバーもまた更に警戒を一つ上げる。それは、英雄の戦は此処からが本番である事を示していた
    「やろうか。俺は格上相手は嫌になる程得意でな。こいよ、大英雄ーーー年季の違いを教えてやる」
    「委細承知。当方の力はその上をいく事を知るがいい……!」
    2人の英雄が、同時に加速するーーー

  • 192二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 19:45:34

    保守

  • 193二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 19:59:35

    保守

  • 194千界樹の記録23/09/14(木) 22:30:35

    「ーーー『瀑布』『渦巻け』」
    取り出した霊筒が割れ、流れ出た霊薬から多量の水が溢れ、凌我を中心に渦を巻く。高速で回転する水の圧力により、凌我と共に落ちてきた瓦礫諸共、彼を締め殺そうと殺到した鞭のような根を纏めて削ぎ落とす
    渦が弾け、床に飛沫となって広がり消えていく。彼の視界に広がるのは、新緑の植物に覆われたホテルのフロアであった
    蔦のような、根のような太い植物が壁や天井を覆い、その侵食は立っている床にも広がっている
    明らか異常だが、このホテルの警備室ーーー下手をすれば支配人等も既にあの男の手中に収まっていると考えていいだろう
    最早この区画はあの魔術師のキルゾーンに等しい。下手な動きは死に直結する事を肌で感じた
    「さて……」
    再び懐から霊筒を取り出す。指で挟むように持った2本を放り投げた
    「爆ぜろ」
    霊筒が光り、その直後に熱波と他爆風がフロア内を駆け巡る
    爆発の規模は爆炎と爆風で攻撃する攻勢手榴弾と同程度の威力だが、閉所では衝撃は伝わりやすい
    更にーーー
    「やっぱりブービートラップ塗れか」
    霊筒の爆発に連鎖して至る所から爆発が上がっていく。植物の影にたんまりと手榴弾を隠していたに違いない。あのジジイ魔術師のの癖して現代兵器馴染みすぎだろ……
    「そろそろ出てきたらどうだ?このまま見てるだけならこっちから狙撃させてもらうがーーー」
    「カカッ。やはりバレておったか」
    カツカツと、杖が床をつく乾いた音が響く。廊下の奥から姿を現したのは当然、この緑の殺戮空間を仕立て上げた張本人
    「いやはや、怪物対峙の後すぐの電光石火の襲撃。決断の速さには感服する」
    「アンタに褒められるとは思わなかったな。降霊科在籍時から俺の事を疎ましそうにしていたように見えたが」
    「それだけ君の事を評価しておったと言うことよ」
    軽いやり取りの中、しかし水面下では魔術師同士の戦いは既に始まっているーーー
    植物の細い蔓が壁を覆う植物の影から凌我に迫るがそれらば全て床を濡らす水溜まりから飛び出した水の針が撃ち抜き、壁に縫い付ける氷の楔となった
    「油断も隙もないなアンタ」
    「カカカッ。これだから魔術戦と言うのは面白い」
    教壇に立ち、椅子に座るだけの臆病者には一生味わえぬ快感よなーーーモーティマーは目尻に深い皺を刻み、その年齢に似合わぬ鋭い笑みを浮かべていた

  • 195スレ主23/09/14(木) 22:42:01
  • 196二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 23:01:15

    乙ー
    そして埋め

  • 197二次元好きの匿名さん23/09/14(木) 23:26:55

    乙ー

  • 198千界樹の記録23/09/15(金) 07:45:09

    年齢に見合わぬ戦意に凌我も気を引き締める
    教壇で見てきた姿とは全く異なるその姿に思わず圧倒される凌我。しかし、元々この初老の男はこれまでにま2度亜種聖杯戦争に参加し、生還した猛者でもあるのだ
    そもそも、教会の命もあったのだろうが、聖杯戦争に2度に渡って参加したと言う事実の時点で、彼が戦闘にも長けた魔術師であることは把握しておく必要があった
    「私はね。あまり知る者は居ないがこれでも昔は武闘派として名を馳せたこともあったのだよ?」
    モーティマーは杖を捨て、右手を顔の横に掲げる。そんな彼の周囲からさまざまな太さの植物の根のような物が囲ってゆく。其々が独自に動き、まるで生き物の様にまるで太陽へと伸びるかの様に杖をつく男の元へ伸びていく
    「それは知らなかった。てっきり物好きな一級講師だと、な」
    「カッーーーハハハハ。無理もないな」
    モーティマーを囲う植物は、次第に彼の足元へ腕へと徐々に纏わりつくように絡まっていく
    否、これは絡み付いているのではなく、纏っているーーー
    「君なら理解できるだろう?」
    作り上げられていくのは深緑の鎧。植物を操る魔術、その真髄がここに誕生しようとしていた
    「植物は動物より遥かに強靭な生物だ。動物にとって植物は単なる餌にしか映らないだろうがーーー」
    まるで授業の様な語り口のモーティマー。だが彼が纏う植物の鎧は幾重にも重なり、絡み合った、しなやかにして強固な自然の要塞となる
    「植物から見れば、動物など生息地を広げる為の召使に過ぎないのだよ!」
    深緑の鎧ーーー外骨格を纏う姿は一見動きにくそうに見えてしなやかにら人体の稼働を妨げず、何重に連なった植物の繊維が外からの攻撃を防ぐだろう
    「さあやろうか!」
    拳を構えるモーティマー。対する凌我は懐か霊筒を取り出した
    「ハッ!面白い……!」
    魔術回路を励起させる。相手は色位の時計塔一級講師。油断どころか気を抜けば即敗北と成りかねない相手だが、負けるつもりは毛頭ない
    深緑の鎧を纏うモーティマーが突貫する。此処からが、戦いの本番となる

  • 199二次元好きの匿名さん23/09/15(金) 08:02:10

    おっつ
    そして埋めてしまおう

  • 200二次元好きの匿名さん23/09/15(金) 08:14:01

    埋めぇじゃねぇか!

オススメ

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