- 1二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:49:35〘SS〙Don't dread.|あにまん掲示板「・・・どういう事です。」『何だ?』ふてぶてしそうに、《依頼主》は答えた。「報酬が少なすぎます。事前の三分の一くらいしか無い。送金口座を間違えていませんか?」『冗談はよしたまえ。口座もちゃんと確認して…bbs.animanch.com
以前投稿したこちらのSSの改訂版です。新しく前半と後半に分け、今回は1話の前半として書きました。
- 2二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:50:32
「どういうことです」
ハァーッ
『…何だね?』
スクリーンに表示された数字の羅列に私は動揺した。万が一の数え間違いも疑いながら、目を凝らして注意深く数える。
「報酬が少なすぎます。事前に提示されました金額の3分の1程しか頂いていません。送金口座を間違えていませんか?」
『…冗談はよしたまえ、口座もちゃんと確認している。こちらで話し合い、ギリギリ払えるだけ出したのだぞ。…この件に対し、今後びた一文すら出すつもりは無い。』
何を言ってるんだ?賞金稼ぎ(バウンティーハンター)に市場の商店の様な、ツケたり負けたりする行いは御法度だ。命を賭して、命のやり取りをするこの仕事に対して正しい報酬を払わない行為は、「魂」と「誇り」への侮辱以外の何物でも無い。それが、私達が最も重んじる礼儀だ。こんな初歩的な社会的知識を相手が知らない筈が・・・ - 3二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:50:53
「・・・・・これまでもあなた方、銀河連邦には数々の依頼をくださっています。ですが、報酬が適切に支払われない件はこれが初めてです。理由がありますなら、お手数かけますが御説明をお願いします。」
フウーッ
薄く短い呼気音が、またスピーカーから辺りに吹き抜けた。空気が淀めき、心地悪い不可視のそれが私に纏わりつく。
『…「説明」か』
『言いたい事は山ほどあるのだが…全て聞きたいのなら後 日、注意勧告書でも送ろう。』
(何だそれは?)
『…まぁ…そうだな…この私から言わせてもらうと…』
「何でしょう?」(まどろっこしい。) - 4二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:51:14
『依頼が正しく行われなかった。これはその懲罰だ。』
突如、その声からは明確な怒気が滲み出た。
懲罰?
殺伐とした緊張が質量を持って押し寄せてくる。
正しくだと。どこに間違いが。
アダムも相手の従来とは違う様子に、警戒の体制に入った。
そもそも懲罰とは何だ?私がいつそっちの部下にでもなった?
ますます頭が混乱する。 - 5二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:51:32
『こちらの言い分が理解出来ていないようだな。いいかね?我々は君にZDRの「調査」をしろと言ったのだ。Xを惑星中に解き放てとも、生き残りの鳥人族と殺し合えとも、ましてやZDRそのものを爆破しろとも命令していない。』
「・・・」
『それなのに君は何だ?』
「・・・・・」
『銀河連邦の威を借りた殺戮は楽しかったか?』
「な・・・!」
何だと!? - 6二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:52:23
「そんな事は!」
『しかし!だ。こちらに言われて先程君が寄越した・・・・ああ、これだ。』
身を乗り出して言おうとした言葉を遮って、奴は何か動作を始めた。
・・・聞く耳が無いのなら意味が無い。やり場の無い感情を体内に抑えて口をつむぐ。
・・・シップのスクリーンに画面共有許可の通知が来た。
・・・どうしようもない。左手で《許可》をタッチする。 - 7二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:52:43
するとモニターに映像が再生される。一人称視点の音声動画だ。撮影者は薄暗い・・・機構セクターか何処かを走っている。
右に、左に、視点が休む間なく移動する。上に、下に、何度も視界が反転し、回転する。駆け抜け、飛び上がり、飛び降り、よじ登り、忙しなく動く様子からは、観る者に「逃げている」という印象が感じられるだろう。
では何に対して?何から追われている? - 8二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:53:03
撮影者の後ろから何かが聞こえる。不気味な程静かな空間がその音を反響し拡散させ、威圧感を助長させていた。お陰ではっきりと聴こえもする。単調に鳴る高いパルス音と、何かの金属が擦り合わされる駆動音。そしてそれはだんだんと近づいて来る・・・
- 9二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:55:52
カメラは突然動きを止め、後ろを素早く振り向く。水蒸気とスチームで曇った視界の向こうに、音の主が地面を「這い寄っていた」。全身が白い中巨大な単眼だけが赤く光り、形容が難しい骨格の4本足で、鳴き声の様なパルス音を発声させながら近付くモノ・・・。どう見ても生物では無い。
画面の右下からアームキャノンが突き出る。狙いを定めノーマルビームを、追い続けにミサイルも何発か放つ。しかし追うモノは動きを止めはしない。当たってはいるのにダメージが見られないのだ。やはり効果が無いと認識したのだろう。映像の私は体を90度反転し、奴からの逃走を再開する。 - 10二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:56:16
映像は6つに分割される。どれも私が同じようなセクターの中で逃げ回っている映像だ。その通り。この撮影者は紛れも無い私である。数時間前に撮られ、ほんの数分前に奴らの要求で渋々渡した映像だ。私は戦闘の特訓や反省の為に任務中はこうして自分の行動を録画している。元々人に見せるものではないのだが・・・
- 11二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:56:35
『実に良い情報記録だ。特にこのE.M.M.I.との戦闘映像記録。知っている通り、E.M.M.I.は系外惑星探査を主な任務としたロボットだ。希少なエミリチニウムをふんだんに混ぜた金属化合物を何層もコーティングし、水蒸気発電装置に多重構造集積回路と最高スペックの人工知能を積んだコレを、我々は連邦ロボット工学の叡智の結晶とばかり自惚れていたが・・・だがまだまだ試作段階らしい。ハッキングされ、逆に操られるとは全く何たる様だ!我々が求める駒というのは絶対的に任務に忠実であり、完璧に任務を遂行できる兵士だ!そこに万が一という負の確率変数は存在してはならない。何であろうとそれは排斥するべき汚点でしかない!銀河の発展と平和にとって、邪魔以外の何物でもないのだ!』
- 12二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:57:00
退屈だ。
『聞いてるかね?』
「はい」
『話を戻すが本当に助かったよ。この記録にはな。前述したがコレは惑星探索ロボットだ。だがサンプルを安全に且つ確実に採取する為には、未知の生物とも戦う必要に迫られる。どんなサンプルも採取したい。となると、「どんな生物だろうと安全に且つ確実に殺せる」ようでなくてはならない・・・』
「・・・・」
『これまでもE.M.M.I.の戦闘機能の強化に向け様々な実験を行なってきた。だが装備できる兵器は重量面やコスト面で限りがあるし、何よりデータが少なかったのだ。なんせ「獲物」としてどんな死刑囚に戦わせても即死してしまって話にならないのでな。』
ハハハハハ・・・
アハハハハハ・・・
スピーカーの向こうで何人かが笑い、手を叩く音がした。 - 13二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:57:25
『ハハハハ・・アァ・・ところで赤いほうのE.M.M.I.はどうしたのだね?確認した所見当たらないが・・・出来ればZDRでの映像全てを送って貰えると報酬も増やしてやらん事もないのだが?』
「・・・残り1機のE.M.M.I.は私は遭遇していません。先程報告した通り、6機目のE.M.M.I.を破壊した時に星の自爆装置が作動し、シップで脱出しました。打つ手が無くなったレイブンビークが、道連れでも私を殺そうと自暴自棄になったのではと推測します。」
『そうか・・・まぁいい。今後の研究と発展によれば、より改良されたE.M.M.I.どころか、戦闘用のE.M.M.I.も開発出来るかもしれん。そうなれば銀河の未来ははますます安泰だ。頑固で石頭な軍事部の将軍連中も犬の様にヨダレを垂らして欲しがるだろう。フン!滑稽だとは思わんかねアダム君?』
[・・・それほどでもありません。]
『何だね、煮え切らない事を言うな。ここは場に合わせるというのが条理だろう。元々のアダムの欠点までも引き継いでどうする?いい加減学習したまえ。』
「───!!」 - 14二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:57:51
[サムス・アラン!]
「!!───ッツ」
『何かね?』
アダムが叫んだ。叫ぶ、といっても機械だ。加工された声で、音量は調節され、さほどの大きさではない。しかし私に、私の心に、確かに届いた。私の我慢ならず溢れた衝動を止め、鎮静させてくれたのだ。 - 15二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:58:11
『サムス・アラン。心して聞きたまえ。君の強さは我々が誰よりも深く知っている。だが君は破天荒過ぎる。そして不作法で融通が効かん。態度も悪く、更に世間知らずだ。平和と秩序を重んじる我々銀河連邦の依頼を受けたとなれば、任務は最低限忠実に行い、満足させる結果を残さねばならん。そもそも賞金稼ぎとは、全ての依頼主に対してそう「仕事」を行うべきなのだろう?言われてもないのに、君は今まで一体幾つ星や船や研究機関を爆発させた?』
[お言葉ですが、それは]
『どうしようもなかったとでもい言うのか?それを止めるのも仕事の内だろう。それこそ命をかけて。』
(そんなの・・・無茶苦茶だ!!) - 16二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:58:32
『君は御伽噺で語り継がれる様な、華々しさと派手な武勇を持った英雄ではない。ただの賞金稼ぎだ。言い方が悪いが、時には殺しを金に換え、食っていかなければならない。』
(食って・・・いく・・・)
『これは警告だ。今後我々の依頼に対しこの様な失態を犯す様では、君への評価も今回の報酬以上に下げねばならない。その時、宇宙に轟く君の名声は地に落ちるのだよ。そうなったらどうする?』
[・・・・] - 17二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 20:59:55
画面の中の6人の私は、一斉にオメガブラスターを放つ。コアが割れた6体のE.M.M.I.達はそっくりに倒れ、そこで映像が途切れた。
沈黙が続く。
何かを言いたい。
何かを叫びたい。
何かを伝えたい。
しかし何も言えない。
だから、私は嫌いなのだ。
こういう奴らが。アダム以外の。
向こう側の奴の形相が察せれる。
歯を食いしばって血管が走った、酷い顔なのだろう。
だが
スーツの中で分からないが
恐らく
今の私と同じ顔だ。 - 18二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 21:00:20
長い沈黙を破ったのは、奴が先だった。
『理解したかね?・・・いや、否が応でも理解するんだ。話は以上だ。気をつけたまえ。』
通信は途絶えた。 - 19二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 21:00:56
「・・・・・」
[・・・・・・]
「どうして」
[サムス?]
「・・・どうして・・・こうも・・・!」
汚く絞り出た私の声が、シップに響いた。そしてほんの一瞬の間、滲み出た悲しみが溢れ、宇宙にチリとなって霧散した。孤独で、静かな、暗黒だった。 - 20二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 21:02:13
Would like to save?
·····yes.
·····
·····
Save completed.
See you to the next story. - 21二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 21:20:34
作者だ。とりあえず今回は1話の前半としてここで終わりだ。また1話の後半を載せようと思うぞ。
- 22二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 22:31:41
銀河連邦のクソ度が増してる・・・あと文章量凄く増えましたね・・・
- 23二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 10:19:37
保守待ち
- 24二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 21:44:35
待ちage
- 25二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 07:34:39
待っち
- 26◆EVDR..bTGk21/12/18(土) 16:11:53
…ZDRでのミッションから数日後…
連邦規定航路の外れの外れ。大小様々な船が絶え間なく飛び交う「大通り」…軽く例を挙げるなら地球付近の火星航路や木星航路などとは真逆な、閑散とした道だった。
そこにたった一隻の船がゆっくりと航行している。目につくのはその大きさだ。我々にとって身近な旅客恒星船を遥かに凌ぐスケール。そしてある意味驚く外見は高層ビルを横に積み重ねた様な、極めて3次元的なものだった。スマートなデザイン性は欠片すら無い。船全体に散らばる僅かな数の白色LED船灯が、その巨体の存在を誰に伝えもせず、遠く何十光年先の星々や星雲の光と共鳴していた。
(固定ハンドルネームを付けたぞ。コメントと♡が無くて悲しい…船は映画『エイリアン』のノストロモ号がモデルだ。) - 27◆EVDR..bTGk21/12/18(土) 20:24:40
旧式重量級貨物船ライラット。積むのは鉱産資源や惑星開拓の浄化(テラフォーミング)設備、不燃処理廃棄物…。要するに、安く大量に必要な物資の運搬、もしくは大量で邪魔な物資を片付ける船だ。それも民間の下請け。
なら外見の工夫や大した設備投資は必要無い。そんな事をコスモ暦がまだ人類にとって馴染みが浅い頃…宇宙開拓の黎明期から言われ続けてきて、今日に至る。資本経済の合理主義がこの骨董品を未だ動かしていた。 - 28二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 22:36:44
まとぅ