- 1二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 09:58:40
「先日……タキオンさんやポッケさんと……水着を買いに行ったんです」
「へえ、そうなんだ」
それは昼下がりのトレーナー室。
担当ウマ娘のマンハッタンカフェは、突然思い出したかのようにそんなことを言いだした。
水着────そういえば、もうすぐ夏合宿の時期だったなと思い返す。
学園側のスケジュールも出る頃だし、そろそろ合宿中のトレーニングメニューを考えないといけないな。
そんなことを考えていると、カフェは不満そうな表情を浮かべて、こちらを覗き込んできた。
「…………興味ないんですか?」
「えっ」
「私が……どんな水着を買ったか…………興味ないんですね」
ため息一つ、カフェは至極残念そうな表情で目を背けた。
瞬間、背中をドンと強めに叩かれる。彼女の“お友だち”の仕業だろう。
そもそも、彼女から話を振ってくれたのに流し気味だったのも宜しくなかったと思う。
俺は慌てて弁明を口にする、言い訳にしかならないとも考えたが、何も言わないよりはマシだろう。
「ごめん、夏合宿のことに意識が行ってて……勿論、君の水着姿はとても気になるよ」
「トレーナーさん…………案外大胆なんですね……女の子の水着が気になる……なんて」
「ちょっ!?」
「ふふっ……冗談ですよ……」
そう言って、カフェは目を細めて楽しそうな笑みを浮かべた。
釣られて、俺も口元を緩めてしまう。
しかしながら、彼女が友人と水着を買いに行く、というのがなんだか意外ではあった。
……まあ、放っておくと変なの買ってきそうなのが一人含まれている、というのが大きいのかもしれないが。
「それで……どんな水着を買ってきたと…………思いますか?」
「うーん、なかなかに難しい質問だね」 - 2二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 09:58:58
カフェからの問いかけ。
あまり良くないかもしれないが、俺は脳裏に彼女の水着姿を思い浮かべてしまう。
彼女はスレンダーで、均整のとれた体型をしているから、どんな水着でも似合いそうではある。
確か、あまり日差しは得意ではなかったはずなので、肌の露出は少な目だろうか。
となると、ワンピースタイプの水着なのだろうか。
色に関しては、カフェといえば黒という印象があるので、やっぱり黒だろうか。
……うん、なんとなく想像出来てきた。
「黒のワンピースタイプの水着、かな」
「……………………正解です」
どこか違和感を覚えるほどに間を置いて、カフェは俺の答えを肯定する。
そしてやってくる、静寂の時間。
お互いに目を合わせたまま、ただ何も言葉を発することなく、時間だけが過ぎていく。
何を別の話題を振ろうとも考えたが、じっと真剣に見つめる金色の瞳が、それを許してくれない。
やがて、彼女は焦れたように、少しだけ眉を吊り上げて口を開いた。
「トレーナーさんは…………私の水着を……見たく、ないんですか?」
「……いや、それは、見たいと言えばみたいけども」
「なら……その……あの…………みっ、見せてあげても……良いんですよ?」
少しだけ頬を朱色に染めて、少しだけ目を逸らして。
振り絞るような弱々しい小さな声で、カフェはとんでもない発言を繰り出した。 - 3二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 09:59:20
「アナタに…………水着を見せびらかしたかったんです」
「あっ、ああ、そっか、そうだな、そうなんだ」
「それで……服の下に水着なんて着て…………子どもみたいですよね?」
「そんなことは、あるような、ないような、とにかく、その、楽しみだよ、うん」
背後から聞こえる、カフェの言葉と、衣擦れの音。
彼女の言う通り、服の下の水着姿を披露するために着替えている、ただそれだけなのに。
カフェが、俺と同じ部屋で、服を脱いでいるという部分だけが先行して、どうも落ち着かない。
静かな部屋の中、チクタクと鳴り響く時計の音。
その倍くらいの速度で鳴り響く、俺の心臓の音。
制服を脱ぐまでの時間わずか数分、それが地獄での責め苦のように、妙に長く感じられた。
「…………お待たせしました……こっちを向いても大丈夫ですよ」
鼓膜を揺らすカフェの声に、大きく息をつく。
少し冷静になってみればなんてことはない、彼女の水着姿はプールで何度も見ている。
先程の非日常的な光景に動揺してしまったが、そこまで緊張するような事態ではなかったはずだ。
見せてもらって、ちゃんと正直な感想を口にすれば良い。
魅力的な彼女の水着なのだ、悪い感想なんて出るはずがないのだから。
そう考えて俺は楽観的な、あるいは油断しきった気持ちで、振り向いた。
「………………っ!?」
────目が太陽に焼かれたのかと思った。
俺が想像し、カフェが肯定した、黒のワンピース水着なんてものは、存在していなかった。
彼女の、すらりとして彫刻のように完成された体躯を包んでいるのは、眩いばかりの白い水着。
それもシミ一つない透き通った肌や引き締まったお腹や可愛らしいお臍を惜しみなく晒す、ビキニスタイル。
たなびく漆黒の美しい長髪とのコントラストは、それぞれの美しさを引き立て、究極の一を顕現させていた。 - 4二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 09:59:36
「サプライズです…………なんて」
そう言って、カフェははにかんだような笑顔を見せる。
完全に意表を突かれた俺は、ただそんな彼女の姿に見惚れるしかなかった。
「……綺麗だ」
「えっ……?」
空白となった思考は、感情を濾過することが出来ず、口からは素の言葉が零れ落ちてしまう。
直後、自分が何を口走ったのかに気づいて、慌てて口を抑えた。
しかし、当然ながらすでに口に出してしまっている言葉を戻すことなんて出来ない。
カフェは俺の感想とも言えないような言葉に、耳をピンと立てて、ぽかんと目を見開く。
やがて、尻尾を嬉しそうに揺らめかせながら、あふれんばかりの笑顔を見せてくれた。
「ふふふっ……! そう言ってもらえると……羞恥心に耐えて……頑張った甲斐がありました」
「えっと、それは……うん、本当に綺麗で、似合ってるよカフェ」
「ありがとうございます…………ですが、やっぱり上着は必要ですね」
「なんで? そのままでも、とっても魅力的だと思うけど」
「その…………視線で……熱くなってしまいそう…………なので」
「…………すいませんでした」
もじもじと身体を隠し、顔を真っ赤に染め上げたカフェに謝罪を告げて、俺は身体ごと目を逸らした。
彼女から見せてくれたとはいえ、あまりジロジロ見つめるのはあまりにもデリカシーに欠ける。
とはいえ、彼女の水着姿はそれだけ衝撃的で刺激的だった、とは主張したい。
……それにしても、やはり意外だったな。
ビキニという選択肢は勿論だけれど、白い水着というのもまた予想出来なかった。
実際これ以上ないほど似合っているし、彼女の新しい可能性も見られたと思う。
ただ心の奥底に、ほんの少しだけ残っている思考の欠片も、確かにあった。 - 5二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 09:59:50
────黒い水着を着たカフェも、ちょっと見てみたかったな。
刹那、鼻先にふわりと珈琲の香りがくすぐる。
気が付けば、カフェの微かな息遣いが聞こえるほどの距離に、彼女の顔があった。
ぎゅっと腕を抱きしめられて、その柔らかい感触と滑らかな肌の感触が伝わってくる。
「かっ、カフェ?」
「…………別の水着も……見たいんですよね?」
カフェは耳元で、小さく囁く。
全てを見通しているかのように、どこか妖艶な響きを持った声色で。
慌てて彼女の方を見やると、悪戯っぽい、からかうような微笑みを浮かべていた。
「アナタの見たい色ならどんな色でも用意しますよ────それが黒である限りは」 - 6二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 10:01:11
お わ り
まさかあんな水着だなんて想像できなかった - 7二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 10:04:53
こ、こいつ…強い!
- 8二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 11:23:53
下に着てたなら脱いでる処を見せてくれても良かったのでは?ボブ訝
- 9二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 11:44:51
口から砂糖がね
ザーッと出てくるんですよね - 10二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 12:06:58
- 11123/08/15(火) 13:11:53
- 12二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 20:01:47
つよつよカフェ、どうでしょうこの展開
私の癖にはあっていますね - 13二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 20:05:07
つよつよカフェは万病に効く
- 14二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 21:43:03
マンハッタンカフェはいずれガンに効くようになる
- 15123/08/15(火) 23:12:02
- 16二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 00:21:05
つよつよカフェ良き…素晴らしいSSでした
- 17ご自由にお使い下さい23/08/16(水) 01:51:25
- 18123/08/16(水) 06:19:40